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平成28年5月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成26年(ワ)第10534号契約金返還等請求事件
口頭弁論終結日平成28年4月14日
判決
原告株式会社サーナアルファ
(以下「原告サーナアルファ」という。)
原告Aⅰ
(以下「原告Aⅰ」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士権藤龍光
被告KAATSUJAPAN株式会社
同訴訟代理人弁護士根本浩
同友村明弘
同津城尚子
主文
1原告サーナアルファの本件訴えのうち,被告が同原告に対して
不正競争防止法2条1項7号及び同法3条1項に基づく差止請求
権並びに同法2条1項7号及び同法4条に基づく損害賠償請求権
を有しないことの確認請求に係る訴えを却下する。
2原告サーナアルファのその余の請求及び原告Aⅰの請求をいず
れも棄却する。
3訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1被告は,原告サーナアルファに対し,同原告によるVRC加圧方法と称する
施術(以下「VRC法」という。)の実施が,被告が同原告に提供した不正競争
防止法2条1項7号所定の営業秘密を,不正競業その他の不正の利益を得る目的で,
又はその保有者に損害を加える目的で,使用又は開示する行為にあたることを理由
として,同原告がVRC法を実施することの差止めを求め,又は,損害賠償を請求
する権利を有しないことを確認する。
2被告は,原告サーナアルファに対し,304万9570円及びこれに対する
平成26年10月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被告は,原告Aⅰに対し,728万2608円及びこれに対する平成26年
10月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
1事案の要旨
本件は,(1)原告サーナアルファが,被告に対し,同原告によるVRC法の実施
は,被告が同原告に提供した不正競争防止法2条1項7号所定の営業秘密の不正使
用又は不正開示に当たらないとして,同原告のVRC法の実施行為について,被告
が同原告に対して同法3条1項に基づく差止請求権及び同法4条に基づく損害賠償
請求権を有しないことの確認を求めるとともに,同原告が被告と締結した契約(後
に定義する原告サーナアルファ契約)は,錯誤により無効(民法95条)である旨
主張して,不当利得返還請求権に基づき,同原告が上記契約に基づいて被告に支払
った金員相当額合計304万9570円及びこれに対する平成26年10月29日
(訴状送達の日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支
払を求め,(2)原告Aⅰが,被告に対し,同原告が被告と締結した各契約(後に定
義する原告Aⅰ各契約)は,いずれも錯誤により無効(民法95条)である旨主張
して,不当利得返還請求権に基づき,同原告が上記各契約に基づいて被告に支払っ
た金員相当額合計728万2608円及びこれに対する平成26年10月29日
(訴状送達の日)から支払済みまでの民法所定年5分の割合による遅延損害金の支
払を求めている事案である。
2前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠等により容易に認められる
事実)
(1)当事者
ア原告サーナアルファ(従前の商号は,「株式会社アポロン」であったが,平
成23年12月26日,現在の商号に変更した。)は,平成21年5月29日,目
的を「スポーツ施設の運営及びスポーツ技術の指導」などとして設立され,以後,
「Therapysana」,「セラピーサーナ」,「サーナ治療院」,「サー
ナ鍼灸治療院」,「スタジオサーナ」などの屋号で,整体,マッサージ,鍼灸等を
行うアンチエイジングサロン(鍼灸院,スタジオ)を営んできた株式会社である
(甲8,13,41,53,乙2,4,5,原告サーナアルファ代表者)。
イ原告Aⅰは,肩書住所地において,平成14年7月から「じねん堂鍼灸療院」
の屋号で鍼灸院を営んできた個人事業者(であると同時に,整骨院に勤務する者)
である(甲9,47,乙1,原告Aⅰ本人)。
ウ被告(従前の商号は,「株式会社サトウスポーツプラザ」であったが,平成
24年4月2日,現在の商号に変更した。)は,「加圧トレーニングに関する資格
取得のための指導及び資格保有者の育成,指導,管理」,「加圧トレーニング関連
製品の開発及び販売事業」などを目的する株式会社である(弁論の全趣旨)。
なお,「加圧トレーニング」とは,被告の指導・資格認定に係るトレーニング方
法を意味し,「加圧筋力トレーニング」と称されることもある(ただし,その内容
がいかなるものであるかについては,必ずしも,各当事者の認識が一致しているも
のではない。)。
(2)株式会社ベストライフの特許権
ア株式会社ベストライフ(以下「ベストライフ」という。)は,発明の名称
を「筋力トレーニング方法」とする特許第2670421号(平成5年11月22
日出願,平成9年7月4日設定登録,平成25年11月22日存続期間満了)の特
許権(以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」という。)を有して
いた。本件特許の特許請求の範囲(登録時のもの)の記載は,別紙「特許請求の範
囲」記載1のとおりである(甲1,弁論の全趣旨)。
イベストライフは,Aⅱ(以下「Aⅱ」という。)の請求に係る特許無効審
判(無効2011-800252号)において,平成24年5月7日,本件特許の
特許請求の範囲を別紙「特許請求の範囲」記載2のとおり訂正することを内容とす
る訂正請求(以下「本件訂正」という。なお,同別紙記載2における下線部は,
訂正箇所を示す。)をした。特許庁は,同年10月17日,本件訂正を認める,審
判請求は成り立たない旨の審決をした。Aⅱは,知的財産高等裁判所に上記審決の
取消しを求める訴訟(同裁判所平成24年(行ケ)第10400号)を提起したが,
同裁判所は,平成25年8月28日,Aⅱの請求を棄却する旨の判決をした。上記
判決は,その後,最高裁判所がAⅱの上告を受理しない旨の決定をしたことにより
確定し,これに伴って上記審決及び本件訂正も確定した(甲24,弁論の全趣旨)。
ウ被告の代表者であるAⅲ(以下「Aⅲ」という。)は,本件特許の特許請
求の範囲(訂正の前後を問わない。)の請求項1ないし3記載の各発明(以下,
これらを併せて「本件特許発明」という。)の発明者であり,ベストライフの株
式の大半を保有している。ベストライフは,本件特許権につき,被告に実施許諾す
るとともに,被告が第三者に再実施許諾することを許諾していた。
(3)原告サーナアルファと被告との契約等
原告サーナアルファの代表者であるAⅳ(以下「Aⅳ」という。)は,被告と
の間で,平成21年5月18日,設立手続中であった同原告のために「法人契約加
圧トレーニングインストラクター養成講習」に関する契約(以下「原告サーナア
ルファ契約」という。)を締結し,同月29日に同原告が成立したことにより,
同契約は,同原告と被告との間のものとして効力を生じた(甲2,13,弁論の全
趣旨)。
なお,Aⅳは,原告サーナアルファ契約の締結に先立つ平成19年9月11日,
被告との間で,個人で加圧トレーニングに関する契約(以下「個人契約」とい
う。)を締結した。
(4)原告Aⅰと被告との契約
ア原告Aⅰと被告は,平成14年2月1日,「加圧筋力トレーニング指導者養
成講習」に関する契約(以下「原告Aⅰ契約1」という。)を締結し(なお,同
原告が同年1月19日に被告に支払った103万5300円が受講料金〔税込〕に
充当された。),原告Aⅰは,同契約に基づき,同講習を受講して,被告から加圧
筋力トレーニングに関する「指導者」の資格の認定を受けた(甲4,弁論の全趣
旨)。
イ原告Aⅰと被告は,平成18年1月22日,「加圧筋力トレーニング統括指
導者養成講習」に関する契約(以下「原告Aⅰ契約2」という。)を締結し,原
告Aⅰは,同契約に基づき,被告に対し,受講料金(税込)184万9050円を
支払い,同講習を受講して,被告から加圧筋力トレーニングに関する「統括指導者」
の資格の認定を受けた(甲5の1・2,弁論の全趣旨)。
ウ原告Aⅰと被告は,平成21年4月27日,加圧トレーニング用の器具(加
圧マスターミニ)の取扱い資格及び同器具の買取りに関する契約(以下「原告A
ⅰ契約3」という。)を締結し,同契約に基づき,被告は,同原告に対し,同取
扱い資格を認定するとともに,同器具を引き渡し,同原告は,被告に対し,58万
円4325円(ただし,その趣旨が同器具の代金に限られるのか,同取扱い資格認
定に対する対価〔受講料金〕を含むのかについては,争いがある。)を支払った
(弁論の全趣旨)。
エ原告Aⅰと被告は,平成23年9月12日,「加圧トレーニング特定資格者
養成講習」に関する契約(以下「原告Aⅰ契約4」という。)を締結し,同契約
に基づき,同原告は,被告に対し,受講料金(税込)42万円を支払った(弁論の
全趣旨)。
3争点
(1)原告サーナアルファが,被告に対し,被告が同原告に対して不正競争防止法
2条1項7号及び同法3条1項に基づく差止請求権並びに同法2条1項7号及び同
法4条に基づく損害賠償請求権を有しないことの確認を請求することについて,確
認の利益が認められるか(争点1)
(2)原告サーナアルファの被告に対する不当利得返還請求権は成立するか(争点
2)
ア被告との契約に係る原告サーナアルファの代表者であるAⅳの意思表示につ
き,法律行為の要素に錯誤があったか(争点2-(1))
イ原告サーナアルファの代表者であるAⅳに重過失があったか(争点2-(2))
ウ相殺の抗弁が認められるか(争点2-(3))
エ同時履行の抗弁権が認められるか(争点2-(4))
(3)原告Aⅰの被告に対する不当利得返還求請求権は成立するか(争点3)
ア被告との契約に係る原告Aⅰの意思表示につき,法律行為の要素に錯誤があ
ったか(争点3-(1))
イ原告Aⅰに重過失があったか(争点3-(2))
ウ消滅時効が成立するか(争点3-(3))
エ相殺の抗弁が認められるか(争点3-(4))
オ同時履行の抗弁権が認められるか(争点3-(5))
第3争点に対する当事者の主張
1争点1(原告サーナアルファが,被告に対し,被告が同原告に対して不正競
争防止法2条1項7号及び同法3条1項に基づく差止請求権並びに同法2条1項7
号及び同法4条に基づく損害賠償請求権を有しないことの確認を請求することにつ
いて,確認の利益が認められるか)について
【原告サーナアルファの主張】
(1)被告は,原告サーナアルファを宛先の一つとして,「貴殿らがVRCなる名
称で当社製品『加圧マスター』及び『加圧マスターミニ』に類似する模倣品の販売
を始めた」,「Aⅲ氏,当社又は当社グループの許諾なく,製作,販売」している
などとする平成25年7月19日付け「警告状」(以下「本件警告状」という。)
を内容証明郵便により送付した(甲12)。被告は,本件警告状により,「知的財
産権等に対する一切の侵害行為の停止」を要求していること,同警告状には,VR
C法の開発者であるAⅴについて,「2007年まではAⅲ氏と共同で研究を行っ
ており」などの記載もあることに鑑みると,原告サーナアルファが実施しているV
RC法について,被告が,不正競争防止法2条1項7号に抵触するとして,被告が
原告サーナアルファに対し,後日,訴え等を提起するおそれがある。
(2)原告サーナアルファが実施しているVRC法は,加圧トレーニングとは,原
理も施術方法も異なる別の方法である。
VRC法は,宇宙航空研究開発機構(JAXA)の委託を受けて国際宇宙ステー
ション日本実験棟の運用などを業とする有人宇宙システム株式会社で職務を行って
いたAⅴ博士を開発者として,株式会社ライフサポートにおいて開発した方法であ
り,もとは宇宙飛行士の健康管理などを目的に研究された方法である。
これに対し,加圧トレーニングは,もともとは,健康なスポーツマンらが筋力増強
のために利用していた方法である。
加圧トレーニングが比較的長時間血流を阻害し,その間に筋力トレーニング等を
することで負荷を与えて成長ホルモンの分泌を促すことを原理としているのに対し,
VRC法は,短時間(たとえば1分間)血流を阻害し,それを一気に開放すること
により,血管を血流が駆血することによる効果によるものであり,その効果は,交
換神経の活動を活性化させることによるものである。
このように,加圧トレーニングとVRC法とでは,その運用の知識・技術が全く
異なっている。
【被告の主張】
原告サーナアルファの本件訴えのうち,同原告が,被告に対し,被告が同原告に
対して不正競争防止法2条1項7号及び同法3条1項に基づく差止請求権並びに同
法2条1項7号及び同法4条に基づく損害賠償請求権を有しないことの確認を請求
するとの部分は,即時確定の利益を欠き,不適法である。
被告は,同原告に対し,同原告の行為が不正競争防止法2条1項7号所定の営業
秘密の不正使用又は不正開示に当たるなどと主張した事実はなく,また,そのよう
な主張に基づいて同原告が行っている事業について差止めや損害賠償を求めた事実
もない。
したがって,本件は,同原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在
し,これを除去するため,被告に対して確認判決を得ることが必要かつ適切な場合
ではない。
2争点2(原告サーナアルファの被告に対する不当利得返還請求権は成立する
か)について
(1)争点2-(1)(被告との契約に係る原告サーナアルファの代表者であるAⅳ
の意思表示につき,法律行為の要素に錯誤があったか)について
【原告サーナアルファの主張】
ア原告サーナアルファ契約及びこれに先立つ個人契約
(ア)個人契約
Aⅳは,鍼灸師,理学療法士として,総合病院等でリハビリテーション業務
(以下「リハビリ」という。)に従事していたところ,平成19年頃までに,リ
ハビリ等の医療類似行為にも加圧トレーニングが有効であると聞き,被告やその関
係者から,加圧トレーニングは,国家資格の範囲内で医療類似行為に実施が可能で
あること,加圧トレーニングについては,本件特許権があること,加圧トレーニン
グには,資格制度があり,資格を取らなければ,加圧トレーニングを実施できない
ことにつき,説明を受けた。
そこで,Aⅳは,被告との間で,平成19年9月11日,個人契約を締結し,同
年12月までに「筋力アップクンEXトレーナー養成講習」の受講を完了し,同月
12日,被告から「筋力アップクンEXトレーナー資格」の登録を受けた。
(イ)原告サーナアルファ契約
Aⅳは,平成21年頃,被告から,法人の従業員に加圧トレーニングを使用した
医療類似行為をさせるためには,法人契約が必要であるとの説明を受けたことから,
平成21年5月18日,設立中の原告サーナアルファのため,被告との間で,法人
契約として,原告サーナアルファ契約を締結した。
同原告は,被告に対し,同契約に基づき,資格者の登録料ないし更新料,トレー
ニングに使用する器具の代金(以下,これらを併せて「登録料等」という。)と
して,別紙原告らの主張金額の【原告サーナアルファルファ分】の登録料等①ない
し同⑬に対応する金員(合計304万9570円)を支払った。なお,登録料等①
及び同③に対応する金員は,加圧トレーニング用の器具である「筋力アップクンE
X」の代金として,支払ったものである。
イAⅳの錯誤
(ア)Aⅳは,原告サーナアルファのために,被告との間で原告サーナアルファ契
約を締結ないし更新する際,次の(イ)ないし(エ)の錯誤(いずれも動機の錯誤であり,
(イ)及び(ウ)が加圧トレーニングについての本件特許権の効力が及ぶ範囲に関するも
の,(エ)が加圧トレーニングの成長ホルモンに対する効果に関するものである。)
に陥ったものであり,これらの錯誤は,いずれも黙示に被告に表示されており,意
思表示の重要部分に係るものである。
(イ)本件錯誤1-1
Aⅳは,本件特許権の効力が医療類似行為には及ばないにもかかわらず,これが
及ぶとの錯誤(以下「本件錯誤1-1」という。)に陥り,その結果,原告サー
ナアルファ契約を締結してしまった。
Aⅳは,Aⅲの著作である「加圧トレーニングの奇跡」と題する書籍(以下
「本件書籍」という。)を読み,「加圧」(Aⅳは,当時,本件特許発明が対象
とする加圧トレーニングと従前のバラコン法の単なる加圧とを区別していなかっ
た。)がリハビリ等の医療類似行為に顕著な効果があるものの,「加圧」について
は,本件特許権が存在することから,同特許権に関する実施許諾がないと利用でき
ないと信じた。また,Aⅳが,被告や被告の認定に係る指導者資格(統括指導者)
を有する長谷川慶造に問い合わせたところ,リハビリ等の医療類似行為についても
本件特許権の効力が及ぶなどと説明を受けたことから,これらについても,被告の
実施許諾が必須であると誤信した。Aⅳは,被告との間で個人契約を締結するに際
し,明示的にリハビリ等の医療類似行為にも本件特許権の効力が及び,被告と契約
しないとこれらの実施ができない旨認識していたことなどを表明したわけではない
が,上記のとおり,本件書籍を読んで契約に至ったこと,Aⅳが鍼灸師として契約
することを表示しており,リハビリ等の医療類似行為に利用する目的で被告と契約
を締結しようとすること,医療類似行為としてであっても,被告と契約を締結しな
い限り,加圧トレーニングを実施できないと誤信したために,個人契約の締結に至
ったことは,その経緯からみて被告にも明らかであった。
そして,Aⅳは,その誤信を維持したまま,被告との間で,原告サーナアルファ
契約を締結したものであり,Aⅳの個人契約と同一の動機で契約を締結する意思で
あったことは被告にも明らかであって,原告サーナアルファ契約の締結の動機とし
ての本件錯誤1-1は,被告に黙示に表示されていたといえる。
(ウ)Aⅳは,加圧トレーニングをリハビリ等の医療類似行為に応用する方法が,
実際には,加圧下での自発的運動を伴わない加圧と除圧の繰り返しを行うだけのバ
ラコン法等によって広く実施されていた方法であって,本件特許発明の技術的範囲
に属さないにもかかわらず,これに属するものとの錯誤(以下「本件錯誤1-2」
という。)に陥り,その結果,原告サーナアルファ契約を締結してしまった。
Aⅳが,個人契約を締結するに至った動機の一つは,本件書籍中に,加圧と除圧
の繰り返しや受動的な関節の運動を伴う程度のものであるにもかかわらず,これが
Aⅲの発明(本件特許発明)であるかのごとき記載があったため,これを真実と誤
信したことによる。Aⅳは,本件書籍を読んだことを表示して,被告との間で個人
契約を締結し,被告の担当者からも医療類似行為にも本件特許権の効力が及ぶと聞
き,リハビリ等への応用の全てにつき許諾が必要であると理解したのであって,少
なくとも黙示にその動機が表示されたことは明らかである。
そして,Aⅳは,被告との個人契約における動機を維持したまま,原告サーナア
ルファ契約の締結に至ったもので,被告に対し,個人契約における上記動機が表示
されていたといえる以上,原告サーナアルファ契約についても,被告に対し,同一
の動機により締結したことが表示されていたというべきである。
(エ)本件錯誤2
Aⅳは,加圧トレーニングを行うことにより成長ホルモンを290倍分泌させる
ことはできないにもかかわらず,分泌させることができるとの錯誤(以下「本件
錯誤2」という。)に陥り,その結果,原告サーナアルファ契約を締結してしま
った。
Aⅳが,被告と個人契約の締結に至ったのは,本件書籍に「加圧トレーニングに
より成長ホルモン290倍」との趣旨の記載があったことによるものである。Aⅳ
は,被告に対し,同契約締結に際し,本件書籍を読んで契約を締結したことを表明
しており,上記記載を見て契約しようとしたことは,被告においても容易に理解で
きる。すなわち,Aⅳは,加圧トレーニングにより成長ホルモンが290倍分泌さ
れるものと誤信し,これを動機として,個人契約の締結に至ったものであり,その
動機は,被告に黙示に表示されていたといえる。
そして,被告に対し,個人契約における上記動機が表示されていたといえる以上,
原告サーナアルファ契約についても,被告に対し,同一の動機により締結したこと
が表示されていたというべきである。
ウまとめ
原告サーナアルファが,被告に対し,原告サーナアルファ契約に基づき支払った
金員は,前記アのとおり,合計304万9570円となり,原告サーナアルファ契
約は,上記イのとおり,錯誤により無効であるから,原告サーナアルファは,被告
に対し,上記金員につき不当利得返還請求権を有する。
【被告の主張】
ア原告サーナアルファ契約について
原告サーナアルファ契約が締結された事実,同原告が被告に対し,登録料等とし
等①ないし同⑬に相当する金員を支払った事実(ただし,同①については,「筋力
アップクンEX」を販売した代金として,同③については,平成22年5月17日,
「筋力アップクンEX」を販売した代金として,被告は,受領したものである。)
は,いずれも認めるが,その余は,不知。
イ錯誤の主張について
(ア)原告サーナアルファの錯誤の主張は,不知ないし否認する。
原告サーナアルファ契約に係る申込み及び更新の意思表示の重要部分において,
原告サーナアルファの代表者であるAⅳに錯誤はない。
原告サーナアルファ契約は,加圧トレーニングに基づき正しい指導をすることが
できる指導者の養成及び認定をすることを主たる目的とする契約であって,同契約
の締結に際し,被告が,Aⅳに対し,医療行為又は医療類似行為について加圧トレ
ーニングを用いることが本件特許権の侵害となるなどという説明をした事実はない。
また,Aⅳが,鍼灸師として原告サーナアルファ契約を締結することを表示した事
実もない。
以下,原告サーナアルファの主張に係る錯誤ごとに詳述する。
(イ)本件錯誤1-1について
原告サーナアルファ契約は,法人契約であるところ,法人契約では,法人の従業
員等が被告の実施する法人契約加圧トレーニングインストラクター養成講習を受講
した後,被告から従業員インストラクターとして認定登録され,当該従業員等は,
従業者インストラクターとして,加圧トレーニングを第三者に指導及び施術するこ
とが可能となる。仮に,原告サーナアルファが主張するように,医療類似行為のみ
に使用する目的で,加圧トレーニングを指導,施術したのであれば,従業者インス
トラクターは,医療類似行為に係る有資格者でなければならないが,原告サーナア
ルファの従業者インストラクターには,単なる「ダンサー」や「スポーツインスト
ラクター」など上記資格を有しない者が複数存在していた。このような事実からも,
Aⅳが加圧トレーニングを医療行為及び医療類似行為以外の目的で使用する動機を
有していたことは明らかである。
原告サーナアルファは,「アンチエイジング効果・ダイエット効果」等をうたい,
自らが営むスタジオで顧客に対し,加圧トレーニングを指導・施術し,現に医療類
似行為以外の目的で加圧トレーニング方法を指導,施術しているのであって,原告
サーナアルファ契約締結時及び更新時に,同原告が主張するような動機をAⅳが有
していなかったことは明白である。
(ウ)本件錯誤1-2について
本件書籍には,加圧トレーニングの全てに本件特許権の効力が及ぶなどとは記載
されていないし,契約の締結又は資格の取得を求めるような記載もない。
したがって,本件書籍を読んだことをAⅳが個人契約の締結時に表明していたと
しても,契約締結の動機が表示されていたことにはならない。加圧トレーニングは,
必ずしも加圧下での運動を必須の要素とするものに限られず,Aⅳが望んだという
リハビリ等の知識・技術も含まれていたもので,Aⅳの原告サーナアルファ契約の
申込み及び更新の意思表示につき,何ら錯誤は存在しない。
(エ)本件錯誤2について
原告サーナアルファ契約についての契約書には,成長ホルモンに関する記載は一
切存在せず,成長ホルモンに関する事項は,一般人にとって,同事項に係る錯誤が
なかったら,意思表示をしなかったであろうと考えられる程度に重要な内容とはい
えない。したがって,仮に,本件書籍を読んで契約に至ったことをAⅳがその個人
契約の際に表明していたとしても,同原告の主張に係る動機が被告に対して明らか
にされていたとか,当該動機が表示されていたとはいえない。
(2)争点2-(2)(原告サーナアルファの代表者であるAⅳに重過失があったか)
について
【被告の主張】
ア本件錯誤1-1及び同1-2について
仮に,原告サーナアルファの代表者であるAⅳにおいて,本件特許権の効力の及
ぶ範囲について何らかの誤認があったとしても,同原告の事業を遂行する過程で契
約を締結する際に当然調査検討すべき事項を怠ったことによるものであり,そのこ
とについてAⅳには,重大な過失がある(民法95条ただし書)。すなわち,原告
サーナアルファ契約は,営利を目的とする事業を遂行する当事者同士により締結さ
れたものであるところ,合理的な事業者であれば,本件特許権の効力が及ばない範
囲については,自ら又は専門家に依頼するなどして,特許公報や特許法69条の規
定等を調査,検討し,適宜の評価をすることは容易であるから,Aⅳには,重大な
過失がある。
イ本件錯誤2について
仮に,原告サーナアルファの代表者であるAⅳに本件錯誤2があったとしても,
本件書籍における成長ホルモンが約290倍との記載は,研究成果(乙6)を紹介
したものにすぎず,加圧トレーニングを実施すれば,かかる効果が必ず得られるこ
とを保証したものではない。Aⅳがこの点を誤認したのであれば,それは,重大な
過失に基づくものというべきである。
【原告サーナアルファの主張】
被告の主張は,否認又は争う。
原告サーナアルファの代表者であるAⅳが錯誤に陥ったことにつき,同人に重過
失はない。
(3)争点2-(3)(相殺の抗弁が認められるか)について
【被告の主張】
仮に,原告サーナアルファの錯誤に係る主張が認められ,原告サーナアルファ契
約が無効と判断される場合,同原告は,同契約が有効であることを前提として得た
利得を被告に対して返還するべき義務を負う。
被告は,原告サーナアルファ契約に基づき,原告サーナアルファの従業員に対し
て法人契約加圧トレーニングインストラクター養成講習を行うとともに,同原告の
従業員を従業者インストラクターとして,同原告を法人契約加圧トレーニングイン
ストラクターとして認定登録しているから,同原告は,当該講習料金及び資格者認
定登録料金相当額である168万円の利得を得ている。
また,被告は,原告サーナアルファ契約に基づき,同原告の従業員について,少
なくとものべ9年分の従業者インストラクターとしての登録を更新しているから,
同原告は,少なくとも当該更新料金相当額である119万9050円の利得を得て
いる。
被告は,原告サーナアルファに対し,平成27年10月20日の第8回弁論準備
手続期日において,被告が同原告に対して有する上記(合計287万9050円)
の不当利得金債権を自動債権として,同原告の本訴請求債権と対当額で相殺する旨
の意思表示をした。
【原告サーナアルファの主張】
被告の主張は,争う。
原告サーナアルファが被告から被告主張の役務の提供を受けたことについて,被
告主張の額の利得があることの立証はない。
(4)争点2-(4)(同時履行の抗弁権が認められるか)について
【被告の主張】
原告サーナアルファは,被告に対し,「筋力アップクンEX」の代金として,平
成22年3月1日に7万4760円,同年5月17日に9万5760円の合計17
万0520円を支払ったが,被告は,同原告に対し,既に「筋力アップクンEX」
を引き渡しているから,上記代金に相当する17万520円の不当利得金について
は,同原告が被告に筋力アップクンEXを引き渡すまで,その支払を拒絶する(同
時履行の抗弁権)。
【原告サーナアルファの主張】
被告の主張は,争う。
3争点3(原告Aⅰの被告に対する不当利得返還求請求権は成立するか)につ
いて(1)争点3-(1)(被告との契約に係る原告Aⅰの意思表示につき,法律行
為の要素に錯誤があったか)について
【原告Aⅰの主張】
以下のとおり,原告Aⅰと被告との各契約(下記ア(ア)ないし(エ)。以下,これ
らを併せて「原告Aⅰ各契約」という。)は,いずれも錯誤により無効であるか
ら,被告は,原告Aⅰ各契約に基づいて同原告が被告に支払った金員につき,法律
上の原因なく利得しており,同原告は,これと同額の損失を受けている。
ア原告Aⅰ各契約
(ア)原告Aⅰ契約1
原告Aⅰは,被告の認定に係る加圧筋力トレーニングの指導者の資格を取るため,
平成14年1月19日,原告Aⅰ契約1に係る申込みをすることとし,講習料の名
目で103万5300円を被告に支払った。原告Aⅰは,同年2月1日から同月3
日にかけて,被告において実施された講習に参加した。
原告Aⅰ契約1は,約1年ごとに更新されており,原告Aⅰは,被告に対し,原
告Aⅰ契約1の更新料として,別紙原告らの主張金額の【原告Aⅰ分】の「支払項
更新料①ないし同⑪に対応する金員の支払をした(なお,同欄の更新料⑥
ないし同⑪に対応する金員の支払は,同欄の更新料ⅱないし同ⅶに対応する金員の
支払と一緒に行った。)。
(イ)原告Aⅰ契約2
原告Aⅰは,医療類似行為に関する国家資格(鍼灸師)を有しているところ,被
告から,医療行為等に加圧トレーニングを指導する資格は,今後医師のみになって
いくとの説明があったため,医師らを資格対象者とする「加圧筋力トレーニング統
括指導者」の資格取得を決意し,平成18年1月22日,原告Aⅰ契約2に係る申
込みをすることとしたが,これに先立って,資格取得費用として,184万905
0円を被告に支払った。
原告Aⅰ契約2は,約1年ごとに更新されており,原告Aⅰは,被告に対し,原
告Aⅰ契約2の更新料として,別紙原告らの主張金額の【原告Aⅰ分】の「支払項
の更新料ⅰないし同ⅶに対応する金員の支払をした(なお,同欄の更新料ⅱ
ないし同ⅶに対応する金員の支払は,同欄の更新料⑥ないし同⑪に対応する金員の
支払と一緒に行った。)。
(ウ)原告Aⅰ契約3
原告Aⅰは,平成21年4月27日,被告から,加圧トレーニングに用いる器具
である「加圧マスター」などが販売されたことから,その買取り及びその取扱い資
格を取得するため,被告との間で,原告Aⅰ契約3を締結し,被告に対し,58万
4325円を支払った。
(エ)原告Aⅰ契約4
平成23年に被告における准統括指導者の資格が特定資格者制度に移行されるこ
とになったため,原告Aⅰは,同年9月12日,被告との間で,原告Aⅰ契約4を
締結し,被告に対し,講習料として,42万円を支払った。
イ原告Aⅰの錯誤
(ア)原告Aⅰは,平成14年7月に「じねん堂鍼灸療院」を開設したが,これに
先立つ平成13年ころ,加圧トレーニングが運動療法及びリハビリテーションなど
の医療類似行為に応用されると聞き,被告から,加圧トレーニングは,国家資格の
範囲内で医療類似行為に実施が可能であること,加圧トレーニングには特許権があ
ること,加圧トレーニングには資格制度があり,資格を取らなければ加圧トレーニ
ングを実施できないことなどの説明を受けた。
原告Aⅰは,被告との間で原告Aⅰ各契約を締結する際,原告サーナアルファの
代表者であるAⅳと同様の錯誤(次の(イ)ないし(エ)の錯誤)に陥ったものであり,
これらの錯誤は,いずれも黙示に被告に表示されており,意思表示の重要部分に係
るものである。
(イ)本件錯誤1-1
原告Aⅰは,本件特許権の効力が医療類似行為には及ばないにもかかわらず,こ
れが及ぶとの錯誤(本件錯誤1-1)に陥り,その結果,原告Aⅰ各契約を締結し
てしまった。
原告Aⅰは,被告の代表者であるAⅲの講演会において,加圧トレーニングがリ
ハビリ等の医療類似行為に効果があることや,加圧トレーニングにつきAⅲを発明
者とする本件特許権が存在し,加圧トレーニングを医療類似行為に利用するには,
被告との契約が必須であるとの説明を受けた。また,原告Aⅰは,原告Aⅰ各契約
の申込みの際に,被告に対し,同原告が鍼灸師として同契約を締結することを表示
していた。したがって,原告Aⅰが,リハビリ等の医療類似行為に利用する目的で
被告と原告Aⅰ各契約を締結しようとしており,医療類似行為としてであっても,
被告と同契約を締結しない限り,加圧トレーニングを実施できないと誤信していた
こと(原告Aⅰが本件錯誤1-1に陥っていたこと)は,契約に至った経緯から被
告にも明らかであって,原告Aⅰ各契約の締結の動機としての本件錯誤1-1は,
被告に黙示に表示されていたといえる。
(ウ)本件錯誤1-2
原告Aⅰは,加圧トレーニングをリハビリ等の医療類似行為に応用する方法が,
実際には,加圧下での自発的運動を伴わない加圧と除圧の繰り返しを行うだけのバ
ラコン法等によって広く実施されていた方法であって,本件特許発明の技術的範囲
に属さないにもかかわらず,これに属するものとの錯誤(本件錯誤1-2以下)に
陥り,その結果,原告Aⅰ各契約を締結してしまった。
Aⅲの講演のうち,医療類似行為への応用について述べた部分は,本件書籍に記
載されていることと同一であったが,リハビリ等は,加圧と除圧の繰り返しで,受
動的な関節運動を伴う程度のものであり,本件特許発明の技術的範囲に属さないも
のであったにもかかわらず,Aⅲが行った講演では,これらにも本件特許権の効力
が及ぶ旨強調されていた。また,原告Aⅰは,前述のとおり,原告Aⅰ各契約の締
結の際に,Aⅲの講演を聴いて同契約の締結に至ったことを表明した。したがって,
原告Aⅰが加圧と除圧の繰り返しなどの方法についても本件特許発明の技術的範囲
に属するものと誤信していたこと(原告Aⅰが本件錯誤1-2に陥っていたこと)
は,被告にとっても明らかであって,原告Aⅰ各契約の締結の動機としての本件錯
誤1-2は,被告に対し,黙示に表示されていたといえる。
(エ)本件錯誤2
原告Aⅰは,加圧トレーニングを行うことにより成長ホルモンを290倍分泌さ
せることはできないにもかかわらず,分泌させることができると誤信し(本件錯誤
2),これを動機として,原告Aⅰ各契約の締結に至ったもので,その動機は黙示
に表示されていた。
原告Aⅰは,Aⅲの講演において,成長ホルモンが290倍分泌されたとの発言
を聞いた。また,原告Aⅰは,原告Aⅰ各契約の締結の際に,Aⅲの講演を聴いて
同契約の締結に至ったことを表明した。したがって,原告Aⅰが,加圧トレーニン
グにより成長ホルモンが290倍分泌されると誤信していたこと(原告Aⅰが本件
錯誤2に陥っていたこと)は,被告にとっても明らかであって,原告Aⅰ各契約の
締結の動機としての本件錯誤2は,被告に対し,黙示に表示されていたといえる。
ウまとめ
原告Aⅰが,被告に対し,原告Aⅰ各契約に基づき支払った金員は,前記アのと
おり,合計728万2608円であり,原告Aⅰ各契約はいずれも上記イのとおり
のとおり,錯誤により無効であるから,原告Aⅰは,被告に対し,上記金員につき
不当利得返還請求権を有する。
【被告の主張】
ア原告Aⅰ各契約について
(ア)原告Aⅰ契約1について
原告Aⅰ契約1の締結に先立つ平成14年1月19日に,原告Aⅰから被告に対
し,加圧筋力トレーニング指導者講習の受講料金の名目で103万5300円の金
員の支払があったこと,被告が原告Aⅰから別紙原告らの主張金額の【原告Aⅰ分】
更新料①ないし同⑤に対応する各金員を受領したことは,認め
る。また,同欄の更新料⑥ないし同⑪に対応する金員については,加圧筋力トレー
ニング統括指導者養成講習の更新料の名目で(すなわち,原告Aⅰ契約2の更新料
として)受領したという限度で認める。その余の原告Aⅰの主張は,否認ないし争
う。
(イ)原告Aⅰ契約2について
原告Aⅰ契約2については,平成18年1月22日に原告Aⅰから被告に対し,
加圧筋力トレーニング統括指導者の資格取得費用として184万9050円の金員
の支払があったことは,認める。また,別紙原告らの主張金額の【原告Aⅰ分】の
更新料ⅰないし同ⅶに対応する金員については,原告Aⅰ契約2
の更新料として受領した限度で認める。その余の原告Aⅰの主張は,否認する。
(ウ)原告Aⅰ契約3について
原告Aⅰが,被告に対し,原告Aⅰ契約3に関し,加圧マスターミニという加圧
トレーニングで用いる器具の購入代金として58万円4325円を支払った事実は
認めるが,その余は否認する。当時,原告Aⅰは,統括指導者の資格を有していた
ため,講習代金は免除されており,被告は,上記金員を上記器具の代金として受領
したものである。
(エ)原告Aⅰ契約4について
原告Aⅰが,被告に対し,平成23年9月12日,42万円を支払った事実は認
めるが,その余は否認する。被告は,上記金員を加圧トレーニング特定資格者養成
講習の受講代金として受領した。
イ原告Aⅰの錯誤について
(ア)原告Aⅰの錯誤の主張は,不知ないし否認する。
原告Aⅰ各契約に係る申込み及び更新の意思表示の重要部分において,同原告に
錯誤はない。
原告Aⅰ各契約は,加圧トレーニングに基づき正しい指導をすることができる指
導者の養成及び認定をすることを主たる目的とする契約であって,各契約の締結に
際し,被告が,同原告に対し,医療行為又は医療類似行為について加圧トレーニン
グ方法を用いることが本件特許権の侵害となるなどという説明をした事実はない。
また,同原告が,鍼灸師として原告Aⅰ各契約を締結することを表示した事実もな
い。
以下,原告Aⅰの主張に係る錯誤ごとに詳述する。
(イ)本件錯誤1-1について
原告Aⅰは,現に,医療類似行為以外の目的で加圧トレーニングを指導したり,
施術しており,原告Aⅰ各契約の締結時及び更新時には,加圧トレーニングをリハ
ビリ等の医療類似行為のみに使用するという動機を有していなかった。少なくとも,
同原告が原告Aⅰ各契約を締結又は更新する際の意思表示に関し,その内容中の重
要部分に錯誤がなかったことは,明白である。また,そもそも,同原告が受講した
とする講演会については,何ら特定されておらず,その立証もない。
なお,原告Aⅰは,「Aⅲ氏が講習をしていた際の講習(音声を文字起こしした
もの)」で始まる書面(甲18)は,同原告が,平成14年2月1日ないし同月3
日に,被告代表者であるAⅲによる被告の加圧筋力トレーニング指導者養成講習を
受講した際の録音を反訳したものである旨主張するが,かかる講演は,同原告と被
告が原告Aⅰ契約1を締結した後,同原告が受講したものである。
したがって,上記書面(甲18)は,原告Aⅰ主張の錯誤を裏付けるものではな
い。
(ウ)本件錯誤1-2について
被告において,加圧トレーニングの全てに本件特許権の効力が及ぶなどと説明し
たことはない。原告Aⅰが受講したとする講演会については,何ら特定されていな
いし,仮に,同原告が,原告Aⅰ各契約締結の際に,被告に対し,被告代表者であ
るAⅲの講演を聴いて契約に至った旨表明していたとしても,同原告の主張に係る
内容の動機が表示されていたことにはならない。加圧トレーニングは,必ずしも加
圧下での運動を必須の要素とするものに限られず,同原告が望んだと主張するリハ
ビリ等の知識・技術も含まれていたものであるから,同原告の原告Aⅰ契約の申込
み及び更新の意思表示につき,何ら錯誤は存在しない。
(エ)本件錯誤2について
原告Aⅰ各契約についての契約書のいずれにも,成長ホルモンに関する記載は一
切存在せず,同ホルモンに関する事項は,一般人にとって,同事項に係る錯誤がな
かったら,意思表示をしなかったであろうと考えられる程度に重要な内容とはいえ
ない。また,原告Aⅰが受講したという講演会については,何ら特定されていない
し,少なくとも,被告において,加圧トレーニングが成長ホルモンを290倍分泌
させるものであることを約束するような講演を行ったことはない。したがって,仮
に,同原告が,原告Aⅰ各契約締結の際に,被告に対し,被告代表者であるAⅲの
講演を聴いて契約に至った旨表明していたとしても,同原告の主張に係る動機が被
告に対して明らかにされていたとか,当該動機が表示されていたとはいえない。
(2)争点3-(2)(原告Aⅰに重過失があったか)について
【被告の主張】
ア本件錯誤1-1及び同1-2について
仮に,原告Aⅰにおいて,本件特許権の効力の及ぶ範囲について何らかの誤認が
あったとしても,同原告は,その事業を遂行する過程で契約を締結する際に当然調
査検討すべき事項を確認しなかったことによるものであり,そのことについて同原
告には,重大な過失がある(民法95条ただし書)。すなわち,原告Aⅰ各契約は,
営利を目的とする事業を遂行する当事者同士により締結されたものであるところ,
合理的な事業者であれば,本件特許権の効力が及ばない範囲については,自ら又は
専門家に依頼するなどして,本件特許の特許公報や特許法69条の規定などを調査,
検討し,適宜の評価をすることは,容易であったといえるから,同原告には,重大
な過失がある。
イ本件錯誤2について
仮に,原告Aⅰに本件錯誤2があったとしても,本件書籍における成長ホルモン
が約290倍との記載は,研究成果(乙6)を紹介したものにすぎず,加圧トレー
ニングを実施すれば,かかる効果が必ず得られることを保証したものではない。同
原告がこの点を誤認したのであれば,それは,重大な過失に基づくものというべき
である。
【原告Aⅰの主張】
被告の主張は,否認又は争う。
原告Aⅰが錯誤に陥ったことにつき,同原告に重過失はない。
(3)争点3-(3)(消滅時効が成立するか)について
【被告の主張】
不当利得返還請求権は,その発生と同時に行使することが可能であるところ,原
告Aⅰが,被告に対し,平成14年1月19日に支払った103万5300円,同
年12月30日及び平成16年1月19日の各日に支払った各20万7060円に
関する不当利得返還請求権については,その発生(各支払日)から10年が経過し
ており,消滅時効が完成している。
被告は,平成27年8月25日の本件第7回弁論準備手続期日において,同時効
を援用する旨の意思表示をした。
【原告Aⅰの主張】
被告の主張は,争う。
(4)争点3-(4)(相殺の抗弁が認められるか)について
【被告の主張】
ア原告Aⅰ契約1について
仮に,原告Aⅰの錯誤に係る主張が認められて,原告Aⅰ契約1が無効と判断さ
れる場合,原告Aⅰは,同契約が有効であることを前提として得た利得を被告に対
して返還するべき義務を負う。
しかるところ,同原告は,原告Aⅰ契約1に基づき,加圧トレーニングについて
の講習を受講し,加圧筋力トレーニング指導者の資格者として認定登録されている
から,当該講習料金及び資格者認定登録料金相当額である103万5300円の利
得を得ている。また,同原告は,加圧筋力トレーニング指導者としての登録を更新
されているから,更新料相当額である82万8240円の利得を得ている。
イ原告Aⅰ契約2について
原告Aⅰは,原告Aⅰ契約2に基づき,加圧トレーニングについての講習を受講
し,加圧筋力トレーニング統括指導者の資格者として認定登録されているから,当
該講習料金及び資格者認定登録料金相当額である184万9050円の利得を得て
いる。また,同原告は,加圧筋力トレーニング統括指導者としての登録を更新され
ているから,更新料相当額である256万5693円の利得を得ている。
ウ原告Aⅰ契約4について
原告Aⅰは,原告Aⅰ契約4に基づき,加圧トレーニングについての講習を受講
し,加圧筋力トレーニング特定資格者として認定登録されているから,当該講習料
金及び資格者認定登録料金相当額である42万円の利得を得ている。
エ被告は,原告Aⅰに対し,平成27年10月20日の第8回弁論準備手続期
日において,被告が同原告に対して有する上記アないしウ(合計669万8283
円)の不当利得金債権を自動債権として,同原告の本訴請求債権と対当額で相殺す
る旨の意思表示をした。
【原告Aⅰの主張】
被告の主張は,争う。
原告Aⅰが被告から被告主張の役務の提供を受けたことについて,被告主張の額
の利得があることの立証はない。
(5)争点3-(5)(同時履行の抗弁権が認められるか)について
【被告の主張】
原告Aⅰ契約3は,被告が原告Aⅰに「加圧マスターミニ一式」(加圧マスター
ミニ本体及び空圧式加圧ベルト)を引き渡すこと,その代金を同原告が被告に支払
うことを定めた有償の双務契約であるところ,被告は,同契約に基づき,平成21
年8月2日,同原告に対し,「加圧マスターミニ一式」(加圧マスターミニ本体及
び空圧式加圧ベルト)を引き渡した。
被告は,原告Aⅰ契約3が錯誤により無効であることを理由とする58万432
5円の不当利得金につき,同原告が被告に「加圧マスターミニ一式」を引き渡すま
で,その支払を拒絶する(同時履行の抗弁権)。
【原告Aⅰの主張】
被告の主張は,争う。
第4当裁判所の判断
1争点1(原告サーナアルファが,被告に対し,被告が同原告に対して不正競
争防止法2条1項7号及び同法3条1項に基づく差止請求権並びに同法2条1項7
号及び同法4条に基づく損害賠償請求権を有しないことの確認を請求することにつ
いて,確認の利益が認められるか)について
原告サーナアルファは,同原告によるVRC法の実施は,被告が同原告に提供し
た不正競争防止法2条1項7号所定の営業秘密の不正使用又は不正開示に当たらな
いとして,同原告のVRC法の実施行為について,被告が同原告に対して同法3条
1項に基づく差止請求権及び同法4条に基づく損害賠償請求権を有しないことの確
認を求めている。
一般に,確認の訴えは,即時確定の利益がある場合,換言すれば,現に,原告の
有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在し,これを除去するため被告に対
し確認判決を得ることが紛争の解決のために必要かつ適切な場合に限り,許される
と解すべきである。
証拠(甲12,33)によれば,被告は,原告サーナアルファに対し,弁護士を
通じ,内容証明郵便により,平成25年7月19日付け本件警告状及び同年8月2
9日付け通告書(以下「本件通告書」という。)を送付し,被告の「知的財産権
等に対する一切の侵害行為及び妨害行為を停止」するよう求めたことが認められる。
しかし,上記証拠によれば,本件警告状及び本件通告書には,被告が原告サーナ
アルファに提供したとされる営業秘密に関する記載は何ら存在せず,同原告による
VRC法の実施が不正競争防止法2条1項7号所定の営業秘密の不正使用又は不正
開示に当たる旨の記載も存在しないのであって,被告が,本件警告状又は本件通告
書により,同原告に同法2条1項7号及び3条1項に基づく差止請求権や同法2条
1項7号及び4条に基づく損害賠償請求権を主張したとみることは,困難であり,
ほかに,被告が,同原告に対して,同法2条1項7号及び同法3条1項に基づく差
止請求権並びに同法2条1項7号及び同法4条に基づく損害賠償請求権を主張する
おそれが,現に存在していると認めるべき事情は見当たらない。
そうすると,現に,同原告の有する権利又は法律的地位に危険又は不安が存在し,
これを除去するため被告に対し確認判決を得ることが紛争の解決のために必要かつ
適切であるということはできないから,確認の利益は,これを肯定することができ
ない。
したがって,被告が同原告に対して不正競争防止法2条1項7号及び同法3条1
項に基づく差止請求権並びに同法2条1項7号及び同法4条に基づく損害賠償請求
権を有しないことの確認請求に係る同原告の訴えは,不適法である。
2争点2(原告サーナアルファの被告に対する不当利得返還請求権は成立する
か)について
(1)争点2-(1)(被告との契約に係る原告サーナアルファの代表者であるAⅳ
の意思表示につき,法律行為の要素に錯誤があったか)について
ア原告サーナアルファ契約の内容について
証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によれば,原告サーナアルファ契約は,原告サー
ナアルファが「法人契約加圧トレーニングインストラクター」として,被告から認
定を受け,また,同原告の従業員が「従業者インストラクター」として認定,登録
を受けることを目的とした講習に関する契約であって,被告が同原告に本件特許権
の再実施権を許諾することや,被告が同原告に加圧トレーニングにより成長ホルモ
ンが290倍分泌されることを保証することを内容とするものではなく,また,同
原告が同契約に基づいて被告に支払った合計304万9570円の金員は,登録料
等(インストラクターの登録料,更新料,トレーニング器具の代金)であって,本
件特許権の再実施許諾の対価や,成長ホルモンが290倍分泌されることを保証す
るための対価とはされていないことが認められる。
イ原告サーナアルファの主張に係る錯誤について
(ア)本件錯誤1-1及び同1-2について
原告サーナアルファは,同原告の代表者であるAⅳが,本件特許権の効力が医療
類似行為には及ばないにもかかわらず,これが及ぶとの錯誤(本件錯誤1-1)や,
加圧トレーニングをリハビリ等の医療類似行為に応用する方法は,本件特許発明の
技術的範囲に属さないにもかかわらず,これに属するものとの錯誤(本件錯誤1-
2)に陥ったため,原告サーナアルファ契約を締結してしまった旨主張する。
しかし,上記アのとおり,原告サーナアルファ契約は,そもそも,被告が同原告
に本件特許権の再実施権を許諾し,同原告が被告にその対価を支払うことを内容と
するものではない。
また,同原告の主張は,同原告が,加圧トレーニングを鍼灸師や理学療法士など
の有資格者が行う医療類似行為としてのみ実施し,医療行為や医療類似行為以外の
行為としては実施しないことを前提とするものであるところ,証拠(甲8,41,
53,乙2,4,5,8の1・2,原告サーナアルファ代表者)によれば,同原告
は,専ら医療類似行為を行っていたものではなく,筋力トレーニングとしての加圧
トレーニングの効果を利用した施術のメニューを用意し,実際にも,加圧による筋
力トレーニングと鍼を組み合せて実施していたことが認められる上,被告から資格
認定を受けた同原告の「従業員インストラクター」には,ダンサーやスポーツイン
ストラクターなど,医療類似行為に係る資格を有しない者が複数存在していたこと
も認められるところであって,同原告の上記前提が成り立たないことは,明らかで
ある(なお,証拠〔甲43〕によれば,本件書籍には,加圧・除圧を繰り返す旨の
記載があることが認められるが,このような方法の実施の全てに本件特許権の効力
が及ぶとか,このような方法の全てが本件特許発明の技術的範囲に属するなどとす
る記載があるか否かは明らかでない。)。
そうすると,Aⅳが,本件特許権の効力が医療類似行為に及ばないとの認識や,
加圧トレーニングをリハビリ等の医療類似行為に応用する方法が本件特許発明の技
術的範囲に属さないとの認識を有していたとしても,それゆえに,同人において,
原告サーナアルファ契約を締結し,あるいはこれを更新しなかったであろうという
ことにはならないというべきである。
したがって,本件錯誤1-1及び同1-2は,いずれも要素の錯誤とは認められ
ない。
(イ)本件錯誤2について
原告サーナアルファは,Aⅳが,加圧トレーニングを行うことにより成長ホルモ
ンを290倍分泌させることはできないにもかかわらず,分泌させることができる
と誤信し(本件錯誤2),これを動機として,原告サーナアルファ契約の締結に至
ったもので,その動機は表示されていた旨主張する。
しかし,前記アのとおり,原告サーナアルファ契約は,そもそも,被告が同原告
に加圧トレーニングにより成長ホルモンが290倍分泌されることを保証し,同原
告が被告にその対価を支払うことを内容とするものではない。
ところで,証拠(甲43)によれば,本件書籍には,「成長ホルモンが約290
倍に!」などの記載があることが認められるが,このような記載をもって,具体的
な条件や個人差を問うことなく,加圧トレーニングにより,常に,成長ホルモンが
290倍分泌されることが理解されるものではない(なお,証拠〔甲14,32〕
によれば,Aⅲの著作に係る「加圧トレーニングQ&A」には,「成長ホルモンの
分泌は加圧トレーニングをして15~30分後にピークになり,運動負荷や個人差
にもよるが,加圧前と比べると約100~300倍に分泌量は上昇する。」などの
記載,被告の発行に係る「加圧筋力トレーニングQ&A」には,「運動して15分
後には,成長ホルモンは運動前の平均値から100倍以上増加するのです。」など
の記載があることが認められる。)。そうすると,Aⅳが,個人契約の締結に際し
て,被告に対し,本件書籍を読んだことを伝えていたとしても,加圧トレーニング
を行うことにより成長ホルモンを290倍分泌させることができる旨Aⅳが信じて
いたことが表示されたということはできないというべきであり,ましてや,原告サ
ーナアルファ契約の締結やその更新に際して,そのような表示が被告に対してされ
たということは困難である。
したがって,原告サーナアルファ契約につき,原告サーナアルファの代表者Aⅳ
の動機が表示されているといえない以上,原告サーナアルファの本件錯誤2の主張
は認められない。
(2)争点2-(2)(原告サーナアルファの代表者であるAⅳに重過失があったか)
について
事案に鑑み,念のため,Aⅳの重過失についても検討しておく。
既に認定説示したところによれば,原告サーナアルファ契約は,原告サーナアル
ファの代表者であるAⅳによって,営利を目的とする事業を遂行する同原告のため
に,被告との間で締結されたものであることが認められるから,同原告ないしAⅳ
において,同契約が,実質的に本件特許権の再実施許諾に関する契約と同視される
べきであるとか,加圧トレーニングを行うことにより成長ホルモンを290倍分泌
させることができることを前提とする契約であるというのであれば,同原告の代表
者であるAⅳとしては,取引の通念に照らし,同契約を締結ないし更新する際に,
本件特許権や本件特許発明がどのようなものか,また,加圧トレーニングの成長ホ
ルモンに対する効果がどのようなものかについて,調査・検討することは,必要不
可欠であったといえる。すなわち,本件特許権の効力の及ぶ範囲や本件特許発明の
技術的範囲がいかなるものか(本件特許が無効とされる可能性がどの程度あるかと
いうことを含む。)について調査し,本件特許権が同原告の事業にどのように有用
であるかを検討し,あるいは,加圧トレーニングの成長ホルモンに対する効果につ
いて調査し,加圧トレーニングが同原告の事業にどのように有用であるかを検討す
ることは,当然であり,仮に,自らこれを行うことが困難であったとしても,専門
家の意見を求める等により,適宜の評価をすることは十分可能であったというべき
である。そうすると,本件錯誤1-1及び同1-2など本件特許権や本件特許発明
に関するAⅳの認識の誤りや,本件錯誤2など加圧トレーニングの成長ホルモンに
対する効果に関するAⅳの認識の誤りがあったとしても,それは,事業を遂行する
過程で契約を締結等する際に,当然に調査検討すべき事項を怠ったことによるもの
であって,重大な過失に基づく誤認であるというべきである。
(3)小括
以上のとおりであるから,原告サーナアルファ契約が錯誤により無効であるとは
認められず,原告サーナアルファの被告に対する不当利得返還請求権は,成立しな
い。
3争点3(原告Aⅰの被告に対する不当利得返還請求権は成立するか)につい

(1)争点3-(1)(被告との契約に係る原告Aⅰの意思表示につき,法律行為の
要素に錯誤があったか)について
ア原告Aⅰ各契約の内容について
(ア)前記前提事実,証拠(甲3,4)及び弁論の全趣旨によれば,原告Aⅰ契約
1は,原告Aⅰが「加圧筋力トレーニング指導者」として,被告から認定を受ける
ことを目的とした講習に関する契約であって,本件特許権の再実施許諾の趣旨を含
むが,被告が同原告に加圧トレーニングにより成長ホルモンが290倍分泌される
ことを保証することを内容とするものではなく,また,同契約に基づき,同原告が
被告に支払った金員は,受講料金(税込)103万5300円(本件特許権の再実
施許諾料を含む。)であって,成長ホルモンが290倍分泌されることを保証する
ための対価とはされていないことが認められる。
また,前記前提事実,証拠(甲5の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,原告A
ⅰ契約2は,原告Aⅰが「加圧筋力トレーニング統括指導者」として,被告から認
定を受けることを目的とした講習に関する契約であって,被告が同原告に加圧トレ
ーニングにより成長ホルモンが290倍分泌されることを保証することを内容とす
るものではなく,また,同契約に基づき,同原告が被告に支払った金員は,受講料
金(税込)184万9050円(本件特許権の再実施許諾料を含むとは認められな
い。)であって,本件特許権の再実施許諾の対価や,成長ホルモンが290倍分泌
されることを保証するための対価とはされていないことが認められる。
なお,原告Aⅰ契約1及び同2については,それぞれ1年ごとの更新料が支払わ
れており,原告Aⅰ契約1に基づき1回目ないし5回目の更新料として合計103
万5300円,原告Aⅰ契約2の1回目の更新料として16万440円,原告Aⅰ
契約1に基づき6回目ないし11回目の更新料及び原告Aⅰ契約2の2回目から7
回目の更新料の合計額として合計219万8193円を支払ったこと,原告Aⅰ契
約1に基づく更新料には本件特許権の再実施許諾料が含まれることが認められ,原
告Aⅰ契約2に基づく更新料には本件特許権の再実施許諾料を含むとは認められな
い。
(イ)前記前提事実及び弁論の全趣旨によれば,原告Aⅰ契約3は,被告が原告A
ⅰに加圧マスターミニという加圧トレーニング用の器具を売り渡し,同原告が被告
にその代金58万4325円を支払うという売買契約であって,被告が同原告に本
件特許権の再実施権を許諾することや,被告が同原告に加圧トレーニングにより成
長ホルモンが290倍分泌されることを保証することを内容とするものと認めるに
足りる証拠はなく,また,同契約に基づき,同原告が被告に支払った58万432
5円は,売買代金であって,これに本件特許権の再実施許諾の対価や成長ホルモン
が290倍分泌されることを保証するための対価が含まれていると認めるに足りる
証拠はない。
(ウ)前記前提事実及び弁論の全趣旨によれば,原告Aⅰ契約4は,原告Aⅰが
「加圧トレーニング特定資格者」として,被告から認定を受けることを目的とした
講習に関する契約であって,被告が同原告に本件特許権の再実施権を許諾すること
や,被告が同原告に加圧トレーニングにより成長ホルモンが290倍分泌されるこ
とを保証することを内容とするものと認めるに足りる証拠はなく,また,同契約に
基づき,同原告が被告に支払った42万円は,受講料金であって,これに本件特許
権の再実施許諾の対価や成長ホルモンが290倍分泌されることを保証するための
対価が含まれていると認めるに足りる証拠はない。
イ原告Aⅰの主張に係る錯誤について
(ア)本件錯誤1-1及び同1-2について
原告Aⅰは,本件特許権の効力が医療類似行為には及ばないにもかかわらず,こ
れが及ぶとの錯誤(本件錯誤1-1)や,加圧トレーニングをリハビリ等の医療類
似行為に応用する方法は,本件特許発明の技術的範囲に属さないにもかかわらず,
これに属するものとの錯誤(本件錯誤1-2)に陥ったため,原告Aⅰ各契約を締
結してしまった旨主張する。
しかし,上記アのとおり,原告Aⅰ契約3及び同4は,被告が同原告に本件特許
権の再実施権を許諾し,同原告が被告にその対価を支払うことを内容とするもので
はない。
また,同原告の主張は,同原告が,加圧トレーニングを鍼灸師が行う医療類似行
為としてのみ実施し,医療行為や医療類似行為以外の行為としては実施しないこと
を前提とするものであるところ,証拠(乙1,原告Aⅰ本人)によれば,同原告は,
専ら医療類似行為を行っていたものではなく,筋力トレーニングとしての加圧トレ
ーニングの効果を利用した施術のメニューを用意し,これを実施していたことが認
められるところであって,同原告の上記前提が成り立たないことは,明らかである。
そうすると,同原告が,本件特許権の効力が医療類似行為に及ばないとの認識や,
加圧トレーニングをリハビリ等の医療類似行為に応用する方法が本件特許発明の技
術的範囲に属さないとの認識を有していたとしても,それゆえに,同原告において,
原告Aⅰ各契約を締結し,あるいはこれを更新しなかったであろうということには
ならないというべきである。
したがって,本件錯誤1-1及び同1-2は,いずれも要素の錯誤とは認められ
ない。
(イ)本件錯誤2について
原告Aⅰは,加圧トレーニングを行うことにより成長ホルモンを290倍分泌さ
せることはできないにもかかわらず,分泌させることができると誤信し(本件錯誤
2),これを動機として,原告Aⅰ各契約の締結に至ったもので,その動機は黙示
に表示されていた旨主張する。
しかし,前記アのとおり,原告Aⅰ各契約は,そもそも,被告が同原告に加圧ト
レーニングにより成長ホルモンが290倍分泌されることを保証し,同原告が被告
にその対価を支払うことを内容とするものではない。
この点,原告Aⅰは,Aⅲの講演において,加圧トレーニングにより成長ホルモ
ンが290倍分泌されたとの発言を聴いたことが原告Aⅰ各契約締結の動機となっ
た旨主張する(なお,原告サーナアルファと異なり,原告Aⅰは,当初,加圧トレ
ーニングの成長ホルモンに対する効果に関する認識をあえて請求原因としていなか
った〔平成26年11月28日の第1回口頭弁論期日に陳述した同年4月28日付
け訴状(8頁)及び同年8月12日付け訴状訂正書(11頁)〕にもかかわらず,
後日,これを主張するに至った〔平成27年10月20日の第8回弁論準備手続期
日に陳述した同年9月15日付け準備書面8(5頁)〕という経緯がある。)。証
拠(甲18,40,原告Aⅰ本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告Aⅰ契約1の
締結後,同原告が聴いたAⅲの講演(平成14年2月1日実施)において,同人が,
加圧トレーニングの成長ホルモンに対する効果に関連して,「成長ホルモン300
倍」という論文に言及したことがうかがわれるものの,同原告が,同契約の締結に
先立って,Aⅲの講演で「加圧トレーニングにより成長ホルモンが290倍分泌さ
れた」旨の発言を聴いた事実が認められるものではなく,ほかに同契約の締結に先
立って同原告がAⅲから同発言を聴いたと認めるに足りる証拠はない。
また,仮に,同原告が,原告Aⅰ各契約の締結ないし更新に際して,被告に対し,
Aⅲの講演を聴いたことを伝えていたとしても,そのことのみをもって,直ちに同
原告が加圧トレーニングを行うことにより成長ホルモンを290倍分泌させること
ができる旨信じていた旨,被告に表示されたことにはならない。
したがって,原告Aⅰ各契約につき,原告Aⅰの動機が表示されているとはいえ
ない以上,原告Aⅰの本件錯誤2の主張は認められない。
(2)争点3-(2)(原告Aⅰに重過失があったか)について
事案に鑑み,念のため,原告Aⅰの重過失についても検討しておく。
既に認定説示したところによれば,原告Aⅰ各契約は,いずれも,営利を目的と
する事業を遂行する同原告が被告との間で締結したものであり,このうち,原告A
ⅰ契約1及び同2には,本件特許権の再実施許諾に関する条項が含まれることが認
められるところ,同原告において,同契約以外の原告Aⅰ各契約についても,実質
的に本件特許権の再実施許諾に関する契約と同視されるべきであるとし,また,原
告Aⅰ各契約がいずれも加圧トレーニングを行うことにより成長ホルモンを290
倍分泌させることができることを前提とする契約であるというのであれば,同原告
としては,取引の通念に照らし,原告Aⅰ各契約を締結ないし更新する際に,本件
特許権や本件特許発明がどのようなものか,また,加圧トレーニングの成長ホルモ
ンに対する効果がどのようなものかについて,調査・検討することは,必要不可欠
であったといえる。すなわち,本件特許権の効力の及ぶ範囲や本件特許発明の技術
的範囲がいかなるものか(本件特許が無効とされる可能性がどの程度あるかという
ことを含む。)について調査し,本件特許権が同原告の事業にどのように有用であ
るかを検討し,あるいは,加圧トレーニングの成長ホルモンに対する効果について
調査し,加圧トレーニングが同原告の事業にどのように有用であるかを検討するこ
とは,当然であり,仮に,自らこれを行うことが困難であったとしても,専門家の
意見を求める等により,適宜の評価をすることは十分可能であったというべきであ
る。そうすると,本件錯誤1-1及び同1-2など本件特許権や本件特許発明に関
する同原告の認識の誤りや,本件錯誤2など加圧トレーニングの成長ホルモンに対
する効果に関する同原告の認識の誤りがあったとしても,それは,事業を遂行する
過程で契約を締結等する際に,当然に調査検討すべき事項を怠ったことによるもの
であって,重大な過失に基づく誤認であるというべきである。
(3)小括
以上のとおりであるから,原告Aⅰ各契約が錯誤により無効であるとは認められ
ず,原告Aⅰの被告に対する不当利得返還請求権は,成立しない。
第5結論
以上によれば,原告サーナアルファの本件訴えのうち,被告が同原告に対して不
正競争防止法2条1項7号及び同法3条1項に基づく差止請求権並びに同法2条1
項7号及び同法4条に基づく損害賠償請求権を有しないことの確認請求に係る訴え
は,不適法であるから,これを却下することとし,原告サーナアルファのその余の
請求及び原告Aⅰの請求は,いずれも理由がないから,これらを棄却することとし,
主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官
嶋末和秀
裁判官
鈴木千帆
裁判官
天野研司
(別紙)特許請求の範囲
1登録時
【請求項1】筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を筋肉の所定部位に巻
付け,その緊締具の周の長さを減少させ,筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲
労を生じさせ,もって筋肉の増大を図る筋肉トレーニング方法であって,筋肉に疲
労を生じさせるために筋肉に与える負荷が,筋肉に流れる血流を阻害するものであ
る筋力トレーニング方法。
【請求項2】緊締具が,筋肉に流れる血流を阻害する締め付け力を付与するも
のであり,締め付けの度合いを可変にするロック手段を備えた帯状体又は紐状体と
された請求項1記載の筋力トレーニング方法。
【請求項3】緊締具が,更に締め付け力の表示手段が接続されたものとされ,
少なくとも皮膚に接触する側に皮膚を保護するための素材を配したものとされた請
求項2記載の筋力トレーニング方法。
2訂正後
【請求項1】筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を筋肉の所定部位に巻
付け,その緊締具の周の長さを減少させ,筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲
労を生じさせ,もって筋肉の増大を図る筋肉トレーニング方法であって,筋肉に疲
労を生じさせるために筋肉に与える負荷が,筋肉に流れる血流を止めることなく阻
害するものである筋力トレーニング方法。
【請求項2】緊締具が,筋肉に流れる血流を阻害する締め付け力を付与するも
のであり,締め付けの度合いを可変にするロック手段を備えた帯状体又は紐状体と
された請求項1記載の筋力トレーニング方法。
【請求項3】緊締具が,更に締め付け力の表示手段が接続されたものとされ,
少なくとも皮膚に接触する側に皮膚を保護するための素材を配したものとされた請
求項2記載の筋力トレーニング方法。

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従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

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条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

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