弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人に関する部分を破棄する。
     被告人を懲役一年以上、二年以下に処する。
     原審における訴訟費用中被告人について生じた分及び当番における訴訟
費用は被告人の負担とする。
     本件公訴事実中被告人が(一)昭和二十四年七月二十三日門司市a町b
丁目A方で同人所有の現金及び食料品を、(二)同月二十八日小倉市c町B方で同
人所有の衣類及び雑品を、(三)同月二十七日同市d町C方で同人所有の現金衣類
及び雑品をそれぞれ窃取したという点については、本件公訴を棄却する。
         理    由
 弁護人武井正雄及び被告人の控訴趣意は、末尾に添附する控訴趣意書のとおりで
ある。
 職権を以て調査するに、少年法第四十一条、第四十二条、第二十条及び第四十五
条第五号の各規定によれば、司法警察員又は検察官は少年の被疑事件について捜査
を遂げた結果犯罪の嫌疑があるものと思料するときは、これを家庭裁判所に送致し
なければならない。家庭裁判所はその送致を受けた事件で死刑、懲役又は禁錮にあ
たる罪の事件について調査の結果その罪質及び情状に照して刑事処分を相当と認め
るときはこれを検察官に送致し、検察官はその事件について公訴を提起するに足り
る犯罪の嫌疑があると思料するときは公訴を提起しなければならない。少年の刑事
事件について、かように家庭裁判所を経由しなければ、直ちに公訴を提起すること
ができないものと定めた所以は、畢竟少年の利益を保護せんとする趣旨に外ならな
い。従つてかような手続に違反し家庭裁判所を経由しないでなされた公訴提起の手
続は、少年の利益を害するものであるから無効といわなければならない。
 <要旨>もつとも、連合国占領軍の占領目的に有害な行為に対する処罰等に関する
勅令第二条の規定によれば、占領目的に有害な行為からなる罪に係る事件に
ついては、検察官は公訴を提起する義務があり、一旦提起された公訴はその裁判管
轄が連合国軍事占領裁判所に移された場合においてのみ、これを取消すことができ
るのである。
 それ故かような起訴強制の事件については、少年の犯した事件であつて前記少年
法の規定にかかわらず、検察官は家庭裁判所を経由しないで、公訴を提起すべきも
のといわなければならない。これを本件についてみるに、当審において取調べた田
川市長D作成の世帯主Eの戸籍抄本及び検察事務官作成のEの供述調書によれば、
被告人は昭和七年十二月一日生の十八才に満たない少年であるが、家庭裁判所を経
由して本件公訴が提起されたことを認むべき何等の形跡もない、
 しかるに被告人に対する本件公訴事実中、昭和二十四年九月十五日限起訴状記載
の(一)及び(二)の事実は、いづれも被告人が小倉市e町Fホテル占領軍CIC
宿舎の衣類雑品等を窃取した事件であつて、占領目的に有害な行為からなる罪に係
る事件であるから、これについては公訴提起にあたつて家庭裁判所を経由すべき必
要はない。これに反し同年十月二十一目附起訴状記載の(一)の一乃至三の事実は
占領目的に関係のない窃盗事件であるにかかわらず、前説明のとおり家庭裁判所を
経由しないで公訴が提起されたのである。それ故原審は刑事訴訟法第三百三十八条
第四号の規定に基き判決を以て該公訴を棄却すべきにかかわらず、原判示第一の
(二)、(四)及び(五)のとおりこれに対し有罪の判決をなしたのは不法に公訴
を受理したものであるから原判決は破棄を免れない。
 弁護人武井正雄の控訴趣意第一点について(但し原判示第一の(二)及び(五)
の事実は前説示のとおり違法の公訴に係るものであるから、これに関する論旨につ
いては判断をしない。)
 所論は原判決が、その判示第一の(一)の盗品を単に、「シミーズ」外衣類雑品
合計九十五点」と摘示するだけで、個々の品目を具体的に摘示していないのは違法
であるというのであるが、窃盗罪における盗品の品目は刑の量定に必要な限度に示
せば足りるのであつて、必ずしも総ての品目を遂一掲げる心要はない。原判決摘示
の程度で刑の量定上敢て支障はないからこの点の論旨は理由がない。
 次に原判決はその判示第一の(三)において、被告人が「前同人等と共謀の上同
年同月三十日午前三時頃同所で前同人管理の背広服上衣一枚外衣類合計七点時価一
万七千円相当を」窃取した旨認定しているが、ここに「前同人等」又は「同所」若
くは「前同人」とあるのは、前項(二)の当該記載を指すものと解する外はない。
 従つて前項との対照上(三)の事実は所論のとおり、「G、Hと共謀の上昭和二
十四年七月三十日午前三時頃門司市a町b丁目A方で同人管理の背広服上衣一枚外
衣類合計七点時価一万七千円相当を」窃取したということにならざるを得ない。し
かるに昭和二十四年九月十五日附起訴状記載の訴因(二)によれば、被告人はG、
I等と共謀し昭和二十四年七月三十日午前三時頃小倉市e町Fホテル占領軍CIC
宿舎において同支配人J管理の背広上衣一枚外衣類合計七点時価一万七千円相当を
窃取したというのである。両者を比較すると犯罪の日時と盗品の品目数量及び価格
は一致するが、共犯者を異にするのみならず、犯罪の場所と被害者は全然相違する
のであつて、到底これを同一の犯罪事実とは認め難い。
 しかも本件各起訴状記載の訴因中他に原判決の認定の(三)の事実に対応するも
のがなく、又原判決の各判示事実中前示訴因(二)に対応するものがない。従つて
原判決は審判の請求お受けた事件について判決をせず却つて審判の請求を受けない
事件について剃決したものとみる外はない。それ故論旨は結局理由があることに帰
着し、原判決はこの点においても破棄を免れない。
 そこで他の論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三百九十七条第三百七十八
条第二号前段、第三号及び第四百条但書に従つて原判決を破棄し、当裁判所は更に
自ら次のとおり判決する。
 被告人は、G及びIと共謀の上
 (一) 昭和二十四年七月二十八日頃小倉市e町Fホテル占領軍CIC宿舎にお
いて、同宿舎の支配人Jの保管に係る占領軍の軍人等の所有「シミーズ」一枚外衣
類雑品九十五点を
 (二) 同月三十日頃前同所において同人の保管する占領軍の軍人の所有の背広
上衣外衣類七点を
 各窃取したものである。
 (証拠説明省略)
 被告人の判示各所為は刑法第二百三十五条第六十条に各該当するところ、以上は
同法第四十五条前段の併合罪であるから、同法第四十七条本文第十条によつて、そ
の内犯情の重い判示(一)の罪の刑に法定の加重をなし、且つ少年であるから少年
法第五十二条を適用し、その刑期の範囲内で被告人を懲役一年以上二年以下に処
し、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一頚によつて主文のとおり被告人の負担
とする。
 本件公訴事実中、被告人が
 (一) 昭和二十四年七月二十三日門司市a町b丁目A方はおいて同人所有の現
金千二百十五円及び食料品十一点を
 (二) 同月二十八日小倉市c町B方において同人所有の絽夏帯一本外衣類雑品
十二点を
 (三) 同月二十七日同市d町C方において同人所有の現金五百円外衣類雑品三
点を
 各窃取した。
 という公訴については、前説明のとおり公訴提出の手続が少年法の規定に違反し
無効であるから、刑事訴訟法第三百三十八条第四号によつて該公訴はこれを棄却す
る。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 谷本寛 判事 竹下利之右衛門 判事 佐藤秀)

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