弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1甲事件
(1)門真税務署長が平成17年6月28日付けで原告に対してした原告
の平成13年4月1日から平成14年3月31日までの事業年度の法人税
の更正処分のうち所得金額●円,納付すべき税額●円を超える部分及び過
少申告加算税賦課決定処分のうち加算税の額●円を超える部分を取り消す。
(2)門真税務署長が平成17年6月28日付けで原告に対してした原告
の平成14年4月1日から平成15年3月31日までの事業年度の法人税
の更正処分のうち所得金額●円,納付すべき税額●円を超える部分及び過
少申告加算税賦課決定処分のうち加算税の額●円を超える部分を取り消す。
(3)門真税務署長が平成17年6月28日付けで原告に対してした原告
の平成15年4月1日から平成16年3月31日までの事業年度の法人税
の更正処分のうち所得金額●円,納付すべき税額●円を超える部分及び過
少申告加算税賦課決定処分のうち加算税の額●円を超える部分を取り消す。
2乙事件
(1)門真税務署長が平成20年6月16日付けで原告に対してした原告
の平成16年4月1日から平成17年3月31日までの事業年度の法人税
の更正処分のうち所得金額●円,納付すべき税額●円を超える部分及び過
少申告加算税賦課決定処分を取り消す。
(2)門真税務署長が平成20年6月16日付けで原告に対してした原告
の平成17年4月1日から平成18年3月31日までの事業年度の法人税
の更正処分のうち所得金額●円,納付すべき税額●円を超える部分及び過
少申告加算税賦課決定処分を取り消す。
(3)門真税務署長が平成20年6月16日付けで原告に対してした原告
の平成18年4月1日から平成19年3月31日までの事業年度の法人
税の更正処分のうち所得金額●円,納付すべき税額●円を超える部分及び
過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。
第2事案の概要
1本件は,原告が,平成13年4月1日から平成14年3月31日までの事
業年度(以下「平成14年3月期」といい,他の事業年度についても同様に
表記する。)から平成19年3月期までの各事業年度(以下,併せて「本件各
事業年度」という。)の法人税につき確定申告をしたところ,門真税務署長が,
本店が香港に所在するA1及びA2(A1と併せて「A1等」という。)は,い
ずれも租税特別措置法(以下「措置法」という。)66条の6第1項にいう特
定外国子会社等に該当し,さらに,A1等は製造業を主たる事業としており,
その主たる事業を本店の所在する地域(香港)において行っていないから,
同項に基づき,A1等の同項に定める課税対象留保金額に相当する金額は,
原告の本件各事業年度の所得の計算上,益金の額に算入すべきであるなどと
して,原告に対し,平成14年3月期から平成16年3月期までについては
平成17年6月28日付けで,平成17年3月期から平成19年3月期まで
については平成20年6月16日付けでそれぞれ更正処分(以下「本件各更
正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下「本件各賦課決定」と
いい,本件各更正処分と併せて「本件各処分」という。)をしたため,原告が,
本件各処分の全部又は一部の取消しを求めた事案である。
2法令の定め(改正の有無にかかわらず,特記しない限り,本件各事業年度
の最終事業年度である平成19年度3月期に適用される法令の規定を掲げる。
以下同じ。)
(1)タックスヘイブン対策税制(外国子会社等合算税制)について
ア内国法人に係る特定外国子会社等の留保金額の益金算入
措置法66条の6第1項は,同条各号に掲げる内国法人(国内に本店
又は主たる事務所を有する法人をいう。以下同じ。措置法2条1項2号,
所得税法2条1項6号)に係る外国関係会社(内国法人と,措置法66
条の6第2項1号に定める関係を有する外国法人(内国法人以外の法人
をいう。以下同じ。措置法2条1項2号,所得税法2条1項7号)をい
う。以下同じ。)のうち,本店又は主たる事務所の所在する国又は地域に
おけるその所得に対して課される税の負担が本邦における法人の所得に
対して課される税の負担に比して著しく低いものとして政令で定める外
国関係会社に該当するもの(以下「特定外国子会社等」という。)が,昭
和53年4月1日以後に開始する各事業年度において,その未処分所得
の金額から留保したものとして,政令で定めるところにより,当該未処
分所得の金額につき当該未処分所得の金額に係る税額等の額に関する調
整を加えた金額(以下「適用対象留保金額」という。)を有する場合には,
その適用対象留保金額のうちその内国法人の有する当該特定外国子会社
等の直接及び間接保有の株式等の数(個人又は内国法人が直接に有する
外国法人の株式の数又は出資の金額及び他の外国法人を通じて間接に有
するものとして政令で定める当該外国法人の株式の数又は出資の金額の
合計数又は合計額をいう。以下同じ。措置法66条の6第2項3号。)に
対応するものとしてその株式等(株式又は出資をいう。)の請求権(経済
的な利益の給付を請求する権利をいう。)の内容を勘案して政令で定める
ところにより計算した金額(以下「課税対象留保金額」という。)に相当
する金額は,その内国法人の収益の額とみなして当該各事業年度終了の
日の翌日から2月を経過する日を含むその内国法人の各事業年度の所得
の金額の計算上,益金の額に算入する旨規定し,同条1項1号は,その
有する外国関係会社の直接及び間接保有の株式等の数の当該外国関係会
社の発行済株式又は出資(当該外国関係会社の有する自己の株式等を除
く。)の総数又は総額のうちに占める割合が100分の5以上である内国
法人を掲げ,同項2号は,直接及び間接の外国関係会社株式等の保有割
合が100分の5以上である一の同族株主グループ(外国関係会社の直
接及び間接保有の株式等を有する者のうち,一の居住者,内国法人又は
特定信託の受託者である法人及び当該一の居住者,内国法人又は特定信
託の受託者である法人と政令で定める特殊の関係のある者(外国法人を
除く。)をいう。同条2項4号。)に属する内国法人を掲げている。
租税特別措置法施行令(以下「措置法施行令」という。)39条の14
第1項は,措置法66条の6第1項に規定する政令で定める外国関係会
社は,①法人の所得に対して課される税が存在しない国又は地域に本店
又は主たる事務所を有する外国関係会社(1号)及び②その各事業年度
の所得に対して課される租税の額が当該所得の金額の100分の25以
下である外国関係会社(2号)とする旨規定し,措置法施行令39条の
14第2項は,同条1項2号の外国関係会社に該当するかどうかの判定
について規定する。
イ適用除外
措置法66条の6第4項(なお,平成17年法律第21号(同年4月
1日施行)による改正前にあっては3項)は,同条1項の規定は,同項
各号に掲げる内国法人に係る特定外国子会社等(株式(出資を含む。)若
しくは債券の保有,工業所有権その他の技術に関する権利,特別の技術
による生産方式若しくはこれらに準ずるもの(これらの権利に関する使
用権を含む。)若しくは著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ず
るものを含む。)の提供又は船舶若しくは航空機の貸付けを主たる事業と
するものを除く。以下,これらの事業を主たる事業としないことを「事
業基準」という。)がその本店又は主たる事務所の所在する国又は地域に
おいてその主たる事業を行うに必要と認められる事務所,店舗,工場そ
の他の固定施設を有し(以下,この要件を「実体基準」という。),かつ,
その事業の管理,支配及び運営を自ら行っているものである場合(以下,
この要件を「管理支配基準」という。)であって,各事業年度においてそ
の行う主たる事業が同条4項各号に掲げる事業のいずれに該当するかに
応じ当該各号に定める場合に該当するときは,当該特定外国子会社等の
その該当する事業年度に係る適用対象留保金額については,適用しない
旨規定する。
同項1号は,事業として,卸売業,銀行業,信託業,証券業,保険業,
水運業又は航空運送業を掲げ,これらの事業につき,その事業を主とし
て当該特定外国子会社等に係る同法40条の4第1項各号に掲げる居住
者,当該特定外国子会社等に係る同法66条の6第1項各号に掲げる内
国法人,当該特定外国子会社等に係る同法68条の3の7第1項各号に
掲げる特定信託の受託者である法人,当該特定外国子会社等に係る同法
68条の90第1項各号に掲げる連結法人その他これらの者に準ずる者
として政令で定めるもの以外の者との間で行っている場合として政令で
定める場合を定めており(以下,同法66条の6第4項1号に掲げる事
業に適用される基準を「非関連者基準」という。),措置法施行令39条
の17第2項は,措置法66条の6第4項1号に規定する政令で定める
場合は,同項に規定する特定外国子会社等の各事業年度において行う主
たる事業が卸売業に該当する場合にあっては,当該各事業年度の棚卸資
産の販売に係る収入金額の合計額のうちに関連者(当該特定外国子会社
等に係る措置法66条の6第1項各号に掲げる者等をいう。以下同じ。)
以外の者との間の取引に係る上記収入金額の合計額の占める割合が10
0分の50を超える場合又は当該各事業年度において取得した棚卸資産
の取得価額の合計額のうちに関連者以外の者との間の取引に係る上記取
得価額の合計額の占める割合が100分の50を超える場合とする旨規
定する。
措置法66条の6第4項2号は,事業として,同項1号に掲げる事業
以外の事業を掲げ,これらの事業につき,その事業を主として本店又は
主たる事務所の所在する国又は地域において行っている場合として政令
で定める場合を定めており(以下,同号に掲げる事業に適用される基準
を「所在地国基準」という。),措置法施行令39条の17第5項は,措
置法66条の6第4項2号に規定する政令で定める場合は,同項に規定
する特定外国子会社等の各事業年度において行う主たる事業が不動産業
及び物品賃貸業以外の事業に該当する場合にあっては,主として本店所
在地国(その本店又は主たる事務所の所在する国又は地域をいう。措置
法施行令39条の14第2項1号柱書き)において行っている場合とす
る旨規定する。
(2)外国税額控除について
法人税法69条1項は,内国法人が各事業年度において外国法人税(外
国の法令により課される法人税に相当する税で,政令で定めるものをいう。
以下同じ。)を納付することとなる場合には,一定の場合を除き,当該事業
年度の所得の金額につき同法66条1項から3項まで(各事業年度の所得
に対する法人税の税率)の規定を適用して計算した金額のうち当該事業年
度の所得でその源泉が国外にあるものに対応するものとして政令で定める
ところにより計算した金額(以下「控除限度額」という。)を限度として,
その外国法人税の額(その所得に対する負担が高率な部分として政令で定
める金額を除く。)を当該事業年度の所得に対する法人税の額から控除する
旨規定する。
法人税法施行令141条1項は,法人税法69条1項(外国税額の控除)
に規定する外国の法令により課される法人税に相当する税で政令で定める
ものは,外国の法令に基づき外国又はその地方公共団体により法人の所得
を課税標準として課される税(以下「外国法人税」という。)とする旨規定
する。また,同条3項は,外国又はその地方公共団体により課される次に
掲げる税は,外国法人税に含まれないものとすると規定し,その3号で,
同法24条1項各号(配当等の額とみなす金額)に掲げる事由により交付
を受ける金銭の額及び金銭以外の資産の価額に対して課される税(当該交
付の基因となった同項に規定する法人の株式又は出資の取得価額を超える
部分の金額に対して課される部分を除く。)を挙げている。
3前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがない。なお,外国における事実関係につ
いても年号は和暦でのみ表記する。また,書証番号は特記しない限り枝番を
含む。
(1)原告
原告は,映像機器(ビデオ,DVDプレーヤー,DVDレコーダー,テ
レビ,液晶テレビ,プラズマテレビ及びプロジェクター等)や情報機器(プ
リンター及びデジタルスチルカメラ等)などの各種電気器具の製造販売等
を業とする株式会社(内国法人)である。
(2)A1等
アA1は,原告が平成4年に設立した中華人民共和国(以下「中国」と
いう。)香港特別行政区(以下「香港」という。)に本店(以下「香港事
務所」という。)を有する法人である。原告は,A1の平成13年1月1
日から同年12月31日までの事業年度(以下「A1平成13年12月期」
といい,他の事業年度についても同様に表記する。)からA1平成18年
12月期までの各事業年度(以下「A1各事業年度」という。)の各末日
において,その発行済株式総数の全てを有しており,A1は,原告の外国
関係会社に該当する(措置法施行令39条の20第1項参照)。なお,
A1は,その設立時の商号はA3であったが,平成12年4月に現商号に
変更された。
イA2は,平成7年5月2日に設立された香港に本店を有する法人である。
A1は,A2の平成13年1月1日から同年12月31日までの事業年度
(以下「A2平成13年12月期」といい,他の事業年度についても同様
に表記する。)からA2平成18年12月期までの各事業年度(以下「A2
各事業年度」といい,A1各事業年度と併せて「A1等各事業年度」とい
う。)の各末日においてその発行済株式総数の55%を有しており,A2
は,原告の外国関係会社に該当する。
ウA1等は,いずれも香港にその本店を有するところ,本件各事業年度
と措置法66条の6第1項により対応するA1等の各事業年度(A1等各
事業年度)の各所得(措置法施行令39条の14第2項1号に従いその
金額が定められるもの)に対して課される租税の額(同項2号に定める
金額)はいずれも上記各所得の金額の100分の25以下であり,A1
等は,いずれも原告の特定外国子会社等に該当する。
また,A1等は,いずれも,香港に事業所を有し,株式若しくは債券
の保有,工業所有権等若しくは著作権の提供又は船舶若しくは航空機の
貸付けを主たる事業とするもの以外のものであり,その本店の所在する
地域(香港)において事業を行うのに必要な固定施設を有し,かつ,そ
の事業の管理,支配及び運営を自ら行っており,措置法66条の6第4
項における事業基準,実体基準及び管理支配基準をいずれも満たしてい
る。
(3)本件各公司及び本件各工場
アA4は,中国広東省において,昭和59年に国営企業として設立され,
平成15年に民営化された法人であり,原告及びA1等との間に資本関
係はない。
A4は,同省東莞市(以下略)にB1工場及びB6工場を,同市(以下
略)にB2工場を,同市(以下略)にB2工場の後身であるB3工場を,
それぞれ所有している。
イA5は,中国において設立された法人であるところ,中国広東省中山市
にB4工場を所有している。
ウA6(A4及びA5と併せて「本件各公司」という。)は,中国において
設立された法人であるところ,中国広東省中山市にB5工場(以下,B1
工場,B2工場,B3工場及びB4工場と併せて「B1工場等」といい,B1
工場等とB6工場を併せて「本件各工場」という。)を所有している。
(4)本件各協議書の作成等
A1等は,本件各公司との間で,本件各工場における製品の製造に関す
る以下のような協議書を取り交わした。
アB1工場関係
(ア)A1は,A7及びA4との間で,B1工場に関し,平成4年3月2
8日付けで,有効期限をその発効の日から5年とする「協議書(●)」
(乙9の1。以下「B1平成4年第1協議書」という。)を取り交わし,
次いでA4との間で,平成8年12月23日付けで,B1平成4年第1
協議書の有効期限を5年延長して平成14年4月9日までとするとと
もに,その記載内容を一部修正・補充することなどを内容とする「委
託加工貿易期間延長協議書(●)」(乙9の2。以下「B1平成8年第1
協議書」という。)を取り交わし,さらに,平成14年2月5日付けで,
B1平成4年第1協議書の有効期限をさらに10年延長して平成24
年4月9日までとするとともに,その記載内容を一部修正・補充する
ことなどを内容とする「委託加工貿易期間延長協議書(●)」(乙9の
3。以下「B1平成14年第1協議書」といい,B1平成4年第1協議
書及びB1平成8年第1協議書と併せて「B1各第1協議書」という。)
を取り交わした。なお,B1平成8年第1協議書及びB1平成14年第
1協議書を取り交わす際には,B1平成4年第1協議書の当事者であっ
たA7の地位が「商務代理」に変更されており,これら各協議書の当
事者とはなっていない。
(イ)A1は,A4との間で,B1工場に関し,平成4年3月20日付け
で「協議書」(乙10の1。以下「B1平成4年第2協議書」という。)
を取り交わした。
また,A1は,A4との間で,B1工場に関し,平成5年3月20日
付けで新たに「協議書(●)」(乙10の2。以下「B1平成5年第2協
議書」という。)を取り交わし,これによりB1平成4年第2協議書は
失効し,以後B1平成5年第2協議書が効力を有するものとされた。
その後,A1は,A4との間で,平成10年1月23日付けで,B1平成
5年第2協議書の有効期限を平成15年3月31日まで延長すること
などを内容とする「補充協議書(●)」(乙10の3。以下「B1平成1
0年第2協議書」という。)を取り交わし,次いで,平成13年5月3
1日付けで,B1平成5年第2協議書の記載内容を一部変更するととも
に,同協議書の有効期間を平成23年5月31日まで延長することな
どを内容とする「協議書(●)」(乙10の4。以下「B1平成13年第
2協議書」という。)を取り交わしたほか,平成14年2月21日付け
で,B1工場に関し,「補充協議書(●)」(乙10の5。以下「B1平成
14年第2協議書」といい,B1平成4年第2協議書,B1平成5年第
2協議書,B1平成10年第2協議書及びB1平成13年第2協議書と
併せて「B1各第2協議書」という。)を取り交わした。
なお,A1は,A4との間で,B1工場に関し,「来料加工対口契約書」
を取り交わしており,同契約書は,税関から「登録手帳」(甲44)の
交付を受ける際に必要とされている。
イB2工場関係
(ア)A1は,A7及びA4との間で,平成4年9月13日付けで,B2
工場に関し,「協議書(●)」(乙11の1。以下「B2平成4年第1協
議書」という。)を取り交わし,次いで,A4との間で,平成9年5月
15日付けで,B2平成4年第1協議書の有効期間を平成14年9月1
6日まで延長するとともに,その記載内容の一部を修正・補充するこ
となどを内容とする「委託加工貿易期間延長協議書(●)」(乙11の
2。以下「B2平成9年第1協議書」という。)を取り交わし,さらに,
平成14年4月19日付けで,B2平成4年第1協議書の有効期間を平
成24年9月16日まで延長するとともに,その記載内容を改めて一
部修正・補充することなどを内容とする「委託加工貿易期間延長協議
書(●)」(乙11の3。以下「B2平成14年第1協議書」といい,
B2平成4年第1協議書及びB2平成9年第1協議書と併せて「B2各
第1協議書」という。)を取り交わした。なお,B2平成9年第1協議
書及びB2平成14年第1協議書を取り交わす際には,B2平成4年第
1協議書の当事者であったA7の地位が「商務代理」に変更されてお
り,これら各協議書の当事者とはなっていない。
(イ)A1は,A4との間で,B2工場に関し,平成4年9月8日付け
で「協議書」(乙12の1。以下「B2平成4年第2協議書」を取り交
わし,次いで,平成9年6月14日付けで,B2平成4年第2協議書の
有効期限を平成14年9月30日まで延長することなどを内容とする
「補充協議書(●)」(乙12の2。以下「B2平成9年第2協議書」と
いう。)を取り交わし,さらに,平成13年5月31日付けで,B2平
成4年第2協議書の有効期限を平成23年4月30日まで延長すると
ともに,その記載内容を一部修正・補充することを内容とする「協議
書(●)」(乙12の3。以下「B2平成13年第2協議書」といい,
B2平成4年第2協議書及びB2平成9年第2協議書と併せて「B2各
第2協議書」という。)を取り交わした。
ウB3工場関係
(ア)A1は,A4との間で,B3工場に関し,平成15年5月29日
付けで「補充協議書(●)」(乙13。以下「B3第1協議書」という。)
を取り交わした。
(イ)A1は,A4との間で,B3工場に関し,平成15年1月21日
付けで「契約書(●)」(乙14。以下「B3第2協議書」という。)を
取り交わした。
エB4工場関係
(ア)A1は,B4工場名義の相手方との間で,B4工場に関し,平成
6年5月4日付けで「委託組立加工契約書(●)」(乙15の1。以下
「B4平成6年第1協議書」という。)を取り交わし,さらに,平成1
1年3月17日付けで,改めて「委託加工合意書(●)」(乙15の2。
以下「B4平成11年第1協議書」といい,B4平成6年第1協議書と
併せて「B4各第1協議書」という。)を取り交わした。
(イ)A1は,B4工場に関し,A8との間で,平成5年6月2日付け
で平成5年6月2日付けで「来料加工協議書」(乙16の1。以下「B4
平成5年第2協議書」という。)を取り交わし,さらに,A5との間で,
平成14年8月13日付けで,「協議書」(乙16の2。以下「B4平成
14年第2協議書」といい,B4平成5年第2協議書を併せて「B4各
第2協議書」という。)を取り交わした。
オB5工場関係
(ア)A1は,B5工場名義の相手方との間で,B5工場に関し,平成1
2年9月29日付けで「委託加工合意書(●)」(乙17。以下「B5
第1協議書」という。)を取り交わした。
(イ)A1は,A6との間で,B5工場に関し,平成12年7月27日
付けで「協力及び賃貸借契約書」(乙18。以下「B5第2協議書」と
いう。)を取り交わした。
カB6工場関係
(ア)A2は,B6工場に関し,A4との間で,平成7年12月8日付
けで「●」(乙19の1。以下「B6平成7年第1協議書」という。)を
取り交わし,さらに,B6工場名義の相手方との間で,平成15年1月
23日付けで「補充協議書(●)」(乙19の2。以下「B6平成15年
第1協議書」といい,B6平成7年第1協議書と併せて「B6各第1協
議書」という。また,B1各第1協議書,B2各第1協議書,B3第1協
議書,B4各第1協議書,B5第1協議書及びB6各第1協議書を併せ
て「本件各第1協議書」という。)を取り交わした。
(イ)A2は,A4との間で,B6工場に関し,平成8年3月13日付け
で「協議書(●)」(乙20の1。以下「B6平成8年第2協議書」とい
う。)を取り交わし,次いで,平成12年6月19日付けで「補充協議
書(●)」(乙20の2。以下「B6平成12年第2協議書」という。)
を,平成13年5月31日付けで「補充協議書(●)」(乙20の3。
以下「B6平成13年第2協議書」といい,B6平成8年第2協議書及
びB6平成12年第2協議書と併せて「B6各第2協議書」という。ま
た,B1各第2協議書,B2各第2協議書,B3第2協議書,B4各第2
協議書,B5第2協議書及びB6各第2協議書を併せて「本件各第2協
議書」といい,本件各第1協議書と本件各第2協議書を併せて「本件
各協議書」という。)を取り交わした。
キ本件各公司との間で取り交わした本件各協議書に基づき,本件各工場
においてはビデオ,DVDプレーヤー等の各種電気器具の製造が行われ
ていた。本件各工場において製造された製品は全て,A1等に引き渡さ
れ,A1等が自己の名称で販売していた。
(5)台湾における本件源泉税の納付
ア原告は,平成15年3月31日当時,台湾法人であるA9の株式●株
を有していた。
イA9は,平成15年5月19日に開催された同社の株主総会において,
①同年3月21日董事会(我が国の取締役会に相当する。)決議に係る当
期利益の資本組入れに伴う新株●株,②資本準備金の資本組入れに伴う
新株●株及び③従業員分配金の資本組入れに伴う新株●株の合計●株の
新株を発行し,旧来の株主に対し,持株数●株につき●株を無償で割り
当てるとともに資本準備金の資本組入れに係る●株を交付し,結局持株
数●株につき合計●株を無償で付与することなどを内容とする増資を行
う旨決議し,原告は,原告の平成16年3月期中に,A9から,上記決議
に基づき無償で同社の新株の発行を受けた。
ウA9は,上記①の当期利益の資本組入れに伴う新株を原告に付与するに
当たり,台湾の所得税法に基づき,その支払総額を●台湾ドルとして,
これに20%の源泉徴収税率を乗じた源泉徴収税額●台湾ドル(円換算
額は●円。以下「本件源泉税」といい,その額を「本件源泉税額」とい
う。)を原告から徴収し,台湾の税務当局に納付した。
(6)本件各処分
原告は,本件各事業年度の法人税につき,青色申告書により確定申告し
たところ,門真税務署長は,原告に対し,平成17年6月28日,原告の
平成14年3月期から平成16年3月期までの各事業年度の法人税につき,
それぞれ更正(ただし,平成14年3月期の法人税については再更正)及
び過少申告加算税賦課決定をし,平成20年6月16日,原告の平成17
年3月期から平成19年3月期までの各事業年度の法人税につき,それぞ
れ更正(ただし,平成17年3月期及び平成18年3月期については再更
正)及び過少申告加算税の賦課決定をした(本件各処分)。
(7)不服申立て及び本件訴え
ア原告は,平成17年8月24日,本件各処分のうち,原告の平成14
年3月期から平成16年3月期までの各事業年度に係る法人税の各更正
処分及び各過少申告加算税賦課決定を不服として,国税通則法(以下「通
則法」という。)75条2項1号に基づき大阪国税局長に対して異議申立
てをしたが,大阪国税局長は,平成18年6月27日,原告の同異議申
立てを棄却する旨の決定をしたため,原告は,平成18年7月25日,
国税不服審判所長に対して審査請求をした。
原告は,平成18年11月16日,上記各更正処分及び各過少申告加
算税賦課決定を不服として,当庁に対し,甲事件に係る訴えを提起した。
なお,国税不服審判所長は,平成20年6月26日付けで,原告の上
記審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。
イ原告は,平成20年8月6日,本件各処分のうち,原告の平成17年
3月期から平成19年3月期までの各事業年度に係る法人税の各更正処
分及び各過少申告加算税賦課決定を不服として,通則法75条4項1号
に基づき国税不服審判所長に対して審査請求をした。
原告は,平成20年11月14日,上記各更正処分及び各過少申告加
算税賦課決定を不服として,当庁に対し,乙事件に係る訴えを提起した
ところ,同月26日,乙事件は,甲事件に併合された。
なお,国税不服審判所長は,平成21年7月7日付けで,原告の上記
審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。
(8)被告が主張する税額算出過程
原告の本件各事業年度の法人税について,被告が本件訴訟において主張
する所得金額及び納付すべき税額並びに過少申告加算税の金額並びにその
算出過程は,別紙1のとおりである。このうち,本件各事業年度の各益金
の額に措置法66条の6第1項によりそれぞれ対応するA1等の各課税対
象留保金額を算入している点並びに本件源泉税額を原告の平成16年3月
期の事業年度の損金の額に算入した上で法人税法69条1項の規定に基づ
く同事業年度の法人税の額からの控除をしていない点については争いがあ
るが,その余の点については,A1等のA1等各事業年度の各課税対象留保
金額も含め,当事者間に争いがない。
第3主たる争点
本件の争点は,本件各処分の各適法性であるところ,これを詳説すれば,次
のとおりとなる。
1A1等に係る外国子会社合算税制の適用除外の有無(本件各事業年度)
(1)A1等の主たる事業が卸売業に該当するか(該当する場合には非関
連者基準を満たすか)(争点①)
(2)A1等の主たる事業が卸売業に該当しない場合,所在地国基準を満
たすか(争点②)
(3)経済合理性を理由とする適用除外の可否(争点③)
(4)A1等につき外国子会社合算税制を適用することが濫用的な課税と
して手続的正義に反するか(争点④)
2本件源泉税に係る外国税額控除の可否(争点⑤,平成16年3月期)
3本件各処分に理由不備ないし理由差換えの瑕疵があるか(争点⑥,本件各
事業年度)
第4主たる争点に関する当事者の主張の要旨
1争点①(A1等の主たる事業が卸売業に該当するか(該当する場合には非
関連者基準を満たすか))について
【被告の主張】
(1)主たる事業の判断基準
ア措置法66条の6第4項の規定によると,同条1項の適用除外要件と
して,卸売業等を主たる事業とする特定外国子会社等については非関連
者基準が適用され,卸売業等以外の事業を主たる事業とする特定外国子
会社等については所在地国基準が適用されることになるため,特定外国
子会社等の主たる事業が卸売業等かそれ以外の事業かを判定する必要が
ある。
この点は基本的には事実認定の問題であると考えられるが,その前提
として,卸売業等の各種事業の意義や判定基準をどのように解すべきか
という点については,昭和50年2月14日付直法2-2租税特別措置
法関係通達(法人税編)(平成17年課法2-14による改正前のもの。
以下「措置法通達」という。)66の6-14本文が,特定外国子会社等
が措置法66条の6第4項1号又は2号に掲げる事業のいずれに該当す
るかどうかは,原則として日本標準産業分類(総務省)の分類を基準と
して判定すると規定し,課税実務上の取扱いを定めている。日本標準産
業分類は,統計調査の結果を産業別に表示する場合の統計基準として,
事業所において社会的な分業として行われる財貨及びサービスの生産又
は提供に係る全ての経済活動を分類するものであり,統計の正確性と客
観性を保持し,統計の相互比較性と利用の向上を図ることを目的として
設定されたものであって,特定外国子会社等が営む事業が卸売業等に該
当するかどうかなどを判断するに当たり,原則としてその分類を税務執
務上の判断基準とすることを明らかにした上記措置法通達の定めは,も
とより客観性・合理性を有するものである。
イそして,製造業については,措置法66条の6第4項1号に掲げられ
た卸売業等のいずれにも該当しないから,同項2号の規定により,所在
地国基準が適用されることになり,他方,卸売業については,同号に掲
げられているから,非関連者基準が適用されることになるところ,上記
日本標準産業分類における「製造業」が,新製品の「製造(加工)」業務
と「卸売」業務を要素とするものであることに照らせば,同分類上の「製
造業」と「卸売業」とは,基本的に,当該事業所において「製造」行為
を行っているか否かによって区別されることになると考えられる。この
ような解釈は,製造業と卸売業の本質的な相違点が製造活動を行ってい
るか否かという点にあることに基づくものである。すなわち,卸売業は,
商品の購買と販売の利ざやを利益の源泉とするものである一方,製造業
は,製造行為による付加価値を利益の源泉とするものであり,いずれも
商品又は原材料等の仕入れと商品(製品)の販売を行うという点におい
てはもともと共通した側面があるのに対し,かかる仕入れから販売まで
の過程に製造活動が介在しているか否かという点においてこそ,その本
質的な違いがあるのである。また,卸売業等以外の事業一般について所
在地国基準を採用した措置法66条の6第4項の立法趣旨は,軽課税国
に所在する特定外国子会社等であってもその地に所在することに十分な
経済合理性があれば課税対象とはされないという適用除外の基本理念に
照らし,当該特定外国子会社等が,その本店所在地において資本投下を
行い,その地の経済と密接に関連して事業活動(例えば,製造業であれ
ば製造行為)を行っているか否かという観点から,特定外国子会社等が
本店所在地国に所在していることの経済合理性を判断するのが適当であ
るという点にあると解され,ここでは,かかる経済合理性を判断する上
で,製造行為等の事業活動の経済的な実態が問題とされているのである。
そうすると,措置法66条の6第4項各号の適用においても,特定外国
子会社等が経営主体となっている事業所が製造行為という経済活動を行
っているか否かによって製造業と卸売業等を区別することは,卸売業等
以外の事業一般について所在地国基準を採用した同項2号の上記立法趣
旨にも合致する。
(2)本件各工場における事業の主体がA1等であること
中略
ア本件各第1協議書と本件各第2協議書との関係について
中略
イA1等は全面的かつ排他的に本件各工場の経営管理を行う権限を有し
ていたこと
中略
ウA1等が人事・組織面から本件各工場における製造行為を統括・遂行し
ていたこと
(ア)中略
(イ)中略
(ウ)中略
(エ)中略
(オ)中略
エA1等が事業計画面や物的側面から本件各工場における製造行為を管
理遂行していたこと
中略
オA1等は財務・会計面からも本件各工場において行われている製造行為
の帰属主体と認められること
中略
カA1等も自らの事業を製造業と表明していたこと等
中略
キ小括
以上のとおり,A1等は,全面的かつ排他的に本件各工場の経営管理
を行う権限を有しており,人事・組織面から本件各工場における製造行
為を統括・遂行して,事業計画や物的側面からも本件各工場における製
造活動を管理・遂行し,財務・会計面からも本件各工場において行われ
ている製造行為の帰属主体と認められ,しかも,香港の税務当局に対し,
自らの事業を製造業と表明していたこと等からすれば,A1等こそが,中
国広東省の本件各工場において行われている製造という経済活動の経営
主体であり,新製品の製造,販売等を行う製造業者であると認められる。
(3)A1等の主たる事業が製造業であること
特定外国子会社等が2以上の事業を営んでいるときに,いずれが「主た
る」事業であるかは,それぞれの事業に属する収入金額又は所得金額の状
況,使用人の数,固定施設の状況を総合的に勘案して判定すべきである。
そうであるところ,A1等の収入金額のほとんどが本件各工場における製
造活動の産物である「製品」の売上げにより占められているほか,その使
用人の多くが製造業務に従事し,その固定施設のほとんどが製造活動に使
用され,A1等が所有する固定資産の帳簿価額の合計額の大部分を,本件
各工場において使用される機械設備等の固定資産の帳簿価額が占めている
ことなどの諸事情を勘案すれば,A1等の主たる事業は製造業であること
は明らかであり,措置法66の6第4項1号所定の卸売業等のいずれにも
該当しない。
【原告の主張】
(1)主たる事業の判断基準
ア措置法66条の6に規定するタックスヘイブン対策税制は,租税回避
防止を唯一の目的として,外国法人については国内源泉所得等を有する
場合にのみ法人税納付義務があるとする法人税法上の基本原則に反した
例外的税制を定めたものであり,その趣旨は,経済的に合理的な理由も
なくいわゆるタックスヘイブン地域に子会社等を設立し,これを利用し
て税負担の軽減を図るような場合に,税負担の公平の見地から,例外的
に当該子会社等の留保利益を国内親会社の利益として合算して課税する
ことにある。こうした同条の趣旨等からすると,同条による課税は,本
来内国法人に帰属すべき利益を,合理性がないにもかかわらず通常用い
られない異常・不自然な法形式を選択して課税要件の充足を免れた場合
に限って,例外的に,特定外国子会社等の留保利益を国内親会社の課税
対象利益に合算するものというべきである。そして,同条4項は,タッ
クスヘイブン課税により日本企業の海外投資の自由が阻害され,日本企
業の国際競争力が毀損され,ひいては日本の国益にも反し得ることから,
こうした弊害を防止するため,経済合理性のある特定外国子会社等が行
う事業活動であって租税回避に該当しないものについては,上記法人税
法の原則に戻ることを示しているのであり,同項は,租税回避に当たら
ない経済合理性ある行為を類型化したものであるということができる。
したがって,同項1号の卸売業の意義についても,そうした措置法の趣
旨を踏まえる必要がある。のみならず,タックスヘイブン対策税制導入
後の日本企業の経済活動のグローバル化や事業形態の複雑化多様化等の
社会状況の大きな変化にもかかわらず,その適用除外要件の文言は変更
されていないことからすると,経済合理性を無視して適用除外要件を形
式的な解釈適用したのでは,ボーダレスな経済活動の実態に全くそぐわ
ないことになるから,その解釈適用に当たっては,経済合理性を十分に
考慮する必要があり,経済合理性ある経済活動については,広く適用除
外を認めていく方向で解釈すべきである。
また,租税法律主義(憲法84条)からすれば,措置法66条の6第
4項1号の業種を判定するに当たり,不明確,多義的な用語について,
立法の趣旨目的等を考慮することなく納税者に不利益に限定的又は拡張
的な解釈をすることは許されない。
イそうであるところ,措置法66条の6第4項1号の事業に該当するか
どうかの判定については,措置法通達66の6-14が,原則として総
務省が設定した日本標準産業分類の分類を基準として判定するとしてお
り,本件でA1等が行う主たる事業の業種を判定するに際しても,措置
法通達の定める日本標準産業分類を参考にしつつも,前記措置法の趣旨
によってこれを判定すべきである。
そして,日本標準産業分類を踏まえると,典型的な卸売業の意義は,
「有体的商品を購入して販売する業」と解すべきであるが,このような
有体的商品を購入する方法としては,既製品を購入する場合,材料,部
品等を調達してこれを製造業者に供給して組立加工を依頼し,組立加工
された製品を販売するような業務を行う場合(いわゆる「製造問屋」)な
ど多様な形式があるのであって,措置法66条の6第4項1号の「卸売
業」についても,古典的な既製品を購入して販売する卸売業の他に,自
らは物流・金融等の商社機能を持ち,下請け工場などに対して原材料・
情報提供や金融支援,技術・生産指導をしたうえで商品を買い取る場合
も含むと考えるべきである。かかる解釈は,多様な企業活動を尊重し経
済合理性ある企業活動を阻害しないという前記措置法66条の6第3項
の趣旨にも合致するものである。
(2)来料加工取引について
ア香港は,部品・原材料の調達の点及び物流機能,金融機能及びビジネ
スインフラといった貿易関連サービスの点において,他の国や都市と比
較して圧倒的に高い優位性を有し,世界各国の商社や金融機関が香港に
進出しているほか,いわゆるメーカーであっても,調達や貿易に関する
機能を活用するため商社機能を有する別会社を香港に設立して調達や販
売を行わせる例が多い。
他方,中国華南地方の珠江デルタは,貿易機能等の面で優位性を有す
る香港に隣接しているという地理的利点があるほか,香港と密接な関係
を有しており,香港と合わせた地域は,一体として,「華南経済圏」と呼
ばれる。そして,中国の改革開放以来,香港企業と珠江デルタにある中
国本土企業は,委託加工取引などで連携して華南経済圏を電気機器の一
大供給拠点として発展させてきたのであり,香港は,委託加工方式によ
る中国本土企業の生産活動を支える拠点として,また,輸出入,資金管
理や情報交換の中心地として,珠江デルタの企業活動に不可欠の要素と
されている。
イところで,外資企業が中国本土へ進出する形態には,中国本土に現地
法人を設立する形態のほか,委託加工や補償貿易という方法があるが,
このうち委託加工という形態として位置づけられる来料加工委託契約は,
中国本土企業のみならず,中国政府及び地方政府と外資企業との双方が
利益を追求する中で,次のような内容のものとして発展してきたもので
ある。すなわち,来料加工取引とは,外国企業が原材料,補助材料,部
品,組立部品,包装材料の全て又は一部を提供し,必要な場合には生産
設備も提供して,中国本土企業に製品の組立加工を委託し,同中国本土
企業が外国企業の上記委託に従って加工又は組立てを行い,製品を外国
企業に引き渡し,当該外国企業から加工料を取得することをその基本内
容とする取引であり,中国の法令ないし規則上,来料加工取引において
加工又は組立てを行っているのは中国本土企業であり,委託者である外
国企業はその対価として中国本土企業に加工料を支払っているにすぎず,
委託者である外国企業が自ら加工を行うなどということは全く予定され
ていない。具体的には,組立加工工場の土地建物及び寮は中国本土企業
が提供し,工場の建設及び附帯施設が必要な場合には,外資企業が有償
又は無償でその資金を提供することもでき,委託先工場の生産設備は,
外資企業が必要に応じて有償又は無償で提供するものとされているが,
組立加工工場における従業員の雇用及び企業と従業員の労働安全及び衛
生活動は中国本土企業が行わなければならないものとされており,来料
加工取引において,外資企業が管理者,技術者,労働者を雇用すること
は法的に不可能である。また,来料加工取引においては,外資企業は上
記生産設備のほか,工具,部品・原材料,工場建物の改装材料及び燃料
等を調達して委託先工場に供給し,これらを中国本土企業の従業員が組
立加工し,完成品を外資企業に輸出することになるが,この際,完成品
は全て発注者である外資企業に輸出されることが予定されており,政府
の厳しい管理を受けることを条件に,部品・原材料及び完成品の輸出入
関税と増値税(流通付加価値税)が免除されるが,供給された物品や完
成品を他に譲渡し又は転売することは厳に禁じられ,税関当局による監
視監督を受けることになる。さらに,来料加工取引では,外資企業は組
立ての対価として中国本土企業に加工料を支払うが,中国の法令ないし
規則上,ここには,工員の給与,ボーナス,従業員福祉保険,教育費,
管理費,工商税(売り上げに対して課される流通税の性格を持つ税目),
水道・電気代,工場・土地使用料,運送料,港使用料,工場建物・設備
の減価償却費,修繕費,外国貿易手数料及び利益等が含まれなければな
らないとされているところ,これは結局,来料加工委託契約においては,
中国本土企業が第一次的に組立加工の受託者としてこれらの費用を負担
するものの,これは加工料に反映され,外資企業がこれらの費用を全て
加工料として最終負担することを意味する。そして,中国本土企業は市
場競争原理の下での経営管理や技術的な能力に乏しいという背景に加え,
上記のとおり外資企業が完成品の全量引取義務を負うことなどから,来
料加工取引において,外資企業には事実上の義務として委託先工場の生
産工程や技術関係を指導することが求められる。そして,法の規定に従
い対外経済貿易委員会の審査と認可を受けて経営請負契約を締結するこ
とも可能とされるが,こうした手続がとられたとしても,委託先工場の
経営責任が外資企業に移転するわけではなく,組立加工事業を行うのは
中国本土企業であることが当然の前提とされ,人事(経営者,労働者の
人事),財務(予算の作成,財務決定権),通関,決算(利益の処分),照
合(経費の支出等の確認)等,工場の経営の根本にかかわるものは絶対
に外資企業に移転されない。なお,本件では,A1がB1工場全体の経営
を自ら請け負うための認可等の手続がとられたという事実もない。そし
て,以上のような,委託者が,受託者の工場に対して生産設備の一部を
提供するとともに,生産管理及び品質管理等の技術面において技術指導
等の関与をすることについては,我が国における通常の組立加工の委託
契約においてもいわゆる「外注管理」として一般に行われているもので
ある。
(3)A1等の来料加工取引について
中略
(4)A1等の香港における事業活動
ア中略
イ中略
ウ中略
エ中略
(5)A1等の主たる事業が卸売業に該当すること
中略
(6)被告の主張について
ア被告は,香港本社を中心としたA1等の総体が行っている事業の実態
や機能を全く見ようともせず,専ら,A1等の電気機器組立加工委託先で
ある,A4の組織上の一部であるB1工場等内でのA1の役割,関わり方
のみを審査の対象としているが,こうした事実認定の手法は,本件各更
正処分の結論形成過程において最も重要な点である「審査対象とすべき
基本的な事実関係」の理解を誤るものであり,失当である。また,措置
法66条の6第1項の適用除外要件を定める同条4項の定め方に照らす
と,本件においては,まずA1等の事業が同項1号に列挙された業種に
当たるか否かを判断するのが論理的順序であるところ,被告はそうした
条文構成を無視し,A1等の事業が同号に列挙されている業種に当たるか
否かを検討することなく,いきなり,A1等の業種が同号に記載のない「製
造業」であると断定しており,課税要件の理解を誤っている。
イまた,課税は原則として私法上の法律関係に則して行われるべきであ
り,課税庁としては,当事者間の契約が通謀虚偽表示である等の特段の
事情がない限り,これを尊重するのが当然であり,正当な根拠なく当事
者間の法律関係を否定してはならない。そして,本件において,A1等と
本件各公司との間では,中国の諸法規の適用と規制の下,来料加工委託
契約を締結しており,この来料加工委託契約が有効に存在しており通謀
虚偽表示などではないことは明らかであり,そうであれば,上記の私法
上の法律関係を検討するに際しては,上記来料加工委託契約に適用され
る中国法,取り分け強行法規として適用される法規の規定を考慮するこ
とが不可欠である。しかるに,本件各工場における製造行為の主体がA1
等であるとする被告の主張は,当事者が任意に締結し,かつ現に存在す
る契約関係を無視するものであり,課税要件の認定に必要な私法上の法
律関係は当該私法上の契約関係に即して決すべきであるという事実認定
における上記採証法則に反する。
ウ中略
(ア)中略
(イ)中略
(ウ)中略
(エ)中略
(オ)中略
(カ)中略
(キ)中略
(ク)中略
(7)A1等が非関連者基準を満たすこと
A1等は,その仕入取扱金額のほとんど全てが非関連者からの仕入れであ
るから,A1等の事業活動が非関連者基準を満たすことは明らかである。
2争点②(A1等の主たる事業が卸売業に該当しない場合,所在地国基準を
満たすか)について
【被告の主張】
争点①において述べたとおり,A1等は本件各工場における製造行為の経
営主体であり,その主たる事業である製造業を主として中国本土の本件各工
場において行っているものであり,本店の所在する「地域」である香港にお
いてはその主たる事業を行っていないから,所在地国基準を満たさない。
この点,原告は,特定外国子会社等がその行っている主たる事業を,主と
して本店又は主たる事務所の所在する「国」又は「地域」のいずれかにおい
て行っていれば,所在地国基準を満たすと主張する。しかし,外国子会社合
算税制の制度趣旨からすると,所在地国基準の適用に当たり,租税の負担が
ないか又は著しく低い「地域」に本店等が所在する特定外国子会社等が所在
地国基準を満たすためには,その事業を主として当該「地域」において行っ
ていると認められることを要すると解すべきであり,このことは,措置法6
6条の6第1項及び4項並びに措置法施行令の各規定等の条文構造からも明
らかであって,原告の主張は,外国子会社合算税制や所在地国基準の趣旨に
反するものである。そして,香港は,中国本土とは異なる独自の租税制度を
有し,かつ,その租税負担は世界的にも最も低いレベルにあり,代表的なタ
ックスヘイブンの一つとして,外国子会社合算税制が適用される典型的な「地
域」であると理解されているところであり,A1等が所在地国基準を満たす
ためには,その事業を主として本店の所在する「地域」である香港において
行っていると認められることを要するというべきであり,原告の上記主張は
失当である。
【原告の主張】
仮に,A1等の主たる事業が卸売業に該当しないとしても,本件においては
措置法66条の6第4項2号に規定する所在地国基準を満たしている。
(1)すなわち,A1等の主たる事業が卸売業か否かにかかわらず,香港
に主たる事業を行うのに必要な事務所を有し,香港でその事業の管理,支
配及び運営を自ら行うとともに,香港で製品を販売することで収入・所得
をあげるなどしており,A1等は,その事業の主たる部分を本店所在地で
ある香港で行っている。
(2)また,措置法66条の6第4項2号の文理からすれば,特定外国子
会社等が,その主たる事業を,主として本店又は主たる事務所の所在する
「国」又は「地域」のいずれかにおいて行っていれば,所在地国基準を満
たすというべきところ,香港は,平成9年7月1日にその主権がイギリス
から中国に返還された以後は,中国の一特別行政区であり,中国の他の直
轄地(上海市等)や省と同レベルの地方行政区である。したがって,香港
は中国の一部で同じ「国」であり,A1等は,その事業を主として本店の
所在する「国」で行っているから,所在地国基準の要件を満たすというべ
きである。
さらに,措置法66条の6第4項2号が所在地国基準を定めている趣旨
は,特定外国子会社等がその本店等の所在する国又は地域において,その
地の経済と密接に関連して事業活動を行っている場合には,当該特定外国
子会社等がタックスヘイブン地域に設立されたことにつき経済合理性が認
められるという点にあるところ,争点①について述べたとおり,香港と本
件各工場の所在する広東省は,いわゆる華南経済圏として地理的にも経済
的にも一体といえる。のみならず,来料加工委託契約の下では,香港と委
託先工場との間で,税関の監視下にある封印されたトラック等によって保
税状態を保ちながら,部品・原材料及び製品の出入れが行わなければなら
ず,その出入れには,関税・増値税がかからないものとされており,これ
によれば,少なくとも来料加工取引との関係では,香港と委託先工場とは
税務行政上同じ地域であり,あたかも一つの保税区のように取り扱われて
いるといえる。したがって,所在地基準の判定に当たっては,香港と封印
されたトラック等によって結ばれた委託先工場とは同一の「地域」に当た
ると解すべきであり,仮に,A1等の主たる事業が卸売業に該当しないと
しても,A1等は所在地国基準を満たしている。
3争点③(経済合理性を理由とする適用除外の可否)について
【原告の主張】
措置法66条の6第4項が規定するタックスヘイブン対策税制の適用除外
事由の立法趣旨は争点①において述べたとおりであるところ,そのような立
法趣旨からすると,端的に,経済合理性ある企業活動を行う企業については,
広く適用除外規定を充足すると解釈すべきである。
そして,A1等が香港に所在し,本件各公司との間で来料加工取引を行う
ことに経済合理性があることは争点①において述べたとおりであるから,A1
等については適用除外事由を充足すると解すべきである。
【被告の主張】
争う。
外国子会社合算税制の適用の有無は,措置法66条の6に規定された要件
に従って判断されるべきであり,これとは別に「経済合理性があること」が
独立の適用除外要件となると解釈することはできない。
4争点④(A1等につき外国子会社合算税制を適用することが濫用的な課税と
して手続的正義に反するか)について
【原告の主張】
本件各更正処分は,①経済合理性のある企業活動についてタックスヘイブ
ン課税をしないという立法の経緯及び趣旨に反するものであり,こうした課
税は我が国企業の国際競争力が大幅に減殺するものである上,②従来の取扱
いを突然変更し,同時期に成立した移転価格税制における一国内事前確認と
の関係でも,原告の予測可能性を無視するものであって,国家権力の濫用と
もいえる課税処分であり手続的正義に反し違法である。
(1)国際競争力への影響
来料加工取引は,中国の法制度に基づく厳格な許認可・管理の下で,香
港及び広東省を中心にして発展してきたものであり,国際的なコスト削減
競争に対抗するために香港に進出した多くの日本企業(特に中小企業)に
とって欠くことのできない取引形態となっており,華南地方には,日系香
港企業の委託先工場だけで少なくとも約4000工場あるとされている。
また,タックスヘイブン対策税制の立法過程の検討でも,その課税の対象
は,パナマ等に設立されるペーパーカンパニーや関係会社間の取引を形式
的に仲介するダミー的会社のみとされ,独立した企業としての実体があり,
正常な事業活動を行う企業はタックスヘイブン課税の対象として想定され
ていなかったのである。
そうであるとすれば,A1等のように,本店所在地である香港に実体があ
り,香港に所在することに経済合理性があって,かつ,独立企業として事
業活動を行っているものに対し,タックスヘイブン課税をすることは,法
の趣旨に反し,また,こうした課税が容認されれば,国際的なコスト削減
競争に対抗するために香港に進出し,正常な事業活動を行ってきた多数の
日本企業に大きなダメージを与え,我が国の国際競争力に悪影響を与える
結果となることは明らかである。香港・華南地区では,世界各国から香港
に進出した数万社の企業によって来料加工取引が行われているが,我が国
以外に来料加工取引に対してタックスヘイブン対策税制を適用している国
はない。
(2)課税に関する予測可能性に反すること
課税庁は,過去10年の長期間にわたり,A1等の業種が「卸売業」で
あるとの前提の下に,A1等が非関連者基準を満たしていることを理由と
して,タックスヘイブン課税の適用を除外してきたとみられるのであり,
原告もこれを当然とし,これを前提として厳しい国際競争を闘ってきた。
のみならず,課税庁は,本件タックスヘイブン課税に先行して,平成12
年11月頃から,移転価格税制に基づき原告及びA1を税務調査し,平成
17年6月29日には,原告とA1との間の国外関連取引に関しての移転
価格税制における一国内事前確認(以下「APA」という。)が成立してい
るところ,そこでは,製品の販売から生じた利益の半分をA1が生み出し
たものと認めているのであり,A1が単なるペーパーカンパニーとして租
税回避に利用されているわけではないことを十分承知していたはずである。
しかるに,課税庁は,これまでの原告に対する法人税課税の経緯を無視し,
また,APAでA1の実体を認めたことすら反故にして本件各処分をした
のである。こうした濫用的課税処分がされるのでは,企業は,課税に対す
る予測が不可能となり,安心して経済活動を行うことができないのであっ
て,このような濫用的課税処分は断じて許されるべきものではない。
【被告の主張】
争う。
原告は,従前の経緯に照らして本件各処分が濫用的な課税処分であると主
張するが,A1等の主たる事業が製造業であることは,本件各更正処分に係
る税務調査により初めて明らかになったものであり,それまでの間,原告に
おいてA1等の業種を「卸売業」とする誤った申告を行っていたからといっ
て,課税庁がかかる申告内容を是認していたことになるものではない。原告
が指摘するAPAについても,移転価格税制やその事前確認の制度と外国子
会社合算税制の適用とは無関係であるから,原告の主張は失当である。
5争点⑤(本件源泉税に係る外国税額控除の可否)について
【被告の主張】
(1)外国税額控除が適用される外国税の範囲
ア我が国が採用する外国税額控除の仕組みは,全世界所得課税主義,す
なわち自国の国民や法人の所得につき,その源泉が国内にあるか国外に
あるかを問わず,その全てを課税の対象とする結果,外国政府に納付し
た所得税ないし法人税と,我が国の所得税ないし法人税が二重に課せら
れることになるため,それを是正する制度である。
そうであるとすれば,ある外国の租税に「所得税」や「法人税」とい
う名称が付されていても,我が国の法人税法上の「所得」とは基本的な
性格を異にするものを課税標準とする外国の租税の場合には,そもそも
同一の所得に対する国際的二重課税が生じているとはいえないから,か
かる租税をあえて外国税額控除の対象とする必要がない。このような場
合に,原告の納付すべき我が国の法人税額から当該外国の租税相当額を
減額することとするならば,我が国が本来確保すべき税源を外国に無償
で移譲してしまうことになり,かかる事態は外国税額控除制度の趣旨目
的に反するものである。
したがって,外国税額控除は,同一の所得に対して国際的二重課税が
生じた場合,すなわち,利息や配当の受け取り,役務提供の対価の受け
取りなどもろもろの取引により発生したある一つの所得に対し,我が国
の法人税が課税されると同時に外国からも当該所得を課税標準として税
が課された場合,すなわち,当該租税が我が国の「法人税に相当する税」
に当たるか否かによって判断すべきである。
イ外国法人税について,上記のように解すべきことは,以下の点からも
明らかである。
(ア)すなわち,法人税法69条1項は,「外国法人税」の意義につい
て,「法人税に相当する税」で政令で定めるものとする旨規定しており,
この規定ぶりからすれば,当該「法人税」とは,我が国の法人税を指
すものと考えることができる。そして,法人税法施行令141条1項
は外国法人税を,我が国の法人税に相当する税であると定めた同法6
9条1項の委任に基づき,その具体的な範囲について規定したもので
あるから,その解釈にあたっては,上記法の外国法人税についての解
釈を前提として解釈しなければならないのであり,同施行令141条
1項における外国法人税の定義についても同様に解すべきである。
(イ)また,法人税法施行令141条3項は上記「外国法人税」に含
まれない税の類型について具体的に規定しているが,同項は,平成1
3年法律第6号による税制改正(以下「平成13年税制改正」という。)
において新たに加えられたものであるところ,この改正は,政府税制
調査会の「中期答申」(平成12年7月)において,「控除対象となる
外国税の範囲について,二重課税の排除という制度の趣旨を踏まえて
明確化することが求められる。」と述べられたことを受けて,外国税額
控除は,単なる損金算入ではなく,自国法人税額を直接相殺する仕組
みであることから,対象となる外国法人税の要件についても,自国法
人税に相当することを適正に捉える必要があるとの考えをもとに,我
が国の法人税に相当しない例を明記することとされたものである。こ
のように,外国税額控除の対象となる外国の租税が,我が国の法人税
に相当するものであることが必要であることは明らかであるといえる。
(ウ)さらに,法人税法施行令141条3項3号は,みなし配当(法
人税法24条1項)の基因となる事由により交付を受ける金銭の額又
はその他の資産の価額に対して課される税は,外国法人税に含まれな
い旨定めているところ,立法担当者は,この規定につき,みなし配当
の基因となる事由による金銭等の交付のうち,その交付の基因となっ
た株式の取得価額を超えない部分は,単なる出資の払い戻しにすぎず,
我が国の法人税法上の「所得」を生じさせるものとはいえず,我が国
では所得を構成しないものであるから,外国法人税に含まれない旨解
説している。ここから,同施行令は,我が国では所得を構成しないも
のに対して課される外国の租税は,「所得を課税基準とする税」とはい
えず,ひいては「法人税に相当する税」に当たらないという考え方を
採っているといえる。
(エ)また,実質的にも,国内法令の概念にない外国の租税を外国税
額控除の対象とした場合には,日本の税制及び税収が外国の税制に左
右されることになる上,納税者間の公平が害され,投資活動に対する
税制の中立性が維持できなくなるのであって,そのような事態は,外
国税額控除の制度が,国際二重課税を排斥し,事業活動に対する中立
性を確保しようとする制度目的を有することに反するものであるとい
える。
(オ)以上により,内国法人が納付した外国の租税が外国税額控除の
対象となる「外国法人税」に該当するかどうかは,我が国の法人税法
が定める法人税の基本的な性格を基準として,その外国の租税が我が
国の「法人税に相当する税」に当たるか否かという観点から判断され
るべきである。
(2)本件源泉税が,我が国の法人税に相当する税に該当しないこと
そこで,本件源泉税が,我が国の法人税に相当する税に当たるか否かに
ついて検討すると,我が国の法人税法は,「各事業年度の所得の金額」を法
人税の課税標準と定めているところ,この所得の概念は,我が国の法人税
の基本的な性格を決定付ける重要な要素であるから,ある外国の租税が,
我が国の法人税に相当する税といえるためには,当該租税の課税標準が,
我が国の法人税法上の所得と基本的な性格を共通にしていることが必要で
ある。そこで,法人税法施行令141条1項にいう「所得」は基本的には,
法人税法22条で算定される所得の内容と同じと考えるのが相当であると
ころ,同条1項においては,内国法人の各事業年度の所得の金額は,当該
事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする旨
を定めており,同条2項において,「益金」を各種の取引に係る当該事業年
度の収益として観念していること,同条3項において「損金」から資本等
取引を排除する旨規定していることからすれば,我が国の法人税法上の「所
得」は,企業会計上の当期利益と性格は同一であって,実現した収益から
原価,費用,損失を控除した残額としてのいわゆる純所得概念として把握
されるものであり,また資本等取引を排除して計算することが前提となっ
ている。
したがって,我が国の法人税法上の「所得」とは,実現した収益から原
価,費用及び損失を控除した残額であり,未実現の利得は特別の定めがな
い限り,課税の対象から除外されているのであるから,我が国の法人税法
が未実現の利得と見て課税の対象から除外している利得に対して課された
外国の租税は,法人税法施行令141条1項にいう,「所得を課税標準と
する税」には該当せず,外国法人税に当たらないというべきである。
(3)本件源泉税は未実現の利益に対する課税であり,我が国の法人税法
上の所得に当たらないこと
我が国においては,平成2年法律第64号による商法改正(以下「平成
2年商法改正」という。)前には,株式会社において配当可能利益の資本組
入れと株式の追加発行が併せて行われる場合,当該資本組入額のうち,当
該株式会社の株主等である内国法人が有する株式に対応する部分の金額に
ついては,それに見合う新株の発行の有無にかかわらず,利益の配当とみ
なされ,その内国法人が当該組入れ時において当該金額の交付を受けたも
のとして,当該利益について課税の対象とされてきたところ,上記みなし
配当課税は,未実現の利益に対する課税であったことから,法人税法22
条2項が採用する実現原則を排除する特別の定めとして,平成13年税制
改正前の法人税法24条2項2号において規定されていた。一方台湾にお
いては,配当可能利益の資本組入れとともに行われる株式の追加発行は,
利益の配当であると考えられ,当該配当について課税がされているが,こ
れは我が国の平成2年商法改正前における株式配当制度に相応する制度で
あると考えられる。
一方,我が国においては,平成13年税制改正において,みなし配当制
度についての抜本的改正が行われ,資産の交付を伴わない場合のみなし配
当課税は廃止されることとなり,上記法人税法24条2項2号が削除され,
これにより未実現の利益に対する課税はされないことになったため,かつ
ての株式配当と同様に,配当可能利益の資本組入れと株式の追加発行が併
せて行われる場合にも,法人税の課税関係は一切生じないこととなった。
すなわち,現在の我が国の法人税法の解釈適用上は,上記資本組入れにつ
いては,株主に未実現の利得としての増加益を生じさせるにとどまるので
あって,法人税課税の対象とはならず,また,新株の追加発行についても,
その法的性質は株式の分割であって,各株主の持分に変動を与えるもので
はないのであり,法人税の課税関係を生じさせるものではないから,株式
配当を受けても原告には何ら収益が生じず,所得は認識されないと考えら
れている。
したがって,本件源泉税は,我が国の法人税法が課税対象である「所得」
について採用している実現原則に照らせば,「所得」といえないものに課さ
れた租税にほかならず,我が国の法人税法上の所得に対して課された税と
はいえないことになる。
(4)まとめ
以上により,本件源泉税は,我が国の法人税が課税対象とする所得に対
して課された租税とはいえず,我が国の法人税に相当する税に該当しない
から,これについて控除をしなかったとしても,二重課税は生じないこと
になる。
現に原告は,A9の新株の発行を受けた事実に関し,平成16年3月期の
確定申告において,何ら益金を計上しておらず,我が国の法人税法上上記
行為によっては所得が認識されないことを前提に確定申告を行っており,
課税庁も本件源泉税の課税標準とされた金額を我が国の法人税法上の「所
得」とは認識していないのである。このため,本件源泉税の課税標準とさ
れた金額に対して我が国で法人税が課税されることはなく,二重課税の状
態は生じていない。
原告は,株式配当によって交付された株式に対して台湾でみなし配当課
税が行われたにもかかわらず,当該株式を譲渡した際に当該株式配当によ
り取得した株式の取得価額を零として譲渡原価を計算して,我が国の法人
税法上譲渡益課税を行うとすれば,結果的に株式配当において課税された
金額について二重課税が発生する余地があるため,みなし配当課税が行わ
れた時点で当該税額を外国税額控除の対象とすべきであると主張する。し
かしながら,本件のように,台湾においてみなし配当課税が課されたもの
の,いまだ株式の譲渡が行われていないような場合には,譲渡益に対する
課税も生じていないのであるから,二重課税が生じていると解することは
できない。
【原告の主張】
(1)外国税額控除の対象となる外国法人税について,法人税法69条1
項が「外国の法令により課される法人税に相当する税で政令で定めるもの」
と規定し,法人税法施行令141条1項が,外国税額控除の対象となるの
は,「外国の法令に基づき外国又はその地方公共団体により法人の所得を課
税標準として課される税」と規定しているところ,本件源泉税額は,台湾
において台湾の法令に基づいて課された租税であるから外国の法令に基づ
き課された税に当たり,かつ,以下のとおり,「法人の所得を課税標準とす
る税」に当たるのであるから,上記外国税額控除の対象となる租税に該当
する。
すなわち,法人税法22条によれば,我が国の法人税法上「所得」とは
当該事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額であり(同条1項),
当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は当該事業年度の収益の額であ
り(同条2項),収益の額は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に
従って計算されるものとされているのであるから(同条4項),株式配当が
利益配当としての意味を有する法制度を保有している国において,利益配
当としての株式配当を受けた場合には,我が国の法人税法上においても,
これがその株式配当を受けた法人の「所得」となることは否定できないと
ころである。
そして,法人に対する営業事業所得税も規定している台湾の所得税法は,
当期利益の資本組入れと併せて行われる株式配当を利益の配当と解した上
で,当該配当を課税対象である実現した所得と認定し,源泉所得税の徴収
をしているのであるから,我が国の法人税法上においても,当該配当が「所
得」に当たることは明らかである。したがって,本件源泉税は,外国税額
控除の対象となる外国の法令に基づき外国により所得を課税標準として課
される税に当たるということができる。
(2)被告は,外国税額控除の制度が,同一の所得に対して外国で課税が
されている場合に,その課税額を我が国の法人税額から控除することによ
り,国際的二重課税を排除する趣旨の制度であるところ,我が国の法人税
法に基づく課税標準と異なる所得を課税標準とする外国税であれば,同一
の所得に対して二重に課税をすることにはならず,国際的二重課税は生じ
ないのであるから,外国税額控除の対象となる外国法人税は,我が国の法
人税法に基づく課税標準と同様の所得を課税標準とする税であることが必
要であると主張する。
しかしながら,外国税額控除の対象となる外国法人税について,法人税
法69条1項,法人税法施行令141条1項の文言上,日本の法人税法に
基づく課税標準と同様の所得を課税標準とする税であることは要件とされ
ていない。
また,外国税額控除の制度趣旨が国際的二重課税の排除にあることはそ
の通りであるものの,国際的二重課税が生じるか否かについては,次のと
おり,実質的に同一の利益について課税されているか否かを見て判断すべ
きであり,被告主張のように,形式的に,外国において課された租税が,
我が国の法人税法と異なる課税標準について課税されているから,外国税
額控除の対象とはならないと解するのは妥当ではない。外国において課さ
れる税について,我が国の法人税と実質的に同一の利益を目的とする租税
であるにもかかわらず,外国税額控除をしないとすれば,国際的二重課税
を排除することができないのであって,これは外国税額控除の制度趣旨に
反するものである。
(3)我が国の法人税法において,二重課税の判断に当たって実質的な基
準を採用するべきことは,以下の点から明らかである。
アすなわち,平成2年商法改正前については株式配当について利益の配
当がされたものとして当該利益を課税標準として課税され,平成13年
税制改正前の法人税法では,資本に組み入れられた利益積立準備金のう
ち,当該株主が保有する株式に対応する部分の金額を利益の配当とみな
して,当該利益を課税標準として課税がされていた。さらに,これらの
株式を後に譲渡した場合には,譲渡益を課税標準として課税をされると
ころ,利益積立金の資本組入れないし株式配当がされた時点で課税され
た額だけ株式の取得価額を増加させて,譲渡益をその分だけ減額する扱
いとなっていた。これは利益課税をした以上,それを反映させて譲渡益
を算定しなければ,部分的にではあるが,実質的に同一の利益に対する
課税がなされることになり,実質的には二重課税となってしまうことに
よるものである。このように,利益配当がされた場合の課税標準と株式
が譲渡された場合の課税標準とは全く異なるものであるが,実質的に二
重課税となってしまう場合には,我が国の法人税法,所得税法上,これ
を排除する仕組みがとられていたのである。
イまた,平成13年税制改正後,利益積立金額の資本組入れについて,
組入れ額のうち当該株主が有する株式に対応する部分の金額を利益の配
当とみなす規定が削除され,利益積立金額の資本組入れとこれに伴う新
株の発行が行われた場合でも,利益積立金額の資本組入れに対する課税
はされないことになり,上記取得価額の調整規定が削除され,株式が譲
渡された場合に,利益積立金額の資本組入れ以前の株式の帳簿価額と譲
渡価額の差額が譲渡益であるとして課税されることになった。
しかし,平成13年税制改正前に利益積立金の資本組入れが行われ,
同改正後に株式が譲渡された場合に,資本組入れの時点で課税され,譲
渡の時点にも課税されることになるが,譲渡の際に取得価額に資本組入
れがされたことを反映する規定が削除されているため,これを反映させ
ないまま課税がされることにより,実質的に二重課税が生じることにな
る。そこで,平成13年法律第6号の附則2条では,同改正前に利益積
立金額の資本組入れが行われていた場合の法人税については従前の例に
よるとされた。
ウこのように,我が国の法人税法,所得税法は,二重課税が生じるかど
うかについて,課税標準が同じであるかどうかといった形式的な基準に
よるのではなく,実質的に同じ利益に二重に課税をしているかどうかと
いう基準を採用しており,実質的に二重課税となる場合には,それを排
除するための仕組みが設けられているといえる。
(4)以上により,外国税額控除の対象となる税は,我が国の法人税法に
基づく課税標準と同様の所得を課税標準とする税である必要はなく,「外国
の法令に基づき外国により所得を課税標準として課される税」であって,
当該租税を控除しなければ,我が国における課税との関係で,国際的二重
課税が生じてしまう場合であれば,これに当たると解すべきである。
(5)なお,平成2年商法改正前においては,我が国においても,株式配
当自体を利益の配当と解していたところ,同改正後においては,利益積立
金額の資本組入れがされた場合に,資本に組み入れた利益積立金額のうち
当該株主が有する株式に対応する部分の金額を利益の配当とみなすことと
されたが,これは,我が国内部における法制度において,何をもって利益
の配当とみるかという点を変更したにすぎず,これと異なる法制度,本件
においては,台湾における課税制度において,株式の配当につき,利益の
配当と解釈した上で,それが我が国の法人税法上の「所得」であることを
否定するものではない。
また,平成13年税制改正において,我が国の法人税法は,利益積立金
額の資本組入れにつき,これを課税標準としなくなったが,これは利益積
立金の資本組入れがされた場合に,これによりキャピタルゲインとしてそ
の時点で課税標準とするか,それとも株式が譲渡されてキャピタルゲイン
が実現された場合にその時点で課税標準とするかについての運用を変更し
たにすぎず,我が国の法人税法上の「所得」概念を,変更させるものでは
ないから,この改正により,別の法制度のもとで,利益積立金の資本組入
れを法人税施行令141条1項の「法人の所得」に該当すると解すること
に支障はない。
このように,平成2年商法改正,平成13年税制改正は,いずれも同施
行令141条1項の「法人の所得」の概念に変化をもたらすものではない
のである。
(6)上記のとおり,外国税額控除が,所得を課税標準として外国で納税
した税目について,自国の法人税の税額から控除することで国際的二重課
税を排除することを目的とする制度であることから考えれば,外国税額控
除の対象となる税は我が国の法人税法に基づく課税標準と同様の所得を課
税標準とする税である必要はなく,当該制度趣旨を踏まえ,当該税目につ
いて我が国において税を課すことで,二重課税となるものであるかによっ
て判断すべきである。
本件において,外国税額控除の対象としないことで二重課税が生じるか
について検討すると,前記のとおり,台湾においては,株式配当が利益配
当に当たることを前提として,配当額を課税標準とする課税がされている
一方,我が国の現在の法制度のもとでは,利益配当としての株式配当とい
う制度は存在せず,新株発行の前提となる利益積立金額の資本組入れが当
該会社の株主の保有する株式の価値を増加させるはずであると考えた上で,
その増加益(キャピタルゲイン)が実現するのはその株式の譲渡時である
ため,その時点において,増加益を含めた譲渡益を所得として,これを課
税標準とする課税をしている。このように,台湾における課税と我が国に
おける課税とは,課税標準が異なるので,外形的には双方に課税がされて
も二重課税とはならないようにも思える。
しかし,実質的に見れば,株式譲渡の際には,利益積立金額の資本組入
れより前の株式の帳簿価格と譲渡価格との差額が譲渡益であるとして課税
されるところ,台湾において,利益積立金額の資本組入れに伴う新株配当
について課税がされていた場合に,これを考慮して株式の取得価額を増加
させなければ,同一の利益について部分的にではあるが,二重に課税がさ
れることになり,これは前記の我が国におけるみなし配当課税における状
態と同様であるといえるところ,現在の我が国の法人税法においては,当
該株式を譲渡するに当たっては,その株式配当で課税標準とされた金額を
株式の取得価額の計算にあたって考慮に入れないのであるから,台湾で株
式配当に課税がされた年度において,その税額が外国法人税に当たるとし,
これを当該年度の我が国の所得に対する法人税額から控除しなければ,実
質的に二重課税となることは避けられない。
したがって,外国税額控除制度の趣旨が,二重課税を避けるためである
ことから考えれば,本件においても,外国税額控除が適用されることは明
らかである。
6争点⑥(本件各処分に理由不備ないし理由差換えの瑕疵があるか)につい

【原告の主張】
(1)青色申告の更正処分においては,理由付記が必要とされており(法
人税法130条2項),このように理由付記が効力規定とされているのは,
処分の判断の慎重・合理性を担保して恣意的な処分を抑制するとともに,
処分の理由を相手方納税者に知らしめて不服申立てに便宜を与えるという
趣旨によるのであり,当該趣旨に鑑みれば,青色更正処分の理由付記が不
備である場合には,その内容の適否を問うまでもなく,その処分は違法と
なる(最判昭和38年5月31日・民集17巻4号617頁)。なお,通則
法74条の2は租税法の領域について行政手続法の適用除外を規定してい
るため,本件において行政手続法14条は直接には適用されないが,我が
国において平成6年に行政手続法が施行されたことにより,理由付記など
の手続保障の要請は強化されていることから考えれば,更正の理由付記に
関する規定は,より強い要請を受けて適用すべきである。
また,上記理由付記の趣旨からすれば,青色申告の更正処分における付
記理由をその後の不服申立手続や訴訟手続において,差し換えることは許
されず,当該処分は手続的に違法となる。
(2)本件各更正処分における付記理由としては,A1は,A4の所有する
B1工場等における製造行為について,外殻(営業許可,通関,行員募集
企画)を得て,自らの計算と負担で主体的に行っていると認められること
等が主に記載されているが,これについての根拠となる資料をほとんど示
していないばかりか,A1の主たる事業が製造業であることを認定する根
拠を何ら明らかにしておらず,明らかに理由不備である。
ところが,異議決定においては,処分理由について,A1の業種の判断に
ついては,単なる協議書における文言だけではなく,経営主体が行う経済
活動が何であるかという観点から判断する必要があり,具体的には,B1
工場の生産管理(工程管理,品質管理,労務管理)及び製造行為に係る損
益の帰属が誰にあるかにより判断を行う必要があるとして,経営主体の行
う経済活動が何であるかという実質論を中心として記載し,理由の差換え
を行っている。さらに,A1は製品の製造についての経営主体,A4は建物
等及び工員の提供に関する経営主体となるとの二重構造論を展開するなど,
理由の追加も行っている。
また,本件訴訟において,被告は,処分時の付記理由や異議申立手続,
審査請求手続では取り上げられていないB1工場以外の協議書や工場の運
営についての主張をしており,かつ,被告の主張する実質協議書の約定内
容やこれに基づく各工場の経営の実態を根拠として,各工場において行わ
れている製造行為の経営主体についての主張をするなど,理由の追加,差
換えを行っている。
以上のとおり,異議決定及び審査請求時以降の課税庁側の主張は,本件
各更正処分に付記理由として記載されている外殻論から実体論に差し換え
られているものであり,また,本件訴訟における被告の主張は,異議申立
手続において全く主張されていなかった,A4,B1工場以外の事由につい
ても追加主張されているものであって,理由の差換えないし追加がされた
ものであるから,違法である。
【被告の主張】
(1)判例上,処分時の付記理由とは異なる主張を訴訟において主張した
場合にも,それによって被処分者に争訟上格別の不利益を与えることがな
い場合には,いわゆる理由の差換えの枠外の問題であり,理由の差換え固
有の問題はそれが被処分者の争訟上の利益にかかわるような場合に限定さ
れるとされている(最判昭和56年7月14日・民集35巻5号901頁)。
(2)本件において被告が主張する本件各更正処分の処分理由は,本件各
通知書における付記理由の段階から実質的には全く変更されておらず,所
得金額にも何ら変更はない。その上,原告は特定外国子会社等に当たるA1
等の主たる事業が何であるかといったことについては,熟知しているはず
であるのだから,被告が本件において,各工場の経営実体を根拠とした主
張をすることによって,被処分者である原告に格別の不利益を与えるもの
ではないことは明白である。したがって,本件において処分理由の差換え
の問題が生じる余地はない。
なお,原告は,本件各通知書に記載された更正の理由と異議決定書及び
審査請求に対する答弁書の記載が異なる旨主張するが,本件は異議決定や
審査裁決の取消訴訟ではないから,かかる主張は失当である。
第5当裁判所の判断
1争点①(A1等の主たる事業が卸売業に該当するか(該当する場合には非
関連者基準を満たすか))について
(1)総論
ア製造業と卸売業の区別の意義
措置法66条の6第1項の規定するタックスヘイブン対策税制は,内
国法人が,法人の所得等に対する租税の負担がないか又は極端に低い国
又は地域(いわゆるタックスヘイブン)に子会社を設立して経済活動を
行い,当該子会社に所得を留保し,我が国での税負担を不当に軽減する
ことを規制することを目的とする制度である(乙4)。一方,同条4項の
規定するタックスヘイブン対策税制の適用除外規定は,特定外国子会社
等の所在地国における事業活動が正常なものとして経済的合理性を有す
る場合にまでタックスヘイブン対策税制の対象とすることは,我が国の
民間企業の海外における正常かつ合理的な経済活動を阻害することにな
り妥当ではないことから,たといタックスヘイブンに所在する特定外国
子会社等であっても,当該企業が独立企業としての実体を備え,かつ,
その地で主たる事業を行うことに十分な経済的合理性があると認められ
る場合には,例外的にタックスヘイブン対策税制の適用を排除しようと
する趣旨で定められたものである(甲24,99,乙4)。
そして,同項においては,タックスヘイブン対策税制の適用除外要件
として,事業基準,実態基準及び管理支配基準のほかに,卸売業等の一
定の業種については非関連者基準を,その他の業種については所在地国
基準を満たすべきことが規定されているところ,このうち,所在地国基
準は,その事業にとって本質的な行為の行われる場所が主としてその本
店所在国又は地域にあり,本店所在地国又は地域において資本投下を行
い,その地の経済と密接に関連して事業活動を行っていると評価できる
場合には,特定外国子会社等がその地に所在する経済的合理性を推認し
得るという認識に基づき,その事業を主としてその本店又は主たる事務
所の所在する国又は地域において行っていることを要件としたものであ
る(乙4)。
これに対し,卸売業等の同項1号に挙げられた事業については,その
事業の性質上,事業活動の範囲が必然的に国際的にならざるを得ず,こ
れらの事業を営む特定外国子会社等に対して,地場経済との密着性を重
視する前述の所在地国基準を適用することには無理があり,それよりも,
その事業を関連者との取引に頼っているような企業は,その地に所在す
る経済的合理性が希薄であると考えられることから,その事業の大半が
関連者以外の者との取引から成っているかどうかで判断するのが適当で
あるとして,非関連者基準を適用することとしたものである(甲24,
乙4)。
そうであるところ,本件においては,同項の適用除外要件のうち,所
在地国基準と非関連者基準のどちらが適用されるかについて,原告は,
A1等の主たる事業は同項1号所定の卸売業に該当するから,非関連者
基準が適用されると主張するのに対し,被告は,A1等の主たる事業は
製造業に該当し,同項2号により所在地国基準が適用されると主張して
いる。そこで,製造業及び卸売業の意義並びにその区別基準が問題とな
るが,措置法上,製造業及び卸売業の用語についての定義規定は特に設
けられていないことから,製造業と卸売業との区別に当たっては,卸売
業と製造業の社会通念上の意義を基礎として,上記アの適用除外要件の
趣旨・目的を考慮して解釈することが必要というべきである。
イ製造業と卸売業の区別の基準
(ア)ところで,特定外国子会社等の営む事業が同項1号又は2号に
掲げる事業のどちらに該当するかについては,措置法通達66の6-
14が,原則として総務省が設定した日本標準産業分類(乙6)を基
準として判定することとしているところ,同分類は,統計調査の結果
を産業別に表示する場合の統計基準として,多岐にわたる経済活動を
分類したものであり,一般の社会通念が反映されたものとして客観性,
合理性を有しているといえる。
そして,同分類によれば,製造業とは,新たな製品の製造加工を行
い,かつ,自ら製造した新たな製品を主として卸売りする業務を行う
事業をいうとされ,自らは製造を行わないで,自己の所有に属する原
材料を下請工場などに支給して製品を作らせ,これを自己の名称で販
売する製造問屋は製造業とせず,卸売業又は小売業に分類するとして
いる。一方,卸売業とは,小売業又は他の卸売業に商品を販売するも
のであり,自らは製造を行わないで,自己の所有に属する原材料を下
請工場などに支給して製品を作らせ,これを自己の名称で卸売りする
いわゆる製造問屋を含むとしている。
以上の分類によれば,製造業と卸売業とは,製品又は商品を販売す
るという点については共通しているものの,製造業とは,自ら新たな
製品の製造加工を行い,これを販売して製造原価と販売額との差額に
よる利益を得る業種であるのに対して,卸売業とは,自らは製造を行
わず,既に製造された製品又は商品を購入して販売し,それらの価格
の差益により利益を得る業種であるから,結局,卸売業と製造業とは,
販売する製品(商品)を自ら製造しているかどうかにより区別される
ということができる。
(イ)また,措置法66条の6第4項の適用除外要件の趣旨に照らし
てみても,製造行為とは,原材料の加工等を行うための工場建物や設
備等を整備し,人員を確保するなどして資本の投下を行うことが予定
されている経済活動であるから,特定外国子会社等が,その主たる事
業の事業活動として自ら製造行為を行っている場合には,当該製造行
為が本店所在地国又は地域において行われ,当該国又は地域において
資本投下を行い,その地の経済と密接に関連して事業活動を行ってい
ると評価できるかどうかにより,タックスヘイブン対策税制適用除外
の是非を判断するのが合理的であると考えられ,適用除外要件のうち
所在地国基準を適用するのが相当であると考えられる。
したがって,特定外国子会社等の営む事業が同項1号又は2号に掲
げる事業のどちらに該当するか判定するに当たって,製造業と卸売業
とを,販売する製品を自ら製造しているかどうかにより区別し,自ら
製品を製造していない卸売業を主たる事業とする場合には非関連者基
準が,自ら製品を製造する製造業を主たる事業とする場合には所在地
国基準が適用されると考えることは,前記アの適用除外要件の趣旨に
も合致するということができる。
(ウ)以上からすれば,A1等が主たる事業の事業活動として,販売
する製品を自ら製造している場合には,その主たる事業は製造業であ
ると解すべきであり,措置法66条の6第4項2号において主たる事
業が卸売業である場合には当たらず,所在地国基準が適用されると解
するのが相当である。
ウ製造の主体性の判断枠組み
(ア)ところで,前記前提事実(4)キによれば,本件各工場におい
て,A1等と本件各公司との間で取り交わされた本件各協議書に基づ
き,製品の製造が行われ,A1等はこれを全て引き取り,自己の名で
販売していたところ,被告は,本件各工場において行われていた製品
の製造行為は,実質的にはA1等が行っていたものであると主張する
のに対し,原告は,本件各工場における製造行為はA1等が本件各公
司に製造を請け負わせて行わせていたものであり,A1等がその主体
として製造行為を行っているものではないと主張する。
そこで,まず,製造行為の主体に係る判断の在り方について検討す
るに,前記のとおり,タックスヘイブン対策税制は,タックスヘイブ
ンの子会社に所得を留保し,我が国での税負担を不当に軽減すること
を規制することを目的とする制度であり,その適用除外は,民間企業
の海外における正常かつ合理的な経済活動を阻害することのないよ
う,特定外国子会社等がその地で主たる事業を行うことに十分な経済
的合理性があると認められる場合に,上記制度の適用を排除するもの
である。このような制度の趣旨目的に照らせば,適用除外要件の判断
に当たり,その地で事業を行う経済的合理性は実質を備えたものであ
ることが必要というべきであり,事業の形式的な外観だけではなく,
現実に行われている事業活動の実体がどういうものであるかという
観点から,社会通念に照らして検討することが必要というべきである。
このような考え方からすれば,適用除外要件該当性の判断に当たっ
ても,当該事業において行われる法律行為の名義や形式のみによるこ
となく,現実に行われている事業活動の実体を考慮して,A1等が当
該事業を実質的に行っているのかを,社会通念に照らして検討するこ
とが必要というべきである。
(イ)そして,前記のとおり,適用除外要件のうち所在地国基準は,
本店所在地国又は地域において資本投下を行い,その地の経済と密接
に関連して事業活動を行っていると評価できる場合には,特定外国子
会社等がその地に所在する経済的合理性を推認し得るという認識に基
づき,その事業を主としてその本店又は主たる事務所の所在する国又
は地域において行っていることを要件としたものであるところ,主た
る事業として製造業を行う特定外国子会社等について,非関連者基準
ではなく所在地国基準が適用されるのは,製造業の本質的な事業活動
として行われる製造行為が,一定の場所において,人的物的資本を投
下して行われる行為であり,当該特定の場所との関連が強い事業活動
であると評価できるからである。そうであれば,特定外国子会社等が
事業活動として製造行為を行っているといえるためには,製造行為に
基づく損益(製造原価と販売額との差額による損益)の帰属主体であ
ることに加えて,一定の場所において行われる事実行為としての製造
行為(資本投下)について,自らの責任と判断において主体的にこれ
を行っているといえることが必要である。
そうであるところ,製造行為とは,人的労力,機械設備,原材料等
を運用して製品を生産する行為であり,これを事業として主体的に遂
行するには,人的労力,機械設備,原材料等の継続的な確保・管理に
とどまらず,製造行為により得られる利潤を最大化するべく,品質・
納期を適切に管理して顧客の満足を得るよう努め,かつ,製造原価(コ
スト)の低減に努めるなどの管理行為が不可欠である。そうすると,
A1等が本件各工場において行われている製造行為の主体であるかど
うかを判断するに当たっては,本件各工場における製造行為に基づく
損益がA1等に帰属するかどうかという点に加えて,A1等が,本件各
工場における製造行為に関して,①人員の確保・管理,②施設・設備
の確保・管理,③原材料の確保・管理,④製品の品質管理,⑤納期・
工程管理,⑥原価管理等を自らの責任と判断において主体的に行って
いるかについて具体的に検討し,それらを総合して,社会通念に照ら
し,実質的に判断すべきである。
(ウ)これに対し,原告は,課税は原則として私法上の法律関係に即
して行われるべきであるところ,本件において,A1等と本件各公司と
の間では,中国の諸法規の適用と規制の下で契約を締結しているから,
A1等が本件各工場の経営主体といえるかどうかについても,これらの
根拠法規の規定を考慮することが不可欠であり,A1等が本件各工場を
経営していたと認めることは,当事者間の契約関係を無視するもので
あり許されない旨主張する。
しかし,非関連者基準又は所在地国基準のどちらが適用されるかを
決めるための「主たる事業」の判断は,その地で主たる事業を行うこ
とに十分な経済的合理性があると認められるかどうかという観点から
実質的に判断すべきものであって,当該事業において行われる法律行
為の名義や形式のみによることなく,現実に行われている事業活動の
実体がどういうものであるかという観点から,A1等が当該事業を実質
的に行っているのかを,社会通念に照らして検討することが必要とい
うべきであり,原告の上記主張は採用することができない。
(2)認定事実
前記前提事実に加え,掲記各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事
実が認められる。なお,争いのない事実には認定根拠を付記しない。
ア本件各公司との間の基本合意の成立
中略
イ本件各第1協議書(乙9,11,13,15,17)
(ア)中略
(イ)中略
(ウ)中略
(エ)中略
(オ)中略
(カ)中略
ウ本件各第2協議書
(ア)B1各第2協議書(乙10)
a中略
b中略
c中略
d中略
e中略
(a)本件B1平成4年第2協議書(乙10の1)
中略
(b)本件B1平成5年第2協議書(乙10の2)
中略
(c)本件B1平成13年第2協議書(乙10の4)
中略
(d)本件B1平成14年第2協議書(乙10の5)
中略
f中略
g中略
(イ)B2各第2協議書(乙12)
中略
a中略
b中略
c中略
(a)B2平成4年第2協議書(乙12の1)
中略
(b)B2平成13年第2協議書(乙12の3)
中略
d中略
(ウ)B3第2協議書(乙14)
中略
(エ)B4各第2協議書(乙16)
中略
(オ)B5第2協議書(乙18)
中略
a中略
b中略
c中略
d中略
中略
(カ)B6各第2協議書(乙20)
中略
エ製品の製造
本件各工場においては,上記アのA1等と本件各公司との間の合意に
基づき,ビデオ,DVDプレイヤー,インクジェットプリンター,レー
ザープリンター等の完成品や,当該完成品の基幹部品等の製造が行われ
ていた(乙62)。
なお,B2工場は,平成15年11月からB3工場へ機能が一部移管し,
同年12月以降,B3工場が本格的に稼働した。
オ原材料の調達及び機械設備の整備,管理
(ア)中略
(イ)中略
(ウ)中略
カ加工料の支払
(ア)中略
(イ)中略
(ウ)中略
キ完成品の引渡し
中略
ク原告との間の製造委託契約
中略
ケA1等の設立目的,事業概要
(ア)A1等の設立目的
中略
(イ)A1等の事業内容
中略
(ウ)A1の原告グループにおける位置付け
中略
コA1等の組織・本件各工場の位置付け,分掌業務等
(ア)香港事務所
中略
(イ)本件各工場の位置付け
中略
(ウ)A1の各部門の分掌事項
中略
サ人員の配置
(ア)中略
(イ)中略
(ウ)中略
シ事業所会議
(ア)中略
(イ)中略
ス分社会計処理基準
中略
セ財務諸表の内容
(ア)中略
(イ)中略
(ウ)中略
ソ生産計画
中略
タ技術指導
中略
チ事業計画の策定・管理
中略
ツ政府に対する税務申告
中略
(3)検討
以上の認定事実を基に,A1等が本件各工場における製造行為の主体であ
るかどうかについて検討する。
ア本件各工場の管理運営について
(ア)A1等による経営管理について
a前記認定事実ウ(ア)a,(オ)bによれば,A1等と本件各公司
との間で取り交わされた本件各第2協議書(B2各第2協議書を除
く。)には,A1等が,本件各工場の経営を請け負い,経営管理者と
して本件各工場に関する全責任を負い,これについて本件各公司は
一切関与しないこととされていたことが認められる。したがって,
A1等と本件各公司との間においては,A1等が,本件各工場の責任
者として,本件各工場の経営全般にわたって管理運営を行うことが
合意されていたものということができる。また,B2各第2協議書
及びB3第2協議書については,「経営管理を請け負う」などの明確
な文言はないものの,「A1がB2工場を賃借し,委託加工工場を作
る」などの記載があることから(前記認定事実ウ(イ)),他の工場
と同様に,B2工場についても,A1が責任者として本件各工場の経
営管理を行うことが予定されていたといえる。
なお,本件各第1協議書には,「本件各公司は,(略)A1等委託
の加工生産を進め」などと,上記の本件各第2協議書と異なり,本
件各公司が本件各工場における製造行為を行うかのような記載が
ある(前記認定事実イ(ウ))。しかしながら,原告によれば,本件
各第1協議書は,A1等と本件各公司の取引における基本部分につ
いて規定されたものであるところ,証人P1によれば,これは,本
件各公司とA1等の取引と同様に,中国企業と外国企業が製品の製
造に関する契約を締結する際に用いられる政府所定の書式による
ものであるということであるから,本件各第1協議書に定められた
事項がA1等と本件各公司との間の実際の合意内容と合致していな
い部分が存在する可能性があり,実際,後述のとおり,A1等が本
件各公司に支払う加工料の定めについても,本件各第1協議書では
なく本件各第2協議書の定めに従って行われていることなどから
すると,本件各第1協議書と本件各第2協議書との間に齟齬がある
場合には,本件各公司との間の合意内容は,本件各第2協議書の定
めによるものと認めるのが相当である。
bそして,前記認定事実サによれば,A1等は,従業員の多くを本件
各工場へ派遣し,本件各工場の統括責任者である総経理や工場長,
また,本件各工場の部門のほとんどにA1等から派遣された従業員
を責任者として配置しており,これらの人員により,本件各工場全
体を組織的に管理運営する体制を整えていたということができる。
cまた,前記認定事実コ(イ)によれば,A1は,B1工場等を,A1
の生産部として位置付け,自らの組織の一部として扱っていると認
められるし,また,A1等が,香港税務局に対する申告において,
本件各工場について,「中国4工場はA11の所有ではないが,当該
工場が中国相手方に代わってA1等により運営されていることを当
然に意味する」などと,自らが本件各工場を事実上経営している旨
の申告をしていたこと(前記認定事実ツ)からすれば,A1等が事
実上の経営者として本件各工場を組織的に管理運営していると認
識していたことが看取される。そして,A1は,もともと中国本土
において製品の製造を行うことを目的として設立された会社であ
り(前記認定事実ケ(ア)),原告のグループにおいては,A1は生
産技術,部品の購買,生産管理を自社の責任で行う総合製造会社と
して位置付けられていたこと(前記認定事実ケ(ア)),A2につい
ても,原告において,製品の組立製造を行う会社として位置付けら
れていたこと(前記認定事実ケ(ウ))などからすれば,A1等は,
本件各公司との間で取り交わした本件各協議書に基づき,本件各工
場を自ら経営し,製造行為を行っているという認識のもとに,本件
各工場を組織的に管理運営していたということができる。
(イ)本件各協議書に関する原告の主張について
aこれに対し,原告は,①本件各第2協議書において,「経営を請け
負う」等の文言があるのは,A1等の要求する品質,納期等を本件
各公司に確実に実行させ,本件各工場における現地の工員による不
正を防止するため,本件各公司をけん制する趣旨で用いられている
のであり,現実に本件各工場の経営権をA1等に移転したり,A1
等が自ら本件各工場を経営することを意図していたものではない
と主張し,証人P1もこれに沿う証言をする。
bしかし,A1等の要求する品質,納期等を本件各公司に確実に実行
させ,本件各工場における現地の工員による不正を防止するという
目的であれば,品質,納期等の遵守や不正防止のための手段を尽く
すことを本件各公司が誓約する等,より直截的な文言を入れるのが
自然であると考えられ,「経営を請け負う」などという婉曲な文言
を入れるのは不自然である。また,中国の関係法令上,審査認可機
関の審査,認可がない限り,外国企業に中国工場の経営を請け負わ
せたり,経営権を移転することは禁止されていたため,当該文言は
法的には何ら意味のないものであり,かつ,本件各公司はそのこと
を当然に認識していたというのであるから(証人P1),けん制のた
めに当該文言を入れても実効性があるとも思われない。しかも,証
人P1によれば,A1等は,本件各工場について,約束した品質や納
期が遵守されず,経営がうまく行かない場合は,本件各協議書の規
定(前記認定事実ウ(ア)g)に従い契約を解除することができる
というのであるから,上記のようなけん制の文言を入れる必要性は
ますます乏しいというべきである。
cまた,証人P1は,上記「経営を請け負う」旨の文言については,
A1の中国現地の弁護士が本件各第2協議書に書き加え,それをA4
に見せたところ,A4は当該文言について特に何も言わなかった旨
証言するが,原告が主張するように,当該文言が,A4との合意に
より規定されたものではなく,A1がA4をけん制するために挿入さ
れたものであれば,前記のとおり,中国において外国企業に工場の
経営を請け負わせることは禁止されていたというのであるから,A4
において,当該文言について何らかの異議が唱えられるのが通常で
あると考えられるところ,A4がこれについて何らの反応もしなか
ったというのは不自然である。加えて,A1従業員のP2が平成16
年12月2日にA1財務担当責任者に宛てて送付した電子メール
(乙32)には,「中国パートナー(A4)との委託加工契約では,
工場の経営管理はA12側が全権を持って行い,A4側は廠長(B1
工場の登記上の代表者),報関員,水電管理人を派遣する以外は一
切経営に対しては関与しないこととなっています。」などという記
載があるところ,このような記載は,上記本件各第2協議書の記載
内容と整合するものであり,本件各第2協議書の記載が本件各工場
の実態に沿うものであることを推認させるものである。
dさらに,原告は,前記のとおり,B2平成4年第2協議書(乙12
の1)には,A1が工場の経営を「請け負う」等の明確な文言が記
載されていないことについて,これは,当該協議書を取り交わす際
は,A4との取引を開始してから半年余り経過しており,A4との信
頼関係が形成されていたため,けん制の文言を入れる必要がなかっ
たからであるとして,これが原告の上記①の主張を根拠付けるもの
である旨主張し,証人P1もこれに沿う証言をする。
しかし,B1平成5年第2協議書(乙10の2)及びB1平成10
年第2協議書(乙10の3)がA4との間で取り交わされたのは,
上記B2平成4年第2協議書が取り交わされた後のことであるから,
原告の主張を前提とすれば,これらの協議書についても,A1がB1
工場の経営を請け負うなどの文言を入れる必要はないことになる
が,いずれについてもこれらの文言が記載されているのであり,原
告の上記主張は採用することができない。
e以上からすれば,本件各第2協議書の「経営を請け負う」等の文
言については,その文言のとおり,A1等が本件各工場の経営を自
ら実質的に管理することを目的として記載されたものであると認
めるのが相当である。
なお,原告は,中国の関係法令上,審査認可機関の審査,認可が
ない限り,外国企業に中国工場の経営を請け負わせたり,経営権を
移転することは禁止されていたことから,協議書にA1等と本件各
公司との間で,本件各工場の経営をA1等に請け負わせる旨の合意
があったとしてもそれは無効であり,そのような合意があったと認
めるべきではない旨主張する。しかし,当事者であるA1等と本件
各公司があえて協議書に当該文言を記載している以上,契約当事者
であるA1等と本件各公司においては,A1等が本件各工場の経営を
請け負うことを予定し実質的に経営を管理していたものと認めら
れるのであり,中国の法令に適合するか否かによって上記事実が否
定されるものではないから,原告の上記主張は採用することができ
ない。
(ウ)本件各工場の組織に関する原告の主張について
aまた,原告は,②本件各工場へ従業員を派遣したのは,A1等が,
本件各公司に製品の製造を委託するのに際し,製品の品質と納期を
確保するため,技術指導,品質管理等を行うためにすぎず,本件各
工場は本件各公司から派遣された廠長を最高責任者として,各部門
の本件各公司の従業員により実質的な運営がされているのであり,
A1等から派遣された従業員には,本件各工場の経営を決定する権
限はない旨主張し,証人P3及び証人P4もこれに沿う証言をする。
bしかし,前記のとおり,本件各第2協議書記載の文言のとおり,
A1等が本件各工場の経営を「請け負う」ものとされ,本件各公司
はこれに一切関与しないこととされていたことからすれば,本件各
工場はA1等から派遣された従業員により管理運営されていたとい
うべきであり,本件各公司から派遣された廠長等の従業員により管
理運営されていたとは認め難い。また,A1の平成13年に作成さ
れた組織図(乙26)及び平成14年当時の会社案内に記載された
B1工場等組織図(乙21)においては,総経理がB1工場等の組織
図の頂点に記載されている。B1工場等の組織図のうちには,頂点
にA4から派遣された廠長が記載され,その下に総経理が記載され
て,あたかも廠長が最高責任者であるかのようなものが存在するが
(乙28),原告がA1のタックスヘイブン対策税制についての打ち
合わせを行った際の議事録(乙31)の記載によれば,原告があら
かじめ作成していたと思われる組織図には,総経理が頂点に記載さ
れていたところ,当該打ち合わせにおいて,税理士法人担当者より,
「工場のトップには現地の従業員を記載すべきである」「トップと
底辺は中国パートナーが押さえており,中間部分をA1がカバーし
ている事を主張する」などのアドバイスを受け,A4から派遣され
た廠長を頂点に記載した組織図を作成するに至ったことが認めら
れることからすると,上記組織図の記載が実際のB1工場等の組織
の実体を的確に反映したものとは認められない。また,証人P3の
証言によれば,本件各工場の廠長は,本件各工場の財務関係や生産
管理等にも関与することなく,生産計画の策定にも携わっていない
というのであり,このように本件各工場の製造行為の重要部分につ
いて関与していない人物が,本件各工場を管理運営しているとも考
え難いのであって,原告の上記主張は採用することができない。
(エ)まとめ
以上のとおり,A1等は,本件各公司との間の合意に基づき,本件
各工場についての経営管理権を有しており,これに基づきA1等の人
員を本件各工場の指揮監督系統の中枢に配置し,もって本件各工場を
管理運営していたことが認められる。
イ人員の確保・管理について
(ア)前記認定事実ウによれば,本件各第2協議書において,A1等は,
本件各公司が廠長,通関員,水道電気の管理人を派遣する以外は,本
件各工場の全ての管理者を委任し又は罷免することとされていたこ
とが認められ,A1等は,本件各公司との間の合意に基づき,本件各
工場における管理者の人事権を有していたといえる。そして,A1に
おいては,工場部門の生産課の分掌事項として,作業員の作業分担,
配置,勤務状態の管理,衛生管理,技術指導等の実施等を挙げており
(前記認定事実コ(ウ)),自らの業務の一環としてB1工場等におけ
る工員の人事に関する事項を位置付けている。また,実際に,A1の
香港事務所の役員・従業員及びB1工場等に派遣された従業員による
事業所会議(乙33,乙B8)において,受注の増減に沿った製造量
の増減,生産計画に合わせた人員の増加・人員の削減,新規採用の予
定,工員の労働時間(残業や一時帰休の予定)や給与支払等の労働条
件,配置換え等の人事事項に関する方針の決定などが行われていたこ
とが認められる(前記認定事実シ)。これらの点を総合すれば,A1が,
実際に,B1工場等の人員の確保・管理を自らの責任と判断において
主体的に行っていたことが認められる。
また,A2においても,事業所会議において工場の人事に関する事
項の検討,方針の決定等が行われていたのであるから(前記認定事実
シ),同様に,B6工場の人員の確保・管理を自らの責任と判断におい
て主体的に行っていたものと認められる。
(イ)原告は,①本件各第2協議書の人事権に関する規定は,上記ア
(イ)と同様に,A1等の要求する品質,納期等を本件各公司に確実
に実行させ,本件各工場における現地の工員による不正を防止するた
め,本件各公司をけん制する趣旨で記載されたもので,本件各工場に
おける人事は全てにわたり,A4から派遣された廠長が最終的に判断
して決定しているのであり,A1等から派遣された従業員には何らの
権限もない,②事業所会議は,A1等から派遣された従業員が,外注
管理の一環として,本件各工場における問題点の共有と意見交換の場
として,A4の方針やA4が既に実施した事項を報告したり,今後A4
に要望する事項を報告したりしているにすぎず,事業所会議により本
件各工場の人事を決定しているわけではないと主張し,証人P3及び
証人P4はこれらの主張に沿う証言をし,B1工場に派遣されたA4の
従業員のこれに沿う内容の陳述書もある(甲232から235まで)。
しかしながら,前記ア(イ)と同様,本件各第2協議書の上記記載
は工員の不正を防ぐため本件各公司をけん制する趣旨で記載された
もので実質を伴うものではない旨の原告の主張は採用し難く,また,
A1等から派遣された従業員が実際に本件各工場を管理運営していた
と認められることは前記ア(ウ)のとおりである。
確かに,原告が主張するとおり,工員の募集採用,工員の安全衛生
等については,A4が派遣した廠長がこれを行っていたことが認めら
れる(前記認定事実サ(ウ))。しかし,総合的な人事方針の決定につ
いては,各工場の受注の状況や今後の製造量の増大等を総合的に考慮
した上で行う必要があると考えられるところ,前記のとおり,廠長は,
本件各工場の財務関係や生産管理等にも関与することなく,生産計画
の策定にも携わっていないというのであるから,廠長がB1工場等の
総合的な人事方針の決定を行っていたとは考えられない。実際,廠長
は,原告から提供される生産計画に基づいて人員の採用計画を決めて
おり,これについてA1から確認を受けることとされていたというの
である(甲166)。そうであるとすれば,本件各工場において,個
別の人員の採用や配置等の手続については廠長が行っていたものの,
全体的な採用の方針については,受注の増減や生産計画を考慮して,
A1等から派遣された従業員がその大枠を決定していたと考えるのが
自然であり,前記イ(ア)のとおり,事業所会議において,A1等の
従業員らが,生産計画に合わせた人員の増減を検討していたこととも
整合するものである。
そして,前述のA1従業員のP2が平成16年12月2日にA1財
務担当責任者に宛てて送付した電子メール(乙32)においても,「A4
が派遣した廠長は組織上はB1工場の人事総務部の責任者となってお
り,人事総務部の業務内容として工員募集,教育訓練(入社時),出
退勤管理,宿舎管理,守衛・掃除係りの管理に就いて,A12側責任者
である総経理の指示・意向に基づき,人事総務部メンバーに指示を出
しています。工場の工員が就業時間,退勤後を問わず,何か事件を起
こしたり,事故に遭ったりした場合にはやはり廠長が処理し最終的に
総経理の判断を仰いでいます。」などと記載されており,また,本件
各第2協議書(前記認定事実ウ(ア)d)においても,本件各工場に
おいて必要とする工員については,「B1工場の名で」採用する,「人
事等に協力する」などの記載があることなども考慮すれば,本件各工
場に派遣された廠長は,A1等から派遣された責任者の指示に基づい
て,工員の確保等を行うことが予定されていたにすぎず,A1等から
派遣された総経理が人事権に関する実質的な権限を有していたと認
めるのが相当である。したがって,本件各第2協議書の人事権に関す
る規定が実質を伴うものではないとはいえないし,事業所会議が外注
管理の一環として行われているもので,ここで議論されたことについ
ての実質的な決定権がなかったとは認められず,原告の上記①及び②
の主張は採用できない。
(ウ)また,原告は,中国人労働者の人事・労務管理は,中国が多民
族国家で価値観等が異なっていることからすれば,中国人の行動傾向
を日本人が把握し,人事権を行使することは不可能であるから,A1
等から派遣された従業員が中国労働者の人事・労務管理を行っていた
はずがないと主張する。しかし,そのようにA1等の従業員において,
中国労働者の人事・労務管理を直接に扱うことが困難であるからこそ,
本件各協議書においては,廠長が派遣されることが約定され,人事関
係の仕事を行うこととされていたものと考えられるのであり,廠長が
現場レベルでの工員の人事・労務管理を行っていたとしても,それは,
A1等の採用計画や配置計画などのB1工場の運営に関する全体的な
方針に基づいて廠長に委ねられていたものにすぎず,あくまで全体的
な人事管理,労務管理に関する判断は,A1等から派遣された従業員
が行っていたものと認めるのが相当である。
ウ機械設備等の確保,部品・原材料等の調達について
A1等は,本件各協議書に基づき,本件各公司が所有する工場建物を使
用し(前記認定事実イ(ウ),ウ(ア)b,(イ)b),これに対する工場
の使用料を毎月支払い(前記認定事実ウ(ア)e,カ),工場建物を本件
各公司から賃借していた。また,A1等は,本件各工場における製品の製
造の用に供する機械設備等を自らの負担で購入してこれを本件各工場に
設置した上,これらの機械設備等を,財務諸表上,自らの固定資産とし
て計上し管理を行っており(前記認定事実オ(ア),(ウ)),さらに,本
件各協議書によれば,A1等は,本件各公司が提供する工場建物・宿舎等
を除く製造に関する施設の整備を行うこととされており(前記認定事実
ウ(ア)c,(イ)b),これに基づき一切の製造に関する施設の整備を
行っていたことも認められる。以上からすれば,A1等は,本件各工場に
おける製造手段の確保及び管理を,自らの責任と判断において主体的に
行っていたということができる。
また,前記認定事実オ(イ)によれば,A1等は,原告から示された納
期計画に基づき,部品・原材料等の調達計画を立案した上,これに基づ
き部品・原材料等を調達し,これを本件各工場に提供しており,香港か
ら運び込まれる部品・原材料等の輸送手段の確保も行っていたことが認
められるから,A1等は,本件各工場の製造行為に必要な部品・原材料等
の調達に関する事項についても全て自らの責任と判断において主体的に
行っていたということができる。
エ品質管理について
(ア)本件各第1協議書において,A1等は,製品の品質管理のため,
人員を派遣して製品の品質検査を行うこととされ,原材料の品質不良
又は技術指導の誤りに起因する不良品が発生した場合にはA1等の責
任となり,再製造に係る費用はA1等が負担することとされていたこ
となどからすれば(前記認定事実イ(オ)),本件各工場で製造される
製品の品質管理については,A1等が自らの責任において主体的に行う
こととされていたことが認められる。
そして,A1は,工場部門(すなわちB1工場等を指す。)に品質管
理課を置いた上で,新製品のサンプル検査,検査基準の制定等,生産
品質の把握及び改善等を品質管理課の分掌事項と設定しており(前記
前提事実コ(ウ)),本件各工場で製造される製品の品質管理を,自
らの業務の一環として位置付け,実際に,A1から派遣された従業員は,
事業所会議において,品質管理,品質の向上についての問題点・対策
の検討を行い(前記認定事実シ),工員に対する品質確保のための指
導を行い(前記認定事実タ),さらに,原告が独自に考案したA10を
導入し,品質の確保に努めていたことからすれば(前記認定事実タ),
A1は,B1工場等における製品の製造における品質管理を自らの責任
と判断において主体的に行っていたことが認められる。
また,A2についても,同様に,事業所会議において品質管理に関す
る事項についての検討が行われていることが認められ(前記認定事実
シ),B6工場における製品の製造に係る品質管理を自らの責任と判断
において主体的に行っていたものと認められる。
以上からすれば,A1等は,本件各工場における製品の製造における
品質管理について,自らの責任と判断において主体的に行っていたと
認められる。
(イ)これに対し,原告は,A1等から本件各工場に派遣された従業
員が品質管理に関する指導を行っていたのは,A1等が,製品の製造を
委託した者として,不良品であっても全ての製品の引き取りが義務付
けられていたために,品質管理技術の指導に積極的に努めてきただけ
であり,これをもって自ら製造活動を行っていたとはいえないと主張
する。
しかしながら,不良品であっても全てA1等が引き取るという合意
がされていたということは,A1等が品質管理の最終的な責任を持って
いたといえ,そのこと自体によりA1等が本件各工場における生産管
理を自ら主体的に行ってきたと評価する要素の一つとなるものである
し,現実にA1等が本件各工場における製造行為に係る品質管理につ
いて責任を持ち,これを掌握していたことには変わりがない。また,
原告は,事業所会議について,外注管理の一環として話し合っていた
だけで,ここで話し合ったことについて実質的に決定する権限はなか
った旨主張するが,当該主張に理由がないことは前記イと同様である。
オ納期管理について
A1は,原告との間で製造委託契約を締結し,本件各工場で製造した製
品を,原告の指定する納期どおりに納入する義務を負っていたところ(前
記認定事実ク),A1は,業務分掌規定において,A1の生産出荷管理課が
分掌すべき事項の一つとして,B1工場等の生産計画及び出荷計画の取り
まとめを掲げ,また,工場の生産課が分掌すべき事項の一つとして,製
造日程計画の作成及び実施督促を掲げるなど(前記認定事実コ(ウ)),
A1は,原告との契約に基づく納期を遵守するため,自らの業務の一環と
して,B1工場等における納期管理を位置付けていた。
そして,B1工場等においては,日々の生産計画を作成していたのは
A4等の従業員であったものの,この生産計画は,原告が作成した3か月
分の納期計画に基づき作成されたものであり,最終的にはA1から派遣
された従業員がその内容を確認していたというのであって(前記認定事
実ソ),A1から派遣された従業員は,事業所会議において,納期の遵守
状況,今後の課題,問題と対策等を検討し,納期管理に自ら取り組むと
ともに,B1工場等の工員に対しても,納期管理の指導を行っていたこと
が認められる(前記認定事実シ,タ)。
以上からすれば,A1は,原告の指定する納期を遵守するため,自らの
責任と判断において生産計画の確認を行い,これを遵守するための体制
の整備に努めていたのであり,納期管理を自ら主体的に行っていたとい
うことができる。
また,A2についても同様に,A2から派遣された従業員による納期管
理の指導が行われ,事業所会議においても,納期管理に関する事項につ
いての話し合いがされていたことが認められ,B6工場における納期管理
を自らの責任と判断において主体的に行っていたと認められる。
カ原価管理について
(ア)A1は,B1工場等を一経営体とみなし,B1工場等の資産,経
営成績,活動実績及び会計等を把握し,工場別の原価管理(予算管理・
利益管理)を行い,また,B1工場等をそれぞれ独立会計単位とするこ
とにより,B1工場等の活動実績及び会計を迅速かつ正確に把握するこ
とを目的として,分社会計処理基準を作成し,これに基づき,B1工場
等の個別の財務諸表を作成していた(前記認定事実ス,セ(ア))。そ
して,A1の財務諸表は,B1工場等の個別の財務諸表を合算して作成
されており,B1工場等で製造された製品の販売益を売上として計上す
る一方で,B1工場等の製造行為に係る部品・原材料等の費用やA4に
支払う加工料,さらに,労務費及び工場の機械設備等の減価償却費等
が含まれる製造経費等を製造原価として計上していた(前記認定事実
セ(ア))。また,A2においても,財務諸表上,B6工場の製造行為に
係る部品・原材料等の費用,A4に支払う加工料,さらに,労務費及び
工場の機械設備等の減価償却費等が含まれる製造経費等を製造原価と
して計上し,原価計算を行っていた(前記認定事実セ(ア))。
そして,A1においては,算出された原価計算をもとに,事業計画に
おいて,B1工場等の問題点と対策を個別に検討し,B1工場等の利益
実績等を検討しており(前記認定事実シ),A2においても,B6工場に
おける製品の製造に関する費用について具体的な費目ごとの損益計画
を策定していた。そして事業所会議においては,本件各工場における
当該月度の実績及び累計実績,翌月度の直近計画,生産達成率,売上
達成率等の具体的かつ詳細な報告を毎月行い,これに加え,赤字増の
要因の分析,購入調整,電力消費の削減による経費節減など,製造原
価低減のための方策を検討し,対策を行っていた(前記認定事実シ)。
以上からすれば,A1等は,本件各工場の製品の製造について,財務
諸表を作成し,原価を把握・分析した上,原価低減のための方策を検
討し,計画を策定するなどしており,自らの責任と判断において主体
的に原価管理を行っていたことが認められる。
(イ)原告は,B1工場等の財務諸表(乙44)は,B1工場等におけ
る異常な仕損,原価ロスや商品・原材料等の在庫の実態を把握したり,
同工場の内部管理上の収益を算出することにより納期の管理を可能に
したりするため,すなわち,内部管理のために作成されたものであり,
正式なものではないから,このような財務諸表を作成していたからと
いってA1等が自ら主体的に財務管理をしていたことにはならない旨
主張する。しかし,内部管理のために作成されたものであっても,A1
がB1工場等における収益を管理するために作成されたものであるこ
とには変わりがなく,正にA1がB1工場等における原価管理を自ら行
っていたということができるのであるから,これにより上記評価が覆
されるものではない。
また,原告は,本件各工場における会計については,A4本社から交
付される会計規則(甲93)に従って会計処理がされており,A4が派
遣する会計課長の責任において独自の会計書類が作成されていた旨主
張するが,これらの者により会計処理がされていたとしても,前記の
とおり,A1自身が自ら財務諸表を作成し,原価の把握・分析を行って
いた事実の認定を覆すものではないし,上記会計課長により作成され
た本件各工場の会計書類であると主張する書類(甲155)には,A1
等が本件各公司に支払う管理費や賃借料等についての記載があるのみ
で,製造業における損益管理の基本である部品・原材料等の費用や製
造経費等の製造原価についての記載がないことからすれば,実質的に
本件各工場の製造行為に係る製造原価に関する会計処理を行っていた
のはA1等であると考えられるから,原告の上記主張は採用すること
ができない。
キ利益の帰属及びリスクの負担について
(ア)前記認定事実カによれば,A1等は,A1等各事業年度において,
実際の賃料相場に準じた金額が設定されていた工場建物の使用料,A4
の派遣する管理人,通関員,水道電気管理者の給与及び工場内の緑化
費用等に充てられる管理費に加え,本件各工場の経営資金として,工
場の工員の人件費,電気代,水道代等に充てられる加工賃を支払って
おり,さらに,前記ウのとおり,A1等は,本件各工場の製造行為に必
要な部品・原材料等を全て自らの負担で調達し,これを本件各工場に
供給しており,また,香港から運び込まれる部品・原材料等と完成品
の輸送手段の確保も行っていたというのであるから,A1等は,本件各
工場における製造行為に不可欠な費用をほぼ全て負担していたといえ
る。
(イ)そして,A1等が支払う加工料のうち,本件各公司の取得分は,
あらかじめ定められた一定の金額(B1工場)又は毎月の工員の人数
に一定の額(●香港ドル)を乗じた額(B2工場,B4及びB5工場,
B6工場)から政府手数料を差し引いた額に一定の割合(B1工場,B2
工場及びB6工場については東莞市により定められた割合である3
0%)を乗じた額とされていたことから(前記認定事実カ),ほぼ一定
で,本件各工場における製造活動の効率化により製造コストが削減さ
れたとしても,本件各公司が得る利益は変化しなかったと考えられる。
(ウ)これに対し,A1等が本件各公司に支払う加工賃のうち,東莞
市政府手数料及び上記本件各公司の取得分を差し引いた額は,本件各
工場の運営資金とされ,必要額を控除して残余が生じた場合には,A1
等の所有に属し,逆に,不足額が生じた場合にはA1等が責任を持っ
て補てんすることとされていたのであるから(前記認定事実ウ(ア)
e,(イ)c,(オ)d,カ),製造コストを削減し,より少ない原価で
製品の製造を行うことが可能になった場合には,残余の運営資金がA1
等に帰属する以上,A1等にその利益が帰属するといえるのであり,逆
に製造コストが増加した場合には,不足額をA1等が支払うことにな
り,A1等がその費用(損失)を負担することになると考えられる。
以上からすれば,A1等には,本件各工場における製造行為により生
じる利益と損失(製造原価と販売額との差額)が帰属していたと認め
られる。また,そうであるからこそ,製造行為により得る利益を最大
化するために,前記カのとおり,A1等が自ら原価管理を行っていたと
いうことができる。
ク小括
以上アからキまでを総合すると,A1等は,本件各協議書による本件各
公司との間の合意により,本件各工場の経営を自ら管理することとして,
A1等の従業員を本件各工場に派遣してその要職に置き,本件各工場をあ
たかもA1等の組織の一部として管理運営する体制を整えており,その
上で,本件各工場の人員の確保・管理,工場施設・機械設備等の確保・
管理,部品・原材料等の確保・管理,製品の品質管理及び納期管理を,
自らの責任と判断において行っており,さらに,製造行為による利益が
帰属するとともに,そのリスクも負担した上で,本件各工場について統
一的に財務管理を行い,原価の把握・分析,原価低減のための方策の検
討等の原価管理に努めていたというのである。
以上からすれば,A1等は,本件各工場において行われている製造行為
を自らの責任と判断の下で主体的に行っていたということができ,かつ,
その製造行為による利益及びリスクもA1等に帰属するというのである
から,社会通念に照らして,A1等が実質的に本件各工場における製造行
為を行っていたと認めるのが相当である。したがって,A1等は,措置法
66条の6第4項1号所定の卸売業(製造問屋)ではなく,製造業を行
っていたものと認められる。
(4)A1等の主たる事業について
以上のとおり,A1等は,A1等各事業年度において,本件各工場におけ
る製造活動を自ら主体的に行い,製造業を営んでいたと認められる。そこ
で,次に,当該事業がA1等各事業年度におけるA1等の「主たる事業」
といえるかどうかが問題となる。
ア特定外国子会社等が複数の事業を営む場合に,そのいずれの事業が主
たる事業であるかについては,対象となる事業年度におけるそれぞれの
事業活動の客観的結果として得られた収入金額及び所得金額や,使用人
の数及び固有施設の状況等の具体的かつ客観的な事業活動の内容を,総
合的に考慮して判断すべきであると解するのが相当である。
イそうであるところ,前記認定事実セ(イ)によれば,A1等各事業年
度における本件各工場における製造活動による製品売上高は,A1につい
ては,売上全体の約●パーセント強,A2についても売上全体の約●パー
セントと,その売上げのほとんどを製造業による売上げが占めていたこ
とが認められる。
また,従業員の数についても,A1については香港事務所に勤務する従
業員は毎年35名程度であったのに対し,B1工場等には70名程度の
従業員が派遣されており(前記認定事実サ(ア)(イ)),さらに,A1の
従業員であるP5の陳述書(甲228)及び原告がA1について分析した
社内報告書(乙62)のA1の管理部・購買部の業務の内容の記載に加
え,上記売上の割合にも考慮すれば,香港事務所においても,本件各工
場における製品の製造のための部品・原材料等の調達,納期管理等に関
する業務が主に行われていたことがうかがわれる。
そして,A1等の有する固定資産についても,そのほとんどが,本件各
工場に設置されたものであることが認められる(前記認定事実セ(ウ))。
以上からすれば,A1等は,本件各工場における製造業を主たる事業と
して行っていたと認めるのが相当である。
2争点②(A1等の主たる事業が卸売業に該当しない場合,所在地国基準を
満たすか)について
(1)事業を主として行っている場所について
アA1等の本店である香港事務所は,中国の特別行政区である香港に所
在しているところ,前記1のとおり,A1等は,A1等各事業年度におい
て,香港事務所において主に本件各工場の製造に供するための部品・原
材料等の調達業務を行い,一方で,中国所在の本件各工場において,原
材料等を加工し,製品を製造していたことが認められる。
イ原告は,A1等は,部品・原材料等の調達と製品の販売・納入及びそ
れらのための情報収集,調達・物流網の構築,組立ての発注・決裁等の
業務を香港事務所で行っているから,主として事業を行っている場所は
香港である旨主張する。
しかし,前記1ア及びイのとおり,製造業の本質的な事業活動たる製
造行為は,原材料の加工等を行うための工場建物や設備等を整備し,人
員を確保するなどして資本の投下を行うことが予定されている経済活動
であり,このような一定の建物,施設において資本の投下を行う製造活
動を行うからこそ,製造業を主たる事業とする特定外国子会社等につい
てはタックスヘイブン対策税制の適用除外要件として所在地国基準が要
求されるものと考えられる。そうであれば,所在地国基準の充足の判断
において,A1等が製造業を主として行っている場所は,実際に製造行為
を行っている中国本土であると考えるべきであり,たとい香港事務所に
おいて部品・原材料等の調達を行い,完成した製品を販売するなど製造
業の一環としての業務を行っていたとしても,これをもって製造業を香
港において行っていると評価することはできない。
(2)本店又は主たる事務所の所在する国又は地域について
以上のとおり,A1等においては,本店は香港に所在する一方で,製造
業を主に中国本土において行っていると認められるため,A1等が所在地
国基準を満たすためには,主たる事務所の所在する香港と,製造業として
の事業活動が行われている中国本土が同じ国又は地域といえる必要があ
る。
アところで,措置法66条の6第1項は,租税の負担がないか又は著し
く低く設定されている「国又は地域」に本店又は主たる事務所が存在す
る特定外国子会社等について適用されるところ,このように,「国」だけ
ではなく「国又は地域」と規定されている趣旨は,例えば英国領バミュ
ーダや,同ケイマン諸島,同ヴァージン諸島など,一般的に,全体とし
ては必ずしも税率が低く設定されているとはいえない国においても,一
部の地域についてのみ税率が著しく低く設定されている場合も存在する
ことから,ある国のうちの租税の負担がないか又は著しく低く設定され
た地域内に所在する特定外国子会社等についても,タックスヘイブン対
策税制の適用を及ぼすことを可能にするためであると解される。
そして,措置法66条の6第4項2号の所在地国基準における「地域」
とは,同条1項の「地域」と同様の意味に解するのが相当であり,同項
において「国」だけでなく「国又は地域」と規定されている上記趣旨に
照らせば,同条4項2号の「地域」とは,同じ国の中の他の場所と異な
り,租税の負担がないか又は著しく軽い一帯の場所を意味するものであ
るというべきであり,同一の「地域」に当たるかどうかの判断について
は,税制度の同一性を基本として判断すべきである。
イそうであるところ,香港は,1997年(平成9年)7月1日,英中
共同声明に基づき中国に返還されたが,同日発効した「香港基本法」に
より,従前の経済,法律,社会制度を返還後50年間維持することとさ
れ,また,高度の自治権を有する特別行政区として行政権,立法権,独
立した司法権を付与する,いわゆる「一国二制度」の原則が適用される
ことになった。そのため,課税の面においても,中国本土への返還後も
独自の課税システムが維持継続され,中国本土からの課税は実施されて
おらず(乙84,85),中国が締結した租税条約も香港には適用されな
い(乙86,87)。また,香港の税率は世界的にも低く設定されている
(乙85)。
以上からすれば,香港と中国本土とは,税制が全く異なるのであり,
措置法66条の6第4項2号における同一の「地域」にあるとは認めら
れない。
(3)小括
したがって,A1等は所在地国基準を満たさず,適用除外要件を満たさ
ないから,原告は措置法66条の6のタックスヘイブン対策税制の適用除
外を受けることができない。
3争点③(経済的合理性を理由とする適用除外の可否)について
原告は,上記タックスヘイブン対策税制の制度趣旨からすれば,措置法6
6条の6第4項の適用除外要件に該当するか否かにかかわらず,端的に,経
済的合理性のある企業活動を行う企業については,広くタックスヘイブン対
策税制の適用が除外されるべきである旨主張する。
しかし,これまで述べたように,タックスヘイブン対策税制の適用除外規
定は,単に海外において経済的合理性のある企業活動を行う企業について適
用除外を認める趣旨の規定ではなく,主たる事業の内容に照らして,その地
で主たる事業を行うことに十分な経済的合理性があると認められる場合とし
て定められた要件に該当する場合に限り,適用除外を認める趣旨のものであ
る。租税法においては,課税要件の明確性及び法的安定性を重視すべきであ
り,みだりに規定の文言を離れて解釈すべきではない。したがって,同条1
項の適用において,同条4項の適用除外要件の文言を離れて,条文上規定さ
れていない「経済的合理性」という不明確な要件を用いてその可否を判断す
ることはできないというべきであり,原告の上記主張は採用することができ
ない。
4争点④(A1等につき外国子会社合算税制を適用することが濫用的な課税
として手続的正義に反するか)について
(1)原告は,①本件各更正処分は,経済的合理性のある企業活動につい
てタックスヘイブン対策税制の適用をしないという適用除外要件の制度
趣旨に反するものであり,国際競争力に悪影響を与え,妥当ではない,②
門真税務署長は,過去10年間の長期にわたり,A1等の業種が「卸売業」
であるとの前提で非関連者基準を満たしていることを理由としてタック
スヘイブン対策税制の適用を除外し,移転価格税制における一国内事前確
認(APA)との関係で,門真税務署長が製品の販売から生じた利益の半
分をA1が生み出したものであると認めていたことから,同税務署長は,
A1が単なるペーパーカンパニーとして租税回避に利用されているわけで
はないことを十分認識していたはずであり,そうであるにもかかわらず,
原告に対してタックスヘイブン対策税制を適用することは,予測が不可能
となり,濫用的な課税として許されるべきではないと主張する。
(2)しかし,上記①の主張については,タックスヘイブン対策税制の適
用除外の可否は,あくまで措置法66条の6第4項の規定する適用除外要
件該当性を満たすか否かによって判断すべきものであるところ,原告の上
記①の主張は,経済的合理性のある企業活動であるかどうかという条文に
ない要件を付加するに等しいというべきであり,上記3と同様採用するこ
とができない。
また,上記②の主張については,A1等の主たる事業が製造業であること
は,事業の実体が判明して初めて分かることであり,本件各更正処分に係
る税務調査により初めて明らかになったことが認められ(弁論の全趣旨),
それまでの間,原告においてA1等の業種を「卸売業」とする申告を行っ
ていたからといって,課税庁がかかる申告内容を積極的に是認していたわ
けではなく,本件各更正処分が手続的正義に反するということはできない。
さらに,移転価格税制は,親子会社間の取引についての取引価格と互い
に独立した当事者間の取引における通常の取引価格との差異を問題とす
る制度であり,タックスヘイブン対策税制の適用の有無と移転価格税制の
適用の有無を判断する根拠となる事情は全く異なるものであることから
すれば,移転価格税制において,原告が主張するAPAが成立していたこ
とと,措置法66条の6第1項の適用の可否とは何ら関係がないものであ
る。また,措置法66条の6第1項のタックスヘイブン対策税制は,前記
1(1)アのとおり,タックスヘイブンに子会社を設立して経済活動を行
い,当該子会社に所得を留保し,我が国での税負担を不当に軽減すること
を規制することを目的として規定されたものであるところ,その適用の対
象となるのは,必ずしも当該子会社が租税回避目的のために設立されたペ
ーパーカンパニーであると認められる場合に限られるものではないから,
課税庁が,A1は実体のある企業であると認めていたからといって,A1に
ついて同項の適用を認めることが濫用的な課税として手続的正義に反す
るとはいえず,原告の上記主張は採用することができない。
5争点⑤(本件源泉税に係る外国税額控除の可否)について
(1)外国法人税について
法人税法69条の定める外国税額控除の制度は,内国法人が外国法人税
を納付することとなる場合に,一定の限度でその外国法人税の額を我が国
の法人税の額から控除するという制度であるところ,これは,同一の所得
に対する国際的二重課税を排斥し,かつ,事業活動に対する税制の中立性
を確保しようとする政策目的に基づく制度である(最判平成17年12月
19日・民集59巻10号2964頁)。
そして,同条1項は,外国税額控除の対象となる控除対象外国法人税に
ついて,「外国の法令により課される法人税に相当する税で政令で定めるも
のをいう」と規定し,これを受けて,法人税法施行令141条1項は,「外
国の法令に基づき外国又はその地方公共団体により法人の所得を課税標準
として課される税」を外国法人税とすると規定しているところ,同一の所
得に対する国際的二重課税を排斥するという上記外国税額控除制度の趣旨
及び「外国の法令に基づき課される法人税に相当する税」という文言に鑑
みれば,法人税法69条1項の「法人税に相当する税」とは,我が国の法
人税に相当する税のことを意味すると解される。そうであるとすると,法
人税法施行令141条1項にいう「法人の所得を課税標準として課される
税」の意義についても,我が国の法人税からみて二重課税となる性質の外
国税に限定されるべきであり,したがって,同項所定の「法人の所得」と
は,我が国の法人税に相当する税の課税標準となるものでなければならな
いと解するのが相当である。
(2)資本組入れについて
アところで我が国においては,かつて,配当可能利益の資本組入れとそ
れに伴う新株の発行を同時に行う株式配当の制度が存在し,税務上,株
式配当に係る株式の額面金額相当額につき,利益の配当とみなして課税
の対象とされており(平成3年税制改正前所得税法施行令83条),平成
2年商法改正において株式配当の制度が廃止された後も,内国法人につ
き配当可能利益の資本組入れが行われた場合において,組入れ額のうち
当該法人の株主が有する株式に対応する部分の金額を利益の配当の額と
みなし(平成13年税制改正前の法人税法24条2項2号),資本組入れ
の時において利益の配当があったものとみなして課税することとされて
いた(同改正前の所得税法25条2項2号。甲207,乙75)。
しかし,平成13年税制改正により,法人税法24条2項各号の規定
が削除され,資産の交付を伴わない場合のみなし配当課税は廃止される
ことになった(乙67)。これは,配当可能利益の資本組入れが行われた
段階では,株主に現実的な利益が生じるわけではなく,また,株式の分
割が行われても,各株主の持ち分に変動を与えるものではないため,こ
れについて課税の対象とするのは相当ではないという考え方に基づくも
のと解される。
以上のとおり,我が国においては,平成13年税制改正により,配当
可能利益の資本組入れ及び株式の分割については,株主に具体的な利益
が生じているとはいえないとして,その時点において,法人税の課税は
一切行われないこととなった。
イそうであるところ,前記前提事実(5)によれば,原告が株主として
株式を有していた台湾法人であるA9が,当期利益の資本組入れに伴い,
旧来の株主に持ち株数に応じて無償で新株を付与することとし,原告も
当該株の交付を受けたところ,台湾においては,会社が配当可能利益を
資本に組み入れるとともに,株式を追加発行することにより,新株発行
の方式で利益の配当を行うことが可能とされており(台湾の会社法24
0条1項前段4項,乙71),本件源泉税は,このような新株発行の方式
による利益配当につき課税されたものである。そして,この新株発行の
方式による利益配当の制度は,かつての我が国の株式配当に類似した制
度であるといえる。
一方,前記のとおり,平成13年度税制改正以降,我が国においては,
株式配当と同様に配当可能利益の資本組入れと株式の追加発行が併せて
行われる場合については,具体的な利益の発生を観念せず,法人税の課
税の対象としていないのであるから,本件のような場合,我が国の法人
税に相当する税の課税標準となる「所得」の発生を観念することができ
ない。したがって,本件源泉税は,「法人の所得を課税標準として課され
る税」に該当するものではないというべきであり,外国税額控除の対象
となる控除外国税には当たらないと解するのが相当である。
(3)原告の主張について
アこれに対し,原告は,台湾において,配当可能利益の資本組入れ及び
株式の追加発行についてこれが利益配当に当たることを前提として課税
がされている一方で,当該株主が株式を譲渡する際には,譲渡価格は,
配当可能利益の資本組入れによる株式の価値の増加を前提として決定さ
れることになるところ,我が国においては,当該株式の譲渡益に対して
課税をする際,上記配当可能利益の資本組入れによる株式の価値の増加
を考慮しないのであるから,本件源泉税と原告が有するA9の株式の譲
渡益に対する我が国における課税は,外形的には異なる課税標準に対す
る課税であるとしても,実質的に,部分的にではあるが,同一の利益に
対して二重に課税がされることになるとして,これを防止するため,本
件源泉税につき外国税額控除の対象とすべきである旨主張する。
確かに,我が国において配当可能利益の資本組入れを利益の実現とは
見ない以上,これがその時点における株式の潜在的なキャピタルゲイン
の一部を示すものとして,後に株式が譲渡された場合の譲渡益と関連性
を有するものであることは認められる。しかしながら,上記資本組入れ
額に示される潜在的なキャピタルゲインは,原則として株式発行時から
上記組入れ時までの株式のキャピタルゲインの一部を示すものであって,
株式の取得時から譲渡時までのキャピタルゲインを示す譲渡益と一致す
るものではなく,同一の利益といえるものではない。さらに,本件源泉
税は,上記資本組入れ及び株式発行を利益配当と見て,その利益に課税
するものであって,上記のような配当利益は,後に株式が譲渡された場
合の譲渡益を構成するものではなく,譲渡益により実現される利益でも
ないのであって,これらを実質的に同一の所得に対する課税ということ
はできず,原告の上記主張は採用することができない。
イまた原告は,平成13年税制改正前に資本組入れの時点で課税された
株式については,同改正後に譲渡した場合実質的に二重課税となるため,
従前の例によるとされている旨主張する。
しかしながら,上記は,同改正前においては配当可能利益の資本組入
れと株式の発行を利益配当と見るため,当然同利益配当額で株式を取得
することになることから,株式の取得価額の調整規定を従前と同様に適
用するものであって,同一の所得に対する二重課税を理由に税額控除を
認めるものではなく,これを理由に,本件源泉税と原告が有するP9の
株式の譲渡益に対する我が国における課税が,実質的な二重課税という
ことはできない。
(4)小括
以上からすれば,本件源泉税について,外国税額控除を適用することは
できない。
6争点⑥(本件各処分に理由不備ないし理由差換えの瑕疵があるか)につい

(1)理由付記の不備について
ア法人税法130条2項は,青色申告にかかる法人税について更正をす
る場合には,更正通知書に更正の理由を付記すべき旨を定めているが,
このように法人税法が更正通知書に更正の理由を付記すべきものとして
いるのは,同法が青色申告制度を採用して,青色申告にかかる所得の計
算については,それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくもので
ある以上,その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税
者に保障した趣旨に鑑み,更正処分庁の判断の慎重,合理性を担保して
その恣意を抑制するとともに,更正の理由を相手方に知らせて不服申立
ての便宜を与える趣旨に出たものというべきである(最判昭和38年5
月31日・民集17巻4号617頁,最判昭和54年4月19日・民集
33巻3号379頁)。
イそうであるところ,証拠(乙1から3まで)及び弁論の全趣旨によれ
ば,本件各更正処分においては,その更正の理由として,A1等が措置法
66条の6第1項1号の特定外国子会社等に該当すること,そして,A1
等は中国本土に所在する本件各工場における製造行為を自らの計算と負
担で主体的に行っていると認められ,かつ,原告自身A1等の主たる事
業が製造業であると自認していたことから,A1等の主たる事業が製造業
であると認められるところ,A1等は本店が所在する香港において製造行
為を行っていないから,香港と中国本土は税務上別々の地域として取り
扱われることからすれば,同条4項の適用除外要件に該当しないとして,
措置法施行令39条の15第1項の規定に基づき算出されたA1等に係
る課税対象留保金額を,措置法66条の6第1項の規定により,原告の
本件各事業年度の益金の額に算入し,所得金額に加算した旨記載されて
いたことが認められる。
また,上記理由の記載については,更に,A1等が本件各工場における
製造行為を主体的に行っていると認定した根拠について,本件各協議書
の記載,A1等が本件各工場責任者を派遣しており,生産管理及び財務管
理を行っていたこと,本件各工場の機械設備や原材料等を自らの資産と
して帳簿に計上し,また中国工場名義の経営管理口座を自らの銀行預金
として帳簿に計上していることなどの具体的かつ詳細な間接事実を挙げ,
本件各協議書を資料として摘示していたことが認められる。
ウ上記認定のとおり,本件各更正処分においては,A1等について同条
4項の適用除外要件に該当しないと認めるに至った評価判断の過程を具
体的に明示した上で,その評価判断の根拠となった事実関係を具体的か
つ詳細に摘示しており,当該事実関係を裏付ける資料として,本件各協
議書等も摘示していることからすれば,更正処分庁の恣意の抑制及び相
手方の不服申立ての便宜という理由付記の趣旨目的に鑑みても,本件各
更正処分の理由付記としては十分なものということができ,本件各更正
処分に理由付記の不備があったとは認められない。
(2)理由の差換えについて
ア原告は,被告が,本件訴訟において,更正の理由につき本件各更正処
分に付記された理由と異なる理由に差し換え,又は異なる理由を追加し
ているとして,これにより本件各更正処分は違法となる旨主張する。
イしかしながら,本件各更正処分において付記された更正の理由につい
ては上記(1)イで認定したとおり,A1等が措置法66条の6第1項の
特定外国子会社等に当たり,かつ同条4項規定の適用除外要件が適用さ
れない結果,A1等の課税対象留保金額を原告のA1等各事業年度の益金
の額に算入するというものであるところ,被告は,本件訴訟においても,
上記と同様の主張をしている。また,適用除外要件が適用されない根拠
についても,評価判断の過程に関する表現に若干の相違があるものの,
基本的には同様の主張をしていることが認められ,被告において,本件
各更正処分の適否に関し,付記理由と全く異なる新たな事実関係を主張
したものとはいえないから,そもそも,被告が本件訴訟において本件各
更正処分の理由の差換えや理由の追加をしたとは認められない。原告の
上記主張は採用することができない。
7本件各処分の適法性
(1)以上によれば,本件には,措置法66条の6第1項が適用され,原
告に係る特定外国子会社等であるA1等のA1等各事業年度における各課
税対象留保金額を,原告のA1等各事業年度の各所得の計算上,各益金の
額に算入すべきこととなり,また,原告が平成16年3月期中に台湾で源
泉徴収された本件源泉税は,法人税法施行令141条1項所定の外国法人
税に該当せず,外国税額控除の対象とはならないから,これにより各算出
した原告の各所得金額及び各納付すべき税額は,別紙1「第1本件各更
正処分の根拠」記載のとおりであると認められ(なお,争点に関する部分
を除き,計算の基礎となる金額及び計算方法については,当事者間に争い
がない。),これらの各金額及び各税額は本件各更正処分における原告の
本件各事業年度の法人税に係る各所得金額及び各納付すべき税額と同一で
あるから,本件各更正処分はいずれも適法である。
(2)また,上記のとおり本件各更正処分は適法であるところ,本件各賦
課決定処分において過少申告加算税の対象とした各税額の計算の基礎とな
った各事実が本件各更正処分前における各税額の計算の基礎とされなかっ
たことについて通則法65条4項に規定する正当な理由があるとは認めら
れないから,原告の本件各事業年度の法人税に係る各過少申告加算税の額
は,別紙1「第2本件各賦課決定の根拠」記載のとおりであると認めら
れ,いずれも本件各賦課決定における各過少申告加算税の額と同一である
から,本件各賦課決定処分もいずれも適法である。
第6結論
よって,原告の請求は,いずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費
用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文
のとおり判決する。
大阪地方裁判所第2民事部
裁判長裁判官山田明
裁判官徳地淳
裁判官藤根桃世

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛