弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人らの負担とする。
         理    由
 上告代理人青木義人(名義)、同日浦人司、同奈良崎隆一、同大塚悟、同大神哲
成の上告理由について。
 一、論旨は、要するに、原判決が、利息制限法による制限超過の利息・損害金に
ついては、たとえ約定の履行期が到来しても、現実に収受されないかぎり、課税の
対象となるべき所得にあたらないとしたのは、昭和四〇年法律第三三号による改正
前の所得税法(昭和二二年法律第二七号、以下、旧所得税法という。)一〇条一項
(上告理由中二項とあるのは一項の誤記と認める。)にいう「収入すべき金額」の
解釈を誤つた違法がある、というに帰着する。したがつて、本件における直接の論
点は、制限超過の利息・損害金のうち未収のものに対する課税の許否に限られるこ
ととなるのであるが、問題の発端は利息制限法の解釈にあり、また、論旨は、原判
示のごとき解釈は徴税の実際に適しないとして、その不当を攻撃するところがある
ので、制限超過の利息・損害金が前記にいわゆる「収入すべき金額」として課税の
対象となるか否かについて、現実に収受された場合と未収の場合との両者を含めて、
以下に考察することとする。
 二、現実に収受された場合について。
 利息制限法による制限超過の利息・損害金の支払がなされても、その支払は弁済
の効力を生ぜず、制限超過部分は、民法四九一条により残存元本に充当されるもの
と解すべきことは、当裁判所の判例とするところであつて(昭和三五年(オ)第一
一五一号同三九年一一月一八日大法廷判決、民集一八巻九号一八六八頁)、これに
よると、約定の利息・損害金の支払がなされても、制限超過部分に関するかぎり、
法律上は元本の回収にほかならず、したがつて、所得を構成しないもののように見
える。
 しかし、課税の対象となるべき所得を構成するか否かは、必ずしも、その法律的
性質いかんによつて決せられるものではない。当事者間において約定の利息・損害
金として授受され、貸主において当該制限超過部分が元本に充当されたものとして
処理することなく、依然として従前どおりの元本が残存するものとして取り扱つて
いる以上、制限超過部分をも含めて、現実に収受された約定の利息・損害金の全部
が貸主の所得として課税の対象となるものというべきである。もつとも、借主が約
定の利息・損害金の支払を継続し、その制限超過部分を元本に充当することにより、
計算上元本が完済となつたときは、その後に支払われた金員につき、借主が民法に
従い不当利得の返還を請求しうることは、当裁判所の判例とするところであつて(
昭和四一年(オ)第一二八一号同四三年一一月一三日大法廷判決、民集二二巻一二
号二五二六頁)、これによると、貸主は、いつたん制限超過の利息・損害金を収受
しても、法律上これを自己に保有しえないことがありうるが、そのことの故をもつ
て、現実に収受された超過部分が課税の対象となりえないものと解することはでき
ない。
 三、未収の場合について。
 一般に、金銭消費貸借上の利息・損害金債権については、その履行期が到来すれ
ば、現実にはなお未収の状態にあるとしても、旧所得税法一〇条一項にいう「収入
すべき金額」にあたるものとして、課税の対象となるべき所得を構成すると解され
るが、それは、特段の事情のないかぎり、収入実現の可能性が高度であると認めら
れるからであつて、これに対し、利息制限法による制限超過の利息・損害金は、そ
の基礎となる約定自体が無効であつて(前記各大法廷判決参照)、約定の履行期の
到来によつても、利息・損害金債権を生ずるに由なく、貸主は、ただ、借主が、大
法廷判決によつて確立された法理にもかかわらず、あえて法律の保護を求めること
なく、任意の支払を行なうかも知れないことを、事実上期待しうるにとどまるので
あつて、とうてい、収入実現の蓋然性があるものということはできず、したがつて、
制限超過の利息・損害金は、たとえ約定の履行期が到来しても、なお未収であるか
ぎり、旧所得税法一〇条一項にいう「収入すべき金額」に該当しないものというべ
きである(もつとも、これが現実に収受されたときは課税の対象となるべき所得を
構成すること、前述のとおりであつて、単に所得の帰属年度を異にする結果を齎す
にすぎないことに留意すべきである。)。
 論旨は、借主としては、たとえ制限超過の利息・損害金を支払う法律上の義務が
ないことを知つていても、可能なかぎりその支払をするのが通常であり、貸主とし
ても実際にこれを回収する可能性がきわめて高いといいうるとし、このことは、利
息制限法による規制にもかかわらず、同法所定の制限を超過する利息・損害金を約
定し収受する金融が後を断たず、かえつて、本件のごとく、いわゆる街の金融にお
いては、制限超過の利息・損害金を約定し収受するのが常態であり、その経営は制
限超過の利息・損害金収入を基礎として行なわれているという実情からも肯認でき
る旨を主張するが、制限超過の利息・損害金が約定されたからといつて、必ずしも、
これが履行されるものでないことは、本件に現われた事実関係に徴して明らかであ
り、この場合、貸主は、法律上その履行を強制するためのいかなる手段も有しない
のであつて、制限超過の利息・損害金についても、その支払のあるのが常態である
とする所論は、客観的な論証を欠くものというほかはない。
 四、以上によると、(1)借主が当初の約定に従い制限超過分を含めて利息・損害
金の支払をし、貸主がこれを収受した場合は、利息制限法による制限の範囲内であ
ると否とを問わず、これが課税の対象となるべき所得にあたるが、(2)約定の履行
期の属する年度内にその支払がない場合は、約定の利息・損害金のうち、法定の制
限内の部分のみが課税の対象となるべき所得にあたり、制限超過の部分はこれにあ
たらないこととなる(ただし、すでに制限超過の利息・損害金の支払がなされてい
るときは、前記大法廷判決の示す法理により、法律上当然に元本に充当されるから、
その残額についてのみ利息・損害金を生ずることとなるのであつて、利息・損害金
が法定の制限内なりや否やは、右の法律上有効に残存する元本を基準として算定さ
れなければならない。)。
 論旨は、制限超過利息について、これが現実に収受されたか否かにより所得にあ
たるか否かを決することは、徴税上、種々の不都合を伴うとして、かかる解釈を不
当であると主張する。しかし、法定の制限の内外を問わず、約定の履行期が到来し
た以上、未収のものを含めてすべて課税の対象となるというのは、画一的であつて
徴税に便利ではあろうが、法律上、貸主として履行強制のためのいかなる手段も有
しない制限超過の利息・損害金につき、単に約定の履行期が到来したというのみで
所得ありとすることは、制限超過部分についてもその支払のあるのが常態であると
する論証のないかぎり、究極的には実現された収支によつて齎される所得について
課税すべきであるという、課税上の基本原則に背馳するものというべきであり、ま
た、貸主が約定の利息・損害金を現実に収受したときは、さきに説示したとおり、
法定の制限の内外を問わず、これを課税の対象とすることができ、課税庁はその支
払をした借主によつてその事実を認定しうるのであつて、所論のように、貸主が約
定の利息・損害金を法定の制限の内外によつて区分し、かつ、正確な記帳をして、
一切の資料と計算を課税庁に提示しないかぎり、担税力ある貸金業者が事実上容易
に課税を免れる結果となるものということはできず、これを前提として、前記説示
の解釈を不当とする論旨は、とうてい採用し難いものというほかはない。
 五、以上により、原判決が、制限超過の利息・損害金については、約定の履行期
が到来しても、なお未収であるかぎり、旧所得税法一〇条一項にいう「収入すべき
金額」に該当せず、これが被課税所得を構成しないとした判断は正当で、原判決に
所論の違法はなく、論旨は、すべて採用できない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、
裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    関   根   小   郷

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