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裁判例


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主文
1第一審判決を次のとおり変更する。
2被控訴人は,宮津市に対し,4214万7762円及びこれに対する平成
14年1月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3控訴人のその余の請求を棄却する。
4訴訟費用は,第一審及び差戻前の控訴審,上告審の訴訟費用を含め,被控
訴人の負担とし,参加費用は被控訴人参加人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決(第一審判決)を取り消す。
2被控訴人は,宮津市に対し,4214万8000円及びこれに対する平成1
4年1月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要及び当事者の主張
1事案の概要
(1)本件は宮津市が丹後地区土地開発公社(以下単に公社という),,,「」。
との間で,A公園事業(以下「本件事業」という。)につき,Bが当時所有し
ていた別紙物件目録記載の土地15筆(以下「本件土地」という。)を385
8万9646円で先行取得する委託契約を締結し(以下「本件委託契約」と
いう。),これに基づいて宮津市が利息等を加えた代金4214万7762
円で本件土地を買い取る旨の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締
結し,同代金額を支払った(以下「本件公金支出」という。)ところ,宮津市
の住民である控訴人が,同土地はそもそも取得する必要のない土地であり,
その取得価格も著しく高額であるから,上記公金支出は違法であり,宮津市
が同代金相当額の損害を被ったと主張して,地方自治法(平成14年法律第
4号による改正前のもの。以下同じ。)242条の2第1項4号に基づき,
宮津市に代位して,当時の宮津市長であった被控訴人に対し,損害賠償とし
て4214万8000円(宮津市議会が本件土地の取得事業費として議決し
た補正予算額)及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法
所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
被控訴人及び同参加人は,本件委託契約の締結には,本件事業の代替地用
地を取得する必要性と公共性があったこと,本件売買契約を締結して代金を
支払ったのは,公益的自然林整備事業の必要に基づくものであり,また,本
件委託契約の履行として本件売買契約を締結する義務があったからであるこ
とを主張し,本件公金支出は相当であり財務会計法規上の義務に違反する違
法なものではないとして争った。
(2)第一審判決は,宮津市は,本件委託契約に基づいて,公社に対し,本件
土地を先行取得の代金の額に借入れの利息の額を加えた金額で買い取るべき
義務を負っていたから,仮に,本件委託契約の締結について,本件土地を取
得する必要性がなく,あるいは買取価格が高額であるとしても,同契約の履
行として本件売買契約を締結するほかなかったのであるから,同売買契約の
締結を財務会計法規上の義務に違反する違法なものと評価することはできな
いとして,控訴人の請求を棄却したため,これを不服とする控訴人が差戻前
の控訴審裁判所に控訴をした。
(3)差戻前の控訴審は,第一審判決の上記説示に加え,本件売買契約の代金
額は,公社が本件委託契約に基づく事務を処理するために要した費用の額と
一致するから,本件売買契約により宮津市が新たに損害を被る余地もないこ
とを付加して上記控訴を棄却した。
(4)これに対し,控訴人が上告及び上告受理の申立てをしたところ,最高裁
判所第二小法廷は,上告受理の申立て(平成17年(行ヒ)第304号)を
受理した上,以下の理由により,上記控訴審判決を破棄し,本件を大阪高等
裁判所に差し戻す判決を言い渡した。
本件において,仮に,本件土地につき代金3858万9646円で先行取
得を行うことを公社に委託した宮津市の判断に裁量権の範囲の著しい逸脱又
は濫用があり,本件委託契約を無効としなければ地方自治法2条14項,地
方財政法4条1項の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められる場合
には,本件委託契約が私法上無効となるから,契約締結権者は,無効な本件
委託契約に基づく義務の履行として買取りのための本件売買契約を締結して
はならないという財務会計法規上の義務を負っていると解すべきであり,契
約締結権者がその義務に違反して本件売買契約を締結すれば,その締結は違
法なものとなり得ること,また,本件委託契約が私法上無効ではないとして
も,これが違法に締結されたものであって,宮津市が取消権又は解除権を有
しているときや,当該委託契約が著しく合理性を欠きそのためその締結に予
算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存し,かつ,客観的にみて
宮津市が当該委託契約を解消することができる特殊な事情があるときにも,
契約締結権者は本件売買契約を締結してはならないという財務会計法規上の
義務を負っており,その義務に違反して本件売買契約を締結することは財務
会計法規の義務に違反する違法なものとなり得ること,また,本件委託契約
が私法上無効であるときには,宮津市は公社に対し本件委託契約に基づく事
務を処理するために要した費用を支払うべき義務を負わないことになるし,
本件委託契約が私法上無効ではないときであっても,上記財務会計法規上の
義務が尽くされ,本件委託契約が解消されていれば,宮津市は上記費用を支
払うべき義務を負わないことになること,以上によれば,本件委託契約が私
法上無効であるか否か,あるいは同契約が私法上無効でないとしても取消権
又は解除権ないし看過し得ない瑕疵及び上記特殊な事情があるか否か,その
ほか本件請求に係る財務会計法規上の行為がどのようなものであるか,及び
これに関する被上告人の権限があるか等について更に審理を尽くさせる必要
がある。
2基礎となる事実(証拠を摘示した以外の部分は当事者間に争いがない)。
(1)当事者
控訴人は宮津市の住民であり,被控訴人は少なくとも平成8年12月19
日から平成14年3月29日まで宮津市長の職にあった者である。
(2)本件土地の現況
本件土地は,いずれも宮津市内にある土地であるが,別紙図面のとおり
本件事業の計画区域外に点在する。
本件売買契約が締結された平成14年3月当時,別紙物件目録1ないし
6記載の土地は自然林の山林であり,同目録7ないし10の土地は原野で
あったものであり,いずれも本件事業区域の北側に点在し(以上,10筆の
土地をまとめて「α地区の土地」ともいう。),同目録11ないし15記載
の土地(以下,これをまとめて「β地区の土地」ともいう。)は竹林の山林
であり,本件事業区域の南方のやや離れた場所に隣接し,海岸線から比較
的近い位置にある。
(3)本件委託契約による先行取得
ア宮津市が公社に公共用地の先行取得を依頼する場合に依拠すべき法令
上の規定はないが,先行取得は「丹後地区土地開発公社業務方法書」(乙,
2,以下「公社業務方法書」という。)によって行われており,宮津市が
公社に公共用地先行取得等依頼書及び買取計画書を提出することとされ
ている。
イ宮津市は,平成8年12月19日,公社に対し,本件土地を3858
万9646円で先行取得することを依頼したが,被控訴人は,宮津市長
として本件委託契約の締結について決裁した(丙7)。
その際提出した本件委託契約中の買取計画書では,宮津市は,上記先
行取得予定の本件土地を,A公園完成までに代替地用地として買い戻す
ものとされ,その期日は,平成14年3月31日とされていた(乙3)。
ウ宮津市が公社に公共用地の先行取得を依頼する場合の取得価格の算定
方法について,法令上の規定はなく,本件土地の取得価格を決めるに当
たり,評価委員会等の評価を得ることはなかった。
エ先行取得依頼における取得価格は,本件土地のうち,α地区の土地に
ついては,原野の1平方メートル当たりの単価を1940円(以下,単価
,,。,は特に断りのない限りすべて1平方メートル当たりの単価を示す)
山林の単価を530円,立木補償の単価を1100円,β地区の土地に
ついては単価を4400円(立木補償を含む。)とし,面積については,
いずれも公簿面積と実測面積の比率(縄延び率)について,原野を1.8
倍,山林を5.31倍として算定された。
オ公社は,本件委託契約に基づき,平成8年12月24日,本件土地を
Bから総額3858万9646円(立木補償を含む。)で買い取った(乙5
の1,2)。
カ公社業務方法書では,公社は,宮津市から先行取得に伴う債務の保証
を受けることを条件に,先行取得の依頼を引き受けるものとされ,先行
取得した土地を売り渡す際の価格は,土地価格及び造成費用等のほか,
それらの費用の調達のための借入金の利息の合計額とされていた(乙2)。
キ公社は,同月27日,本件土地の取得資金をC信用金庫から借り入れ,
宮津市は,その債務を保証した(乙3,4)。
(4)本件公金支出
ア宮津市議会は,平成13年9月の定例議会において,山林等を公益的
機能保全森林として取得し,国土保全を図る目的で,本件土地を取得す
る事業の費用として4214万8000円の公金を支出することを補正
予算として議決した。
イ宮津市は,平成14年3月18日,公社との間で本件土地を4214
万7762円で買い取る旨の本件売買契約を締結し,同月29日,公社
に対し,売買代金全額を支払い,これらの土地の引渡しを受けた(乙8,
11,12)。
ウ上記買取額は,公社が先行取得した際の代金額3858万9646円
に平成8年12月27日から平成14年3月29日までの間の借入利息
355万8116円を加算した金額であった(乙9)。
(5)監査請求及び監査査定(甲1,2)
ア控訴人は,平成13年12月18日,宮津市監査委員に対し,宮津市
が本件土地を取得するための公金を支出することを差し止める措置を求
め,地方自治法242条1項に基づく住民監査請求をした。
イ宮津市監査委員は,同月20日,具体的な財務会計上の行為(売買契約
等)が行われていないとして,上記監査請求を却下する決定をした。
3控訴人の主張
(1)本件における財務会計行為の特定
本件における財務会計行為は,無効ないし違法な本件委託契約(先行行為)
。,に基づく義務の履行として締結された本件売買契約(後行行為)であるなお
予備的に支出決定(乙12)を主張する。
(2)本件委託契約の効力と財務会計法規上の義務違反
,,本件上告審判決は公社から宮津市が本件土地を購入する売買契約につき
宮津市が公社に先行取得を委託した本件委託契約が,私法上無効となる場合
と,私法上無効とならない場合でも宮津市の買取義務が消滅する場合がある
ことを明示したが,以下のとおり,本件土地は,宮津市が取得する必要のな
い土地であり,また,その取得価格も著しく高額であって相当ではなく,本
件委託契約は無効ないし違法であるにもかかわらず,宮津市は本件委託契約
に基づく義務の履行として買取りのための本件売買契約を締結したのである
から,その締結は違法な財務会計行為に当たるというべきである。
ア本件土地取得の必要性の欠如
(ア)代替地用地の必要性の欠如
宮津市は,本件事業区域内の地権者から代替地の要求があったので平
成8年12月19日付けで先行取得を委託したというが,そのような要
求が真実存在したかどうかは疑わしいものである。
これは,本件土地の所有者が全部Bで,代替地として購入した土地は
同人所有以外のものはないという異常事態を説明できないこと,地権者
に本件土地を見せたことがないこと,そして何よりも,本件土地自体が
公道に面していない土地や傾斜地,崖地などを含んでおり,到底代替地
としての広さも機能も有していないことからも明らかである。
(イ)公益的自然林整備事業としての必要性の欠如
本件土地は,森林保全には全く不要な土地である。本件土地は,別
紙図面のとおり分散して点在しており,そのような小規模山林だけを
保全することは全く意味がない。
イ価格の不当性
宮津市は,本件土地の買収価格の決定に当たって,縄延び率を採用して
いるが,本件土地はすべて小規模な土地であり,また,代替地として予定
して先行取得を依頼したのであるから,各土地を実測した上,買収価格を
算定すべきであった。
また,価格についても,以下のとおり,無価値な土地を京都府の本件事
業区域内での公式の買取価格の5倍を超える違法・無効な価格で買収して
いる。
(ア)α地区の山林6筆は,木材の伐採搬出が困難であり,経済価値は低
いのに,買収単価が530円となっているのは高額すぎる。
また,立木補償は,本件事業区域内の土地であっても単価207円
であったが,上記6筆の立木はいずれも自然林であるのに,その立木
補償は単価1100円と不当に高額である。
また,同地区の原野4筆の買収価格は単価1940円であるが,こ
れらの土地はいずれも崖下の危険地や進入路もない傾斜地であるのに,
山林の買収単価よりも高額であるのは不当である。
(イ)β地区の土地の買収価格は単価2804円ないし3505円(平成
13年8月)であり,少し離れたところでは,単価1000円程度であ
る。また,β地区の土地の立木は竹林であり,立木補償の必要性はな
い。
ウ本件委託契約の効力と本件売買契約の締結の違法性
(ア)本件委託契約の無効
上記ア,イの事実によれば,先行取得としての本件委託契約自体が民
法90条により無効であるといわざるを得ないから,宮津市の契約締結
権者は,後行行為となる本件売買契約を締結してはならないという財務
会計法規上の義務を負っているというべきである。
(イ)本件委託契約の取消権,解除権ないし看過し得ない瑕疵等
仮に,本件委託契約が無効とはいえないとしても,同委託契約に取消
権あるいは解除権が認められる場合には,その取消権,解除権を適切に
行使して買取義務を消滅させる財務会計法規上の義務があるほか,委託
契約の内容が著しく合理性を欠いており,そのためその締結に予算執行
の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存し,かつ,客観的に見て当
該普通地方公共団体が当該委託契約を解消することができる特殊事情が
あるときにも,売買契約締結権者は,買取りのための売買契約を締結し
てはならないという財務会計法規上の義務を負うものである。
そして,上記のとおり,本件委託契約は委託の目的の虚偽や無価値な
土地の高額での買取りを内容とする著しく合理性を欠く契約であり,財
政健全の趣旨をうたった地方自治法2条14項,地方財政法4条の予算
執行の適正確保の見地からみて看過し得ない瑕疵が存し,宮津市長は公
社の理事長でもあり,かつ,宮津市は公社の100パーセント出資者で
ある等の事情からは,両者は同一体と認められ,宮津市が本件委託契約
を取り消しても公社の利益を顧慮する必要がないという特殊事情が存在
する(なお,被控訴人主張のとおり上記出資割合が14%であっても,
宮津市長が公社の理事長を兼務して人事管理・組織運営をしていること
に変わりがないから結論を左右しない。。)
(ウ)したがって,本件において,本件売買契約締結権者は,本件委託契
約に基づく義務の履行として買取りのための本件売買契約を締結しては
ならず,これに反して締結された本件売買契約は違法であり,損害賠償
義務を負う。
(3)被控訴人の責任
被控訴人は,D助役に対し,本件売買契約の締結を委任したものであり,
同助役は,上記義務を履行して本件委託契約を取り消さなければならないと
,,,ころ被控訴人は当事者として本件委託契約を取り消すことができるほか
宮津市長としてD助役に対し,本件売買契約を締結しないよう指揮監督しな
ければならないのにこれを怠り,同助役によって本件売買契約が締結された
のであるから,これにより宮津市が被った損害の賠償責任を負うというべき
である。
(4)損害
基礎となる事実(4)のとおり本件土地を取得する事業の費用として421
4万8000円の公金を支出することを補正予算として議決したのであるか
ら,同金額が宮津市の損害であり,被控訴人は,これを賠償しなければなら
ない。
4被控訴人の主張
(1)控訴人主張のとおり,本件における財務会計行為が本件売買契約である
としても,先行行為である本件委託契約について,これが無効であるとか,
取消権,解除権ないし看過し得ない瑕疵によりこれを解消すべき特殊な事情
があるとはいえず,売買契約締結権者には本件売買契約を締結してはならな
いという財務会計法規上の義務はない。
(2)本件委託契約の効力と財務会計法規上の義務違反の主張についての反論
ア本件土地取得の必要性
(ア)代替地としての必要性
宮津市は,京都府及び京都府土地開発公社から,本件事業用地の買収
。,,を委託されていた代替地用地の取得は上記委託に含まれていないが
宮津市は,昭和63年12月17日開催のα地区説明会において,地権
者から代替地の要求があった場合には協力する旨を約束しており(丙
2),また,平成3年5月には,α自治会からも代替地については誠意
をもって取り組むよう要望され(丙9),平成8年当時も3件の買収事案
について代替地の要望があった。
そこで,宮津市は,代替地を要求する地権者に対し,代替地用地を提
供することで交渉が円滑に運べると判断して,本件土地の先行取得を公
社に依頼した。
その後,代替地用地は,平成13年初めころまでに不要となった(丙
19,20)が,これは公社が本件土地を先行取得した後の事情の変更
によるものであって,宮津市が公社に先行取得を依頼したときには,代
替地用地を取得する必要性と公共性は存在した。
(イ)公益的自然林整備事業としての必要性
本件土地のようにγ湾に面する山林の多くは,永年にわたって手入れ
がされておらず,このまま放置すると森林の荒廃が進み,地球温暖化や
山林災害防止機能,水源かん養機能,δと一体となり歴史的風致を構成
する保健文化機能等,この地域の持つ公益的機能が著しく低下するおそ
れがあった。
そこで,宮津市は,公益的自然林整備事業(国土保全特別対策事業)
を利用して,本件土地を国土保全の目的で自ら取得し,適正な森林施業
により森林の有する公益的機能を高度に発揮させ,健全な資源の保全を
図ることとしたものである。
イ価格の相当性
宮津市では,用地の取得価格の算定方法を市長の裁量に委ねていたが,
本件土地のうちα地区の土地は,近隣において京都府の本件事業用地の買
収が同時進行していたので,その買収価格を参考にするのが極めて合理的
,,,,であったし(丙6当審提出の丙23ないし26)またβ地区の土地は
すぐ近くまで宅地開発が進んでいる地域にあって流通性があるので,宮津
市長の裁量により,京都府道路公社の買収事例に基づき価格を算出するこ
ととし(丙26),立木補償は京都府の本件事業用地についての算出価格を
採用することにした。
その具体的な内容は,別紙「A公園代替用地一覧表」記載のとおりであ
り,これを説明すれば,以下のとおりである。
(ア)α地区の土地の平成8年度買収価格
①土地の実測面積については,京都府が本件事業区域内で実施した測
量結果による縄延び率をそのまま採用し,山林は公簿面積の5.31
倍,原野は公簿面積の1.8倍とする(丙24)。
②京都府の算定基準に準じ,原野を単価1940円,山林を単価53
0円とする。
③立木補償については,京都府が決定したα地区の単価は210円と
されたが,本件事業区域内で立木調査をしたものの中から代表として
3筆を選び,その平均値をとって単価1100円とする(丙25)。
(イ)β地区の土地の平成8年度の買収価格
同地区の買取額は,京都府道路公社がε自動車道用地として平成4年
11月に買収した宮津市ζの土地の売買(丙26)を類似事例とし,その
売買金額である単価3690円を時点修正及び地域要因補正(本件事業
区域から離れており,かつ,周辺が別荘地として開発されつつある。丙
34,35)をして単価4190円とし,これに自然林の立木補償費単
価210円を加算して4400円とする。
(ウ)以上を前提として,Bからの買収額につき,本件事業区域外の本件
土地を3858万9646円と決定した(なお,本件事業区域内の土地
11筆の買収額については,上記同様の基準に基づき,2149万37
15円と決定した。。)
ウ本件委託契約の効力と売買契約の締結の違法性についての反論
(ア)本件委託契約の無効について
上記のとおり,平成8年12月当時,宮津市には公社に対し,本件土
地の先行取得を依頼する必要があり,かつ,その取得価格も合理的な根
拠に基づいて算定された正当な価格であって,宮津市が本件委託契約を
,,締結した判断に裁量権の著しい逸脱や濫用はなく宮津市と公社間には
本件委託契約が有効に成立しており,これを無効とする事由はない。
(イ)本件委託契約の取消等について
本件委託契約は,民法上の委任契約と解されるが,本件委託契約は公
社業務方法書(乙2)に則って適法に締結されており,しかも公社の委託
の趣旨にしたがって本件土地を取得し既に受任事務を終えているのであ
るから,もはや宮津市がこれを取り消しうる民法上の理由はない。
控訴人は,看過し得ない瑕疵及び特殊事情の存在を主張する。しかし
ながら,本件委託契約は適法に締結された合理的な契約であり,その履
行のための予算についても,委託契約時である平成8年度は,一般会計
予算において公社が宮津市に代わって用地を取得するための事業資金の
借入保証として3億円の枠が設けられており(乙4),また,本件土地の
買戻し費用が満額計上され,その財源については国の支援措置が得られ
るから(丙27),予算執行上何らの瑕疵はなく,その他本件委託契約を
解消することができるような特殊な事情はない。
なお,控訴人は,上記特殊事情として,公社と地方公共団体とは実質
的に同一体の関係にあると認めるのが相当であると主張する。確かに,
公社の理事長は,設立以来,宮津市長が兼務しているが,定款(乙1)2
0条によると,公社の出資者は宮津市のほか,京都府など11の地方公
共団体であり,宮津市の出資額100万円は全出資額の約14%にすぎ
ないから,公社と宮津市とが実質的に同一体であることを前提とする控
訴人の主張は理由がない。
(ウ)以上によると,本件委託契約が有効に成立し,また,宮津市に取消
権,解除権はなく,看過し得ない瑕疵等もないから,本件売買契約締結
権者は,本件委託契約に基づく義務の履行として買取りのための本件売
買契約を締結し,宮津市は本件土地を引き取る義務があったものという
べきである。
(3)被控訴人の責任についての反論
ア宮津市では,市長が公社設立時から理事長になっていたことから,昭和
50年11月5日制定の「宮津市助役に対する事務委任規則」(規則第1
5号)第2条(1)項において,公社と締結する売買契約は助役への委任事務
とされており(丙28),公社との売買契約については,市長に指揮監督
権はないから,被控訴人に指揮監督義務違反の責任があるとする控訴人の
主張は成り立たない。
また,控訴人は,財務会計上の行為は本件売買契約の締結であると主張
しており,本件売買契約を締結したのは,当時のD助役であるから,被控
訴人は,地方自治法242条の2第1項4号にいう「当該職員」に当たら
ないともいえる。
イ被控訴人は,平成8年12月18日,E課長から本件事業区域内の地権
者のうち3名が代替用地の提供を要望しており,本件土地がこれに適して
いること,取得価格はα地区の土地については京都府が買収する単価と同
等の価値とし,β地区の土地についてはε自動車道用地を買収した先例を
参考にして時点修正等を加えて算出した金額であるという説明を受けたの
で,本件土地を公共用地として先行取得する必要があり,かつ,取得価格
が合理的に算出された公正な価格であると判断し,原案どおり本件土地の
先行取得を決裁した。
その後,被控訴人は,平成12年度の期末までに代替用地が不要になっ
た旨の報告を受けたが,本件土地の買収期限が平成14年3月31日とな
っていたため,平成13年度当初から本件土地の買収について担当課に検
討させていた。その結果,γ湾に面する本件土地及び周辺の山林の荒廃が
進んでいることから,国が平成10年度より進めている地方公共団体によ
る森林の公有化事業を利用して,宮津市が本件土地を取得し森林整備を行
うのが最適であるとの結論に達し,平成13年9月の宮津市議会定例会に
その事業費4214万8000円を補正計上して諮ったところ,同議会の
承認を得ることができた。
そこで,被控訴人は,支出負担行為伺兼支出伝票(乙12)が決裁に上
ってきたので,本件売買契約が適法に締結されていること及びその金額が
上記補正予算の範囲内であることを確認し,売買代金の支出を承認した。
以上のとおり,被控訴人は,部下の作成した資料及び報告を検討し,す
べて適法であると信じて決裁しているのであって,D助役に対する指揮監
督義務違反もないから,被控訴人に違法若しくは不当な公金支出はなく,
賠償責任は生じない。
(4)損害についての反論
公社は,関係団体から公共用地の先行取得依頼があれば,予算議決による
支払保証がある限り,これを受諾する義務があるので,宮津市と公社との間
の本件委託契約は,宮津市の平成8年12月19日付け「公共用地先行取得
等の依頼及び土地の買取計画について」(乙3)の提出による契約の申込みに
よって成立することになる。
したがって,宮津市は債務の本旨に従った履行をするか,契約を解消して
損害賠償を負うかの選択をせざるを得ず,いずれを選択しても売買代金相当
額の支出を免れることはできないから,本件売買契約を締結して本件公金支
出を行ったことは,宮津市の損害の発生を防止したことになるというべきで
ある。
,,,また仮に宮津市が本件委託契約の無効を主張し又はこれを解除すれば
有責者として公社からの不法行為又は債務不履行による損害賠償請求を免れ
ることはできず,仮にこれに応じなかった場合には,公社が本件土地の取得
のために借り入れた金融機関の債務の返済について,宮津市は保証責任を負
うことになるから,いずれにしても本件売買契約を締結したことは,宮津市
の発生する損害の拡大を防ぐ行為であったというべきである。
第3当裁判所の判断
1当裁判所は,控訴人の請求は,主文掲記の限度で認容すべきであると判断す
るものであり,その理由は以下のとおりである。
2控訴人は本件における財務会計行為は無効ないし違法な本件委託契約先,,(
行行為)に基づく義務の履行として締結された本件売買契約(後行行為)であ
る旨主張するところ,当該職員の財務会計上の行為がこれに先行する原因行為
を前提として行われた場合であっても,当該職員の行為が財務会計法規上の義
務に違反する違法なものであるときは,上記の規定に基づく損害賠償責任を当
該職員に問うことができると解され,本件においては,先行行為である本件委
託契約が私法上無効といえるか,あるいは本件委託契約が私法上無効といえな
いとしても,宮津市がその取消権又は解除権を有したり,又は本件委託契約が
著しく合理性を欠きそのためその締結に予算執行の適正確保の見地から看過し
得ない瑕疵が存し,かつ,客観的にみて宮津市が本件委託契約を解消すること
ができる特殊な事情がある場合には,本件売買契約を締結したことが違法な財
務会計行為となり得ることは,いずれも前記上告審判決の判示するとおりであ
るから,以下,この点について順次判断する。
「」,,,,(1)前記基礎となる事実に甲第4第5号証第16ないし39号証
乙第1ないし4号証,第5号証の1,2,第6号証,第7号証の1,2,第
8,第9号証,第10号証の1ないし3,第11ないし18号証,丙第1な
いし11号証,第14号証,当審提出の丙第15ないし35号証,原審証人
E及び同Fの各証言を総合すれば,以下の事実が認められる。
,,ア宮津市は国の認可が予定されている本件事業の円滑な進行を図るため
,,,昭和63年12月17日α地区においてA構想概要の説明会を開催し
本件事業への協力を要請した。
ところで,宮津市が京都府及び京都府土地開発公社から委託を受けた本
件事業用地の買収については,代替地用地の取得は委託されていなかった
が,本件事業区域内の土地の地権者の一人であったBが,平成2年7月以
降,本件事業区域内の土地11筆のほか,同区域外のα地区の土地10筆
の買取りに応じなければこれを民間業者に売却する意向を示し,法外な買
取額を要求して,同区域内の土地の売却に容易に応じない態度をとったた
,,,め宮津市は本件事業の買収業務に支障が生じるおそれがあると判断し
同年8月10日,同区域外の上記土地を具体的な用途がないまま3900
万円で買い取ったが,その後,国土利用計画法所定の届出懈怠により当該
契約は無効となった。
イ京都府は,平成3年3月22日,国から本件事業の認可を受けたことか
ら,公共用地の先行取得を京都府土地開発公社に依頼し,同公社は,宮津
市に対し,本件事業用地のうち,平成4年12月都市公園区域,平成5年
11月民間活用区域の各土地の取得業務を委託した。
宮津市は,上記委託を受けて,再びBとの間で本件事業区域内の上記1
1筆の土地の買収交渉を行ったが,上記同様,Bが同区域内の土地のほか
同区域外の本件土地も含めないと買収に応じないとの姿勢を示し,高額な
買取額を要求するなど,買収交渉が難航したことから,買収業務の支障を
避けるためには,たまたま代替地を希望していた地権者3名もいたので,
同人らに代替地を提供することを理由として,同区域外の本件土地を代替
地用地として先行取得せざるを得ないと判断した。代替地用地を先行取得
することは,宮津市にとっても初めてのことであった。
本件土地は,上記のとおり,本件事業区域外に点在し,中には著しく狭
小な土地(6.61㎡,16㎡,33㎡の物件)もあり,公道に接道しな
い崖地・斜面地も含まれていた。しかし,宮津市は,本件土地について具
体的な測量をせず,希望者を現地に案内して代替地としての適否を確認す
るなどの措置も採らなかった。
ウ京都府土地開発公社は,本件事業区域内の土地の買収価格につき,山林
の単価を530円,原野の単価を1940円,立木補償(自然林)の単価を
210円とし,縄延び率の平均を山林については5.31倍,原野につい
ては1.8倍として実測面積を算定した(丙6,23。ただし,本件事)
業区域内の原野の縄延び率には,地区間に1.064倍から3.472倍
のばらつきがあった(丙24)。
宮津市は,本件土地が本件事業区域外に位置していたのに,その価格等
を具体的に別途調査せず,また,実測を行うこともなく,α地区について
は,本件事業区域内で京都府土地開発公社が買収していた上記の数値及び
縄延び率を採用した上,別紙「A公園代替用地一覧表」のとおり原野の単
価を3400円(上記縄延び率を乗じた金額)と,山林の単価を2800
円(同)として算定した。また,立木補償については,京都府土地開発公
社が本件事業区域内のη財産区について自然林の単価を1100円として
いた(この金額は,上記のとおり立木補償の単価210円に縄延び率5.
31倍を乗じたものである)のに対し,宮津市は,単価を1100円と。
した上,更に縄延び率5.31倍を乗じることによって5800円と評価
し,山林と立木補償の単価の合計を,同表記載のとおり8600円と評価
した。
他方,θ地区の土地については,竹林であるにもかかわらず,宅地見込
,,地として評価しε自動車道路の用地買収における宅地見込地の例に従い
単価を2万3400円(上記縄延び率を乗じた金額。立木補償を含む。)と
評価した。
エ上記のように,宮津市による本件土地の評価は,本件事業区域外に位置
する本件土地の評価について,実測調査をすることもなく,安易に同区域
内の土地に関する京都府土地開発公社の評価を採用し,かつ,立木補償に
ついては同公社の算定基準とも異なる方法で算定評価したものであって,
このこと自体不当なものということができる。そして,上記の方法によっ
て算定された宮津市の評価額は,殊に立木補償額について著しく不当に高
額なものとなることは必然である上,本件土地周辺の土地の評価額と比較
しても著しく高額であり(例えば,宮津市ι×番所在の山林の単価は18
0円〔甲37,平成8年度の京都府地価調査,標準地データとしてのα〕
地区の山林単価は70円,β地区の山林単価は93円〔甲38,なお,以
上の山林については,縄延び率を考慮しても,本件土地の山林の評価額を
大幅に下回る,平成13年ないし平成14年当時の国道×号線沿いの。〕
山林の取引事例の単価は2804円ないし3505円〔甲18,また,〕)
通常,山林や原野よりも高額で取引される田の単価と比べても高いもので
あった(当審提出の丙25参照。)
ちなみに,平成4年11月当時,京都府道路公社は,宮津市ζ所在の山
林2筆合計1241.94㎡(公簿面積2筆合計512㎡)を代金458
万2758円と立木補償金35万6000円で買収したが,その単価を計
,.,算すると山林で約3690円(458万2758円÷124194㎡)
立木補償で約286円35万6000円÷124194㎡となる丙(.)(
26。)
オ先行取得依頼に係る原議書(丙8)には「B氏所有のA公園等の用地,
」,(),買収についてと題する表題の下A公園用地11筆の取得に当たり
関連用地(α10筆,β5筆)の買収について(Bから)要請があったこ
と,その用途は「A公園関連用地(代替地等」であること,買収土地は)
「山林・κ×−7ほか5筆,715.61㎡(台帳),原野・λ×ほか3筆
1632.00㎡(台帳),山林・μ×ほか4筆1149.00㎡,契約金
額3858万9646円(15筆)」と記載されていたものの,立木補償に
関する記載はなく,買取金額の算定資料も添付されていなかった。
このような状況のもとで,被控訴人は,平成8年12月18日,担当課
長,総務部長,D助役等の決裁に続いて最終決裁をした上(丙7,同月)
,()。19日宮津市長兼公社の理事長として本件委託契約を締結した乙3
そして,被控訴人は,本件委託契約に基づき公社の理事長として,同月2
4日,Bとの間で,本件土地の売買契約を締結した上(乙5の1,2,)
公社は,宮津市が算出した前記の評価額に従い,売買代金3858万96
46円を支払い,同月26日までに所有権移転登記を経由した。
カその後,宮津市は,遅くとも平成13年6,7月ころまでに,3名の代
替用地希望者全員がその取得を希望しなくなったため,本件土地を代替地
用地として取得する必要はなくなった。
しかし,宮津市は,本件委託契約に基づき本件土地の買取義務があるほ
,,か公社がBから買収した本件土地の取得資金をC信用金庫から借り入れ
宮津市がその債務を保証していたことから,買取りが遅滞すればするほど
。,公社の金利が嵩んで宮津市の損害が拡大するという懸念を抱いたそこで
宮津市は,本件土地を早急に買い取って公益的自然林整備事業に充てるこ
とにし,公社との間で平成14年3月18日,本件売買契約を締結し(乙
8,被控訴人が宮津市の長として支出負担行為伺兼支出伝票(乙12))
に最終決裁をした上,同月29日,公社に対し,本件土地の代金4214
万7762円を支払い,その引き渡しを受けた(乙11。)
(2)本件委託契約(先行行為)の効力について
上記認定事実によると,宮津市は,未だ先行取得の依頼や地権者からの代
替地の要求も問題になっていなかった段階で,Bから,法外な買取額による
本件事業区域外の本件土地(α地区の土地)の買取要求を受けたことを契機と
して,特に具体的な目的を定めることなくこれを取得した経過があり,同契
約関係が一旦解消された後,再びBから上記同様の不相当な買取要求を受け
て同人と買収交渉を再開し,結局,同人の要求に抗しきれず,同区域外の本
件土地を代替地用地として取得せざるを得なくなったものであるところ,①
まず,先行取得の対象となった代替地用地のすべてがB一人の所有の本件土
地であること自体不自然であること,②代替地であれば,希望者に受け入れ
てもらえるかどうかが重要であるから,事前に地権者を本件土地に案内する
などしてその意向を確認する必要があるのに,宮津市において当該措置を講
じた形跡もないこと,③本件土地は,本件事業区域外に点在し,中には著し
く狭小な土地もあり,公道に接道しない崖地・斜面地も含まれているなど代
替地用地として適当な土地であるとは認められないこと,④本件土地は,本
件事業区域外に位置し,かつ,代替地用地であるため,個別具体的な評価,
,,,算定が必要となるはずであるのに宮津市は何ら実測調査を行うことなく
個別具体的な評価の作業も実施せず,安易に同区域内の土地に関する京都府
土地開発公社の評価を採用し,結果的に本件土地の買取額及び立木補償額が
周辺土地の取引事例及び評価額を著しく超えるものとなり,とりわけ立木補
償については,本来,縄延び率を考慮した単価が1100円であるのに,同
金額に更に縄延び率5.31を乗じて算定するなど,不当に高額に算定され
ていること,⑤本件事業区域内の各土地の縄延び率にはばらつきが存在する
から,本件土地について上記縄延び率を一律に当てはめることも妥当とはい
えないこと(なお,前記のとおり,平成13年6,7月ころには,すでに代
替地用地の取得目的が消滅していたため,宮津市は,新たに公益的自然林整
備事業に充てる目的で本件土地を取得することとしたものの,上記③のよう
な本件土地の形状・特質に照らすと,本件土地が上記事業にとって効果的な
,「」ものであるとは認められない上殊にβ地区の土地については宅地見込地
として高額な評価をして本件委託契約を締結したにもかかわらず「山林」,
として使用することを前提として本件委託契約の趣旨を変更し,その義務の
履行として本件売買契約を締結することも著しく不合理である)がそれぞ。
れ認められ,以上の事実からすれば,本件委託契約は,そもそも代替地用地
として取得する必要のない本件土地を対象とし,かつ,その取得価格も著し
く高額で不当なものであったと認められるから,本件委託契約が控訴人主張
のように公序良俗に違反し当然に無効であるとか,宮津市に私法上の取消権
または契約解除権が認められるとはいえないとしても,本件委託契約は,上
記のとおり著しく合理性を欠き,そのためその締結に予算執行の適正確保の
見地から看過し得ない瑕疵が存するものといわなければならない。
(3)本件委託契約を解消することができる特殊な事情の有無について
そこで,すすんで本件上告審判決が指摘するところの,客観的にみて宮津
市が本件委託契約を解消することができる特殊な事情があるか否かを検討す
るに,公社は,公共用地,公用地等の取得,管理,処分等を行うことにより
地域の計画的な整備促進及びν林道周辺地の秩序ある開発を図り,もって住
民福祉の増進に寄与することを目的とする(乙1,公社定款1条)ものであ
るから,本件委託契約は,もっぱら宮津市の公共用地の取得のために締結さ
れたものというべきところ,上記のとおり本件委託契約の内容に看過し得な
い瑕疵が存する場合にまで,宮津市に本件土地の取得を義務づけることは,
宮津市において,利息を含めた代金相当額の出捐にとどまらず,将来にわた
る本件土地の管理のために人的・物的な負担をせざるを得ず,より多額の不
必要な公金の支出を余儀なくさせるという不合理な結果を生じること,本件
委託契約については被控訴人が宮津市及び公社の双方の代表者として締結し
たものであること,被控訴人主張のとおり,公社の出資者は宮津市のほか1
1の地方公共団体であり,宮津市の出資額は全出資額の約14%にすぎない
としても,宮津市長が公社の成立以来公社の理事長を兼務していることは被
控訴人らも自認していることを併せ考えると,客観的にみて被控訴人が宮津
市の長として本件委託契約を解消することができる上記特殊な事情があると
認めるのが相当である。
なお宮津市において本件委託契約先行行為に基づく本件売買契約後,()(
行行為)の締結を拒否した場合には,公社ないし銀行から売買代金の履行請
求権や保証責任(前記「基礎となる事実」(3)カ,キ)を問われる余地があ
るものの,宮津市がこれらの責任等を問われた場合には,その損害は,地方
公共団体が被った損害として,別途,当該職員に対する損害賠償請求により
填補され得るものであり,宮津市が保証責任等を問われる余地があることか
ら直ちに,上記特殊な事情の存在を否定することはできないというべきであ
る。
(4)被控訴人の責任の成否(被控訴人の権限)について
ア本件売買契約(乙8)は,被控訴人が宮津市長と公社の理事長を兼務す
るため,D助役が宮津市を代表して公社との間で締結されたものであると
ころ(宮津市助役に対する事務委任規則。当審提出の丙28),D助役は,
前記のとおり,本件委託契約に看過し得ない瑕疵が存し,かつ,同契約を
解消すべき特殊な事情があることに照らし,漫然と違法な本件委託契約に
基づく義務の履行として買取りのための本件売買契約を締結してはならな
いという財務会計法規上の義務を負っているのに,本件売買契約を締結し
たのであるから,同売買契約の締結は違法な財務会計行為であるというべ
きである。
イところで,普通地方公共団体の長は,その権限に属する財務会計上の行
為をあらかじめ特定の吏員に委任している場合であっても,同委任により
処理された財務会計上の行為の適否が問題とされている代位請求住民訴訟
において,地方自治法242条の2第1項4号にいう「当該職員」に該当
し,かつ,普通地方公共団体の長の権限に属する財務会計上の行為を,委
任を受けた吏員が処理した場合は,長は,同吏員が財務会計上の違法行為
をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失により
同吏員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り,
普通地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負うものと解される(最
高裁平成5年2月16日第三小法廷判決・民集47巻3号1687頁)。
これを本件についてみると,宮津市長である被控訴人は,D助役に本件
売買契約の締結を委任したものであり,これに基づき処理された本件売買
契約(財務会計上の行為)の適否が問題とされているのであるから,法2
「」。42条の2第1項4号の当該職員に該当すると認めるのが相当である
そして,前記のとおり,先行行為である本件委託契約の内容が著しく合理
,,,性を欠き予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存しかつ
客観的にみて宮津市が本件委託契約を解消することができる特殊な事情が
あったのであるから,宮津市の長であった被控訴人としては,本件売買契
約の締結を委任したD助役に対し,本件売買契約を締結することを阻止す
べき指揮監督上の義務があったというべきであるにもかかわらず,かえっ
て,前記のとおり本件売買契約代金の支払に関する支出負担行為伺兼支出
伝票を最終決裁し(乙12),同市長兼公社理事長(双方代表)の立場で締
結した本件委託契約の義務の履行として,D助役が本件売買契約を締結す
ることを容認したものであるから,被控訴人が上記の義務に違反したこと
は明らかである。
この点につき,被控訴人は,上記の事務委任規則によると,宮津市が公
社と締結する売買契約については助役への委任事務とされているので,本
件売買契約については,被控訴人に指揮監督権はない旨主張するが,被控
,,,訴人は売買契約の締結自体に関与できないとしても前記認定のとおり
本件委任契約及び本件売買契約に実質的に関与し,かつ,D助役とともに
同各契約の締結及びこれに基づく公金支出を決裁していることからすれ
ば,被控訴人は同助役に対する指揮監督権を有しているものというべきで
あるから,上記主張は採用できない。
また,被控訴人は部下の作成した資料及び報告を検討し,すべて適法で
あると信じて決裁しているのであって,被控訴人には違法若しくは不当な
公金の支出についての賠償責任はない旨主張するが,先行取得依頼に係る
原議書(丙8)には立木補償に関する記載がなく,買取金額の算定資料も
添付されていないなど,前記認定の事情に照らすと,部下からの報告によ
り,本件土地の先行取得及び本件委託契約締結の必要性がないこと,並び
に買取価格が不相当であることを容易に認識し得たにもかかわらず,被控
訴人がそれらがすべて適法であると信じて決裁したことについては少なく
とも過失があるというべきであるから,被控訴人は上記指揮監督義務違反
を免れることはできないというべきである。
(5)損害の発生及び損害額について
以上によれば,被控訴人は,宮津市に対し,被控訴人の上記義務違反によ
り,本件売買契約に基づき宮津市が公社に支払った売買代金相当額4214
万7762円の支払義務があるというべきである。
この点に関し,被控訴人は,本件委託契約に基づき,債務の本旨に従った
履行をするか,契約を解消して損害賠償を負うかの選択をせざるを得ず,い
ずれの選択をしても,売買代金額相当額の支出を免れないから,本件売買契
約を締結して本件公金支出を行ったことは,宮津市の損害の発生又はその拡
大を防止したことになる旨主張する。
しかし,上記主張は,本件のように先行行為である本件委託契約に看過し
得ない瑕疵があり,本件委託契約に基づく義務の履行として買取りのための
本件売買契約を締結してはならないという財務会計法規上の義務に違反して
同契約を違法に締結した場合であっても,宮津市が売買契約を締結すること
ができることを前提とするものであり,地方財政の健全化を求める地方自治
法2条14項及び地方財政法4条1項等の財務会計法規の趣旨に反する上,
公社及びC信用金庫から前記のとおり保証責任の追及ないし債務不履行に基
づく損害賠償請求を受けた場合には,別途,地方公共団体が被った損害とし
て解決すべきものであることは前記説示のとおりであるから,被控訴人の上
記主張は採用することができない。
他方,控訴人は,本件売買契約の代金支払のために補正予算として議決さ
れた4214万8000円を損害と主張するが,本件における損害額は,上
記のとおり宮津市が公社に支払った売買代金相当額とすべきであるから,こ
の点に関する控訴人の請求は一部理由がない。
3以上によれば,控訴人の請求は,前記の支払を求める限度において理由があ
るから,これを全部棄却した第一審判決は不当であって変更を免れない。
よって,第一審判決を変更し,控訴人の請求を上記の限度で認容し,その余
を棄却し,なお,控訴人が求める仮執行宣言については,不必要と認め,これ
を付さないこととして,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第5民事部
裁判長裁判官大和陽一郎
裁判官黒岩巳敏
裁判官市村弘

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