弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を東京地方裁判所に差し戻す。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人赤坂軍治、同木戸悌次郎各作成名義の別紙控訴趣意書
と題する書面記載の通りでおるから、いづれもこれを本判決書末尾に添附しその摘
録に代え、これに対し、次の通り判断する。
 弁護人赤坂軍治の控訴趣意書第一点について。
 記録に依ると被告人に対する起訴状記載の公訴事実中、(二)は被告人が昭和二
十四年八月下旬頃東京都内渋谷区所在AにおいてB大学生のパーテイーが催された
際その席上において、同大学生Cに対し「おい先日は悪かつたな、金は確かに貰つ
たが今日は亦友達といつしよに一杯飲むんだから、出来るだけ金を都合しろ、それ
とも嫌か」等申向けて睨みつけ、若しこれに応じないならば身体に如何なる危害を
加えるかも知れないという気勢を示し、同人を畏怖させ即時同人より現金二千円を
交付させてこれを喝取したものであるというにあるところ、原審第十回公判期日に
おいて検察官から、訴因変更申立書に基き、右起訴状起載の公訴事実(二)の二千
円を千円と変更し、新に公訴事実(三)として、被告人は昭和二十四年九月中旬頃
aで偶然出会つたCに対し、「この間は悪かつたなあ、aへ来たら俺の所(D)に
寄つて行け。金を貸してくれ、無ければ友人から借りてくれないか」等と申向け、
若しこれに応じないならば、身体に如何なる危害を加えるかし知れないという気勢
を示し同人を畏怖させた上、千代田区bE倶楽部において現金千円を交付させてこ
れを喝取したものであるとの事実を追加する旨を申立て、弁護人はこれに対し
(二)の変更申立には異議ないが、(三)については訴因の同一性を欠くので新た
に起訴すべきものであるとして異議を申立てたが、原審は弁護人の右異議申立を却
下し検察官の訴因変更の申立を許可したことを認めることができる。
 <要旨>仍て右訴因変更の適否を考えると、訴因の追加、変更は公訴事実の同一性
を害しない限度においてのみ許されるものであることは、刑事訴訟法第三百
十二条第一項の規定するところであるが、原審における右変更前の訴因と変更後の
それとを比較検討するに、その(二)はいづれも日時、場所、犯行態様、被害者が
全く同一であり只被告人の喝取したとする金員が二千と千円の差異あるに過ぎない
ことが認められるのであるから、基木たる事実関係が同一であり、(二)の訴因の
変更は公訴事実の同一性の範囲内になされたものということができるのであつて、
その変更は許さるべきものであるけれども、変更後の(三)の事実は、変更前の
(二)の事実と犯行の日時については昭和二十四年八月下旬頃と同年九月中旬頃と
の相違があり、場所も東京都内Aと、東京都内a及び千代田区bE倶楽部の相違が
あり、被害者を畏怖させた脅迫文言を異にし、喝取したとする金員も二千円と千円
の差異があり、只被害者と現金不法領得の方法を同じくしているのみであることを
認めることができるのであるから、右(三)の事実の追加は変更前の(二)の事実
と全く相異つた事実の追加であつて両事実の間に基本たる事実関係の同一性は認め
られないものといわねばならない。従つて右(三)の事実の追加は、訴因の変更又
は訴因の追加のいづれとしても、公訴事実の同一性を害しない程度においてなされ
たものではないのであるから、これを許されるべきではなく、これを許している原
審は訴訟手続についての右法条に違背したものとなるのである。しこうして原審は
右変更後の訴因に基いて審理し、被告人に対し前記(三)の事実につき有罪の認定
をし判決しているのであるから、右の違法は判決に影響を及ぼすこと明らかである
といわねばならない。それ故結局この点の論旨は理由がある。
 仍て爾余の論旨に対する判断をするまでもなく、被告人の本件控訴は理由がある
から、刑事訴訟法第三百九十七条に依り原判決を破棄することとし、同法第四百条
本文に則り、本件を原審東京地方裁判所に差し戻すこととする。
 仍て主文の通り判決する。
 (裁判長判事 近藤隆蔵 判事 吉田作穂 判事 山岸薫一)

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