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平成29年3月16日判決言渡名古屋高等裁判所
平成28年(行コ)第68号退去強制令書発付処分等取消請求控訴事件
(原審・名古屋地方裁判所平成26年(行ウ)第103号)
主文
1原判決を取り消す。
2名古屋入国管理局長が平成26年7月28日付けで控訴人
に対してした出入国管理及び難民認定法49条1項に基づく
控訴人の異議の申出には理由がないとの裁決を取り消す。
3名古屋入国管理局主任審査官が平成26年8月5日付けで
控訴人に対してした退去強制令書発付処分を取り消す。
4訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者が求めた裁判
1控訴人
主文同旨
2被控訴人
(1)本件控訴を棄却する。
(2)控訴費用は控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1本件は,大韓民国(韓国)籍の外国人女性である控訴人が,名古屋入
国管理局(名古屋入管)入国審査官から,出入国管理及び難民認定法
(入管法)24条4号ロ(不法残留)及び3号の5ロ(他人名義の在留
カードの収受)に該当する旨の認定を受けた後,名古屋入管特別審理官
から,上記認定に誤りがない旨の判定を受けたため,入管法49条1項
に基づき,法務大臣に対して異議の申出をしたところ,法務大臣から権
限の委任を受けた名古屋入国管理局長(名古屋入管局長)から,平成2
6年7月28日付けで控訴人の異議の申出には理由がない旨の裁決(本
件裁決)を受け,引き続き,名古屋入管主任審査官から,同年8月5日
付けで退去強制令書発付処分(本件処分)を受けたため,本件裁決及び
本件処分の取消しを求めた事案である(略称は,特に断りのない限り原
判決の表記に従う。以下同様。)。
原判決は,控訴人は入管法24条4号ロ及び3号の5ロの退去強制事
由に該当すると判断した上で,本件裁決に裁量権の範囲の逸脱又は濫用
はなく適法であり,これを前提としてされた本件処分も適法であるとし
て,控訴人の各請求をいずれも棄却したため,控訴人が控訴した。
2前提事実,争点及び当事者の主張は,原判決「事実及び理由」の「第
2事案の概要」2に記載のとおりであるから,これを引用する。
第3当裁判所の判断
1認定事実
前提事実,証拠(甲14ないし17,乙4,5,8,9,12,15,
証人A,控訴人本人のほか,各箇所に後掲の各証拠)及び弁論の全趣旨
によれば,以下の事実が認められる。
(1)控訴人の本国における生活状況等
ア控訴人は,昭和50年(1975年)11月●日,韓国において,
韓国人の両親の下に4人きょうだいの第4子(日本人と結婚して現
在名古屋市内に居住している姉1人,韓国に居住している兄2人が
いる。)として出生した。控訴人は,平成7年(1995年)に高
校を卒業した後,韓国において,靴店や化粧品会社で従業員として
働いたり,洋服店を経営したりして稼働していた。
イ控訴人は,母国語である韓国語での会話及び読み書きに不自由は
なく,日本語については,後記のとおりB(昭和48年1月生まれ
のB)と婚姻して離婚した当時である平成15年頃には殆ど解しな
かったが,現在では,日常会話は可能であり,平仮名及び片仮名は
殆ど読み書きができ,漢字も簡単なものであれば読み書きすること
ができる。
(2)控訴人の過去の入国及び在留状況等(乙2)
ア控訴人は,平成10年11月14日,観光目的で,在留資格を
「短期滞在」,在留期間を「15日」とする上陸許可を受けて本邦
に上陸し,主に東京を観光していたところ,長野県などにも足を延
ばして遊んでいたら,在留期限の同月29日を超えてしまってお
り,それがすぐに発覚して,入管法違反(不法残留)の被疑事実で
逮捕されたが,わずかな期間の徒過であって,刑事事件として起訴
はされず,入管に引き渡された上,平成11年1月29日,同法2
4条4号ロ(不法残留)に該当するとして本邦から退去強制され
た。
イその後,控訴人は,平成14年6月6日,同年7月20日及び同
年10月22日,いずれも,観光目的で,在留資格を「短期滞在」
とする上陸許可を受けて本邦に上陸し,在留期限内に本邦から出国
した。
上記のうち,控訴人の平成14年6月6日の来日は同月13日ま
での滞在であり(乙22),控訴人は,日韓ワールドカップの試合
を観戦しに来たものであったが,その際,韓国料理店で韓国語ので
きる日本人男性であるBと知り合って仲良くなり,その後,Bとの
交際のため,韓国と日本を行き来するようになったものである。
(3)今次の入国及び不法残留に至る経緯等(甲9の1ないし3,乙
2)
ア控訴人は,平成15年3月12日,韓国の両親ら家族の反対を振
り切ってBと婚姻し,同月19日,本邦においてBと婚姻生活を送
るために,在留資格を「短期滞在」,在留期間を「90日」とする
上陸許可を受け,本邦に上陸した。
イ控訴人は,平成15年4月9日,Bの妻として「日本人の配偶者
等」の在留資格への変更を求める在留資格変更許可申請をした。こ
の頃,控訴人はまだ日本語を解さず,このような在留資格に関する
諸手続においては,Bが必要書類に代筆するなどして行っていた。
しかし,Bは,酒癖が悪く,酒を飲むと特に暴力的になる傾向が
あり,また,飲酒時であるとないとを問わず,控訴人に対し,その
頭髪を掴んでは,「この野郎,馬鹿野郎。」などと怒鳴りつけ,そ
のまま車の窓に頭を叩き付けたり,包丁を取り出して「俺は人を殺
すことができる。」などと脅したり,階段から蹴り落としたりする
暴行脅迫を加え,自分がゴルフに行くための金を控訴人にせびり,
控訴人がこれを断ると殴りつけるなどもしていた。また,Bは,控
訴人に対し,控訴人が妊娠したBとの間の子を堕胎するように言
い,堕胎しなければ母子ともに殺すなどと脅迫した。そのため,B
と控訴人の婚姻生活は短期間で破綻し,両名は同年11月4日,離
婚するに至った。
控訴人は,Bから逃れる形で別居に至ったが,その際,既にその
当時控訴人の姉と知り合いであったA(昭和24年10月生まれの
A)も控訴人の衣類や布団を車で運び出すのに手助けをしている。
なお,控訴人は,原審における本人尋問において,代理人に誘導
されなければBの氏すら思い出せないほどであり,これがかつての
DV被害によるトラウマによるものでないとは言い切れない。
ウ控訴人は,離婚成立直後の平成15年11月13日,上記のとお
り同年4月9日に申請していた日本人の配偶者等としての在留資格
への変更を求める在留資格変更許可申請を取り下げ,同日,いずれ
も在留期間を「90日」とし,更新の理由を「出国の準備のため」
とする2回分の在留期間更新許可を受け,これにより,控訴人の最
終の在留期限は,平成15年12月14日となった。もっとも,こ
れらの諸手続を主として行ったのもBであり,当時日本語を解して
いなかった控訴人は,Bに言われるがままに関係書類の必要箇所に
署名したにすぎなかったため,上記の更新の理由や最終の在留期限
を認識することができず,実際,その後どのような手続を踏んだら
よいかも分からない状況であった。
エ控訴人は,結局,平成15年12月下旬か平成16年1月初旬
頃,名古屋市内の病院(甲8の3)において堕胎したが,その際,
控訴人の姉が保証人となったほか,Aも同情心から一緒に保証人と
なっている。
この時点で,控訴人は,最終の在留期限である平成15年12月
14日を過ぎて本邦に在留していたが,当時は不法残留の認識はな
かった。
オ控訴人は,その後も入管において何らの手続もせず,入管当局へ
の出頭もしないまま,本邦における不法在留を続けたが,韓国の両
親ら家族の反対を押し切ってまでBと婚姻して来日し,その後,同
家族の理解を得て,それらが来日した際にはお披露目までし,その
後,韓国の両親から電話で,幸せにやっているかどうかなどと,折
に触れて聞かれたりするのに,BからのDVを受けて1年も経たた
ずに同人から逃げて離婚し,しかもBとの間の子を堕胎せざるを得
なくなったといった酷い状況を両親ら家族に打ち明ける気にはなれ
ず,韓国へ帰る気にもなれないまま,不法残留を継続したものであ
った。そして,平成24年頃まで,知人宅等を転々としながら,飲
食店の従業員やスナックやクラブのホステスをしたり,Aが開業し
た飲食店を手伝うなどして稼働し,また,名古屋の姉やAから時折
小遣いをもらったり,韓国の両親が来日した際に金銭の援助を受け
たりして生活していた。
(4)Aとの関係等について(甲1の1・2,2の1・2)
ア控訴人とAは,平成15年頃,控訴人の姉が名古屋市内で営んで
いた韓国海苔の販売店でAが働き始めたことから知り合いとなっ
た。それ以降,控訴人とAは,前記のとおり,Aにおいて控訴人が
Bから逃れるのを手伝ったり,堕胎の保証人になったりしたことは
あったものの,お互いに男女の意識はないまま,一緒に食事をした
り,Aの開業した飲食店を控訴人が手伝ったりして,継続的に交流
はしていた。また,控訴人の両親や兄らが来日して控訴人と会う際
には,Aも同行し,車を出して送迎するなどし,Aは控訴人の家族
とも親しくなっていった。このような経緯で,Aは,控訴人に対し
て次第に好意を抱くようになったものの,元来恋愛に奥手で控えめ
な性格であり,婚姻の経験が一度もなかったこと,控訴人とは26
歳も年齢が離れていたこと,飲食店の経営に失敗して借金を抱えて
いたこと,介助を要する独身の実兄と二人暮らしであって,しか
も,その居宅は整理整頓されないまま荒れ果てていわゆるゴミ屋敷
と化していたこと等による引け目があり,控訴人に対する好意が募
り愛情にまで至った後にも,なかなか男女としての交際の申込にま
では至らなかった。控訴人も,当初はBからのDVにより強い男性
不信に陥っており,Aに対しても恋愛感情を抱くことはできなかっ
たが,Aの真面目で温かい性格や,自分の家族にも優しくしてくれ
るところに次第に惹かれていき,Aのことを男性として意識するよ
うになった。そして,Aと控訴人は,平成22年頃から男女として
の交際を開始し頻繁に会うようになり,平成25年頃,Aのクレジ
ット会社や消費者金融に対する債務がいわゆる過払いであると判明
して借財がなくなり,むしろ多額の不当利得金が返還されるものと
なったことをきっかけとして,同年7月頃,Aが控訴人に対しプロ
ポーズし,控訴人の母親の了解も得て(なお,控訴人の父親は20
10年に死亡している。),この頃,両名は婚約するに至った。婚
約後,韓国において控訴人の離婚手続が未了となっていることが判
明したため,行政書士を介してその手続を行うべく必要書類を整え
るのに手間取ったこともあって,控訴人とAとの婚姻が成立したの
は,平成25年12月24日となった。
イ控訴人とAは,Aが兄と2人で暮らしていたAの自宅で,3人で
の同居を始めるために,平成25年10月頃から,Aの自宅の片付
けや修繕,原告の荷物の搬入等を順次進めた。控訴人は,ゴミ屋敷
と化していたAの自宅からゴミ出ししたり掃除したりして見違える
ほど綺麗にし,特に,トイレについては,雨漏りがして床が抜けそ
うになっていたところへ,自ら多数のブロックを基礎として運び入
れるなどして,手作業で改修を行ったものであり,このようにして
数か月間を掛けて,徹底的かつ献身的にA宅の美化に努めた。
ウ他方,控訴人は,この時点までには自らが長らく不法残留となっ
ていることを明確に認識するに至っており,Aも従前からこのこと
に薄々気付いてはいたものの,人様にはいろいろな事情があってそ
こには立ち入れないものと思って触れないできたが,婚姻の時期に
は明確に控訴人の不法残留を認識し,これを機に不法残留への対応
を両名で行うこととし,行政書士を伴って,韓国領事館へは平成2
6年1月14日に,入管へは翌日の同月15日に出頭する段取りを
していた。しかし,控訴人とAが同月●日に控訴人の荷物をA宅に
搬入している最中に,控訴人は,臨場した警察官により入管法違反
(不法残留)の嫌疑で逮捕された(なお,不法残留者が行政書士を
伴い入管への出頭を予定していた直前に検挙に至った例が他にも存
することは,当裁判所に顕著である。)。
エ控訴人は,平成26年1月●日,検察官により入管法違反(不法
残留)の事実について起訴され,同年2月●日,名古屋地方裁判所
において,入管法違反(不法残留)の罪により懲役2年6月,執行
猶予4年の有罪判決(本件刑事事件判決)を受け,本件刑事事件判
決は確定した(甲3の1・2)。
オ控訴人は,平成26年3月20日に仮放免され,Aの自宅でAと
の同居を開始し,同年8月5日,再度名古屋入管収容場に収容され
たが,同年10月9日に仮放免され(乙20,21),現在までA
の自宅でAと仲良く同居している。
現在,Aは,ファーストフード店やコンビニエンスストア等でパ
ート勤務をしており,年金を含む月額収入は22万円程度であり,
控訴人は専業主婦である。両名は,自宅に居住して家賃の支出を要
しないため,このAの収入で何とか生計を立てているが,将来は,
一緒に料理店を持ちたいと希望している。
なお,原審判決後の平成28年12月8日,Aの兄が上行結腸癌
で死亡し,Aは控訴人以外に身寄りがなくなった(甲18)。
(5)本件収受に至る経緯等
ア控訴人は,容貌の点や便利さの点で眼鏡を嫌い,コンタクトレン
ズを好んで使用していたところ,今次の本邦入国後,知人から外国
人登録証明書を提示しなくても診察を受けられる眼科医院を紹介し
てもらい,同眼科医院で受診してコンタクトレンズを購入し,使用
していた。しかし,控訴人は,平成24年11月頃,同眼科医院を
再度受診しようとしたところ閉鎖されており,ほかには外国人登録
証明書を提示しなくても受診できる眼科医院に心当たりがなく,そ
の紹介も受けられなかったため,同年12月頃から,外国人登録証
明書の貸与が禁止されていること(外登法18条1項10号)を知
りながら,控訴人の姉名義の外国人登録証明書を同人から借り,こ
れを使ってコンタクトレンズを購入するようになり,平成25年5
月頃には,姉から健康保険の被保険者証(以下「本件保険証」とい
う。)も借りるようになった。
イ平成21年法律第79号による入管法の改正により,外国人登録
制度に代わるものとして新たに在留カード制度が設けられ,その施
行に合わせて外国人登録制度は廃止され,これに伴い,控訴人の姉
は,平成25年6月27日,新たに本件在留カードを交付された。
控訴人は,コンタクトレンズの購入のために眼科医院を受診する
際に提示する目的で,平成25年11月13日頃,姉から本件保険
証と本件在留カードを受け取り(本件収受),同月18日又は19
日,名古屋市内の眼科医院において,他人名義のものであることを
告げずに本件保険証及び本件在留カードを提示して診察を受け,コ
ンタクトレンズを購入した。
ウ控訴人は,本件在留カードを姉に返さず所持していたところ,平
成26年1月●日,入管法違反(不法残留)の被疑事実で逮捕さ
れ,その際,警察官に対して姉名義である本件在留カードを所持し
ていることを自発的に申告した。しかし,不法残留の事実で起訴さ
れたが,他人名義の在留カード収受の事実では起訴されなかった。
控訴人は,遅くとも平成27年1月以降は,在留カードの提示を
求められない眼科医院を控訴人名義で受診して,コンタクトレンズ
を購入し,使用している。
(6)控訴人の家族の状況等
現在,控訴人の本国である韓国には,控訴人の母及び2人の兄が在
住しており,姉は日本人男性と婚姻して名古屋市内に在住している。
控訴人は,姉と交流があるほか,母及び兄らと電話等で連絡を取り合
ったり,同人らが旅行で来日したりして,交流を続けている。
2控訴人の退去強制事由該当性等について
前記前提事実及び前記認定事実によれば,控訴人は,入管法24条4
号ロ(不法残留)の退去強制事由に該当し,また,同条3号の5ロ(他
人名義の在留カードの収受)の退去強制事由にも一応該当し,かつ,出
国命令対象者(同法24条の3)に該当しない外国人であることが認め
られる。
なお,控訴人は,控訴人につき入管法24条3号の5ロ(他人名義の
在留カードの収受)の退去強制事由に該当すると判断することは,控訴
人に保障された医療福祉を受ける権利を侵害するから違憲である旨主張
するが,国連A規約や憲法13条の趣旨を最大限に考慮しても,他人名
義で眼科を受診したり,コンタクトレンズを購入することが当然に許容
されるものとは解されず,そのような目的による在留カードの収受を禁
止し規制するのが違憲であるとまではいえないから,控訴人の上記主張
は採用できない。もっとも,控訴人による本件収受は,その違法性の程
度が低く,消極要素として特に重視すべきものでないことは後記のとお
りである。
3本件裁決の違法性について
(1)前提事実及び上記の認定事実によれば,被控訴人の主張するとお
り,控訴人とAの法律上の婚姻期間は,平成25年12月24日から
本件裁決時である平成26年7月28日まで約7か月と短く,実際の
同居期間も本件裁決時までに4か月弱と短いことは間違いない。しか
しながら,前記1(4)に認定のとおり,控訴人とAとの間には,平成
15年頃に知り合って以来本件裁決に至るまで,10年以上にわたる
長い間に様々な経緯が存在していたのであって,前記1(3)イのとお
り,日本での婚姻生活で短期間に酷いDV被害を受けて強い男性不信
にまで陥り,今もなお心の傷が癒えていないといえる控訴人や,その
本国の家族らとの間で,Aが穏やかな交流を続けて信頼関係を紡ぎ,
かつ,控訴人とAと間の言葉や言語の壁のみならず,大きな年齢差,
Aの年齢,事業の失敗,高利の借財,居宅の状況等々の困難な障害を
乗り越え,お互いの好意を男女間の愛情にまで高め合うまでには相当
の年月を要したといえるところである。控訴人とAは,このような長
い経緯の末,遅くとも平成22年頃には,固く真摯な愛情の絆で結ば
れるに至ったものであり,たとえ物理的には同居しておらず,生計を
共にしてはいなかったとしても,この頃には実質的にみて夫婦同然の
関係にあったということができ,このことは,現に,控訴人とAが本
件裁決後も現在に至るまで,控訴人がその清掃及び改修等に心血を注
いだAの居宅において,夫婦として仲良く暮らし続けているといえる
ことからも明らかであるということができ,かように真摯な婚姻関係
は,今後も控訴人が日本に在留できる限り継続していくであろうこと
が強く見込まれる。もとより,婚姻関係の在り方は多種多様であって,
単に法律上の婚姻期間や同居期間が短い等の見地のみから,機械的,
硬直的かつ表層的に夫婦の在り方を観念し,そのような観念に基づき
夫婦関係の安定性や成熟性を問議することは相当でない。
そして,控訴人が韓国に強制的に帰国させられることになれば,A
の年齢や言語能力等からして,Aが控訴人と共に韓国で婚姻生活を送
ることは不可能に近いから,両名に対して事実上の生き別れを強制す
ることになるというべきあって,60歳を過ぎての初婚で生涯の伴侶
を得,ゴミ屋敷と化していた自宅が控訴人の献身的努力によって人間
らしい住居に蘇るなどし,人生に希望を持つに至り,かつ,その後に
実兄を亡くして控訴人以外には身寄りがなくなったAにとっても酷な
ことであり,著しく人道に反する結果となる。もちろん,控訴人自身
にとっても,たとえ韓国に母や兄などの近しい家族らがいるとはいえ,
今更ながら韓国へ帰国することは,韓国において一から生活基盤を立
て直さなければならないことを意味するものであって,それが控訴人
にとって過酷なものでないとはいい切れない。
以上は,本件裁決に当たり十分に考慮されていて然るべき事情であ
るが,被控訴人がこれらを考慮していないことは明らかである。
(2)これに対し,被控訴人は,①控訴人は,過去に本邦で不法残留し
て退去強制されたにもかかわらず,今回再び,本件裁決時まで10年
以上もの長期間にわたり不法残留を続けた事実により,本件刑事事件
判決を受けたものであること,②親族に対する体面等を気にして,B
と離婚したことや堕胎したことを本国の親族に言うことができなかっ
たため,本邦に不法残留したという今次の不法残留の経緯には,何ら
酌むべき事情はないこと,③控訴人は,今次の不法残留中,飲食店や
スナック等で不法就労をしていること,④在留カードは,中長期在留
者の本邦在留に係る法的地位を証明する重要文書であるとともに,公
的身分証明書として利用されるものであり(入管法19条の3参照),
他人名義の在留カードを使用目的で収受する行為は,退去強制事由に
該当するとともに罰則規定も設けられているところ,控訴人は,その
違法性を十分に認識しながら,眼鏡を掛けると自分の容姿が不細工に
見えてしまうことが嫌だから等の身勝手な動機で,コンタクトレンズ
を購入するために本件収受に及んだというのであり,酌量すべき点は
極めて乏しいこと等を縷々指摘し,上記①ないし③の在留状況及び④
の行為は,重大な消極要素として考慮されるべきであると主張する。
しかしながら,上記①の点につき,控訴人の過去の不法残留は,控
訴人が日本国内の旅行を楽しんでいる間にわずかに在留期限を徒過し
てしまったという軽微なものであり,起訴もされておらず,しかも1
0年以上も前のことであって,その後に数次にわたって入国及び在留
が問題なく許可され,韓国と日本とを行き来することが許されていた
ものであるから,それを今次の不法残留に当たって問題視して取り上
げることは相当ではない。
また,これと上記②の主張に関連することであるが,控訴人の不法
残留が10年以上にも及んでしまったことについては,前記1(3)イ
に認定のとおり,控訴人が日本人男性であるBにより酷いDV被害を
受け,短期間で離婚を余儀なくされ,堕胎まで強要されていたという
重大な事情が存していたものである。すなわち,前記1(3)ウに認定
の事実からすると,当時日本語を解しなかった控訴人は,離婚に際し
Bにより無責任に放逐され,不法残留となるべく仕向けられたと言っ
ても過言ではないほどであり,しかも,同(3)エに認定のとおり,B
に強要されて失意のうちにやむなく名古屋市内の病院で堕胎の処置を
受けた時点で既に在留期間を徒過しており,かつ,控訴人は既に在留
期間を徒過していたことすら認識し得なかったところである。そして,
控訴人は,同(3)オに認定のとおり,その後も長らく不法残留を継続
することになるが,それは,自らの意思でBと結婚するために日本に
渡ったにもかかわらず,短期間で上記のような酷い状況に陥ったため,
自責の念から韓国の両親ら家族に顔向けできないものと苦悩し,長ら
くその事情を打ち明けることもできず,しかも,DV被害によるトラ
ウマが持続していたという事情があったためであると考えられ,この
ような控訴人のDV被害者に特殊な精神状態とその行動への持続的な
悪影響を顧慮すれば,控訴人が韓国に帰国できず,ずるずると不法残
留を続けてしまい,真に信頼に値するAとの婚姻関係に至る段階まで
長らく法的に正しい対応が取れなかったとしてもやむを得ない面があ
ったというべきであり,このような不法残留の経緯は,十分に斟酌す
べき事情であるということができる。しかるに,被控訴人が上記のと
おり当然に重視すべき控訴人のDV被害の深刻な実態を敢えて見よう
ともせず,調べようともしていないことは,本件訴訟の原審における
被控訴人の訴訟態度からも明らかであって,被控訴人は,控訴人の受
けたDV被害の深刻な実態を敢えて無視する一方で,控訴人が自らの
体面から家族には言えなかったとか,一旦帰国することはできたなど
と安易に評価した上で,在留期間の長さのみを殊更重大視しているも
のであり,かような有り様は,わが国のいわゆるDV防止法の精神に
も悖る極めて不当な態度といわざるを得ない。
さらに,上記③の不法就労の点につき,在留期間経過後である平成
15年12月15日以降の就労の事実は,在留資格の存在を前提とし
た入管法70条1項4号の資格外活動罪に該当しないのであるから,
就労の事実そのものを犯罪視することはできない上,実質的な違法性
も低く,控訴人が本邦で日々の生活の糧を得るために働くこと自体は,
人道上何ら非難されるべきことではない。
加えて,上記④の本件収受(姉名義の在留カードの収受)の点につ
いては,前記1(5)の認定によれば,控訴人は,不法残留中といえど
も,通常は自らの名義で医療を受けており,外国人が医療を受けるに
際して在留カードを要求すべきでないのにこれを要求した医療機関に
おいてのみ本件収受にかかる姉の本件在留カードを使用していたとい
うにすぎず,その利用範囲は限定的なものであったということができ,
まして姉に成り済ますとか,不当な利益を享受する目的で本件収受に
及んだものではないことは明らかであり,その実質的な違法性は低い
ものといえる。現に,控訴人は,自ら自発的に申告した本件収受の点
では,賢明なる検察官の判断により,入管法違反として起訴もされて
いない。なお,被控訴人は,容貌や利便性の点から,コンタクトレン
ズを愛用し,眼鏡を避けたいとする控訴人の動機が身勝手である旨主
張するが,コンタクトレンズは通常の視力矯正用具として広く行き渡
っているものであり,これを眼鏡と比較の上で愛用することもまた通
常のことであるから,被控訴人において,上記した控訴人の動機が身
勝手なものであるなどと殊更悪し様に断罪しようとすること自体,著
しく相当性を欠くものといわざるを得ない。
よって,被控訴人の上記①ないし④の主張は,いずれも採用し難い。
(3)以上の認定説示によれば,本件裁決は,控訴人とAが婚姻に至る
までの長い経緯やその真摯な夫婦関係の実質を見ようともせず,単に
法律上の婚姻期間や同居期間の長短のみでしか夫婦関係の安定性や成
熟性を考慮せず,控訴人を韓国へ帰国させることによる控訴人とAの
不利益を無視又は著しく軽視し,また,控訴人が不法残留状態に至っ
た経緯,特に,控訴人が日本人男性から酷いDV被害に遭い,短期間
で離婚を余儀なくされ,堕胎まで強要されたことが契機となって,や
むにやまれず不法残留となった深刻な事情を敢えて無視する一方で,
不法残留期間が長期に及ぶことのみを重視し,かつ,起訴もされてお
らず,一時的使用であって軽微といえる本件収受(他人名義の在留カ
ードの収受)や,人道上非難に値しないような不法残留中の就労を殊
更問題視するなどしたことによってなされた偏頗な判断というほかは
なく,その判断の基礎となる事実に対する評価において明白に合理性
を欠くことにより,その判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠く
ことは明らかであるというべきであるから,裁量権の範囲を逸脱又は
濫用した違法なものというほかはない。
よって,控訴人による本件裁決の取消請求には理由がある。
4本件処分の違法性について
本件処分は,名古屋入管局長から本件裁決をした旨の通知を受けた名
古屋入管主任審査官が,入管法49条6項に基づいてしたものであるが,
上記3において述べたとおり,本件裁決に裁量権の範囲を逸脱濫用した
違法性があって取り消されるべきである以上,これを前提とする本件処
分も違法というほかなく,その取消請求にも理由がある。
第4結論
以上によれば,控訴人の本件各請求はいずれも理由があるから認容す
べきところ,これと結論の異なる原判決は失当であるから取り消すこと
とし,主文のとおり判決する。
名古屋高等裁判所民事第4部
裁判長裁判官藤山雅行
裁判官上杉英司
裁判官丹下将克

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