弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件抗告を棄却する。
     抗告費用は抗告人の負担とする。
         理    由
 抗告代理人北尻得五郎、同松本晶行の抗告理由について。
 原決定は、家事審判法二三条所定の審判(以下「二三条審判」という。)であつ
ても、同条所定の当事者間の合意を欠くときは、同法一四条により即時抗告ができ
る旨の抗告人の主張を排斥して、二三条審判に対しては、当事者以外の利害関係人
から二週間以内に異議の申立ができ、異議の申立があれば、審判は当然にその効力
を失い、右期間内に異議の申立がないときは、審判は確定判決と同一の効力を有す
るに至るのであつて(同法二五条、家事審判規則一三九条)、該審判に対して上記
の異議のほか当事者からする即時抗告は認められない旨判断する。これに対し、所
論は、原決定の右判断は憲法三二条に違反するとし、家事審判法二五条、家事審判
規則一三九条の規定する異議の申立は当事者に許されないのであるから、原決定の
ように即時抗告ができないと解すべきものとすれば、二三条審判がなされた場合に、
それがどのように違法なものであつても当事者は全く不服申立の途を有しないこと
となり、審判の当事者から裁判を受ける権利を奪うこととなるものであつて、憲法
三二条に違反する旨主張する。
 思うに、二三条審判に対しては、家事審判法一四条および家事審判規則による即
時抗告の途は開かれていない。しかし、二三条審判の対象となる事件は、本来訴訟
事件の性質を有するものであるところ、調停において家事審判法二三条所定の合意
が当事者間に有効に成立する場合に限り対審判決の手続によらず同条所定の手続に
より審判をすることができるものとされているのであつて、同法二三条所定の合意
が有効に成立することが二三条審判の前提要件となるものであるから、もし、同法
二三条所定の合意が不存在または無効の場合には、同法二五条、家事審判規則一三
九条一項前段を類推摘用し、利害関係人の異議の申立に準じ、当事者は、家事審判
法二三条所定の当事者間の合意の不存在ないし無効を理由として、二三条審判に対
し、異議の申立をすることができるものと解すべきである(なお、当事者からの右
の異議の申立については、家庭裁判所は有効な合意が存在するか否かについて審理
したうえ、有効な合意が存在しないと認めれば異議を受理し、そうでなければこれ
を却下すべきであり、右却下審判に対しては家事審判規則一四〇条に則り即時抗告
ができる。)。
 右の次第で、家事審判法二三条所定の合意の不存在ないし無効の場合に即時抗告
が認められないとすれば、二三条審判に対して当事者には全く不服申立の途がなく
憲法三二条に違反するとの所論は、その前提を欠くものであるといわなければなら
ない。
 また、審級制度を如何にすべきかについては、憲法八一条のほか、なんら規定が
ないから、この点以外の審級制度は立法をもつて適宜にこれを定め得ることは当裁
判所大法廷の判例とするところであり(昭和二二年(れ)第四三号、同二三年三月
一〇日大法廷判決、刑集二巻三号一七五頁参照)、この趣旨に照らしても、二三条
審判に対し即時抗告の途が開かれていないのは憲法三二条に違反する旨の所論は理
由がないといわなければならない。
 よつて、本件抗告を棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとし、主文のと
おり決定する。
   昭和四四年一一月一一日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    飯   村   義   美
            裁判官    関   根   小   郷

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