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平成16年(行ケ)第36号 審決取消請求事件
平成16年10月25日口頭弁論終結
     判    決
原 告 イーグル工業株式会社
 訴訟代理人弁護士 清永利亮,弁理士 櫻井義宏,高塚一郎
被 告 日本ピラー工業株式会社
 訴訟代理人弁理士 三木久巳
     主    文
 特許庁が無効2003-35066号事件について平成15年12月19日にし
た審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
     事実及び理由
 以下において,「および」は「及び」と統一して表記した。その他,引用箇所に
おいても公用文の表記に従った箇所がある。
第1 原告の求めた裁判
 主文第1項同旨の判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 被告が特許権者である本件特許第2055326号「軸封装置」に係る発明(請
求項1のみ。本件発明)についての出願は,平成4年2月26日の特許出願(特願
平4-39621号)に係り,平成7年7月26日に出願公告(特公平7-690
18号公報)がされた後,平成8年5月23日に特許の設定登録がされた。
 原告は,平成15年2月21日,本件発明の特許無効審判を請求したが(無効2
003-35066号),平成15年12月19日,審判請求不成立の審決があ
り,その謄本は平成16年1月7日原告に送達された。
 2 本件発明の要旨(特許請求の範囲を分節し,これに符号A~Fを付した。)
 A.シールケーシング(15)及びこれを洞貫する回転軸(16)の一方に第1
密封環(12,22)を固定保持すると共に他方に第1密封環(12,22)へと
押圧附勢させた第2密封環(13,23)を軸線方向摺動可能に保持させてなる2
組のメカニカルシール(11,21)により,
 B.両メカニカルシール(11,21)間に形成されたパージ流体領域(C)を
介して,被密封流体領域(A)と大気領域(B)とを遮蔽シールするように構成さ
れた軸封装置において,
 C.被密封流体領域(A)側の第1メカニカルシール(11)を第2密封環(1
3)に被密封流体領域(A)の流体圧力が背圧として作用する接触型シールに構成
すると共に,
 D.大気領域(B)側の第2メカニカルシール(21)を,第2密封環(23)
にパージ流体領域(C)の流体圧力が背圧として作用する非接触型シールに構成
し,
 E.かつパージ流体領域(C)に被密封流体より低圧の窒素ガス等のパージガス
(G)を注入させたことを特徴とする
 F.軸封装置。
 3 原告が審判で主張した無効理由
  (1)無効理由1
 本件発明は,審判甲第1号証に記載された発明であり,特許法29条1項3号の
規定により特許を受けることができないものであるから,特許法123条1項1号
の規定により無効とすべきである。
  (2)無効理由2
 本件発明は,審判甲第1号証に記載された発明により,あるいは審判甲第1号証
に記載された発明に,審判甲第1号証及び審判甲第2号証に記載された周知技術を
適用して,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項
の規定により特許を受けることができないものであるから,特許法123条1項1
号の規定により無効とすべきである。
  (3)証拠方法
 審判甲第1号証(本訴甲第1号証):ジ アメリカン ソサエティー オブ リ
ュブリケーション エンジニアーズ発行,リュブリケーション エンジニアリン
グ,第35巻第7号,1979年(昭和54年)7月発行,p.367-375,
A著,「らせん溝非接触面シールの基礎(FundamentalsofSpiralGroove
NoncontactingFaceSeals)」
 審判甲第2号証(本訴甲第2号証):テキサス A&M ユニバシティー発行,
第6回国際ポンプユーザーズ シンポジウム会報,1989年(平成1年)4月発
行,同年9月26日英国図書館文献サービスセンター(BLDSC)収蔵,p.5
3-58,アフザル アリ著,「上流ポンピング:メカニカルシール設計における
新展開(UPSTREAMPUMPING:NEWDEVELOPMENTSINMECHANICALSEALDESIGN)」
 審判甲第3号証(本訴甲第3号証):日本機械学会発行,日本機械学会誌 第8
0巻 第706号,昭和52年9月発行,p.43-49,鷲田彰著,「ポンプ用
メカニカルシールの現況と将来展望」
 4 審決の理由の要点
  (1)審判甲第1号証の記載内容
 審判甲第1号証には,下記のA′~D′及びF′の構成が記載されているものと
認められる。
 A′「シールケーシング及びこれを洞貫する回転軸の一方に第1密封環を固定保
持すると共に他方に第1密封環へと押圧附勢させた第2密封環を軸線方向摺動可能
に保持させてなる2組のメカニカルシールにより,」
 B′「両メカニカルシール間に形成されたパージ流体領域を介して,被密封流体
領域と大気領域とを遮蔽シールするように構成された軸封装置において,」
 C′「被密封流体領域側の第1メカニカルシールを第2密封環に被密封流体領域
の流体圧力が背圧として作用する接触型シールに構成すると共に,」
 D′「大気領域側の第2メカニカルシールを,第2密封環にパージ流体領域の流
体圧力が背圧として作用する非接触型シールに構成し,」
 F′「軸封装置」
 審判甲第1号証には,これらの構成に加え,下記E′の構成が記載されているも
のと認められる。
 E′「パージ流体領域に被密封流体より高圧の窒素ガスであるパージガスを注入
させた」
  (2)無効理由1についての審決の判断
  (2)-1 対比
 本件発明と審判甲第1号証に記載の発明(引用発明)を対比すると,引用発明の
構成A′は,本件発明の構成Aに,以下同様に,構成B′は構成Bに,構成C′
は構成Cに,構成D′は構成Dに,構成F′は構成Fに,各々相当するので,本件
発明と引用発明の一致点及び相違点は,本件発明の用語を用いて表すと,以下に示
すとおりのものである。
 [一致点]
 A.シールケーシング及びこれを洞貫する回転軸の一方に第1密封環を固定保持
すると共に他方に第1密封環へと押圧附勢させた第2密封環を軸線方向摺動可能に
保持させてなる2組のメカニカルシールにより,
 B.両メカニカルシール間に形成されたパージ流体領域を介して,被密封流体領
域と大気領域とを遮蔽シールするように構成された軸封装置において,
 C.被密封流体領域側の第1メカニカルシールを第2密封環に被密封流体領域の
流体圧力が背圧として作用する接触型シールに構成すると共に,
 D.大気領域側の第2メカニカルシールを,第2密封環にパージ流体領域の流体
圧力が背圧として作用する非接触型シールに構成し,
 E.かつパージ流体領域に窒素ガス等のパージガスを注入させた
 F.軸封装置。
 [相違点]
 本件発明においては,「パージ流体領域に被密封流体より低圧の窒素ガス等のパ
ージガスを注入させた」のに対し,引用発明においては,パージ流体領域に被密封
流体より高圧の窒素ガスであるパージガスを注入させた点。
  (2)-2 相違点についての判断
 審判甲第1号証の図11に開示されているとおりに,中間室のガス(窒素ガス)
圧が被密封流体圧より(わずかに)高圧であり,請求人(原告)が主張するように
「安全シールとして使われるとき,このらせん溝シールは通常非常に低い圧力差で
運転される。」の記載を根拠として,審判甲第1号証の図11のものにおいて中間
室のガス(窒素ガス)圧が被密封流体圧より低圧であり,Eの構成を具備する,と
の請求人の主張はその解釈を誤ったものといわざるを得ない。
 そして,本件発明は,A,Bの構成をなす軸封装置においてC,D,Eのように
構成しておくことによって,
(ア)高圧条件下や液体アンモニア等の揮発性流体ないし低沸点流体に対しても,
良好かつ安定したシール機能を発揮し得る信頼性の高い軸封装置を提供することが
できる。
(イ)パージ流体の循環を行うための周辺機器を必要とせず,装置構造を簡素化す
ることができる。
 という効果を共に奏するものであり,これらいずれの構成を欠いても成立しない
ものである。
 したがって,引用発明が,本件発明のEの構成である「パージ流体領域(C)に
被密封流体より低圧の窒素ガス等のパージガス(G)を注入させた」点を具備しな
いものであって,本件発明のすべての構成A~Fを具備するものでない以上,本件
発明は引用発明とは認められないので,特許法29条1項3号に該当するものとは
認められない。
  (3)無効理由2についての審決の判断
  (3)-1 対比
 本件発明と引用発明を対比すると,無効理由1におけるのと同様の[一致点]及
び[相違点]が存在する。
  (3)-2 相違点についての判断
 ここでは,上記相違点に関し,「2つの接触型・非接触型シールであるメカニカ
ルシールをタンデム配置(各流体を密封環の背圧として作用するように密封環を配
列した配置)した場合には,中間室の圧力を被密封流体より低圧とすること,」
(以下,「技術事項」という。)が周知の技術にすぎないものか否かについて,引
用発明及び審判甲第2号証に記載された発明について,各々その妥当性を検討す
る。
(a)審判甲第1号証に記載されたものから,前記技術事項が周知技術であるとい
えるか否かについて
 2つのメカニカルシールをタンデム配置した場合でも,中間室の窒素ガスを被密
封流体の圧力より高圧とする場合があることは,2つのメカニカルシールが接触シ
ールと非接触シールの組合せからなる審判甲第1号証の図11にも示されている
が,審判甲第1号証の図10は2つのメカニカルシールである非接触型シールのみ
からなるシールをタンデム配置したものであるが,当該図10及びこれに関する説
明には,中間室の圧力を被密封流体の圧力より低圧とすることはもちろん,中間室
にガスを注入することすら記載されていない。これらの例を考慮しても分かるよう
に,2つのメカニカルシールをタンデム配置した場合であっても,2つのメカニカ
ルシールが非接触型・接触型シールである場合及び2つのメカニカルシールが共に
非接触型シールである場合に,必ず,中間室の圧力を被密封流体より低くすること
が開示されているわけではなく,2つのメカニカルシールをタンデム配置した場合
には,中間室の圧力を被密封流体より低圧とすることが周知の技術であるとは認め
ることはできない。
(b)審判甲第2号証に記載されたものから,前記技術事項が周知技術であるとい
えるか否かについて
 審判甲第2号証の54頁左欄5~47行,翻訳文2頁28行~4頁4行の記載事
項には,「…多重シールは,こうして,再定義されなければならなかった。外観で
は迷わされるだろうから,シール配置に利用するその補助装置がより理論的な基準
になる。これより,多重シールは次のように再定義された:
 タンデムシール:低圧のシール補助装置を利用する多重シール。APIプラン5
2。
 ダブルシール:高圧のシール補助装置を利用する多重シール。そのバリア流体圧
力が常時その被密封領域の喉部(thethroatofthesealcavity)の圧力よりも高
い水準に維持される。
 定義から,したがって,タンデム配置においてはその高圧被密封流体(thehigh
pressureproduct)の低圧バリア流体への漏洩が原因で,このバリア流体が被密封
流体(theproduct)により絶えず汚染されることが推断できる。…」と記載されて
おり,また,審判甲第2号証の図3には,中間室の圧力が被密封流体領域より低圧
となっているタンデムシールが示されている。これらの点を考慮すると,請求人が
主張するように,タンデムシールにおいて,2組の接触型シールを配置し,中間室
には接触型シールの潤滑が可能となる液体が注入されたものにおいては,中間室の
圧力を被密封流体より低圧とすることはその記載よりみて妥当な解釈と認められ
る。
 しかしながら,審判甲第2号証の図3に記載されたものは2組の接触型シールを
タンデム配置したものであり,本件発明のC+Dのような接触型シールと非接触型
シールをタンデム配置したものでもなく,中間室にガスを注入しないものである。
当該タンデムシールにあっては,大気領域側のメカニカルシールが接触型シールで
あるから,中間室には当該接触型シールの潤滑が可能となる液体が注入される。そ
の理由は,中間室にガスを注入すると,大気側領域側の接触型シールがドライ運転
となり,シール面に焼き付きを生じて,良好なシール機能を発揮することができな
いからである。このことは,審判甲第2号証の図3において,中間室と熱交換器と
の間で水循環させる構成が図示されていることからも理解できる。このように中間
室にガスを注入することを行い得ない審判甲第2号証の図3に記載された技術は,
中間室に液体を注入することを行い得ない本件発明の軸封装置(中間室に液体を注
入すると,大気領域側の非接触シールによるシール機能が発揮されない)に適用す
ること自体,無理があり,非接触型シールと接触型シールとの差を考えると,単純
に中間室に低圧液を注入する技術と中間室に低圧ガスを注入する技術とを適宜置換
可能とすることはできない。
 してみると,仮に,2組の接触型シールをタンデム配置した場合には,中間室に
は接触型シールの潤滑が可能となる液体を注入し,中間室の圧力を被密封流体より
低圧とすることが通例であるとしても,2つのメカニカルシールをタンデム配置し
た場合であっても,2つのメカニカルシールが共に非接触型シールである場合は,
中間室の圧力を被密封流体より低くすることが周知の技術であるとは認めることが
できないのと同様,本件発明のように2つのメカニカルシールをタンデム配置した
接触型・非接触型シールにおいて,しかも中間室にガスを注入したものにおいて
は,必ずしも中間室の圧力を被密封流体より低くすることが周知技術とは認められ
ない。
 なお,本件発明のように,中間室にガスを注入した場合にあっては,中間室の圧
力が被密封流体領域の圧力よりわずかに高いものであっても,被密封流体領域側の
メカニカルシールが接触型シールであるので,当該接触型シールがドライ運転とな
り,シール面に焼き付きを生じて,良好なシール機能を発揮することができないと
考えるかもしれないが,審判甲第2号証の54頁右欄32~37行,翻訳文5頁1
~5行の記載事項には,「ダブル配置においては,漏洩はバリア流体から被密封流
体(theprocess)の中へと起こるだけであることが普通当然であると思われてい
る。あいにくこれが必ずしも正しいとは限らない。漏洩はその圧力差にも係らず被
密封流体(theprocess)からバリア流体へと起こることがある。…」と記載されて
いることから,中間室にガスを注入した場合であって,中間室の圧力が被密封流体
領域の圧力よりわずかに高いことを考えると,被密封流体領域側の接触型シールは
被密封流体の漏洩により安定したシール機能を維持するものと認められる。
 よって,以上のことから,たとえ,2つの接触型メカニカルシールをタンデム配
置した場合には中間室の圧力を被密封流体圧より低くすることが知られているとし
ても,2つの非接触型メカニカルシールをタンデム配置した場合,及び2つの接触
型・非接触型メカニカルシールをタンデム配置した場合においては,上記したよう
に,中間室の圧力を被密封流体より低くすることが周知の技術であるとは認められ
ない。
 したがって,本件発明はC,Dの構成のようなメカニカルシールの配置において
パージガスを被密封流体より低圧としておくことに格別の工夫があるものであると
ころ,審判甲第1号証及び審判甲第2号証にはC+Dの構成において中間室に低圧
ガスを注入しておく点について記載又は示唆がないことを考慮すると,本件発明は
引用発明に基づき,あるいは,引用発明に,上述のように,「2つの接触型・非接
触型シールであるメカニカルシールをタンデム配置した場合には,中間室の圧力を
被密封流体より低圧とすること,」が周知の技術とは認められない引用発明及び審
判甲第2号証に記載された発明を適用し,当業者が容易に発明をすることができた
ものとはいえず,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないもの
とすることはできない。
 なお,審判甲第3号証には,本件発明の新規性,進歩性を論ずる上で特に関係が
ある技術内容が記載されているとは認められない。
  (4)審決のむすび
 したがって,請求人が主張する理由及び提示した証拠方法によっては,本件特許
を無効とすることはできない。
第3 原告主張の審決取消事由
 1 取消事由1(引用発明認定の誤り)
 審決は,引用発明においては,「E′.パージ流体領域に被密封流体より高圧の
窒素ガスであるパージガスを注入させた」構成としていると認定したが,誤りであ
る。
  (1)審判甲第1号証の図9及び図11に破線で示されている「らせん溝パター
ン」は,回転された時,内向きにガスを送り込むような構成になっており,らせん
溝パターンの外側が高圧,内側が低圧になるよう設計されている。このため,図9
のシール装置ではBUFFER GAS INJECTION AT PRESS
URE ”P0>P1”となっているのは,首肯できる。
 一方,図11のセーフティタンデム配列においては,らせん溝シールが大気領域
側の第2メカニカルシールとして配置されているから,パージ流体(NITROG
EN GAS INJECTION)の圧力は大気(ATMOSPHERE)の圧
力より高く設定される。しかし,被密封流体側の第1メカニカルシールは接触型で
あるから,パージ流体の圧力を被密封流体の圧力より高く設定する必要性はない。
 また,図11のセーフティタンデム配列においては,被密封流体は液体であり,
パージ流体は潤滑性のない窒素ガスであることから,接触型の第1メカニカルシー
ルの接触部の潤滑を考えると,パージ流体の圧力を被密封流体の圧力よりも低く設
定するのが技術常識であって,逆に,パージ流体の圧力を被密封流体の圧力より高
く設定するのは,当業者の技術常識に反することである。
 このように,審判甲第1号証の図11のセーフティタンデム配列からすると,
「NITROGEN GAS INJECTION AT ”P0>P1”」の記
載は「NITROGEN GAS INJECTION AT ”P0<P1”」
の誤りであると解される。
  (2)周知技術として提出した審判甲第2号証には,「タンデムシールは,同じ
向きにして搭載された二つのシングルシールから構成され(図3),その二つのシ
ールの間に大気圧あるいはそれに近い圧力の補助的な中立流体を伴う。」(54頁
左欄5~8行,翻訳文2頁28行~3頁1行),「タンデムシール:低圧のシール
補助装置を利用する多重シール。・・・ダブルシール:高圧のシール補助装置を利
用する多重シール。そのバリア流体圧力が常時その被密封領域の喉部の圧力よりも
高い水準に維持される。」(54頁左欄27行~32行,翻訳文3頁17~20
行)と記載されており,これらの記載によれば,タンデムシールは,二つのシール
の間に低圧のシール補助装置が利用されるものであり,ダブルシールは,高圧のシ
ール補助装置が利用されるものであることが分かる。
 したがって,審判甲第2号証の記載事項からみても,審判甲第1号証の図11の
セーフティタンデム配列の「NITROGEN GAS INJECTION A
T ”P0>P1”」の記載は「NITROGEN GAS INJECTION
 AT ”P0<P1”」の誤りであると解される。
  (3)甲第5号証(「GuidelinesforMeetingEmissionRegulationsfor
RotatingMachinerywithMechanicalSeals」1990年(平成2年))には,
「タンデムシール タンデムシールは2つのシールアセンブリから構成され,シー
ルアセンブリ間のバリア流体は被密封液の圧力より低い圧力で運転される。内側の
1次シールは,被密封流体の全圧力をシールし,外側のシールは典型的には加圧さ
れないバリア流体をシールする。図2を参照せよ。」(2頁右欄2~8行)と記載
されている。
 甲第6号証(菊川弘道ほか「ドライガスシール」産業機械No.494(1991年
(平成3年))には,ドライガスシールと題して記載されており(51~53
頁),「3.スパイラル溝型ドライガスシールの原理」の欄には,審判甲第1号証
に記載のらせん溝シールに相当する非接触型のスパイラル溝型ドライガスシールが
説明され,続いて「5.ガスシールの組み合わせ」の欄には,「タンデムシール 
通常使用される組合せで,プロセス側シールで圧力を受け,大気側シールはバック
アップで通常大気圧に近い。」(53頁右欄1~4行),「最も多く採用されるの
はタンデムシールである。理由はプロセス側ガスシールが圧力を受け,大気側のガ
スシールはプロセス側ガスシールをバックアップ(プロセス側ガスシールに万一不
都合が生じた場合の予備シール)する安全構造となっているためである。」(53
頁右欄15~20行)と記載されている。
 甲第7号証(「worldpumps」(1985年(昭和60年)10月)中の「Dry
runninggasseals」)には,審判甲第1号証に記載のらせん溝シールに相当する非
接触型のシール装置が記載されており(297~300頁),その中で「圧力が高
い場合の適用では,タンデムシール,図11,が考えられる。各シールを横切る圧
力差は,およそ被密封流体圧力の50%とされ,それによって,被密封流体圧力が
シングルシールで受けることのできる圧力を超える場合に,この装置が使えるよう
にしている。」(299頁左欄下から14~7行)と記載されている。
  (4)甲第5~第7号証のこれらの記載によれば,審判甲第1号証の図11に記
載のようなセーフティタンデム配列においては,被密封流体の圧力よりもパージ流
体の圧力の方が低く設定されることが技術常識であることが分かる。
 したがって,技術常識からしても,審判甲第1号証の図11の「NITROGE
N GAS INJECTION AT ”P0>P1”」の記載は「NITRO
GEN GAS INJECTION AT ”P0<P1”」の誤りであると解
される。
  (5)著者自身が,審判甲第1号証の図11の上記記載が誤記であることを認め
ている。すなわち,審判甲第1号証の著者である,Aの,原告の質問(甲第9号
証)に対する回答書(甲第10号証)によれば,同氏は,概ね,「図11にはエラ
ーがありました。」「図11の記述は,”P0<P1”とすべきでした。」「機内
側液体シールのIDとスパイラルグルーブシールの間のエリアは,大気圧に近い,
ある程度の圧力がかかりますが,シールされている液体の圧力以下となります。」
と説明している。
  (6)以上のとおり,審判甲第1号証には,実質的に「E.パージ流体領域に被
密封流体より低圧の窒素ガスであるパージガスを注入させた」構成が記載されてい
たに等しいものである。したがって,審決が,審判甲第1号証には,「E′.パー
ジ流体領域に被密封流体より高圧の窒素ガスであるパージガスを注入させた」構成
が記載されていると認定したのは誤りである。
 2 取消事由2(無効理由1についての判断(新規性判断)の誤り)
 審決は,本件発明と引用発明との相違点として,「本件発明においては,「パー
ジ流体領域に被密封流体より低圧の窒素ガス等のパージガスを注入させた」のに対
し,引用発明においては,パージ流体領域に被密封流体より高圧の窒素ガスである
パージガスを注入させた点」と認定している。
 しかしながら,上述したように,審判甲第1号証には,実質的に「パージ流体領
域に被密封流体より低圧の窒素ガスであるパージガスを注入させた」構成が記載さ
れているから,本件発明と引用発明とはすべての点で一致し,相違点はない。
 したがって,審決の,「引用発明が,本件発明のEの構成である「パージ流体領
域(C)に被密封流体より低圧の窒素ガス等のパージガス(G)を注入させた」点
を具備しないものであって,本件発明のすべての構成A~Fを具備するものでない
以上,本件発明は引用発明とは認められないので,特許法29条1項3号に該当す
るものとは認められない。」との判断は誤りである。本件発明は,引用発明にほか
ならない。
 3 取消事由3(無効理由2についての判断(進歩性判断)の誤り)
 仮に,審決が認定するように,引用発明が,本件発明のEの構成である「パージ
流体領域(C)に被密封流体より低圧の窒素ガス等のパージガス(G)を注入させ
た」点を具備しないとしても,本件発明は,引用発明に基づいて,当業者が容易に
発明をすることができたものである。
  (1)判断手法の誤り
 審決は,「ここでは,上記相違点に関し,「2つの接触型・非接触型シールであ
るメカニカルシールをタンデム配置(各流体を密封環の背圧として作用するように
密封環を配列した配置)した場合には,中間室の圧力を被密封流体より低圧にする
こと,」(以下,「技術事項」という。)が周知の技術にすぎないものか否かにつ
いて,引用発明及び審判甲第2号証に記載された発明について,各々その妥当性を
検討する。」とした上で,「2つの接触型メカニカルシールをタンデム配置した場
合には中間室の圧力を被密封流体圧より低くすることが知られているとしても,2
つの非接触型メカニカルシールをタンデム配置した場合,及び2つの接触型・非接
触型メカニカルシールをタンデム配置した場合においては,上記したように,中間
室の圧力を被密封流体より低くすることが周知の技術であるとは認められない。」
と認定したが,誤りである。
 審決は,「2つの接触型・非接触型シールであるメカニカルシールをタンデム配
置した」構成(本件発明のC,Dの構成)を,一致点として認定しているのである
から,周知事項であるかどうかの検討対象は,相違点であるEの構成(「パージ流
体領域(C)に被密封流体より低圧の窒素ガス等のパージガス(G)を注入させ
た」点)とすべきであり,「2つの接触型・非接触型メカニカルシールをタンデム
配置した場合において,中間室の圧力を被密封流体より低くすること」を周知技術
の検討対象とするのは,妥当でない。
 審決は,周知事項を2つの接触型・非接触型メカニカルシールをタンデム配置し
たものに適用することの想到容易性の問題として検討すべきことを,発明の同一性
の判断の問題(周知事項の認定の問題)として検討するものであり,判断手法を誤
り,周知事項として認定すべき対象を誤っている。
 審決は,周知技術の認定を誤り,誤った判断手法を用いた結果,「したがって,
本件発明はC,Dの構成のようなメカニカルシールの配置においてパージガスを被
密封流体より低圧としておくことに格別の工夫があるものであるところ,審判甲第
1号証及び審判甲第2号証にはC+Dの構成において中間室に低圧ガスを注入して
おく点について記載又は示唆がないことを考慮すると,本件発明は引用発明に基づ
き,あるいは,引用発明に,上述のように,「2つの接触型・非接触型シールであ
るメカニカルシールをタンデム配置した場合には,中間室の圧力を被密封流体より
低圧とすること,」が周知の技術とは認められない引用発明及び審判甲第2号証に
記載された発明を適用し,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえ
ず,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものとすることは
できない。」という誤った結論を導いている。
  (2)周知技術認定の誤り
 審決は,相違点であるEの構成(「パージ流体領域(C)に被密封流体より低圧
の窒素ガス等のパージガス(G)を注入させた」点)を周知技術と認定すべきとこ
ろ,周知技術の認定を誤ったことは上述のとおりである。
 相違点であるEの構成は,以下のとおり,周知である。
 審判甲第2号証,甲第5~第7号証には,取消事由1において摘示したとおりの
記載がある。これらの記載からすると,審判甲第2号証では,パージ流体領域の流
体の圧力が大気圧あるいはそれに近い圧力とされていることが分かる。また,甲第
5号証には,パージ流体領域の流体の圧力が被密封液の圧力より低い圧力で運転さ
れることが示されている。甲第5号証は,そのタイトルが示すように,メカニカル
シールを用いた回転機械のための,排出物質規制に適合するためのガイドラインで
あり,メカニカルシールの技術分野における基準を示すものである。また,甲第6
号証には,2つの非接触型シールを用いたタンデム配列のシールにおいても,パー
ジ流体領域の流体の圧力が被密封流体の圧力より低い大気圧に近い圧力とされるこ
とが示されている。さらに,甲第7号証では,2つの非接触型シールをタンデム配
列したタンデムシールにおいて,パージ流体領域の流体の圧力が被密封流体の圧力
の50%の圧力とされていることが分かる。
 これらから明らかなように,本件発明の「E.パージ流体領域に被密封流体より
低圧の窒素ガス等のパージガスを注入させた」点は,本件発明の技術分野におい
て,その出願前に周知の事項であったものである。また,2つの非接触型メカニカ
ルシールをタンデム配置した場合においても,「パージ流体領域に被密封流体より
低圧の窒素ガス等のパージガスを注入させた」点は,周知の事項である。
  (3)進歩性判断の誤り
 審決は,2つの接触型・非接触型メカニカルシールをタンデム配置した場合にお
いては,中間室の圧力を被密封流体より低くすることが周知の技術であるとは認め
られないとして,本件発明の進歩性を肯定したが,誤りである。上述のとおり,審
決は,判断の前提である周知の事項の認定において誤っており,本件発明の進歩性
の判断も誤りである。
 2つの接触型・非接触型メカニカルシールをタンデム配置することは審判甲第1
号証に記載されており,審判甲第1号証の図11はセーフティタンデム配列と題さ
れ,パージ流体としては窒素ガスが,被密封流体としては液体製品が用いられてい
る。図11のセーフティタンデム配列においては,非接触型シールであるらせん溝
シールが大気領域側の第2メカニカルシールとして配置されているから,パージ流
体の圧力は大気圧より高く設定されるが,被密封流体側の第1メカニカルシールは
接触型であるから,パージ流体の圧力を被密封流体の圧力より高く設定する必要性
はなく,むしろ,被密封流体は液体であり,パージ流体は潤滑性のない窒素ガスで
あることから,接触型の第1メカニカルシールの接触部の潤滑を考えると,パージ
流体の圧力を被密封流体の圧力よりも低く設定することは,当業者の技術常識から
すると容易に想到できることである。
 タンデムシールにおいて,パージ流体の圧力を被密封流体の圧力よりも低く設定
することは,審判甲第2号証,甲第5~第7号証に記載のとおり周知の技術にすぎ
ない。また,甲第6及び第7号証に示されているように,2つの非接触型のシール
をタンデム配置したものにおいてパージ流体の圧力を被密封流体の圧力よりも低く
設定することも周知である。さらにまた,審判甲第2号証に示されているように,
2つの接触型シールをタンデム配置したものにおいてパージ流体の圧力を被密封流
体の圧力よりも低く設定することも,周知である。したがって,審判甲第1号証に
記載の,2つの接触型・非接触型メカニカルシールをタンデム配置したものにおい
て,上記周知技術を適用して,パージ流体の圧力を被密封流体の圧力よりも低く設
定することは,当業者であれば容易に想到できるところである。
 本件発明において,パージ流体の圧力を被密封流体の圧力よりも低く設定したこ
とによる効果についてであるが,本件明細書(甲第14号証)には,「第1メカニ
カルシール11にあっては,・・・パージ流体圧力P′を低圧としておくことによ
って,両密封環12,13によるシール部分に作用する負荷を大幅に低減すること
ができ,被密封流体の性状や圧力条件に拘わらず,良好かつ安定したシール機能を
発揮させることができる。」(【0021】),「また,第2メカニカルシール2
1については,それが非接触型のガスシールであるから,摺動密封環23に背圧と
して作用するパージガス圧力P′が被密封流体圧力Pより低圧であることとも相俟
って,高圧条件下においても良好なシール機能が発揮されることになる。」(【0
022】),と記載されている。しかし,上記第1メカニカルシールの効果は,審
判甲第2号証の接触型シールの奏する効果にすぎず,また,上記第2メカニカルシ
ールの効果も,甲第6及び第7号証の非接触型シールの奏する効果にすぎないか
ら,本件発明が格別の効果を奏しているということもできない。
 以上のとおり,審決が,「したがって,本件発明はC,Dの構成のようなメカニ
カルシールの配置においてパージガスを被密封流体より低圧としておくことに格別
の工夫があるものであるところ,審判甲第1号証及び審判甲第2号証にはC+Dの
構成において中間室に低圧ガスを注入しておく点について記載又は示唆がないこと
を考慮すると,本件発明は引用発明に基づき,あるいは,引用発明に,上述のよう
に,「2つの接触型・非接触型シールであるメカニカルシールをタンデム配置した
場合には,中間室の圧力を被密封流体より低圧とすること,」が周知の技術とは認
められない引用発明及び審判甲第2号証に記載された発明を適用し,当業者が容易
に発明をすることができたものとはいえず,特許法29条2項の規定により特許を
受けることができないものとすることはできない。」と認定判断したのは,誤りで
ある。
第4 審決取消事由に対する被告の反論
 1 取消事由1(引用発明認定の誤り)に対し
  (1)原告は,審判甲第1号証の図11には誤記があり,誤記を正せば,甲第1
の図11に記載されたセーフティタンデム配列(以下「当該セーフティタンデム配
列」という。)は,本件発明の構成要素A~Fに相当する構成をすべて具備すると
認定できるから,Eに相当する構成を具備しない(圧力関係においてEと正反対を
なす構成E′を具備する)とする,審決の認定は誤っている旨を主張する。
 しかし,この主張は,自らが提示した証拠(審判甲第1号証)を自らが否定する
ものである。これでは,E以外の構成A~D,Fについても,本件発明と引用発明
とが一致するとしたことについて,審判甲第1号証のどの部分から何を根拠として
見出されるかについて疑問が生じることとなり,審判甲第1号証を新規性否定の根
拠とする意味が不明ということになる。
 加えて,審判甲第1号証の記載に誤りがあると指摘するのであれば,まず,当該
誤りとする記載がその他の記載との間に明らかな矛盾があるかどうかを検討し,そ
の上で矛盾があれば技術常識,周知技術に照らして正当な記載を見出すべきであ
る。しかし,原告は,図11の記載「NITROGEN GAS INJECTI
ON AT ”P0>P1”」が,図11についての解説(373頁右欄1~26
行,同翻訳文5頁23行~6頁13行)に対して矛盾しているかどうかについての
検討を行っていない。当該解説と図11の記載とには矛盾もないから,図11の記
載が誤記であるとする根拠は見当たらない。
  (2)原告は,当業者の技術常識に反することをもって,図11の記載が誤記で
あることの根拠とする。
 審決が,審判甲第1号証の記載事項の認定に際して,原告が審判で主張したのに
対し,「そして,通常運転時においても中間室の圧力つまり窒素ガス圧を被密封流
体圧力より高い圧力(通常,相対的に,わずかに高い圧力と認められる。)として
いても差圧がそれほど高くないうえに,・・・どうしても漏洩が生じるが,その漏
洩は,正常に作動している一次シールである接触シールの潤滑に使用され,被密封
流体は該接触シールにより遮断されるものと考えられる。」と説示しているように
(甲第4号証の審決書10頁下から2段落目),シール条件や接触型シールの構造
によっては,接触型の第1メカニカルシールの接触部の潤滑を考慮したとしても,
パージ流体の圧力を被密封流体の圧力より高く設定することは可能であり,当業者
の技術常識に反することでもない。
  (3)原告は,審判甲第2号証,甲第5~第7号証の記載を根拠として,審判甲
第1号証の図11の記載が誤記である旨を主張する。
 しかし,審判甲第2号証の図3に記載されたものは,2つの接触型シールをタン
デム配置したものであり,当該セーフティタンデム配列のような接触型シールと非
接触型シール(非接触型のメカニカルシール)をタンデム配置したものでも,中間
室にガスを注入するものでもない。このように2つの接触型シールからなるタンデ
ムシールにおいてこそ,潤滑を考慮して,中間室には潤滑作用のある液体を注入す
るのである。
 甲第5号証の図2に示されたものも,同様であり,2つの接触型シールをタンデ
ム配置したものであり,図10から明らかなように中間室にはガスでなく液体を注
入するものである。
 甲第6号証のタンデムシール(53頁右欄)は,2つのガスシール(非接触型シ
ール)をタンデム配置したものであり,中間室にパージガスを注入するものでな
い。すなわち,甲第6号証のタンデムシールは,2つのガスシールにより高圧側か
ら低圧側へと段階的に減圧させることによりプロセスガスをシールするものであ
り,中間室には漏洩したプロセスガスが存在するにすぎない。このことは,甲第6
号証に,「タンデムシール 通常使用される組合せで,プロセス側シールで圧力を
受け,大気側シールはバックアップで通常大気圧に近い。」(53頁右欄1行~4
行),「最も多く採用されるのはダンデムシールである。理由はプロセス側ガスシ
ールが圧力を受け,大気側のガスシールはプロセス側ガスシールをバックアップ
(プロセス側ガスシールに万一不都合が生じた場合の予備シール)する安全構造と
なっているためである。」(53頁右欄15行~20行)と記載されていることか
ら,明らかである。
 甲第7号証の図11に示された記載されたタンデムシールも,甲第6号証と同様
に,2つのガスシール(非接触型シール)により高圧側から低圧側へと段階的に減
圧させるようにしたものである。甲第7号証に,「圧力が高い場合の適用では,タ
ンデムシール,図11,が考えられる。各シールを横切る圧力差は,およそ被密封
流体圧力の50%とされ,それによって,被密封流体圧力がシングルシールで受け
ることのできる圧力を超える場合に,この装置が使えるようにしている。」(29
9頁左欄下から14行~7行)と記載されているように,被密封流体(プロセスガ
ス)が高圧側ガスシールのみでシールし難いような高圧のものである場合には,高
圧側ガスシールで被密封流体圧力の50%程度まで減圧し,減圧された圧力を中間
室において低圧側ガスシールで受けるようにしているのであり,中間室に被密封流
体以外のパージガスを注入するものではない。
 したがって,審判甲第2号証,甲第5~第7号証に記載されたタンデムシール
は,いずれも,当該セーフティタンデム配列のように接触型シールと非接触型シー
ルとを組み合わせたものでも,中間室にパージガスを注入したものでもないから,
本件発明の構成Eが技術常識であるとの前提で,審判甲第1号証の図11が誤記で
ある旨の主張は,当を得ない。
  (4)原告は,審判甲第1号証の著者の説明を根拠として,審判甲第1号証の図
11の記載が誤記である旨を主張する。
 しかし,審判甲第1号証の図11の記載が当該解説欄の記述と矛盾しないのであ
るから,著者の説明にかかわらず,審判甲第1号証は,誤記がないものとして扱わ
れるべきでものである。
 なお,通常,学術論文は,掲載までに幾度となく著者及び編集者等によるチェッ
クがなされるものである。また,原告がいうように,審判甲第1号証の図11にお
ける誤りが,当業者の技術常識をもってすれば,さほどの困難もなく看破できるの
であれば,誤記は既に修正されているはずである。著者の説明は信用できない。
  (5)したがって,引用発明におけるセーフティタンデム配列においては,Eの
構成とは圧力関係を逆にするE′の構成が採用されているとした審決の認定に誤り
はない。
 2 取消事由2(無効理由1についての判断(新規性判断)の誤り)に対し
 引用発明におけるセーフティタンデム配列においては,Eの構成とは圧力関係を
逆にするE′の構成が採用されているのであるから,本件発明が,引用発明と同じ
であるはずはなく,無効理由1についての審決の判断に誤りはない。
 3 取消事由3(無効理由2についての判断(進歩性判断)の誤り)に対し
  (1)原告は,Eの構成を周知事項でないとする審決の進歩性の判断は誤りであ
る旨主張する。
 しかし,上述したように,審判甲第2号証の図3及び甲第5号証の図2に示され
たものは,いずれも,2つの接触型シールをタンデム配置したものであって,両シ
ールの中間室に液体を注入するものであり,また,甲第6号証の53頁右欄の写真
及び甲第7号証の図11に示されたものは,いずれも,2つの非接触型シール(ガ
スシール)をタンデム配置したものであって,両シールの中間室にパージ流体を注
入しないものである。すなわち,これら各甲号証に記載されたタンデムシールは,
いずれも,「パージ流体領域に被密封流体より低圧の窒素ガス等のパージガスを注
入させた」ものではなく,原告の主張は失当である。
  (2)原告は,2つの非接触型メカニカルシールをタンデム配置した場合,中間
室の圧力を被密封流体より低くすることは,甲第6及び第7号証に記載のように周
知の事項であるから,審決は,判断の前提である周知の事項の認定において誤って
おり,その結果,本件発明の進歩性判断についても誤っている旨を主張する。
 しかし,原告は,審決の「中間室の圧力を被密封流体より低くすることが周知の
技術であるとは認められない」との説示を誤解しているか,あえて曲解している。
すなわち,原告は,「中間室の圧力」を「パージガスが注入されていない場合にお
ける中間室の圧力」をも含むものと解しているが,審決の説示において,「中間室
の圧力」は,当然に「中間室の注入されたパージガスの圧力」のみを意味するもの
である。
 一方,甲第6及び第7号証に記載されたタンデムシールは,2つの非接触型メカ
ニカルシール(ガスシール)をタンデム配置したものであり,かつ中間室の圧力が
被密封流体より低くなるものであるが,上述したように,中間室にはパージガスが
注入されるものではなく,高圧側ガスシールにより減圧された被密封流体(プロセ
スガス)が侵入するにすぎない。したがって,甲第6及び第7号証からは,2つの
非接触形メカニカルシールをタンデム配置していることは導き出し得ても,中間室
にパージガスを注入することは導き出し得ないから,「2つの非接触型メカニカル
シールをタンデム配置した場合,中間室の圧力を被密封流体より低くすることは,
甲第6及び第7号証に記載のように周知の事項である」とすることはできない。
  (3)原告は,「第1メカニカルシールの効果は,審判甲第2号証の接触型シー
ルの奏する効果にすぎず,また,上記第2メカニカルシールの効果も,甲第6及び
第7号証の非接触型シールの奏する効果にすぎないから,本件発明が格別の効果を
奏しているということもできない。」と主張する。しかし,かかる主張は,C+D
の構成をなすタンデムシールにおいて中間室にEのパージガスを注入するようにし
た本件発明と,中間室にパージガスを注入せずに2つの接触型シール又は2つの非
接触型シールをタンデム配置したにすぎない審判甲第2号証又は甲第6及び第7号
証のタンデムシールとを比較するといったものであり,不当である。
  (4)以上のとおり,原告は,タンデムシールにおいて中間室に被密封流体より
低圧のパージガスを注入しておく点が周知技術であることを立証しておらず,また
審判甲第1号証の当該セーフティタンデム配列がEに相当する構成を具備しないこ
とは,上述したように明らかである。したがって,審決の無効理由2についての判
断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断
 当裁判所は,審判甲第1号証記載の事項の誤認に基づく取消事由1,2は理由が
ないが,進歩性判断の誤りをいう取消事由3は理由があるものと判断する。すなわ
ち,以下のとおりである。
 1 まず,引用発明についてみると,審判甲第1号証(甲1)には次の記載があ
る。
 (イ)「高温の,汚染された,あるいは有害な気体をシールする時の適用におい
ては,清浄で,かつ/又は冷却されたガスが被密封ガスよりも高い圧力でこの緩衝
帯に注入される。この注入されたガスは,その圧力差とラビリンスの設計によって
決まる速度でこのラビリンスを通過しプロセス内に流れる。この時らせん溝シール
はこの注入されたガスだけをシールする。」(翻訳文4頁19~23行)
 (ロ)「被密封圧力がシングルシールの能力をこえる所での適用には,タンデム
配置が用いられる(図10)。この配置では安全上のバックアップもまた提供され
る。もしその一次シールが故障したならば,その機外側シールは,その設備を停止
できるまでの間一次シールとして引き継ぐことが可能である。高圧に適用して使用
されるとき,一次シールの漏洩によってその二つのシールの間で圧力低下が起こ
る。・・・シールの幾何学的配置は,機外側シールの圧力と漏洩を最小にするよう
に修正することができる。替わりに,この圧力の低下は,シールの漏洩に加え圧力
調整弁の使用によっても遂行できる。」(翻訳文5頁12~22行)
 (ハ)「図11に示すような,接触シールとタンデムに組み合わせたらせん溝シ
ールによって構成されるシール配置は,安全シール,緩衝シール,あるいはその両
方として使用することができる。タンデムシール配置は通常,両方のシールが同じ
方向に向くように考案される。このらせん溝シールはこの方式かあるいは図示のよ
うに置くことができる。この一次シールが低温流体(cryogenicfluids)をシール
するときの適用では,このらせん溝シールは,その被密封流体(theproduct)と大
気の間の緩衝帯の役目をすることができる。この緩衝帯はその接触シールを,大気
に触れることによって,漏洩が起こる可能性のある場所に氷が着くことから守る。
通常は,接近した隙間のブッシュ,あるいはパッキンがこの目的のために使われ
る。しかしながら,このらせん溝シールは,以下のさらなる利点を伴って使用する
ことができる:
 1. この緩衝帯へ供給するために使用する窒素の量は,このらせん溝シールのシ
ール能力によって徹底的に減少される。
 2. このらせん溝シールの使用は,この外側の仕切り空間の加圧を可能にし,こ
の一次シール前後の圧力差を減少させて,シールの磨耗と漏洩を低減させる。
 安全シールとして使われるとき,このらせん溝シールは通常非常に低い圧力差で
運転される。一次シールの漏洩は,貯蔵容器へと導く排出口に送られる。もしもこ
の一次シールの故障が起こると,この設備を停止できるまで,このらせん溝シール
がその漏洩を止める。」(翻訳文5頁23行~6頁13行)
 2 上記記載によれば,接触シールとタンデムに組み合わせたらせん溝シールに
よって構成されるシール配置は,緩衝シール,安全シールとして使用され,緩衝シ
ールとして使用されるときは,一次シール前後の圧力差を減少させて,シールの磨
耗と漏洩を低減させ,安全シールとして使用されるときは,らせん溝シールが通常
非常に低い圧力差で運転されることが認められる。しかし,図11には,緩衝帯に
おける流入ガス圧力を被密封流体圧力より高くすることが記載されているものの,
緩衝シールとして使用されるときに,「圧力差を減少」させることが,「緩衝帯に
おける流入ガス圧力を被密封流体圧力より高くする」ことであるかどうかは定かで
はなく,また,安全シールとして使用されるときに,「緩衝帯における流入ガス圧
力と被密封流体圧力とのいずれの圧力を高くする」ことであるのかは定かではな
い。そうすると,上記シール配置において,緩衝シール,安全シールとして使用さ
れるときの圧力条件としていかなるものが採用されるかは,上記記載からでは明ら
かであるとはいえない。
 原告は,図11に示された圧力条件は誤記であると主張しているが,上記記載
(イ)からすると,被密封流体によっては,緩衝帯における流入ガス圧力を被密封
流体圧力より高く設定する必要性があることが理解される。上記記載(イ)は,一
次シールがラビリンスである場合についてのものであり,図11のものとはシール
構造が異なるものの,被密封流体が同じであれば,同じ課題が生じることは明らか
であり,流入ガス圧力について同様の条件を採用することは十分あり得ることであ
るというべきであるから,図11に示された圧力条件が誤記であると直ちに認める
ことはできない。
 3 しかしながら,審判甲第1号証に記載のシール配置は,タンデムシールの範
疇に属するものであるから,特段の理由がない限り,その使用に当たっては,タン
デムシールの一般的な使用態様が適用されるものと認められる。そこで,一般のタ
ンデムシールにおいて,緩衝帯における流入ガス圧力と被密封流体圧力とが,いか
なる圧力関係のもとで使用されるのかについてみてみることとする。
 審判甲第2号証(甲第2号証)には,次の記載がある。
 (イ)「従来のメカニカルシールは,高圧源からの漏洩を防止するように配置さ
れる。漏洩が起こるとき,高圧の区域から低圧の周囲環境へとなることが予想され
る。」(翻訳文「要約」の項)
 (ロ)「タンデムシールは,同じ向きにして搭載された二つのシングルシールか
ら構成され(図3),その二つのシールの間に大気圧あるいはそれに近い圧力の補
助的な中立流体(asecondaryneutralfluid)を伴う。タンデムシールは次の三つ
の主要な理由で利用される:
 ・冗長性-安全上のバックアップとして;万一その一次シールが故障の場合,そ
の二次シールが環境への流出/漏洩を防止する。
 ・クエンチ流体を溜めておく-低温を必要とする設備(cryogenicservices),
及び液化された固体(腐食剤,砂糖)を含む設備。
 ・捕らえにくい放出物を抑制する-軽炭化水素(lighthydrocarbons)/揮発性
有機化合物(VOCs)の密封。」(翻訳文2頁25行~3頁8行)
 (ハ)「外観では迷わされるだろうから,シール配置に利用するその補助装置が
より論理的な基準になる。これより,多重シールは次のように再定義された:
 タンデムシール:低圧のシール補助装置を利用する多重シール。APIプラン5
2。
 ダブルシール:高圧のシール補助装置を利用する多重シール。そのバリア流体圧
力が常時その被密封領域の喉部(thethroatofthesealcavity)の圧力よりも高
い水準に維持される。
 定義から,したがって,タンデム配置においてはその高圧被密封流体(thehigh
pressureproduct)の低圧バリア流体への漏洩が原因で,このバリア流体が被密封
流体(theproduct)により絶えず汚染されることが推断できる。この汚染された流
体はその二次シールを超えて漏れることによりいつかは大気側へ進むだろう。タン
デム配置は,しかしダブル配置よりも本質的に安全である,なぜならばその二次シ
ールは万一一次シールが故障しても被密封流体(theproduct)を溜めておくことが
できるからである。」(翻訳文3頁14~27行)
 4 上記記載からすると,タンデムシールは,同じ向きにして搭載された二つの
シングルシールから構成され,その二つのシールの間に大気圧あるいはそれに近い
圧力の補助的な中立流体を伴うものであること(記載(ロ)),タンデム配置にお
いては,その高圧被密封流体の低圧バリア流体への漏洩が原因で,このバリア流体
が被密封流体により絶えず汚染されること(記載(ハ)),二次シールは万一一次
シールが故障しても被密封流体を溜めておくことができること(記載(ハ))が認
められ,これらのことから,タンデムシールは,安全シールとして適用され,その
際には,被密封流体側よりバリア流体側が低圧となるように圧力条件を定め,被密
封流体側からバリア流体側へと被密封流体が漏洩するようにして利用されるもので
あると理解することができる。
 5 上記理解は,以下のとおり,甲第5号証~第7号証に記載されたところから
も裏付けられ,上記タンデムシールの安全シールとしての利用形態は,本件出願前
に周知であったというべきである。
 すなわち,甲第5号証(「GuidelinesforMeetingEmissionRegulationsfor
RotatingMachinerywithMechanicalSeals」1990年(平成2年))には,
「タンデムシールは2つのシールアセンブリから構成され,シールアセンブリ間の
バリア流体は被密封液の圧力より低い圧力で運転される。内側の1次シールは,被
密封流体の全圧力をシールし,外側のシールは典型的には加圧されないバリア流体
をシールする。」(2頁右欄3~7行),「タンデムシールはさらにシールの信頼
性の高い水準を備えた装置であり,典型的に使用するのは加圧されないバリア流体
であることから,維持管理の容易な装置でもある。バリア流体は被密封流体よりも
低圧であることから,バリア流体による被密封流体の汚染が回避される。」(2頁
右欄24~29行)と記載されている。
 また,甲第6号証(菊川弘道ほか「ドライガスシール」産業機械No.494(19
91年(平成3年))には,(イ)「タンデムシール 通常使用される組合せで,
プロセス側シールで圧力を受け,大気側シールはバックアップで通常大気圧に近
い。」(53頁右欄1行~4行),(ロ)「最も多く採用されるのはタンデムシー
ルである。理由はプロセス側ガスシールが圧力を受け,大気側のガスシールはプロ
セス側のガスシールをバックアップ(プロセス側ガスシールに万一不都合が生じた
場合の予備シール)する安全構造となっているためである。特にプロセス側の微量
な漏れも避けたい場合,大気側シール部に内部ラビリンスを設け窒素などの不活性
ガス注入により,大気側シールからの極微量の漏れはすべて窒素ガスとする方法も
採用される。」(53頁右欄15行~24行)と記載されている。
 そして,甲第7号証(「worldpumps」(1985年(昭和60年)10月)中
の「Dryrunninggasseals」)には,「圧力が高い場合の適用では,タンデムシー
ル,図11,が考えられる。各シールを横切る圧力差は,およそ被密封流体圧力の
50%とされ,それによって,被密封流体圧力がシングルシールで受けることので
きる圧力を超える場合に,この装置が使えるようにしている。」(299頁左欄下
から14行~7行)と記載されている。
 甲第5~第7号証のこれら記載によれば,タンデムシールにおいては,バリア流
体が被密封流体よりも低圧となる条件の下で運転されることが理解される。
 6 審判甲第2号証及び甲第5号証に記載されたタンデムシールは,一次側(プ
ロセス側),二次側(大気側)のいずれのシールも,接触式としたものであり,ま
た,甲第6号証及び甲第7号証に記載されたタンデムシールは,いずれのシール
も,非接触式としたものであるから(なお,被告は,甲第6号証,甲第7号証のも
のは,中間室にパージガスが注入されないものである旨主張するが,甲第6号証の
上記記載(ロ)からすると,甲第6号証においては,一次側,二次側シールの中間
室にパージガスが注入されているものと認められる。),確かに,審決が認定する
ように,「2つのメカニカルシールをタンデム配置した接触型・非接触型シールに
おいて,しかも中間室にガスを注入したものにおいて,中間室の圧力を被密封流体
より低くすること」が周知技術であるとまではいうことはできない。しかし,審判
甲第2号証,甲第5~第7号証の上記記載からすると,タンデムシールにおいて,
シール間領域の圧力を,被密封流体圧力より低くすることにより,バリア流体によ
る被密封流体の汚染が回避され(甲第5号証),二次側(大気側)のシールが,一
次側(プロセス側)のシールをバックアップする効果が奏されること(甲第6,第
7号証)を認めることができる。
 7 引用発明のタンデムシールは,接触シールと非接触シールとを組み合わせた
ものであるが,二つのシールは協働するものではなく,それぞれが個別にシール機
能を果たすものであり,いわば,二段シールともいうべきものである。審判甲第2
号証,甲第5~第7号証に記載のタンデムシールも,二つのシールの組合せにおい
て,引用発明とは異なるものの,個々のシールは,それぞれ,個別にシール機能を
果たすものであり,二段シールといえるものである。
 そうであれば,引用発明のタンデムシールを,審判甲第2号証や甲第5~第7号
証のものと同じく安全シールとして使用することは,創意を要することなく想起で
きるものということができ(安全シールの場合でも,パージガスとして窒素ガスが
注入されることがあることは,甲第6号証に記載されている。また,タンデムシー
ルの安全シールとしての利用形態は,本件出願前に周知であったことは前判示のと
おりである。),引用発明のタンデムシールにおいて,中間室の圧力を被密封流体
より低くすること(安全シールとして利用すること)は,当業者であれば,容易に
想到できることというべきである(原告主張の審決取消事由3も,この趣旨におけ
る容易想到性の主張を含むものと理解できる。)。
 8 接触シールと非接触シールとを組み合わせた引用発明において,中間室(パ
ージガス)の圧力を被密封流体の圧力より低くすることに何らかの阻害要因が存在
するのなら別であるが,前判示のとおり,各々のシールは,個別に機能するもので
ある。非接触シールについては,中間室(パージガス)の圧力を被密封流体の圧力
より低くすることで問題を生じないはずであるし,接触シールについても,格別の
問題が生ずるとは考えられない。すなわち,中間室と被密封流体とは接触シールに
よりシールされており,仮に,中間室(パージガス)の圧力を被密封流体の圧力よ
り高くすると,中間室に導入されている緩衝流体が被密封流体側に流れることで接
触シール面での潤滑の問題が発生する可能性があるが,中間室の圧力を被密封流体
の圧力より低くすると,被密封流体による潤滑が期待できるのであるから,中間室
の圧力を被密封流体より低くすることは理にかなっており,阻害要因はない。
 9 作用効果についてみるに,引用発明は,接触型シールと非接触型シールとか
らなるタンデムシールにおいて,中間室に,パージガスを注入するようにした構成
を備えているのである。本件明細書(甲第14号証)には,本件発明の作用,効果
として,「【作用】被密封流体領域とパージ流体領域とをシールする第1メカニカ
ルシールについては,摺動可能な第2密封環に被密封流体圧力が背圧として作用す
ることから,パージ流体領域の流体圧力を被密封流体圧力より低くしておくことが
でき,シール部分に作用する負荷を大幅に低減することができる。したがって,被
密封流体が液体アンモニア等の揮発性流体ないし低沸点流体である場合や高圧流体
である場合にも,良好かつ安定したシール機能を発揮する。一方,大気領域とパー
ジ流体領域とをシールする第2メカニカルシールについては,それが非接触型のガ
スシールであることから,パージ流体圧力が被密封流体圧力よりも低圧であること
とも相俟って,高圧条件下においても良好なシール機能を発揮する。」(【001
0】~【0011】),「【発明の効果】以上の説明から明らかなように,本発明
によれば,高圧条件下や液体アンモニア等の揮発性流体ないし低沸点流体に対して
も,良好かつ安定したシール機能を発揮し得る信頼性の高い軸封装置を提供するこ
とができる。しかも,パージ流体の循環を行うための周辺機器を必要とせず,装置
構造を簡素化することができる。」(【0025】)と記載されているが,これら
の作用効果は,いずれも,引用発明(パージガス圧力を除いた構成)により奏され
る作用効果であるといえる。上記において,「パージ流体圧力が被密封流体圧力よ
りも低圧であることとも相俟って,高圧条件下においても良好なシール機能を発揮
する」(【0025】)との記載が認められるが,具体性に欠けている。したがっ
て,本件発明において,中間室に被密封流体よりも低圧のパージガスを注入した点
による格別の作用効果を認めることはできない。
 10 以上のとおりであり,また,取消事由3で主張されている相違点以外の本
件発明の構成が引用発明と一致するとした審決の認定については,当事者双方とも
特段の主張立証をしていないところである。そうすると,本件発明は,引用発明及
び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきであ
る。したがって,原告主張の取消事由3は理由があり,審決は違法として取り消さ
れるべきである。
第6 結論
 以上のとおりであり,原告の請求は認容されるべきである。
  東京高等裁判所知的財産第4部
        裁判長裁判官 塚  原  朋  一
           裁判官  塩  月  秀  平
裁判官髙  野  輝  久

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