弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被上告人の控訴を棄却する。
     控訴費用及び上告費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人・原隆一の上告理由二について。
 所論は、要するに、本件許可申請につき、昭和三八年法律第一三五号による改正
後の薬事法の規定によつて処理すべきものとした原審の判断は、憲法三一条、三九
条、民法一条二項に違反し、薬事法六条一項の適用を誤つたものであるというので
ある。
 しかし、行政処分は原則として処分時の法令に準拠してされるべきものであり、
このことは許可処分においても同様であつて、法令に特段の定めのないかぎり、許
可申請時の法令によつて許否を決定すべきのではなく、許可申請者は、申請によつ
て申請時の法令により許可を受ける具体的な権利を取得するものではないから、右
のように解したからといつて法律不遡及の原則に反することとなるものではない。
また、原審の適法に確定するところによれば、本件許可申請は所論の改正法施行の
日の前日に受理されたというのであり、被上告人が改正法に基づく許可条件に関す
る基準を定める条例の施行をまつて右申請に対する処理をしたからといつて、これ
を違法とすべき理由はない。所論の点に関する原審の判断は、結局、正当というべ
きであり、違憲の主張は、所論の違法があることを前提とするもので、失当である。
論旨は、採用することができない。
 同上告理由一について。
 所論は、要するに、薬事法六条二項、四項(これらを準用する同法二六条二項)
及びこれに基づく広島県条例「薬局等の配置の基準を定める条例」(昭和三八年広
島県条例第二九号。以下「県条例」という。)を合憲とした原判決には、憲法二二
条、一三条の解釈、適用を誤つた違法があるというのである。
一 憲法二二条一項の職業選択の自由と許可制
 (一) 憲法二二条一項は、何人も、公共の福祉に反しないかぎり、職業選択の自
由を有すると規定している。職業は、人が自己の生計を維持するためにする継続的
活動であるとともに、分業社会においては、これを通じて社会の存続と発展に寄与
する社会的機能分担の活動たる性質を有し、各人が自己のもつ個性を全うすべき場
として、個人の人格的価値とも不可分の関連を有するものである。右規定が職業選
択の自由を基本的人権の一つとして保障したゆえんも、現代社会における職業のも
つ右のような性格と意義にあるものということができる。そして、このような職業
の性格と意義に照らすときは、職業は、ひとりその選択、すなわち職業の開始、継
続、廃止において自由であるばかりでなく、選択した職業の遂行自体、すなわちそ
の職業活動の内容、態様においても、原則として自由であることが要請されるので
あり、したがつて、右規定は、狭義における職業選択の自由のみならず、職業活動
の自由の保障をも包含しているものと解すべきである。
 (二) もつとも、職業は、前述のように、本質的に社会的な、しかも主として経
済的な活動であつて、その性質上、社会的相互関連性が大きいものであるから、職
業の自由は、それ以外の憲法の保障する自由、殊にいわゆる精神的自由に比較して、
公権力による規制の要請がつよく、憲法二二条一項が「公共の福祉に反しない限り」
という留保のもとに職業選択の自由を認めたのも、特にこの点を強調する趣旨に出
たものと考えられる。このように、職業は、それ自身のうちになんらかの制約の必
要性が内在する社会的活動であるが、その種類、性質、内容、社会的意義及び影響
がきわめて多種多様であるため、その規制を要求する社会的理由ないし目的も、国
民経済の円満な発展や社会公共の便宜の促進、経済的弱者の保護等の社会政策及び
経済政策上の積極的なものから、社会生活における安全の保障や秩序の維持等の消
極的なものに至るまで千差万別で、その重要性も区々にわたるのである。そしてこ
れに対応して、現実に職業の自由に対して加えられる制限も、あるいは特定の職業
につき私人による遂行を一切禁止してこれを国家又は公共団体の専業とし、あるい
は一定の条件をみたした者にのみこれを認め、更に、場合によつては、進んでそれ
らの者に職業の継続、遂行の義務を課し、あるいは職業の開始、継続、廃止の自由
を認めながらその遂行の方法又は態様について規制する等、それぞれの事情に応じ
て各種各様の形をとることとなるのである。それ故、これらの規制措置が憲法二二
条一項にいう公共の福祉のために要求されるものとして是認されるかどうかは、こ
れを一律に論ずることができず、具体的な規制措置について、規制の目的、必要性、
内容、これによつて制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、
これらを比較考量したうえで慎重に決定されなければならない。この場合、右のよ
うな検討と考量をするのは、第一次的には立法府の権限と責務であり、裁判所とし
ては、規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上、そのための規制
措置の具体的内容及びその必要性と合理性については、立法府の判断がその合理的
裁量の範囲にとどまるかぎり、立法政策上の問題としてその判断を尊重すべきもの
である。しかし、右の合理的裁量の範囲については、事の性質上おのずから広狭が
ありうるのであつて、裁判所は、具体的な規制の目的、対象、方法等の性質と内容
に照らして、これを決すべきものといわなければならない。
 (三) 職業の許可制は、法定の条件をみたし、許可を与えられた者のみにその職
業の遂行を許し、それ以外の者に対してはこれを禁止するものであつて、右に述べ
たように職業の自由に対する公権力による制限の一態様である。このような許可制
が設けられる理由は多種多様で、それが憲法上是認されるかどうかも一律の基準を
もつて論じがたいことはさきに述べたとおりであるが、一般に許可制は、単なる職
業活動の内容及び態様に対する規制を超えて、狭義における職業の選択の自由その
ものに制約を課するもので、職業の自由に対する強力な制限であるから、その合憲
性を肯定しうるためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的
な措置であることを要し、また、それが社会政策ないしは経済政策上の積極的な目
的のための措置ではなく、自由な職業活動が社会公共に対してもたらす弊害を防止
するための消極的、警察的措置である場合には、許可制に比べて職業の自由に対す
るよりゆるやかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によつては右の
目的を十分に達成することができないと認められることを要するもの、というべき
である。そして、この要件は、許可制そのものについてのみならず、その内容につ
いても要求されるのであつて、許可制の採用自体が是認される場合であつても、個
々の許可条件については、更に個別的に右の要件に照らしてその適否を判断しなけ
ればならないのである。
二 薬事法における許可制について。
 (一) 薬事法は、医薬品等に関する事項を規制し、その適正をはかることを目的
として制定された法律であるが(一条)、同法は医薬品等の供給業務に関して広く
許可制を採用し、本件に関連する範囲についていえば、薬局については、五条にお
いて都道府県知事の許可がなければ開設をしてはならないと定め、六条において右
の許可条件に関する基準を定めており、また、医薬品の一般販売業については、二
四条において許可を要することと定め、二六条において許可権者と許可条件に関す
る基準を定めている。医薬品は、国民の生命及び健康の保持上の必需品であるとと
もに、これと至大の関係を有するものであるから、不良医薬品の供給(不良調剤を
含む。以下同じ。)から国民の健康と安全とをまもるために、業務の内容の規制の
みならず、供給業者を一定の資格要件を具備する者に限定し、それ以外の者による
開業を禁止する許可制を採用したことは、それ自体としては公共の福祉に適合する
目的のための必要かつ合理的措置として肯認することができる(最高裁昭和三八年
(あ)第三一七九号同四〇年七月一四日大法廷判決・刑集一九巻五号五五四頁、同
昭和三八年(オ)第七三七号同四一年七月二〇日大法廷判決・民集二〇巻六号一二
一七頁参照)。
 (二) そこで進んで、許可条件に関する基準をみると、薬事法六条(この規定は
薬局の開設に関するものであるが、同法二六条二項において本件で問題となる医薬
品の一般販売業に準用されている。)は、一項一号において薬局の構造設備につき、
一号の二において薬局において薬事業務に従事すべき薬剤師の数につき、二号にお
いて許可申請者の人的欠格事由につき、それぞれ許可の条件を定め、二項において
は、設置場所の配置の適正の観点から許可をしないことができる場合を認め、四項
においてその具体的内容の規定を都道府県の条例に譲つている。これらの許可条件
に関する基準のうち、同条一項各号に定めるものは、いずれも不良医薬品の供給の
防止の目的に直結する事項であり、比較的容易にその必要性と合理性を肯定しうる
ものである(前掲各最高裁大法廷判決参照)のに対し、二項に定めるものは、この
ような直接の関連性をもつておらず、本件において上告人が指摘し、その合憲性を
争つているのも、専らこの点に関するものである。それ故、以下において適正配置
上の観点から不許可の道を開くこととした趣旨、目的を明らかにし、このような許
可条件の設定とその目的との関連性、及びこのような目的を達成する手段としての
必要性と合理性を検討し、この点に関する立法府の判断がその合理的裁量の範囲を
超えないかどうかを判断することとする。
三 薬局及び医薬品の一般販売業(以下「薬局等」という。)の適正配置規制の立
法目的及び理由について。
 (一) 薬事法六条二項、四項の適正配置規制に関する規定は、昭和三八年七月一
二日法律第一三五号「薬事法の一部を改正する法律」により、新たな薬局の開設等
の許可条件として追加されたものであるが、右の改正法律案の提案者は、その提案
の理由として、一部地域における薬局等の乱設による過当競争のために一部業者に
経営の不安定を生じ、その結果として施設の欠陥等による不良医薬品の供給の危険
が生じるのを防止すること、及び薬局等の一部地域への偏在の阻止によつて無薬局
地域又は過少薬局地域への薬局の開設等を間接的に促進することの二点を挙げ、こ
れらを通じて医薬品の供給(調剤を含む。以下同じ。)の適正をはかることがその
趣旨であると説明しており、薬事法の性格及びその規定全体との関係からみても、
この二点が右の適正配置規制の目的であるとともに、その中でも前者がその主たる
目的をなし、後者は副次的、補充的目的であるにとどまると考えられる。
 これによると、右の適正配置規制は、主として国民の生命及び健康に対する危険
の防止という消極的、警察的目的のための規制措置であり、そこで考えられている
薬局等の過当競争及びその経営の不安定化の防止も、それ自体が目的ではなく、あ
くまでも不良医薬品の供給の防止のための手段であるにすぎないものと認められる。
すなわち、小企業の多い薬局等の経営の保護というような社会政策的ないしは経済
政策的目的は右の適正配置規制の意図するところではなく(この点において、最高
裁昭和四五年(あ)第二三号同四七年一一月二二日大法廷判決・刑集二六巻九号五
八六頁で取り扱われた小売商業調整特別措置法における規制とは趣きを異にし、し
たがつて、右判決において示された法理は、必ずしも本件の場合に適切ではない。)、
また、一般に、国民生活上不可欠な役務の提供の中には、当該役務のもつ高度の公
共性にかんがみ、その適正な提供の確保のために、法令によつて、提供すべき役務
の内容及び対価等を厳格に規制するとともに、更に役務の提供自体を提供者に義務
づける等のつよい規制を施す反面、これとの均衡上、役務提供者に対してある種の
独占的地位を与え、その経営の安定をはかる措置がとられる場合があるけれども、
薬事法その他の関係法令は、医薬品の供給の適正化措置として右のような強力な規
制を施してはおらず、したがつて、その反面において既存の薬局等にある程度の独
占的地位を与える必要も理由もなく、本件適正配置規制にはこのような趣旨、目的
はなんら含まれていないと考えられるのである。
 (二) 次に、前記(一)の目的のために適正配置上の観点からする薬局の開設等の
不許可の道を開くことの必要性及び合理性につき、被上告人の指摘、主張するとこ
ろは、要約すれば、次の諸点である。
  (1) 薬局等の偏在はかねてから問題とされていたところであり、無薬局地域
又は過少薬局地域の解消のために適正配置計画に基づく行政指導が行われていたが、
昭和三二年頃から一部大都市における薬局等の偏在による過当競争の結果として、
医薬品の乱売競争による弊害が問題となるに至つた。これらの弊害の対策として行
政指導による解決の努力が重ねられたが、それには限界があり、なんらかの立法措
置が要望されるに至つたこと。
  (2) 前記過当競争や乱売の弊害としては、そのために一部業者の経営が不安
定となり、その結果、設備、器具等の欠陥を生じ、医薬品の貯蔵その他の管理がお
ろそかとなつて、良質な医薬品の供給に不安が生じ、また、消費者による医薬品の
乱用を助長したり、販売の際における必要な注意や指導が不十分になる等、医薬品
の供給の適正化が困難となつたことが指摘されるが、これを解消するためには薬局
等の経営の安定をはかることが必要と考えられること。
  (3) 医薬品の品質の良否は、専門家のみが判定しうるところで、一般消費者
にはその能力がないため、不良医薬品の供給の防止は一般消費者側からの抑制に期
待することができず、供給者側の自発的な法規遵守によるか又は法規違反に対する
行政上の常時監視によるほかはないところ、後者の監視体制は、その対象の数がぼ
う大であることに照らしてとうてい完全を期待することができず、これによつては
不良医薬品の供給を防止することが不可能であること。
四 適正配置規制の合憲性について。
 (一) 薬局の開設等の許可条件として地域的な配置基準を定めた目的が前記三の
(一)に述べたところにあるとすれば、それらの目的は、いずれも公共の福祉に合致
するものであり、かつ、それ自体としては重要な公共の利益ということができるか
ら、右の配置規制がこれらの目的のために必要かつ合理的であり、薬局等の業務執
行に対する規制によるだけでは右の目的を達することができないとすれば、許可条
件の一つとして地域的な適正配置基準を定めることは、憲法二二条一項に違反する
ものとはいえない。問題は、果たして、右のような必要性と合理性の存在を認める
ことができるかどうか、である。
 (二) 薬局等の設置場所についてなんらの地域的制限が設けられない場合、被上
告人の指摘するように、薬局等が都会地に偏在し、これに伴つてその一部において
業者間に過当競争が生じ、その結果として一部業者の経営が不安定となるような状
態を招来する可能性があることは容易に推察しうるところであり、現に無薬局地域
や過少薬局地域が少なからず存在することや、大都市の一部地域において医薬品販
売競争が激化し、その乱売等の過当競争現象があらわれた事例があることは、国会
における審議その他の資料からも十分にうかがいうるところである。しかし、この
ことから、医薬品の供給上の著しい弊害が、薬局の開設等の許可につき地域的規制
を施すことによつて防止しなければならない必要性と合理性を肯定させるほどに、
生じているものと合理的に認められるかどうかについては、更に検討を必要とする。
  (1) 薬局の開設等の許可における適正配置規制は、設置場所の制限にとどま
り、開業そのものが許されないこととなるものではない。しかしながら、薬局等を
自己の職業として選択し、これを開業するにあたつては、経営上の採算のほか、諸
般の生活上の条件を考慮し、自己の希望する開業場所を選択するのが通常であり、
特定場所における開業の不能は開業そのものの断念にもつながりうるものであるか
ら、前記のような開業場所の地域的制限は、実質的には職業選択の自由に対する大
きな制約的効果を有するものである。
  (2) 被上告人は、右のような地域的制限がない場合には、薬局等が偏在し、
一部地域で過当な販売競争が行われ、その結果前記のように医薬品の適正供給上種
々の弊害を生じると主張する。そこで検討するのに、
  (イ) まず、現行法上国民の保健上有害な医薬品の供給を防止するために、
薬事法は、医薬品の製造、貯蔵、販売の全過程を通じてその品質の保障及び保全上
の種々の厳重な規制を設けているし、薬剤師法もまた、調剤について厳しい遵守規
定を定めている。そしてこれらの規制違反に対しては、罰則及び許可又は免許の取
消等の制裁が設けられているほか、不良医薬品の廃棄命令、施設の構造設備の改繕
命令、薬剤師の増員命令、管理者変更命令等の行政上の是正措置が定められ、更に
行政機関の立入検査権による強制調査も認められ、このような行政上の検査機構と
して薬事監視員が設けられている。これらはいずれも、薬事関係各種業者の業務活
動に対する規制として定められているものであり、刑罰及び行政上の制裁と行政的
監督のもとでそれが励行、遵守されるかぎり、不良医薬品の供給の危険の防止とい
う警察上の目的を十分に達成することができるはずである。もつとも、法令上いか
に完全な行為規制が施され、その遵守を強制する制度上の手当がされていても、違
反そのものを根絶することは困難であるから、不良医薬品の供給による国民の保健
に対する危険を完全に防止するための万全の措置として、更に進んで違反の原因と
なる可能性のある事由をできるかぎり除去する予防的措置を講じることは、決して
無意義ではなく、その必要性が全くないとはいえない。しかし、このような予防的
措置として職業の自由に対する大きな制約である薬局の開設等の地域的制限が憲法
上是認されるためには、単に右のような意味において国民の保健上の必要性がない
とはいえないというだけでは足りず、このような制限を施さなければ右措置による
職業の自由の制約と均衡を失しない程度において国民の保健に対する危険を生じさ
せるおそれのあることが、合理的に認められることを必要とするというべきである。
  (ロ) ところで、薬局の開設等について地域的制限が存在しない場合、薬局
等が偏在し、これに伴い一部地域において業者間に過当競争が生じる可能性がある
ことは、さきに述べたとおりであり、このような過当競争の結果として一部業者の
経営が不安定となるおそれがあることも、容易に想定されるところである。被上告
人は、このような経営上の不安定は、ひいては当該薬局等における設備、器具等の
欠陥、医薬品の貯蔵その他の管理上の不備をもたらし、良質な医薬品の供給をさま
たげる危険を生じさせると論じている。確かに、観念上はそのような可能性を否定
することができない。しかし、果たして実際上どの程度にこのような危険があるか
は、必ずしも明らかにされてはいないのである。被上告人の指摘する医薬品の乱売
に際して不良医薬品の販売の事実が発生するおそれがあつたとの点も、それがどの
程度のものであつたか明らかでないが、そこで挙げられている大都市の一部地域に
おける医薬品の乱売のごときは、主としていわゆる現金問屋又はスーパーマーケツ
トによる低価格販売を契機として生じたものと認められることや、一般に医薬品の
乱売については、むしろその製造段階における一部の過剰生産とこれに伴う激烈な
販売合戦、流通過程における営業政策上の行態等が有力な要因として競合している
ことが十分に想定されることを考えると、不良医薬品の販売の現象を直ちに一部薬
局等の経営不安定、特にその結果としての医薬品の貯蔵その他の管理上の不備等に
直結させることは、決して合理的な判断とはいえない。殊に、常時行政上の監督と
法規違反に対する制裁を背後に控えている一般の薬局等の経営者、特に薬剤師が経
済上の理由のみからあえて法規違反の挙に出るようなことは、きわめて異例に属す
ると考えられる。このようにみてくると、競争の激化―経営の不安定―法規違反と
いう因果関係に立つ不良医薬品の供給の危険が、薬局等の段階において、相当程度
の規模で発生する可能性があるとすることは、単なる観念上の想定にすぎず、確実
な根拠に基づく合理的な判断とは認めがたいといわなければならない。なお、医薬
品の流通の機構や過程の欠陥から生じる経済上の弊害について対策を講じる必要が
あるとすれば、それは流通の合理化のために流通機構の最末端の薬局等をどのよう
に位置づけるか、また不当な取引方法による弊害をいかに防止すべきか、等の経済
政策的問題として別途に検討されるべきものであつて、国民の保健上の目的からさ
れている本件規制とは直接の関係はない。
  (ハ) 仮に右に述べたような危険発生の可能性を肯定するとしても、更にこ
れに対する行政上の監督体制の強化等の手段によつて有効にこれを防止することが
不可能かどうかという問題がある。この点につき、被上告人は、薬事監視員の増加
には限度があり、したがつて、多数の薬局等に対する監視を徹底することは実際上
困難であると論じている。このように監視に限界があることは否定できないが、し
かし、そのような限界があるとしても、例えば、薬局等の偏在によつて競争が激化
している一部地域に限つて重点的に監視を強化することによつてその実効性を高め
る方途もありえないではなく、また、被上告人が強調している医薬品の貯蔵その他
の管理上の不備等は、不時の立入検査によつて比較的容易に発見することができる
ような性質のものとみられること、更に医薬品の製造番号の抹消操作等による不正
販売も、薬局等の段階で生じたものというよりは、むしろ、それ以前の段階からの
加工によるのではないかと疑われること等を考え合わせると、供給業務に対する規
制や監督の励行等によつて防止しきれないような、専ら薬局等の経営不安定に由来
する不良医薬品の供給の危険が相当程度において存すると断じるのは、合理性を欠
くというべきである。
  (ニ) 被上告人は、また、医薬品の販売の際における必要な注意、指導がお
ろそかになる危険があると主張しているが、薬局等の経営の不安定のためにこのよ
うな事態がそれ程に発生するとは思われないので、これをもつて本件規制措置を正
当化する根拠と認めるには足りない。
  (ホ) 被上告人は、更に、医薬品の乱売によつて一般消費者による不必要な
医薬品の使用が助長されると指摘する。確かにこのような弊害が生じうろことは否
定できないが、医薬品の乱売やその乱用の主要原因は、医薬品の過剰生産と販売合
戦、これに随伴する誇大な広告等にあり、一般消費者に対する直接販売の段階にお
ける競争激化はむしろその従たる原因にすぎず、特に右競争激化のみに基づく乱用
助長の危険は比較的軽少にすぎないと考えるのが、合理的である。のみならず、右
のような弊害に対する対策としては、薬事法六六条による誇大広告の規制のほか、
一般消費者に対する啓蒙の強化の方法も存するのであつて、薬局等の設置場所の地
域的制限によつて対処することには、その合理性を認めがたいのである。
  (ヘ) 以上(ロ)から(ホ)までに述べたとおり、薬局等の設置場所の地域
的制限の必要性と合理性を裏づける理由として被上告人の指摘する薬局等の偏在―
競争激化―一部薬局等の経営の不安定―不良医薬品の供給の危険又は医薬品乱用の
助長の弊害という事由は、いずれもいまだそれによつて右の必要性と合理性を肯定
するに足りず、また、これらの事由を総合しても右の結論を動かすものではない。
  (3) 被上告人は、また、医薬品の供給の適正化のためには薬局等の適正分布
が必要であり、一部地域への偏在を防止すれば、間接的に無薬局地域又は過少薬局
地域への進出が促進されて、分布の適正化を助長すると主張している。薬局等の分
布の適正化が公共の福祉に合致することはさきにも述べたとおりであり、薬局等の
偏在防止のためにする設置場所の制限が間接的に被上告人の主張するような機能を
何程かは果たしうろことを否定することはできないが、しかし、そのような効果を
どこまで期待できるかは大いに疑問であり、むしろその実効性に乏しく、無薬局地
域又は過少薬局地域における医薬品供給の確保のためには他にもその方策があると
考えられるから、無薬局地域等の解消を促進する目的のために設置場所の地域的制
限のような強力な職業の自由の制限措置をとることは、目的と手段の均衡を著しく
失するものであつて、とうていその合理性を認めることができない。
 本件適正配置規制は、右の目的と前記(2)で論じた国民の保健上の危険防止の目
的との、二つの目的のための手段としての措置であることを考慮に入れるとしても、
全体としてその必要性と合理性を肯定しうるにはなお遠いものであり、この点に関
する立法府の判断は、その合理的裁量の範囲を超えるものであるといわなければな
らない。
五 結   論
 以上のとおり、薬局の開設等の許可基準の一つとして地域的制限を定めた薬事法
六条二項、四項(これらを準用する同法二六条二項)は、不良医薬品の供給の防止
等の目的のために必要かつ合理的な規制を定めたものということができないから、
憲法二二条一項に違反し、無効である。
 ところで、本件は、上告人の医薬品の一般販売業の許可申請に対し、被上告人が
昭和三九年一月二七日付でした不許可処分の取消を求める事案であるが、原判決の
適法に確定するところによれば、右不許可処分の理由は、右許可申請が薬事法二六
条二項の準用する同法六条二項、四項及び県条例三条の薬局等の配置の基準に適合
しないというのである。したがつて、右法令が憲法二二条一項に違反しないとして
本件不許可処分の効力を維持すべきものとした原審の判断には、憲法及び法令の解
釈適用を誤つた違法があり、これが原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかであ
るから、論旨は、この点において理由があり、その余の判断をするまでもなく、原
判決は破棄を免れない。そして、右処分が取り消されるべきものであることは明ら
かであるから、上告人の請求を認容すべきものとした第一審判決の結論は正当であ
つて、被上告人の控訴は棄却されるべきものである。
  よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条一号、三九六条、三八四条、九
六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所大法廷
         裁判長裁判官    村   上   朝   一
            裁判官    関   根   小   郷
            裁判官    藤   林   益   三
            裁判官    岡   原   昌   男
            裁判官    小   川   信   雄
            裁判官    下   田   武   三
            裁判官    岸       盛   一
            裁判官    天   野   武   一
            裁判官    坂   本   吉   勝
            裁判官    岸   上   康   夫
            裁判官    江 里 口   清   雄
            裁判官    大   塚   喜 一 郎
            裁判官    高   辻   正   己
            裁判官    吉   田       豊
            裁判官    団   藤   重   光

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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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経験不問です。

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写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
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