弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件控訴を棄却する。
     原審における訴訟費用は、被告人の負担とする。
         理    由
一 検察官の上告趣意は、判例違反をいうが、引用の判例はいずれも本件とは事案
を異にし適切でなく、適法な上告理由にあたらない。
二 しかしながら、検察官の所論にかんがみ職権によつて調査すると、原判決は、
以下に述べる理由により結局破棄を免れない。
 本件公訴事実につき第一審判決がその挙示する証拠により有罪と認定した事実関
係の要旨は、「被告人は、弁護士でなくかつ法定の除外事由がないのに、報酬を得
る目的で、業として、昭和三八年一一月ころから同四一年一〇月ころまでの間に、
四回にわたり、Aほか三名から、貸金の取立、手形債権の取立、交通事故に基づく
損害賠償の請求、土地の売買交渉及びこれに付随する手続等の法律事務に関する委
任を受けて、同人らから報酬を得てこれらの法律事務を取り扱つた。」というもの
である。原審は、第一審の認定した外形的事実及び被告人に報酬目的があつたこと
を是認しながらも、被告人と委任者らとの交際関係及び被告人が本件各法律事務の
委任を受けた経緯を検討したうえで、結論的には、「被告人は本件において客観的
には四回に亘り法律事務を取り扱つているものの、不特定多数の者を対象として行
なつたような場合と事情を異にし、依頼者又は実質的受益者らとの間においてはい
ずれも特別な人間関係、個々的な特殊な事情があつて、被告人としてはたまたまこ
れらを各引受けたものと認めるのが相当であり、そうだとすれば、その間に継続性、
反覆性の意図があつたものとは断定できず、又この限りにおいては、社会生活上当
然の相互扶助的協力の範囲を逸脱しているものと評価することはできないものとい
うべきである。よつて右事情からは被告人の本件業務性の認定をすることができず、
一件記録によるも他に業務性を認定する証拠は存しない(なお、本件事実以外の他
の同種事実を本件証拠により確定し、これを本件業務性認定の資料とすることは、
これが確定前科である場合を除き明らかに不当である。)。」として、一審判決を
破棄して被告人を無罪とした。
 ところで、弁護士法七二条にいわゆる「業とする」とは、反覆継続して行う意思
のもとに同条列記の行為をすることをいうものと解されるところ、およそ、ある種
行為に対する反覆継続の意思の有無を認定するにあたつては、当該本人が同種行為
をどの程度行つているかを認定するに若くはないのであつて、それが適式な証拠調
に基づいて認定されるものである限り、起訴事実以外の被告人の同種行為の存在を
間接事実として右意思を認定することを妨げる理由は全くない。
 しかも、記録によれば、原判決のいう被告人と依頼者又は実質的受益者らとの人
間関係及び個々的な特殊事情をしんしゃくしたとしても、被告人の本件行為が「業
として」行われたものであることを認定することができるばかりでなく、原審にお
ける証拠調によつても第一審判決の認定を左右するに足りる新たな証拠を見いだし
得ないにもかかわらず、原判決がこれを否定したのは、証拠の許容性についての判
断を誤り証拠によつて認められる被告人の多数回にわたる同種の行為を右認定の資
料とはなし得ないとした結果、事実を誤認したものであることが、明らかである。
そして、原判決の右判断の誤りは判決に影響を及ぼし、原判決を破棄しなければ著
しく正義に反するものと認められる。
 よつて、刑訴法四一一条一号、三号により原判決を全部破棄し、当裁判所と判断
を同じくする第一審判決はこれを維持すべきものであつて被告人の控訴は理由がな
いから、同法四一三条但書、三九六条によりこれを棄却し、同法一八一条一項本文
により原審の訴訟費用は被告人の負担とし、主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官全員一致の意見によるものである。
 検察官大堀誠一 公判出席
  昭和五一年三月二三日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    天   野   武   一
            裁判官    坂   本   吉   勝
            裁判官    高   辻   正   己
            裁判官    服   部   高   顯

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