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裁判例


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平成11年(行ケ)第297号 審決取消請求事件(平成14年2月26日口頭弁
論終結)
         判    決
   原      告      インペリアル・ケミカル・インダストリー
ズ・ピーエルシー
   訴訟代理人弁護士      牧   野   利   秋
  同             鈴   木       修
   訴訟復代理人弁護士     深   井   俊   至
   訴訟代理人弁理士      社   本   一   夫
   被     告     特許庁長官
                 及   川   耕   造
  指 定 代 理 人    沼   澤   幸   雄
同             野   田   直   人
同             森   田   ひ と み
同             林       栄   二
   主    文
    原告の請求を棄却する。
    訴訟費用は原告の負担とする。
    この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定
める。
    事実及び理由
第1請求
特許庁が平成10年審判第10756号事件について平成11年4月20日にし
た審決を取り消す。
第2前提となる事実(争いのない事実)
1特許庁における手続の経緯
原告は、平成4年1月28日(優先権主張日1991年(平成3年)3月7日、
英国)、発明の名称を「クロム含有弗素化触媒、クロム含有弗素化触媒の活性の増
大方法及び弗素化炭化水素の製造方法」とする発明につき特許出願(平成4年特許
願第13203号)をし、平成5年8月31日に出願公開された(特開平5-22
0400号、甲第1号証)ところ、平成9年8月18日付けの拒絶理由通知書を受
けたため、平成10年2月26日付け手続補正書(甲第2号証)を提出し、特許請
求の範囲等の補正を行ったが、特許庁は、同年4月6日に拒絶査定をし、同月14
日に拒絶査定謄本が発送されたので、原告は、平成10年7月13日、拒絶査定不
服の審判を請求し(平成10年審判第10756号事件)、同年8月1日付け手続
補正書(甲第3号証)を提出し、特許請求の範囲等の補正を行ったが、特許庁は、
同事件を審理した結果、平成11年4月20日、出訴期間として90日を付加し
て、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年5月1
8日に原告に送達された。
 2 発明の要旨(本件明細書の特許請求の範囲の請求項8に係る発明、以下「本
願発明」という。)
「クロミア、ハロゲン化クロミア又はオキシハロゲン化クロムからなるクロム含有
弗素化触媒に、触媒の0.5~15重量%の量であって、活性を促進する量の亜鉛
又は亜鉛化合物を導入することを特徴とする、クロム含有弗素化触媒の活性の増大
方法」
 3 審決の理由 
 別紙の審決書の理由写し(以下「審決書」という。)のとおり、本願発明は、特
公昭49-43922号公報(甲第5号証、以下「引用例」という。)に記載され
た発明であるから、特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができな
いと判断した。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
 審決は、引用例記載の発明を誤認し、その結果、本願発明が引用例記載の発明と
同一であると誤って判断したもので、取り消されるべきである。
 すなわち、審決は、「引用例には「クロミアからなるクロム含有弗素化触媒に、
触媒の2~30重量%の量であって、活性を促進する量の亜鉛又は亜鉛化合物を導
入することを特徴とする、クロム含有弗素化触媒の活性の増大方法」が開示されて
おり、本願発明8(本願発明)と同一であると認められる。」(審決書8頁1行な
いし6行)と認定、判断するが、誤りである。
 1 本願発明の「活性を促進する量」の意義について
  (1) 本願発明は、特許請求の範囲の請求項8に規定されるように、「0.
5~15重量%の量であって、活性を促進する量の亜鉛又は亜鉛化合物を導入する
ことを特徴とする」ものであって、この「活性を促進する量」における「活性」と
は、以下に述べるとおり、触媒の「初期(当初の)活性」のことであり、「活性の
促進」とは、初期活性を増大することを意味する。これに対し、審決は、「引用例
には、・・・R-113転化率(%)が、クロミア単独(参考例)の場合の92.
1よりZnの添加の場合の95.1と、触媒活性があがっている、すなわち亜鉛酸
化物の導入によって触媒活性が促進(増大)されていることが記載されている」旨
引用例の記載事項を認定した上で(審決5頁6行ないし6頁5行)、上記のとおり
本願発明と引用例記載の発明とを同一であると判断したものであるが、審決が認定
した引用例記載の転化率は、触媒を40時間使用した後の触媒の活性を比較したも
のであって、触媒の活性が維持されること(安定性)を示すものであり、触媒の
「初期活性」の促進とは全く関係がなく、引用例記載の上記転化率の比較からは、
亜鉛酸化物の導入によって触媒の「初期活性」が促進されていることが記載されて
いるとはいえず、審決の引用例記載の発明についての認定は誤りである。
  (2) 触媒は、化合物の混合物に接触したときに、自らは消費されず、究極
的な終点に向けてのこれらの化合物の間の化学反応の速度を増加させる物質であ
り、この増加は当該接触物質が存在しないときに観測される速度に比べられるもの
である。そして、産業上利用可能な触媒は、典型的には、反応条件下で達成される
原料の転化が、収率と選択性において産業上利用可能になる程度に、反応速度を増
加させるものである。そして、産業上利用可能な触媒を調整するためには、意図し
た反応を経済的に行えるように、触媒が十分な活性と安定性を持つようにしなけれ
ばならず、このために、触媒物質に別種のものを添加する「促進」がされるのであ
り、この添加物を「促進剤」という。この触媒の添加物に適用する「促進剤」とい
う用語は、その触媒の性能に、2つの異なる影響のいずれか1つを及ぼす物質をい
う。すなわち、それは、触媒の活性相の再結晶化若しくは焼結を防止するための物
理的(組織的)促進剤として役目を果たすために、又は、触媒の相の固有の活性を
増大するための化学的(構造的)促進剤として役目を果たすために添加される。そ
して、当業者は、寿命を延ばすが「初期活性」には影響を与えない物理的(組織
的)促進剤に対し、化学的(構造的)促進剤は、「初期活性」を促進するものと理
解している(甲第6号証、第8号証、第10号証参照)。
 本願発明は、この「初期活性」を促進すると理解されている化学的(構造的)促
進剤の使用に関するものである。すなわち、一般には、「促進」という用語は、触
媒の活性の増大と安定性の増大の両方を示すのに用いられているものではあるが、
本願発明の特許請求の範囲の請求項8の「活性を促進する量」との文言自体によっ
て、当業者は、「活性の促進」とは、安定性を増大(向上)することにより高い活
性を保持することではなく、触媒の「初期活性」を増大(促進)することを意味す
るものであり、本願発明の上記の「活性を促進する量」との文言が、物理的(組織
的)促進剤ではなく、化学的(構造的)促進剤について述べていると理解するもの
であるし、さらに、本件明細書の記載(段落【0003】、【0012】ないし
【0014】及び【0016】の第1文)からも、同様に理解するものである。
「ハッチングズ教授の報告書」(甲第12号証の1の1)に記載されているとお
り、触媒技術に精通している者は、上記の文言を他の意味に解釈するなどというこ
とはあり得ない。また、本件明細書記載の実施例中に、長時間使用後の触媒性能に
関するデータは一切含まれておらず、このことは、本願発明が触媒の「初期活性」
を促進することを目的とした発明であることを端的に示すものである。
  (3) 被告は、仮に、本願発明に係る「活性」が「初期活性」に限定される
としても、引用例の記載から、亜鉛を添加した触媒が、これを添加しない場合より
も高い初期活性を示すことは見て取れる旨主張している。
 しかしながら、この主張は、審決の認定に沿ったものとはいえず、許されるべきで
ないし、また、以下に述べるとおり、失当である。
     ア 被告が引用する引用例の具体例、すなわち、参考例及び例41~4
4、48~52は、亜鉛とは異なる金属を含む触媒に関するものであり、金属は、
その種類によってクロミア触媒の触媒作用に及ぼす影響が異なるため、上記具体例
のデータから、亜鉛を含む触媒の初期活性を含む触媒作用を推定することはできな
い。
     イ 弗素化反応におけるクロミア触媒の初期活性というものは、触媒が
弗素化処理を受けた後の測定によってのみ、確定し得るものであり、該弗素化処理
を施す前の前処理である焼結処理の後の表面積の維持度合いに基づいて、弗素化処
理後の触媒の活性を判断することは誤りである。したがって、引用例に開示された
亜鉛添加触媒の初期活性について、焼結後の表面積が純粋クロミア触媒より増大さ
れているということから、純粋クロミア触媒より高いと断定することは誤りであ
る。また、このように断定することが誤りであることは、金属添加物がクロミア触
媒に対し毒として働くことがあるという事実を考えただけでも明らかである、つま
り、金属添加クロミア触媒は、焼結処理後に広い表面積を有していても、毒により
低い活性しか持たないということも十分にあるのである。結局、前処理中の結晶化
の防止度合いとか、表面積の維持度合いとかにより、金属添加と非添加とのクロミ
ア触媒の初期活性を判定することは不可能である。
     ウ 原告の研究所が行った追試の結果を記載した「実験報告書」(甲第
11号証)によれば、亜鉛を添加したクロミア触媒の初期活性は、純粋なクロミア
触媒のそれに比べて、かなり劣るものであることが確認された。
      (ア) 甲第11号証の表3中の例Aと例Gが純粋クロミア触媒のデ
ータであり、例B、C及びHが亜鉛添加クロミア触媒のデータである。純粋クロミア
触媒の初期活性について見ると、R-113転化率は98.3%から98.7%で
あり、R-115の選択率も、60.6%から68.1%である。これに対し、引
用例の亜鉛添加クロミア触媒の初期活性は、R-113転化率が68%から78.
3%であり、またR-115選択率に至っては、1.2%から1.9%と極めて低
いものとなっている。以上のことから明らかなように、引用例の開示に従って亜鉛
を添加した場合、触媒の初期活性を低下させ、R-113転化率も、R-115選
択率も低くなってしまうのである。なお、引用例開示の条件下での40時間使用後
の活性も、引用例に従って調製した亜鉛を添加した触媒の方が、純粋クロミア触媒
よりも活性がかなり低い結果となっている。
(イ) この実験結果について、被告は、引用例記載の例41における測定試料の
調製と、甲第11号証の追試実験での調製が異なっているため、測定試料として異
ったものである旨主張している。
 しかしながら、被告の主張は、明らかに証拠に反している。すなわち、引用例記
載の参考例である純粋クロミア触媒について測定した表面積は、引用例において記
載されているものと同じであったが、亜鉛含有触媒についての表面積は、引用例に
記載されているものよりかなり高いものであった。したがって、圧縮加工やすりつ
ぶし加工は被告が主張するような表面組織の破壊をもたらすものではないことは明
らかである。また、反応試験において粉末触媒を使用することはできず、当該触媒
を処理して使用可能な形にすることが必要であるところ、引用例では、触媒粉末は
処理されて柱状ペレットにされているのに対し、甲第11号証の追試実験では、触
媒粉末は粒子にされている。しかし、触媒粉末を使用可能な形にする処理方法の違
いは、触媒活性に重要な影響を与えない。
      (ウ) 被告は、甲第11号証の追試実験と引用例記載の例41とで
は、測定試料の密度が違っているから、引用例に記載の実験データと食い違ったデ
ータが得られてもなんら不思議なことではない旨主張している。
 しかしながら、ある触媒と他の触媒の絶対的性能(又は活性)を比較するには、
試験において使用される触媒の量を厳密に揃えることが重要であって、触媒の密度
とは関係しない。
 2 引用例記載の実験データの有効性について
 審決が本願発明について引用例記載の発明と同一であるとの上記の認定判断及び
被告の主張は、いずれも引用例記載の実験データの正確性に依存するものである
が、これらのデータには、その有効性に疑いがあり、結局、このデータを根拠とす
る審決の認定判断は誤りである。
(1) 原告実施に係る追試実験を記載した「実験報告書」(甲第11号証)によ
れば、引用例が開示する条件下での40時間使用後の活性も、引用例に従って調製
した亜鉛を添加した触媒の方が、純粋なクロミア触媒よりも活性がかなり低い結果
となっており、これとは逆の結果を示す引用例のデータの有効性には疑問がある。
  (2) 引用例記載の実験結果自体を検討しても、まず、引用例の第1表の例
1及び例2の触媒について見てみると、両触媒とも同じ予備処理を施している。例
1では、5%のマグネシウムを添加された触媒が、350℃で2時間焼結後に表面
積が29㎡/gまで減少しても40時間使用後に高いR-113の転化率を有してい
る。これに対し、例2では、10%のマグネシウムを添加された触媒が158㎡/g
の表面積を維持しているが、例1より低い転化率となっている。触媒の活性は、表
面積にも関係しており、引用例で説明される発明の目的が触媒の活性面積の保持に
あるとすると、5倍の表面積を有する触媒の活性がより大きいものではなかったと
いうことは驚きである。このように、引用例のデータには誤りがある。
  (3) 同じく、例6と例11の2つの触媒について見ると、例6の触媒は、
48㎡/gまで表面積を減少させ、純粋クロミア触媒比で0.92まで結晶化し、例
11の触媒は、93㎡/gに表面積を維持し、0.80まで結晶化しており、例11
の触媒の方が、高い表面積を有し、かつ結晶化の程度が少ないにも係わらず、例6
の触媒の方が、R-113の転化率及びR-115の選択率をみると、活性におい
て優れており、データに誤りのあることを示している。
  (4) 同じく、例31と例52の触媒を見ると、ビスマス添加触媒の380
℃での反応温度においての初期活性が、40時間の使用後で、しかもより低い35
0℃での反応温度での活性よりも低いとのデータは、特に驚くべきものである。温
度が高ければ、普通は転化率も高くなると予想されるのである。このように、引用
例のデータには誤りがある。
第4 被告の反論の要点
 1 原告は、本件明細書の記載から、本願発明が化学的(構造的)促進剤の使用
に関するものと理解されることを根拠に、本願発明を規定する「活性を促進する
量」における「活性」とは、触媒の「初期活性」のことである旨主張しているが、
次のとおり失当である。
 本件明細書には、本願発明の亜鉛又は亜鉛化合物が化学的(構造的)促進剤であ
ることを確認するに足る記載は見られないから、原告の主張は明細書の記載に基づ
くものではない。特に、本件明細書の段落【0035】によれば、本願発明の方法
は連続的に操作することが好ましいと記載されており、そして、本願発明につい
て、特許請求の範囲の請求項8には何ら活性の増大を確認する手段についての限定
はないのであるから、本願発明における活性の増大が、反応の初期における場合の
みをいうものと解釈する理由はない。
 また、明細書における実施例は、本願発明の具体例を記載すればよいところであ
り、しかもそこには本願発明のすべての課題に対応したすべての実施例を記載する
ことが要求されるわけでもないから、本件明細書における実施例の記載として、長
時間使用後の触媒性能に関するデータがないことをもって、本願発明における活性
を初期活性と解釈する根拠とすることはできない。
 そもそも、甲第8号証によれば、「触媒の活性」とは、「触媒が反応を化学平衡
に進ませる速度をいう。」とある。一方、本件明細書の実施例においても、本願発
明の効果が弗素化炭化水素の収率の増大によって裏付けられている。そうすると、
「活性を促進する量」であるかどうかは、弗素化炭化水素の収率が増大するかどう
かで確認することができることになるから、本願発明における「活性の促進」と
は、「活性の増大」であり、その確認は、収率の測定によって行われるものであ
る。本願発明の特許請求の範囲の請求項8には、活性の促進、活性の増大を評価す
るための反応条件である反応温度や時間が特に限定されているのではないから、あ
る量の亜鉛又は亜鉛化合物を含む触媒が、常識の範囲での任意の条件で反応を実施
し、そこで収率が増大したことが確認することができれば、その亜鉛又は亜鉛化合
物の量が「活性を促進する量」であると判断してよいのである。
 2 仮に、本願発明に係る「活性」が「初期活性」に限定されるとしても、引用
例の記載から、亜鉛を添加した触媒が、これを添加しない場合よりも高い初期活性
を示すことは見て取れる。
  (1) 引用例には、参考例及び例41~44、48~52の記載があり、こ
れらによると、その初期活性も向上していることが具体的に示されている。また、
技術文献において、「焼結が起きると、表面積が減少し、それによって触媒部位の
数が減る・・・選択性の変化にもつながる。」(甲第6号証)、「いくらか無定形
の触媒が結晶化するか、又は一つの晶癖において活性な化合物がより活性の小さい
結晶形態に転化することがある。」(甲第8号証)等の記載があることにより裏付
けられるように、触媒の表面積や結晶領域の大きさが触媒活性を左右することは技
術常識であって、引用例の第1表には「350℃、2時間焼成物の表面積」や「50
0℃、25時間焼成物の回折線の面積」のデータが示されており、これらのデータ
によれば、引用例の触媒は、第2成分の添加により結晶化が抑制され、無定形領域
が増加すること、その結果として「結晶化が進む、表面積が減少する」(甲第5号証
の1欄36行)という物性変化が抑制されるため、第1表の全ての触媒例におい
て、その表面積が「純粋なクロミア触媒」より増大されていることが明らかである
から、このことからも引用例の触媒の初期活性が促進されていることは示されてい
るといえる。
 したがって、引用例には、亜鉛を添加した触媒の反応当初の転化率や選択率を具
体的に比較するデータはないものの、参考例及び例41~44、48~52の記載
があり、これらによると、その初期活性も向上していることが具体的に示され、ま
た、亜鉛を使用したときに得られる触媒の表面積及び結晶化度のデータ(第1表の
例23)からみて、これを使用しない場合よりも高い初期活性を示すことは十分に
見て取れるのである。
  (2) 原告は、原告による追試の結果である甲第11号証によれば、亜鉛を
添加したクロミア触媒の初期活性は、純粋なクロミア触媒のそれに比べて、かなり
劣るものであることが確認された旨主張しているが、以下に述べることから明らか
なとおり、甲第11号証の実験は、引用例記載の発明の実験の再現とはなっておら
ず、同号証に基づく原告の主張に理由はない。
 すなわち、引用例記載の例41における測定試料の調製は、例1と同様に調製さ
れ、焼成粉末に純水を加え、これを擂漬により摩砕混練してペースト状とし、つい
でこれを押出し成型機により直径4mmの柱状触媒とするものである。これに対
し、甲第11号証の追試実験での調製は、焼成粉末をいったん圧縮加工によってデ
ィスク状に成型した後、このディスクをすりつぶして大きさが0.5~1.4mm
の範囲内の粒子にするものであるから(甲第11号証の訳文4頁下から5行ないし
1行)、両者は、その調製法が異なっているため、測定試料として異ったものであ
る。そして、上記例41の調製では、純水中で焼成粉末を「擂」って摩砕するか
ら、得られたペースト状のものは、更に細かく摩砕された径が小さい粉末であり、
しかもこのペースト状のものを押出成型という比較的緩和な圧縮加工で4mmの柱
状触媒としているから、例41の測定試料は、共沈法で得られた粉末を更に細かく
擂りつぶして径をより小さくした粉末の集合体であるということができる。これに
対し、甲第11号証の追試実験の調製は、粉末に対して「擂る」という加工が施さ
れていないから、これがディスクに加工されたとしても、ディスクを構成するその
粉末の径は共沈法で得られたままの大きさであり、例41の粉末よりその径がより
大きいことが明らかである。また、0.5~1.4mmの範囲内の粒子とするため
に、ディスクをすりつぶしてはいるが、このすりつぶしは、例41のように粉末に
なされたものではなく、得られる粒子は、以前のままの大きさの粉末の集合体か、
ディスクのすりつぶしにより一部の粉末が細かくされた程度の粉末の集合体(粒
子)である。このように、同じ重量に調合された触媒でも、比較的大きな径の粉末
を固めて作られた甲第11号証の測定試料の方が、径の小さい粉末を固めて作られ
た引用例の測定試料より比表面積が小さく、また、上記のとおり、両者の測定試料
の粒状化処理も大きく相違しているから、両者の測定試料の密度が違っていること
も明らかであって、触媒の性能に影響を及ぼす「密度」や「比表面積」が異なって
いれば、引用例に記載の実験データと食い違ったデータが得られても何ら不思議な
ことではない。
 3 原告は、引用例記載の実験データには、その有効性に疑いがあり、結局、そ
のデータを根拠にした審決の認定判断や被告の主張は誤りである旨主張している。
 しかしながら、上記2に述べたように、甲第11号証の実験は、引用例記載の発
明の実験の再現とはなっていない。
 また、引用例記載の発明の例1、2について、連続的な触媒反応操作を実施する
場合には、その操作中に触媒の「失活・再生」の操作も少なからず伴うものであっ
て(乙第1号証、「触媒調製」4頁、12頁ないし14頁参照)、40時間後の触
媒の表面積やその活性は、350℃で2時間焼成しただけの表面積の結果に影響さ
れるのではなく、40時間経た後の触媒の組織状態(結晶化状態等)に影響される
ことになるから、例1、2の40時間後の活性が、比較的初期段階の触媒の「表面
積」のデータどおりの結果にならなくてもなんら矛盾はない。
 さらに、例6と例11は、それぞれが、アルミニウムとジルコンを添加したもの
であり、原告の主張は、触媒に添加される金属成分の種類を無視し、単に「表面
積」の大小と「結晶化度合い」によって転化率や選択率に一律に差異が生じるとの
前提に立つものであるというべきであり、添加金属の種類によって転化率等の収率
が異なることは明らかであるから、原告の主張は、失当である。
 一般に、触媒の機能については、乙第1号証の「触媒の機能」の項に「触媒作用
は、・・・触媒物質の化学物質としての特徴と、その物質の表面の呈する特徴の相
乗作用の結果として特殊性、つまり反応の選択性などが発揮されるのである。」
(4頁13行ないし16行)と記載されているように、複数の因子が相乗的に影響
し合って触媒反応が行われるものであるから、一つの因子(例えば表面積)から単
純に予定される効果が必ずしも予定どおり発揮されないことがあり得ることも、当
業者にとって自明の事項である。
第5 当裁判所の判断
 1 原告は、本願発明は、その特許請求の範囲の請求項8に規定されるように、
「0.5~15重量%の量であって、活性を促進する量の亜鉛又は亜鉛化合物を導
入することを特徴とする」ものであって、この「活性を促進する量」における「活
性」とは触媒の「初期活性」、すなわち、触媒を使用し始めた時点での活性である
旨主張した上で、これを根拠として、審決の「引用例には「クロミアからなるクロ
ム含有弗素化触媒に、触媒の2~30重量%の量であって、活性を促進する量の亜
鉛又は亜鉛化合物を導入することを特徴とする、クロム含有弗素化触媒の活性の増
大方法」が開示されており、本願発明8(本願発明)と同一であると認められ
る。」(審決8頁1行ないし6行)とした認定判断は誤りである旨主張しているの
で、原告の上記主張の当否について検討する。
  (1) 本件証拠によると、触媒の技術分野における「活性」の用語の意義に
関し、以下のとおり認められる。
     ア 「触媒調製」(昭和50年10月20日、株式会社講談社発行、乙
第1号証)には、以下の記載がある。
 「一般に触媒の製法を論ずる場合、いわゆる触媒成形品の完成までを対象とする
場合が多い。しかしこの段階では表面に触媒物質が生成していることはまれであ
る。すなわち表面には触媒物質生成の母体となる物質が存在しているにすぎず、反
応系内に充てんされ、賦活操作を受けてはじめて真の触媒物質が生成するのであ
る。したがって触媒の製法としては、原料の調合、成形、焼成、賦活の各段階を含
まなくては完全とはいえず、これに実装置への充てんから使用して定常活性を発揮
させるまでのすべての手順を述べることが理想的とされるのである。」(4頁下か
ら11行ないし4行)
 この記載によれば、触媒とは、賦活操作を受けてはじめて真の触媒物質が生成
し、該賦活の段階を経ることにより製造が完成することがうかがわれ、賦活の段階
まで経たものが、その使用目的とする化学反応に使用し得る状態になり、触媒につ
いて「活性」といった場合、前記段階を経たものについていうものと認められる。
     イ 「産業用の異種の触媒作用(第2版)」(1991年、マグローヒ
ル・インク発行、甲第8号証)には、以下の記載がある。
 「触媒の活性は、触媒が反応を化学平衡に進ませる速度をいう。」(9頁下から
2行、1行)
 この記載によると、触媒の「活性」とは、「触媒が反応を化学平衡に進ませる速
度」と定義されるものであり、この定義によれば、活性とは、触媒が上記アで説示
した賦活の段階まで経たものを、その使用目的とする化学反応に使用し始めた時点
であろうが、あるいは任意の期間使用し続けた後の時点であろうが、それを問わな
い用語であると認められる。
     ウ 「触媒作用の進歩 第26巻」(1977年、アカデミック・プレ
ス発行、ロバート・エル・バーウエル・ジュニア著作部分、甲第6号証)及び上記
甲第8号証には、以下の記載がある。
 「触媒の不活性化は、触媒の構造又は組織の変化によっても起きる。この種の変
化は通常は不可逆であり、触媒を再生することはできない。この種の不活性化は、
しばしば触媒の老化と呼ばれる。
 [焼結と再結晶化]触媒は、使用中に微結晶の平均の寸法が徐々に増大するか又
は一次粒子が成長することにより、損傷することが多い。これを普通は「焼結」と
呼んでいる。焼結が起きると、表面積が減少し、それによって触媒部位の数が減
る。・・・ゆえに焼結は速度の減少、そして恐らくは選択性の変化にもつながる。
同様な現象は、触媒による酸化において用いられる酸化触媒にも起きる。結晶の寸
法が増大するか、又は触媒の当初の構造が変化する。例えば、二成分から成る固体
の化合物は、その成分に分解するか、又は無定形の塊が結晶化することがある。こ
れらの作用は再結晶化と呼ばれる。場合によっては、焼結と再結晶化という用語
が、同じ作用を意味することがある。」(甲第6号証378頁下から7行ないし3
79頁13行)
 「「組織促進剤」は、極微粒子の形で存在することにより、活性のある触媒の微
小結晶の焼結を防ぐ、不活性物質である。これらは本当の触媒の粒子が相互に接触
して合体しないように、それらを分離して、活性のある触媒の面積が使用中に失わ
れるのを防止し又は最小限にする。その2つの例は、アンモニア合成用の従来の鉄
触媒中の少量のアルミナの含有、及び銅を基礎とするメタノール合成触媒の調製物
の1つとしてのZnA204の使用である。」(甲第8号証127頁12行ないし
20行)
 これらの記載によると、触媒を、その使用目的とする化学反応に使用することに
よって不活性化の起こること、すなわち、活性が変化することがあり、上記イで説
示したように、「活性」とは、その使用目的とする化学反応に、使用し始めた時点
であろうが、あるいは任意の期間使用し続けた後の時点であろうが、それを問わな
いものと定義されている用語であることを考え合わせると、「活性」は、賦活の段
階の後の、化学反応に使用し始めた時点以降の使用時点によって規定され得る用語
であると認められる。
  (2) 本願発明は、特許請求の範囲に以下のとおり記載され、規定されるも
のであることについて、争いはない(前記第2の2)。
 「クロミア、ハロゲン化クロミア又はオキシハロゲン化クロムからなるクロム含
有弗素化触媒に、触媒の0.5~15重量%の量であって、活性を促進する量の亜
鉛又は亜鉛化合物を導入することを特徴とする、クロム含有弗素化触媒の活性の増
大方法。」
 上記(1)のウで説示したとおり、触媒の「活性」とは、化学反応に使用し始め
た時点以降の使用時点によって規定され得る用語であり、化学反応に使用し始めた
時点のほか、それ以降の使用時点によっても規定され得るものであるところ、上記
の本願発明の特許請求の範囲の記載によると、本願発明における触媒の促進剤は、
その目的とする化学反応が弗素化であることが示されているが、上記の使用時点に
ついてはなんら限定して規定されてはいないことが明らかであるから、結局、本願
発明を規定する「活性を促進する量」における「活性」の用語について、触媒を
「使用し始めた時点」での活性、すなわち、「初期活性」を意味するものであると
限定し、「活性の促進」をその使用を始めた時点で(促進剤を使用しない場合と比
べて)活性を増大するものであると限定して解釈することはできず、本願発明は、
その以降の使用時点において(促進剤を使用しない場合と比べて)活性を増大する
促進剤も含むものであるというべきである。
 原告は、本件明細書の記載や「ハッチングズ教授の報告書」(甲第12号証の1
の1)の記載を根拠に、本願発明に係る「活性」とは「初期活性」である旨主張す
るが、前判示のとおり、触媒について「活性」なる用語は、技術用語として明確に
定義されており、したがって、該用語について、本願発明を規定する特許請求の範
囲の記載に曖昧さはないものと認められるから、特許請求の範囲の記載以外の本件
明細書の記載や他の証拠を根拠として、本願発明に係る「活性」を「初期活性」と
限定して解釈することはできない。のみならず、本件明細書(甲第1ないし第3号
証)の発明の詳細な説明をみても、本願発明に係る「活性」を、上記の通常の用語
の意義とは異なって、「初期活性」を意味するものであると定義づける記載は見当
たらず、「活性の促進」が「初期活性」を増大するものであると限定して解釈すべ
き根拠として十分な記載はないものと認められる。
  (3) 以上のとおり、本願発明に係る「活性」とは触媒の「初期活性」であ
る旨の原告の主張は採用することはできず、その主張を前提として、審決の「引用
例には「クロミアからなるクロム含有弗素化触媒に、触媒の2~30重量%の量で
あって、活性を促進する量の亜鉛又は亜鉛化合物を導入することを特徴とする、ク
ロム含有弗素化触媒の活性の増大方法」が開示されており、本願発明8(本願発
明)と同一であると認められる。」との認定判断が誤りであるとする原告の取消事
由の主張は、理由がない。
 2 次に、原告は、審決が本願発明について引用例記載の発明と同一であるとの
審決の認定判断は、引用例記載の実験データの正確性に依存するものであるが、こ
れらのデータは有効性に疑いがあり、このデータを根拠とした審決の認定判断は誤
りである旨主張しているので、この主張の当否について検討する。
  (1) 原告は、原告実施に係る追試実験を記載した「実験報告書」(甲第1
1号証)に基づき、引用例が開示する条件下での40時間使用後の活性も、引用例
に従って調製した亜鉛を添加した触媒の方が、純粋なクロミア触媒よりも活性がか
なり低い旨主張している。
 しかしながら、原告の上記主張は、採用することができない。その理由は、以下
のとおりである。
     ア 甲第5号証によれば、引用例には、以下の記載があることが認めら
れる。
      (ア) 「例1」として、「純水2中に試薬特級硝酸クロム(Cr
(NO3)3・9H2O)を530gと試薬特級硝酸マグネシウム(Mg(NO3)2
・6H2O)を33.5gを加えて溶解した。5のビーカー中に濃アンモニア水5
30gを入れ、激しく攪拌しつつ前記の水溶液を添加した。このようにして水酸化
クロムと水酸化マグネシウムを共沈させ全量添加した時点でのスラリーのPHは
8.90であった。引続き攪拌しつつ80-90℃で約2時間加熱した。加熱終了
後冷却し、純水でくりかえし洗浄したのち120-140℃で一晩乾燥を行なっ
た。この試料の一部を示差熱分析に用いた。・・・なお上記の試料中のMgの含量
は酸化物を基準にして約5%であつた。」(5欄29行ないし6欄3行)
      (イ) 「例15~35」として、「例1と同様にして・・・、Z
n、・・・の元素を含む共沈触媒を調製した。組成は酸化物としてCr2O3:Mn
/2O=90:10(重量比)になるように調製した。原料として上記元素の硝酸
塩または硫酸塩を使用した。例1と同様に各種の試験を行なった。」、並びに、
「・・・さらに表面積測定の結果およびX線回折測定の結果を下記第1表にまとめ
て示す。」(7欄4行ないし8欄18行)及び第1表(4頁、5頁)
      (ウ) 「例41」として、「例1と同様にしてMgを含む酸化クロ
ム触媒600gを調製した。なお焼成温度は400℃で5時間である。これに約1
50㏄の純水を加え、擂漬により摩砕混練してペースト状とし、ついでこれを押出
し成型機により直径4㎜の柱状触媒とした。これを140℃で一晩乾燥した。つぎ
にSUS42製内径3cmの反応管に250㏄充填し、まず300~350℃で空気
を流しつつ水分を完全に除去し、ついで400℃で窒素ガスで稀釈した無水弗酸を
1.4mole/hrの流速で4時間流した。その後再び空気を3~4時間流して
予備処理を終了した。ついで340℃、380℃においてR-113(C2C3F
3)0.47mole/hrと無水弗酸1.41mol/hrの混合ガスを流して
反応を行なった。反応結果はつぎの通りであった。・・・而して、この反応を40
時間連続的に行なって、触媒の耐久性能を試験した。その結果を前記第1表に示
す。尚、第1表には、各種の触媒についての例41と同様の反応条件における耐久
性能の試験結果がまとめて示されている。」、並びに、「参考例」として、「例1
と同様にして第2成分を含まない酸化クロム触媒600gを調製した。
なお焼成温度は400℃で5時間である。これを用いて例41と同様に造粒し、3
40℃と380℃で反応を行なった。反応結果は次の通りであった。・・・尚、こ
れについての40時間連続試験の結果も前記第1表に参考例として示してある。」
(9欄3行ないし10欄下から5行)及び第1表(4頁、5頁)
 以上(ア)ないし(ウ)の記載によれば、引用例には、第1表に「例23」とし
て記載された触媒は、クロミアからなるクロム含有弗素化触媒に亜鉛又は亜鉛化合
物が導入されたものであって、水酸化クロムと水酸化亜鉛を共沈させたスラリー状
のものを攪拌しつつ加熱した後に冷却、洗浄、乾燥を行い、これを更に焼成し、こ
の焼成したものに純水を加え、擂漬により摩砕混練してペースト状とし、これを押
出し成型機により直径4㎜の柱状触媒とし、窒素ガスで稀釈した無水弗酸に接触等
させて調製した触媒を用いて弗素化反応を行なったこと、また、第1表の参考例
は、例23と同様に調製された、第2成分を含まないクロミアからなるクロム含有
弗素化触媒で、同じく同様に反応を行わせたことが記載されていることが認められ
る。
     イ 一方、甲第11号証の追試実験の報告書には、以下の記載がある。
      (ア) 「例A:試料TR665:参考例の純粋な酸化クロム触媒
 参考例の酸化クロムの調製方法を、旭硝子特許の例1~41が示している情報を
用いて決定した。・・・。
 ICIは、以下のとおり、この触媒の調製を約2分の1の規模で再現した。
・・・焼成した試料を取り出して、試料番号をTR665/1とした。
 次にこの過程を繰り返したが、第二の試料の場合は、350℃で2時間加熱した
後に炉から取り出して、試料番号をTR665/2とした。
 次にこの過程を繰り返したが、第三の試料の場合は、350℃で3時間加熱した
後に炉から取り出して、試料番号をTR665/3とした。
 これらの3つの焼成した粉末を、約1mmの粒子にして試験した。粒状化の方法
として、粉末を5~6teの力を加えて圧縮し、厚さ2~3mmの13mmのディ
スク状とした。粒状化を促進するため、2%の不活性グラファイトの潤滑剤を粉末
に加えた。完成したディスクをすりつぶしてふるいにかけて、大きさが0.5~
1.4mmの範囲内の粒子を作った。そして調製した焼成試料の表面積を、窒素の
一点吸着法によって測定した。
 50gの水酸化クロムの粉末TR665を焼成して、主としてこれを用いて、酸
化クロム触媒の試験を行った。この水酸化物を直径13.5cmのガラスの結晶皿
に入れて、予熱した400℃の炉に5時間入れた。酸化クロムを炉から取り出し
て、室温まで冷却し、触媒粉末TR665/4として保存した。
 そして酸化クロム触媒TR665/4を、試験に先立って粒状化した。触媒の粉
末を、上記のTR665/1~3について記載した方法で、直径約1mmの粒子に
変えた。この方法によって完成した触媒を12g作成した。
例B:試料TR666:90重量%の酸化クロムと10重量%の酸化亜鉛の触媒
 下記の触媒の調製は旭硝子特許の例23を追試したものであり、例1に記載され
た一般的な方法と、旭硝子特許の例41に詳述された比較例の酸化クロムに関する
情報のうち必要なものを用いた。・・・。
 30gの水酸化亜鉛と水酸化クロムの混合粉末TR666を焼成し、これを用い
て試験用の酸化亜鉛を含む酸化クロム触媒を作成した。この水酸化物を直径13.
5cmのガラスの結晶皿に入れて、予熱した400℃の炉に5時間入れた。酸化ク
ロムを炉から取り出して、室温まで冷却し、触媒粉末TR666/5として保存し
た。次に前述のとおり、水酸化物の粉末TR666/5から粒状の触媒を12g作
り、触媒試料の調整を完了した。
例C:試料TR676:90重量%の酸化クロムと10重量%の酸化亜鉛の触媒
 旭硝子の酸化亜鉛を加えた酸化クロム触媒の調製の二番目の追試を、上記の例B
について記述したのと同じ方法で、およそ半分の規模で行った。・・・この第二の
調製によって作った水酸化亜鉛と水酸化クロムの混合粉末の試料番号をTR676
とした。次に例A及びBについて詳細に記述したのと同様に、・・・試験用の触媒
を作るため、400℃で5時間焼成した。」(訳文4頁1行ないし6頁16行)
      (イ) 「例G:試料TR699:参考例の純粋な酸化クロム触媒
・・・。
 この試験の最後に、教科書に載っている沈殿法を用いて、一連の完全な規模の調
製を行うことを決定した。・・・。
 この第三の調製によって作った水酸化クロムの粉末の試料番号をTR699とし
た。次に例A及びBについて詳細に記述したところに従い、・・・試験用の触媒を
作るため、400℃で5時間焼成した。
例H:試料TR700:90重量%の酸化クロムと10重量%の酸化亜鉛の触媒
 旭硝子の酸化亜鉛を加えた酸化クロム触媒の調製の五番目の追試を、スタイルズ
が記述し、上記の例Gにおいて詳述した方法で、フルスケールで行った。・・・。
この第五の調製によって作った水酸化亜鉛とクロムの混合粉末の試料番号をTR7
00とした。次に・・・試験用の触媒を作るため、400℃で5時間焼成した。」
(訳文7頁下から12行ないし8頁下から13行)
      (ウ) 「5.2.5 ICIの触媒の試験-R113及び弗化水素
との接触
 触媒の温度を350℃に調整して、すべての流れを止めて、触媒に試験用の弗化
水素とR113を供給した。弗化水素の流量は0.451g/時としたが、これは
旭硝子が用いた触媒1gあたりの弗化水素0.l13gに等しい。R113の供給
を弗化水素と同時に開始し、1.41g/時のR113を流した。これらの供給操
作は、弗化水素とR113のモルあたりの供給比率を3対1とした。弗化水素とR
113の供給は、試験時間40時間にわたって連続して行った。
 反応容器の出口のガスを洗浄して弗化水素を除去し、手動の標本抽出装置を用い
て定期的に標本を調べ、普通のガスクロマトグラフィー分析方法により分析した。
R113の供給を開始してから40時間の反応時間にわたって触媒の性能を監視し
て、その結果を旭硝子の限られたデータと比較した。結果の項目を参照されたい。
5.3 ICIの触媒の試験の結果
 触媒の耐久試験中に、反応の性能を頻繁に測定した。そして触媒の初期の性能
を、40時間反応を継続した後の性能と比較した。これらの試験結果の要約を表3
に示した。」(訳文15頁4行ないし16行)及び表3
 以上(ア)ないし(ウ)の記載によると、表3にはクロミア触媒(例A及びG)
と亜鉛含有クロミア触媒(例B、C及びH)を用い、R113を弗化水素と反応さ
せる弗素化反応を40時間実施した時点でのR113の転化率が示されている。そ
して、この転化率は、所定単位時間当たりにおいてR-113が変化した割合であ
るから、前記1の(1)イに記載した「活性」の定義によれば、これが触媒の活性
を示す指標となることは明らかであって、表3に示された転化率によれば、亜鉛含
有クロミア触媒(例B、C及びH)は、クロミア触媒(例A及びG)と比べて転化
率が低く、亜鉛を含有させることにより、活性を促進させるものではないことがう
かがわれる。
     ウ しかしながら、他方、上記イに摘示した甲第11号証の記載内容に
よると、甲第11号証の追試実験において、上記の両触媒は、焼成した粉末に力を
加えて圧縮し、厚さ2~3mmの13mmのディスク状とし、これをすりつぶして
ふるいにかけて、大きさが0.5~1.4mmの範囲内の粒子を作り、これを弗素
化反応に使用したことが認められる。これに対して、引用例には、上記アで説示し
たとおり、参考例及び例23として、焼成したものに純水を加え、擂漬により摩砕
混練してペースト状とし、これを押出し成型機により直径4㎜の柱状触媒とし、こ
れを弗素化反応に使用したことが記載されている。
 そして、甲第11号証の追試実験における触媒の製造方法と引用例に記載された
参考例及び例23の製造方法とを比較すると、両者は、弗素化反応に使用するため
の焼成後の触媒造粒方法において、その手順及び造粒された粒子の形状と大きさを
異にしているから、甲第11号証における追試実験は、引用例記載の上記の製造方
法に則ったものとはいえないことは明らかである。
 したがって、甲第11号証の上記イの記載内容をもって、引用例に記載された参
考例及び例23に係る実験の有効性を否定することはできない。
 原告は、触媒粉末を使用可能な形にする造粒方法の違いは、触媒活性に重要な影
響を与えない旨主張している。しかしながら、触媒を化学反応に使用するとき、そ
の触媒粒子の大きさや形状が、触媒反応における物質移動速度、触媒層の圧力損失
と熱伝導、反応流体の混合や流れの均一化などの影響を与えることは技術常識であ
り(当裁判所に顕著な「新しい触媒化学」1988年(昭和63年)、三共出版株
式会社発行、29頁ないし32頁「触媒粒子の大きさと形状」の項目参照)、その
結果、40時間使用後の活性にも影響が及ぶことは、容易に推認されるところであ
るから、原告の上記主張は、採用することができない。
  (2) また、原告は、引用例記載の例1、2、6、11、31、52を引用
し、引用例記載の実験データには、その有効性に疑いがあり、結局、該データを根
拠にした審決の認定判断は誤りである旨主張している。
 しかしながら、審決は、「引用例には、・・・R-113転化率(%)が、クロ
ミア単独(参考例)の場合の92.1よりZnの添加の場合の95.1と、触媒活
性があがっている、即ち亜鉛酸化物の導入によって触媒活性が促進(増大)されて
いること、が記載されている。」(審決書5頁6行ないし6頁5行)として、第2
成分を含有していないクロミア触媒である参考例と、亜鉛又は亜鉛化合物を含有し
たクロミア触媒である例23に関して、引用例に記載された事項を認定した上で、
本願発明と引用例記載の発明との同一性について、認定判断をしたことは明らかで
あるところ、原告の引用する上記の各例は、いずれも、第2成分を含有していない
クロミア触媒や亜鉛又は亜鉛化合物を含有したクロミア触媒の例ではないから、仮
に、これらの記載内容の正確性等に疑いを入れる余地があるとしても、直ちに、審
決が根拠とした上記の参考例及び例23に関するデータの有効性に疑義を生じさせ
るものではなく、他に、このデータの有効性に合理的な疑いを抱かせ、その有効性
を肯定し得ないものとするに足りる証拠はない。
 したがって、原告の上記主張は、採用することができない。
  (3) 以上のとおり、引用例記載の実験データは有効性に疑いがあり、この
データを根拠とした審決の認定判断は誤りである旨の原告の取消事由の主張は、理
由がない。
 3 結論
 以上の次第で、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取
り消すべき瑕疵は見当たらない。
 よって、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判
決する。
東京高等裁判所第18民事部
    裁判長裁判官 永  井  紀  昭
    裁判官 古  城  春  実
    裁判官 橋  本  英  史
別紙 審決書の理由写し

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