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裁判例


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○ 主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
○ 理由
一 本件抗告の趣旨及び理由は、別紙「抗告の趣旨」及び「抗告の理由」記載のと
おりである。
二 当裁判所の判断
1 (一)民事訴訟法六四条所定の補助参加制度は、他人間に係属する訴訟の結果
即ち本案判決の主文における訴訟物自体についての判断に関し実体法上の利害を有
する第三者が、当該訴訟に参加して当事者の一方を補助して訴訟を追行し、これを
勝訴させることにより右第三者の法律上の利益を擁護するとともに、一定の限度で
判決の効力いわゆる参加的効力を補助参加人に及ぼすことにより、補助参加人を含
めて当該民事紛争の包括的な解決を図る趣旨のものである。したがつて補助参加の
申出は、当該訴訟の当事者のいずれを被参加人とするかを特定してなされることを
要するとともに、補助参加の利益の有無も、参加申立人において被参加人とした者
が当該訴訟において勝訴或いは敗訴の判決を受けることにより、参加申立人が法律
上の権利関係ないし地位にいかなる影響を被ることになるかという観点から判断す
ることを要するものである。
ところで、民訴法六四条にいう「訴訟ノ結果ニツキ利害関係ヲ有スル第三者」と
は、当該訴訟の結果即ち本案判決の主文における訴訟物たる権利ないし法律関係の
存否自体に関する判断について法律上の利害関係を有する者をいい、右にいう法律
上の利害関係は、本案判決の主文における当該訴訟物自体についての判断が参加人
の私法上又は公法上の権利関係ないし法律上の地位に影響を及ぼす場合であること
を要するものであるところ、前判示の補助参加制度の趣旨に鑑みると、補助参加が
許されるのは、参加申立人と被参加人とが当該訴訟の本案判決の主文に示される訴
訟物についての判断との関係において、実体法上利害を共通にする場合に限られる
ものというべきである。
(二) ところで、地方自治法二四二条の二第一項四号所定の住民訴訟(いわゆる
代位による損害賠償等請求訴訟、以下「代位請求訴訟」という。)は、同法二四二
条一項所定の普通地方公共団体の執行機関又は職員等による同項所定の一定の財務
会計の違法、不当な行為又は怠る事実によつて普通地方公共団体が被り又は被るお
それのある損害の回復又は予防を目的とするものであり、その目的のために普通地
方公共団体が、当該職員又は当該違法不当な行為若しくは怠る事実に係る相手方に
対し、実体法上同法二四二条の二第一項四号所定の請求権を有するにもかかわら
ず、これを積極的に行使しようとしない場合に、住民が普通地方公共団体ひいては
住民全体のために本来の請求権の帰属主体である当該普通地方公共団体に代位し右
請求権に基づいて提起するものであるから、代位請求訴訟のうち損害賠償請求訴訟
の訴訟物は、普通地方公共団体が有する当該職員個人に対する損害賠償請求権の存
否であるというべきである。
これを本件についてみるに、本件記録によると、原告ら(相手方ら)の本訴請求
は、栃木県知事である被告が宗教法人靖国神社に対し、昭和五六年四月二一日及び
同年一〇月一七日に例大祭玉串料として各金一万円、同月一二日にみたま祭供花料
等として金一万七〇〇〇円合計金三万七〇〇〇円を、いずれも抗告人(栃木県)の
公金から支出したが、右各支出は憲法及び地方自治法の規定に反する違憲違法なも
のである旨主張して、抗告人の住民である原告らが、右損害賠償請求権の本来の帰
属主体の抗告人に代位してこれを行使するために本件訴訟を提起追行しているもの
であるから、本件訴訟において被告である県知事個人が敗訴した場合には、判決主
文によつて抗告人が県知事個人に対して私法上の損害賠償債権を有する旨の抗告人
にとつて利益な判断がなされるだけのことであり、逆に、被告が勝訴した場合に
は、判決主文によつて抗告人が知事個人に対して私法上の右損害賠償債権を有しな
い旨の抗告人にとつて不利益な判断がなされることになるのである。したがつて、
本件訴訟の訴訟物である損害賠償請求権の存否に関する本案判決の主文における判
断について、抗告人は原告らとは実体法上の利害を共通にし対立する関係にはな
く、これに反して、被告とは実体法上の利害が相反し対立する関係にあることは明
らかであるから、抗告人には被告の県知事個人をして敗訴の事態を避けるためない
しは勝訴させるため、本件訴訟において被告に補助参加する利益は認められないも
のというべきである。
2 (一)なお、抗告人は、本件訴訟において被告である県知事個人が敗訴した場
合、抗告人において、会計事務処理上の是正措置を講ずべき義務が生ずることを理
由に、補助参加の利益がある旨主張するところ、確かに、本件訴訟において被告が
敗訴した場合には、抗告人は、会計事務処理上すでに支出ずみとされた当該支出金
の返還を受けることになり地方自治法二〇八条所定の会計年度独立の原則に反する
結果となり、かつ、右支出金の返納を出納閉鎖後の収入として、収入手続の例によ
りこれを現年度の歳入として当該支出に係る経費に戻入しなければならなくなる
(地方自治法施行令一五九条、一六〇条、一五四条)などすでに執行ずみの関係予
算、決算等の会計処理上の是正措置を講ずることを要することになるが、これは、
右判決に付随して生ずる会計事務処理上の善後策としてのいわば事後処理手続の問
題に過ぎないものであるうえ、右会計事務処理上の是正措置を講ずべき義務が生ず
ることは、抗告人にとつてはむしろ利益でこそあれ、何ら不利益ではないから、右
主張のような理由をもつて、抗告人が、被告敗訴の場合には、法律上の義務を負担
する関係にあるものとして、被告である県知事個人に参加する利益を基礎づけるこ
とはできないものというべきである。抗告人の右主張は採用できない。
(二) また、抗告人は、本件訴訟において被告である県知事個人が敗訴した場
合、抗告人において、地方自治法二四二条の二第七項所定の弁護士報酬支払義務が
生ずることを理由に、補助参加の利益がある旨主張するところ、地方自治法二四二
条の二第七項によれば、住民が同条一項四号所定の代位請求訴訟を提起して勝訴し
た場合には、当該住民は、地方公共団体に対して相当額の弁護士報酬の支払いを請
求することができるものとされており、右の規定は、地方公共団体の住民が当該地
方公共団体のためにその財産上の損害を回復するための訴訟を提起して勝訴した場
合に、いわばその見返りとしてその損害回復のための訴訟の追行に要した弁護士報
酬のうちの相当の額を、当該地方公共団体に負担させることとした規定と解される
から、右の場合に当該地方公共団体が弁護士報酬支払義務を負担することとなるの
は、当該地方公共団体の職員に対する損害賠償請求権等の債権(積極財産)の存在
等が判決によつて肯認されたことに伴ういわば付随的な効果というべきものであつ
て、その意味において、右の地方公共団体の弁護士報酬支払義務は、当該地方公共
団体の損害賠償請求権等の肯認という積極財産の存在等に関する肯定的判断と不可
分一体的に評価されるべきものと解するを相当とする。したがつて、同法二四二条
の二第一項四号所定の代位による損害賠償請求訴訟において、原告たる住民が勝訴
することによつて当該地方公共団体の被る法律的な影響は、相当額の弁護士報酬支
払義務という付随的な義務(不利益)こそ伴うものの、損害賠償請求権という債権
の存在を肯認されるという、それ自体としては当該地方公共団体にとつて利益と評
価する以外にない影響に尽きるものと解されるから、この場合の弁護士報酬支払義
務という債務の負担という点を、右の損害賠償請求権という債権の存在の肯認とい
う点とは独立した別個の不利益ととらえて、この不利益を理由に、右の代位による
損害賠償請求訴訟において、当該地方公共団体(抗告人)が被告たる職員(県知事
個人)を補助するために右の訴訟に参加することを認めることは、相当ではないも
のというべきである。したがつて抗告人の右主張は採用できない。
(三) さらに、抗告人は、本件訴訟において被告である県知事個人が敗訴した場
合、抗告人において、行政事件訴訟法四三条三項(同法四一条一項、三三条一項)
により公法人としての権利能力が違法に制限されることを理由に、補助参加の利益
がある旨主張するところ、行政事件訴訟法四三条三項(同法四一条一項)が準用す
る同法三三条一項は、行政庁又は行政主体が訴訟当事者(被告)である行政事件訴
訟において、被告敗訴の判決があつた場合、右判決の実効性を担保するため、特に
右敗訴判決における当該処分又は裁決の違法性、有効性についての判断が、当該事
件について当事者たる行政庁その他関係行政庁を拘束する旨を定めたものと解され
るところ、本件訴訟は、地方自治法二四二条の二第一項四号に基づいて、住民であ
る原告らが県知事個人を被告として、前記靖国神社例大祭玉串料等の支出行為の違
憲、違法性を主張し損害賠償請求をしているものであつて、県知事が行政庁ないし
行政主体として訴訟当事者となつているものではないから、抗告人は、行政事件訴
訟法三三条一項の準用の結果として本件訴訟の判決の拘束力が及ぶ関係にはないも
のというべきである。したがつて、本件について行政事件訴訟法三三条一項の準用
を前提とする抗告人の右主張は、すでにこの点において失当である。しかも、仮
に、本件訴訟において被告敗訴即ち本件例大祭玉串料等の支出が憲法及び地方自治
法に違反するものとして、抗告人の被告に対する損害賠償請求権を肯認する旨の判
決が確定した場合には、当該地方公共団体たる抗告人は、憲法及び地方自治法等法
令に則り適正妥当な地方自治行政を執行することが期待され爾後右判決の趣旨に副
う地方行政事務処理をすることになるのはむしろ当然のことであつて、その主張の
ような理由をもつて、被告敗訴の場合には、抗告人が、公法人として権利能力を違
法に制限される関係にあるものとして、被告である県知事個人に参加する利益を肯
認することはできないものというべきである。したがつて、抗告人の右主張は採用
できない。
三 よつて、抗告人の被告のためにする本件補助参加申立ては、被告を被参加人と
する点で不適法であるから、これを却下すべきものというべきであり、これと同旨
の原決定は正当であつて、本件抗告は理由がないから、これを棄却することとし、
抗告費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、
主文のとおり決定する。
(裁判官 中島 恒 塩谷 雄 涌井紀夫)
抗告の趣旨
原決定を取り消す。
抗告人が、原告Aほか四名、被告B間の宇都宮地方裁判所昭和五七年(行ウ)第四
号損害賠償請求住民訴訟事件について、被告を補助するため参加することを許可す
る。
本件補助参加申立に対する異議申立によつて生じた費用は相手方の負担とする。
との裁判を求める。
抗告の理由
一、原決定は、抗告人(補助参加申立人)は民事訴訟法六四条にいう訴訟の結果に
つき利害関係を有するものとはいえないとするが、その理由は明らかでなく、その
結論は不当である。以下、詳論する。
二、補助参加の利益についての判断(原決定理由二前段)について
1、補助参加の利益として、「本件訴訟において被告が敗訴すると、申立人におい
ては、既に適法妥当に支出して、もはや申立人に帰属すべきでないと考える金員の
返還を余儀なくされ、かつ、執行済みの関係予算決算等会計処理の是正をしなけれ
ばならなくなる」旨の抗告人の主張に対し、原決定は「確かに、被告が本件訴訟に
敗訴すれば、申立人に帰属すべきでないと考える金員の返還を受けざるを得なくな
り、ひいては、本件公金支出の関係する財務会計処理の見直しをも要求されること
になるものの、これらはあくまで事実上の主観的不利益にすぎず、これによつて申
立人が法律上の不利益を被るものというのは相当でない」とする。
このように、原決定は単に「事実上の主観的不利益にすぎない」から「法律上の不
利益を被るものではない」と同義反復の結論を述べたにすぎず、法律上の不利益と
事実上の主観的不利益との区別の基準も明らかにしないばかりか、いかなる理由に
よつて、事実上の主観的不利益にすぎないとしたのか、その理由は全く示されてい
ない。
2、ところで、民訴法第六四条にいう「訴訟の結果に付利害関係を有する」とは、
一般に、私法上または公法上の権利関係に法律上の影響を受けるという法律的な利
害関係を有するものでなければならないとされ(大決昭和七・二・一二民集一一巻
一一九頁、同昭和八・九・九民集一二巻二二九四頁)、あるいは、当該訴訟の訴訟
物たる権利関係の存否が参加人の私法上または公法上の権利関係乃至地位に何らか
の法律上の影響をおよぼす場合を指すとされる(仙台高秋田支判昭和四六・九・八
高裁民集二四巻三号三一八頁)。因みに、補助参加の中でも最もポピユーラーな例
である、当事者一方の敗訴によつて第三者が求償又は損害賠償義務を負う関係にあ
るという場合でも、第三者の受ける不利益は、判決理由中の判断を抜さにしては考
えられない筈であるから、果して右の一般的な要件基準がどこまで妥当性を有する
かは疑問であるのみならず、補助参加の機能領域が広汎に及び、利害関係にも種々
の態様を認めざるを得ない現時点においては、右の要件基準で画一的に割切つてし
まうことは、とうてい実際上の要請に耐えられない。利害関係が法律上か事実上か
という区別とても同様である。そこで判例においては、かなり弾力的に補助参加を
認める傾向にあることは周知の事実である(三省堂・判例コンメンタール・民訴法
I二〇六頁)。殊に行政訴訟にあつては、行政事件訴訟法第二三条により「必要で
あると認めるとき」は広く行政庁を参加させることができるようになつている。こ
れは行政事件においては、利害関係者が多く、本件でもそうであるように、問題と
なつている法律関係(地方公共団体が宗教法人に玉串料を支出することが許される
かどうか)の実質的当事者が訴訟上の当事者になつていない場合が多いので、法律
関係の実質的当事者をできるだけ多く訴訟に参加させて、訴訟資料を豊富にし、適
正な審理裁判を実現しようという趣旨に出たものであり、補助参加の許否に関する
前記判例の傾向と軌を一にするものである。
3、さて、そもそも予算とは、一会計年度における国の財政行為の準則、主として
歳入歳出の予定準則を内容とし(実質的意味の予算)、国会の議決を経て定立され
る国法の一形式をいうのであつて(形式的意味の予算)、それは、単なる歳入歳出
の見積表ではなく、政府の行為を規律する法規範である(清宮四郎・憲法I第三版
二六九頁参照)。このことは、地方公共団体の収入支出はすべて歳入歳出として予
算に編入しなければならない(地方自治法第二一〇条)とされる県の予算について
も同様であり、それが法規範性を有することは争いなく認められよう。
仮に、本件訴訟において被告が敗訴すれば、抗告人において、既に適法に成立した
予算の執行として、適法妥当に支出し、もはや抗告人に帰属すべきでないと考える
金員の返還を、地方自治法第二〇八条所定の会計年度独立の原則に違背して受ける
ことを余儀なくされ、かつ、執行済みの関係予算決算等会計処理の是正をしなけれ
ばならず、場合によつては、会計事務職員、予算執行職員の弁償責任の追及や懲戒
問題も生起することとなるのである。
右会計処理の是正は、具体的にいえば、歳出の誤払い又は過渡しとなつた金額の返
納として、収入の手続の例により、これを当該支出した経費に戻入しなければなら
ないのである(地方自治法施行令一五九条)。
右に「収入の手続の例による」とは、調定による戻入の決定をし、納入の通知に相
当する戻入の通知をして誤払金を戻入することをいうのであり、抗告人は、法律上
新たな義務を負担することとなるのである。
4、このように、一法形式である予算の執行について法律上の見直しを迫られると
いうことは、法律による行政の原理からいつて、まさに抗告人の私法上または公法
上の権利関係乃至地位に何らかの法律上の影響をおよぼす場合に該当するものであ
つて、これを事実上の主観的不利益にすぎないとするのは明らかに誤りである。
三、補助参加の利益についての判断(原決定理由二後段)について
1、抗告人の「被告が本訴訟で敗訴の場合、原告らが弁護士に支払うべき相当額の
報酬を負担しなければならないことになる」との補助参加の利益についての主張に
対しては、原決定は、「右弁護士報酬の負担は、地方自治法第二四二条の二第七項
の規定に基づき認められるものであつて、このことをもつて補助参加の利益がある
ものということもできない」とするが、その理由は必ずしも明らかではない。
2、およそ、権利義務は、契約乃至法律の規定によつて生じるものである。もし、
原決定が、法律の規定に基づいて認められる当然の結果であるから法律上の利害関
係がないというのであれば、いつたい法律上の利害関係がいかなる場合に認められ
るというのか全く理解に苦しむことである。
仮に、地方自治法第二四二条の二第七項の規定が設けられた趣旨が、原決定の述べ
る如く、「住民訴訟が住民の自己の個人的利益のためや地方公共団体そのものの利
益のためではなく、専ら右訴訟を提起した原告らを含む利益のためになされるもの
であるところから、訴訟に要した費用のすべてを原告らたる住民に負担させるのは
適当でなく、右訴訟によつて利益を受ける当該地方公共団体が相当と認められる弁
護士報酬額を原告に支払うものとすることが衡平の理念に合致するものと考えられ
た」ことにあるとしても、参加人の法律上の利害関係の有無の判断には何ら関係の
ないことである。
仮に原告勝訴の場合には、法律上相当の弁護士報酬の支払義務が生じるのであるか
ら、まさに参加人には法律上の利害関係があるといえるのであり、又住民全体の公
共の利益のためとはいえ、仮に本件代位請求訴訟が勝訴した場合にもたらす地方公
共団体への経済的利益(本件では二万七千円)と報酬との金額いかんによつては、
必ずしも利益を受けるとはいえず、さらには相当額の認定についての新たな争訟を
ひき起こす可能性すら否定できないのである。
四、補助参加の利益についての追加主張
1、地方公共団体は、統治権を行使する団体であるが、私法関係については、社会
の構成単位として私人と同様な地位に立つものであつて、民法四三条所定の権利能
力を有し、私法の適用を受けて契約その他の行為をすることができる。
例えば、東京高裁昭和四一年一月三一日判決(高裁民集一九巻一号七頁)は、法人
は個人と同様一般社会の構成単位をなすものであるから、定款の定めいかんに拘わ
らず、寺社の祭礼のための寄附をするのは、会社の目的の範囲内の行為に属するも
のであると判示している(この見解は上告審の最高裁昭和四五年六月二四日大法廷
判決によつて支持されている)。
又政府は、一貫して、民間団体(当然のことながら宗教法人も含まれる)が慰霊祭
などを行うにあたつて、地方公共団体として敬弔の意を表示するため、玉串料、神
饌等を贈ることは差支えないという見解を示している(昭和二六年九月一〇日文宗
第五一号文部次官通達、同年九月二八日文宗第五二号文部大臣官房宗務課長代理通
達、第七五回国会参議院予算委員会における総理大臣、文部大臣、法制局長官の各
発言等)。
更に、最高裁昭和五二年七月一三日大法廷判決(最高民集三一巻四号五三三頁)
は、憲法二〇条は国が宗教と一切のかかわり合いを持つことを禁止したものではな
くて、特定の宗教を援助、奨励する等の目的をもち、そのような効果をもたらすよ
うな行為のみを禁止するものであるという解釈を示したが、右判旨に照らして、地
方公共団体が戦没者に対する敬弔の表れとして玉串料等を奉献することは同条に違
反するものではないことが明らかである。
2、本件訴訟は、行政事件訴訟法四三条三項に該当する民衆訴訟であるから、当事
者訴訟の規定が準用される。同法四一条一項の規定により、当事者訴訟には同法三
三条一項の規定が準用されるから、結局同条同項は本件訴訟に準用されるのであ
る。
右三三条一項は、「取消判決は、その事件について、当事者たる行政庁その他の関
係行政庁を拘束する」旨の規定であるが、本件訴訟にあつては、「行政庁その他の
関係行政庁」を「栃木県その他の関係地方公共団体」と読み替えて適用されること
となる。
右三三条一項の規定は、判決で取り消された行政行為と同一の理由に基づく同一内
容の行政行為の繰り返しを禁止する法意である(最高裁昭和三〇年九月一三日第三
小法廷判決、最高民集九巻一〇号一二六二頁)。すなわち、抗告人は判決理由とし
て示される判断によつて拘束されることとなるのであるが、請求原因として本件公
金の支出が憲法二〇条及び八九条に違反する違法な支出であると主張する原告らの
請求が認容された場合には、宗教法人靖国神社はもちろん、他の宗教法人に対する
玉串料及び献燈料を県費から支出することができなくなる筋合である。
3、右の次第で、原告の請求が認容された場合には、抗告人は、前述の権利能力が
違法に制限されることとなるのであるから、訴訟の結果につき利害関係を有する第
三者に該当する。
五、東京高裁昭和五六年七月八日決定(行政例集三二巻七号一〇一七頁)は、本件
と同様の事案について、申立人は、本件訴訟の結果につき民訴法六四条の利害関係
を有する第三者に該当し、参加の利益がある旨を判示しており、原決定は右先例に
反するものである。
六、なお、本件代位訴訟において、地方公共団体が被告に補助参加することが訴訟
構造上問題ないことは、参加申立書に記載した通りである(前掲東高判決)。
七、以上述べたように、抗告人としては、本件訴訟の結果につき民事訴訟法六四条
の利害関係を有する第三者に該当するものというべく、本件参加の利益があるので
あつて、原決定は取り消されるべきである。
(原裁判等の表示)
○ 主文
本件補助参加の申立を却下する。
異議によつて生じた費用は補助参加申立人の負担とする。
○ 理由
一 補助参加申立人(以下「申立人」という。)の参加の趣旨及び理由は別紙一記
載のとおりであり、原告らのこれに対する異議の理由は別紙二記載のとおりであ
る。
本件記録によると、原告らの本訴請求は、栃木県知事である被告が宗教法人靖国神
社に対し、昭和五六年四月二一日及び同年一〇月一七日に例大祭玉串料として各金
一万円、同年六月一二日にみたま祭供花料等として金一万七〇〇〇円を、いずれも
同県の公金から支出したが、右支出は憲法及び地方自治法の規定に反する違憲違法
なものであるから、原告らは同県の住民として同県に代位して、被告に対し右支出
金員相当額の損害賠償を求めるというのであり、被告及び申立人が右支出はいずれ
も合憲適法である等の主張をしていることが明らかである。
二 ところで、申立人は、補助参加の利益として、本件訴訟において被告が敗訴す
ると、申立人においては、既に適法妥当に支出してもはや申立人に帰属すべきでな
いと考える金員の返還を余儀なくされ、かつ、執行済みの関係予算決算等会計処理
の是正をしなければならなくなる旨主張する。確かに、被告が本件訴訟に敗訴すれ
ば、申立人は申立人に帰属すべきでないと考える金員の返還を受けざるを得なくな
り、ひいては、本件公金支出の関係する財務会計処理の見直しをも要求されること
になるものの、これらはあくまで事実上の主観的不利益にすぎず、これによつて申
立人が法律上の不利益を被るものというのは相当でない。
また、申立人は、被告が右訴訟で敗訴の場合、原告らが弁護士に支払うべき相当額
の報酬を負担しなければならないことになる旨主張する。しかしながら、右弁護士
報酬の負担は、地方自治法(以下「法」という。)二四二条の二の定める住民訴訟
が住民の自己の個人的利益のためや地方公共団体そのものの利益のためではなく、
専ら右訴訟を提起した原告らを含む住民全体の利益のためになされるものであると
ころから、訴訟に要した費用のすべてを原告らたる住民に負担させるのは適当でな
く、右訴訟によつて利益を受ける当該地方公共団体が相当と認められる弁護士報酬
を原告らに支払うものとすることが衡平の理念に合致するものと考えられて設けら
れた法二四二条の二第七項の規定に基づき認められるものであつて、このことをも
つて補助参加の利益があるものということもできない。
三 以上のとおりで、申立人は民事訴訟法六四条にいう訴訟の結果につき利害関係
を有するものとはいえないので、その余の点について判断するまでもなく本件補助
参加申立は理由がないからこれを却下し、異議によつて生じた費用の負担につき民
事訴訟法九四条、八九条を適用して主文のとおり決定する。
別紙 一
参加の趣旨
申立人が、原告A外四名、被告B間の宇都宮地方裁判所昭和五七年(行ウ)第四号
損害賠償請求事件に、被告を補助するため参加することを許可する。
旨の裁判を求める。
参加の理由
一 原告は、前記訴訟事件において、被告が申立人の代表者として、宗教法人靖国
神社に対し、昭和五六年四月二一日玉串料の名目で金一万円、同年六月一二日供花
料・献燈料の名目で金一万七〇〇〇円、同年一〇月一七日玉串料の名目で金一万円
を、公金から支出したことが憲法二〇条、八九条、法二条一五項、一三八条の二に
違反し、申立人に対し同額の損害を与えたので、被告は申立人に対し損害賠償とし
て右金員及びこれに対する各支出の日から支払済みまでの遅延損害金を支払うよう
求めている。
二 申立人は、左記の理由により、右訴訟の結果について利害関係を有するので、
被告を補助するため本申立に及んだ。
1 法二四二条の二の定める住民訴訟は、普通地方公共団体の長等による法二四二
条一項所定の財務会計上の違法な行為等が、究極的には当該普通地方公共団体の構
成員である住民全体の利益を害するものであるところから、これを防止するため、
地方自治の本旨に基づく住民参政の一環として、住民に対しその予防又は是正を裁
判所に請求する権能を与えたもので、住民の有する右訴権は、法律によつて特別に
認められた参政権の一種である。それゆえこの訴訟の原告は、地方公共団体そのも
のの利益のためでなく、専ら原告を含む住民全体の利益のために、
地方財務行政の適正化を主張するものであり、したがつて、損害補填に関する住民
訴訟は、地方公共団体の有する損害賠償請求権を住民が代位行使する形式によるも
のと定められてはいるが、実質的にみれば、住民は権利の帰属主体たる地方公共団
体と同じ立場においてではなく、住民としての固有の立場において、財務会計上の
違法行為等に係る長等に対し、損害の補填を要求することが訴訟の中心目的であつ
て、この目的を実現するための手段として、訴訟技術的配慮から代位請求の形式に
よることとしたものであると解されている(最判昭和五三・三・三〇民集三二・
二・四八五)。
2 住民訴訟のもつ右のような特質からすれば、本件訴訟の原告が、形式上申立人
たる地方公共団体に代位してその権利を主張するからといつて、本件訴訟におい
て、原告と利害関係が同一でない申立人が、被告のために補助参加しても、対立訴
訟構造をもつ民事訴訟の本質に背馳するものではなく、申立人は、補助参加の利益
がある限り、右訴訟で被告を補助するために参加できるものと解すべきである(東
高決昭和五六・七・八、昭和五五年(行ツ)第一一九号)。
3 ところで、本件訴訟で被告が敗訴すれば、申立人は、適法かつ妥当に支出し、
もはや申立人に帰属すべきでないと考える金員の返還を受けることを余儀なくさ
れ、ひいては、既に執行済みの関係予算決算会計処理の是正をしなければならない
ことになる。更に、本件訴訟で被告が敗訴すれば、申立人は、法二四二条の二第七
項の規定により、原告が弁護士に支払うべき相当額の報酬を負担しなければならな
いことになる。
したがつて、申立人としては、本件訴訟の結果につき民事訴訟法六四条の利害関係
を有する第三者に該当するものというべく、本件参加の利益がある。
別紙 二
一 補助参加とは、他人間に訴訟の係属中その訴訟の結果につき利害関係をもつ第
三者(参加人)が、訴訟当事者の一方(被参加人)を補助しこれを勝訴させること
によつて自己の利益を守るためにその訴訟に参加することをいうものである。した
がつて、第三者の補助参加申立が許可されるためには、その者が「訴訟の結果につ
き法律上の利害関係をもつ」ことを要するものである。「訴訟の結果」につき利害
関係をもつとは、その訴訟の本案判決でなされる訴訟物たる権利関係の存否の判断
について利害関係をもつことをいい、「法律上の利害関係」をもつとは、
申立人の権利義務その他法律上の地位が、論理上訴訟物である権利関係の存否を前
提として決せられる関係にあることを意味するものである。つまり、「訴訟の結果
につき法律上の利害関係をもつ」とは、端的にいつて、被参加人の敗訴が申立人の
法的地位を不利に決定するおそれがある関係にあることをいうものである。
二 本件訴訟は、栃木県が、被告の行つた違憲違法な公金の支出によつて損害を被
つたのにもかかわらず、被告に対し積極的に損害賠償請求権を行使しないので、原
告ら住民が、法二四二条の二第一項四号の規定に基づき、栃木県に代位して右損害
賠償請求権を行使するため提起したものである。したがつて、本件訴訟の審判の対
象は、栃木県が実体法上被告に対し損害賠償請求権を有するか否かの点にあり、右
の損害賠償請求権こそが本件住民訴訟の訴訟物たる権利関係である。つまり、本件
訴訟の結果が、原告らの勝訴被告の敗訴に終われば、栃木県が被告に対して損害賠
償請求権を有することが確定することになり、その意味で栃木県は本来原告的立場
にあるものであるから、栃木県が本件訴訟に補助参加するというのであれば、被告
を補助するためでなくむしろ原告らを補助するために参加すべき筋合である。ここ
では、被告の敗訴が申立人たる栃木県の法的地位を不利に決定するのではなく、全
くその逆である。本件補助参加申立には、参加の理由がない。
ところで、申立人は、「本件訴訟が敗訴すれば、申立人は、適法かつ妥当に支出
し、もはや申立人に帰属すべきでないと考える金員の返還を受けることを余儀なく
され、ひいては、既に執行済みの関係予算決算会計処理の是正をしなければならな
いことになる。」ので、補助参加の利益があると主張する。しかしながら、本件訴
訟で被告が敗訴した場合、申立人たる栃木県が、「金員の返還を受けることを余儀
なくされる」などのことは、申立人が被告に対し損害賠償請求権を有することが確
定することによる当然の結果であつて、申立人にとつて、主観的には不本意な成行
ではあつても、法的客観的には利益を得ることにほかならないのであるから、これ
を根拠にして参加の利益があるとする申立人の主張は失当である。

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