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平成15年(行ケ)第480号 審決取消請求事件(平成16年11月1日口頭弁
論終結)
          判           決
          ティーエスコーポレーション株式会社(旧商号・帝人製機株式
会社)訴訟承継人
  原      告   ナブテスコ株式会社
  訴訟代理人弁護士   野村晋右
  同          髙橋利昌
  同          鈴木良和
  同    弁理士   栗原浩之
被      告   東レ株式会社
  訴訟代理人弁護士   櫻井彰人
  同    弁理士   岩見知典
          主           文
      特許庁が無効2003-35055号事件について平成15年9月2
2日にした審決を取り消す。
      訴訟費用は被告の負担とする。
          事実及び理由
第1 請求
   主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
 1 特許庁における手続の経緯
   被告は,名称を「ボビンホルダー」とする特許第2060080号発明(昭
和61年2月20日特許出願〔以下「本件特許出願」という。〕,平成8年6月1
0日設定登録,以下,その特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
 原告は,平成15年2月13日,本件特許を無効にすることについて審判の
請求をし,無効2003-35055号事件として特許庁に係属した。
 特許庁は,上記事件について審理した上,同年9月22日に「本件審判の請
求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年10月2日,原告に送達
された。
 2 本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の特
許請求の範囲記載の発明(以下「本件発明」という。)の要旨
(A)一端部側に中空部を有し,ボビンを把持するための保持機構が設けられ
たボビンホルダー部と,一端部が駆動手段に接続され,他端部が前記中空部内を貫
通して前記ボビンホルダー部に固定されるボビンホルダー軸とから構成されたボビ
ンホルダーであって,
(B)前記ボビンホルダー軸は,前記ボビンホルダー部と前記ボビンホルダー
軸との接続部近傍においてフレームから前記中空部内に突出された管状支持体で回
転自在に支承され,かつ,
(C)前記ボビンホルダー部の中空部肉厚が,上記ボビンホルダー軸との接続
部側で厚くされ,該接続部から前記フレーム側に延びる前記一端部側で薄くされて
いることを特徴とするボビンホルダー。
(以下,本件発明の構成を,上記分節に従い,それぞれ「構成(A)」~「構
成(C)」という。)
 3 審決の理由
   審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,請求人(注,原告)の主張する無
効理由,すなわち,①本件発明は,本件特許出願前に頒布された刊行物である実願
昭59-58899号(実開昭60-170354号)のマイクロフィルム(審判
甲1・本訴甲4,以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」
という。)であり,特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができな
いものであり,また,②引用例,特公昭57-25466号公報(審判甲2・本訴
甲5,以下「甲5公報」という。),特開昭59-212366号公報(審判甲
3・本訴甲6,以下「甲6公報」という。),特開昭59-217567号公報
(審判甲4・本訴甲7,以下「甲7公報」という。)及び特公昭51-42214
号公報(審判甲5・本訴甲8,以下「甲8公報」という。)により本件特許出願前
に周知の構造のボビンホルダーに,引用例,特公昭59-8616号公報(審判甲
6・本訴甲9,以下「甲9公報」という。),特開昭55-123847号公報
(審判甲7・本訴甲10,以下「甲10公報」という。),米国特許第4,42
9,838号明細書(審判甲8・本訴甲11,以下「甲11明細書」という。
)及び実願昭58-93362号(実開昭60-1996号)のマイクロフィルム
(審判甲9・本訴甲14,以下「甲14マイクロフィルム」という。)により本件
特許出願前に周知であるボビンホルダー等の中空部肉厚をその長手方向に変化させ
るという技術的事項を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができ
たものであり,同条2頃の規定により特許を受けることができないものであるとの
主張に対し,①本件発明は,引用発明であるということはできず,また,②本件発
明は,引用発明,甲5公報~甲10公報,甲11明細書及び甲14マイクロフィル
ムに記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでは
ないから,請求人の主張及び証拠方法によっては本件発明に係る本件特許を無効と
することはできないとした。
第3 原告主張の審決取消事由
   審決は,本件発明の引用発明に基づく新規性についての認定判断を誤り(取
消事由1),本件発明と引用発明との相違点についての認定判断を誤った(取消事
由2)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
 1 取消事由1(本件発明の引用発明に基づく新規性についての認定判断の誤
り)
(1)審決は,「本件発明は,『一端部側に中空部を有し,ボビンを把持するた
めの保持機構が設けられたボビンホルダー部』を構成に含むが,ボビンホルダー部
について,その他端部側がどうであるかは,本件発明の構成には含まれていない。
言い換えれば,本件発明にとっての要件は,ボビンホルダー部の一端部側に中空部
があることと,その中空部の肉厚がどうであるかということであって,ボビンホル
ダー部の他端部側は,中空でも,中実でも,それは本件発明とは特に関係ない事項
であり,ましてや,他端部側がたまたま中空であったとしても,その肉厚の如何
も,本件発明の要件とは,無関係な事項である」(審決謄本6頁最終段落~7頁第
1段落)とし,引用例(甲4)に,一端部側中空部肉厚が他端部側中空部肉厚より
薄くなっている発明が記載されていたとしても,本件発明の構成が開示されている
とはいえないとして,本件発明の新規性を肯定したが,誤りである。
(2)本件明細書(甲1)の特許請求の範囲には,「中空部」の語は,構成
(A)において2度,構成(B)において1度使用されているところ,2度目以降
のものは,いずれも,その前に「前記」の語が付され,構成(A)における最初の
「中空部」を明確に指示しているが,構成(C)においては,「前記」を付さず
に,単に「中空部」と記載され,構成(A)及び構成(B)に記載された「前記中
空部」とは区別され,一端部側の「中空部」を指示しておらず,単にボビンホルダ
ー部が具備している「中空部」であることが規定されているにすぎないから,構成
(C)における「ボビンホルダー部の中空部」は,ボビンホルダー部の一端側の中
空部に限定されず,ボビンホルダー部が接続部の両側に中空部を有している場合
は,いずれの中空部もこのボビンホルダー部の中空部に該当する。そして,引用例
(甲4)の第2図には,ボビンホルダ36の右側の中空部が,一定の肉厚で,回転
軸37の固定部(本件発明の構成(B)における接続部に該当する。)から,右側
端部のフレーム側解放端に向かって延在し,また,接続部の左側にも中空部を有し
ていることが図示され,左側の中空部の接続部側の肉厚の方が,明らかに右側の中
空部の前記一端部側の肉厚よりも厚くなっており,引用例には,本件発明の構成
(A)及び構成(B)と共に,構成(C)も開示され,本件発明のすべての構成が
開示されている。そして,引用例に開示されたものは,固有振動数を大きくでき,
ボビンホルダーの危険速度が高くなる分,使用回転数範囲が高くなり,「安定した
高速回転を可能ならしめることができる」(本件明細書8欄第1段落)という,本
件発明の作用効果を奏することは明らかであるから,本件発明は,引用発明であ
る。
 2 取消事由2(本件発明と引用発明との相違点についての認定判断の誤り)
(1)審決は,本件発明と引用発明との相違点として認定した,「本件発明のボ
ビンホルダーは,ボビンホルダー部の中空部肉厚が,ボビンホルダー軸との接続部
側で厚くされ,接続部からフレーム側に延びる一端部側で薄くされている(構成
(C))のに対し,甲第1号証(注,引用例,甲4)記載のボビンホルダ36の中
空部肉厚は,ボビンホルダー軸にあたる回転軸37との接続部側と,接続部からフ
レーム側に延びる一端部側とで等しい点」(審決謄本7頁(相違点))について,
「甲第1号証には,ボビンホルダー(糸条巻取装置)を構成する部材の臨界回転数
(1次共振点)を運転回転数範囲より大きくして,装置の振動を防止するという技
術思想は記載されているが,これはもっぱら中間軸の剛性を高めることによって実
現しており,本件発明の構成(C)に係る,ボビンホルダー部(ボビンホルダ3
6)の工夫の点については何ら言及されていない・・・。また,この点は,甲第2
号証~甲第5号証(注,甲5公報~甲8公報)にも記載はない」(同7頁最終段落
~8頁第1段落),「甲第9号証(注,甲14マイクロフィルム)は,ポンプモー
タという特定の技術分野において,上記技術事項が公知であったことを示すもので
あるが,甲第9号証のみを唯一の根拠として,かかる技術事項が,一般に,中空部
を有する部材の高速化という技術分野において周知であったとすることはできな
い」(同9頁第3段落)として,本件発明の引用発明に基づく容易想到性を否定し
たが,当然に考慮すべき周知事項を看過し,容易想到性の判断を誤ったものであ
る。
(2)甲8公報には,「巻始めから巻終りに至る広い回転数範囲に関連した回転
数の高さが,装着機構の支承,特に装着機構を片持ち式に支承させるばあいの支承
の点に問題を生ぜしめるのは明らかである。この片持ち式の支承は,巻取り装置操
作上有利であり,しかも空の糸巻管の取付けおよび満管の取外しを簡単化する。巻
取り動作中に臨界回転数が生じないように装着機構を支承させるということが特別
な問題として提出されている。臨界回転数の原因としてはこのばあい軸の緩衝され
ない個有震動があげられる(例えば,ドウベルの機械構造のためのハンドブッ
ク,Dubbels.Taschenbuch.fur.den.Maschinenban,第12版第1巻268ペー
ジ)。臨界回転数で装着機構を駆動すると著しい震動が生じ,この震動が装着機構
または別の機械部分の損傷を招く。この種の装着機構の臨界回転数を回避するの
は,巻取り動作の経過につれて次第に大きくなる管糸によって臨界回転数が減少し
てくるので困難である。臨界回転数の除去には理想的には,
   
ω
K=√c/m
という式が与えられる。このばあい,
ω
Kは臨界回転数を,cは装着機構およびその
支承部材の弾性定数を,mは巻取り動作の経過につれて増大する管糸の質量を含め
た装着機構の質量を表わしている。臨界回転数の発生を回避させる1つの可能性
は,臨界回転数を運転回転以上に置くように装着機構およびその支承部材を鋼性に
設計することである」(2欄最終段落~3欄第2段落)と記載され,特公昭57-
22864号公報(甲16,以下「甲16公報」という。)にも同様の記載があ
る。
 上記式
ω
K=√c/mは,中空部を有する片持ちの円筒を回転させる場合
に,円筒はやわらかいほど回転数を少し高くしただけで振動するが,硬いほど回転
数をより高くしても振動しにくく,また,重いほど円筒は回転数を少し高くしただ
けで振動するが,軽いほど回転速度をより高くしても振動しにくいことを意味して
いる。そして,このような理論的根拠に基づいて,甲8公報及び甲16公報は,ボ
ビンホルダーの臨界回転数(危険速度)の発生を回避するために,臨界回転数(危
険速度)を運転回転数以上に置くように,ボビンホルダー部を含む装着機構(ボビ
ンホルダー)を鋼性に設計するという技術的思想が,周知事項として開示されてい
る。そうであれば,装着機構(ボビンホルダー)の一部であるボビンホルダー部に
ついて,片持ち支持された中空部を有する円筒(ボビンホルダー部)を,重さを増
やすことなく,より鋼性に設計するためには,当該片持ち支持された中空部を有す
る円筒の根元を相対的に厚く,先端を薄くすることは,当業者が容易に行い得る設
計事項である。すなわち,片持ち支持された中空部を有する円筒の根元(底・底
辺)のような直角に交わる部分について,これを補強するために相対的に根元を厚
くすることは,通常よく行われており,当業者が容易に行い得る設計事項にすぎな
い。
(3)また,甲14マイクロフィルムには,審決が認定するように,「ポンプモ
ータの回転軸について,一端にインペラを取り付け,このインペラの取り付け部を
案内軸受けによりオーバーハング状態で支持するものにおいて,インペラ取り付け
部より案内軸付近まで中空とするとともに,この中空部分の肉厚をインペラ取り付
け部より案内軸受付近が厚くなるよう軸方向に肉厚を変化させたものが記載されて
おり,このようにすることにより,固有振動数を高くして,運転する回転数域より
遠ざけることが記載され」(審決謄本9頁第2段落),片持ち支持された中空部を
有する円筒である回転軸を高速回転させた時に,固有振動数によって決定される危
険速度の発生を防ぐ必要があるが,固有振動数は回転軸の剛性と質量によって決定
されるから,片持ち支持された中空部を有する回転軸の肉厚を根元側で厚く,先端
側で薄くすることにより回転軸を鋼性に設計し,固有振動数を運転回転以上に置く
ようにするという解決課題及び解決手段が周知事項として開示されている。そうす
ると,引用発明の技術課題と甲14マイクロフィルムに記載された技術課題とは,
全く同様であるから,引用発明に甲14マイクロフィルムに記載された解決手段の
適用を試みることは,むしろ自然というべきである。
  さらに,片持ち支持した部材の断面積を変えて先端を細くすることと同様
に,片持ち支持した中空軸の肉厚を根元側を厚く(横断面積を大きく)し,先端側
を薄く(横断面積を小さく)した中空軸は,全体の肉厚を一様に根元側の厚さとし
た中空軸よりも固有振動数が大きくなるであろうことは,昭和40年5月30日朝
倉書店発行「機械設計ハンドブック」(甲12-1,2,以下「甲12刊行物」と
いう。)及び昭和36年9月5日社団法人日本機械学会第3刷発行「機械工学便覧
 改訂第4版」(甲13,以下「甲13刊行物」という。)により,当業者に周知
の技術であることは明らかである。
(4)審決は,「上記甲号証(注,甲9公報,甲10公報及び甲11明細書)の
いずれにも,ボビンホルダーに対応する部材の肉厚を変える旨の文章による明示的
な記載はなく,また,肉厚を変える理由についての記載も一切ない。・・・甲第1
号証(注,引用例,甲4)記載のものに,かかる周知事項を適用することは,そも
そも,その必要性を見出せず,動機付けに欠けるから,当業者が容易になし得たこ
とであるとは言えない。また,仮に適用したとしても,本件発明の形式のボビンホ
ルダーにおいて,ボビンホルダー部の肉厚をどのように変えるかということを,該
周知事項はまったく教示していないから,その適用により,当業者が容易に本件発
明をなし得たとも言えない」(審決謄本8頁下から第5段落~第2段落)と認定判
断したが,誤りである。
  上記(2),(3)の周知事項を考慮すれば,引用発明に,ボビンホルダーの技
術分野における周知事項である片持ち支持された中空部を有する円筒であるボビン
ホルダー部の肉厚を根元側で厚く,先端側で薄くするという技術的事項を適用して
本件発明に想到することは,当業者が容易にし得ることである。
(5)以上のとおり,甲8公報及び甲16公報には,ボビンホルダーの臨界回転
数(危険速度)の発生を回避するために,臨界回転数(危険速度)を運転回転数以
上に置くように,ボビンホルダー部を含む装着機構(ボビンホルダー)を鋼性に設
計するという技術的思想が,周知事項として開示され,甲14マイクロフィルムに
は,片持ち支持された中空部を有する回転軸の肉厚を根元側で厚く,先端側で薄く
することにより,回転軸を鋼性に設計し,固有振動数を運転回転以上に置くように
するという解決手段が周知事項として開示されているのであるから,引用発明にこ
れら周知の技術を適用することは,当業者が容易に想到し得ることである。
第4 被告の反論
  審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
 1 取消事由1(本件発明の引用発明に基づく新規性についての認定判断の誤
り)について
(1)構成(C)の「中空部肉厚」の前に「前記」が付されていないのは,「中
空部肉厚」が,構成(A)及び構成(B)に一度も現れない上に,直前に「上記ボ
ビンホルダー部の」とあるので,「前記」を付すまでもなく,意味が明確であるか
らにすぎない。
(2)ボビンホルダー部の一端部側が中空部の片持ちの円筒の固有振動数は,甲
13刊行物の記載などから明らかなように,円筒の剛性が高いほど高い値となり,
円筒の重さが重いほど低い値となる。したがって,中空部の重さに対するボビンや
保持機構の重さが無視できるほど軽い場合は,剛性の低下の影響よりも,中空部の
重さの変化の影響の方が大きいので,危険速度が高まる場合もあり得るが,現実に
は,ボビンや保持機構の重さが無視できないから,逆に危険速度が低くなるのが普
通である。一方,本件発明は,中空部の危険速度に対し,接続部に近い部位におい
ては,中空部の剛性が自重より影響が大きく,一端部に近い部位においては,自重
が剛性より影響が大きいという,本件発明者の知見に基づいて,一端部に近い部位
の厚みのみを薄くすることにより,中空部の接続部に近い部位における剛性を維持
したまま,中空部の一端部に近い部位の自重を低減するので,危険速度が向上する
のである。
(3)ボビンホルダーの危険速度とは,静止状態からボビンホルダーの回転を開
始し,回転数を増大し続けるとボビンホルダーの振動の振幅が大きくなる特定の回
転数であり,基本的に,ボビンホルダーの材質や形状によって定まる固有振動数
(臨界振動数)に一致する。固有振動は,ボビンホルダー部の一端部側中空部の根
元から先の変形に伴う振動であるから,ボビンホルダー軸とボビンホルダー部との
接続部や他端部側の中空部,ボビンホルダー軸は,実質的に振動せず,ボビンホル
ダー部の一端部側中空部は,他とは独立して振動するから,ボビンホルダー部の他
端部側に中空部があったとしても,この他端部側中空部の厚みが一端部側の中空部
の危険速度に影響することはない。このように,変形する部位は,ボビンホルダー
部の一部分であって,ボビンホルダー部全体で一体となって振動することはないか
ら,他端部側の中空部の肉厚が一端部側よりも厚かったとしても,一端部側中空部
の変形に伴う固有振動には影響を与えない。したがって,この固有振動に関する危
険速度がアップすることはなく,一端部側中空部の肉厚が均一である引用発明のボ
ビンホルダーが,本件発明のボビンホルダーと同一の作用効果を奏することはな
い。
 2 取消事由2(本件発明と引用発明との相違点についての認定判断の誤り)に
ついて
(1)片持ち支持した中空軸の肉厚を根元側を厚く(横断面積を大きく)し,先
端側を薄く(横断面積を小さく)した中空軸は,全体の肉厚を一様に根元側の厚さ
とした中空軸よりも固有振動数が大きくなるであろうことは,甲12刊行物及び甲
13刊行物により,当業者に周知の技術であるとの原告の主張は,それ自体,誤り
であるばかりか,仮に,上記技術的事項が当業者に周知の技術であったとしても,
そのことだけで,本件発明が,当業者に容易に想到し得たものであるということは
できない。
(2)引用例(甲4)には,ボビンホルダー軸(中間軸48,回転軸37)にお
ける危険速度の問題の解決が開示され,甲8公報にも,ボビンホルダー軸(軸中央
部分19,軸部分10)における危険速度の問題の解決が開示されている。すなわ
ち,甲8公報記載の発明は,ゴム部材を用いて,あえてボビンホルダー軸における
危険速度を低くすることで,これを運転回転数より十分小さくし,ボビンホルダー
全体の振動問題を解決するというものであり,ボビンホルダー全体の振動問題は,
ボビンホルダー軸における振動問題に帰結するという当業者の認識の下でされたも
のである。これに対し,本件発明のボビンホルダー部の一端部側の中空部の肉厚の
影響は,当業者には思いもよらない点であった。引用例は,甲8公報記載の発明の
延長線上にある発明を開示するものにすぎず,ボビンホルダー全体の危険速度の問
題は,ボビンホルダー軸における危険速度の問題に帰結するという当業者の認識の
下でされたものである。また,甲5公報~甲7公報には,危険速度の問題は言及さ
れていない。結局,引用例及び甲5公報~甲8公報は,本件特許出願当時におい
て,構成(A)及び構成(B)を具備するボビンホルダーについて,均一な肉厚を
有する,ボビンホルダー部の一端部側の中空部の危険速度の問題に着目し,これを
解決することにより中空部を長くし,小径ボビンを使用して高速回転を可能にする
長尺ボビンホルダーを提供するという本件発明の課題(本件明細書〔甲1〕3欄下
から第2段落)が,当業者には知り得ないものであったことを示しているというこ
とができる。したがって,このような状況にあって,仮に,原告主張の技術的事項
が当業者に周知であったとしても,その技術的事項を構成(A)及び構成(B)を
具備するボビンホルダーの一端部側の中空部の肉厚について適用しようとする動機
付けは存在しない。
(3)甲8公報の「臨界回転数の発生を回避させる1つの可能性は,臨界回転数
を運転回転以上に置くように装着機構およびその支承部材を剛性(「鋼性」とある
のは誤記と認める。)に設計することである」(3欄第2段落)との記載は,従来
の技術についての説明であって,その直後には,「しかし,この解決策は構造上の
理由からある程度の最大運転回転数までしか可能でなく,しかも,装着機構および
その支承部材の設計が巻取り装置の運転範囲ひいては使用範囲を制限するという欠
点を有している。臨界回転数による損傷を回避する別の可能性は,臨界回転数を運
転回転数範囲以下に置いて始動および制動時に極めて迅速に通過させるように装着
機構を弾性的に支承させることである」(同段落~第3段落)と記載され,前者の
ような大雑把な考え方では成功しない旨,及び,ボビンホルダー軸の3次危険速度
をダウンするとともに固有振動の振幅を小さくすることにより,この固有振動を乗
り越えられるようにするという,本件発明とは全く異なる技術的思想が示され,さ
らに,「本発明の課題は,これまで述べた諸欠点を取外くとともに,臨界回転数が
明らかに運転回転数に比して低いような装着機構を有する巻取り装置を提供するこ
とにある。この課題を解決する本発明の要旨とするところは,(イ)片持式の管状
支承体が巻取り機に不動に結合されており,(ロ)装着機構が,ボスによって端面
側で閉鎖されている円筒状の中空室を有しており,このボスと,前記中空室内へ同
心的に突出している軸とが固定的に結合されており,(ハ)前記装着機構の前記軸
が,前記管状支承体内へ挿入されていて該管状支承体内の1対のころがり軸受け内
で支承されており,(ニ)前記ころがり軸受けが,ゴム部材内で前記管状支承体に
設けられていてかつ前記装着機構および管糸の重心に対して対称的に配置されてい
る点にある」(5欄下から第3段落~第2段落)として,発明の課題及び解決手段
が明示されている。
  したがって,甲8公報には,ボビンホルダー全体を一つとしてとらえ,全
体を「剛性に設計する」というような考え方があり得るが,このような考え方では
成功しないこと,これに代わる考え方として,逆にボビンホルダー軸の変形に伴う
固有振動の危険速度を低減し,それを乗り越えられるようにする考え方があるこ
と,甲8公報記載の発明は,後者の考え方に基づくものであり,上記(イ)~
(ニ)を構成とするものであることが記載されているということになる。そして,
甲8公報記載の発明の特徴は,上記構成(ニ)のゴム部材の利用にあり,これによ
ってボビンホルダー軸の3次危険速度をダウンするとともに固有振動の振幅を小さ
くすることで,この固有振動を乗り越えられるようにしようとするものである。一
方,ボビンホルダー部に相当するものは,発明の前提部分である上記構成(ロ)の
みに現れる,「円筒状の中空室」であるが,これについて何らかの工夫をすること
は,甲8公報の他の部分の記載を含めて,一切言及されていない。すなわち,甲8
公報においては,ボビンホルダー軸の危険速度の問題を解決すれば,これにより発
明の課題は解決したという認識が示されているというべきである。
(4)本件発明と甲14マイクロフィルムとは,ボビンホルダーとインペラ付き
ポンプ回転軸という産業上の利用分野の相違に起因して,技術的意義が互いに根本
的に異なり,本件発明と甲14マイクロフィルム記載の技術的事項との関連性は,
ほとんどない。また,甲9公報,甲10公報及び甲11明細書には,中空部肉厚が
長手方向で変化しているボビンホルダーは開示されているが,これらには,「ボビ
ンホルダーに対応する部材の肉厚を変える旨の文章による明示的な記載はなく,ま
た,肉厚を変える理由についての記載も一切ない」(審決謄本8頁下から第5段
落)のである。さらに,甲10公報及び甲11明細書のボビンホルダーにおいて,
左の軸受3の左側の厚みよりも右側の厚みが薄かったとしても,自由端の固有振動
数にはほとんど影響がない。すなわち,これらは,構成(A)及び構成(B)を具
備した柔構造のボビンホルダーについては記載しているが,ボビンホルダー部の一
端部側の中空部の危険速度を向上させることについて記載も示唆もないから,引用
発明に,ボビンホルダーの危険速度向上のために,甲10公報及び甲11明細書記
載の技術的事項を,組み合わせる動機付けは存在しない。
第5 当裁判所の判断
 1 取消事由2(本件発明と引用発明との相違点についての認定判断の誤り)に
ついて
(1)本件発明と引用発明との相違点,すなわち,「本件発明のボビンホルダー
は,ボビンホルダー部の中空部肉厚が,ボビンホルダー軸との接続部側で厚くさ
れ,接続部からフレーム側に延びる一端部側で薄くされている(構成(C))のに
対し,甲第1号証(注,引用例,甲4)記載のボビンホルダ36の中空部肉厚は,
ボビンホルダー軸にあたる回転軸37との接続部側と,接続部からフレーム側に延
びる一端部側とで等しい点」(審決謄本7頁(相違点))について,容易想到性を
否定した審決の判断に対し,原告は,当然に考慮すべき当業者に周知の技術的事
項,すなわち,①甲8公報及び甲16公報に開示された,ボビンホルダーの臨界回
転数(危険速度)の発生を回避するために,臨界回転数(危険速度)を運転回転数
以上に置くように,ボビンホルダー部を含む装着機構(ボビンホルダー)を鋼性に
設計すること,②甲14マイクロフィルムに開示された,片持ち支持された中空部
を有する回転軸の肉厚を根元側で厚く,先端側で薄くすることにより回転軸を鋼性
に設計し,固有振動数を運転回転以上に置くようにすること,並びに,③甲12刊
行物及び甲13刊行物に開示された,片持ち支持した部材の断面積を変えて先端を
細くすることと同様に,片持ち支持した中空軸の肉厚を根元側を厚く(横断面積を
大きく)し,先端側を薄く(横断面積を小さく)した中空軸は,全体の肉厚を一様
に根元側の厚さとした中空軸よりも固有振動数が大きくなることを看過したもので
あり,誤りであると主張する。
(2)そこで,まず,甲8公報及び甲16公報の記載事項について検討すると,
甲8公報には,「本発明は,化学繊維を巻取る巻取り機であって,糸巻管を受容す
る片持ち式に支承された回転可能な装着機構と,前記糸巻管もしくは該糸巻管上に
形成される管糸に摩擦接続的に当付けられる回転可能な接触ローラとを有している
形式のものに関する。・・・巻始めから巻終りに至る広い回転数範囲に関連した回
転数の高さが,装着機構の支承,特に装着機構を片持ち式に支承させるばあいの支
承の点に問題を生ぜしめるのは明らかである。この片持ち式の支承は,巻取り装置
操作上有利であり,しかも空の糸巻管の取付けおよび満管の取外しを簡単化する。
巻取り動作中に臨界回転数が生じないように装着機構を支承させるということが特
別な問題として提出されている。臨界回転数の原因としてはこのばあい軸の緩衝さ
れない個有震動があげられる(例えば,ドウベルの機械構造のためのハンドブッ
ク,Dubbels.Taschenbuch.fur.den.Maschinenban,第12版第1巻268ペー
ジ)。臨界回転数で装着機構を駆動すると著しい震動が生じ,この震動が装着機構
または別の機械部分の損傷を招く。この種の装着機構の臨界回転数を回避するの
は,巻取り動作の経過につれて次第に大きくなる管糸によって臨界回転数が減少し
てくるので困難である。臨界回転数の除去には理想的には,
 
ω
K=√c/m(注,以下「甲8式」という。)
という式が与えられる。このばあい,
ω
Kは臨界回転数を,cは装着機構およびその
支承部材の弾性定数を,mは巻取り動作の経過につれて増大する管糸の質量を含め
た装着機構の質量を表わしている。臨界回転数の発生を回避させる1つの可能性
は,臨界回転数を運転回転以上に置くように装着機構およびその支承部材を鋼性に
設計することである」(2欄第3段落~3欄第2段落)と記載され,甲16公報に
も同様の記載があり,これらの記載によれば,臨界回転数には,甲8式が適用でき
るものであることが認められる。また,ボビンホルダーの危険速度とは,ボビンホ
ルダーを静止状態から回転を開始し,回転数を増大し続けるとボビンホルダーの振
動の振幅が大きくなる特定の回転数であり,基本的に,ボビンホルダーの材質や形
状によって定まる固有振動数(臨界振動数)に一致することは,被告の自認すると
ころである。さらに,上記「臨界回転数の発生を回避させる1つの可能性は,臨界
回転数を運転回転以上に置くように装着機構およびその支承部材を鋼性に設計す
る」という記載から,装着機構及びその支承部材の剛性を高くすると臨界回転数を
高くすることができ,甲8式から,管糸の質量を含めた装着機構の質量を小さくす
ることにより臨界回転数が大きくなることも明らかである。他方,上記「片持ち式
に支承された回転可能な装着機構」は,本件発明の「ボビンホルダー」に相当する
ことも明らかであるから,甲8公報及び甲16公報には,支承部材や管糸を含めた
ボビンホルダーの剛性を高くする,あるいは,その質量を小さくすると,当該ボビ
ンホルダーの固有振動数(臨界回転数)を高くすることができることが開示されて
いる。そして,甲8公報及び甲16公報は,それぞれ本件特許出願より約9年前の
昭和51年11月15日及び約4年前の昭和57年5月15日に頒布されたもので
あり,しかも,上記引用箇所は,いずれも一般的従来技術を説明した記載であるか
ら,甲8公報及び甲16公報に記載された上記技術的事項は,本件出願前に当業者
の技術常識(以下「技術常識①」という。)であったことが明らかである。
 この点について,被告は,甲8公報には,ボビンホルダー全体を一つとし
てとらえ,全体を「剛性に設計する」というような考え方があり得るが,このよう
な考え方では成功しないことが記載され,結局,甲8公報記載の発明の特徴は,
「前記ころがり軸受けが,ゴム部材内で前記管状支承体に設けられていてかつ前記
装着機構および管糸の重心に対して対称的に配置されている点」(5欄下から第2
段落)にあり,ボビンホルダー部に相当する「円筒状の中空室」について何らかの
工夫をすることは,他の部分の記載を含めて,一切言及されていないと主張する。
しかしながら,甲8公報及び甲16公報が,ボビンホルダー全体を一つのものとし
てとらえ,全体を「剛性に設計する」という考え方を示した上で,課題の解決手段
として,ボビンホルダー軸の工夫のみが開示されているものであるとしても,甲8
公報及び甲16公報に接した当業者が上記技術的事項を理解することは,上記のと
おりであるから,被告の上記主張は,甲8公報及び甲16公報が開示する技術的事
項に係る上記認定を何ら左右するものではない。
(3)次に,甲12刊行物及び甲13刊行物は,機械設計において当業者が広く
参照する一般的な文献であると認められるところ,甲12刊行物の「表4.53 
漸変断面軸の横振動」(364頁)及び甲13刊行物「第23表(b)棒の横振
動」の「5.変断面片持はり(切頭)」欄(3-54頁)の記載から,横断面積が
一定の部材よりも先端が細くなった部材,すなわち,横断面積が根元側が大きく先
端側が小さい部材の方が固有振動数が大きいことは,本件特許出願前の技術常識
(以下「技術常識②」という。)であったと認められる。また,甲12刊行物及び
甲13刊行物に,「1.軸系の主危険速度は,軸系の曲げ振動に対する固有振動数
と一致すること。2.等断面軸の固有振動数を求めた式。3.いくつかの断面形状
について,上記式に代入すべき,断面二次モーメントおよび断面係数を求めた式。
4.軸方向長さに対して,特定の関数関係で断面積が漸変する,いくつかの片持ち
梁について,固有振動数を求めた式」(審決謄本9頁下から第3段落)が記載さ
れ,これらの記載から「外径が同一の,円柱と中空円筒について,上記参考資料
(注,甲12刊行物及び甲13刊行物)に記載された式を比較して,中空円筒の方
が,円柱より固有振動数が高い,あるいは,外径が等しく,軸方向に肉厚が均一な
中空円筒同士では,肉厚が薄い方が固有振動数が大きいといった結論を導くことは
可能である」(同頁最終段落~10頁第1段落)とした審決の認定に誤りは認めら
れず,原告作成の平成15年7月16日付け上申書(乙1)によれば,外径が同じ
中空軸では,肉厚が薄い方が肉厚が厚いものよりも固有振動数が大きくなること
は,甲13刊行物の「第23表(a)棒の横振動」(3-53頁)記載の式に基づ
き,計算上明らかであるから,外径が等しく,軸方向に肉厚が均一な中空円筒同士
では,肉厚が薄い方が厚いものより固有振動数が大きいことも,本件特許出願前の
技術常識(以下「技術常識③」という。)であったと認められる。
(4)そうすると,技術常識①~③から,片持ち支持した部材の断面積を変えて
先端を細くすることと同様に,片持ち支持した中空軸の肉厚を根元側を厚く(横断
面積を大きく)し,先端側を薄く(横断面積を小さく)した中空軸は,全体の肉厚
を一様に根元側の厚さとした中空軸よりも固有振動数が大きくなるであろうこと
は,当業者が容易に理解し得ることというべきである。現に,本件特許出願の約2
年前に頒布された刊行物である甲14マイクロフィルムには,ポンプモーターの回
転軸について,一端にインペラを取り付け,このインペラの取り付け部を案内軸受
けによりオーバーハング状態で支持するものにおいて,インペラ取り付け部より案
内軸付近まで中空とするとともに,この中空部分の肉厚をインペラ取り付け部より
案内軸受付近が厚くなるように軸方向に肉厚を変化させたものが記載され,かつ,
このようにすることにより,固有振動数を高くして,運転する回転数域より遠ざけ
ることが記載されているのであるから,片持ち支持した部材の断面積を変えて先端
を細くすることと同様に,片持ち支持した中空軸の肉厚を根元側を厚く(横断面積
を大きく)し,先端側を薄く(横断面積を小さく)した中空軸は,全体の肉厚を一
様に根元側の厚さとした中空軸よりも固有振動数が大きくなることは,本件特許出
願前に周知の技術的事項であったことが明らかである。
  被告は,本件発明と甲14マイクロフィルムとは,ボビンホルダーとイン
ペラ付きポンプ回転軸という産業上の利用分野の相違に起因して,技術的意義が互
いに根本的に異なり,本件発明と甲14マイクロフィルム記載の技術的事項との関
連性は,ほとんどないとも主張するが,機械設計の分野において,高速回転時にお
ける軸の固有振動数に基づく振動を抑制するという技術課題が技術常識に属するも
のであることは,甲12刊行物及び甲13刊行物から明らかであり,ボビンホルダ
ーの技術分野に属する者が,上記技術課題を解決するに当たって,同じく高速回転
軸を使用するポンプ回転軸の技術を参照し,適用することに,何ら困難は認められ
ず,被告の上記主張は採用することができない。
(5)加えて,甲8公報には,一般的従来技術として,「紡績装置およびドラフ
ト装置の生産性は巻取り機によって得られる巻取り速度にも著しく関連している。
エンドレスな繊維においても,紡績速度およびドラフト速度を高めるには,製作さ
れるエンドレスな繊維と紡績速度およびドラフト速度との関連性によって制限があ
る」(2欄第4段落)と記載され,甲16公報にも同様の記載があり,これらの記
載によれば,ボビンホルダーは,巻取り機に用いられるものであるから,ボビンホ
ルダーの回転速度を高くして,紡績装置の生産性を向上することは,本件出願前に
周知の技術課題であったことが認められる。他方,ボビンホルダーの固有振動数
(臨界回転数)が高いほど,ボビンホルダーの運転回転数を高くすることができる
ことは明らかであるから,引用発明のボビンホルダーにおいて,ボビンホルダーの
回転速度を高くして,紡績装置の生産性を向上するという上記周知の技術課題に基
づき,片持ち支持した部材の断面積を変えて先端を細くすることと同様に,片持ち
支持した中空軸の肉厚を根元側を厚く(横断面積を大きく)し,先端側を薄く(横
断面積を小さく)した中空軸は,全体の肉厚を一様に根元側の厚さとした中空軸よ
りも固有振動数が大きくなるという,上記周知の技術的事項を適用することは,当
業者が容易にし得ることというべきである。そして,本件発明と引用発明が,
「(A)一端部側に中空部を有し,ボビンを把持するための保持機構が設けられた
ボビンホルダー部と,一端部が駆動手段に接続され,他端部が前記中空部内を貫通
して前記ボビンホルダー部に固定されるボビンホルダー軸とから構成されたボビン
ホルダーであって,(B)前記ボビンホルダー軸は,前記ボビンホルダー部と前記
ボビンホルダー軸との接続部近傍においてフレームから前記中空部内に突出された
管状支持体で回転自在に支承されたボビンホルダー」(審決謄本7頁(一致点))
である点において一致することは当事者間に争いがなく,引用発明のボビンホルダ
ー部は,固有振動数を高くするための上記周知技術を適用する対象として,当然考
慮されるべきものであり,他方,引用発明のボビンホルダー部において,ボビンホ
ルダー軸との接続部に近い中空部は,ボビンホルダー軸と一端部側中空部とを接続
しているといえるから,ボビンホルダー部に上記周知技術を適用して,その中空部
の肉厚を薄くして,質量を小さくする際に,ボビンホルダー軸との接続部に近い側
の肉厚に比べて,当該接続部から遠い一端部側の肉厚を薄くした方が,逆の肉厚に
した場合や,均一の肉厚にした場合に比べて,ボビンホルダー部の曲げ・ねじれな
どに対して耐える能力,すなわち剛性が高いことは,技術常識からして明らかであ
るから,引用発明のボビンホルダーに上記周知技術を適用し,ボビンホルダーの一
部を構成するボビンホルダー部の剛性を高くし,その質量を小さくしようとするに
当たって,ボビンホルダー部の中空部の肉厚を本件発明の相違点に係る構成のよう
にすることは,当業者が当然選択し得る程度の事項にすぎないというべきである。
また,本件発明の「ボビンホルダーを環状支持体が駆動手段側から中空部を奥深く
貫通してボビンホルダー部とボビンホルダー軸との接続部近傍で回転自在に支持
し,しかも上記ボビンホルダー部の中空部肉厚が上記ボビンホルダー軸との接続部
側で厚くされ,該接続部からフレーム側に延びる端部側で薄くされているので,ボ
ビンホルダーの危険速度が高くなり,したがってこの分だけ使用回転数範囲が高く
なって,安定した高速回転を可能ならしめることができる。また,従来技術に比べ
てボビンの小径化を計ることができるので,ボビン費の低減を計ることができる。
また,ボビンホルダー部の長尺化を実現することができ,生産性が向上するなどの
利点を有する」(本件明細書〔甲1〕7欄~8欄{効果})との作用効果も,引用
発明及び上記周知技術から当業者の予測し得る程度のものというべきである。
(6)被告は,引用例(甲4)及び甲8公報は,ボビンホルダー軸(軸中央部分
19,軸部分10)における危険速度の問題の解決が開示されているにすぎず,甲
8公報は,ボビンホルダー全体の振動問題は,ボビンホルダー軸における振動問題
に帰結するという当業者の認識の下でされたものであり,引用例も,ボビンホルダ
ー全体の危険速度の問題は,ボビンホルダー軸における危険速度の問題に帰結する
という当業者の認識の下でされたものであり,甲5公報~甲7公報には,危険速度
の問題は言及されていないから,引用例及び甲5公報~甲8公報は,本件特許出願
当時において,構成(A)及び構成(B)を具備するボビンホルダーについて,均
一な肉厚を有する,ボビンホルダー部の一端部側の中空部の危険速度の問題に着目
し,これを解決することにより中空部を長くせしめ,小径ボビンを使用して高速回
転を可能にする長尺ボビンホルダーを提供するという本件発明の課題(本件明細書
〔甲1〕3欄下から第2段落)が当業者には知り得ないものであったことを示して
いるということができ,このような状況にあって,仮に,原告主張の技術的事項が
当業者に周知であったとしても,その技術的事項を構成(A)及び構成(B)を具
備するボビンホルダーの一端部側の中空部の肉厚について適用しようとする動機付
けは存在しないと主張する。しかしながら,仮に,引用例及び甲5公報~甲8公報
の記載事項から,本件発明の上記課題が当業者には知り得ないものであったとして
も,引用発明のボビンホルダーにおいて,ボビンホルダーの回転速度を高くして紡
績装置の生産性を向上するという周知の課題に基づき,上記周知技術を採用するこ
とは,当業者が容易にし得る程度の事項であることは,上記のとおりであって,構
成(A)及び構成(B)を具備するボビンホルダーの一端部側の中空部の肉厚につ
いて上記周知の技術的事項を適用する動機付けが存在するから,被告の上記主張は
理由がない。
(7)以上検討したところによれば,引用発明に上記周知の技術的事項を適用す
ることにより本件発明の構成に至ることは,当業者が容易に想到することというべ
きであるから,これを否定した審決の認定判断は誤りというほかない。
2 以上のとおり,原告主張の取消事由2は理由があり,この誤りが審決の結論
に影響を及ぼすことは明らかである。
  よって,その余の点について判断するまでもなく,審決は取消しを免れず,
原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。
     東京高等裁判所知的財産第2部
           裁判長裁判官   篠  原  勝  美
      裁判官   岡  本     岳
      裁判官   早  田  尚  貴

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