弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     被告人両名について原判決を破棄する。
     被告人両名に対する本件各被告事件を津地方裁判所に差し戻す。
         理    由
 被告人Aの控訴趣意は、弁護人石川貞行及び同木村良夫が連名で作成した控訴趣
意書に記載のとおりであるから、これを引用するが、その要旨は、「原審裁判所が
被告人Aと被告人Bとに対し同一の弁護士を国選弁護人に選任したのは、刑訴規則
二九条二項、弁護士法二五条一号等に違反する措置であり、判決に影響を及ぼすこ
との明らかな訴訟手続の法令違反である。原判決には、原判示第三の殺人の動機及
び共謀に関する部分と原判示第五の強盗殺人で被告人Aが犯行を最終的に決意した
状况に関する部分について、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認がある。
原裁判所は被告人Aを死刑に処したが、死刑制度は憲法三一条、一三条、二五条、
三六条等に反するし、量刑不当でもある。」というものである。また、被告人Bの
控訴趣意は、弁護人神田勝吾作成の控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを
引用するが、その要旨は、被告人Bを死刑に処した原判決の量刑は重すぎて不当で
ある、というものである。これらに対する検察官の答弁は、検察官江幡豊秋作成の
答弁書に記載のとおりであるから、これを引用するが、その要旨は、被告人両名の
各控訴趣意はいずれも理由がない、というものである。
 そこで、まず、被告人Aの控訴趣意のうち、原審裁判所が被告人両名に対し同一
の弁護士を国選弁護人に選任した点について、一件記録を調査して検討する。
 本件公訴事実の概要は、被告人両名が
 第一 Cと共謀の上、平成六年一月二七日、愛知県東海市所在の株式会社DE営
業所事務所内において、同社代表取締役F管理にかかる現金六一四万八五六七円位
等在中の金庫一個(時価三万円相当)を窃取し
 第二 G、HことH、C及びほか一名と共謀の上、平成六年三月二九日、岐阜県
加茂郡a町所在のI方居宅において、同人の妻J(当時七三歳)を羽交い締めに
し、顔面、両足にガムテープを巻き付け、両手を後ろ手にして手錠をかけて反抗を
抑圧し、右居宅内にあったIの長男K所有の現金一〇〇万円等在中の耐火金庫一台
(物品時価合計一二万円相当)を強取し
 第三 Gと共謀の上、前記C(当時四三歳)を殺害しようと企て、平成六年四月
五日、三重県四日市市所在のLビルM号室の被告人Aの居室において、あらかじめ
睡眠導入剤を混入した缶入りコーヒーを飲ませておいたCの後頸部をアイスピック
で突き刺し、頸部にビニール紐を巻いて絞め付け、即時同所において同人を右絞頸
により窒息死させて殺害し
 第四 Gと共謀の上、平成六年四月六日、岐阜県加茂郡a町所在のbダム内のc
橋の上から、布団袋で包みロープで縛るなどして梱包し、これにコンクリートブロ
ックを取り付けた前記Cの死体を湖水に投棄して遺棄し
 第五 共謀の上、古美術商N(当時五〇歳)を殺害して所持金を強取しようと企
て、平成七年三月三〇日、前記第三の被告人Aの居室において、こもごも、Nの後
頭部をアイスピックで突き刺し、左側頭部をスパナで殴打し、更に頸部にビニール
紐を巻いて絞めつけ、即時同所で右絞頸により窒息死させて殺害した上、同人所有
又は管理にかかる現金約四三〇万円を強取し
 第六 共謀の上、平成七年三月三〇日、前記第四のc橋の上から、衣装函に詰め
これにコンクリートブロックを結び付けた前記Nの死体を湖水に投棄して遺棄した
 というものである。
 被告人Aは、平成七年五月一一日前記第五及び第六の各事実により起訴され、原
審裁判所は、同月一九日同被告人の国選弁護人として弁護士松葉謙三を選任した
が、同年六月二日に被告人Bが第五及び第六の各事実で起訴されると、この事件を
右被告人Aの事件に併合した上、同月一二日同弁護士を被告人Bの国選弁護人にも
選任した。その後、同年七月三日に第二の事実が、同年九月五日に第三及び第四の
各事実が、同月二二日に第一の事実が、いずれも被告人両名について起訴された
が、これらの事件も順次右第五及び第六の事件に併合され、その結果、公訴事実全
部について同弁護士が被告人両名の国選弁護人になった。その間の同年六月三〇日
に第一回公判が開かれ、被告人両名はいずれも第五及び第六の各事実を認め、検察
官請求の各証拠に同意し、当該各証拠の取調べが行われ、同年八月四日の第二回公
判で被告人両名はいずれも第二の事実を認めた。そして、同年九月二九日の第三回
公判で被告人両名はいずれも第一、第三及び第四の各事実を認め、第一ないし第四
の各事実に関する検察官請求の各証拠に同意し、その取調べが行われた。その後、
第四回公判では第五及び第六の被害者Nの妻の証人尋問が行われ、第五回公判では
被告人Bの被告人質問が行われ、第六回公判では被告人Aの現在の心境についての
上申書の取調べと同被告人に対する質問が実施され、第七回公判では裁判官の交替
に伴う公判手続きの更新がなされた上、被告人Aへの質問と同被告人の情状証人の
取調べが行われ、第八回公判では被告人Bの情状証人の取調べが行われた。そし
て、第九回公判の検察官の論告、第一〇回公判の弁護人の弁論及び被告人両名の最
終陳述を経て、平成九年三月二八日の第一一回公判において、原審裁判所は被告人
両名に対しいずれも死刑を言い渡し、同日弁護入が被告人両名について控訴を申し
立てた。この間の手続きを通じて、被告人両名の国選弁護人は同一のままであった
が、被告人両名や弁護人から国選弁護人の選任に関し異議の申立て等があった形跡
は窺われない。
 以上のとおり、本件については、被告人両名は原審公判を通じ一貫して各公訴事
実を認めており、国選弁護人の選任に関しても異議の申立て等があったとは認めら
れないのであるから、これらの点のみをとらえれば、被告人両名の利害は相反しな
いとみえなくもない。
 <要旨>しかしながら、本件は、公訴事実のうち、前記第五は法定刑が死刑又は無
期懲役の強盗殺人罪に該当し、第三もまた法定刑が死刑又は無期若しくは三
年以上の懲役の殺人罪に当たるのであるから、有罪になれば被告人両名とも死刑を
含め極めて重い刑に処されることが予想される事案である。したがって、このよう
な事件の弁護人としては、担当する被告人がすべての公訴事実を認めていても、各
犯行、とりわけ第三及び第五の各犯行の動機、犯行に至る経緯、犯行態様、結果等
について、当該被告人の言い分を十分聴取した上、少しでも被告人に有利となりう
る事情は公判廷において主張、立証することが特に必要であることはいうまでもな
い。そして、本件はいずれも共同正犯の場合であるから、犯行の各場面において果
たした役割がどの程度のものであったかが、当該被告人の宣告刑を決定する上で重
要な要素となる。ところが、被告人両名の捜査官に対する各供述調書によれば、前
記第三及び第五の各事実について、被告人両名の言い分には次のような食い違いが
みられる。 まず、前記第五の強盗殺人においては、「1」どちらがこの犯行を実
行しようと言い出したのかについて、被告人Aは、「平成六年春ころに、Bが私に
対し、dの方に住むNという骨董品等のブローカーに焼き物の売り物があると話せ
ば一千万や二千万円を持ってこさせることができるので、殺して金を取る、という
話しをしたことがあり、そのときは私が乗り気ではなく進展しなかったが、平成七
年三月中旬ころ、再び被告人Bが、Nをやろか、と言い出し、私も事業を始めるた
めの資金が欲しくてこれに賛成したのである。」と言い、被告人Bが言い出したと
述べるのに対し、被告人Bは、「平成六年春ころに、私がAに持ちかけたことがあ
り、そのときはAは誘いに乗ってこず、すっかり忘れていたが、平成七年三月中旬
ころ、Aと私の二人で強盗をすることを話し合っていた際、Aが、前の骨董屋の話
しはどうだ、と言い出したので、よしやろか、と答えた。」と言い、直接的には被
告人Aが言い出した旨述べている。「2」次に、犯行当夜、最終的に犯行を決意し
た経緯について、被告人Aは、「私は、Bの話しと違い、Nの夫婦仲がよさそう
で、Nの所在がわからなくなれば、妻からすぐ警察に捜索願いが出されるのではな
いかなどと不安を感じて、やる気をなくし、Bに対し中止にしようという合図を出
したが、Bが、こたつの中で自分の足を蹴ったり、スパナをこっそり見せたり、N
が席をはずした間に、これを帰したら、二度とこんな大金を持って誘いに乗ってく
ることはないぞ、と言って、決行を促したため、決意した。」と言い、被告人Bが
積極的で自分はこれに引きずられた旨述べるが、被告人Bは、「こたつの中で動か
した足がAの足に当たったかもしれない。」などと言って、合図を送っていない旨
述べ、言葉で決行を促したことについては、「Aが、どうするの、やるの、と聞く
ので、家賃の目処は立ったか、と言うと、いいや、と言うので、それならしような
いやろう、と答えた。」と言い、被告人Bの積極性がより減じられた供述をしてい
る。「3」また、被害者Nの死因となった絞頸を行ったのは誰かについて、被告人
Aは、「Bがビニール紐を二回位巻き付けて絞め付け、Nが床の上に倒れ込んだの
で死んだと思ったが、その後Nがいびきをかいていたため、Bから、もう一回絞め
直さないかん、やれ、と命じられて、私が絞めたが、力が入らなかったので、すぐ
Bが代わって更に絞めた。」と言い、自分の関与は少なく、ほとんどは被告人Bが
行った旨述べるのに対し、被告人Bは、「私が紐をNの頸部に巻き付け、Aがその
一端を持ち、他の一端を私が持って二人で引っ張り合って絞めたところ、Nは床の
上に崩れたが、しばらくしていびきをかいているのに気付き、Aと私が、絞め直さ
ないかん、と言い合って、まずAが絞め、力が入らん、と言うので、代わって私が
絞めた。」と言い、被告人両名が同程度の関与をした旨述べている。「4」分配金
についても、被告人Aは、「奪ったのは四五〇万円ないし五五〇万円であったが、
ほとんどはBが持ち出し、分配する際Bが出したのは合計三二〇万円であり、私が
受け取ったのは約一六〇万円である。残りはBが取ったものと思う。」と言うのに
対し、被告人Bは、「奪ったのは五〇〇万円位であったが、Aが運び出し、分配時
にAが出したのは三二〇万円しかなく、このうち私は一六〇万円しか受け取ってい
ない。残りはAが取ったものと思う。」と言っていて、互いに相被告人の方が多額
の金員を得た旨述べている。
 第三の殺人においては、「5」被告人Aは、「犯行に及ぶ直前に、GにはCを殺
害するところを見せたくない、という気持から、Gに対し、トイレに行っとって、
と言って、Gを現場から離れさせた。」と言い、Gに対して配慮する気持があった
ことを述べるが、被告人Bは、「Gに、トイレに入っとれ、と言ったのはAではな
く、私である。」と述べている。「6」また、被害者Cの死因となった絞頸を行っ
たときの状況について、被告人Aは、「Bが私に、絞めよ、と命令したので、私が
Cの頸部に紐を巻き付けて、私とそのときトイレから出てきたGとで引っ張り合っ
ていると、Bが、もうええやろう、と言ったあと、Cの首筋に手を当てて脈がある
かみて、大丈夫や、服を脱がせよう、と言った。」と言い、被告人Bが主導権を握
り、同人に命令されて被告人AとGとが絞頸行為を行った旨述べるのに対し、被告
人Bは、「Aがロープを持ち出してきてCの頸部に巻き付け、絞めていたが、途中
でGに、代わって、と言っていた。私は空白状態で二人の姿をぼんやり眺めてい
た。」と言い、自分は絞頸には関与していない旨述べている。
 このように被告人Aと同Bの言い分には、本件公訴事実のうち最も重要な第三及
び第五の各犯行に関し、犯情に影響すると思われる部分について食い違う点が少な
からずある(検察官は、右各点はいずれもそれほど重要でない事実にすぎない、と
主張するが、前記の本件の特質にかんがみれば、量刑に当たってこれらの点をない
がしろにすることはできないというべきである。)。そして、被告人Aの言い分
は、同被告人にとってより有利な事情であると同時に、被告人Bにとってはより不
利な事情であり、被告人Bの言い分は、同被告人にとってより有利な事情であると
同時に、被告人Aにとってはより不利な事情という関係にある。したがって、本件
被告人両名の弁護人としては、担当する被告人の有利な部分を十分に主張、立証す
る必要があるが、同一の国選弁護人が被告人両名の弁護を担当していては、右の
「1」ないし「6」の各点について、一方の被告人に有利な事情を主張、立証しよ
うとすると、それは他方の被告人にとっては不利な事情になるため、主張、立証す
べきか否かの判断に窮することになる。現に、原審弁護人は、右の各点に関する証
拠請求をせず、被告人両名の被告人質問の際にも、これらの点の事実を究明するた
めの質問をしなかったばかりか、弁論においても、被告人Aにとって有利な事情と
しても、あるいは、被告人Bにとって有利な事情としても、これらの点について全
く触れなかった。そのため、原判決においても、これらの点について判断を示すこ
とのないまま、被告人両名に対し死刑を言い渡す結果となった。してみると、本件
は、被告人両名が一貫して各公訴事実を認め、国選弁護人の選任に関し異議の申立
て等がなかったにしても、同一の国選弁護人に数人の弁護をさせることができる場
合である、刑訴規則二九条二項の「被告人の利害が相反しないとき」に該当しな
い、というべきである。それにもかかわらず同一の弁護士を被告人両名の国選弁護
人に選任し、これを維持した原審裁判所の措置は右規則に反し、この法令違反は判
決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由がある。そして、この破棄理由
は被告人Bについても共通に存在する。
 そこで、被告人両名のその他の控訴趣意に対する判断を省略し、被告人Aについ
ては刑訴法三九七条一項、三七九条により、被告人Bについては同法四〇一条、三
九七条一項、三七九条により、被告人両名について原判決を破棄し、同法四〇〇条
本文により被告人両名に対する本件各被告事件を津地方裁判所に差し戻すこととし
て、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 土川孝二 裁判官 片山俊雄 裁判官 河村潤治)

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