弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を懲役5年に処する。
未決勾留日数中270日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
第1被告人は,A(当時3歳)及びB(当時1歳)の実母として両名を保護す
る責任のあったもの,Cは,平成28年3月頃から被告人,A及びBと頻繁に昼夜行
動をともにするなどして,被告人とともにA及びBを保護する責任のあったもので
あるが,被告人及びCは,A及びBを自動車内に置き去りにした上で引き続き放置
したままホテルで過ごそうと考え,共謀の上,同年4月23日午前1時44分頃,大阪
市平野区所在の駐車場において,同所に駐車した自動車内にA及びBを置き去りに
して遺棄するとともに,引き続き,同日午後0時9分頃までの間,A及びBを上記
自動車内に放置して生存に必要な保護をせず,よってその頃,Bを熱中症により死
亡させ,
第2被告人は,Cと共謀の上,同日頃,同区所在の立体駐車場において,Bの
死体をクーラーボックス内に隠匿し,もって死体を遺棄した。
(事実認定の補足説明)
1争点等
弁護人は,判示第1の行為に関し,①A及びB(以下「Aら」という。)を自動
車内に置き去りにし,そのまま放置しても,Aらの生命等にある程度具体的な危険
は生じず,保護責任者遺棄罪,同致死罪の遺棄,不保護に該当しない,②被告人に
は,上記置き去り等によってAらの生命等にある程度具体的な危険が生じるとの認
識がなく,遺棄,不保護の故意がないから,被告人には保護責任者遺棄罪,同致死
罪が成立しないと主張する。
これに対し,当裁判所は,判示第1の行為につき被告人には保護責任者遺棄罪,
同致死罪の共同正犯が成立すると判断したので,以下,その理由を補足して説明す
る。
2Aらを置き去りにして放置した行為が遺棄及び不保護に当たるか否かについ
て(争点①)
被告人らは,本件当日午前1時44分頃,Aらを自動車内に置き去りにし,その後
同日午後0時9分頃まで10時間以上にわたり放置したところ,その間,日射等によ
り車内温度が上昇した結果,Bが重度の熱中症により死亡し,Aも,被告人らが自
動車に戻った時,Cが頭から水をかけるほど汗をかくなどしており,程度はともか
く熱中症を発症していたと認められることからすると,上記の置き去り及び放置行
為によってAらには重度の熱中症を発症し死亡する危険が生じていたことは明らか
である。
また,Aらの年齢に照らすと,10時間以上にわたりAらを二人きりで車内に放置
することによって,Aらには,被告人らが車内に置いたドーナツやその包装袋等の
異物をそれぞれ喉に詰まらせたり口に入れたりすることなどによる生命に対する危
険も生じていたものと認められる(この危険性はD供述をまつまでもなく認められ
る。)。
よって,Aらには,重度の熱中症,飲食物の誤嚥及び異物の誤飲等によりその生
命等にある程度具体的な危険が生じていたと認められるから,本件の置き去り及び
放置行為は,保護責任者遺棄罪,同致死罪の遺棄及び不保護に当たる。
3被告人に遺棄及び不保護の故意が認められるか否かについて(争点②)
被告人らは,本件以前にも複数回,Aらを自動車内に置き去りにしてホテルに宿
泊し,昼前後まで10時間以上にわたり放置したことがあるから,本件当日も,被告
人は,Cとホテルに行くためAらを置き去りにする際,ホテルを出て自動車に戻っ
てくるのが10時間以上後の昼前後になり得ることも当然に想定していたと認められ
る(この点,被告人は,本件当日はもっと早くAらのもとに戻れると思っていた旨
供述するが,そのように考えた具体的根拠を示していない。)。
そこで,これを前提に,まず被告人における熱中症の危険の認識について検討す
ると,本件の直前期は日によって約20ないし25度まで気温が上がることがあり,被
告人も本件前日などには日中半袖Tシャツを着て過ごすなどしていたこと,本件の
数日前にも,被告人らが深夜から昼前まで10時間以上にわたりAらを本件と同じ駐
車場に駐車した自動車内に放置した際に,被告人らが自動車に戻ると,車内にいた
にすぎないはずのAらが汗をかいていたことが少なくとも1回はあったこと等から
すれば,被告人は,本件当日Aらを自動車内に置き去りにする際にも,たとえその
時点では気温が低かったとしても,天候次第では,それから10時間程度が経過した
昼前後までの間に気温が上昇し,日射等により車内温度がかなり高くなる可能性が
あることを認識していたと認められる。そして,本件当時が熱中症の多発する夏場
ではないことを考慮しても,被告人としては,常識的に考えて,体力が不十分で,
かつ状況に応じた対処方法も取れないAらをそのような高温状況下に一定時間放置
することにより,Aらが熱中症を発症してその生命等にある程度具体的な危険が生
じるかもしれないことをそれなりには認識していたものと認められる。
また,飲食物の誤嚥や異物の誤飲等による危険についても,被告人はAらの成育
状況等を十分把握していたのであるから,その危険があるかもしれないという程度
のことは認識していたと認められる(被告人が灰皿を車外に出したことがその認識
を否定する事情にはならない。)。
以上によれば,被告人は,本件当日,自動車内への置き去り及び放置行為によ
り,Aらに対し,重度の熱中症,飲食物の誤嚥及び異物の誤飲等によりその生命等
にある程度具体的な危険が生じるかもしれないことをそれなりには認識しつつ,A
らを置き去りにして放置したと認められるから,被告人には遺棄及び不保護の故意
があったと認められる。
4まとめ
以上によれば,判示第1の行為につき,被告人には保護責任者遺棄罪,同致死罪
の共同正犯が成立する。
(法令の適用)
1被告人の
判示第1の所為のうち
ア保護責任者遺棄の点は包括して刑法60条,218条に該当し,
イ保護責任者遺棄致死の点は包括して刑法60条,219条(218条)に該当するの
で,同法10条により同法218条所定の刑と同法205条所定の刑とを比較し,重い傷害
致死罪の刑により処断し,
判示第2の所為は刑法60条,190条にそれぞれ該当するところ,
2判示第1の所為は,1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,刑法
54条1項前段,10条により,1罪として重い保護責任者遺棄致死罪の刑で処断し,
3以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により,重い
判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重をし,
4その刑期の範囲内で被告人を懲役5年に処し,
5刑法21条を適用して未決勾留日数中270日をその刑に算入し,
6訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して,被告人に負担させ
ないこととする。
(量刑の理由)
まず,量刑判断の中心となる保護責任者遺棄,同致死についてみると,被告人ら
は,3歳と1歳の幼少の子らを密閉された自動車内に置き去りにし,正午過ぎまで
の10時間以上にわたって放置しており,犯行態様は危険で悪質なものである。ま
た,被告人らは,近くのホテルに宿泊するなどするために本件行為を行い,それ自
体は従前から被告人に対して優越的立場にあったCが主導したものというべきであ
るが,被告人も,実母として第一義的にAらの生命等を保護すべき立場にありなが
ら,その生命等の安全を顧みず安易にCの意向に従った点で,相応に強く非難され
るべきである。もっとも,本件の季節等に照らし,被告人らが熱中症発症の危険を
明確に認識できたとまではいえないことは,量刑上考慮する必要がある。また,A
らの検診の受診状況等からも,被告人が従前から育児を放棄していたような状況は
見て取れないし,本件はすでに衰弱していて積極的な医療措置を要する状態にあっ
た要保護者を置き去りにしたような事案でもない。
なお,被告人は,Cがなりすました架空の男性と出会い系サイトで知り合って恋
愛感情を抱き,架空男性の誘いをきっかけに本件の約1か月前ころ実家を離れAら
を連れて車上生活に入り,架空男性から頼りにしている義弟として紹介されたCと
昼夜を問わず行動をともにするようになったが,Cが暴力団関係者であるとする架
空男性及びC本人の話や,Cの粗暴な言動等から,Cを恐れ,その意に従った行動
を取るようになっていた中で,本件犯行に至ったものと認められる。しかし,被告
人が,Bや自らがCから暴力を振るわれるようになった後もCから離れず,本件で
Cの意に従ってAらを自動車内に置き去りにするなどしたのは,結局のところ,A
らの実母としての保護責任よりも架空男性との関係を優先したためであるから,上
記のとおり被告人がCから騙され,Cを恐れていたことは,量刑を大きく左右する
事情とはいえない。
次に,死体遺棄についても,犯情は軽視できない。
以上のような事情からすれば,本件全体の犯情評価は,子に対する保護責任者遺
棄致死の類型において中程度ないしやや軽い部類のものに相当するというべきであ
る。
そこで,以上の事情を中心にしつつ,被告人は本件以前からしばしばAらを自動
車内に長時間放置するなど,子の生命等の安全をめぐる規範意識にやや根深い問題
があるとうかがわれること,他方,被告人には,事実経過自体はおおむね認めるな
ど本件をある程度反省している様子がうかがわれること,前科前歴がないこと,被
告人の母親が出廷の上,今後も被告人を支援していく旨を述べていること等も踏ま
え,被告人を主文の刑に処するのが相当と判断した。
(求刑-懲役6年)
平成30年7月25日
大阪地方裁判所第15刑事部
裁判長裁判官増田啓祐
裁判官小畑和彦
裁判官新谷真梨

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