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平成26年9月24日判決言渡
平成26年(行コ)第145号,同年(行コ)第211号相続税更正処分取消請求控
訴,同附帯控訴事件
主文
1原告Aの本件控訴について
(1)原告Aの本件控訴を棄却する。
(2)控訴費用は,原告Aの負担とする。
2原告Cの本件附帯控訴について
(1)原告Cの本件附帯控訴に基づく主位的請求の拡張請
求部分に係る訴えを却下する。
(2)原告Cの本件附帯控訴に基づく予備的請求(当審にお
ける追加請求)を棄却する。
(3)附帯控訴費用は,原告Cの負担とする。
3被告の本件控訴について
(1)被告の本件控訴を棄却する。
(2)控訴費用は,被告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1原告Aの控訴の趣旨
(1)原判決主文2項及び3項を次のとおり変更する。
(2)奈良税務署長が原告Aに対し平成22年7月5日付けでした,被相続人
Bの平成19年▲月▲日に開始した相続に係る原告Aの相続税について
の更正処分のうち納付すべき税額6249万7100円を超える部分を取
り消す。
2原告Cの附帯控訴の趣旨
(1)主位的請求
①原判決主文1項を次のとおり変更する。
②奈良税務署長が原告Cに対し平成22年7月5日付けでした,被相続人
Bの平成19年▲月▲日に開始した相続に係る原告Cの相続税につい
ての更正処分のうち納付すべき税額16億8597万5300円を超え
る部分を取り消す(原告Cは,当審において,このように原審の請求を拡
張し,これを主位的請求とした。)。
(2)予備的請求
被告は,原告Cに対し,2955万2100円を支払え(原告Cは,当審
において,この請求を追加した。)。
3被告の控訴の趣旨
(1)原判決中被告敗訴部分を取り消す。
(2)上記取消しに係る部分の原告らの請求をいずれも棄却する。
第2事案の概要
略語は,特に断らない限り,原判決と同一のものを用いる。
1(1)原告らの父である亡Bは,平成16年9月9日,Dとの間で,原告Cを
死亡給付金の受取人とする変額個人年金保険契約,及び,原告Aを死亡給付
金の受取人とする変額個人年金保険契約(本件各保険契約)を締結し,払込
保険料として各1億円を支払った。
その際,亡Bは,本件各保険申込書において,契約者が自ら受け取る年金
について10年の据置期間経過後に15年間にわたって確定年金を受領す
る旨を記載し,死亡給付金についても「年金支払特約」欄の「付加する」に
丸印を付したが,①年金基金への充当額,②年金の種類,及び③年金
の支払期間については明示的な指定をしておらず,本件各保険申込書にはそ
れらを指定する欄も設けられていなかった。
Dは,亡Bに対し,本件各保険契約に係る保険証券を交付したが,その裏
面の「適用条項・特約」欄には「年金支払特約」と記載されていた(甲1の
2,甲2の2)。
上記の「年金支払特約」に係る本件各特約(ご契約のしおり・約款〔甲7〕
中の年金支払特約)によれば,①本件各特約は,元保険契約申込みの際及
び元保険契約継続中は保険契約者の申出により,保険金,死亡給付金等(保
険金等)の支払事由発生後はその受取人の申出により締結され(1条),②
保険金等の支払事由が発生した時(保険金受取人がこの特約を締結したと
きは締結時)に,保険金等の全部又は一部が年金基金に充当され(2条),
③年金受取人は,年金支払請求書を提出して年金を請求することとされ
(13条),④保険契約者は,元保険契約継続中に限り,年金種類その他
年金支払の内容を変更することができるとされていた(16条1項)。
(2)亡B(大正14年▲月▲日生。死亡当時81歳)は,前記の年金支
払特約における年金の種類及び年金の支払期間について具体的な指定をし
ないまま,平成19年▲月▲日死亡した(甲3)。
(3)アDは,本件各保険契約に基づく本件各死亡給付金の受取人とされてい
た原告らに対し,「給付金支払請求書」(乙8の1・2)及び「年金支払
特約のご案内」(乙7の1・2)を送付した。
イ原告Cは平成19年7月31日付けで「年金支払特約のご案内」を,原
告Aは同年8月7日付けで「年金支払特約のご案内」をそれぞれDに対し
返送し,いずれも,同書面の下段にある「□年金支払を希望します。」
との欄の□にレ点を付した(乙7の1・2)。
ウ原告らは,Dに対し,平成19年8月7日付けの「給付金支払請求書」
(乙8の1・2)を返送した。
エまた,原告らは,Dから送付を受けた「年金支払請求書年金保険用【年
金支払特約(初回請求用)】」に,年金支払申込内容として,①年金基
金充当額の全部又は一部を選択する欄,②年金の種類を選択する欄,③
年金の支払期間を選択する欄があることを利用して,平成19年8月2
0日付けの本件各年金支払請求書(乙2の1・2)をもって,Dに対し,
①年金基金に充当する額を「保険金等(但し差引支払額)の全額」と指
定し,②年金の種類を「確定年金」と指定し,③年金支払の期間を「3
6年」と指定した(以下「本件各指定」という。)。
(4)原告らは,本件各死亡給付請求権は,相続税法24条1項に規定する定
期金給付契約に関する権利であって,同項1号に規定する「有期定期金」で
「残存期間が35年を超えるもの」に該当するから,その相続税に係る評価
額は,原告らが受け取るべき死亡給付金の総額各1億4515万7076円
に100分の20を乗じた2903万1415円であるとする前提に立っ
て,亡Bの本件相続における原告らの相続税に係る平成20年4月8日付け
の本件申告(甲3)及び平成21年11月4日付けの本件修正申告(甲4)
をした。
(5)奈良税務署長は,平成22年7月5日,原告らに対し,本件各死亡給付
金請求権は,相続税法24条1項に規定する定期金給付契約には当たらず,
その評価額は亡Bの保険会社への払込金額1億円であるとの前提に立って,
亡Bの本件相続に係る原告らの相続税の各更正処分をした(甲5,6)。
(6)補助参加人(平成26年7月1日,E生命保険株式会社からF生命保険
株式会社へと商号を変更した。)は,平成24年5月31日,Dから保険契
約の包括移転を受け,本件各保険契約における保険者の地位を承継した(丙
2)。
(7)本件は,原告らが,被告に対し,本件申告及び本件修正申告時と同様に,
本件各死亡給付請求権は,相続税法24条1項に規定する定期金給付契約に
関する権利であって,同項1号に規定する「有期定期金」で「残存期間が3
5年を超えるもの」に該当すると主張して,原告Cの相続税に係る本件更正
処分1(原告Cの納付すべき税額17億2236万7000円)のうち納付
すべき税額17億1552万7400円を超える部分(差額683万960
0円)の取消しを,原告Aの相続税に係る本件更正処分2(原告Aの納付す
べき税額1億2013万8300円)のうち納付すべき税額6249万71
00円を超える部分(差額5764万1200円)の取消しをそれぞれ求め
た事案である。
2その他の事案の要旨,関係法令等の定め,前提事実,本件各更正処分の適法
性及びその価額の内訳に関する被告の主張,争点,争点に関する当事者の主張
の要点は,当審における被告の補充主張を後記4に,当審における原告Cの本
件附帯控訴に係る補充主張を後記5に,当審における原告Cの本件附帯控訴に
係る補充主張に対する被告の反論を後記6にそれぞれ加えるほかは,原判決の
「事実及び理由」中「第2事案の概要等」の1~6に記載のとおりであるか
ら(ただし,原告ら主張の端数調整法に係る主張〔原判決の「第2事案の概
要等」中の6(3)イ〕のうち,原告Cに係る部分を除く。),これを引用する。
3(1)原審は,次のように判断して,「1奈良税務署長が原告Cに対し平成2
2年7月5日付けでした,被相続人Bの平成19年▲月▲日に開始した相
続に係る原告Cの相続税についての更正処分のうち納付すべき税額17億1
552万7400円を超える部分を取り消す。2奈良税務署長が原告Aに
対し平成22年7月5日付けでした,被相続人Bの平成19年▲月▲日に
開始した相続に係る原告Aの相続税についての更正処分のうち納付すべき税
額8713万3900円を超える部分を取り消す。3原告Aのその余の請
求を棄却する。」との判決を言い渡した。
ア①亡Bが,本件各保険申込書(乙1の1・2)の「年金支払特約」欄の
「付加する」に丸印を付したことなどにより,Dとの間で本件各保険契
約を締結した際に年金支払特約(本件各特約)を付加する合意をしたと
認めることができる。
②年金基金への充当額の指定については,亡Bが本件各保険契約締結時
に,本件各死亡給付金の全額を年金基金に充当するとの指定をしていた
ものと評価することができる。
③年金の種類については,相続開始後年金支払開始日(年金の支払の履
行時期)までの間に,受取人である原告らが年金支払期間を36年の確
定年金とする旨を指定している。
④相続税法24条は,取得の時における定期金給付契約に関する権利の
評価については,厳密にこれを行うことが困難であるとの前提に立って,
同法22条にいう特別の定めとして,専ら同法24条が定める簡易な方
法を用いて行う旨を定めた規定である。
⑤したがって,本件各死亡給付金請求権は,相続税法24条1項1号に
規定する「有期定期金」で「残存期間が35年を超えるもの」に該当す
る。
イ相続税法17条に従い,本件相続人らそれぞれに係る相続税の課税価格
を分子とし,本件相続人ら全員に係る課税価格の合計額を分母とする分数
を本件相続人らそれぞれに係る按分割合の数値として,本件相続人らそれ
ぞれに係る相続税額を計算するのが相当であり,原告ら主張の端数調整法
を採用することはできない。
ウそうすると,原告Cの相続税額は16億8597万5300円となり,
原告Aの相続税額は8713万3900円となるところ,原告Cの相続税
額は,本件更正処分1のうち原告Cが取消しを求める相続税額17億15
52万7400円を超える部分を下回るから,原告Cの請求は全て理由が
あるものとして認容する。また,本件更正処分2のうち相続税額6249
万7100円を超える部分の取消しを求める原告Aの請求は,相続税額8
713万3900円を超える部分の取消しを求める限度で理由があるから
その限度で認容し,その余の原告Aの請求は理由がないから棄却すべきで
ある。
(2)これに対し,原告Aは,同原告敗訴部分(原判決主文3項。原審で認容さ
れた相続税額8713万3900円を超える部分の取消請求と,相続税額6
249万7100円を超える部分の取消請求の差額2463万6800円に
係る取消請求の棄却部分)を不服として控訴を提起した。また,被告は,被
告敗訴部分(本件各更正処分における原告Cに係る相続税額17億2236
万7000円-原審で認められた原告Cの相続税額17億1552万740
0円=683万9600円と,原告Aに係る相続税額1億2013万830
0円-原審で認められた原告Aの相続税額8713万3900円=3300
万4400円の合計3984万4000円に係る取消部分)を不服として控
訴を提起した。さらに,原告Cは,本件更正処分1のうち取消請求の対象と
なる相続税額を「17億1552万7400円を超える部分」から「16億
8597万5300円を超える部分」(上記各相続税額の差額2955万21
00円に係る部分)へと原審の請求を拡張し(主位的請求),これが認容され
ない場合には,過大に納付した2955万2100円相当の不当利得の返還
を求める請求(予備的請求)を追加する内容の本件附帯控訴を提起した。し
たがって,原告Cの本件附帯控訴に基づく主位的請求については,当審にお
ける拡張請求部分のみが同附帯控訴に基づき当審における審判の対象となっ
ている。
4当審における被告の補充主張
(1)本件各特約を締結したのは原告らであって亡Bではないから,相続税法2
4条1項の適用はないこと
ア亡Bは,本件各特約において,年金基金充当額,年金の種類,年金の支
払期間など年金の重要な給付内容を何一つ決定しておらず,相続開始時に
は定期金給付契約が存在していなかったといえるから,本件各特約を締結
したのは原告らである。
イDが,年金支払事由の発生後に,保険金等受取人に,本件各支払請求書
(乙2の1・2)の「年金基金充当額」欄に記入をさせて年金基金充当額
を決定させていたことに照らせば,年金基金充当額を指定していない保険
契約者である亡Bの合理的意思としては,専ら保険金等受取人に充当範囲
の指定を委ねたものであると解するのが相当である。
ウDは,「年金支払特約のご案内」の返送を受けなければ,原告らに対し,
死亡給付金を一時金で支払うこととしていたところ,原告らは,亡Bの相
続開始後に,同書面(乙7の1・2)及び本件各支払請求書(乙2の1・
2)により本件各指定をしたから,本件各特約を締結したのは原告らであ
る。
エ仮に,亡Bが本件各特約を締結したとすると,本件特約条項2条(甲7
の80頁)によれば,年金基金の設定は,保険金等の支払事由が発生した
時となるから,亡Bが死亡した平成19年▲月▲日に年金基金が設定さ
れたことになるところ,本件特約条項上,年金基金の設定後に年金の種類
の変更をすることはできないから(本件特約条項16条1項〔甲7の82
頁〕),保険金等の支払事由の発生後(亡Bの死亡後)に保険金等の受取
人が年金の種類等を指定することは,本件各特約上は許されないはずであ
る。そうであるのに,原告らが亡Bの死亡後に,年金の種類等を指定した
というのは(乙2の1・2),保険金受取人である原告らが本件各特約の
新たな締結者として年金の種類等を指定したものであると理解するほか
ない。
(2)本件各特約が付された本件各保険契約は,「定期金給付契約」(相続税法2
4条1項柱書き)に該当しないこと
ア平成2年法律第50号による改正前の相続税法(以下「旧相続税法」と
いう。)24条1項は,「郵便年金契約その他の定期金給付契約で当該契約
に関する権利を取得した時において定期金給付事由が発生しているものに
関する権利の価額は左(注:同項1号ないし4号)に掲げる金額による」
と規定し,定期金給付契約の代表的なものとして郵便年金契約を例示して
いた。この点,郵便年金契約について規定していた郵便年金法は,平成2
年法律第50号により廃止されたが,当該廃止直前の郵便年金法(以下「郵
便年金法」という。)及び郵便年金約款によれば,郵便年金契約においては,
年金の種類,支払期間が契約締結時に当事者間で定められていた。その後,
平成2年の相続税法の改正において,「郵便年金契約その他の」との文言が
削除されたが,それは,簡易生命保険法の一部を改正する法律(平成2年
法律第50号)により,郵便年金法が廃止され,郵便年金が簡易保険の中
の年金保険という位置付けに改められたことに伴う形式的な改正であって,
同項の趣旨や実質的内容が変更されたものではなかった。
イそして,相続税法24条1項は,定期金給付契約に関する権利を同項各
号に掲げるものとして分類し,同項各号に当てはまらない権利については,
何ら定めていない。
ウ他方,相続税法23条は,地上権の評価について存続期間の定めのない
ものについての規定を設けている。
エ以上ア~ウの諸事情を併せ考えれば,相続税法24条1項柱書きに規定
する「定期金給付契約」とは,権利を取得した時点(相続開始時)におい
て,年金の種類などの年金の給付内容が定まっている契約,すなわち,契
約によりある期間定期的に金銭その他の給付を受けることを目的とする債
権であって,権利の取得時(相続開始時)までに毎期に給付すべき額が確
定しているものをいうと解すべきであり,少なくとも年金の種類等,同項
各号のいずれの類型に該当するかさえ定まっていない本件各保険契約はこ
れに当たらないというべきである。
(3)本件相続開始後の本件各指定によって確定した年金の種類等を前提とし
て,本件各死亡給付金請求権に相続税法24条1項各号を適用することはで
きないこと
ア相続は,人(被相続人)の死亡によって開始し(民法882条),それ
と同時に相続財産に属する権利義務の一切が,相続人の知,不知又は事実
的占有取得の有無を問わず,当然かつ包括的に相続人に移転承継するとい
う実体的効果を生じさせるのであるから(同法896条),相続税の納税
義務は,相続開始の時,すなわち相続等によって財産を取得した時に成立
するのが原則である(国税通則法15条2項4号)。相続税法においても,
相続財産の評価に当たって,相続財産を相続開始時点における時価により
評価すべきであることが原則とされている(相続税法22条)。そうする
と,明文の規定なくして,課税時期後に生じた事情を考慮することは許さ
れないから,相続開始後に原告らが年金の種類を確定年金とし,年金の支
払期間を36年とする旨の本件各指定をしたことを考慮することはでき
ない。
イ(ア)昭和23年7月7日法律第107号による改正前の相続税法(以下
「昭和22年相続税法」という。)34条(現行の相続税法24条に相当)
1項1号は「有期定期金については,相続開始の時の現況により,残存
期間に受くべき給付金額に,その残存期間に応じ,左の割合を乗じて算
出した金額。但し,1年間に受くべき金額の20倍を超えることができ
ない。」と規定し,また,同項3号は「終身定期金については,相続開始
の時の現況により,1年間に受くべき金額に,その目的とされた人の年
齢に応じ,左の倍数を乗じて算出した金額」と規定し,有期定期金又は
終身定期金の価額は,相続開始の時の現況により評価することが明記さ
れていた(乙19の144頁・145頁)。
(イ)昭和25年3月31日法律第73号による相続税法の改正により,
相続税法(昭和26年3月28日法律第40号による改正前のもの。以
下「昭和25年相続税法」という。)24条1項1号は「有期定期金につ
いては,その残存期間に応じ,その残存期間に受けるべき給付金額の総
額に,左に掲げる割合を乗じて計算した金額」と改正されて,「相続開始
の時の現況により」という文言が削除されるとともに,同条1項柱書き
が,従前の「相続財産たる定期金に関する権利で相続開始の時までに給
付事由の発生しているものの価額は,左に掲げる金額による。」という規
定から「郵便年金契約その他の定期金給付契約で当該契約に関する権利
を取得した時において定期金給付事由が発生しているものに関する権利
の価額は,左に掲げる金額による。」と改正された(乙20の197頁・
198頁)。
(ウ)この点について,昭和25年相続法の税制改正を解説した「昭和の
税制改正」(乙21)や当時の実務書であった「相続税富裕税の実務」(乙
18)には,当該改正の趣旨について何ら触れられておらず,また,昭
和22年相続税法における財産評価の原則的な考え方について変更があ
ったとする記載もないことからすると,昭和22年相続税法における「相
続開始の時の現況により」という文言は,いわば条文の形式的・技術的
な改正によって削除されたと考えられ,昭和22年相続税法における同
法34条の趣旨や実質的な内容,すなわち,相続開始の時の現況により
定期金給付契約に関する権利の評価を行うべきことについては,昭和2
5年相続税法以降においても何ら変更がされていない。
ウ仮に,相続財産の取得時点において,年金の種類等が確定していないこ
とを理由に,その後の事情を考慮して相続財産の評価をすることを認める
ならば,相続人である原告らの意思によって,みなし相続財産たる本件各
死亡給付金請求権の評価額を本件相続開始後において自由に決定すること
を可能にし,納税者において相続税の負担を容易に回避することができる
手段を与えることとなる上に,保険契約の申込時において年金の種類及び
年金の支払期間が定められた他の保険商品に係る定期金の権利を取得した
者との間における課税の公平性を著しく害するから,不当である。
5当審における原告Cの本件附帯控訴に係る補充主張
(1)原告Cの本件附帯控訴に基づく主位的請求(本件更正処分1の取消請求)
の拡張請求について
更正の請求の手続を経ずに申告に係る税額の減額の請求を認めることが,
租税債務の安定的かつ可及的速やかな確定の要請を害さないといえる場合に
は,更正の請求の原則的排他性の趣旨には抵触しないから,その例外として,
当該請求を認めるべきである。原告Cは,平成20年4月8日に本件申告を
した後,平成21年11月4日に本件修正申告をし,一旦相続税額が確定し
たものの,平成22年7月5日に本件更正処分1が行われたため,それ以後,
同処分に対する異議申立て手続及び審査請求手続を経て,本件訴訟に至って
おり,一連の争訟手続において,原告Cの相続税額が争点となっており,そ
の税額が確定していない。そして,原判決の理由中において,原告Cの納付
すべき相続税額が16億8597万5300円であることが明確に判示され
ている。このような経過に照らせば,納付すべき相続税額16億8597万
5300円を超える部分について,本件更正処分1の取消しを求める原告C
の本件附帯控訴に基づく拡張請求部分は,租税債務の安定的かつ可及的速や
かな確定の要請を害さず,更正の請求の原則的排他性の趣旨には抵触しない
といえるから,これを認めるべきである。
(2)原告Cの本件附帯控訴に基づく予備的請求(不当利得返還請求。当審にお
ける追加請求)について
課税処分そのものが取消し又は変更されなくても,国は,同処分に基づい
て先に徴収した所得税額のうち正義公平の原則にもとる著しく不当な税額に
ついては,不当利得として納税者に返還する義務がある(最高裁昭和49年
3月8日第二小法廷判決・民集28巻2号186頁参照)。本件においても,
本件附帯控訴に基づく主位的請求の拡張請求部分が認容されなければ,原告
Cは,2955万2100円の相続税を過大に納付し,国は,法律に基づか
ない過大な利益を保持することになるから,同額の不当利得返還責任がある。
6当審における原告Cの本件附帯控訴に係る補充主張に対する被告の反論
(1)原告Cの本件附帯控訴に基づく主位的請求の拡張請求について
原告Cの本件附帯控訴に基づく主位的請求の拡張請求は,本件修正申告に
おいて原告Cが納付すべき相続税額として自ら納税義務を確定させた,納付
すべき税額17億1552万7400円を超えない部分の取消しを求めるも
のであるから,訴えの利益がなく,不適法なものとして,却下を免れない。
国税通則法及び相続税法が申告の過誤の是正につき更正の請求(国税通則
法23条,相続税法32条)という特別の規定を設けた趣旨は,課税標準等
の決定については,最もその間の事情に通じている納税者自身の申告に基づ
くものとし,その過誤の是正は法律が特に認めた場合に限る建前とすること
が,租税債務を可及的速やかに確定させるべき国家財政上の要請に応じるも
のであり,納税者に対しても過当な不利益を強いるおそれがないと認めたか
らである(最高裁昭和39年10月22日第一小法廷判決・民集18巻8号
1762頁)。この趣旨からすれば,申告が過大であるとしてその内容を是正
するについては,特段の事情がない限り,更正の請求という手続以外の方法
でこれを主張することは許されない(最高裁昭和57年2月23日第三小法
廷判決・民集36巻2号215頁)。そうすると,更正の請求という特別の手
続を経ることなく,申告額を超えない部分についてまで取消しを求めること
は,申告の錯誤が客観的に明白かつ重大であって,更正の請求以外に是正を
許さなければ納税者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がない限
り,申告額を超えない部分の取消しを求める訴えは,訴えの利益を欠き,不
適法なものというべきである。本件においては,上記の特段の事情がないか
ら,原告Cの本件附帯控訴に基づく主位的請求の拡張請求部分に係る訴えは,
不適法なものとして,却下されるべきである。
(2)原告Cの本件附帯控訴に基づく予備的請求(不当利得返還請求。当審にお
ける追加請求)について
原告Cは,自らの責任と判断に基づき本件修正申告をし(甲4),これによ
り本件相続に係る相続税額は17億1552万7400円であることが有効
に確定しているから,これを下回る部分について国に不当利得は生じていな
い。そして,更正の請求(国税通則法23条,相続税法32条)によらず,
不当利得返還請求により更正の請求と同じ経済的利益を得ることは認められ
ないから,原告Cの予備的請求は理由がない。
第3当裁判所の判断
1当裁判所は,(1)本件各死亡給付金請求権(基本権)について,相続税法
24条1項が適用されることを前提とする原告Cの原審における請求は理由
があるから全部認容し,原告Aの請求は原判決が認容した限度(原判決主文2
項)で理由があるからその限度で認容し,その余は理由がないから棄却すべき
であり,(2)原告Cの本件附帯控訴に基づく主位的請求の拡張請求部分に係
る訴えは,訴えの利益を欠き,不適法なものであるからこれを却下し,(3)原
告Cの本件附帯控訴に基づく予備的請求(当審における追加請求)は,被告に
不当利得返還責任があるとはいえず,理由がないから棄却すべきであると判断
する。
その理由は,次のとおり補正し,当審における被告の補充主張に対する判断
を後記2のとおり,当審における原告Cの本件附帯控訴に係る補充主張等に対
する判断を後記3のとおりそれぞれ加えるほかは,原判決の「事実及び理由」
中「第3当裁判所の判断」の1~3に記載のとおりであるから,これを引用
する。
(1)原判決28頁23行目の「しかし,」の次に「亡Bが,年金基金への充当
額を一部に限定する選択が可能であることをうかがわせる記載が全くない本
件各保険申込書(乙1の1・2)において,その『年金支払特約』の『付加す
る』欄に単純に丸印を付していたことに照らせば,本件各保険申込書の外形
的記載からする限り,契約上の権利(死亡給付金請求権)の全体について『年
金支払特約』を付するものであって,本件各死亡給付金の全額を年金基金へ
充当する趣旨であったと解するのが自然である。また,年金基金への充当額
を一部に限定する選択が可能であるとする約款(本件特約条項2条)を考慮
しても,」を加える。
(2)原判決34頁13行目の「一般の社会通念に照らし,」を,15行目から
16行目にかけての「租税に関する法令の解釈が一般の社会通念からかけ離
れたものであってはならないことは論を待たないところであり,また,」を,
及び,35頁2行目の「上記のような」から5行目末尾までをいずれも削る。
2当審における被告の補充主張に対する判断
(1)本件各特約を締結したのは原告らであって亡Bではないから相続税法2
4条1項の適用はないとの被告の主張について
ア被告は,「亡Bは,本件各特約において,年金基金充当額,年金の種類,
年金の支払期間など年金の重要な給付内容を何一つ決定しておらず,相続
開始時には定期金給付契約が存在していなかったといえるから,本件各特
約を締結したのは原告らである。」旨主張する(前記第2の4(1)ア)。
しかし,前記第2の1(1)記載のとおり,亡Bは,本件各保険申込書(乙
1の1・2)の「年金支払特約」欄の「付加する」に丸印を付し,保険証
券の裏面の「適用条項・特約」欄には「年金支払特約」と記載されていた
(甲1の2,甲2の2)。そして,民法上の「終身定期金契約」における
「定期金」とは,例えば,毎年・毎月・毎週・盆・暮のように一定の時期
に回帰的に給付がされることを内容とするものをいうと解され(丙5の1
97頁参照),民法上の終身定期金契約における「定期金」契約が成立す
るためには,その定期金の債務者が具体的な給付を行う上で確定する必要
のある各期の支払額は,契約締結時までではなく,履行期までに確定し得
べきものであればよいと解される(丙5の212頁参照)。そうすると,
終身定期金と同様に,本件各死亡給付金の年金支払特約に係る毎期の定期
金も,契約締結時までではなく,その履行期(支払時期)までに確定され
れば有効に定期金契約が成立したものというべきである。
これを本件についてみるに,本件各特約においては,第1回年金支払の
履行期は,本件普通保険約款20条の規定によれば,原則として必要書類
が当時のDの主たる店舗に到着してから5営業日以内の日であるとされ
ているところ(甲7の66頁),原告らは,Dに対し,上記の「必要書類」
の1つであると認められる平成19年8月20日付けの本件各支払請求
書(乙2の1・2)を提出すると同時に年金の種類等に係る本件各指定を
したから,履行期までに年金の種類及び年金の支払額を確定させたもので
あるといえる。
そして,本件各特約条項においては,保険契約者のみならず,死亡給付
金の支払事由発生後はその受取人の申出により年金支払特約を新たに締
結することができ,この特約が締結されたときは,保険金等の支払事由が
発生した時(保険金受取人がこの特約を締結したときは締結時)に,保険
金等の全部又は一部を年金基金に充当する旨が明記されている以上(1条,
2条),保険契約者が年金支払特約を付する意思を明確にしている場合に
は,たとえ年金の種類及び年金の支払期間が指定されていなくとも,保険
金受取人においてそれら(未定であった特約の一部)を履行期までに補充
的に指定することを許容する趣旨であると解される。
そうすると,亡BとDとの間で定期金給付契約が有効に存在していたも
のというべきである。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
イまた,被告は,「Dが,年金支払事由の発生後に,保険金等受取人に,
本件各支払請求書(乙2の1・2)の『年金基金充当額』欄に記入をさせ
て年金基金充当額を決定させていたことに照らせば,年金基金充当額を指
定していない保険契約者である亡Bの合理的意思としては,専ら保険金等
受取人に充当範囲の指定を委ねたものであると解するのが相当である。」
旨主張する(前記第2の4(1)イ)。
しかし,本件各保険契約締結後に記入した書類の記載内容をもって,亡
Bの本件各保険契約締結当時の合理的意思を推測することはできない。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
ウ被告は,「Dは,『年金支払特約のご案内』の返送を受けなければ,原
告らに対し,死亡給付金を一時金で支払うこととしていたところ,原告ら
は,亡Bの相続開始後に,同書面(乙7の1・2)及び本件各支払請求書
(乙2の1・2)により本件各指定をしたから,本件各特約を締結したの
は原告らである。」旨主張する(前記第2の4(1)ウ)。
しかし,Dが,「年金支払特約のご案内」の返送を受けなければ,死亡
給付金を一時金で支払うこととしていると認めるに足りる客観的かつ的
確な証拠はない。また,本件各支払請求書や「年金支払特約のご案内」と
題する書面は,年金の受取人が,既に亡Bとの間で有効に存在していた本
件各特約の契約内容を確認し,本件特約条項1条,2条(甲7の80頁)
の趣旨に従って未確定の年金の種類等を年金支払の履行期までに補充的
に指定し,又は,特約の全部若しくは一部の解約をするものであると解さ
れるから,それらの書面の存在・送付・返送をもって,本件各特約が亡B
との間で存在していなかったとか,原告らが本件各特約の新たな当事者と
して締結したものであるとはいえない。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
エまた,被告は,「仮に,亡Bが本件各特約を締結したとすると,本件特
約条項2条(甲7の80頁)によれば,年金基金の設定は,保険金等の支
払事由が発生した時となるから,亡Bが死亡した平成19年▲月▲日に
年金基金が設定されたことになるところ,本件特約条項上,年金基金の設
定後に年金の種類の変更をすることはできないから(本件特約条項16条
1項〔甲7の82頁〕),保険金等の支払事由の発生後(亡Bの死亡後)
に保険金等の受取人が年金の種類等を指定することは,本件各特約上は許
されないはずである。そうであるのに,原告らが亡Bの死亡後に,年金の
種類等を指定したというのは(乙2の1・2),保険金受取人である原告
らが本件各特約の新たな締結者として年金の種類等を指定したものであ
ると理解するほかない。」旨主張する(前記第2の4(1)エ)。
しかし,本件特約条項16条1項(甲7の82頁)が,年金基金の設定
後に年金の種類の変更をすることはできないと定めているのは,保険契約
者が年金の種類等を指定した後に自らこれを変更することができないこ
とを定めたものにすぎず,亡Bの死亡後に保険金等の受取人が年金の種類
を指定することができないとするものではないと解される。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
(2)本件各特約が付された本件各保険契約は,「定期金給付契約」(相続税法2
4条1項柱書き)に該当しないとの被告の主張について
被告は,「①旧相続税法24条1項は,『郵便年金契約その他の定期金給
付契約で当該契約に関する権利を取得した時において定期金給付事由が発生
しているものに関する権利の価額は左(注:同項1号ないし4号)に掲げる
金額による』と規定し,定期金給付契約の代表的なものとして郵便年金契約
を例示していたが,郵便年金契約においては,年金の種類,支払期間が契約
締結時に当事者間で定められていた。その後,平成2年の相続税法の改正に
おいて,『郵便年金契約その他の』との文言が削除されたが,それは,郵便年
金法が廃止されことに伴う形式的な改正であって,同項の趣旨や実質的内容
が変更されたものではなかった。また,②相続税法24条1項が,定期金
給付契約に関する権利を同項各号に掲げるものとして分類し,同項各号に当
てはまらない権利については,何ら定めていない。他方で,③相続税法2
3条は,地上権の評価について存続期間の定めのないものについての規定を
設けている。これら①~③の諸事情を併せ考えれば,相続税法24条1項柱
書きに規定する『定期金給付契約』とは,権利を取得した時点(相続開始時)
において,年金の種類などの年金の給付内容が定まっている契約をいうと解
すべきであり,年金の種類等,同項各号のいずれの類型に該当するかさえ定
まっていない本件各保険契約はこれに当たらないというべきである。」旨主張
する(前記第2の4(2))。
しかし,①旧相続税法24条1項柱書きには「郵便年金契約その他の定
期金給付契約」と規定されていたが,「その他の」という用語は,その後にあ
る,より内容の広い意味を有する字句の例示として,その一部を成している
場合に用いられることが多いから(丙22),「その他の」の後にある「定期
金給付契約」は「郵便年金契約」と比べてより広い意味内容を有すると解釈
するのが自然である。そうすると,例示されていた郵便年金契約の年金の種
類等が契約締結時に定まっているものであったからといって,それと同様に
契約締結時に年金の種類等が定まっている定期金給付契約についてのみ相続
税法24条1項が適用されるべきであるとはいえない。また,②確かに,
相続税法24条1項各号は,有期定期金,無期定期金及び終身定期金の3種
類のみを挙げ,「存続期間の定めのない」定期金についての評価規定をおいて
いないが,民法上,典型契約の1つである終身定期金契約における定期金に
は,有期定期金(終身定期金は有期定期金の一種としての不確定終期定期金
である。)と無期定期金の2種類があり,存続期間の定めのない定期金は一般
に観念されていない上(丙23),年金の種類等が年金支払の履行期までに確
定しないときは,その定期金給付契約は無効であるといえるから,「存続期間
の定めのない」定期金契約について,相続税法でそれに対応した規定を設け
る必要がないと考えられることに照らせば,存続期間の定めのない定期金契
約について明示的な評価規定を設けていないことをもって,そのような契約
について相続税法24条1項を一切適用しない趣旨であるとはいえない。さ
らに,③存続期間の定めのない地上権については,設定行為後に,裁判所
が当事者の請求によって20年以上50年以下の範囲内において存続期間を
定めることができる旨が規定されているから(民法268条2項),相続税法
23条がこれに対応した規定を設けたものと考えられること(丙24)に照
らせば,同条が地上権の評価について存続期間の定めのないものについての
規定を設けているのに対し,同法24条1項が存続期間の定めのない定期金
給付契約に関する規定を設けていないことをもって,契約締結時に年金等の
種類が定まっていない定期金給付契約について相続税法24条1項が適用さ
れないとはいえない。以上の①~③によれば,契約締結時に年金等の種類が
定まっていない定期金給付契約について相続税法24条1項が適用されるべ
きでないとはいえない。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
(3)本件相続開始後の本件各指定によって確定した年金の種類等を前提とし
て,本件各死亡給付金請求権に相続税法24条1項各号を適用することはで
きないとの被告の主張について
ア被告は,「相続は,人(被相続人)の死亡によって開始し(民法882
条),それと同時に相続財産に属する権利義務の一切が,相続人の知,不
知又は事実的占有取得の有無を問わず,当然かつ包括的に相続人に移転承
継するという実体的効果を生じさせるのであるから(同法896条),相
続税の納税義務は,相続開始の時,すなわち相続等によって財産を取得し
た時に成立するのが原則である(国税通則法15条2項4号)。相続税法
においても,相続財産の評価に当たって,相続財産を相続開始時点におけ
る時価により評価すべきであることが原則とされている(相続税法22
条)。そうすると,明文の規定なくして,課税時期後に生じた事情を考慮
することは許されないから,相続開始後に原告らが年金の種類を確定年金
とし,年金の支払期間を36年とする確定年金とする旨の本件各指定をし
たことを考慮することはできない。」旨主張する(前記第2の4(3)ア)。
しかし,「当該相続又は遺贈により取得した財産の価額の合計額をもって,
相続税の課税価格とする。」旨規定している相続税法11条の2を適用する
に当たり,確かに,本来の相続財産の場合には,相続人は,被相続人から,
その死亡時に有していた財産を,その現況のまま承継取得することになる
ため,その取得時である死亡時(承継時・相続開始時)の現況に着目して,
相続税法の評価を行うことになると考えられる。これに対し,本件各死亡
給付金請求権は,「保険金」(相続税法3条1項1号)に該当するものとし
て,「相続又は遺贈により取得した財産」とみなされて,同法11条の2の
適用を受けることになる「みなし相続財産」である。みなし相続財産の場
合には,相続人は,みなし相続財産を被相続人から承継取得するのではな
いから,評価に当たって考慮すべき事情を相続開始時までの事情に限定す
る論理必然性はない。相続人は,財産取得の法律上の発生原因たる契約等
に基づき原始的に取得し,その権利の具体的な内容はその法律上の発生原
因たる契約等によって定められるものと解される。そうすると,相続税法
24条1項は,「相続財産について,相続開始時点における時価により評価
する」という「原則」を定める相続税法22条にいう「特別の定め」(例外
規定)として,本件特約条項に従って相続開始後の履行期までの間に確定
される年金の種類等(本件各指定)を考慮して本件各死亡給付金請求権(基
本権)の評価をすることを許容する規定であると解するのが相当である。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
イ被告は,「昭和22年相続税法における『相続開始の時の現況により』と
いう文言は,いわば条文の形式的・技術的な改正によって削除されたと考
えられ,昭和22年相続税法における同法34条の趣旨や実質的な内容,
すなわち,相続開始の時の現況により定期金給付契約に関する権利の評価
を行うべきことについては,昭和25年相続税法以降においても何ら変更
がされていない。」旨主張する(前記第2の4(3)イ)。
しかし,相続税法は,明治38年の制定以来,「遺産課税方式」(遺産全
体を課税物件とする方式)を採っていたが,いわゆる「シャウプ勧告」を
受けて行われた昭和25年法律第73号による改正により「遺産取得課税
方式」(相続・遺贈により遺産を取得したものを納税義務者として,その者
が取得した遺産を課税物件として課税する方式)に改められ,その後,昭
和33年法律第100号による改正により,法定相続分を加味する課税方
式に修正されたものの,基本的には,遺産取得課税方式により現在に至っ
ている(乙21の227頁,丙25)。
遺産課税方式であった昭和22年相続税法においては,課税物件が「遺
産」であった以上,その評価について,同法が,「相続開始時の現況により」
と規定していたのは論理上当然である。これに対し,遺産取得課税方式で
ある昭和25年相続税法においては,課税物件は納税義務者が「相続・遺
贈により取得した財産」であり(同法2条),その取得の時期,取得した財
産の内容は,私法上の取得原因(相続財産については相続,遺贈。みなし
相続財産についてはその発生原因)によって定まるものであり,その評価
について,「相続開始時の現況により」という要件が削除されたのは,相続
方式を遺産課税方式から遺産取得課税方式に変更したことに伴うものであ
るといえる。このような課税方式の重大な変更に照らせば,昭和22年相
続税法における同法34条の趣旨等(相続開始の時の現況により定期金給
付契約に関する権利の評価を行うべきこと)に何ら変更がなかったとする
被告の主張は,理由がない。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
ウ被告は,「仮に,相続財産の取得時点において,年金の種類等が確定して
いないことを理由に,その後の事情を考慮して相続財産の評価をすること
を認めるならば,相続人である原告らの意思によって,みなし相続財産た
る本件各死亡給付金請求権の評価額を本件相続開始後において自由に決定
することを可能にし,納税者において相続税の負担を容易に回避すること
ができる手段を与えることとなる上に,保険契約の申込時において年金の
種類及び年金の支払期間が定められた他の保険商品に係る定期金の権利を
取得した者との間における課税の公平性を著しく害することとなるから,
不当である。」旨主張する(前記第2の4(3)ウ)。
しかし,相続財産取得時以降のどの時点までのどのような範囲の事情が
考慮されるべきかについては,本件各死亡給付金請求権の発生原因である
本件各保険契約(本件普通保険約款・本件特約条項)が客観的に定めてい
ると解される以上,相続人である原告らの意思によって,みなし相続財産
たる本件各死亡給付金請求権の評価額を本件相続開始後において自由に決
定することを可能にし,課税の公平性を著しく害しているとはいえない。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
エその他,被告がるる主張する諸事情を検討しても,当裁判所の前記認定
判断を覆すべき事情及びそれを裏付けるに足りる客観的かつ的確な証拠は
ない。
3当審における原告Cの本件附帯控訴に係る補充主張等に対する判断
(1)原告Cの本件附帯控訴に基づく主位的請求(本件更正処分1の取消請求)
の拡張請求について
原告Cは,「平成20年4月8日に本件申告をした後,平成21年11月4
日に本件修正申告をし,一旦相続税額が確定したものの,平成22年7月5
日に本件更正処分1が行われたため,それ以後,同処分に対する異議申立て
手続及び審査請求手続を経て,本件訴訟に至っており,一連の争訟手続にお
いて,原告Cの相続税額が争点となっており,その税額が確定していない。
そして,原判決の理由中において,原告Cの納付すべき相続税額が16億8
597万5300円であることが明確に判示されている。このような経過に
照らせば,納付すべき相続税額16億8597万5300円を超える部分に
ついて,本件更正処分1の取消しを求める原告Cの本件附帯控訴に基づく拡
張請求部分は,租税債務の安定的かつ可及的速やかな確定の要請を害さず,
更正の請求の原則的排他性の趣旨には抵触しないといえるから,これを認め
るべきである。」旨主張する(前記第2の5(1))。
しかし,申告が過大であるとしてその内容を是正するについては,特段の
事情がない限り,更正の請求という手続以外の方法でこれを主張することは
許されない(最高裁昭和57年2月23日第三小法廷判決・民集36巻2号
215頁)。そうすると,更正の請求という特別の手続を経ることなく,申告
額を超えない部分についてまで取消しを求める訴えは,特段の事情がない限
り,訴えの利益を欠き,不適法なものというべきである。本件において,原
告Bは,本件修正申告により納付すべき税額17億1552万7400円を
超えない部分の納税義務を自ら確定させ,その後も更正の請求をしなかった
ものであって,上記の特段の事情があるとはいえず,他にこれを認めるに足
りる客観的かつ的確な証拠はない。
したがって,納付すべき税額16億8597万5300円を超える部分に
ついて本件更正処分1の取消しを求める原告Cの請求(本件附帯控訴に基づ
く主位的請求の拡張請求部分)は,訴えの利益がなく,不適法なものとして,
却下すべきである。
(2)原告Cの本件附帯控訴に基づく予備的請求(不当利得返還請求。当審にお
ける追加請求)について
原告Cは,「本件附帯控訴に基づく主位的請求の拡張請求部分が認められ
なければ,原告Cは,2955万2100円の相続税を過大に納付し,国は,
法律に基づかない過大な利益を保持することになるから,同額の不当利得返
還責任がある。」旨主張する(前記第2の5(2))。
しかし,原告Cは,本件修正申告をしたこと(甲4)により本件相続に係
る相続税額を17億1552万7400円の範囲内で確定させているから,
これを下回る部分についての国の徴税には法律上の原因があり,不当利得は
成立しない。
したがって,原告Cの本件附帯控訴に基づく予備的請求(不当利得返還請
求。当審における追加請求)は,理由がない。
(3)原告Aは,原告ら主張の端数調整法を採用すべきことを前提として,本件
控訴を提起したものと解される。
しかし,補正の上引用した原判決の「第3当裁判所の判断」中の2(1)
及び(2)に説示したとおり,相続税法17条によれば,本件相続人らそれぞれ
に係る相続税の課税価格を分子とし,本件相続人ら全員に係る課税価格の合
計額を分母とする分数を本件相続人らそれぞれに係る按分割合の数値として,
本件相続人らそれぞれに係る相続税額を計算するのが相当であり,原告ら主
張の端数調整方法を採用することはできない。
したがって,原告ら主張の端数調整法を採用すべきことを前提とする原告
Aの本件控訴は,理由がない。
(4)その他,原告らがるる主張する諸事情を検討しても,当裁判所の前記認定
判断を覆すべき事情及びそれを裏付けるに足りる客観的かつ的確な証拠はな
い。
第4結論
以上によれば,(1)本件各死亡給付金請求権(基本権)について,相続税
法24条1項が適用されることを前提とする原告Cの原審における請求は理
由があるから全部認容し,原告Aの請求は原判決が認容した限度(原判決主文
2項)で理由があるからその限度で認容し,その余は理由がないから棄却すべ
きであり,これと同旨の原判決は相当である。(2)原告Cの本件附帯控訴に
基づく主位的請求の拡張請求部分に係る訴えは,訴えの利益を欠き,不適法な
ものである。(3)原告Cの本件附帯控訴に基づく予備的請求(不当利得返還
請求。当審における追加請求)は,被告に不当利得返還責任があるとはいえず,
理由がない。
よって,(1)原告Aの本件控訴及び被告の本件控訴はいずれも理由がない
からこれらを棄却し,(2)原告Cの本件附帯控訴に基づく主位的請求の拡張
請求部分に係る訴えは却下し,(3)原告Cの本件附帯控訴に基づく予備的請
求(不当利得返還請求。当審における追加請求)は棄却することとして,主文
のとおり判決する。
東京高等裁判所第15民事部
裁判長裁判官井上繁規
裁判官齊木教朗
裁判官宮永忠明

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