弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人甲1を懲役六月に、被告人甲2を懲役四月に、被告人甲3を懲役
二年四月に、被告人甲4を懲役八月に、被告人甲5を懲役六月に処する。
     但しこの裁判確定の日から被告人甲3に対し三年間、その他の被告人ら
に対し二年間右各刑の執行を猶予する。
     被告人甲4から金三二万円を追徴する。
     被告人甲5から押収されている現金一〇万円(東京高裁昭和四〇年押第
七七三号の七一)を没収し、かつ金一六万円を追徴する。
     原審及び当審における訴訟費用の全部は、被告人全員の連帯負担とす
る。
         理    由
 本件控訴の趣意は、東京高等検察庁検事鈴木壽一が差し出した東京地方検察庁検
事河井信太郎作成名義の控訴趣意書に記載してあるとおりであり、これに対する答
弁は、弁護人花井忠、市島成一、平松勇、栗谷四郎、斎藤岩次郎、田辺恒貞、今井
文雄が連名で差し出した答弁書及び弁護人溝尾叶、丸山良策、向江璋悦、井出甲子
太郎が連名で差し出した答弁書のとおりであるから、これらを引用し、これに対し
て当裁判所は、次のように判断をする。
 東京地方検察庁検事河井信太郎の控訴趣意第一点(事実誤認について)の第一
(第丙1回定時株主総会関係事実)について
 一 (乙1及び被告人五名の検察官に対する供述調書に関する原審の証拠判断の
検討―その一)
 原判決理由の第二節の(無罪の判断)の第二「株主総会における発言または議決
権行使に関する不正の請託の有無」の「 (一) 第丙1回定時株主総会」の項の
(1)の中で(原判決書五九頁九行目から六二頁六行目まで)、その列挙する証拠
によれば「会社側の被告人甲1、同甲2および同甲3らから、総会屋たる被告人甲
4に対して『丁1』(東京都中央区ab丁目c番地の料亭)または右総会前に会社
において『今度の総会はよろしく』という極めて簡単な言葉をもつて、同総会にお
ける議事の進行方について、そのとりまとめないし協力方を依頼したこと、また、
右『丁1』または会社における右依頼の際、被告人甲4は同総会において予定の議
案がすべて審議されてから、社長よりカラーテレビの説明がなされる旨を聞いてか
かる会社の議事進行の方針を了承していたこと、そして被告人甲4から被告人甲5
に対して、同総会の前日都内戊1倶楽部における他社の株主総会の席で『己1の総
会にはしつかり頼む』という、これまた簡単な言葉をもつて被告人甲4の同総会の
とりまとめ方に協力してくれとの依頼がなされたことを認めることができるけれど
も、右総会の議事進行等について会社側から被告人甲4に対してそれ以上に具体的
事項が明示されたうえ、その総会のとりまとめ方についての依頼がなされたこと
は、ついにこれを認定することができない。もつともこの点に関する乙1の昭和三
七年三月三〇日付検察官に対する供述調書第四項の中には、同人から被告人甲4に
対してやや具体的に、同総会における株主の発言を押え適当な機会に質問を打ち切
るようにしてくれと明言して依頼したかのような記載があり、また被告人甲4の同
年四月六日付調書中にも、これに相応するかのような記載が存するけれども、その
いずれも同人らの他の調書の記載内容と必ずしも一貫しないものがあり、他の関係
者の調書の記載内容と一致しないので、これを措信することは困難である」と説示
している。
 右に指摘されたところの、乙1の昭和三七年三月三〇日付検察官に対する供述調
書(以下、検察官に対する供述調書を調書と略称する)四項、右供述記載と相応合
致する、被告人甲4の同年四月六日付調書によれば、昭和三六年七月二八日の会社
の第丙1期定時株主総会(以下、右株主総会を第丙1回株主総会と略称し、また第
八七期定時株主総会を第八七回株主総会と略称する)に先立ち、己1株式会社(以
下、会社と略称する)の当時、総務部長であつた乙1は総会議事の原稿をつくり、
同年一〇日頃料亭「丁1」において被告人甲2(会社常務取締役)、同甲3(会社
取締役)と共に三名で総会屋の被告人甲4を招待した際、席上、乙1から被告人甲
4に対して「今度の総会では、株主からカラーテレビについての質疑があり、相当
に混乱すると思われるが、株主から色々質問が出て審議未了になつては困る。また
カラーテレビに関して会社の説明では株主が納得しないときは、説明するといつて
も、きりがないから適当な機会にそのような発言は打ち切れるようにして貰いた
い」といつたが、これは被告人甲2、同甲3らも考えていたことであつたので、右
被告人らからも同様の発言があり、これに対して被告人甲4は「そういう風に取り
計らう」と述べた旨の記載がある。
 しかし原判決が説示するように、右両調書の記載が同人らの他の調書の記載内容
と一貫しないものかどうかを検討するのに、乙1の昭和三七年三月三七日付調書に
よれば、前記の同月三〇日付調書のような具体的明示の請託をした旨の記載はない
けれども、「丁1」の会合につき要約して述べているが、これは同人が被疑者とし
て検察官から最初に取調べられた際の供述を録取したものであり、しかも通例、当
初の取調には外形的概括的な供述をし、それを基礎として回を重ねる毎に順次具体
的な供述に発展しゆくことを考慮に入れるとき、同月三〇日付調書の内容との間に
一貫性を欠くものといえず、また乙1の「丁1」の会合に関する供述は同人の同年
四月一二日付調書二項にも記載されているが、このときは右の三月三〇日付調書記
載の供述を前提として、新たに報酬金についての打合せを内容としたものであつ
て、供述の一貫性を肯認するのに欠くるところはないのである。
 次に被告人甲4の調書をみるのに、同人が検察官から第一回の取調をうけた際
の、昭和三七年三月二七日付調書には、前記の乙1の場合と同様に、四月六日付調
書記載と同旨の内容について要約して供述をしていることが明かであり、「丁1」
における会合の内容については、被告人甲4の昭和三七年三月三一日付調書七項に
も記載があるが、ここでは総会に関する請託はすでに三月二七日付で供述ずみのこ
ととして要旨のみ記載し、報酬などに関する供述が詳細に記載されているものであ
つて、同人についての数回の調書内容は一貫してカラーテレビ問題に関する株主の
発言を抑制するよう明示の請託があつたことを物語つているのである。
 二 (前同―その一一)
 原判決は前記乙1の昭和三七年三月三〇日付調書及び被告人甲4の同年四月六日
付調書の記載が他の関係者の調書の記載内容と一致しないとし、さらに「会社側の
被告人甲1、同甲2及び同甲3らから被告人甲4に客気『よろしく』と依頼し、ま
た被告人甲4から被告人甲5に対して『しつかり頼む』と依頼したとき、その言外
に右総会における正当な株主の発言を封じ、ないしは議決権の行使を妨害するなど
の不正の行為、株主権の濫用を求める旨の請託の趣旨が隠されていて、これを相互
に理解して暗黙の了解があつたかについて、さらにまた同総会のとりまとめ方を総
会屋に依頼した動機、その意図、その真意が奈辺にあつたか」について検察官調書
を列挙したうえ、その記載などは「一応検察官の主張に沿うようにみえるけれど
も、これらに記載されている会社側の被告人甲1、同甲2および同甲3らが総会屋
たる被告人甲4らに依頼するに至つた動機ないしその意図たるや、各人各様であつ
たというほかはなく、また、被告人甲4および同甲5が会社側からの依頼の趣旨を
どのように了解していたかについては、極めて漠然たる記載にとどまり、被告人ら
がたがいに暗黙のうちに了解したところは一体何であつたかについて、これらの記
載だけから掴むことは困難」であると説示しているので(原判決書六二頁七行目か
ら六四頁八行目まで)、これらの調書の記載が果して原判決のいうように、乙1及
び被告人甲4の各調書の記載と一致しないかどうか、またその趣旨を捕捉できない
かどうかについて検討する。
 原判決の列挙する検察官調書のうち乙1の昭和三七年三月二七日付調書、同月三
〇日付調書四項の記載は、既述のとおりであり、被告人甲1の同年四月一一日付調
書五項には、第丙1回株主総会ではカラーテレビ問題を追及され、それが議案の一
たる全役員改選に波及すると困るので、株主の追及を免れるため総会の議事終了後
にカラーテレビ問題に入るよう総会の進行を図ることを被告人甲4らの総会屋に依
頼した旨の供述記載があり、また被告人甲2の同年四月三日付調書及び同月八日付
調書九項には、会社の乙2社長、被告人甲1、同甲2、同甲3らの間で屡々第丙1
回株主総会をどのようにして乗り切るかを相談し、カラーテレビ問題についての株
主の追及を避け、総会が流会しないように総会議事からカラーテレビ問題を切り離
して総会における一般株主の発言を押えるように被告人甲4に依頼したとの供述が
あり、料亭「丁1」における会合の状況についても、右供述記載は乙1及び被告人
甲4の検察官に対する供述調書の記載と相応するものといわねばならず、なお被告
人甲2は同年四月一四日付調書においても、右供述内容を再確認している。
 被告人甲3の同年三月二〇日付調書六項、同月二七日付調書八項、同年四月一二
日付調書五項には昭和三六年七月一〇日頃「丁1」で被告人甲2、同甲3及び乙1
総務部長が被告人甲4に会い、第丙1回株主総会の議案を同人にみせたところ、同
被告人は総会の議事終了後にカラーテレビの説明をしたがよいと述べ、会社側もこ
れに賛成し、同人に株主がカラーテレビの件について聞き出そうとするときには、
その発言を押えるように依頼し、その打合せは簡単であつたが、更に総会の一週間
程前に、会社で乙2社長、被告人甲1、同甲2、同甲3、乙1総務部長が集つたと
ころに被告人甲4を呼びよせ、総会の打合せをし、同人に対し、株主がカラーテレ
ビについて追及するときには、株主の発言を押えて議案が可決されるように取計ら
うよう、また他の総会屋がカラーテレビのことについて会社側を追及しないように
依頼したとの供述がなされている。
 以上によつて明らかなように会社側の被告人甲1、同甲2、同甲3及び乙1から
被告人甲4らに対する請託の趣旨は、もつぱら第丙1回株主総会において株主がカ
ラーテレビ問題に関して会社を追及したり、ひいては役員改選や決算に関する議案
を否決する発言や議決権の行使をする際に、これらを押えて貰いたいということに
あり、この点に関する被告人らの供述は各人各様といつたものではないし、また喰
い違つた点もないのである。
 もつとも乙1は被告人甲4に対して請託の内容を詳細、具体的に述べているのに
反して、被告人甲1、同甲2、同甲3は、請託の内容をいわば一般的、概括的に述
べているけれども、このような供述の違いは、乙1が当時会社の総務部長であつ
て、株主総会対策事務を担任し、主として総会屋たる被告人甲4との折衝を受けも
つていたことにもとづくことが充分に窺われるから、右は供述の喰い違いの類型に
は当らないし、一貫性を欠いてもいないのである。
 また被告人甲4は昭和三七年四月六日付及び同年三月二七日付調書で乙1、被告
人甲2、同甲3らから第丙1回株主総会で冒頭に株主からカラーテレビの件を追及
されると他の議事が進行しないので、先に議事をすませた後に懇談会の形式でテレ
ビの説明をする方針なので、カラーテレビの問題が出たら適当に質問を打ち切つて
もらいたいとの請託をうけ、総会をそのように運ぶように努力すると答えている。
 次に被告人甲5は昭和三七年四月三日付調書で第丙1回株主総会の二、三日前頃
被告人甲4から右の総会に「出てくれ」とか「出るか」とか尋ねられたので、私は
「いつも出ているから今度も出る積りでいる」と答えたと述べている。
 被告人甲5の調書の中には、同人と被告人甲4間の会話として右のような簡単に
して極めて漠然たる問答がなされたとの記載があるにすぎないが、他方、被告人甲
4は同年三月二七日付調書で、被告人甲5は頭のよい総会屋で色々と会社の状勢を
知つていて、私以上にカラーテレビのことも詳しいと思つたので私が頼むといえば
分つた筈だと述べ、同月三一日付調書で、われわれ総会屋の間でも己1のカラーテ
レビの話で持ち切つており、私は総会の前に被告人甲5に対して何回も乙3乙4社
長から、聞いたところの、戊2が乙4の乙5、乙6の乙7社長、乙8製作所などに
損害をかけた話や、乙5、乙8製作所、乙9質屋が右戊2に引つかかつた話をして
会社のテレビはインチキだといつたと述べているので、両被告人の供述を対比考察
するとき、被告人甲5が会社側からの依頼の趣旨をどのように了解していたかにつ
いて、その供述が形式上、漠然としているとの一事をもつて、これを排斥すべきも
のではないのである。
 以上の次第であるから、原判決に列挙された乙1、被告人甲1、同甲2、同甲
3、同甲4、同甲5らの検察官に対する各供述調書の記載内容が一貫性を欠いてい
て合致せず、被告人らの意図が各人各様であり、また被告人らが互に暗黙のうちに
了解したものが漠然としていて掴むことが困難であるとの原判決の説示判断は、各
調書の記載自体の相互関連、その綜合把握による推理過程において証拠の価値判断
を誤り、判断の資料として採用すべき証拠を排斥した不当があるといわねばならな
いのである。
 三 (本件の不正請託、金員授受をめぐる客観的諸事情の検討ーその一)
 原判決は、本件請託、金員授受をめぐる客観的諸事情、即ち会社側において不正
の請託をせざるをえないような状況にあつたかどうかを検討して、右調書の措信で
きない経緯を説示しているので、以下、考察を加える。
 (一) 原判決引用の各関係証拠によれば、原審が原判決理由第二節の(認定事
実)の第一、事件の経緯等のうち(一)被告人らの経歴(二)己1株式会社が戊2
に研究を行なわせた経緯と状況(三)カラーテレビの試作品の発表に至る経緯
(四)試作品発表会当日の状況(五)発表後の反響と会社の対策の各項でそれぞれ
認定した事実を肯認することができる。
 (二) 原判決理由の(無罪の判断)の第二「株主総会における発言または議決
権行使に関する不正の請託の有無」の「(一)第丙1回定時株主総会」の項の
(2)について
 戊2によるカラーテレビの発明が虚偽のものであつたことと被告人甲1らの認識
及びその責任について、原判決は「会社において戊2を嘱託に迎えて研究に当らせ
てきたのは、おもに乙2社長と乙1総務部長とであつて、被告人甲1は副社長とし
て昭和三六年一月末に初めて入社したばかりであつて、被告人甲2は右乙1の上司
の総務担当の常務取締役として、会社、労働組合との交渉に主力を注いでおり、右
両被告人とも右戊2の発明研究には直接関与したものとみるべきではなく、乙2社
長から命ぜられた場合、時々これを補佐したに過ぎず、また被告人甲3は経理担当
の取締役として乙1を通じて戊2に対する研究費の支出の決裁をし、被告人甲1と
ともに株価の乱上下に対する防衛策を講じたけれども、これまた深く戊2の研究に
関与したものとはいえず、さらに右被告人らは、いずれもその経歴からみて技術的
知識にうとく、新聞等の報道や戊2の言動から若干の疑問を抱くに至つたとして
も、戊2の発明が虚構であることを見破ることは困難であつたであろう」と説示し
ているが、ここでは、被告人甲1、同甲2、同甲3が電気機械類関係の製造販売を
目的とする会社の重役として、他から非難をうけないように経営上の責任を果した
かどうかが討究されなければならない。
 (イ)昭和三六年二月一七日受付「戊2との電子研究の提携について一と題する
決裁書写(東京高裁昭和四〇年押第七七三号の一のファイル中のもの)及び被告人
甲2の招和三七年四月八日付調書によれば、被告人甲1、同甲2、同甲3らは乙2
社長やその他の役員と共に決裁印を押していること(ロ)乙1の昭和三七年四月八
日付調書、戊2の同月六日付調書、被告人甲1の同月一一日付調書、被告人甲2の
同月八日付調書によれば昭和三六年二月下旬頃被告人甲1、同甲2は戊2が自己の
発明した電子管をつけたものと欺いて提出せる、市販の小型テレビ一台あての交付
をうけ、同年五月五日頃には右両被告人及び被告人甲3は乙2社長や他の幹部と共
に戊2宅に赴き同人の完成したと称する新型式カラーテレビを点見したこと(ハ)
被告人甲4の昭和三七年三月二七日付、同月三一日付各調書、被告人甲2の同年四
月八日付調書によれば、被告人甲4は昭和三六年五月頃から乙2、被告人甲1、同
甲2、同甲3、総務部長の乙1らに対し戊2が過去に電子管を利用した詐欺的な行
為をしており、油断できない男だと警告を発していたこと(二)被告人甲1、同甲
3が昭和三六年六月二〇日には乙10証券取引所を訪ねて試作品を発表すると報告
し、被告人甲2、同甲3から記者団に案内文を手交したことは原判決認定のとおり
であつて、原審証人乙11の第一四回公判における証言及び前同押号の二四の「甲
1の六月二三日付の『乙11常務理事様、今回は不行届にてお詫びします』旨記載
された名刺」によれば、被告人甲1、同甲3らが乙10証券取引所常務理事乙11
に対し、それまで会社としてカラーテレビの研究を否定する虚偽の言明をしていた
ことなどについて陳謝し、同月二三日乙11の留守中、右名刺の詫状をおいてきた
こと(ホ)原審証人戊2、同乙1の各証言及び乙12の昭和三七年一月二〇日付司
法警察員に対する供述調書によれば、戊2の研究場所は会社の寮の戊3クラブであ
つたが、これといつた研究設備はなく、試作品の発表まで戊2の希望するような設
備は設けられず、カラーテレビの組立てとか部品の製作をしたことはなかつたが、
被告人らは右研究所を訪ねたことがあることを認定しうるのである。しかも(ヘ)
乙1の昭和三七年四月八日付調書、戊2の同月六日付調書、被告人甲1の同月一一
日付調書、被告人甲2の同月八日付調書及び昭和三六年二月二三日付「戊2式ネオ
ン、螢光燈、テレビ検討の件」と題する書面(前同押号の三)によれば、昭和三六
年一月上旬会社の技術研究所で会社側の技師陣が立会つて戊2発明の電子管の内容
を実験したところ、その結果は良好でなく、戊2と同研究所技師との間で議論が交
わされたこと、昭和三六年二月以後の会社役員会で技術担当の乙13専務取締役は
戊2発明の電子管は、大きなネオン管には向くが、小さなネオン管には不向きであ
り、戊2の言明するほど良好ではなく、その発明は街の発明家的なものであつて理
論的なものではないと報告批判したが、被告人甲1、同甲2らもこれを了承してい
たことを認めることができる。
 以上の諸事実を綜合して考察すれば、被告人甲1、同甲2、同甲3は共に戊2の
カラーテレビの研究に関係していないとはいえず、たとい技術専門家でなくても疑
念を抱くべき事情がありながら戊2の人物及び経歴の調査、己1の技術陣による電
子管の検討や理論面の研究など、発表に先立つて当然なすべき措置をとらなかつた
こと、従つて右被告人三名は会社重役として、ともども怠慢による責任をもつてい
ることが認定されうるのである。
 従つて原判決の前掲説示部分は、その認定判断において正確とは解し難い。
 (三) 次に原判決は「前叙認定事実の第一の(三)の会社の自己株取得の事実
をみるに、その動機は、株式相場の操縦を企図したことになく、他社の株の買占め
の噂および安定株主を失うことをおそれた点にあり、会社の利益をはかるためとら
れた防衛的手段であつたとみるのが相当である。さらに、会社幹部が株式相場を操
縦した形跡は、全くこれをうかがうことができない。そして右総会における決算関
係議案に、いわゆる粉飾決算その他経理上の不正の存在することも、窺うことはで
きないのである」と説示しているが、問題は、右のような会社の自己株取得が防衛
的手段としてなされたのか、会社幹部が株式相場を操縦したのか、また粉飾決算な
どの経理上の不正がなされたかどうかの真実性を探究確定することではなく、一般
人をして右の事実に疑惑を抱かさせるような状態にあり、従つて株主からその点に
つき総会で追究されるような状況であつたかどうかが検討されねばならないのであ
る。
 後者の経理上の不正については、会社内部のことであつて、特段の事情のない限
り会社外には余りに知られず、従つて総会対策としても特に考慮を要しなかつたで
あろうが(被告人甲2の昭和三七年四月八日付調書参照)、前二者については庚
1、庚2、庚3、庚4、庚5、庚6の各司法警察員に対する供述調書及び庚5の答
申書によれば、会社はその資金によつて昭和三六年六月六日よりカラーテレビの試
作品を発表することを公表した前日頃までの間違法に自己株を取得した(商法四八
九条二号の株式不正取得罪)との懸念を抱かさせるに足る株取得をしたことが認め
られるから、これが表面化するならば、一般株主からその嫌疑につき追及されるに
値する材料であつたことは、いうをまたないのである。
 また会社がカラーテレビを利用して株価の操作をしていたかどうかの真相は問わ
ないにしても、スクラップブック(前同押号の九)によれば、昭和三六年七月一一
日付「辛1新聞」が「同社(己1の意味)内部で株式操作が行なわれていたと勘ぐ
られてもやむを得まい」、同月一九日付「辛2タイムズ」が「証券界の一部には
『会社幹部が株価を操作して私服をこやしたのではないか』という声すらあがつて
いる」「週刊辛3」昭和三六年七月一〇日号が「怪談・己1のカラーテレビ」と題
して「がぜん『これは陰謀だ。己1の幹部が自社株を操作したに違いない』『証券
取引所はペテンにかかつた』等々の声が渦巻くことになつたが、調査すればする程
怪しげな影が揺曳するのはどういうわけか。”突然変異”などという会社側の弁解
ではすまされぬ、その真相をえぐる。」の記事などを出したし、また被告人甲4の
昭和三七年三月二七日付及び同月三一日付各調書によれば、同人は会社幹部がカラ
ーテレビを利用し株の操作をして儲けているとの噂を耳にし、また自らもそれが真
実でないかとの疑をもつていたので、試作品発表会の前に乙2社長及び被告人甲1
に警告を発したことがあり、なおその点を第丙1回株主総会で追及されると一番痛
いと考えていたことが明らかであることに徴するとき、一般株主が会社幹部におい
て株式相場を操縦していたものと信じ、これを株主総会で追及することも(この追
及が総会の議案にあたるか、どうかは、別として)充分に考えうる状勢にあつたこ
とが窺われるのである。
 四 (前同その二、会社株式課長の作成した社長演説原稿作成の検討)
 原判決は不正の請託を認定すべき資料たる前記の各供述調書の記載が措信できな
いとする客観的事情の一として、第丙1回株主総会社長演説原稿及びその作成者で
ある証人庚4の証言をあげて「被告人甲1、同甲2および同甲3において正当な株
主の発言を封じ、または議決権の行使を妨げる意図のもとに、右総会で議案を先議
するよう相図つたうえ、その進行案を右星野に命じて作成させたことを認めること
はできない」旨説示し、右証言は、総会日の一週間ないし一〇日前頃即ち七月一八
日ないし二一日頃に右演説原稿が作成されたと述べているところ、乙1の昭和三七
年三月三〇日付調書四項、被告人甲2の同年四月三日付調書、被告人甲3の同年三
月二〇日付調書六項、同年四月六日付調書によれば、右日時以前の昭和三六年七月
一〇日頃被告人甲2、同甲3及び乙1が料亭「丁1」で被告人甲4を招待して、カ
ラーテレビ問題を議案審議の終了後に説明することを相談したとき、総会議事の原
稿ができていた旨の記載とも矛盾するのであつて、右星野証言をそのまま信用する
ことができない。のみならず、仮に証人星野の供述により、原判示のように「同人
(星野)は会社株式課長として例年の事務手続に則つて右総会の一週間前頃各議案
を審議した後に巷間の噂から多数の人達が関心をよせている戊2のカラーテレビの
発明について社長から説明することとし、その方針のもとに議事進行についての予
定案を作成した」(原判決書六六、六七頁)とするも、このこととは別に前記のご
とく昭和三六年七月一〇日前後頃議案先議の方針が会社幹部の間で議せられていた
ことが明かであるから、星野株式課長の考えが偶々被告人らの考えと一致したこと
になり、別段異とするに当らないのであつて、これをもつて被告人甲1らに不正の
請託をなす意図のなかつたことを示唆する客観的事情とはなしえないのである。
 五 (前同―その三、第丙1回株主総会前における金員授受の趣旨の検討)
 原判決理由第二節の(無罪の判断)の第一「各株主総会前後の会合および金員の
授受」の項で説示するように、関係証拠によれば、被告人甲4に対し第丙1回株主
総会前の昭和三六年七月下旬総務部長乙1が会社内で現金七万円を、右総会後の同
年八月初旬頃被告人甲2、同甲3の両名が東京都港区d第e号地f番地被告人甲4
方で現金一〇万円を各交付し、被告人甲5に対しては株主総会前の同年七月下旬乙
1が被告人甲4を介して同都千代田区g町h丁目i番地株式会社己2内で現金三万
円を、右総会後の同年八月上旬頃会社取締役乙14が同所で現金一〇万円を各交付
し、以上の各金員はすべて会社から支出されたこと、また関係証拠によれば、同年
七月一〇日頃被告人甲2、同甲3及び乙1が同都中央区j町k丁目l番地割烹店
「丁1」に被告人甲4を招待したこと、同月二八日株主総会の直後、会社社長乙2
及び乙1が被告人甲4を同人方に、被告人甲5を前記株式会社己2内に訪ねて右総
会に際しての尽力につき謝意を表明したこと、同年八月四日乙2、被告人甲2、同
甲3が同区m町n丁目o番地料亭「丁2」で被告人甲4を接待したこと、同年一〇
月二一日被告人甲1及び会社取締役乙14が被告人甲5をゴルフに招待し、その帰
途被告人甲3を交えて同区p町q丁目r番地料亭「丁3」で被告人甲5を接待した
ことを肯認することができる。
 ところで原判決(七〇頁)は、右金員の授受の趣旨につき、証拠上、「被告人甲
4が会社の総会の事務を担当していた前記乙1に対して右総会では総会荒しが、し
ゅん動するから、その対策費がいると語り、その結果右金額が特別分として割増し
されたものであり、また総会後における異例の金員交付の事実および謝意の表明は
議事の進行について尽力してもらつた謝礼のほか、困難な総会を無事終了すること
ができた祝意の表明でもあつたとみるのが相当である」と説示している
 しかし原判決の掲げる証拠たる乙1、被告人甲1、同甲2、同甲4の各調書には
総会荒しが、しゅん動するから、そのための対策費がいるとのことで特別分として
割増しされたとの趣旨の記載はなく、右各調書によれば、昭和三六年七月一〇日の
料亭「丁1」における会合で第丙1回株主総会の議事進行について話し合つたと
き、カラーテレビの問題で株主の発言もうるさいだろうから、総会屋に対し、普通
の総会のときよりは特別に多額の金を出すことになつたとの供述記載があり、これ
に乙1の昭和三七年三月二七日付、同月三〇日付各調書、被告人甲2の同年四月六
日付、同月八日付各調書、被告人甲1の同月一一日付調書、被告人甲3の同年三月
二〇日付、同月二七日付、同年四月二日付、同月六日付、同月一二日付各調書、被
告人甲4の同年三月三一日付、同年四月二日付、同月九日付各調書、被告人甲5の
同年四月三日付、同月六日付各調書並びに原審証人乙14、同乙15の各証言を綜
合すれば、昭和三六年七月一〇日頃「丁1」において被告人甲2、同甲3、乙1の
三名から被告人甲4に対し第丙1回株主総会の議事進行の取り計らいを依頼した
後、被告人甲4が会社に何回か赴いて乙2社長、被告人甲1からも右議事進行の取
り計らいを頼まれたが、同年七月二〇日頃会社内において被告人甲2、乙1は甲4
との間に同人の系列及び配下の総会屋に贈る謝礼金などを定め、これを被告人甲
1、同甲3にも報告して承認をうけたのであつて、その金額は通常分、特別分に区
別し、通常分は二〇〇〇円から二万円まで三三名分計一〇万七〇〇〇円(そのうち
被告人甲4二万円、同甲5一万円)、特別分として三六名分、一〇〇〇円から五万
円まで計二四万二〇〇〇円(そのうち被告人甲4五万円、同甲5二万円)であつた
こと、同月二二日頃乙1は会社内において被告人甲4に対し同人及び被告人甲5の
分を含め通常分二九口計一〇万六〇〇〇円、特別分二七口計二二万六〇〇〇円を手
渡し、その他の分は被告人甲3らから直接に当該総会屋に手渡し或は郵送したこと
を認めることができる。
 なお今回の拠出金額と従前の拠出金額を記載した前同押号の一二の封書の金額と
を対比するときは、今回の特別分はその二倍或はそれ以上にあたること、また原判
示(判決書三六頁)のように従来、増資など特別の議決事項のある株主総会であつ
ても、平常支出している謝礼のほかにその五割位の金額を別に渡しているにすぎな
いこと、また原判決理由第二節の(認定事実)の第一の(五)発表後の反響と会社
の対策の項で認定されたように会社側は色々の手段をとつたにも拘らず、戊2から
カラーテレビに関する技術的及び理論的解明をうけることができず、結局一般株主
を納得させる説明をするに足る資料をもたずに第丙1回株主総会に臨まざるをえな
かつた状況にあつたことをも加えて考慮するとき、増額して謝礼供与の趣旨は、原
判決説示の「総会荒しが総会で、しゅん動するからその対策費」として渡されたも
のではなく、新聞、週刊誌の記事などによつてカラーテレビ問題の疑問点を知つた
一般株主が総会で質疑したり、会社役員の責任を追及しようとする場合に、被告人
甲4らが配下系列の総会屋と共に総会を短時間で無事に終了させるためにその発言
を押え、議決権行使に制限を加えることの謝礼であつたとの疑念を起こさせるのに
充分である。
 六 (前同―その四。第丙1回株主総会の議事進行の検討)
 本件の商法四九四条一項一号、同二項違反罪は、株主総会における発言又は議決
権の行使に関して不正の請託をうけた上、財産上の利益を収受し、また右の利益を
供与したとき成立するから、もし株主総会の以前に利益の授受があつたとすれば、
総会で現実にどのようにして株主の発言又は議決権行使を妨害したかどうかは犯罪
の成否に関係ないのであるが、ここでは第丙1回株主総会における被告人甲4、同
甲5の言動を検討することにより、遡つて不正の請託がなされたかどうかを判断す
る一資料としよう。
 原判決理由の第二節の(認定事実)第四、本件各株主総会の模様の(一)第丙1
回定時株主総会の項(原判決書三七ないし四一頁)で認定された事実にもとづき
「その総会では、総会屋たる被告人甲4および同甲5において、会社のいわゆる提
燈もちをして会社議案に賛成演説をし、たくみに議事の進行をはかり、乙2議長は
これに力を得またはこれに促されて議事を運んでいつたものであり、……被告人甲
4および同甲5らの総会屋が右カラーテレビ問題を先きにせよとの株主の発言を頭
から押えつけたり、その他、株主の発言があつた時に、その腰を折り、またはこれ
を弥次り倒したりなどまでして、その発言を封じ、議長も反対意見を無視して、多
数の力を頼んで強引に議事の進行を図るなどの不公正な方法をとつたとは認められ
ない」「カラーテレビの説明会ではいささか常軌を逸した言動が見当らないわけで
はない」と説示している。
 この株主総会の模様については、原審公判で検察官、弁護人申請の各証人を尋問
したが、各証人は申請当事者側にほぼ有利な供述をしているが、右総会における議
長(社長)、総務部長、被告人甲4、同甲5を含む各株主の発言は、辛4新聞社発
行の「辛4新聞」一〇一号、昭和三六年八月一五日号「己1カラーテレビ騒動を衝
く。定時株主総会後の本社速記による顛末記」(前同押号の五〇)が、大体におい
て正確であることが、原審証人乙16の証言に徴して肯定される。
 右の「辛4新聞」の速記録によれば、各株主の発言は、A株主、B株主、以下
C、D、E、F、G、H、Ⅰ、J、K、L、N、0、P、Q、R、S、T、Ⅴ、W
の各株主の発言として示されているが、右発言の内容に、原審証人壬1、同壬2、
同壬3、同壬4、同壬5、同壬6、同壬7、同壬8、同壬9、同壬10、同壬1
1、同壬12、同壬13、同壬14、同壬15、同壬16、同壬17、同壬18の
各証言、当審証人乙17の証言、昭和三六年八月二日付週刊決算二ュース写、司法
警察員乙18作成の捜査報告書添付の「己1株主総会並びに説明会の概況につい
て」と題するレポート写及び第丙1回株主総会出席者名簿(前同押号の一八の一
部)を対比して考察するときは、A株主は乙19、B株主は被告人甲5、Cまたは
G株主は被告人甲4、D株主は壬13、E株主は乙20、F株主は乙21、H株主
は壬5、Ⅰ株主は壬1、J株主は乙22であることが、一応、推察されうるのであ
り、更に右各証拠に当審における事実取調の結果及び押収されている昭和三六年六
月三〇日開催の取締役会議事録(前同押号の二の一部)をも加えて検討するとき、
次のような事実が認められる。
 第丙1回株主総会の会議の目的事項たる第一号議案は、昭和三六年五月三一日現
在の財産目録、貸借対照表及び第丙1期(昭和三五年一二月一日から昭和三六年五
月三一日まで)営業報告書、損益計算書並びに利益金処分案承認の件、第二号議案
は取締役全員任期満了につき改選の件、第三号議案は退任取締役及び監査役に対し
慰労金贈呈の件であつた。この総会は、カラーテレビに関心をもつ多数の株主、被
告人甲4の配下の総会屋、報道関係者、証券会社員らが三〇〇名をこえて出席し、
相当数のものが会場の椅子に腰かけられず、立つている状況であつた。
 議事の状況は(一)議長の挨拶から議案審議に入る以前の段階(二)議案審議
(三)カラーテレビ説明会の一二段階に分けられるが、(一)の段階で午前一〇時
すぎ議長の会社社長乙2が挨拶の後、これより営業概況について報告申上げたい
が、予めご了解を願いたいのは、本日の議案終了後にカラーテレビの件の説明をし
たいと述べたところ、反対賛成の声があり、乙19から、カラーテレビの問題に関
連して会社経営陣の不信任案を動議したいので営業報告の前にカラーテレビの説明
をされたいと述べたところ、被告人甲5は「ただ今、株主から動議があつたが、私
の意見を述べる。この日本の学者は技術家と称する者も、私はあまりにも偏見性が
あるんじゃないか。これは日本の学者だけじゃないんです。これは古い昔にさかの
ぼると、コロンブス(コペル二クスの誤記であることが明かである)が地球はまる
いということを唱えたときに(「簡単々々」の声あり)学者はこれを否定したんで
す。気違い扱いしたんです。しかもそれをたつた一人、是認した学者は投獄された
というような事実がある。それにもかかわらず今日ではこれを否定する者は一人も
いない。しかしながら、それをその当時唱えた学者が一人で自分の責任を問うたこ
とがない。これは昔の話でありますが、今日の科学はどうか。たとえば年中使われ
ておりまするところの〃ウリのつるにはナスビはならぬ〃これは日本のどつかの国
で、きようも唱えられている筈であります。ところが今日では立派にウリのつるに
ナスビはなるんであります。しかもこの水と油は絶対に融合しない、これも耐面合
成剤の研究によつて十分可能なことが発明された。にもかかわらずこれを訂正しよ
うとしない学者はーこれはもちろんマスコミの罪にもあると私は思う。要するにも
少し学者、技術者というものは、この相手方の研究に対する(「簡単々々」の声あ
り)……認めていただきたい。そうすれば今日当社は多少の会社の経費を使つて、
いろいろな研究をしたところで、これをとがめるのが間違つている(失笑)。たと
えば炭鉱会社は(「簡単々々」の声あり)、もう少し聞き給え。……探鉱費という
ものに経費の大部分を費している。これは全部が全部成就しない。その研究費用が
全部モノになつたら(「簡単々々」の声あり)、どこも損する会社はない。こうい
うことを十分私は学者ならびに株主諸君も考えていただいて、そうして、いまこの
問題が成功するかしないかまだハッキリされていない。一大発明になるかわからな
い。それまで私は十分と育てるように、この発明が実るように私は協力していただ
きたいということを申し上げたい。たとえば議案でありますが、ただいまからこの
問題について議案をあとにせいというようなことでありますが、今日も第一議案と
して提案されたこの議案は安定配当として一割五分持続して、株主としては文句の
ないところです。これをいまそういうことで遅らされるということになると、明日
から配当金がもらえないという結果になる。だからその問題は先ほどの提案の通
り、あとで十分ご説明なさつて、そうして第一号議案はどうか一つ(「簡単に簡単
に」の声あり)上程していただきたいと思います。(「異議なし」「採決」の声あ
り)(拍手)」と述べた。
 右の発言に対して前記栗原は再び営業報告をする前にカラーテレビの説明をする
ように反駁したが、被告人甲5は「ただいまの株主は、要するに(発言する者多
く)……というような話でありまするが、今日この再選にあたつても委任状はすで
に六〇%になつている。そうしておそらく今日これだけ多数の出席株主のなかでも
大部分は経営当局を信頼していると私は考えるのであります。そしていまの株主が
どうおつしやられようと一号議案に移つていただきたいと思います。(拍手)」と
述べ、議長は「それでは議案に入れていただきます」(「議長々々」という者多
し)といつて議案の説明に入ろうとし、被告人甲4も、議案を先議すべきかどうか
については出席の株主に対し番号順をもつて順次に賛否を述べさせてはどうかとの
意見を申し出た。
 このとき二〇〇〇株の株主で公務員の壬13が「いまのカラーテレビの問題で私
は関心をもつてきたのでありますが、これの会社側の弁明にはかなりの時間を要す
ると私は思います。それに関係のない内容の第一号議案と第二号議案は、これはカ
ラーテレビと無関係でありますので、この議決を先にしていただいて、そのあとで
カラーテレビに関するところの会社側の所信をはつきりしていただいて、そうして
それから第二号議案の役員改選の件というものを最後にやらせていただきます。カ
ラーテレビの問題如何によつては、この問題は相当に私は時間をくう余地があると
思いますので、順序を一号議案、三号議案を先にすましていただいて、それからカ
ラーテレビのことについて会社の所信を明らかにしていただく。それからこの二号
議案、これをやつていただきたいと思います」と述べたが、被告人甲5は「いまの
株主の提案でありますが、おそらくそんな例はほかの株主総会にないんです。そし
て何百人の出席者があるし、一々ここで……要するに議長が判断して議長の権限に
おいて賛成が多数と認めるという場合には、どうぞそれに押し通して下さい。それ
でないときようの総会はまとまりませんから。(拍手)」と述べ、乙20なる株主
もこれに賛成して午前一〇時二〇分頃議事に入つた。
 (二)の段階に入つたところ、議長の第一号議案の説明に対し乙21がカラーテ
レビの試作研究費はいくらかとの質問を発し、議長は「約六〇〇万円でございま
す」と答え、被告人甲5は「ただいまの営業の概況によりまして十分了承せられる
と思います。暑いときでもありますし、まだこれから何時間カラーテレビの説明が
あるか分りません。議案は結構な議案でありまするから、このまま賛成して可決し
たいと思います。まず監査役の監査報告をお願いして賛成したいと思います(「賛
成」の声あり)。」と述べ、監査役の報告後、議長は第二号議案を説明し、任期満
了による後任の取締役全員の選任方法はいかがいたしましようか」と問うたとこ
ろ、被告人甲4は「これは候補者名簿を頂戴しておりますので、私どもはこの候補
者どおり……選任の方法はまず議長は御留任を願つて、他は議長の指名によつて…
…(「賛成」の声あり)」と述べて、議長は第二号議案を終了せしめて、第三号議
案を説明したところ、被告人甲5は「提案の理由につきましては、ただいま詳細な
説明がございまして、まず増呈するということに決定したいと思います。しかして
これの増呈方法、その金額、時期、方法一切をあげて取締役会にお任せいたしたい
と思います。どうかしかるべく、ご丁重にお願いいたします(拍手)」と述べ、議
長は「ありがとうございます。……三号議案は完了いたしました。ではこれをもち
まして、本日の議案の審議の全部を終了いたしましたので、総会はこれで閉会とい
たします(拍手)。ありがとうございました」と閉会挨拶をした。
 (三)のカラーテレビ説明会の開会の挨拶は、午前一〇時三〇分頃議長席をおり
て説明者の席について乙2社長によりなされたが、被告人甲4は「遺憾ながら私は
電気のことはまるつきり知らない。ことに発明者(戊2を意味する)が会場に見え
ないのだから、しろうとの説明より本物をみて、そうして発明者自身の説明を願え
ば分る。NHKの時間の都合で本物を見せていただきたい。そうするとよく分る。
話しだけではどうもよく納得できない。(「賛成々々」の声あり)(拍手)専門家
でない人が説明をなさるということは……」と述べると、「馬鹿やろう。何をいう
か」「じじい、引つこめ」との騒然たる野次がとび、甲4は「あんた方は専門家だ
からよく分るだろう。よく聞いていきな」といつて他のものと共に退場した。
 説明者席の社長は「ちよつと、いまのご発言はよろしゆうございますか。われわ
れは、われわれとして考えがあるわけでございます。いまどうも……。だからお話
を申し上げまして、それから只今色をみたらどうかという御提案もございました
が、これも夜になりまして……いろいろの支障もあることと存じまして、現在まで
のカラーテレビの経過を御報告を申し上げたい、こう考える次第でございます」と
述べて、カラーテレビの発明者たる戊2を他人から紹介され、会社の嘱託として研
究に従事せしめた経緯、会社の株価がカラーテレビ試作の噂のため高昇したこと、
カラーテレビ試作発表会とその後の模様、カラーテレビに関する理論を公開しない
のは発明者保護のためであり、これにつき特許がえられると理論を公開するが、企
業化までには、未だ道が遠いことなどを詳細に述べたところ、被告人甲5は「これ
はあなたが、随分うまいこと説明されましたけれども、何といつたつてあなた方に
少し早まつた点がある。これはちよつと軽率だつた。これだけは今後もあることで
すから、一つ注意してもらいたい。あんまり暑いので、そんなところで……」と述
べた。
 続いて壬5ほか二、三の株主から、戊2の発明は特許がおりたかどうか、六月二
八日の試作及発表は時宜を得なかつたのでなかつたか、週刊誌によれば社長の子供
ないし会社関係の人が株相場の変動に乗じて株をやつているとの記事があつたが真
実かどうかの質問を発し、これに対して社長は「先ほどの中で戊2の発明発表の時
期が早かつたんではあるまいかと、こういうお話しです。これは私も今の戊2さん
とよく相談をしたわけでございます。もう少し慎重にやればよかつたとこう思いま
す。これはこの席をお借りしましてお詫び申し上げます。それからその次に特許が
出ていないんじゃないか、こういうお話しですが、これは、私は拝見いたしており
ます。八件の特許をお出しになる予定でございました。五件出ておりますが、あと
の三件は非常にいろいろなゴタゴタが出て参りましたが遅れております。先ほど申
しましたように戊2は今も特許書類を書いております。……それから、もう一つは
会社に対する疑惑でございます。ことにまあ、私の子供が株をやつておると、こう
いうようなことも週刊誌で拝見いたしましたが、私は甚だ残念なことでございまし
て、そういうことは決してございません、会社の内部でも誰一人やつているものが
ないことを、声を大にして申し上げます(笑声)(「あつたらどうする」「必要な
い」などの声あり)」と答えた。
 それから乙22、乙23らより「当会社は国鉄からの落武者落伍者、たとえば乙
24という常務のごときものを集めているが、こういつたことが、今日にいたつた
発端の原因だ」「人身攻撃はやめよ。株主は配当さえ保障されれば、それで十分
だ。会社は一割五分の配当をするといつているのだ。反対者の発言はカラーテレビ
を信じようとしない連中であり、賛成者は信じているのだ」、壬5は「こういう事
態を醸成したのは、取締役会の責任である。だからこういう結果になるんで、こう
いうことは今後もあることですから、外部に対する発表については大いに慎重に
し、少くとも発表した段階においては、何が起こつても……という信念のもとに取
締役としては発表してもらいたい。これ以上やりましても無駄だと思いますから、
このへんで御閉会願いたいと思います」と述べ、社長は「戊2の発明を信じている
からやつているんです」と答えた。
 被告人甲5は「たとえば再三触れたように活性剤なんてのは三年間研究して漸く
にして分りかけたような程度です。半年や一年で結論は出ない。そこでもちろんあ
なた方は……(「その通りと思うんです」という声あり)そこであなたがー会社が
株主の信頼をえて代表者になつておるんだから、どうしても手がけた問題は必ずな
しとげてみせるということーこれは必要だと思う。これは株主から申しますと、あ
なた方経営者に全部責任を負わすということは残酷だと思う」と述べた。
 他の株主の発言に対して、社長が「実際整理いたしますと、まだ特許で申し上げ
かねる点が相当ございますので、それをここでいえと、こうおつしゃつてもなかな
かいえないもんでございます」と答えるや、被告人甲5は「これは技術の問題もあ
るけれども、私が―きよう皆さん方は株で損した人が非常に……この問題だろうと
思う。(笑声)そこで私は先ほどからも当社の株価の問題が出ているが、当社の株
が三〇〇円以上というのは、これは不思議でしようがない。一体どこに三〇〇円と
いう値打があるのか。(「カラーテレビの問題……」という声あり)そこで三〇〇
円以上のーこれから先三年五年後の増資を含んだ値段か、これはあとのこと―これ
から先のことで、これをおり込んで三〇〇円以上している……技術の革新とか、四
〇〇円も五〇〇円もいくというようなことは、普通の投資家のやることじゃない。
……いちかばちかの一六勝負やつてる。こんな責任を一々会社へもつてこられたら
……(「その通り」「下らん議論聞きたくない」などの声あり)一〇〇万に一本し
か当らない宝くじを買つて……(「株式の大会じゃないよ」など発言するもの多く
場内騒然)」と述べた。
 社長は、戊2の技術についての質問に対して「戊2さんの技術は信頼いたしてお
ります」と繰りかえし答え、株主より、戊2は会社の嘱託になつているが、パテン
トはどこに帰属するかとの質問に対し、「戊2個人に帰属する」と答え、カラーテ
レビの説明をするや、被告人甲5は社長に対し「あなたは最前から技術的な問題を
盛んに答弁しておられるんですが、ここへ来ておる人はどういう人たちかあなたよ
く分つてますか。これは要するにスパイですよ、あんた(笑声)(「スパイとは何
だ、スパイとは」など方々から発言する者多く場内騒然)そういう人もいるんだ。
(笑声)何とかこの事実を……(「スパイとはあんただ」「それをあんた揚げ足を
とつて」「揚げ足じゃない」「スパイとはお前だろう」など発言者多く場内騒然)
一々答弁していたら大変なことになる」と述べ、乙22より「限られた時間ではあ
りましたが、それぞれの方が代表的に開陳されたと私はこう思います。そうしてあ
と残つた問題はむしろこれは派生的な問題ではないかと思いますので速やかに一応
閉会なさつてもらいたいということをお願いいたします」と述べ、社長も閉会しよ
うとしたが、閉会に反対の声があり、社長は「これ以上は特許の問題にかかつてお
りますので、その特許を受理されましたら公表いたしますと、こう申しております
ので、だから只今ここで色々と御議論がございましたり、或は御不審がございます
が、それを我々が今一つ一つ申しあげるわけにはいかない。だからこれで大体終つ
たんじゃないかと私は考えたんです」と述べ、場内騒然たる中に、戊2の発明研究
を当初、援助していた壬1が立ち上り「戊2の発明したカラーテレビは絶対に信頼
できる。学者の間にも批判している人もいます。私たちが己1と結んでいるため
に、ある学者は大メーカーのために賛成することができないのであります。嘘だと
思うなら、新聞雑誌をみてごらんなさい。全部、裏をかいているんです。これは己
1から秘密を盗もうというのも、マスコミに入るんです。(拍手)(中略)私たち
は『君たちがそんなに欲しければ一〇億の金を積んでこい』というほど確信をもつ
ておりますから、あとは己1さんがその事業を速やかに事業化するかという問題で
あります。それしかないのであります」と述べた。
 株主壬2が興奮して(この人は僧侶であるが、かねてカラーテレビを研究してお
り、六月二八日に開催の戊2のカラーテレビ試作品発表会に出常して、戊2の発明
に大きな疑問を抱いていたもので、知りあいの株主から委任状をもらつて出席して
いた)、「あんなインチキ品はない。あんなものに会社は投資するのをやめよ。私
は公開当日この目でみたのだ。己3製のものと全く変らない」と述べると、他のも
のが「お前は己3製品とあのテレビを同時にみたのか。何をもつてインチキ呼ばわ
りするのだ。お前は株主なのかどうか」と発言し、乙部は「私は株主だ。己1を愛
するが故にいうのだ。私は一、〇〇〇株もつている」と答えるや、前列の株主席の
もの数名が乙部の傍らに来り「一、〇〇〇株ばかりで大きなことをいうな。お前が
当日現物をみてインチキだと思つたなら、なぜあの日に株を手放さないのだ。三〇
〇円で引きとつてやるから持つてこい。お前はどこかのヒモだろう」と罵倒し、騒
然たる中に総務部長の乙1が「いろいろ論議はつきないこととは思いますが、社長
は決して皆さんに公開しないと申しているのではございません。特許手続中のた
め、現在はこれ以上申しあげかねるといわれているのです。特許が済み、企業化の
検討が終り次第、皆様に納得のいくようお知らせすると申し上げているのでありま
す。午後続行との御意見もありますが、この会場の借用時限は一二時までとなつて
おりますので本日はこれで散会といたしたいと存じます。本日はお暑い中を多数御
出席下さいまして有難うございました」と述べて閉会となつた。
 大体において総会の状況を以上のように認定しつるのであるが、この事実のほか
に前記証拠に現われた被告人らの言動を加えて考察するとき、被告人甲4、同甲5
は、かねての打合せのとおりに議案を先議し、その後にカラーテレビの説明会を開
くとの議長の演説原稿のとおりに議事を進行させる方針のもとに、他の同系列の総
会屋と共に総会に臨んだが、議場は平生の総会とは異なり終始異常な緊張した雰囲
気に包まれ、屡々々発言の如何により騒然となつたが、特にカラーテレビ説明会で
は、緊張の度合が強かつたこと、被告人甲4、同甲5は議長席に向つて中央の右手
前方附近の座席に双方が若干離れて位置し、甲4は座席から合図を送り、また配下
の総会屋と共に適切な言葉を発して議事進行を促し、或はカラーテレビ説明会の冒
頭に捨て台詞を残して退場したり、一方被告人甲5は、他の株主からの簡単に述べ
るようにとの発言を無視して長広舌を振い、他の気勢をそぎ、巧妙な言葉をもつて
議長(説明会では社長)の答弁を支持援護し、一般株主の発言にスパイ呼ばわりを
したりなどし、予定の午前一二時の会場借用時間切れを合図に閉会に持ちこんだこ
とが窺知されるのである。
 もつとも前述のごとく一般株主たる壬13、壬2らほか数名の発言、また乙1
9、乙21の発言を許しているけれども、これは被告人甲4らが総会の異常に緊張
した雰囲気に照らして、会社に不利な、すべての発言を頭から拒否するとの方法を
とらず、ある程度の発言、質問はやむを得ないものとしてこれを許容しつつ予定の
時間内に総会を終了させようとしたためであると推考しうる余地もあるので、右の
ような発言、質問がなされたとの一事をもつて前記認定を左右することはできな
い。 かくて認定事実に徴すれば、被告人甲4、同甲5らは株主としての本来の正
当な発言または議決権の行使をする意図はなく、これらの発言に名を藉りて、即ち
株主権を濫用して発言をし、議事進行を相当に強引に図つたものというべく、(こ
れは単なる議事の進行係、世話役ないしリーダー役としての範囲を逸脱しているこ
とは明かである)原判決の「不公正な方法をとつたとは認められない」(判決書六
八頁)との説示は誤断と解すべきである。
 七 (前同-その五。第丙1回株主総会後における金員授受の趣旨の検討)
 前示五の(前同―その三。第丙1回株主総会前における金員授受の趣旨の検討)
で述べたごとく、原審はその挙示する関係証拠から推して「総会後における異例の
金員交付の事実(被告人甲4、同甲5に対し各現金一〇万円を交付したこと)及び
謝意の表明は議事の進行について尽力してもらつた謝礼のはか、困難な総会を無事
終了することができた祝意の表明でもあつたとみるのが相当である」(原判決書七
〇頁)と解したけれども、このように総会終了後に金員を贈つたことは、原審証人
乙14の証言、被告人甲2の原審公判における供述に徴するも全く異例ということ
が窺われるし、通常の総会に際しては被告人甲4の二万円に対し被告人甲5は一万
円であり(この点は関係証拠により認定された原判決理由の第二節「認定事実」の
第三事実参照)、第丙1回株主総会で増額するに当つても、被告人甲4は五万円、
同甲5は二万円と差等のあつた両名に対し、同額の各一〇万円が供与され、また総
会無事終了の祝意ならば他の総会屋にも供与されることが考えられるのに、特に右
両名にのみ供与されたのは、前示六の第丙1回株主総会における被告人甲5の発言
挙動の効果を大きく評価すると共に、甲5以下の総会屋を使つて、予定のとおりに
総会乗切りを果した被告人甲4に対し特に不正の請託をなしていたものであつて、
この供与も右請託に伴う報酬といわざるをえない(総会前における金員供与とその
後におけるそれとの支出の形式手続が異つていたことは、両者の本質の差異を示す
ものではない)。しかも被告人甲5の発言は前叙のごとく、カラーテレビ問題を解
明して会社の経営状態を明らかにした上で役員選任の可否を決したいとの株主の発
言をしりぞけ、そのため役員選挙に際し議決権を行使するに当り、その判断資料と
なるカラーテレビ問題についての会社側答弁をさせずにすませたのであるから、そ
の謝礼が不正の報酬となることは、被告人甲5も明らかに認識していたことが予想
されるのである。
 八、 以上の検討により、原判決が前示一の乙1及び被告人五名の検察官に対す
る供述調書の記載を措信し難いとする背景として認定説示した客観的諸事情は、い
ずれもその認定に誤りがあり、又はその評価が失当であるといわねばならず、かえ
つて右各調書の供述記載が客観的諸事情にも合致し措信するに足ることが明かとな
つたといわねばならない。
 従つて乙1及び各被告人の検察官に対する供述調書及び如上の、措信すべきもの
として引用した各証拠を綜合すれば、本件第丙1回株主総会関係の公訴事実は優に
これを認定しうるものというべく、これを否定した原判決はこの点において判決に
影響を及ぼすことの明かな事実誤認があるものといわなければならない。
 前同控訴趣意第二点(事実誤認について)の第二(第丙2回定時株主総会関係事
実)について
 一 (被告人五名の検察官に対する供述調書に関する原審の証拠判断の検討ーそ
の一。第丙2回株主総会を迎えるまでの客観的事情)
 原判決理由の第二節(無罪の判断)の第二「株主総会における発言または議決権
行使に関する不正の請託の有無」の「(二)第丙2回定時株主総会」の項の(1)
の中で(原判決書七四頁一行目から七五頁四行目まで)、その列挙する証拠によれ
ば「乙2社長辞任後、社長事務を代行していた被告人甲1、新たに総務部長の事務
をとることになつた乙25が前記『丁4』において被告人甲5に対して『今度の総
会にはよろしく』といい、また被告人甲3、右甲2および乙25が前記『丁5』に
おいて被告人甲4に対してやはり『総会のことはよろしく』といつて、右総会の議
事進行方についての協力を依頼したこと、そして被告人甲1から被告人甲4および
同甲5に対して右総会の冒頭でカラーテレビ問題について会社幹部に不手際のあつ
たことを株主に対して陳謝する方針である旨を伝えていることを認めることができ
るけれども、そのほか具体的事項にわたる明示の依頼があつたことを窺うことはで
きない」と解し「右のような依頼の動機ないしはその真意はどこにあつたか、さら
に総会屋の協力を求めた理由はどこにあつたかを考察し」「この点に関する証拠を
みるに、被告人甲1の昭和三七年四月一一日付調書および同月一四日付調書三項、
被告人甲3の同月一二日付調書、被告人甲4の同月二日付調書(後綴りのもの)二
項ならびに被告人甲5の同月九日付調書八項および九項の各記載は、一応すべてを
網らしてはいるが、かえつて重点を促え難く、被告人甲1および同甲3が被告人甲
4らの総会屋に依頼した真意を掴むことはむずかしく、他の証拠や諸事情に徴し
て、これを判断しなければならない」と説示して、各種の諸事情および証拠を考察
し「全証拠をもつてしても、本総会における他の株主の議決権の行使を妨げる旨の
不正の請託の存在を窺うことはできない」との判断を加えている。
 当審は前記の第丙1回株主総会に関する客観的諸事情について原審の加えた認定
及び判断を批判して、これに反する認定及び判断を加えたのであるが、この認定、
判断を前提とし、また原審が関係証拠により原判決第二節の(認実事実)の第一
「(六)その後における戊2との交渉等」において判示した事実のうち「昭和三六
年七月二八日に開催された第丙1回定時株主総会後においても、会社は戊2に対し
特許申請手続を了したうえ理論的解明するよう要求しつづけたけれども、戊2はす
でに同年六月七日特許庁に対し『電子管を使用したテレビにおける電源回路方式』
と題する特許出願をしたのをはじめ同年七月二四日までにカラーテレビに関する合
計五件の特許出願をしたのに、会社に対して言を左右にして技術的解明に応じなか
つた。ここに至つて、会社では同年(三六年)一〇月三一日もはや戊2を信頼する
ことはできないものとして、戊2との契約を解除し、乙2社長はカラーテレビ問題
の責を負つて同年一一月二八日社長を辞任した。なお同年一月から七月末までの間
に会社から戊2に対し研究手当ほか特別研究費、貸付金等の各目で支出された金額
は合計約金八〇二万円に達した。そして株価も旧に復したので乙10証券取引所は
同年九月一八日をもつて前記各措置を解いた。同日の株価は二〇四円となつてい
た。……しかし昭和三七年二〇日会社および会社役員宅は、警視庁により戊2に対
する証券取引法違反等被疑事件について捜索差押を受けた」との事実、また会社が
戊2を信頼することができないものとし、昭和三六年一〇月三〇日付をもつて戊2
との契約を解除した以後の、次に示す新聞、雑誌などの報道、評論記事の内容、こ
れにより会社の株主がうけたであろう精神的動揺、その動揺を配慮したうえ、会社
側がとつたであろう第丙2回株主総会対策を予想しつつ、原判決のなした供述調書
に対する証拠判断を検討しよう。
 原記録によれば、右の会社が戊2との契約を解除した日以後の、新聞雑誌等の反
響記事としては(イ)昭和三六年二月一二日付辛5新聞の「兜町の怪談・テレビ騒
動」「カラーのカラはからつぽのカラ。躍つた街の発明家。己1、新分野への夢破
れる」「大衆投資家は泣く」と題する六段抜きの記事(ロ)同月二日付辛6新聞の
「己1のカラーテレビついに立ち消え」「契約を打ち切り発明者戊2氏に通告」の
記事(ハ)同日付辛5新聞の「幻のカラーテレビ、己1、新発明あきらめ戊2氏と
関係断つ」の記事(二)同日付辛7新聞の「戊2氏のカラーテレビ、事実上の二セ
モノ」「己1が縁を切る、内容公開をこばむ信頼できない発明家」の記事(ホ)同
日付辛5新聞(夕刊)の「結局、踊らされた!己1のカラーテレビ。社長ら、責任
で退陣へ」の記事(ヘ)同日付辛6新聞の「己1かぶとをぬぐ」の記事(ト)同月
三日付辛5新聞「辛8」欄の「十万円のカラーテレビということで、真偽をめぐつ
てジャーナリズムをにぎわした己1のカラーテレビは同社が発明者といわれる戊2
氏との契約を破棄したことで、結局二セモノということを認めたことになつた。…
…しかし軽率な経営者の責任はあとを引きそうだ。……大衆投資家は同社の株でど
れだけ損をしたことだろうか。同社が一流会社であり、投資家は会社の格を信じ
て、大切な金をなげ出しているのだ。経営者の責任は重大である」の記事(チ)週
刊雑誌「辛9」一一月一九日号二三頁の「やつぱり二セものだつたか―己1カラー
テレビ騒動に幕」の記事、特に「己1が戊2氏より受けた損害は約一八〇〇万円と
いわれているが、その戊2氏を告訴しようとしない同社の態度も、フシギといえば
フシギである」の「記載(リ)「辛10」九月号三四頁以下、四九頁「己1カラー
テレビの真相。企業では”犯罪の裏に資金繰りあり”己4(証券株式会社)の演出
とその成功」の記事(ヌ)「週刊辛11」一一月一七日号八頁以下「”色”づかな
かつたカラーテレビ。科学に弱かつた電機会社の話」の記事(ル)「辛12」九月
号六二頁以下「己1事件の社会的責任を問う」の記事が挙げられる。もつともこれ
らの記事報道は、会社が戊2に対する嘱託を解除した後ではあるが、乙2が社長を
辞任する以前のものであるため、辞任後はどのような反響があつたかについては特
段の記事がないため一考を要するが、例えば(ヌ)の週刊辛11の記事の中には
「納まらぬ一般投資家」「経営者の総退陣も」の項に「乙2社長は『新製品の発表
会といえば、当然、理論的解明をすべきところを、自分の軽率さから、株主の皆さ
まに、たいへんなご迷惑をおかけした。経営陣の進退は一月開かれる総会に一任し
てある』と株主にクビを預けたかつこうである。こんどの契約打ち切りを進言した
のは、株主の甲4氏(被告人)だ。『一〇月三〇日、社長が会いたいというので行
つたところ、戊2氏から製作を一任してくれ、と申し込まれて弱つている、という
話だつた。そこで、わしは、いまさらそんなバカな話があるか。一日も早く手を切
り、世間に発表すべきだ。次の総会も近づいている。このまえの総会でヤジつたの
は、うまく売り逃げた連中で、攻撃力も深刻じゃなかつた。が、こんどはそうはい
かん。被害者が総攻撃を加えてくるだろう。重役を左遷したくらいではダメだ、と
いつておいた。株主にいわせると、臨時総会を開いて総退陣を迫るか、戊2につぎ
込んだ、株主のカネ一〇〇〇万円を個人弁償するか。とにかく手を切つただけでお
さまるもんじゃない」また「くい物にされて血の叫びを上げている一般投資家の気
持ちがこれで納まるものでもあるまい。一月の株主総会までにまだまだひと波乱は
まぬがれそうもない」などとあるのをみると、社長の辞任によつて一般株主の関心
が薄らいだと解するのは早計であろう。
 二 (前同―その二)
 被告人甲1の昭和三七年四月一一日付、同月一四日付各調書には、被告人甲1が
第丙2回株主総会においてもカラーテレビの問題で荒れることを予想し、責任の一
半をになう自己が初めての議長であるだけに一層、総会における株主の質疑や発言
に対して如何に処置するかを心配し、そのような発言のないように議長としては総
会の冒頭に株主に陳謝して低姿勢をとりつつ、一方被告人甲4、同甲5らによつて
総会をリードして貰うことを依頼したとの記載、被告人甲3の同年四月七日付、同
月一二日付、同月一四日付各調書にはカラーテレビがインチキだということで、昭
和三六年一〇月戊2との嘱託を解除したことや、戊2に合計約八〇〇万円の研究費
を支出したこと、損をした株主が出席すること、戊2の件で乙2が社長をやめたこ
となどで第丙2回株主総会は相当に荒れると予想されたので、三七年一月一〇日頃
の決算役員会で総会の冒頭に陳謝の意を表し、また乙2前社長が責任をとつて辞め
たことを発表して議事に入ることを決め、その頃被告人甲4が来社したとき被告人
甲1、同甲2、私、乙25総務部長同席で被告人甲4に対し役員会で相談したこと
を話したところ、同人も低姿勢で総会を乗り切ろうといい、同月中旬同人を甲2、
私、乙25で新橋の割烹店「丁5」に招待したときは、総会の議案をみせてよろし
くと願い、総会の詳しい打合せをしなかつたけれども、甲4はすべてを了解してく
れた、同月二〇日前頃被告人甲5が来社したとき、甲1、私、乙25が会い、前記
のことを依頼したとの記載、被告人甲4の同年四月二日付、同月九日付各調書には
「会社は戊2との契約を解除し、その後、乙2社長は辞職したが、このことは会社
のインチキテレビに金を出していたこと、また巷間噂されていたように会社幹部が
戊2のインチキテレビを利用して株価をあふつていたことも裏付けされたような形
になつたから、たとえ乙2社長がやめたところで丙2回株主総会はテレビ問題の追
及のために相当荒れるものと思つた。昭和三七年一月中旬『丁5』で被告人甲2、
同甲3及び乙25総務部長から、今度の総会は相当に荒れると思うからよろしくお
願いしますと頼まれたが、それは一般株主の追及を押え、総会の議事を無事に終了
さして欲しいという趣旨の依頼であることは、私には判つたが、私も『前の総会は
抜け殻のような株主(株を他に売つたが、名義書換の関係上、総会に出る権利だけ
が残つている株主)が多かつたので無事にすんだが、今度は損をした株主がきて真
剣に発言するから、相当荒れるだろう。果してうまくこれを押えることができるか
どうか約束はできないが、努力して総会を無事にすますようにする』といつてその
依頼を承知した」「第丙2回株主総会の二、三日前私が会社に行つたとき、被告人
甲1と総会のことを話したが、同人は今度の総会も当然カラーテレビの問題で荒れ
ると思うが、私は冒頭で株主に陳謝する積りだから、よろしくお願いしますといつ
たので、私もあなたは新米の議長だから、テレビのことはできるだけ丁寧に謝つて
答弁したがよい、後は私が何とか努力して総会を無事にすますようにするといつて
おいた」との記載があり、また被告人甲5の昭和三七年四月九日付調書には「同年
一月一二日私は被告人甲1、壬5らと相模カントリーにゴルフに行き、帰途横浜市
内の料亭『丁4』で、すでにきて待つていた被告人甲3も加わつて私と御喜家が御
馳走になつたが、甲1から宴会の席がゴルフの間に今度は自分が総会の議長をしな
ければならないが新米だからよろしくと頼んだので私は、ハイハイと答えた。私も
いろいろの会社の総会にも出て総会前に招待されているが、そんな席で私らに露骨
に総会の議事運営のことを依頼したりなどしないし、特に社長とか専務がそんなこ
とをあからさまに話題にすることはない。そんなことは口にしてハッキリ頼まなく
ても充分に分ることである」「私は第丙2回株主総会は丙1回株主総会よりも問題
があり紛糾すると思つたが、その理由は第一にカラーテレビの問題で会社側にミス
のあることがハッキリしたこと、第二にカラーテレビ問題にからんで会社が不正の
疑があるという点で警視庁の捜索差押を総会の一〇日前にうけたためである。総会
では株主から質問続出し、役員全体の責任追及も行われ、とても無事に総会はすま
ないと思つたが、こうなつた以上は、ある程度株主らにいいたいことをいわせなけ
れば収拾がつくまいとみていた。しかし従来、私が総会に出席し面倒をみてきた会
社であるし、前の総会後いろいろ交渉もあつたし、甲1からも初めての議長だから
といつて頼まれてもいるし、会社の信用が失墜するような形で終わらせたくない、
議案が全然討議できなくて流れたりするようなことになつてはいけない、なんとか
少し荒れても総会を成立させ議案を通してやりたいという気持であつた。ある程度
いわせたところで私も立上つて事態を収めて決議に持ちこむような適宜の発言をす
る考えだつた」との記載、被告人甲2の同月八日付調書には「昭和三六年暮頃から
会社役員の間では第丙2回株主総会にあつては戊2との契約を解除し乙2社長も辞
任し、戊2のテレビ問題で全面的に非を認めた訳であるので、株価が下つて損をし
た株主もいて、前期の総会に比べて一層荒れることが予想され、そのときと同じ問
題で株主の追及をうけるに違いないとの話が出ていた。昭和三七年一月上旬被告人
甲3及び乙25と共に『丁5』で被告人甲4と会い前と同じように総会のことをお
願いし礼金は昨年と同じように定めた。……被告人甲4は前記総会と違つて今度は
損をした株主が真剣に追及するから総会は大変だといつていた。それから数日後の
一月二〇日会社は警視庁の手入をうけたので総会は更に波乱が予想されたが、被告
人甲4、同甲5、癸1会の癸2が出席したので予想より遙かかにおだやかにすん
だ」との記載があるが、これらの各調書記載の間に脈絡を欠いたり重点を促え難い
点はないのであり、前示認定の第丙2回株主総会を迎えるまでの客観的事情と対比
してみるとき、これらの供述調書の内容は措信すべきものと解されるのである。
 原判決は会社幹部より被告人甲4、同甲5らに対して具体的事項にわたる明示の
依頼があつたことが窺うことはできないと述べているが、前掲各調書によつて明か
なように、被告人甲1は、甲4、甲5に対して今度の総会では自分は新米の議長だ
からよろしく頼むと述べているが、慣例上、甲1のような社長代行の専務取締役か
ら甲4、甲5らに対して総会の議事運営を具体的、詳細に依頼しないのみならず、
甲2、甲3、乙25らより甲4に対して「丁5」で総会の議案をみせて運営を依頼
していること、他方被告人甲4、同甲5らにおいても第丙2回株主総会で株主から
追及される虞れのある事項は前回の総会と同様にカラーテレビの問題であることを
了承していたのであるから、甲1から総会について「よろしく頼む」との依頼をな
し、しかも会社側の方針は前の総会では「議案先議」であつたが、今回は「冒頭陳
謝」であるということさえ伝えれば、後は被告人甲4らがその方針に従つて会社側
原案のとおりに議決できるように原案賛成へとリードしてくれるのであつて、別に
会社側からベテランの総会屋たる甲4らに対して指示する筋合いではないから、原
判示のように具体的事項に関する明確な指示がなかつたのは当然であろう。
 また第丙2回株主総会に関して甲1、甲3らが甲4らに対して請託した趣旨は前
示の各調書によれば、会社が戊2との嘱託を解除し、乙2社長が辞職したが、これ
は戊2インチキ発明にひつかかり、支出した多額の研究費(約八〇〇万円)が無駄
になつたことを容認したとみられるため一般株主からカラーテレビ問題に関する会
社幹部の責任につき質疑、発言が集中すると予想されたので、昭和三七年一月一〇
日頃の会社役員会議において総会の冒頭に被告人甲1から会社幹部の不手際を陳謝
して乙2社長も辞職したことを述べて一般株主の感情を和らげることを定め、また
会社本社が同月二〇日警視庁より戊2に対する証券取引法違反容疑で捜索をうけた
ので、このことが株主を刺戟し、会社役員に対する責任追及が強くなり、総会で議
決かえられないようになりかねないから、そのためには一般株主の発言を押えて、
会社原案のとおりの議決がなされるように甲4らに対して議事進行を依頼したこと
を肯認するに十分である。
 もつとも原判決(七六頁)は会社の総務部長の事務をとる者として第丙2回株主
総会の準備や対策を担任した乙25の原審証人としての証言記載及び同人の昭和三
七年四月一一日付調書二、三項を援用し、同人としては前総会後、戊2との嘱託を
解除し、乙2社長が引責辞職したため、その後は株主や報道関係者からの質問や問
合せがないことから、第丙2回株主総会が荒れて収拾できなくなるようなことはな
いと思つていたとの供述を措信しうべきものとするけれども、同人は前期総会後の
昭和三六年九月に総務部長の事務をとるに至つたもので、この種の職務における知
識経験も浅いことが想像されるし、同人の右推測意見も前示認定事実と対比すると
き、未だこれを採用しえないのである。
 三 (前同―その三。第丙2回株主総会の議事進行の検討)
 前示の控訴趣意第一点の第一の六で第丙1回株主総会の議事進行を検討したと同
一の意味において第丙2回株主総会における甲4、甲5の言動を検討する。
 原判決(判決書七七頁以下)は「同総会は予期に反して株主の出席者も比較的少
なく、被告人甲4の傘下でない総会屋からやや会社を攻撃する発言がなされたが、
平穏裡に短時間で会社の予定した進行案どおりに議案の審議がなされ、被告人甲4
および同甲5らから株主の発言を押えたりした形跡を窺うことはできない」と説示
しているが、原判示のごとく出席株主数一二〇名位であり、平常の総会が四〇名前
後(前同押号の一八の一部たる会社の第丙3回ないし第丙4回株主総会の出席者名
簿によれば、これらの株主総会の出席株主数の最高四八名、最低三二名で、平均は
四〇名である)であることと比較すれば、非常に多いと解しつるのであつて、これ
はカラーテレビ問題に関心を抱く株主の多数が出席したためであることは明かであ
り、押収されている昭和三六年一二月二五日付取締役会議事録(前同押号の二の一
部)によれば、同総会の会議目的事項は第一号議案は昭和三六年三月三〇日現在の
財産目録、貸借対照表及び第丙2期(昭和一二六年六月一日から同年一一月三〇日
まで)営業報告書、損益計算書並びに利益金処分案承諾の件、第二号議案は定款一
部変更の件、即ち第二三条(代表取締役)「会長、社長、副社長は各自会社を代表
する」とあるを「取締役会の決議をもつて代表取締役若干名を定める」と変更する
件、第三号議案は取締役選任の件、第四号議案は監査役全員任期満了につき改選の
件、第五号議案は退任取締役に対し慰労金贈呈の件であつた。
 原判決挙示の関係証拠(判決書五二、五三頁)を精査し、当審における事実取
調、特に当審証人乙26の証言を検討すれば、総会議事の時間は午前一〇時二分か
ら同一〇時五五分までの約五〇分間であつたが、議長の被告人甲1が冒頭に予定の
ごとくカラーテレビ問題につき陳謝し、営業報告を終えて第一号議案を上程したと
ころ総会屋の乙27から「先日乙25総務部長が辛13新聞にカラーテレビは完全
な偽物であつたと公表したが、会社はそのようなことですまされず、少くとも五大
新聞に謝罪文を出して謝罪をし、カラーテレビに連座した役員はやめるべきだ」と
発言し、これに反対する発言があり、また前期総会でもカラーテレビの試作研究費
はいくらかと発問した総会屋の乙21から「会社は戊2に対して金員の返還請求を
しているというが、それはとれるのか、とれなかつた場合の責任はどうなるのか」
と質問し、議長は「問題は当局の手に入つているので、現在のところ内容証明で返
還請求中である」と答え、その他二、三の発言があつて第一号議案は異議なく可決
し、次で第二号議案も異議なしで可決し、第三号議案を上程したとき被告人甲5が
「経営の経験の少ないものは経験の多いものを見ならつてやつて貰いたい。三号議
案に四号議案を合せ一括上程されたい。なお選任は選挙と同一の効力をもつ議長指
名とされたい」と述べ、異議なく新取締役、同監査役の指名があつて第五号議案も
可決されたこと、なお被告人甲4は会場の中央辺にいて、手にした書類を握つて議
事進行の合図をしていたこと、会場には同被告人配下の総会屋数名が出席したこと
を肯認しうる。
 以上のように右株主総会も、甲4、甲5らの力により短時間のうちに全議案が可
決されたのであり、なおこの総会が前回と違つて混乱しなかつたのは原判決(四三
頁)の指摘するように警察官が会社の要請により警備をしていた点のほかに、甲4
の要望により暴力団癸1会の幹部癸2が株主として出席していたことも一因をなし
ていよう。
 四 (前同―その三。第丙2回株主総会前後における金員授受の趣旨の検討)
 原審が原判決理由第二節の(無罪の判断)の「第一、各株主総会前後の会合およ
び金員の授受」の項で説示するように、関係証拠によれば、被告人甲4に対し第丙
2回株主総会前の昭和三七年一月下旬総務部長の事務をとる乙25が会社内で現金
五万円を、総会後の同年二月上旬被告人甲3及び右乙25が会社内で現金一〇万円
を各交付したこと、被告人甲5に対しては総会前の同年一月上旬右乙25が甲4を
介して前示株式会社己2内で現金三万円、総会後の同年二月上旬被告人甲3及び右
乙25が同所で現金一〇万円を各交付し、以上の各金員はすべて会社から支出され
ていること、また関係証拠によれば、総会前の同年一月一二日被告人甲1が甲5を
ゴルフに招待し、その帰途甲3、乙25を交えて原判示「丁4」で甲5を招待し、
同月一六日甲2、甲3、乙25が前示「丁5」で甲4を接待したこと、そして同月
三〇日株主総会の直後、甲1が甲4を同人方に、甲5を株式会社己2内に訪れて右
総会についての尽力方について謝意を表明したことを肯認することができる。
 ところで原判決(七八頁)は右金員の授受の趣旨につき、証拠上、「それは右乙
25が被告人甲4から総会荒しが押しかけるような問題のある総会であるから、謝
礼を割増しするのがよいと言われて支出したものであり、また被告人甲1が初めて
の議長の役を無事に勤めることができた喜びから、同総会での尽力についての労を
ねぎらう趣旨で前回の例に従つて謝礼に及んだものと解するのが相当であると説示
しているが、原判決(三六頁)が「(認定事実)第三、会社と被告人甲4および同
甲5らとの従前の関係」の項で認定しているように、昭和三六年一月の増資後の総
会の時ですら被告人甲4に対しては通常分二万円、増資の御祝として五割相当の一
万円、計三万円を、また被告人甲5に対しては甲4を通じて通常分一万円、増資分
五〇〇〇円、計一万五〇〇〇円を供与しているにすぎないのに、前期総会の際に引
続き今期総会に際しても前示のごとく総会の前後に多額の金員を交付したのは、異
例の事例といわねばならず、このことは前示二における被告人らの供述調書に示さ
れたところの、被告人甲1、同甲3らが被告人甲4らに請託した趣旨とも密接に関
連をもつものと理解されるのである。
 五 (前同―その四。暴力団対策と金員の授受)
 原判決(七九頁)は「(各種の)諸事情および証拠に照らして考察すると、被告
人甲1および同甲3において総会屋たる被告人甲4および同甲5に対して総会のと
りまとめ方を依頼するに至つた真の意図は、暴力団が総会荒しを企てている情報を
被告人甲4らから聞いて、それらの者によつて同総会の議事の進行が妨害され、会
社の信用が失墜することを憂慮し……従前からの例にならい被告人甲4および同甲
5らを頼みとし、総会屋に議事の進行についての協力方を懇請し、かつ被告人甲4
に対しては同人が名の通るところから暴力団対策をも委せたものであると認定する
のが相当である」と判示しているけれども、原審公判における被告人甲3、同甲4
の各供述、原審証人乙25の証言、被告人甲4の昭和三七年四月二日付調書、同甲
5の同月九日付調書、乙28の司法警察員に対する供述調書によれば、前記昭和三
七年一月一六日の「丁5」での会合の後、乙25は会社内で前総務部長乙1に前回
の第丙1回株主総会の際のメモを見せられ、総会屋たる供与先氏名やその金額を話
し合つたり、被告人甲4が会社にきた際、同人と共に被告人甲3らも加え、被告人
甲4の分も含めて同人の配下及びその系統の総会屋に対する供与金を一括して同人
に三〇万円程度渡すことやその供与先などを打合せたこと、同月二〇日すぎ被告人
甲4は会社内で被告人甲1、同甲3、乙25らに「九州で乙29が中心となり、己
1の株主同盟をつくり、カラーテレビ問題などで総会の際、役員を糾弾する動きが
ある」などの情報を伝え、これに対しては甲4が「暴力団癸1会の幹部癸2に依頼
してこれを防止する」と引受け、右癸2に渡す費用などとして二〇万円、更にその
斡旋のための、甲4に対する謝礼などを含めて一〇万円計三〇万円を、乙25から
被告人甲4に渡したこと、同月二四日頃乙25は被告人甲4の了解のもとに会社内
で総会屋の乙30に現金二万円を渡し、また会社内で経理より二八万円を受けと
り、これを通常分、特別分を含めて被告人甲4に対する分は五万円、被告人甲5に
対する分は三万円、その他三二名分のものをそれぞれ封筒に準備し、その頃これを
会社内で甲4に渡し、同人はこれを分配したこと、甲4は知合いの乙28に二〇万
円を渡し、同人を介して暴力団対策のため癸1会幹部の癸2に総会出席を依頼し、
癸2は第丙2回株主総会に出席したことを認めることができるのである。
 右のごとく原判決のいう暴力団による総会荒しの情報が総会前に会社側に伝わつ
たことは認めうるが、これに対する対策費用などとしては本件公訴事実たる被告人
両名への二八万円と区別して被告人甲4に対しその費用及び謝礼合計三〇万円が渡
されているのであつて、二八万円分は全く別の趣旨で供与されたことが明かという
べきである。
 六、 以上の検討により原判決が被告人甲1および同甲3において総会屋たる被
告人甲4および同甲5に対して総会のとりまとめ方を依頼するに至つた真の意図に
ついて単に暴力団が総会荒しを企てているとの情報をきき、特に社長代行の職責
土、初めて議長をつとめる被告人甲1がこれらによつて議事の進行が妨害され会社
の信用が失墜することを憂慮したため、被告人甲4、同甲5らに議事の進行を懇請
し、かつ被告人甲4に対しては暴力団対策をも委ねたものと説示しているのは、前
記一掲記の被告人らの各供述調書記載の趣旨を誤解し、客観的事情の判断を誤つた
ものというべきである。
 従つて前記一掲記の被告人らの検察官に対する供述調書及び如上の引用した各証
拠を総合すれば、本件第丙2回株主総会関係の公訴事実を充分にこれを認定しうる
ものというべく、この点においても原判決には影響を及ぼすことの明かな事実誤認
があるものといわなければならない。
 よつて本件控訴は理由があるから、刑事訴訟法第三九七条第一項、第三八二条に
より原判決を破棄した上、同法第四〇〇条但書の規定に従い、更に自ら次のように
判決をする。(なお控訴趣意書に「被告人甲3の量刑の点を含めて相当の判決を求
める」とあつて、その意は検察官から被告人甲3に対する商法違反の無罪部分を破
棄すると共に、業務上横領罪につき加えられた刑を不当として両者を併合罪として
相当な一個の刑を加えるよう、求めているものと解すべきところ、商法違反部分に
ついて原判決を破棄すべき理由があつて、以下に示すごとくこれを有期懲役刑とし
て処する場合であるから、有罪部分たる業務上横領罪の量刑の当否につき判断する
までもなく、原判決全部を破棄することにする。
 原判決理由の第一節被告人甲3に対する業務上横領被告事件の「罪となるべき事
実」を第一とするほか、次の事実を附加する。
 (犯罪事実)
 第二、 被告人甲1は前記己1株式会社の取締役副社長、被告人甲2は同会社常
務取締役、被告人甲3は前記のごとく同会社取締役、または被告人甲4、同甲5
は、いずれもいわゆる総会屋であり、被告人甲4は昭和三六年七月二八日当時は一
九七五株、昭和三七年一月三〇日当時は九七五株をもち、被告人甲5はその頃一〇
〇株をもつ会社の各株主であつたが、同会社は昭和三六年一月二八日戊2と嘱託契
約を締結し、その後、戊2が発明すると自称していた新型式カラーテレビ受像機の
研究のため多額の出資をし、同年六月二八日同人が試作したと称する受像機なるも
のを新聞記者らに公開発表した際、これがため、かねてから右受像機研究の情報に
よつて、徐々に騰貴しつつあつた同会社の株価がさらに不当に急騰したが、その直
後戊2の人物、経歴に疑問が多く、右受像機も己3製の作品で、戊2の発明品でな
いとの強い疑惑が一般にもたれるに至つたので、投資家はもとより、新聞雑誌もこ
れを重視し、同会社が己3製の作品を戊2の発明品として公開発表した疑が強く、
会社経営陣の責任を追及する状勢になつたところ、
 一、 被告人甲1、同甲2、同甲3は、前記のように戊2の発明は、虚偽である
との疑が濃厚であることを知るや、同年七月二八日開催の同会社第丙1回株主総会
において一般株主から右の問題を追及され総会の議事進行に支障を来たすことを慮
り、三名共謀のうえ、同年七月上旬頃前記会社内及び東京都中央区ab丁目c番地
料亭「丁1」などにおいて被告人甲4に対し、また同月下旬同都千代田区st丁目
u番地乙31倶楽部内において被告人甲4を介し被告人甲5に対しそれぞれ右総会
において営業報告、役員改選などの議案を無事に可決させるべく、会社役員のため
有利な発言をしてもらい、他方株主が前記カラーテレビ問題に関する会社役員の責
任を追及して発言するのを抑制してもらいたい旨依頼し、同総会における株主の発
言ないし議決権の行使に関し不正の請託をし、その謝礼の趣旨をもつて
 (一) 被告人甲4に対し
 (1) 第丙1回株主総会前の同年(昭和三六年)七月下旬被告人甲3の意をう
けた同会社総務部長乙1を介し、同会社内において現金七万円を
 (2) 右総会後の同年八月上旬被告人甲2、同甲3が同都港区d一四号地八の
被告人甲4方において現金一〇万円を
 (二) 被告人甲5に対し
 (1) 第丙1回株主総会前の同年七月下旬被告人甲4を介し同都千代田区g町
h丁目i番地乙32ビル内の株式会社己2事務所内において現金三万円を
 (2) 右総会後の同年八月上旬同会社取締役乙14を介し同所において現金一
〇万円を
 各授与して財産上の利益を供与し
 被告人甲4、同甲5は、右のとおりそれぞれ不正の請託をうけ、その謝礼の趣旨
で供与されるものであることの情を知りながら、おのおのこれを受領し、もつてそ
れぞれ株主総会における発言ないし議決権の行使に関し財産上の利益を収受し
 二、 被告人甲1、同甲3は、前記カラーテレビ問題が紛糾を重ねたため同会社
が昭和三六年一〇月三〇日付をもつて戊2との嘱託契約を解除し、ついで同年一一
月二八日同会社取締役社長乙2が責を負つて辞職したが、このことは会社側におい
てカラーテレビ問題につき、その非を認めたことになるため、昭和三七年一月三〇
日開催の同会社第丙2回株主総会においては、前記総会よりも一層、株主からカラ
ーテレビ問題の追及をうけるのでないかと慮り、両名共謀のうえ、同年一月上旬よ
り中旬にわたり、同会社内及び同都港区vw丁目x番地料亭「丁5」において被告
人甲4に対し、また同会社内及び横浜市神奈川区y町z番地料亭「丁4」において
被告人甲5に対し、それぞれ右総会において営業報告、定款変更、役員改選などの
議案を無事に可決させるべく、会社役員のため有利な発言をしてもらい、他方株主
が前記カラーテレビ問題に関する会社役員の責任を追及して発言するのを抑制して
もらいたい旨依頼し、同総会における株主の発言ないし議決権の行使に関し不正の
請託をし、その謝礼の趣旨をもつて
 (一) 被告人甲4に対し
 (1) 第丙2回株主総会前の同年一月下旬被告人甲1、同甲3の意をうけた同
会社総務部長乙25を介し、同会社内において現金五万円を
 (2) 右総会後の同年二月上旬被告人甲3及び右乙25が同所において現金一
〇万円を
 (二) 被告人甲5に対し
 (1) 第丙2回株主総会前の同年一月下旬被告人甲4を介し、前記株式会社己
2内において現金三万円を
 (2) 右総会後の同年二月上旬被告人甲3及び右乙25が同所において現金一
〇万円(東京高裁昭和四〇年押七七三号の七一)を各授与して財産上の利益を供与

 被告人甲4、同甲5は、右のとおりそれぞれ不正の請託をうけ、その謝礼の趣旨
で供与されるものであることの情を知りながら、おのおのこれを受領し、もつてそ
れぞれ株主総会における発言ないし議決権の行使に関し財産上の利益を収受したの
である。
 (証拠)(省略)
 (商法四九四条一項一号、二項の解釈と判示第二の事実)
 一、 商法四九四条は昭和一三年法律第七二号による商法の改正が行われた際に
追加された規定であるが、原審はこの条文の一項一号、二項の解釈について立法の
趣旨を探究して次のごとく述べている。
 原判決理由の(無罪の判断)の第二の(三)結論において「被告人らの各行為が
商法四九四条一項一号および二項に牴触するか否かを考察するに、この規定は、そ
の立法の趣旨なかんづく当初の原案の修正、すなわち不正の請託なる語が加えられ
た経過に徴すれば、少数株主等がその地位にもとづく諸権利を濫用してその権利に
名を藉りて株主総会等における他の株主等の発言または議決権の行使を妨げるよう
な不正の行為を防圧し、いわゆる総会荒しを処罰するために設けられたものであ
り、総会屋に金品を供与して会社の議案を無事可決に導くため、その協力方ないし
は議事の進行方を依頼する場合までを処罰しようとしているものではないと解する
のが相当である」と説示し、立法者が想定したであろう定型的な事実関係は「総会
荒し」であつて「総会屋」ではないというのである。
 そして原判決は(三三頁)、総会屋とは「諸会社の若干の株式を所有して、その
会社の依頼に応じて職業的にその会社の株主総会の議事の進行係りを勤め、車馬賃
等の名義で金品を受領するもの」、総会荒しとは、「諸会社から金品等何らかの利
益を得る目的で株主総会に臨んで株主たる地位を濫用して、会社幹部の営業上の失
敗ないし手落ちを攻撃し、はては会社幹部の個人攻撃までして、議場を混乱させて
議事の進行を妨害し、自己の存在をその会社に認識させ、威迫を用いてその会社か
ら金品を獲得する類の者」と定義づけをしているのである。
 二、 ところで本規定は第七〇回帝国議会に提出された際の政府原案としては、
「不正ノ請託ヲ受ケ」との字句はなかつたが、貴族院で右のごとく挿入修正せら
れ、当時政府もこれに同意し、第七三回帝国議会では、その修正された通りのもの
が政府原案として提出せられ、そのまま両院を通過成立したのである。
 まず第七〇回帝国議会衆議院商法中改正法律案委員会議録第九回の速記録により
立法者の意思を探究する一つの手がかりを求めるのに、右のごとくこの条文は貴族
院において原案のとおりとすれば正当な株主権の行使に際して非常な危険を感ぜし
めるというので、同条一項に「不正ノ請託ヲ受ケ」なる字句が加えられたのである
が、政府委員による修正後の条文の説明も多岐にわたりその真意を捕えるのに苦労
する部分もあるが、癸3委員の質問「そうするというと会社の重役が何も外に要求
するのではない、唯それ等の者を手なずけておくために金をやる、又受ける方でも
会社の意思に従つて決議権を行使するというに止まる、其場合においては不正の請
託にならぬのですな」に対し癸4政府委員の答弁「只今の御説明は所謂御用少数株
主と通常称せらるる提燈もちの発言をする株主に屡々見受けられる事柄でございま
せうが、左様な場合には、勿論不正の請託とはいいえないと存じます」とあり、こ
の説明は前示のごとく原判決がこの条文の想定する事実関係のなかには総会屋の活
動を含まないとの解釈をとるにつき一支柱を与えているようであるが、更に委員会
議録によると癸3委員の質問「四九四条は、尚分らぬのでありますが、普通に会社
荒しという者が日当或は日当以上のものを貰つて会社に出て発言をする、そうして
相当の金を会社から貰う、こういう場合は不正の請託をうける者に当りますか、当
りませぬか」癸4政府委員の答弁「其の場合に株主が初から正当に権利を行使する
という考でなしに、権利の行使に名を藉りて所謂権利の濫用の場合でありまする
が、それに名を藉りて厭がらせをいつて、金をとるという目的でそれをやる、其の
時に重役側からそれを黙らせるために金をやる、其の請託をうけて金を収受した場
合は、之に含まれるものと存じます」、……癸5委員の質問「そうすると会社の重
役が会社荒しに金を呉れて総会で賛成演説をさせるというようなのは犯罪になりま
せぬかどうですか」、癸4政府委員の答弁「それは、私は具体的の事例によつて相
違するだろうと思います。初めから少数株主が議決権及び発言を株主としてやろう
という意図がない、そういう考がなくて所謂権利の濫用でございますが、発言又は
議決権の行使に名を藉りて金をとろうという考の下に出掛けて行つて其の発言をし
ようとする、其の時にそれに関して請託をうけて金を貰つたということになります
れば、是はやはり本条(商法四九四条)に該当すると存じます」と述べている。
 右の説明によれば、ここにいう「会社荒し」とは総会における発言ないし議決権
行使を口実として会社に対し金品を要求し、その満足をうれば総会に出席しないで
すますか、或は出席して、いわゆる提燈もちの発言をして、御用株主となるものを
意味しているのであり、これは原判決にいう「総会荒し」のように議場を混乱させ
るもの、「総会屋」のように職業的に総会の進行係をするものとは違つた型態の
「総会荒し」、即ち通常「総会ゴロ」「会社ゴロ」と称されているものを意味して
いるのである。
 また委員会における癸6委員の質問の中で「この株主総会とか創立総会とか社債
権者集会とかいうところの決議に対して不正の請託ということは私はどうしても意
味をなさないと思うが、原案を通過するように賛成してくれというて、重役が出席
した株主に金を出したというような場合には、無論これは不正ということがいえる
だろうと思います、他の株主がこれに反対だから否決するようにしてくれというて
金を出しましても、これは未だ不正の請託ということはいえないと思う」と述べ、
原判決のごとき意味の「総会荒し」以外のものも、この条項の対策となりつるとの
意見開陳をしているのである。
 <要旨>要するに、この条項の立法趣旨は、株主総会などにおける発言または議決
権の行使の安全、公正を保持することを目的としたものであり、即ち「総会
荒し」たると「総会屋」「総会ゴロ」たると、その名称の如何を問わず、いやしく
も株主として正当に権利を行使する意思をもたずに、権利の行使に名を藉りて、換
言すれば株主権を濫用して株主総会において発言(質問、動機、提案など)し、議
決権を行使し、或は他の株主の正当な発言、議決権の行使を妨害すること、ないし
は強いて発言、議決権の行使をしないことの依頼をうけて、これらにつき財産上の
利益の収受、供与関係が生ずれば、商法四九四条一項一号、同条二項違反として処
罰されるのである。
 三、 また「総会屋」といい、「総会荒し」「総会ゴロ」といつても、株主総会
を舞台とし、不当な個人的利益を追及する点では同じであるし、なる程発現型態を
みると、会社側の味方をするもの、これを攻撃するものに区別されて正反対である
けれども、それが本質的な差異でないことは、例えば当初は会社の弱点、失敗、経
営者の不正を捉えて攻撃し、多少の金員を獲得する「総会荒し」「総会ゴロ」であ
つたものが、やがて会社から力量を買われ信用をうけると、会社の依頼に応じて職
業的にその会社の株主総会の議事進行係を勤め今度は「総会荒し」に対する方策を
行つたり、中には被告人甲4のごとく会社の顧問客として遇される「総会屋」に転
ずるし、また従来の「総会屋」が会社の提供する金品が少いからといつて、或は他
の「総会屋」との対抗関係から「総会荒し」に変ることもあろうし、或は某社の
「総会屋」が他社にあつては「総会荒し」をつとめることもあることなどに徴して
も明かであることを考えるとき、前記のごとき解釈をとる実質的な理由を発見する
のである。
 四、 原判決の指摘するように「株主総会は、これを最高議決機関とする法の理
想から遠く離れ、単なる儀式となつているように見える場合もあり」(原判決書三
五頁)、しかも株主から会社に対し議決の委任状が多く寄せられ(原判示のごとく
会社の発行ずみ株式総数二七〇〇万株のうち第丙1回株主総会では委任状による出
席株式数は一五八三万四七一七株、第丙2回株主総会では右株式数は一七九八万八
七二九株の多数に達していた)、会社側としては議決にもちこんで多数決を獲得し
うる状態で議事を進めるのが現状であるけれども、同じ株主総会といつても、もし
会社経営陣に対する不信任、経営方針の不当が論議され、新聞、雑誌の記事にも報
道されている際の総会は、「単なる儀式」以上のものとして活溌な論議の場となる
ことは致し方がないものといわねばならない。
 また株主総会は、いかに現在のように形式化しているとはいえ、総会があるから
こそ、経営陣をして株主に対する自己の責任を反省自覚せしめ、経営者の権限違
反、法令定款違反を幾分でも封ずる効果をもつていることを考えるとき、株主総会
の存在理由を否定することはできず、従つて他の会社役職員の責任を加重し、株主
保護のために設けられた各規定のほかに、株主の発言及び議決権行使を保証する正
式の場たる株主総会の正常化を図ること、即ち総会における発言、議決権の行使に
関し、個人的利益追求のために不正の請託をうけ、金銭の授受が行われるのを禁ず
るため処罰規定が設けられる実質的理由があるのである。
 五、 特に「総会屋」と会社経営陣が結託するとき一般株主の正当な権利が阻止
され、会社経営の不法ないし不当が隠され、経営陣がその地位の安泰を図りうるこ
とになり、会社内に害毒が沈澱し、ひいて株式会社企業のもつ社会性、公共性に違
反することになることも考えられるから、「総会荒し」「総会ゴロ」より「総会
屋」こそ、より適切な意味で商法四九四条の規正をうけるべきだとの見解も成立す
るのである。
 六、 これを本件についてみるのに、控訴趣意第一点の事実誤認の項に掲記する
各証拠により認められるとおり、判示第二の一の事実については、被告人甲1、同
甲2、同甲3らにおいて乙2社長らと共に、戊2の身もとも確かめずに同人に対し
て多額の研究費を投じ、会社に技術陣がいるのにかかわらず同人発明と称するテレ
ビについて技術的理論的解明を怠り、新方式テレビが完成したと発表して世間を騒
がせ、一般株主に対し多大の迷惑をかけ、経営陣として善良な管理者の注意義務な
いし忠実義務を怠つたのであるから、第丙1回株主総会は平穏無事である筈はな
く、第一号議案たる第丙1期の営業報告書、損益計算書などの承認につき責任追及
の強い発言が株主からなされ、場合によつては、同総会の第二号議案たる「取締役
全員任期満了につき改選の件」に触れ、取締役の解任にさえ結びつく状勢であつた
際、右同人らは株主の追求を免れ、議案を可決させるためカラーテレビ問題の説明
は議案審議の後にするなどの総会運営方策を樹立し、いわゆる総会屋の被告人甲4
に対し総会において会社幹部のため有利な発言をしてもらい、他方、一般株主の正
当な発言を抑制し、ないし議決権を妨害するように依頼し、なおいかに従来からの
慣例とはいえ、事前に料亭などに招待し、通常のときよりも特段に多額の金員を供
与して総会のとりまとめを頼み、同被告人もこれを了承して金員の供与をうけ、さ
らにその旨を同被告人より被告人甲5に依頼し、同人もこれを了承して金員の供与
をうけたのであるから、被告人らについて商法四九四条一項一号、二項の成立する
ことは明かであり、また判示第二の二の事実についても被告人甲1、同甲3として
は乙2社長が前期総会後、引責辞任して、カラーテレビ問題につき偽作品を発表し
た落度を永認したのであるから、前期総会よりは一層、同被告人らの会社経営上の
責任を一般株主から追及されることを予想し、議案を可能な限りの最短時間で可決
させるため、前同様被告人甲4、同甲5に対し総会において会社幹部のため有利な
発言をしてもらい、他方一般株主の正当な発言を抑制し、ないし議決権を妨害する
ように依頼し、なお前と同じく金銭を供与し、被告人甲4、同甲5もこれを了承し
て金銭の供与をうけたのであるから、これについても商法四九四条一項一号、二項
に違反するものというべきである。
 (法令の適用)
 法令を適用するのに、判示第一の被告人甲3の各行為は、それぞれ刑法六〇条、
二五三条に、また判示第二の一の被告人甲1、同甲2、同甲3の各行為は、それぞ
れ刑法六〇条、商法四九四条二項、一項一号、判示第二の二の被告人甲1、同甲3
の各行為もそれぞれ刑法六〇条、商法四九四条二項、一項一号に、判示第二の一、
二の被告人甲4、同甲5の各行為は、それぞれ商法四九四条一項一号に該当すると
ころ、右被告人らの各商法違反罪につき所定刑のうちいずれも各懲役刑を選択し、
被告人甲3の以上の行為は刑法四五条前段の併合罪であるので、同法四七条本文、
一〇条により最も重い原判決末尾添付の別紙4の業務上横領罪の刑に併合罪の加重
をした刑期範囲内で同被告人を懲役二年四月に処し、被告人甲1、同甲2、同甲
4、同甲5の以上の各行為は刑法四五条前段の併合罪であるので、被告人甲1、同
甲2に対し同法四七条本文、一〇条に従い犯情の最も重い判示第二の一の(一)
(2)の行為に併合罪の加重をした刑期範囲内、被告人甲4に対し犯情の最も重い
右第二の一の(一)(2)に対応する行為に併合罪の加重をした刑期範囲内、被告
人甲5に対し犯情の最も重い判示第二の一の(二)(2)の行為に対応する行為に
併合罪の加重をした刑期範囲内で被告人甲1を懲役六月、被告人甲2を懲役四月、
被告人甲4を懲役八月、被告人甲5を懲役六月に処し、なお被告人らに関する各情
状にかんがみ、刑法二五条に従い、この裁判確定の日から被告人甲3に対し三年
間、その他の被告人四名に対し各二年間右各刑の執行を猶予することにし、また商
法四九五条にのつとり、被告人甲4から金三二万円を追徴し、また被告人甲5から
押収されている一万円紙幣一〇枚の現金一〇万円(東京高裁昭和四〇年押第七七三
号の七一)を没収したうえ、金一六万円を追徴し、原審及び当審における訴訟費用
の全部は刑事訴訟法一八一条、一八二条を適用して被告人全員に連帯して負担させ
ることとし、主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 白河六郎 判事 河本文夫 判事 藤野英一)

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