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主文
1 被告は,原告に対し,金1000万円及びこれに対する平成14年11月2
0日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決の第1項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 原告の請求
主文第1項と同旨
第2 事案の概要
1 争いのない事実
(1) 生命保険契約の締結
訴外亡A(以下「亡A」という。)は,次のとおりの生命保険契約(以下
「本件①,②の生命保険契約」という。)を締結した。
① 契約日       昭和58年9月1日
保険会社      住友生命保険相互会社
保険種類      養老保険
保険期間      30年
契約者       亡A
被保険者      亡A
死亡保険金受取人  被告
死亡保険金     1200万円
② 契約日       昭和63年7月1日
保険会社      日本生命保険相互会社
保険種類      定期特約付終身保険
保険期間      定期特約期間15年
契約者       亡A
被保険者      亡A
死亡保険金受取人  被告
死亡保険金     5000万円
(2) 亡Aは,平成13年1月25日,上記生命保険につき,次のとおりの内容
の自筆証書遺言(以下「本件遺言」という。)を作成した。
一 死亡生命保険(日本生命・住友生命)の受取人を変更する。
一 右生命保険のうち金一千万円を原告に残す。
一 右生命保険のうち金一千万円を長男Bに残す。
但,本人がC事務所及び関連会社又は学校法人Dに勤務又は継承する場
合は,これをEに移すものとする。
一 右生命保険のうち金一千万円を次男Fに残す。
これは大学等の進学資金に充てるよう。
一 右生命保険のうち金二千万円を三男Eに残す。Eには夫婦のいやな面ば
かり見せてきた為である。
一 右生命保険の残りを被告に残す。
酒代,タバコ代として使って下さい。
(3) 亡Aは,平成13年2月1日死亡した。
(4) 被告は,平成13年3月8日までに本件①,②の生命保険保険契約に基づ
く各死亡保険金全額を受領した。
2 原告の主張
(1) 本件遺言による死亡保険金受取人の変更
亡Aは,本件遺言により,本件①,②の生命保険契約に基づく死亡保険金
のうち,1000万円につき,その受取人を被告から原告に変更したものである。
(2) 被告の不当利得
ところが,被告は,本件①,②の生命保険契約に基づく死亡保険金全額を
受領し,もって,原告が上記受取人の変更に基づき受け取るべき死亡保険金100
0万円を不当に利得した。
(3) よって,原告は,被告に対し,不当利得の返還として1000万円及びこ
れに対する本件訴状送達の日の翌日である平成14年11月20日から支払済みま
で民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
3 被告の主張
(1) 本件遺言による死亡保険金受取人の変更は,以下のとおり,その効力を有
せず,無効である。
ア 本件遺言による受取人変更の不明確性
亡Aは,本件遺言において,自己の契約している生命保険が2社あるに
もかかわらず,そのどちらかを特定せず漠然と「一 死亡生命保険(日本生命・住
友生命)の受取人を変更する。」「一 右生命保険のうち金一千万円を原告に残
す。」として,生命保険金の受取人とその受取額を変更しようとしている。
しかし,上記のような記載では,どの保険契約の受取人・受取額を変更
するのかまったく判別がつかず,新受取人である原告が2社の生命保険会社のうち
どちらに1000万円の保険金支払請求権を有することになるのか,まったく不明
確なままである。仮に原告が1000万円の保険金支払請求権を2社に分割して有
すると解釈しても,具体的にそれぞれの保険会社がいくらずつ保険金支払義務を負
うことになるのかを解釈する客観的な基準を本件遺言から読み取ることは不可能で
ある。
以上から,本件遺言による死亡保険金受取人変更の意思表示は,その内
容が著しく不明確であり,意思表示としての効力を有しないと解するのが相当であ
る。
イ 受取人変更の意思表示は相手方を要する意思表示であること
死亡保険金受取人変更の意思表示は,単独行為であるとしても,原則と
して相手方(保険会社,新旧の保険金受取人のいずれか)に対してなすことを要す
る意思表示であり,かつ,アで述べた本件遺言の内容の不明確さから,その意思表
示の内容を確定できるのは,保険会社2社に対し,受取人・金額変更の意思表示の
内容を明確な内容でなした場合のみであることからして,本件における死亡保険金
受取人変更の意思表示は,保険会社2社に対してなすことを要し,かつ,保険会社
2社に到達して初めてその効力が生じるものというべきである。
そうすると,本件遺言による死亡保険金受取人変更の意思表示が保険会
社2社に到達したのは,被保険者である亡Aの死亡後であり,既に被告の保険金支
払請求権が確定し,保険会社2社が被告に対する支払義務を履行した後であるか
ら,もはやかかる意思表示により保険金受取人の変更はできないものといわざるを
得ない(商法675条2項)。
(2) 仮に本件遺言による保険金受取人の変更が有効であったとしても,以下の
事情を総合考慮すると,被告には本件①,②の生命保険契約に基づく死亡保険金を
受け取る法律上の理由があり,不当利得は成立しないというべきである。
すなわち,保険会社との関係では,保険会社が受取人変更の通知を受ける
までは,旧受取人が受取人であり,保険会社は,旧受取人に保険金を支払えば,弁
済として有効であり,保険会社の保険金支払義務は消滅するものである。そして,
本件遺言は封印された状態であったものが,平成13年3月22日検認されたもの
で,被告も,同日の検認により受取人変更の記載があることを知ったところ,被告
は,同日の検認以前に,善意で正当な受取人として保険金を受け取ったものであ
り,何ら不当な行為ではない。また,保険金受取人の保険金支払請求権は,実質的
には,保険契約者による保険料支払の対価として支払われるものである。かかる保
険料の支払は,相続財産の減少を伴い相続人の利益を害するものである以上,被告
は保険契約者かつ被保険
者である亡Aの相続人として,保険料の支払につき利害関係を有する。これに対し
て,原告は,亡Aの相続人でも同居の親族でもなく,亡Aの死後,亡Aから生活保
障を受けるべき地位にない。また,原告は,何ら対価関係なく無償で新受取人の地
位を得ている。したがって,原告は,実質的に保護に値する利益を有していない。
第3 当裁判所の判断
1 本件遺言による保険金受取人変更について
(1) 本件遺言による受取人変更の不明確性
被告は,本件遺言による保険金受取人変更の意思表示は,その内容が著し
く不明確であり,無効であると主張するところ,確かに,本件遺言の記載は,2社
との間に生命保険契約があるにもかかわらず,そのどちらかを特定せず漠然と「一
 死亡生命保険(日本生命・住友生命)の受取人を変更する。」「一 右生命保険
のうち金一千万円を原告に残す。」としており,どちらの生命保険契約の受取人を
変更するものか,明確でない点があることは否定できない。
しかし,その記載から推測される亡Aの合理的意思を推測すれば,「一 
死亡生命保険(日本生命・住友生命)の受取人を変更する。」との記載にある生命
保険とは,本件①,②の生命保険契約をさすものと解されるし,その受取人変更に
関する記載は,本件①,②の生命保険契約のいずれについても死亡保険金受取人を
変更するものと解され,かつ,次の「一 右生命保険のうち金一千万円を原告に残
す。」との記載をも併せ考慮すると,本件①,②の生命保険の各死亡保険金額に応
じた按分額(具体的には,本件①の生命保険契約の死亡保険金が1200万円,本
件②の生命保険契約の死亡保険金が5000万円であるので,1000万円をこれ
に応じて按分すると,その按分額は,本件①の生命保険契約が193万5484
円,本件②の生命保険が
806万4516円となる。)で,それぞれの保険契約につき,その受取人及び受
取額を変更する趣旨の記載とみるのが相当である。そうとすれば,本件遺言の上記
記載は,本件①,②の生命保険契約の死亡保険金受取人の変更につき,その内容を
特定するに足りる記載と認めることができ,その内容が著しく不明確で無効である
との被告主張は採用できない。
(2) 次に被告は,保険金受取人変更の意思表示は相手方に対してする必要があ
り,相手方に到達したときにその効力が生じることを理由に,本件遺言による保険
金受取人変更は効力を生じないと主張する。
しかし,保険金受取人の変更は,保険契約者の一方的意思表示であること
からすれば,これについて常に相手方を要するとする必要はなく,その意思表示が
外部から明確に確認できる限りは,これを単独行為として行うことも許容すべきで
ある。
そうとすれば,本件遺言による保険金受取人の変更もこれが許容されると
いうべきである。ところで,被告は,本件遺言による保険金受取人変更の効力が生
じない根拠として,保険契約者が保険金受取人の指定変更権を有する場合におい
て,その権利を行わずに死亡したときは,保険金受取人の権利は確定する旨を定め
た商法675条2項をあげるが,保険契約者が遺言によってその変更権を行使した
ときも,その意思表示自体は生前に行われているのであるから,死亡までにその権
利を行ったものと解すべきであり,商法675条2項の規定は,遺言による受取人
変更を何ら妨げるものではない。
以上のとおりで,遺言による受取人の変更は,遺言者の死亡と同時に効力
を生じ,遺言のとおりに死亡保険金の受取人が変更されるものと認めるのが相当で
ある。
したがって,本件①,②の生命保険契約に基づく死亡保険金のうち100
0万円(本件①の生命保険契約の死亡保険金のうちの193万5484円と本件②
の生命保険契約の死亡保険金のうちの806万4516円)は,亡Aの死亡と同時
に本件遺言のとおりに,その受取人が被告から原告に変更されたものと認めるのが
相当であり,これと異なる前提に立って,本件遺言による保険金受取人変更の効力
が生じないとする被告の前記主張は,これを採用することができない。
2 不当利得の成否について
前記1で認定したところによれば,本件①,②の生命保険契約に基づく死亡
保険金合計6200万円(本件①の生命保険契約の死亡保険金1200万円と本件
②の生命保険契約の死亡保険金5000万円)のうち1000万円(本件①の生命
保険契約の死亡保険金のうちの193万5484円と本件②の生命保険契約の死亡
保険金のうちの806万4516円)については,本件遺言による受取人変更によ
り,その受取人は,被告から原告に変更されていたにもかかわらず,被告において
これを受領したものであるから,被告は,原告の損失のもとに1000万円を不当
に利得したものと認められる。
被告は,本件遺言による保険金受取人の変更が有効であったとしても被告に
不当利得は成立しないとしてるる主張するが,いずれも前記認定を左右するものと
は認められず,これを採用することはできない。
3 以上によれば,不当利得の返還として1000万円及びこれに対する本件訴
状送達の日の翌日である平成14年11月20日から支払済みまで民法所定年5分
の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は理由がある。
よって,原告の請求を認容することとし,主文のとおり判決する。
神戸地方裁判所第4民事部
裁 判 官   上  田  昭  典

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