弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
     原判決中上告人敗訴の部分を破棄する。
     右部分につき本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人上原洋允、同水田利裕、同澤田隆、同宮崎裕二、同木村哲也の上告理
由及び上告代理人前川信夫の上告理由について
 原判決は、(一) 被上告人B(以下「被上告人B」という。)は、昭和五二年八
月九日午前六時三〇分ころ、小児科、産婦人科を専門とする上告人医院において、
体重三三五〇グラムの成熟新生児として出生した、(二) 被上告人Bは脳性麻痺の
状態にあるが、それは主として核黄疸に起因するものである、(三)(1) 被上告人
Bには同月一〇日午後三時ころにはイクテロメーター値一の黄疸の発症が認められ
たが、翌一一日午後三時ころにはイクテロメーター値が二・五となり、イクテロメ
ーター値の急激な増加が認められたこと、(2)(イ) イクテロメーター値二・五
は血清ビリルビン値一二・一一(単位は、ミリグラム/デシリツトルである。以下
同じ。)に相当すること、(ロ) 甲第四号証によると、成熟児における血清ビリ
ルビン値の生理的黄疸の範囲は一二以下とされていること、(ハ) これらによる
と、被上告人Bのイクテロメーター値が二・五であつたということは、被上告人B
が生理的黄疸と病的黄疸との限界線上にあつたといえるものである、(3) 被上告
人Bには同月一一日正午ころには、目をゆつくり動かしたり、母乳を四口か五口飲
んではそり返つて泣き、哺乳力が殆どなく、また、熱ぽくて何となく元気がなかつ
たとの症状(以下「被上告人Bの本件症状」という。)が認められ、この症状は、
被上告人Bが罹患していた疑いのある髄膜炎、敗血症などの感染症の初期症状であ
るとともに、核黄疸第一期の臨床症状でもある、(4) 以上の事実によると、被上
告人Bは同日午後三時ころには核黄疸第一期の症状にあつたものと認められる、(
四)(1) 被上告人Bは、D病院に転院した同月一二日午前一〇時までの間に重症
な核黄疸に罹患していたものであるが、(2) 被上告人Bの核黄疸が重症となつた
のは、感染症を疑つた上告人が、既に核黄疸第一期に罹患していた被上告人Bに対
し、ビリルビン転送機能の障害となるネオマイシン系抗生物質であつて、ときに黄
疸の上昇をきたす副作用があり、新生児に対して投与するにあたつては一回二〇ミ
リグラム、一日二、三回と限定されているリンコシンを、同月一一日午後一一時こ
ろから一時間ないし一時間三〇分の間隔で三回に分けて三〇〇ミリグラムも臀部に
注射したため、遊離ビリルピンが急激に増加し、それが中枢神経へ多量に入つたこ
とによるものであるとの事実を認定したうえ、(五) 右のような治療方法は当時の
医学界において合理的なものとして是認されていたものとはいえないから、上告人
には治療上の注意義務違背があり、この注意義務違背と被上告人Bの脳性麻痺との
間には相当因果関係があるとし、結局、上告人には、上告人が被上告人らと締結し
た診療契約に基づく債務の不履行があつたと判断し、被上告人らの上告人に対する
本件各損害賠償請求をいずれも一部認容すべきものであるとしている。
 しかしながら、原判決の右認定判断の過程は、到底首肯し難い。その理由は、次
のとおりである。(一) 原判決は、前示のように(三)(2)(イ)及び(ロ)の事実
から、同(ハ)の事実を認定しているが、(1) 原審の適法に確定するところによ
ると、イクテロメーター値二・五を示したものは血清ビリルビン値が約五から一三
までの間に分散しているというのであるから、被上告人Bのイクテロメーター値が
二・五であつたという事実から、直ちに被上告人Bの血清ビリルビン値が一二・一
一であつたと断定できるものではなく、かかる事実は具体的証拠をもつて認定すべ
きものであるところ、原判決はこれをしていない、(2) また、原判決挙示の甲第
四号証の六九頁には、前示(三)(2)(ロ)に副う記述があるが、右記述が誤植であ
ることは、右記述自体及び証人Eの証言(記録一〇七八丁)等に照らして明らかで
ある、(3) そうすると、原審の右(三)(2)(イ)及び(ロ)の認定、したがつて
また、同(ハ)の認定は、いずれも証拠に基づかない認定に帰するものというべき
である。そして、被上告人Bの本件症状は感染症の症状でもあるというのであるか
ら、被上告人Bに本件症状があつたという事実と(三)(1)の事実のみから同(4)の
事実を推認しうるものとはいえない。したがつて、右(三)(2)の事実を主要な根拠
としてされている同(4)の認定も、結局、証拠に基づかないものに帰着する違法な
ものというべきである。(二) 更に、原判決は、リンコシンがネオマイシン系抗生
物質に属すると認定し、上告人がこれを被上告人Bに投与したことによつて同被上
告人にビリルビン転送機能障害を生じさせて黄疸を増強させたと認定しているもの
と解されるが、リンコシンがネオマイシン系抗生物質に属するとの事実については、
原判決がその認定のために挙示している甲第二号証ないし同第四号証、同第三二号
証及び同第三四号証はもとより、その余の本件証拠を検討しても、これを認めるに
足りる資料は見当たらないから、右事実の認定も証拠に基づかない違法なものとい
うべきである。そうすると、前示(四)(2)の事実のうち、上告人がリンコシンを被
上告人Bに投与したため、遊離ビリルビンが急激に増加し、それが中枢神経へ多量
に入つた結果、被上告人Bの核黄疸が重症となつたとした認定も、リンコシンがビ
リルビン転送機能障害の副作用を有するネオマイシン系抗生物質に属しないとして
も遊離ビリルビンを急激に増加させる副作用があるとの事実が証拠によつて確定さ
れない限り、首肯しうるものではないというべきである。
 以上説示したように、原判決の事実認定の過程には証拠に基づかないで事実を認
定した違法、審理不尽の違法があるといわざるをえず、この違法は原判決の結論に
影響を及ぼすことが明らかであるから、この違法をいう論旨は理由があるものとい
うべきである。したがつて、その余の論旨についての判断を省略し、原判決中上告
人敗訴の部分を破棄することとし、本件については更に審理を尽くさせる必要があ
るから、右部分につき本件を原審に差し戻すこととする。
 よつて、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    藤   島       昭
            裁判官    木   下   忠   良
            裁判官    大   橋       進
            裁判官    牧       圭   次
            裁判官    島   谷   六   郎

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