弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一、被申請人は申請人らに対しそれぞれ
1 別紙目録(一)記載の金員を支払え。
2 昭和四五年八月一日以降毎月二五日限り別紙目録(二)記載の金員を支払え。
二、申請人らのその余の申請を却下する。
三、申請費用は被申請人の負担とする。
       理   由
第一、当事者双方の求める裁判
 申請人ら代理人は、「被申請人は申請人らに対しそれぞれ1別紙目録(三)記載
の金員を支払え。2昭和四五年八月一日以降毎月二五日限り別紙目録(四)記載の
金員を支払え。」との裁判を求めた。
 被申請人代理人は「申請人らの本件申請はいずれもこれを却下する。申請費用は
申請人らの負担とする。」との裁判を求めた。
第二、申請理由の要旨
 申請人ら代理人は「1被申請人は肩書地に本社を置きテレビラジオの放送事業を
営む株式会社であり、申請人らはいずれも、被申請人に雇用されて被申請人の本社
事業場に勤務していた従業員であり、被申請人の従業員により組織されている高知
放送労働組合(以下「組合」と略称する。)の組合員であつたが、被申請人は、昭
和四一年九月三日付で、申請人a、同b、同c、同dに対し、右申請人ら四名が昭
和四一年の春季闘争において違法な争議行為を行なつたとし、それが就業規則第三
三条第六号に違反し、同第四八条第一号、第三号等に該当するとして解雇の意思表
示をなし、また昭和四二年四月二二日付で、申請人eに対し、同申請人が同年二月
二二日および同年三月七日の両夜、アナウンス担当員として宿直勤務についていた
にもかかわらず、いずれもその翌朝寝すごして午前六時からのラジオ放送の全部ま
たは一部ができなかつたことにつき、それが就業規則第四八条第一、二、四、六の
各号に該当するとして解雇の意思表示をした。申請人a、同b、同c、同dは、被
申請人がなした右解雇の処分を不当として同年九月一三日高知地方裁判所に従業員
地位保全の仮処分命令を申請(同裁判所同年(ヨ)第一七五号事件)したところ、
同裁判所は昭和四三年七月三日右申請人ら四名がいずれも被申請人に対して雇用契
約上の権利を有する地位を仮に定め、かつ被申請人に対しそれぞれの平均賃金の支
払を命ずる旨の判決をした。そこで、被申請人は右判決を不服として高松高等裁判
所に控訴したが、昭和四四年九月四日同高等裁判所においても控訴棄却の判決がな
されたので、更に最高裁判所に特別上告し、該事件は目下最高裁判所に係属中であ
る。また、申請人eも被申請人のなした前記解雇の処分を不当として昭和四二年六
月三日高知地方裁判所に従業員地位保全の仮処分命令を申請(同裁判所同年(ヨ)
第七五号事件)したところ、同年一二月八日同地方裁判所は、同申請人が被申請人
に対し雇用契約上の権利を有する地位を仮に定め、かつ被申請人に対し平均賃金の
支払を命ずる旨の判決をした。そこで、被申請人は右判決を不服として高松高等裁
判所に控訴したが、昭和四三年七月一六日同高等裁判所においても控訴棄却の判決
がなされたので、更に最高裁判所に特別上告し、該事件は目下最高裁判所に係属中
である。2被申請人の申請人らに対する解雇の意思表示は、口頭弁論を開き審理さ
れた前記各仮処分事件において、いずれも解雇権の濫用に当るものとして無効であ
ると認定されている。ところで、申請人らは、それぞれ前記各仮処分命令が発せら
れた後は、被申請人より解雇の意思表示を受けた各時点における平均賃金の支払を
受けて現在に至つているが、本件各解雇がなされずに被申請人会社の従業員として
勤務していたならば他の従業員と同様毎年のベースアツプ、定期昇給、毎年夏季・
冬季の二回にわたる各臨時手当の支給を受けることができたはずである。そして異
常な物価の高騰および子女の成長に伴う生活費、学費等の支出増の中で、本来基本
賃金を補うための生活補助的性格を有し賃金の後払いと解される一時金の支給もな
く、三年ないし四年前の賃金額のみでは到底生活を維持することができず、家計は
赤字に悩み労働金庫や親族、友人らからの多額の借金によりようやく生計を糊塗し
て来たのであるが、これ以上金策の途もないうえこれまでの借入金についても借入
先から返済を迫られている状況であつて、その生活は極めて逼迫しており、既に申
請人らは回復しがたい重大な損害を蒙る状態にまで立ち至つている。よつて各解雇
時より現在に至るまでの間において申請人らが得べかりし右ベースアツプを含む賃
金額および各季の一時金の合計額から前記仮処分命令により現実に支払をうけてき
た賃金額を控除した差額分ならびに申請人らが解雇されなかつたら支給されるもの
と推定される現在における賃金額のうち前記仮処分命令により仮払を命ぜられてい
る賃金額を超過する部分の本案判決確定に至るまでの支払を求めるため申請の趣旨
記載の仮処分命令を求めるため本件申請に及んだ。」と主張する。
第三、当事者間に争いのない事実
 前掲申請理由の要旨記載のうち、1記載の事実および、前記各仮処分事件がいず
れも口頭弁論を開いて審理され、被申請人の申請人らに対する解雇の意思表示がい
ずれも解雇権の濫用に当るものとして無効と認定されたこと、および申請人らがい
ずれも右仮処分命令が発せられた後は解雇の意思表示を受けた各時点における平均
賃金の支払を受けて現在に至つていることは、当事者間に争いのない事実である。
第四、当裁判所の判断
一、被保全権利について
 申請人らの提出にかかる疎明によれば、申請人らが主張するように、被申請人か
ら申請人らに対してなされた前示各解雇の意思表示はいずれもその効力がなく、申
請人らは引続き被申請人の従業員たる地位を有するものと一応認めることができる
から、申請人らは被申請人から当然に賃金(基本給に諸手当を加算したもの)なら
びに各季の一時金の支払を受ける権利を有するといわなければならない。そして、
地位保全のごとき相手方の任意の履行に期待する仮処分命令には執行力がないが、
右仮処分命令も裁判である以上当事者間に有効なものとして妥当するものといわな
ければならない。従つて、地位保全の仮処分命令の内容としては解雇された従業員
が、解雇当時の労働条件に従つて待遇されるべきは当然のことであるのみならず、
同種の一般従業員につき賃金その他の労働条件の改訂が行われた場合には、その改
訂された条件に従つて待遇されなければならないとの趣旨をも内含していると解す
べきが相当である。
 ところで、被申請人は、昇給についてはその昇給期の直前六ケ月以上、一時金に
ついては夏季一時金の場合は前年の一〇月一日からその年の三月末日まで、冬季一
時金の場合はその年の四月一日から九月末日まで、それぞれ勤務した者に限り、昇
給がなされたり各季一時金が支給されるべきものであるところ、申請人らはいずれ
もその主張する昇給ならびに一時金については右に述べたような必要期間の勤務を
していないから、その請求権がない旨主張する。なるほど、被申請人提出の疎明に
よれば、被申請人の右主張に副うような昇給協定書ならびに賞与規程の条項がある
ことが一応認められるけれども、申請人らがいずれも被申請人に対して一応従業員
としての雇傭契約上の地位を有するものとされているものでありながら、現実に勤
務についていないのは、申請人ら提出の疎明によれば、申請人らが就労を希望し常
に労働力を提供する態勢にあるにもかかわらず、被申請人がかたくなに申請人らの
就労を拒んでいることによるものであることが一応認められるのであり、かかる事
情に由来する以上、申請人らはいずれも現実に勤務についたと同視されるべきが相
当であつて、申請人らが前記賃金協定書ならびに昇給規程にいう「勤務をしていな
い者」に該当するということは当を得ないというべきであるから、被申請人の右主
張は理由がない。
 さらに被申請人は、労働契約の内容をなす賃金の変更であるベースアップとか一
時金の支給は使用者と当該労働者との間のこれに関する契約もしくは使用者とその
労働者の所属する労働組合との間の労働協約の成立が必要であるにもかかわらず、
被申請人は申請人らのベースアップや一時金の支給に関しては申請人らとの間の契
約はもとより組合との間の協約も締結していないから申請人らにはこのような請求
権がないと主張する。そして申請人ら提出の疎明によれば、被申請人と組合との間
において、昭和四二年九月二一日に同年夏季賞与に関し、同年一二月一一日に同年
々末賞与に関し、昭和四三年四月二四日に同年度の昇給に関し、同年六月二九日に
同年夏季賞与に関し、同年一二月一八日に同年々末賞与に関し、昭和四四年五月七
日に同年度昇給に関し、同年六月三〇日に同年夏季賞与に関し、同年一二月一五日
に同年々末賞与に関し、昭和四五年五月二五日に同年度昇給に関し、同年六月二六
日に同年夏季賞与に関しそれぞれ協定が結ばれ協定書が作成されていることが一応
認められるが、申請人らが高知放送労働組合の組合員であり、一応被申請人の従業
員としての地位にある者といえる以上、申請人らに対しても右労働協約の効力は及
ぶものというべきである。もつとも、昭和四二年度の昇給については労働協約は成
立せず、個々に契約が結ばれ、申請人らに関してはその契約がなされなかつたこと
が疎明されているところであるけれども、そもそも賃金の変更につき使用者と当該
労働者との間でこれに関する契約をなすことを必要とするのは労働者の利益を保護
する趣旨に出たものであると解せられるから、何ら労働者に不利な条件の付加され
ない賃金の増額のごときは、使用者の意思表示があれば労働者から異議のない以上
黙示の承諾があつたと認めてしかるべきであるから、被申請人の右主張もまた理由
がない。
 そこで昇給および一時金の算定方法ならびに数額につき順次検討する。
 申請人ら提出の疎明によれば、申請人aらが解雇された昭和四一年九月三日から
昭和四五年七月三一日までの間に被申請人会社における賃金昇給および一時金の支
給期ならびにその算定方式が別紙目録(五)記載のとおりであること、申請人らの
解雇当時の基本給が申請人aは金三八、四六八円、同bは金三四、三二七円、同c
は金二五、五四二円、同dは金二六、三三八円、同eは金二二、八〇〇円であつた
こと、当時申請人aは家族手当として金四、六〇〇円(妻金二、二〇〇円、子供二
人各金一、二〇〇円)を、同bは家族手当として金三、四〇〇円(妻金二、二〇〇
円、子供金一、二〇〇円)を、同cは資格手当として金一、〇〇〇円をそれぞれ受
けていたこと、昭和四二年から申請人aおよび同bの妻はいずれも就職しているこ
と、申請人eが昭和四四年一一月三日に結婚し昭和四五年七月六日長女が出生しそ
の家族手当は妻が金二、二〇〇円、子供が金一、二〇〇円であることが一応認めら
れる。
 そして賃金の昇給分ならびに一時金の額の中にはいずれも被申請人が過去におけ
る従業員各人の勤務実績、労働能率などを勘案して決定する査定部分があり、その
査定による区分は上位からA、B、C、D、E、またはA、A′、B、B′、C、
C′、D、D′、Eの順で査定部分の金額が定められていることが申請人ら提出の
疎明により一応認められるが、申請人らに関する査定がその主張するように平均の
Cであることについては疎明がないから、すべての従業員に一応保障されていると
みられる査定区分であるEの限度において疎明があつたものと認めるべきである。
 そして以上に述べたところに基づき申請人らの昭和四二年四月一日、昭和四三年
四月一日、昭和四四年四月一日および昭和四五年四月一日の各現在における基本給
の額ならびに昭和四二年四月一日から昭和四五年七月三一日まで(ただし申請人e
については昭和四二年五月一日から昭和四五年七月三一日までー同申請人は右期間
の昇給分しか請求していないー)の昇給分の合計額は別紙目録(六)記載のとおり
計算され、また各季別一時金の金額とその総額は別紙目録(七)記載のとおり計算
される。
 しかして次に昭和四五年八月一日現在における申請人らの賃金すなわち基本給に
各種手当を加算し現実に支払われるべき金額について、本件にあらわれた疎明なら
びに前叙計算したところを斟酌し考察するに、申請人aについては、その基本給金
六一、一三三円に、扶養家族が母と二子であるから家族手当金三、〇〇〇円を加算
すると金六四、一三三円となり、申請人bについては、その基本給金五六、〇四五
円に、扶養家族が一子であるから家族手当金一、二〇〇円を加算すると金五七、二
四五円となり、申請人cについては、その基本給金四五、二五三円に資格手当金
一、〇〇〇円を加算すると金四六、二五三円となり、申請人dについては、扶養家
族がないからその基本給金四六、二三〇円がそのまま賃金額となり、申請人eにつ
いては、その基本給金四一、八八三円に、扶養家族が妻と一子であるから家族手当
金三、四〇〇円を加算すると金四五、二八三円となる。なお申請人eは、前述のよ
うに昭和四四年一一月に結婚し、昭和四五年七月に一子を儲けて、これら妻子を扶
養しているから、妻には月額金二、二〇〇円、子には月額金一、二〇〇円の家族手
当が支給されるべきであるが、昭和四五年七月三一日までの分の支給を受けておら
ず、この額は合計金二一、〇〇〇円となる。
二、保全の必要性について
(一) 申請人ら提出の疎明によれば次のような事実が一応認められる。
1 申請人aは妻と子供二人、母、姪の六人家族であるが、その生活費としては毎
月少くとも金六九、〇〇〇円の支出を要している実情にあるところ、同申請人が被
申請人から支払を受けている金四三、〇六八円から健康保険料約金二、〇〇〇円、
失業保険料金二五〇円、組合費金一、六〇〇円、労働金庫への返済金一〇、八〇〇
円を差引いた金三〇、〇〇〇円足らずの金額に昭和四二年から妻fが三里保育園に
保母として勤務して毎月受ける賃金三一、七七一円(手取額)をあわせても前記経
常的な生活費をまかなうことができず、毎月の家計の赤字は妻が勤務先から支給さ
れる賞与(年額金七〇、〇〇〇円程度)と組合や労働金庫からの借入金で補填する
などして辛うじて生計を維持している状態であり、現在組合に対し金二四七、〇〇
〇円、失業保険返済金未払分金二三八、〇〇〇円、健康保険返済金未払分七四、七
〇〇円、労働金庫に対し金四〇〇、〇〇〇円、友人らに対し金四〇、〇〇〇円程度
の債務を負担している。
2 申請人bは妻と子供一人の三人家族であるが、その生活費としては毎月少くと
も金五六、六九八円の支出を要している実情にあるところ、同申請人が被申請人か
ら支払を受けている金三七、七二七円から健康保険金、厚生年金保険金、失業保険
金、組合費などを差引いた金三三、〇〇〇円のみでは一家の生計を維持することは
できず、昭和四二年から就職した妻gが得る月額金二五、〇〇〇円の賃金をあわせ
て不足勝ちながらも漸く生計を維持しており、現在組合から金二六七、〇〇〇円、
労働金庫から金二三〇、〇〇〇円友人から金八〇、〇〇〇円、姉と妹から合計金一
〇〇、〇〇〇円を借り受け、住民税未払分金一七、〇〇〇円、失業保険仮受給分未
払金二三七、三〇〇円、健康保険金未払分金六〇、〇〇〇円等の債務を負担してい
る。
3 申請人cは二九才の未婚の青年であるが、その生活費としては毎月金二八、九
九七円程度の支出(組合費金一、〇五〇円、社会保険料金一、八八七円を含む)を
要している実情にあるところ、被申請人から支払を受けている賃金二六、五四二円
では右支出をまかなうことができず、毎月金二、四〇〇円ないし二、五〇〇円程度
の支出増となつているのであつて、その家計の赤字は同申請人が本件解雇以前に貯
えていた金額一〇〇、〇〇〇円程の預金を逐次引き出して補填していたがそれも既
に枯渇したので組合から生活資金の貸付を受けるなどしてまかなつて来たものであ
り、現在組合からの生活資金貸付金一八七、〇〇〇円、失業保険金仮受給金未払分
金一五五、四〇〇円、健康保険料、厚生年金保険料の未払分金四三、二一五円、住
民税未納金一五、〇〇〇円位、所得税未納金一〇、〇〇〇円位の合計約金四〇三、
六一五円の債務を負担している。
4 申請人dは現在妻と二人家族であるが、妻は懐姙しており近々分娩の予定であ
るところ、同申請人は被申請人から支払を受けている金二六、三三八円から社会保
険料、労働金庫返済金、組合費等を控除した金額二〇、七八一円で従来生計を維持
して来ていたものである。ところで昭和四五年三月二八日に結婚して以来生活費は
月額金五三、三九六円程度を要しており、妻が三里保育園に保母として勤務して支
給されている賃金二七、一八六円(手取額)をあわせても右経常的な生活費を支弁
するに足りず、家計の赤字は妻が結婚前に貯えていた預金を逐次引き出して補填し
たり同女の受ける賞与や他からの借金で補填しているが、今日においては妻の受け
る僅かな右賞与を除いては補填の資源も枯渇している状況である。そして現在組合
からの借入金二六六、〇〇〇円、失業保険金仮受給金未払分金一七二、二〇〇円、
健康保険厚生年金保険金未払分金四三、三三五円、住民税未納分金一七、〇〇〇
円、労働金庫からの借入金二五、〇〇〇円、友人や親戚からの借入金一二〇、〇〇
〇円の合計金六四三、五三五円の債務を負担している。
5 申請人eは妻と子供一人および父の四人家族であつて、月額金六二、五九〇円
程度の生活費(ただし、労働金庫への返済金四、〇〇〇円および組合費金九四〇円
を含む)を要するのであるが、子供の成長に伴う生計費の増加は必然的であるにも
かかわらず、同申請人が被申請人から支払を受けている賃金は金三四、〇九五円で
あつて、それから健康保険金、厚生年金保険金等の掛金、および住民税の合計金
二、三四二円を差引くと金三一、七五三円になるのであるが、これに父から受ける
月額金一八、〇〇〇円の生活費の分担金と妻hの実家から援助を受けている月額金
五、〇〇〇円を加えても前記経常的な生活費を支弁するに足りず、家計の赤字は組
合からの生活借入金や妻が結婚前に貯えていた預金を引き出して補填してきたもの
であり、現在、組合に対し金二〇〇、〇〇〇円の債務を負担している。
6 申請人a、同b、同d、同cに対しては、昭和四三年六月まで民間放送労働組
合連合会から一人当り毎月金五、〇〇〇円の給付金が交付されていたが、同年七月
になされた前記仮処分判決に基づき被申請人より遡つて賃金の支払を受けた際、こ
れを失業保険仮受給分ならびに組合からの生活資金の貸付金(民間放送労働組合連
合会の貸付金を含む)の返済にあてるため一たん組合にあずけたが、組合資金の枯
渇のため、組合からの貸付金の弁済に充当し、失業保険仮受給分は未払いの状態と
なつた。
(二) そこで、申請人らが昭和四五年八月一日以降毎月支払を求める部分の必要
性について判断する。
 申請人らおよび被申請人の提出にかかる疎明によれば、高知県の消費者物価指数
は昭和四〇年度を一〇〇とした場合、総合指数で昭和四五年四月には一三三・九
一、食料品で昭和四五年四月には一四一となつており、毎年数パーセントの上昇率
を示していること、昭和四四年四月の高知市における世帯標準生計費(人事委員会
算出)は世帯人員一人で金二〇、二四〇円、二人で金三七、九〇〇円、三人で金五
〇、一一〇円、四人で金五八、八八〇円、五人で金六三、九九〇円であるが、右物
価上昇率を考慮して比較すると、申請人cを除く各申請人についての前記認定の生
計費はいずれも右標準生計費を下廻つていること、総理府統計局作成の家計調査報
告では昭和四五年二月当時の高知市における勤労者世帯の平均家計は世帯人員三・
六人に対し実収入金八五、三四〇円、実支出金八三、八〇八円という数値が示され
ていることが一応認められる。
 そして、現今のわが国における経済状態のもとでは、物価の高騰にともない労働
者の賃金もかなり短期間に上昇していることは顕著な事実であるが、物価の高騰が
先行し賃金の上昇がその後を追う傾向にあることも周知の事実である。さらに申請
人らが右物価の高騰による支出増加の上に扶養家族の増加や子女の成長に伴う生活
費、学費の支出増を余儀なくされている状況にあることがうかがわれる。また前記
標準生計費の数値を仔細に検討すれば、標準生計費はむしろ最低限度の生活を維持
するのに要する費用というべきものであり、その数値の範囲内にある申請人らの家
計は勿論のこと、範囲外にある申請人cの生計費についても極めてきりつめたもの
であるといわざるをえない。
 そして生活の困難さは当該労働者の職業、経歴、地位、年令等を勘案して認定さ
れるべきところ、被申請人が高知市における有力企業であり、その従業員たる申請
人らの地位および社内における勤務年月(申請人eを除き一〇年以上)等を考慮す
ると、申請人らは本来いずれも高知市における平均勤労者世帯を上廻る生活を営む
ことのできる者であることが容易に推測できるのである。ところが、現在より四年
前(申請人eについては三年前で家族手当を含まないもの)の賃金しか支払われて
いない申請人らおよびその家族の生活は前記認定したように極めて困難な状態に立
ち至つていることが一応認められるのであり、しかも今後とも被申請人が申請人ら
の就労を拒みつづける可能性が大きく、従つて一時金や昇給分の給付につき任意の
履行の見込のない以上、さきに認定した昭和四五年八月一日現在の賃金額から前記
仮処分判決により仮払いを受けている金員を控除した残額全部(別紙目録(二)記
載の金額)について今後の支払を命ずる必要性を肯定するに充分であるといわざる
をえない。
 なお、被申請人a、同b、同dについてはそれぞれの妻の、申請人eについて
は、その父の収入も考慮に入れた上で必要性を判断すべきであると主張するけれど
も、右各申請人の妻の収入はいずれもそれのみで生計を維持するに足るものではな
く、共稼ぎをするようになつた経緯に鑑みると右各申請人らが被申請人から仮払い
を受ける賃金をもつて営む生計を補う意味を有するにすぎず、申請人eの父の場合
は本来別個に営まれるべき二ツの家計がたまたま同一世帯で営まれているにすぎな
いとみるべきであつて、生活扶助の義務も仮払いの必要性の判断に先行するものと
は考えられないから、右保全の必要性の判断に何らの影響を及ぼすものではなく、
被申請人の主張は採用できない。
(三) 次に本件申請のうち過去における賃金改訂による差額分および一時金の遡
及支払を命ずる仮処分の必要性について検討する。
 申請人らは前記認定のように極めて困難な生活状況におかれており妻の共稼ぎな
どによつてもこれを補えず、組合および労働金庫等からの借入金で辛うじてその生
活を維持して来たものの負債は多額にのぼつているのである。
 わが国においては一般労働者に支払われるいわゆる賞与等の一時金は使用者から
恩恵的儀礼的に与えられているものではなく、また企業利潤の分配というもののみ
でもなく、基本賃金を補うための臨時の生活補助的な性格を強くする賃金の後払い
ともいうべきものであり、家族手当を含む毎月の賃金はその月の通常生活費をまか
なうだけのものであると考えられるから、被申請人より前記賃金改訂による差額分
の給付を将来にわたつて毎月支給されても、一家の生計を維持するに必要な程度に
とどまり、余剰を生ずる余地はないものというべく、かつこれまで一時金の支給が
ないのは勿論のこと、三ないし四年前の賃金の支給で生活を維持せざるをえなかつ
た申請人らの家計には相当なひずみが生じているものといわざるをえない。
 よつてこれら諸般の事情を併せ考えるとき、申請人らに対しそれぞれ過去におけ
る賃金改訂による差額分ならびに一時金の遡及支払の必要性を肯定することができ
るものというべきである。
 なお、被申請人は所得税法、地方税法、失業保険法、健康保険法、厚生年金法に
基づく税金ならびに保険金については賃金より控除する権利があるから、それを控
除した金額についての支払を命ずべきであると主張するので付言するに、使用者が
従業員に対し賃金を支払うのは従業員との間に結ばれたところの労働力の提供と賃
金の支払とを対価関係に立たしめる契約の履行という私法上の法律関係に基づくも
のであり、この理はたとえ裁判によつて給付を命じられるような場合であつても同
様である。一方使用者が従業員の賃金から保険料や税金を控除し関係機関に納付し
ているのは本来従業員が申告し納税すべき義務を負うにもかかわらず特に国策上徴
税の確実を期して賃金の支払をなす使用者をして賃金の中から徴収させ(所得税法
第六条参照)、あるいは使用者が賃金に見合う保険料を関係機関に納付すべき義務
を有するから(厚生年金保険法第八二条二項、失業保険法第三四条、健康保険法第
七七条参照)、賃金の中から特に従業員の負担すべき保険料相当額を控除すること
が許されているにすぎない(厚生年金保険法第八四条一項、失業保険法第三三条、
健康保険法第七八条参照)。いずれにしてもそれは使用者と従業員との法律関係に
基づくものではなく公法上使用者が負担する義務の履行に由来するいわば反射的権
利とでもいうべきものであるから、私法上の権利義務関係の確認に基づく給付命令
の内容に何らの影響をもたらすものではなく、使用者は支払を命じられた金員の中
から当然に保険料および税金相当額を控除することができるものと解される。
 よつて本件仮処分申請は別紙目録(一)および(二)記載の金額の限度において
は理由があるので無保証でこれを認容することとし、その余の申請部分は理由がな
いのでこれを却下することとし申請費用については民事訴訟法第八九条、第九二
条、但書に則り主文のとおり決定する。
(裁判官 安藤保壽 井筒宏成 小野聡子)
(別紙)
目録 (一)
<17881-001>
目録 (二)
<17881-002>
目録 (三)
<17881-003>
目録 (四)
<17881-004>
目録(五)~(七) (省略)

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〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
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職種 事務職
時給 当社規定による
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