弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決のうち供託金還付請求権の帰属に関する部分を破棄し、第一審判
決のうち右部分を取り消す。
     前項の部分に関する被上告人の本訴請求を棄却する。
     学校法人D工業大学が福岡法務局に対し昭和五三年度金第六四一九号を
もつて供託した金四四七万八五一五円の還付請求権は上告人がこれを有することを
確認する。
     訴訟の総費用は、被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人三浦啓作、同奥田邦夫の上告理由について
 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。
 (一) 上告人は、昭和四一年六月ころ、Eと事実上の婚姻をした。上告人は、母
方の伯父の養子となつていたので、Eとの間で、伯父に他に適当な承継者ができる
までは婚姻の届出をしないとの合意をしていた。このため、Eの死亡に至るまで両
名の婚姻の届出はなされなかつた。
 (二) Eは、実子がなかつたので、昭和四六年四月一七日、同人の実兄の孫に当
たる被上告人と養子縁組をし、その届出をした。
 (三) Eは、昭和五三年一月二六日死亡し、被上告人は、唯一の法定相続人とし
てEの権利義務を承継した。
 (四) Eは、死亡時まで学校法人D工業大学(以下「D工大」という。)に教授
として勤務していた。Eの死亡退職によりD工大から支払われるべき退職金は四四
七万八五一五円(以下これを「本件退職金」という。)であつた。当時のD工大の
退職金規程(以下「規程」という。)六条は、死亡退職金につき、単に「遺族にこ
れを支給する。」とのみ定めていた。そこで、上告人と被上告人との間で本件退職
金の帰属につき争いが生じたため、同大学は、福岡法務局に対しこれを債権者を確
知することができないとの理由で供託した(昭和五三年度金六四一九号。以下「本
件供託金」という。)。
 原審は、右事実関係のもとにおいて、(1) 死亡退職金は死亡者の生存中の勤続
に対して支給されるものであって死亡者の相続財産又はこれに準ずる性質を有する
ものと解せられるから、その受給権者につき単に遺族とのみ規定されている場合に
は、その受給権者の範囲及び順位については民法の相続の規定に従うものと解する
のが相当である、(2) したがつて、本件退職金の受給権者は、Eの唯一の法定相
続人である被上告人というべきであるとして、本件供託金の還付請求権が被上告人
にあることの確認を求める被上告人の本訴請求を認容し、右還付請求権が上告人に
あることの確認を求める上告人の反訴請求を棄却した。
 ところで、原審の適法に確定したところによれば、D工大は、昭和五四年三月、
規程六条を改正し、ただし書として、新たに「遺族の範囲及び順位は、私立学校教
職員共済組合法二五条の規定を準用する。」旨追加したというのである。そして、
私立学校教職員共済組合法二五条(昭和五四年法律第七四号による改正前のもの。
以下同じ。)が準用されると、同条により国家公務員共済組合法二条、四三条が準
用されることになり、その結果、改正後の規程六条によれば、D工大の死亡退職金
の支給を受ける遺族は、(1) 職員の死亡の当時主としてその収入により生計を維
持していたものでなければならず、(2) 第一順位は配偶者(届出をしていないが、
事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)であり、配偶者があるときは子は
全く支給を受けない、(3) 直系血族間でも親等の近い父母が孫より先順位となる、
(4) 嫡出子と非嫡出子が平等に扱われる、(5) 父母や養父母については養方が
実方に優先する、ということになる。すなわち、改正後の規程六条は、死亡退職金
の受給権者の範囲及び順位につき民法の規定する相続人の範囲及び順位決定の原則
とは著しく異なつた定め方をしているのであり、これによつてみれば、右規程の定
めは、専ら職員の収入に依拠していた遺族の生活保障を目的とし、民法とは別の立
場で受給権者を定めたもので、受給権者たる遺族は、相続人としてではなく、右規
程の定めにより直接これを自己固有の権利として取得するものと解するのが相当で
ある(最高裁昭和五四年(オ)第一二九八号同五五年一一月二七日第一小法廷判決・
民集三四巻六号八一五頁参照)。のみならず、改正前の規程六条においても、死亡
退職金の受給権者が相続人ではなく遺族と定められていたこと、改正前も前記私立
学校教職員共済組合法二五条及び国家公務員共済組合法二条、四三条が施行されて
いたことを考慮すると、他に特段の事情のない限り、改正前の規程六条は、専ら職
員の収入に依拠していた遺族の生活保障を目的とし、民法上の相続とは別の立場で
死亡退職金の受給権者を定めたものであつて、受給権者たる遺族の具体的な範囲及
び順位については、前記各法条の定めるところを当然の前提としていたのであり、
改正によるただし書の追加は、単にそのことを明確にしたにすぎないと解するのが
相当である。そして、右のように解することを妨げるような特段の事情の主張、立
証はなされていない。そうすると、改正前の規程六条にいう遺族の範囲及び順位に
関しては、前記各法条の定めるところによるべきであり、右遺族の第一順位は、職
員の死亡の当時主としてその収入により生計を維持していた配偶者(届出をしてい
ないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)と解すべきことになる。こ
れと異なる原審の判断には法令の解釈適用を誤つた違法があるといわざるをえず、
右違法は原判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由がある。
 そして、前記事実関係によれば、本件退職金の受給権者は、右遺族の第一順位に
当たる上告人であつて、本件供託金の還付請求権は上告人に帰属するというべきで
あるから、右還付請求権が被上告人にあることの確認を求める被上告人の本訴請求
は理由がなく、また、右還付請求権が上告人にあることの確認を求める上告人の反
訴請求は理由がある。したがつて、第一審判決のうち被上告人の右本訴請求を認容
し、上告人の右反訴請求を棄却した部分に対する上告人の控訴を棄却した原判決を
破棄し、第一審判決のうち右部分を取り消したうえ、被上告人の右本訴請求を棄却
し、上告人の右反訴請求を認容すべきである。
 よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    矢   口   洪   一
            裁判官    谷   口   正   孝
            裁判官    和   田   誠   一
            裁判官    角   田   禮 次 郎

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛