弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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○ 主文
原判決を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
○ 事実
控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求め
た。
当事者双方の主張および証拠関係は左に付加するほかは原判決事実摘示と同一であ
るからこれを引用する。
控訴代理人の主張
別紙昭和四八年七月二六日付準備書面(一)
同年九月一七日付   同   (二)
昭和四九年一〇月一七日付同  (三)
同年一二月一〇日付  同   (四)
のとおりである。
被控訴代理人の主張
別紙昭和四九年一〇月一七日付準備書面
第二、第三項
のとおりである。
証拠(省略)
○ 理由
一 本件処分にいたる経緯
被控訴人がアメリカ合衆国国籍を有する外国人で、昭和三四年ハワイ大学(教育学
等専攻)を卒業し、ハワイ州立学校の教師、米国船舶局職員をした後、昭和四一年
米国平和奉仕団の一員として韓国に渡り、英語教育に従事したが、昭和四四年四月
二一日その所持する旅券に在韓国日本大使館発行の査証をうけたうえで、本邦に入
国し、同年五月一〇日下関入国管理事務所入国審査官により、出入国管理令(以下
たんに令という)四条一項一六号、特定の在留資格及びその在留期間を定める省令
一項三号に該当する者としての在留資格をもつて、在留期間を一年とする上陸許可
の証印を受けて本邦に上陸したこと、被控訴人は入国後東京都内に居住し当初はベ
ルリツツ語学学校(以下ベルリツツという)に、その後は財団法人英語教育協議会
(以下エレツクという)に英語教師として勤務して生計をたてるかたわら、琵琶を
日本琵琶協会理事錦琵琶宗家aに師事して週二回、琴をbに師事して週一回それぞ
れ習い、その研究を続け、ゆくゆくはアメリカのアジア音楽部門を有する大学で琵
琶、琴などの教授をしたいと志していたこと、そこで被控訴人が昭和四五年五月一
日さらに日本での英語教育及び琵琶、琴などの研究を継続する必要があるとして控
訴人に対し、右を理由として一年間の在留期間の更新を申請したところ、控訴人は
同年八月一〇日「出国準備期間として同年五月一〇日から同年九月七日まで一二〇
日間の在留期間更新を許可する。」との処分(本件(一)処分)をしたこと、そこ
で被控訴人はさらに同年八月二七日控訴人に対し、同年九月八日から一年間の在留
期間の再更新を申請したところ、控訴人は同年九月五日付で、被控訴人に対し右更
新を許可しないとの処分(本件(二)処分)をしたこと、以上の事実はすべて原判
決の理由に示すとおりにこれを認めることができるので、原判決の右部分を引用す
る(原判決二一枚目表三行目から裏一〇行目まで)。
二、本件処分の適否
被控訴人は控訴人のした本件(二)処分は違法であるとしてその取消を求めるもの
である。よつて以下これについて判断する。
(一) およそ本邦(以下わが国または日本ともいう)に在留する外国人の地位
は、日本国民が本邦において生来固有する法的地位と全く同一のものでありえない
ことは勿論である。自国内に外国人を受け入れるか否かは基本的にはその国の自由
であり、国は自国および自国民の利益をまもるため、これに支障があると思料する
外国人の受入れを拒否しうべく、そのための基準を定めることもまた自由である。
今日国際社会において国際協調、文化交流、平和共存の傾向が強まり、外国人受入
れの規制は逐次緩和されているとはいえ、その基本は変ることはなくわが国につい
ても同様である。すなわち本邦に入国、上陸、在留しようとする外国人は権利とし
て右のごとき入国等を要求しうるものではなく、国はその自ら定める基準である出
入国管理令所定の各規定に照らし当該外国人の資格審査をし、その結果に基づき特
定の資格により一定の期間を限つて(外交関係及び永住許可の場合を除く)、入
国、上陸、在留を許可するのである。もつとも、いつたん適法に在留を許可された
外国人は、その在留期間内は令二四条に定める退去強制事由に該当しない限り、そ
の活動は原則として自由であり、人権、人種、信条、性別によつて差別されること
はなく、思想、信教、表現の自由等基本的人権の享受においても、おおむね日本国
民に準じて劣るところはない。さらに仮りにその言動がわが国、その友好国ないし
当該外国人の母国の政策を批判し、その動向に影響を及ぼす等いわゆる政治的活動
であつても、それが本来外国人としての礼譲にかなうかどうかの批判はありえて
も、それ自体が退去強制事由に該当しない以上、その在留期間中は、法律上とくだ
んの不利益を受けることはないのである。しかしひとたびこの外国人に在留期間の
更新を許すべきかどうかとなれば、問題はおのずから別である。すなわち、適法に
在留する外国人はその定められた在留期間内に在留目的を達成して自ら国外に退去
するのがたてまえであり、国は自ら在留を許した外国人には、その在留期間内に限
つて活動を保証すれば足りるのである。たまたま在留外国人が期間内にその目的を
達成しがたい等によつて在留期間の延長の必要が生じたときは、当該外国人は令二
一条によつて期間の更新を受けることができるとしているが、その更新の申請に対
しては、法務大臣は更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるときに限り、こ
れを許可することができるのであつて、その相当の理由の有無については法務大臣
の自由な裁量による判断に任されているものというべく、このことは外国人の受入
れが基本的には、受入国の自由であることに由来する。法務大臣は許否の決定に当
つては申請者の申請事由の当否のみならず、当該外国人の在留期間中の行状、国内
の政治、経済、労働、治安などの諸事情及び当面の国際情勢、外交関係、国際礼譲
など一切の事情をしんしやくし、窮極には高度の政治的配慮のもとにこれを行なう
べきこととなる。したがつて法務大臣が在留期間更新の申請を拒否するには令五条
一項一一号ないし一四号の上陸拒否事由、あるいは令二四条の退去強制事由に準ず
る事由がなければならないと論ずることは妥当ではない。
しかしこの法務大臣の処分といえども、それが処分の理由とされた事実に誤認があ
り、または事実に対する評価が何人の目からみても妥当でないことが明らかである
等裁量権の範囲を逸脱し権利の濫用である場合ににその処分は違法となること一般
の行政処分と異なるものではなく、ただ事実上法務大臣の判断が第一次的に高宮に
尊重されなければならないというだけである。そして在留期間の更新申請を違法に
却下された外国人は、当該処分の名宛人であり、法律上保護される利益を害された
者としてその取消を裁判所に求めうべきものと解するのが相当である。
(二) そこで本件の場合について按ずるに、この点について控訴人が本件(一)
処分をし、次いで本件(二)処分をし、結局被控訴人の在留期間更新の申請につい
て、被控訴人の申請事由はともかく、更新を適当と認めるに足りる相当の理由があ
るものとせず、これを許可しなかつたのは、被控訴人の在留期間中の無届転職と、
いわゆる政治的活動の故であることは、控訴人の自ら主張するところである。しか
しその無届転職すなわち被控訴人がベルリツツからエレツクに勤務を変更したこと
のみをもつて右不許可の理由としたものとすればその間の事情に即していささか問
題であろう(その消息については原判決二三枚目表一〇行目から二五枚目裏三行目
まで)。しかし本件処分理由はこれのみでないこと前記のとおりであるから、ここ
で右転職のみを理由としてその適否を決することは相当でない。よつてさらに控訴
人のいういわゆる政治活動の点について検討する。
まず、控訴人が本件訴訟においてはじめて右のごとき処分理由を追加して主張する
ことの差支えないことの判断および被控訴人がしたいわゆる政治的活動の目的、態
容についての当裁判所の認定は、原判決のそれと同一であるから、原判決二八枚目
表三行目から二九枚目裏五行目までを引用する。
右に引用した原判決判示の認定事実によれば、被控訴人は外国人へ平連(昭和四四
年六月在日外国人数人によつてアメリカの、ベトナム戦争介入反対、日米安保条約
によるアメリカの極東政策への加担反対、在日外国人の政治活動を抑圧する出入国
管理法案反対の三つの目的のために結成された団体であるが、いわゆるベ平連から
に独立しており、また、会員制度をとつていない)に所属し、昭和四四年六月から
一二月までの間、九回にわたりその定例集会に参加し、七月一〇日左派華僑青年等
が同月二日より一三日まで国鉄新宿駅西口付近において行なつた出入国管理法案粉
砕ハンガーストライキを支援するため、その目的等を印刷したビラを通行人に配布
し、九月六日と一〇月四日、へ平連定例集会に参加し、同月一五、一六日ベトナム
反戦モラトリアムデー運動に参加して米国大使館にベトナム戦争に反対する目的で
抗議に赴き、一二月七日横浜入国者収容所に対する抗議を目的とする示威行進に参
加し、翌四五年二月一五日朝霞市における反戦放送集会に参加し、三月一日同市の
米軍基地キヤンプドレイク付近における反戦示威行進に参加し、同月一五日ベ平連
とともに同市における「大泉市民の集い」という集会に参加して反戦ビラを配布
し、五月一五日米軍のカンボジア侵入に反対する目的で米国大使館に抗議のため赴
き、同月一六日、五、一六べトナムモラトリアムデー連帯日米人民集会に参加して
カンボジア介入反対米国反戦示威行進に参加し、六月一四日代々木公園で行なわれ
た安保紛砕労学市民大統一行動集会に参加し、七月四日清水谷公園で行なわれた東
京動員委員会主催の米日人民連帯、米日反戦兵士支援のための集会に参加し、同月
七日には羽田空港においてロジヤース国務長官来日反対運動を行なうなどの政治的
活動を行なつたものである。
右のごとき一連の政治活動も、これが在留米国人によつてその在留期間内になされ
たのであれば、さきにみたように外国人にも許される表現の自由の範囲内にあるも
のとして格別不利益を強制されるものではなく、また、それ自体で退去強制事由を
構成するものとするのも困難であろう。しかし外国人の在留期間がその所定期間の
経過によりもはや本邦に在留しえなくなるにさいしなされる在留期間更新の申請に
対し、法務大臣が更新を認めるに足りる相当の理由があると判断すべきか否かの問
題となれば、その評価はおのずから異なるべきことは、前記のとおりである。従つ
て、右のごとき被控訴人の一連の行動に対し法務大臣がこれを前記のような高度の
政治的配慮のものに判断をするに当り、これを消極的資料としてとりあげたとして
も、やむをえないものといわなければならないのであつて、たんに在留期間中は適
法になしえたというだけで、右のごとき法務大臣の評価を非難することはできな
い。
とくに憲法上外国人は参政権を認められず、わが国の政治、外交など日本国民が自
主的に主権の行使として決定すべき事項に関し、純粋な学問上の見地からする批評
や在留外国人が国際的礼譲の立場から許容される論評行為であればともかく、その
域を越えて、これに干渉的言動を弄するがごときは、なんぴとの目にも本来望まし
い事柄と見えるものとは必らずしもいいえないであろう。被控訴人の右の行動のう
ち、昭和四四年七月一〇日と一二月七日の行動はわが国の出入国管理政策に対する
非難行動であり、その他のものはアメリカの極東政策―ベトナム戦争反対、カンボ
ジア侵入反対―ひいて日米安保条約に対する抗議行動であつて、その主張の趣旨の
是非は別として、わが国の外交政策を非難し、また、わが国と友好関係にあるアメ
リカ合衆国が国策としているところを非難するものであり、日米間の国際友好関係
に影響なしとしえないものに属する。
これらの行動が被控訴人によつて現実に行なわれた以上、既述のごとき高度の政治
的判断のもとに出入国管理行政を行なうべきものとされている法務大臣が、これを
もつて日本国及び国民のために望ましいものとせず、その在留期間更新の許否を決
するにつき消極の事情と判断したとしても、それはその時点におけるその権限の行
使として、まかされた裁量の範囲におけるものというべく、これをもつて違法とす
ることはできないといわなければならない。これら個々の行動が、具体的にわが国
の国益をそこなうような実害を発生せしめるものではないとか、また、そのような
おそれがないからといつてすでに法務大臣がその高度の政治的判断によりわが国及
び国民の利益に適しないとする以上、それかなんぴとの目からも妥当としえないこ
とが明白であるとすべき事情のない本件では、右裁量を非難するのは相当でない。
その他に本件(二)処分が違法であることについてはこれを認めるに足る資料はな
い。
三、結論
しからば、控訴人のした本件(二)処分が違法であることを前提としてその取消を
求める被控訴人の本訴請求は失当として棄却を免れないものというべく、これと異
なる原判決はこれを取消すこととし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条
を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 浅沼 武 加藤 宏 園部逸夫)
(別紙)
昭和四八年七月二六日付
準備書面 (一)
一 本件は、「法務大臣が特に在留を認める者」(出入国管理令四条一項一六号、
特定の在留資格及びその在留期間を定める省令一項三号)として在留期間一年の制
限で上陸許可を受けたc(アメリカ国籍)が、法務大臣のなした昭和四五年九月五
日付期間更新不許可処分の取消しを求めた訴訟であり、原審は、法務大臣のなした
右不許可処分を自由裁量の範囲を逸脱した違法なものであるとして、これを取消す
べき旨の判決を言渡した。
二 しかし、右判決には法令の解釈を誤つた違法がある。
元来、外国人は、日本国民と同様に本邦に上陸し、滞在する権利を当然に有するも
のではない。外国人に対し上陸を許可し、一定の期間在留を許可するかどうかは、
法令によつて適当に定めうる事項であり、在留期間の更新についても、まつたく同
様である。
出入国管理令二一条一、二項によれば、本邦に在留する外国人は、法務大臣に申請
して在留期間の更新を受けることができるが、当然に更新を受ける権利を有するも
のではなく、同条三項は、「法務大臣は、当該外国人が提出した文書により在留期
間の更新を適当と認めるに足る相当の理由があるときに限り、これを許可すること
ができる。」ものと規定し、更新の許否の判断について、法務大臣に広範な自由裁
量権を与えている。
しかるに、原判決は、在留期間の更新の許否が法務大臣の自由裁量に属する事項で
あることを肯定しながら、他方において、被控訴人の転職及び政治活動を理由とし
てなされた更新不許可の処分を違法とし、殊に後者の点については、出入国管理令
五条一項一一号ないし一四号所定の上陸拒否事由に備ずる事由がない限り更新を許
可しなければならないと判断している。
しかし、在留期間の更新を認めるかどうかの判断に際し、法務大臣に要求されてい
る法令上の要件は、前述したように、これを認めるに足りる「相当の理由」の存否
であつて、この判断は、違法性の判断と異なり、法務大臣に広範な自由裁量権が留
保されていることは、明白である。しかるに、原判決は、この自由裁量権に上陸拒
否事由に準ずる事由がないかぎり更新を許可すべしという法文に存在しない枠をは
め込むものであつて、同令二一条三項の解釈に誤りを犯したものといわなければな
らない。
昭和四八年九月一七日付
準備書面 (二)
第一 本件在留期間更新不許可処分に至る経緯
1 被控訴人は、アメリカ合衆国に国籍を有する外国人で昭和四二年六月七日駐韓
国日本大使館より四八ケ月有効の数次観光査証を与えられ、以後次に記載のとお
り、いずれも出入国管理令(以下、令という。)四条一項四号該当者(観光客)と
しての在留資格により本邦に出入国していたものである。
(イ) 昭和四二年八月一日小倉港より入国、同年九月一日小倉港より出国、
(ロ) 同四三年一月六日下関港より入国、同年一月二三日下関港より出国、
(ハ) 同四三年八月二八日神戸港より入国、同年八月三〇日神戸港より出国、
(ニ) 同四四年一月一五日下関港より入国し、同年三月一八日在留期間更新許可
(下関第二五二号)を受け、同日下関港より出国した。
2 被控訴人は、右(ニ)記載の入国後間もなく、昭和四四年一月末頃東京都千代
田区<以下略>所在の株式会社ベルリツツスクール(以下「ベルリツツ社」とい
う。)に英語教師として雇用されることとなり、同年三月一八日の出国に至るまで
の約一ケ月半にわたりベルリツツ社の教育方法について給与を受けて種々の訓練を
受けていた。
しかし、当時被控訴人が有していた在留資格は令四条一項四号該当(観光客)であ
つたので、引続き本邦に在留する限り、在留資格の変更は法律上不可能であつたた
め、一旦出国し改めてベルリツツ社の社員としての在留資格を得るべく、ベルリツ
ツ社より雇用証明書、保証書及び被控訴人の本邦入国に関するベルリツツ社の上申
書を得て昭和四四年三月一八日下関港より出国したものである。
3 昭和四四年三月二〇日、被控訴人は駐韓国日本大使館に対し日本への入国(査
証)申請を行ない、ベルリツツ社よりの前記各書類を提出して本邦へ入国後はベル
リツツ社に就職して在留活動に従事するための入国査証を交付されたい旨申し出
た。
その申請に対し、駐韓国日本大使館は外務大臣に経何し、外務大臣は法務大臣と協
議の結果、昭和四四年四月二一日被控訴人の申請を認める特定査証を交付した。
4 被控訴人に交付された特定査証は、被控訴人が本邦に上陸許可される際には、
被控訴人の申請どおりベルリツツ社の社員としての活動を認めるため、令四条一項
一六号「特定の在留資格及び在留期間を定める省令一項三号に該当する者としての
在留資格」(以下「在留資格四-一-一六―三」という。)を与えるものであつ
て、その在留資格により許される活動はベルリツツ社社員としての活動のみであ
り、またその在留期間は一年と定められていた。
5 被控訴人は、昭和四四年五月一〇日下関港入国審査官より上陸を許可され、前
記特定査証に基づき在留資格四-一-一六-三、在留期間一年を付与され、ベルリ
ツツ社に就職した。
6 被控訴人は、昭和四五年五月一日東京入国管理事務所に出頭して、法務大臣に
対し、英会話教授と伝統的な日本の音楽勉強のためとして令二一条二項に基づく在
留期間の更新を申請した。
右申請につき東京人国管理事務所において調査したところ、被控訴人は昭和四四年
五月一〇日ベルリツツ社に就職するために入国を許可された者であるにもかかわら
ず、入国後僅か一七日間在職したのみでベルリツツ社を退職し、同月二八日頃から
は、東京都千代田区<以下略>所在の財団法人英語教育協議会(以下、「エレツ
ク」という。)に英語教師として勤務しているのみならず、被控訴人がいわゆる外
国人ベ平連に所属し、安保紛砕統一集会をはじめ政治活動を目的とする集会及び集
団示威運動に参加している事実が判明した。
7 控訴人は、被控訴人がその申請にかかる在留資格で認められた活動以外の活動
に従事しているのみならず、右のような政治活動等に参加していることに徴し、審
査の結果、「在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由」(令二一条三
項)が認められないとしたが、特に被控訴人の出国準備に要する期間を考慮して、
昭和四五年七月二九日「出国準備期間として」一二〇日に限り在留期間の更新を許
可することとし、東京入国管理事務所にその旨を通知した。
同所人国審査官は、同年八月一〇日同所に出頭した被控訴人に対し、その所持する
族券に在留資格四-一-一六-三在留期間一二〇日の許可証印をなし、同時に右許
可は「出国準備期間」としてなされたことを口頭で通知し、族券にも前記証印の下
に「出国準備期間として」と記載した。
8 しかるに被控訴人は、同年八月二七日法務大臣に対しさらに琵琶と琴を習うた
め及び前記エレツクで英語を教えるためとして在留期間の更新を申請した。
しかし、本件在留期間更新申請についても前記6記載の事情は依然として存続して
おり、また出国のための準備期間はすでに前回の手続において許可されており、さ
らに在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由がないので、同年九月五日
これを不許可としたものである。
第二 本件処分の適法性について
一 在留期間更新許可制度の趣旨及び性格
1 およそ外国人は、他国に入国し滞在する権利を何ら有するものではないという
のが、国際慣習法上確立した原則である。たとえば、一九六五年施行のドイツ連邦
共和国(西ドイツ)外国人法は、外国人の基本権尊重を明定し(六条一項)、亡命
者庇護制度を整備する(第四章)など、諸外国の外国人関係立法中もつとも充実し
たもののひとつであるが同法も外国人の入国・滞在に関する右の原則に基づいて制
定されている(W.kanein、Das Auslandergesetz、1
966、§2、A.1、s.40)すなわち、同法によれば、外国人が同法施行区
域内に入国し滞在しようとするときは、外国人行政庁の滞在許可を受けなければな
らない。そして、滞在を許可するか否か、許可するにしてもこれを場所的に制限し
たり、或いは又、期限付、条件付又は一種の負担付で許可することが認められてお
り、これらは完全な自由裁量とされているのである(二条、七条参照)。しかも、
この自由裁量は、滞在延長許否の場合を含めて極めて広く認められ、その広範さは
帰化の許否についての裁量とまつたく同等のものであるとされている(G.Wei
ssmann、Auslandergesetz、1966、§2、Anm.7
b、s.47、Anm.10a、s.54)そして、この場合の自由裁量に対する
制限は、外国人の滞在がドイツ連邦共和国の利益を何らかの意味で害する場合に
は、滞在許可を絶対に与えてはならないという、いわば消極的な方向においてのみ
存在するにすぎない。フランスにおいても、外国人はフランスに上陸し、滞在する
権利を当然に有するものとはされていない。「外国人のフランスにおける入国及び
在留の条件を定め、国家入国管理事務所を創設する一九四五年一一月二日条令四五
-二、六五八号」五条によれば、外国人にすべて、フランスに入国するに際し、国
際条約及び現行規定により要求される文書及び査証を具備することを要し、また有
給の職業に従事するためにフランスこ来る場合には右の文書のみならず、同条令七
条に基づき労働関係大臣により規定どおり署名された労働契約書又に労働関係大臣
より本人に交付された許可書を呈示しなければならない。そして、被控訴人のよう
な臨時労働者は、一時在留外国人として一時在留カードを所持することを要し(同
条令一〇条)このカードの有効期間は一年であるから、その期間を更新するか、又
は一般在留者(フランスにおいて住居を設けようとする外国人)若しくは特恵在留
者のカードの交付を受けるのでなければ、フランスを離国しなければならない(同
条令一一条)。同様に、スイスにおいても、外国人はスイスに上陸し、滞在する権
利を当然には有していない。スイスに滞在しようとする外国人は、滞在許可を必要
とし(外国人の滞在及び定住に関する連邦法律一条)、滞在を許可するか否かは、
各州がその自由裁量において決定するものとされ(同法律一八条二項)、しかもこ
の許可は有限で、最初は原則として一年間を超えてはならないし、またこれに条件
を付することができる(同法律五条一項)。オランダ、スエーデン、イギリス、ア
メリカなどの諸外国も、外国人の出入国及び在留の許否は、もつぱら当該国家の自
由裁量により決しうるものとしており、特別の条約等がない限り各国は外国人の入
国及び在留を許可すべき義務を負わないのである。
2 わが出入国管理令も、この国際慣習法上一致した見解に基づき、かつ憲法の定
める国際協調主義に従つて、在留外国人管理の具体的方針を定めたものであり、令
二一条三項が在留期間更新の許否を法務大臣の自由裁量によることとしているの
は、この国際慣習法上当然の事理を定めたにすぎない。
このように、外国人は自己の在留を他の国家に対して要求する権利を有するもので
はないから、令二一条が、外国人は在留期間の更新を申請することができる旨規定
していても、それは外国人に在留期間の更新を権利として保障することを意味する
ものではなく、単に期間更新についての申請権を付与したにすぎないものと解すべ
きである。そして、右更新申請の許否は、法務大臣の極めて広範な自由裁量により
決定されるのであつて、右裁量にあたり考慮の対象となる事項については何らの制
限も存しない。もつとも、令二一条三項は、「当該外国人が提出した文書により」
在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるとぎに限り、法務大臣は
更新を許可すべき旨規定しているが、この規定は、更新の許否の判断事項を右文書
に限定する趣旨でないことはいうまでもない。法務大臣は、右文書に記載された事
項について裏付調査をすることができることはもちろん、更新の許否を判断する時
点において判明した一切の事項をしんしやくし、その自由なる裁量により更新の許
否を決するのであつて、しかも、在留期間の更新の許可は、いわば恩恵の付与であ
り、当該外国人は単に更新申請が許可されることがありうるという事実上の期待を
もつにすぎないのである(大阪高等裁判所第二刑事部昭和四三年四月九日判決、昭
和四二年(う)第七二七号事件参照)。
ただ、入管行政のように、申請者側から提出される資料を基礎に行なわれる行政に
おいては、その提出書類の信憑性に依存する割合が極めて大きいことは、事実であ
る。けだし、入管当局が現実に調査しうる能力には限界があるのみならず、数十万
人にのぼる在留外国人のすべてについて、その毎日の在留活動を入管当局が追跡し
点検すべきものでないからである。
それ故、基本的には、法令の建前どおり、申請者の申立及び提出資料を信頼して処
分が行なわれることとなる。
このことは、他面入国査証の付与ないし上陸許可等のごとき出入国管理上の処分
が、およそ当該処分時には確定的には知りえない申請者の将来にわたる在留活動の
許否にかかわるものであること、このような処分の性質上、申請者の申立及びその
提出資料等処分時に判明している事実により当該申請人の将来にわたる在留活動を
合理的に予測しこれに基づいて処分を行なうほかないものであることに徴して、ま
ことにやむをえたいところである。
このように、出入国管理行政は、その処分の性質、人権尊重の要請及び現実的制約
等種々の理由から、行政庁と申請者との信頼関係に依存する部分が大きいのであつ
て、外国人との信頼関係を基礎にして行政が行なわれている面を見逃してはならな
いのである。
したがつて、外国人の申請時の申立や提出資料に基づき決定された在留資格とその
現実の在留活動が相違する場合には、それが入国後の事情変更等悪意による場合で
なくても資格外活動として退去強制事由(令二四条四号イ)に該当し、罰条(令七
〇条四号、七三条)に触れるほか、在留期間更新の許否に当たつても、その言行不
一致は、否定的要素と評価されるのである。すなわち、このような申立や提出資料
と現実の在留活動の不一致を黙認し、そのまま存留期間の更新を許可するならば、
結局、申請者の申立聴取や資料提出は、それ自体全く無意味となり、外国人の在留
活動の合理的予測はおろか出入国管理行政の基本的秩序が破壊されるに至るのであ
る。
提出資料と現実の在留活動の不一致は、このように出入国管理当局と外国人との間
の信頼関係を破壊し行政の基本的秩序を乱すものであるから、在留期間更新許否の
裁量に当たつて否定的要素となるのは極めて当然のことである。
3 在留期間更新許可は、令二一条三項の規定から明らかなように、在留期間の更
新を適当と認めるに足りる相当の理由があるとぎに限り、法務大臣においてこれを
許可することができるのであり、かかる理由が存しないときは、むしろ許可しては
ならないものというべきである。この点は、前述した西ドイツの場合と同様、法務
大臣の自由裁量に対する、いわゆる消極的な方向における制限であるということが
できる。
したがつて、原審において被控訴人が主張したごとく、不許可処分は期間更新を拒
否すべき特段の事情がない限り行なうべきではないとか、退去強制事由、或は、そ
れに準ずる事由が存在しない限り、原則として期間更新に許可すべきであるという
ような見解は在留期間更新許可制度の本質を誤解したものと評するほかはないので
ある。
たしかに、資格外活動乃至退去強制事由等積極的欠格事由は存しないが、さりとて
特段の一更新を適当と認めるに足りる相当の理由」も存しないという場合も実際上
ありうるであろう。
しかし、この場合においても、それは結局、「更新を適当と認めるに足りる相当の
理由がない」ということにほかならず、法務大臣は在留期間の更新を許可してはな
らない。
4 在留期間更新許否に当たつては、すでに述べたとおり、考慮の対象とされるべ
き事項について特段の制限は存しないのであるが、期間更新は、資格変更(令二〇
条)と異なり、端的に言つて在留活動の延長の許否を決するものであるから、その
中心的要素は在留目的の継続性、一貫性である。
したがつて、期間更新においては、申請者の当初の入国目的が一貫して追求されて
いるか否かが中心的要素として評価され、その一貫性が認められず当初の目的を変
更している場合には、期間更新許可によることにできず、かりに新らたな目的のた
め在留しようとするときには、資格変更手続によるか、又は、一旦出国し、改めて
適正査証を取得したうえ入国するのが、現行法令上の建前である。
5 在留期間更新不許可処分は、申請者に重ねて新たな利益を付与することはしな
いとするに止まる処分であつて、積極的、剥奪的に外国人の既得の法益を否定する
ものではない。
すなわち、かりに不許可とされても、すでに与えられている在留資格、在留期間に
影響を及ぼすことはないのであるから、期間内に出国すれば、何ら退去強制事由
(二四条四号ロ)にも、罰条(令七〇条五号)にも該当せず、また、改めて入国手
続を行なうに当つて何ら法定の拒否事由(令五条)に該当するものでもないのであ
る。この意味において、期間更新不許可処分は、いわゆる不利益処分ではない。
二 査証発給と上陸許可の経緯
事前審査制度
査証に関する事務は、外務大臣の権限に属するが(外務省設置法四条一項二〇
号)、在留資格四-一-一六-三は、もつぱら法務大臣の裁量により与えられるも
のであるため、在留資格四-一-一六-三を与えることとなる外国人から入国(査
証)申請があつたときは、在外公館は、あらかじめその発給の可否について、法務
大臣と協議することとなつている。
また、上陸港において、令及び出入国管理令施行規則(以下、「規則」という。)
の定める立証を申請者に規定どおり求めることは種々の困難をともなうのが実情で
あるので、出入国事務の合理化と外国人の便宜のため、当該外国人が在外日本公館
で入国(査証)申請を行なう際に、右申請に併せてあらかじめ令及び規則で定めら
れている立証を行なわせることとし、そのために、令及び規則が要求する各種資料
の提出、呈示を求めている。そして、法務大臣に対する協議の過程において必要な
場合には、申立の真否を確認するために裏付調査を行なうこともある。このような
手続を経て発給された入国査証にはいわゆるクリアランス番号が付され、かかる査
証を所持して上陸申請を行なつた外国人に対してに、在留資格上の立証はすでに行
なわれているため、慣行上、上陸港においての審査に当たり令及び規則が定める立
証資料の提出は求めていない。
被控訴人の場合についていえば、在韓国日本大使館は、被控訴人の申請にかかる在
留資格が四-一-一六―三であり、本邦で特定の事業主に雇用される者であること
から、査証申請に必要な諸資料のほか、規則四条ノ二第三号に定める「特定事業主
による原告の本邦における生活費、雇用が常勤であること、及び帰国旅費等につい
ての書面による保証」の提出を求めて、申請にかかる在留資格が虚偽のものでない
ことをあらかじめ立証させ、法務大臣との協議を経て被控訴人に査証を発給したの
である。
かかる経緯から被控訴人が所持する査証には、いわゆるクリアランス番号が付さ
れ、上陸港においては、被控訴人が駐韓国日本大使館で申請したのと同一の目的で
上陸しようとするものであることを確認し、在留資格四―一-一六-三を付与し、
上陸を許可したものである。
2 査証上の表示
被控訴人が所持する査証上の入国目的は、for employ ment
と記載されているが、これは「雇用されるため」ということであつて、被控訴人の
場合、ベルリツツ社の社員として雇用されることを指している。およそ、雇用され
るという以上、雇用主が特定していなければならないことは、いうまでもないとこ
ろであつて、現に被控訴人が記入した査証申請書の入国目的欄には「To tak
e employment With Berlitz schools、Tok
yo」(東京のべルリツツ・スクールに就職のため」)、申請者が所属する企業名
欄には「Berlitz Ichools of Languages of E
ast Asia Inc.chiyoda―ku Tokyo Japan」
(ベルリツツ・スクールズ・オブ・ランゲージ・オブ・イースト・アジア社、日本
国東京都千代田区<以下略>」)と記載されているのである。これによつても明ら
かであるように、被控訴人自身、旅券に発給された査証がベルリツツ社に雇用され
る目的に限り有効であることは、充分に了知しているものである。ちなみに、査証
上その有効性については、次のように記載されている。
「Good for single journey to Japan for
 employment Withnsix months of date i
f passport remains」(「旅券が有効である限り、六ケ月以白
に雇用されるため日本に渡航する場合、一回限り有効」)また、被控訴人とは異な
り、大学以上の機関で教育に従事する在留資格四-一-七を与えられる者の査証に
おける目的の記載は「for teaching」(「教育のため」)とされるの
であるから、これと対比しても、被控訴人の査証上の記載 for employ
ment が「雇用されるため」であることは、明らかである。
さらに、さきにも述べたとおり、在留資格四-一-一六-三に該当し、特定の事業
主に雇用される者は、「申請にかかる在留資格」が虚偽のものでないことを立証す
るに当たり、当該特定の事業主による雇用が常勤であること等の書面による保証が
必要とされていること(規則四条ノ二、三号)よりしても、被控訴人の査証上(f
or employment と記載されている入国目的の意味は、ベルリツツ社
に雇用されることである。もとより、同社社員としての被控訴人の職務は英語教師
であるが、在留資格上の観点から被控訴人に許される在留活動はあくまでもベルリ
ツツ社の社員としての活動であつて、同社との一雇用関係外における英語教師活動
までも含むものではない。
3 上陸審査と在留資格
本邦に上陸しようとする外国人は、上陸港において上陸申請をなし、かつ上陸のた
めの条件に適合していることをみずから立証したければならない(令七条二項)。
そして、その場合の在留資格についていえば、「申請にかかる在留資格が虚偽のも
のでなく、かつ、第四条第一項各号(在留資格)の一に該当すること」(令七条一
項二号)を立証しなければならない。立証すべき具体的内容は規則四条ノ二に定め
られているが、被控訴人の場合、ベルリツソ社の社員として活動するための在留資
格を申請し、「申請にかかる在留資格が虚偽のものでないこと」の立証として、被
控訴人は在留資格四-一―一六-三に該当し、特定の事業主に雇用される者である
から、規則四条ノ二第三号に定めるとおり、在留中の生活費、雇用が常勤であるこ
とと、及び帰国旅費について保証のあることを特定事業主であるベルリツツ社の書
面により立証しなければならないのである。この立証をしなければ上陸条件には適
合し得ず、上陸は許可されないのである。
このようにして、特定の事業主に雇用されるため入国し、在留資格四-一-一六-
三を与えられる者の在留活動は、申請にかかる在留資格及びそれが虚偽でないこと
の立証の結果、特定の事業主に常勤で雇用されて活動することであることに明確に
特定され、そのようなものとして特定の在留資格四-一―一六―三が付与されるの
である(特定の在留資格及びその在留期間を定める省令)。このことは申請者自身
において当初より熟知の事柄である。
三 被控訴人の転職及び政治活動について
前記査証発給の経緯及び上陸許可の経緯に徴し、被控訴人の申請にかかる在留資
格、したがつてその付与された在留資格がベルリツツ社の社員としての活動に限定
されていることは明らかである。したがつて、被控訴人が入国後一七日にしてベル
リツツ社を退職し、以後在留期間一年のほとんどすべてともいえる一一ケ月余にわ
たりエレツクに勤務して在留活動をしたことは、法務大臣が特に在留を認めること
とした事由以外の活動のために在留期間のすべてを費やしたものというべきであ
る。のみならず、被控訴人は本邦在留中に原判決の認定するようにわが入管行政に
批判的な言動を弄し、かつ、日米安保条約反対を目的とする集会に参加するなどの
政治活動をしており、これが期間更新の判断に当つて否定的要素をなしたことはい
うまでもないところである。
原判決は、被控訴人がベトナム反戦とともに日米安全保障条約反対を目的とする集
会及びデモに参加したことについて、正当にも「日本国の安全保障の方策はもつぱ
ら日本国民が選択決定すべき政治問題であつて外国人の干渉すべき事柄でなく、日
本国憲法がこのような問題についての在留外国人の集会や集団示威運動等の自由を
日本国民に対すると同等に保障しているものとみることはできない。」、「このよ
うな集会に参加したこと自体思慮を欠くものがあつた」と判示している。しかしな
がら、他方被控訴人が「日本の政治問題は日本国民みずからが決定すべきであると
いう考えを持つており」「原告が前記の集会に参加した意図はもつぱらベトナム反
戦を訴える点にあつたこと」を理由として、結局、被控訴人のこれらの活動は不許
可理由とならないと判示している。しかし、集会やデモへの参加等の政治活動は主
としてその外形的影響いかんにより客観的に評価すべきであつて、その、活動を行
なつた者が内心に有していた「考え」・「意図」あるいは「目的」等という主観面
を重視するのは不当である。原判決が被控訴人の政治活動は「日本国民および日本
国の利益を害するおそれがあるとはとうてい考えられない」と判示しているのは理
解しがたいところである。
法務大臣は、本件在留期間の更新申請の許否を決するに際し、右のような転職の事
情及び政治活動を期間更新についての否定的要素とし、その広範な自由裁量権に基
づき「更新を適当と認めるに足りる相当の理由」がないと判断したのであるが、特
に被控訴人の過去一年にわたる在留中に生じた生活関係について考慮を払い、昭和
四五年八月一〇日被控訴人に対し出国準備のために要する期間として一二〇日間の
在留期間更新を許可したのである。しかるに、被控訴人は、右出国準備期間に出国
せず、引続きエレツクにおける勤務のため、及び入国、上陸の各手続においては全
く申し立てられていなかつた琵琶及び琴の習得のため、重ねて在留期間の更新を申
請したものである。
以上の経緯から、法務大臣としては、前記事情が持続しており、かつ被控訴人の事
実上の生活関係の整理についての配慮もすでに前回の更新許可により十分に払つた
にもかかわらず、被控訴人が出国しなかつた経緯を総合して、「更新を適当と認め
るに足りる相当の理由」がないと判断し、昭和四五年九月五日本件不許可処分をし
たのである。
四 結論
以上のしだいで、法務大臣がなした本件許可処分は理由があり、適法であるから原
判決を取消し被控訴人の本訴請求を失当として棄却するのが正当であると信ずる。
昭和四九年一〇月一七日付
準備書面 (三)
一 入管業務における法務大臣の自由裁量権について
(1) 外国人の出入国および在留の許否に関し、国家が広範な自由裁量権を有す
ることは、確立した国際慣行であつて、各国の法制に照らしても疑いのないところ
である(控訴人準備書面(一)二項、同(二)第二参照)。わが国の出入国管理令
(以下単臣令という。)においても在留期間の更新については法務大臣に大巾な裁
量権が認められているのであつて、そのことは、原判決もその判断の前提として、
これを肯定しているのである(原判決理由二1)。
(2) しかるに、原判決が、令二一条三項に基づく本件在留期間更新不許可の処
分にあたり、法務大臣が、「原告(被控訴人)の行なつた本件転職およびいわゆる
政治活動の実体がなんら在留期間の更新を拒否すべき事由に当らないのに、著しく
この点の評価を誤つたもので、日本国憲法の国際協調主義および基本的人権保障の
理念にかんがみ、令二一条により被告(控訴人しに与えられた裁量の範囲を逸脱す
る違法な処分である。」としていることは、憲法の適用の場を誤るものであるのみ
ならず、前記法務大臣の自由裁量の本質を誤解し、前掲の前提とも矛盾するものと
評さなければならない。
(3) 原審が「在留期間の更新を拒否すべき事由」として、具体的にいかなる内
容の事柄を想定しているかは必ずしも明らかではないが(原判決理由九丁目裏の記
載によれば、令五条一項一一ないし一四号に準ずる事由を想定しているようであ
る。)、それはさておき、既に控訴人において主張したとおり(準備書面(二)第
二、一、2および3)、在留期間の更新は、法務大臣が「適当と認めるに足りる相
当な理由があるときに限り、これを許可することができる」(令二一条三項)ので
あつて、当然に期間が更新され、法務大臣が何らかの事由がある場合にその更新を
拒否するという建て前にはなつていない。
(4) 在留期間の更新に関する令の右建て前は、同令の全体の構成からも、ま
た、出入国管理行政の責任が最終的に法務大臣に帰属しているという行政の建て前
からも容易に理解しうるところである。すなわち、同令は、四条一項において外国
人のうち一定の在留資格を有する者にのみ本邦への上陸を許可するものとし、同条
二項において、その在留期間は前項一、二、一四号の場合を除き、三年をこえない
範囲内で法務省令で定めるものとしている。元来、外国人の出入国の管理は、治安
の維持、労働市場の安定等、国益の保持のために行なわれるものであるが、同令
は、このような出入国管理の目的に鑑み、外国人の入国資格および在留期間に右の
ような枠をはめているのであつて、この建て前からみても、在留期間が当然更新さ
れ、特別の事情のある場合にのみ法務大臣が更新を拒否しうるというような解釈の
成立する余地はないのである。また、この管理行政が法務大臣の所管事項とされて
いる(法務省設置法二条一項七号)ことは、外国人の出入国管理行政における前記
のような国益保護については、法務大臣が最終的責任を負うことを意味し、法律に
定められた枠の範囲内では、その国益保護の判断、すなわち、外国人の在留許否に
関する裁量は、自己の責任においてこれをしなければならず、したがつて、またも
つぱら自己の判断でこれをなしうるものと解されるのである。ことに、このような
判断には、国内はもとより、国際的な広範囲な情報を必要とし、かつ、高度に政治
的な判断が要求されることもありうるのであるから、その点に必ずしも通じていな
いものが独自の判断を強制することは、法務大臣に自己の判断に基づかない責任を
負わせることになり、行政の建て前にも反するものである。在留期間の更新に関す
る法務大臣の自由裁量権の本質もまたここに存するのであつて、被控訴人(原告)
の行動が、日本国民の政治的選択に不当な影響力を行使し、あるいは、国の政策遂
行に支障を与えるようなものがあつたとは認められないなどとすることは、法務大
臣に裁量権を与えた前記の趣旨に反し、司法審査の限界をこえるものである。
二 憲法の理念と出入国管理
(1) 憲法の保障する自由権に関する規定は、在留を前提として、国内の外国人
にも適用する余地はあるが憲法は外国人の入国および在留を何ら保障するものでは
ない。
この理は外国人の入国に関して憲法二二条が適用にならないとした最高裁昭和二九
年(あ)第三五九四号、昭和三二年六月一九日大法廷判決(刑集一一巻六号一六六
三頁)の趣旨に照らして明らかである(その批評、覚道豊治、民商三八巻六号一四
五頁、伊藤正己・日本国憲法大系七巻二三一頁等参照)。もし、これが保障されて
いるとするならば、外国人の入国資格に関する令の規定の存在自体が違憲となるで
あろう。その基本的人権保障の理念も、特別在留許可(令五〇条)の如く、例外的
な問題としてはこれを考慮する余地があるが、令自体の解釈適用にあたり、在留す
ることを基本的人権に擬して論ずることは的をえない議論である。
(2) 憲法の掲げる国際協調主義も、また、これを無制約に拡張すべきものでは
ない。国際交流を益んにし、国際間の友好を深め、相互の文化の向上発展に資すべ
きことは、わが憲法の理念に止まらず、今日の国際社会の理想であるが、このこと
から、直ちに外国人の在留期間の更新をゆるやかにすべきであるとの結論を導くの
は早計である。今日、国際間、とりわけ文化的、または地理的親密度の高い諸国間
において、文化交流を目的とする条約が締結され、この目的のためにする外国人の
出入国について便宜を与えていることは顕著な事実であるが(たとえば、わが国と
西欧諸国間の査証相互免除協定)、これらは各条約に明記せられた交流の目的を基
盤とし、あるいは両国間の地理的あるいは歴史的親密性を基盤とするものであつ
て、現実の出入国管理行政を世界国家の理想をもつて律しようとするものではない
のである。現にこうした条約の締結にもかかわらず、各国とも外国人の在留期間を
制限していることに変りはなく、(たとえば前記協定によれば、相手国により多少
の差異はあるが、相互の国民は生業に従事しないことを要し、在留期間は九〇日か
ら一八〇日に限られている。)ことに永住許可については、極めて厳しい態度で臨
んでいるのが現実である(控訴人準備書面(二)第二、一、1参照)。これは、外
国人の長期滞在が国内の人口問題、労働市場、治安風紀問題等に影響するところ大
であり、これを許すには厳格な審査を要するからである。すなわち、交流を容易に
するには審査を簡易化する反面、在留期間を限定して、万一の悪影響を排除するよ
りほかはない。わが国においても、それらを考慮し、令四一条一四号の永住のため
の入国許可は容易に付与しえない取り扱いとされている。また、外国人である以上
は、それぞれの人種、風俗、政治意識等の相違から治安風俗問題等に及ぼす影響の
無視しえないものがあり、そのような観点から好ましくないと思料される外国人が
在留期間更新の名目のもとに、あたかも永住者の如く長期滞在することは出入国管
理行政のうえから許容さるべきものとはいえない。このように、在留期間の更新を
当然視することは、一方における永住許可あるいは帰化に対する制限とは均衡から
いつても許されないものであり、そのような見解は、憲法の定める国際協調主義と
は縁なきものといわなければならない。
三 アメリカ合衆国(以下米国という。)と日本における入管行政の比較
(1) 以上は、外国人の在留期間とその更新に関する制度の基本的構造を述べた
ものであるが、本件の具体的判断にあたつては、米国の日本人を含む外国人に対す
る入管行政の実際をも無視することはできない。
(2) 一般に、外国人の権利保護に関しては、国際間に相互主義の原則が支配し
ており、令五条二項が上陸拒否に関して相互主義を謳つているのもその一つの顕れ
である。今日、国情を異にする日米両国間において、両国人の相互入国に関し、厳
密な相互主義を主張することは問題であろうが、その実務の運用方法には共通のも
のがあり、また、米国人の在留期間の更新に関し、米国の取り扱いにも増して、わ
が国が特に寛容な態度をとるべき合理的な理由を見出しえない。
(3) 米国における外国人の入国制限が他国に比して厳格であり、短期入国者に
対してさえ厳格な許可要件の充足を要求していることは、既に公知の事実である
(ウオルター・ゲルホン・基本的人権〔昭和三四年有斐閣〕第八章第二節「合衆国
への入国の自由」二〇五頁参照)。
(4) すなわち、外国人が労働に従事するために米国に入国するには、
(イ) 合衆国との通商航海条約によつて(i)主として合衆国とその相手国間の
実質的貿易に従事し、(ii)又は相当の資本金を投資している企業或は投資しつ
つある企業の運営を専ら進捗させ且つ指導するため、合衆国へ入国する資格のある
その国の外国人及び随伴又は呼寄せの配偶者及び子供(移民および国籍法一〇一条
(a)(15)(E))
(ロ) 外国に住所を有していて、それを放棄する意思がなく、(i)顕著な功績
及び才能を必要とする例外的性質の一時的業務を遂行するために一時合衆国へ来る
外国人、又は(ii)その他の臨時的業務又は労働を遂行するために一時合衆国へ
来る外国人であつて、そのような業務又は労働を遂行することができる失業者が一
時合衆国では見出されない場合、又は(iii)工場訓練者として一時合衆国へ来
る外国人(同条項(H))
のいずれかの要件を充足しなければならないが、前者すなわち(E)項のビザは通
称「条約商人」といわれる企業の主要なポストを占める者にしか付与されることは
なく、一般人については、後者すなわち(H)項のビザが付与されるに過ぎない。
しかし、後者の場合も、右にみるとおり、原則として米国内の労働者をもつて代え
難い場合に限られるのであつて、その申請にあたつては、雇傭主において、雇傭期
間を含む労働条件を詳細に明示することを要求され(その場合の在留期間は、たと
えば、H―2《臨時労働者》ビザ入国する場合は原則として、雇傭期間と同一、但
し、一年間が最高、入国時から三年を越えない範囲内で期間更新可能。連邦規則法
典二一四・二h(3))、虚偽の申告には罰則が用意されている。すなわち、この
場合の入国許可は、ここに明示された雇用契約のために与えられるのであつて、そ
れ以外の労働は許されていないのである。したがつて、この雇傭契約の終了は、即
ち在留資格の喪失を意味する。
また、在留期間の決定、更新については係り官に強い裁量権が与えられており、こ
れを争うことはほとんど不可能に近い。
わが国においては、目下のところ、米国におけるような移民に対する警戒心はな
く、米国人による労働市場への影響も未だ一般的とはいえないけれども、人口問
題、治安風紀問題等の観点から外国人の入国が重大な関心事であることに変りはな
く、英語教師とても、この観点からわが国への影響は無視しえない。
(5) そもそも、令四条一項は、外国人がわが国に入国しようとする場合の在留
資格を詳細に定めているのであつて、わが国に入国しようとする外国人は、本来、
右各号に定める在留資格を取得して入国するのが原則なのである。もし、雇傭され
ることが目的であるならば、その内容、条件等を明示して許可を受くべきは当然で
あり、単に、一般に労働に従事すること、あるいは漠然と英語教師になることを目
的としては入国を許可される筋ではない。令四条一項一六号は、一ないし一五号の
在留資格の厳格性を緩和する必要の存する場合があるのに備えて法務大臣の裁量に
より、それ以外にも在留資格を与える道を開いているが(「特定の在留資格及びそ
の在留期間を定める省令」一項三号)これとしてもその趣旨に変りはなく、不特定
の機関で英語教師をやりたいというような漠然とした目的では到底入国も許可され
ないし、法務大臣も在留資格を与えることはできない。本件においては、在留期間
中の資格外活動が当面の問題ではないが、このような建て前からすれば、本件のよ
うな転職が期間更新にあたり消極的資料とされることは至極当然であつて、一度雇
傭されることを目的として入国を許された以上、いつまでも更新を重ねわが国に留
まりうるとする考え方はとりえないものである。
四 結論
一 において述べたとおり、在留期間の更新は、法律の建て前上、更新を適当とす
る事由が存するときにのみ認めうるものでありり、当然に更新されるべきものでは
ない。その認定判断は、入管行政の責任者である法務大臣に委ねられており、その
判断の当否については、他の国家機関が介入すべきではなく、司法権によつてもこ
れは尊重さるべきである。本件において、被控訴人の入国直後の転職および政治活
動が在留期間の更新にあたり消極的理由とされたことは、前述の事情をも考え合わ
せれば、誠に相当であつて、これを不当とする理由は存しない。
昭和四九年一二月一〇日付
準備書面(四)
一 被控訴人は、昭和四九年一〇月一七日付準備書面第二・一・(一)において、
控訴人が諸外国の法制を曲解しているとし、その例として、同四八年九月一七日付
控訴人準備書面第二・一・1において、ドイツ連邦共和国(西ドイ)外国人法第二
条第一項(後段)は、「国益を害する場合には滞在許可を絶対に与えてはならない
とするのである」としているのは誤りであつて、同条項は「・・・・・・滞在許可
は付与されねばならない」ことを規定しているものである旨主張される。そして、
その根拠として、当審証人dの編著にかかる「亡命と入管法」二五三頁の記載を引
用される。右引用にかかる記載部分において同条項が「付与されねばならない」と
邦訳されているのは事実であるが、右の邦訳は同条項の原文におけるdarf(原
型du‥rfen)の誤解に基づく明白な誤訳であつた、正しくは、「付与するこ
とが許される」すなわち「付与することができる」と邦訳すべきものである。そも
そもドイツ文法上du‥rfenという話法の助動詞がnicht、kein等の
否定語を伴うことなく動詞の不定法と関係させられる場合には、(1)許可・許
容・権利等(「・・・・・・・・してさしつかえない」)を示すか、もしくは
(2)「・・・・・・・・・すべき理由がある」ことを示すか、稀に(3)可能・
蓋然性を示す場合があるけれども、右の引用部分のように他者からの命令ないし義
務づけ(「しなければならない」)を示すために用いられることはないのである
(e著・改訂ドイツ広文典二八九頁、f著・改訂新版ドイツ文章論一四五頁参
照」。また、ドイツ法一般における法文上の用語例としても、du‥rfenがn
ichtを伴わずに用いられたときは、ある行為が法律上許容されること(rec
htIiche Zula‥ssigkeit Tuns)を意味するに限られる
(三潴信三著・独逸法律類語異同弁一六〇頁参照)。
のみならず、前記控訴人準備書面においても引用したG.Weissma―nn著
の西ドイツ外国人法コンメンタールは、その四〇頁から四二頁にかけて右条項につ
いて注釈しているのであるから、前記「亡命と入管法」の引用部分が誤訳を犯して
おり、控訴人の主張が正しいことには疑念の余地がない。
二 なお、控訴人準備書面(三)一(3)に援用した判決(御庁昭和四八年(行
コ)第一〇号同四九年三月二七日判決)は、昭和四九年一一月一四日上告棄却によ
つて確定した。
昭和四九年二〇月一七日付
準備書面
第二、昭和四八年九月一七日付控訴人準備書面記載第二(本件処分の適法性につい
て)に対する反論。
一、同第一項(在留期間更新制度の趣旨及び性格)について
(一) 控訴人は、西ドイツ、フランス、スイスなどの制度を云々するが(同項
1)、右のいずれの制度も、外国人は当然には入国及び在留を認められず、入国及
び在留には、一定の手続及び要件のもとに行なわれる許可等を必要とし、許否は一
定のわく内で当該国家機関の自由裁量によるとしているのみであり、当該国家機関
が裁量権を鑑用し、裁量の範囲を逸脱した場合に処分が違法とされることはいずれ
の国においても当然のこととされている。
よつて「外国人は他国に入国し滞在する権利を何ら有しない」との命題は、右に述
べたように「当然には有しない」というのみであり、各国とも国内法において外国
人の入国及び滞在の許否の要件を定めており、国家機関の処分の違法性、適法性は
いずれも司法審査の対象とされているのである。したがつて右意味において外国人
は当該国家に対して入国あるいは滞在の権利を有するのである。
なお控訴人は諸外国の法制を曲解しており、たとえば控訴人が引用する西ドイツの
「外国人法」は、西ドイツに入国しまたは滞在しようとする外国人は原則として滞
在許可を受けなければならないが、外国人の居住が「ドイツ連邦共和国の利益を害
さない場合」には、滞在許可は付与されねばならないと明記しており(二条一項)
(d編著「亡命と入管法」一二五三頁)、同条は国益を害する場合には滞在許可を
絶対に与えてはならないとする消極的方法での自由裁量の制限にすぎないという控
訴人の主張は誤りである。
(二) 控請人は、わが国の出入国管理令二一条三項に定める在留期間更新につい
ても、更新の許可は恩恵の付与であり、外国人に更新の権利はないと主張する(同
項2)。
しかし、右処分について法務大臣に裁量権があるとしてもこの裁量権も憲法その他
の法令、在留期間更新制度の意義、在留期間更新の実態、申請者の在留目的・在留
状況・在留の必要性等個別事情に照らして一定の制限があることは当然であり、裁
量の範囲を逸脱した場合には許否の処分は違法無効となるのであるから、その意味
において、外国人には在留更新許可を受ける権利があるもので、これは単なる事実
上の期待権ではない。
また控訴人は、申請にあたつて提出された資料と現実の在留活動に一致がある場合
には、出入国管理行政の基本的秩序が破壊されるに至るからこのような言行不一致
は在留期間更新の許否について否定的要素となると主張する。しかし、右のような
不一致が否定的要素になることがあるとしても、控訴人の言うように出入国管理行
政の基本秩序を破壊するような重大な事由である場合にはじめて更新不許可の要素
となるというべきである。本件転職は原判決認定のとおりやむを得ない正当な事由
にもとづくものである。被控訴人の英語教師としての在留状況に基本的な変動はな
く、また被控訴人は更新申請に際して転職先を明らかにし、転職先であるエレツク
の保証書を提出しているので、控訴人との間の信頼関係が破壊されたものとは言え
ないし、ましてこれによつて出入国管理行政の基本秩序が破壊されたとはとうてい
言えない。なお外国人は入国に際して、勤務先を無断で変更した場合には在留更新
を認めないとか、勤務先を変更した場合には直ちに届け出るようにとの注意は全く
与えられていないし、入管法制上勤務先変更制度は定められていない。よつて本件
のような場合にいきなり勤務先変更を理由とし更新を不許可にした控訴人こそ外国
人の信頼を自ら破壊するものである(hの証言によると控訴人は被控訴人が勤務先
を変更した直後にその事実を知つたというのであるから信頼関係を重視するのであ
れば右時点で警告等何らかの措置をすべきであつた)。
二、同第二項(査証発給と上陸許可の経緯)について
本件査証が、ベルリツツ社に雇用される目的に限り有効であること及び被控訴人が
査証の効力を右のように了知していたとの控訴人の主張は否認する。出入国管理令
上の在留資格と査証申請に際して提出される事業主の「雇用証明書」等との関係に
ついては昭和四六年三月一六日付被控訴人(原告)準備書面の第一の第一項乃至第
三項記載のとおりであり、被控訴人の在留資格及び在留目的はベルリツツ社の社員
として雇用されることに限定されたものとはいえない。
第三、昭和四九年一〇月一七日付控訴人準備書面に対する反論
一、同第一項(入管業務における法務大臣の自由裁量権について)について
控訴人は、在留期間更新は、法務大臣が「適当と認めるに足りる相当な理由がある
ときに限りこれを許可することができる。」(令二一条三項)とされているよう
に、法務大臣に自由裁量権があるから、原審判決のように裁判所が、被控訴人の行
動が日本国民の政治的選択に不当な影響力を行使し、あるいは国の政策遂行に支障
を与えるようなものがあつたとは認められないなどとすることは、法務大臣の裁量
権を侵害し、司法審査の限界を越えるものであると主張する。しかし、行政庁の自
由裁量事項とされる行政処分であつても、それが裁量の範囲を逸脱し、濫用にわた
るときは違法となり、裁判所の審査の対象となることは、確定した判例である。ま
た憲法八一条は行政庁の一切の処分につき裁判所に司法審査権を付与しているもの
である、
控訴人の主張は、裁判所の行政庁の処分に対する司法審査権を否認するもので、憲
法八一条の趣旨に照らしてとうてい取りえない暴論である。
控訴人は昭和四八年七月二六日付控訴人準備書面第二項においても主張するよう
に、出入国管理令に定める上陸拒否事由に準ずる事由がない限り政治活動を理由と
して在留期間更新を拒否してはならないとすることは、前記令二一条三項の解釈を
誤り、法務大臣の自由裁量権を侵害すると主張するもののようである。しかし、外
国人に対して思想表現の自由、集会示威運動の自白等広義の意味での政治活動の自
由(市民としての自由権)が保障されるべきことは、日本国憲法の定める国際協調
主義(前文)基本的人権保障主義(第三章)や、「世界人権宣言」ヨーロツパ人権
条約」「市民的及び政治的権利に関する国際規約(国際連合)」などの国際的規
約、あるいは諸外国における外国人の市民的・政治的権利保障の実情などに照らし
て当然のことであるから、外国人が政治的活動を行なつたことを理由として不利益
処分を課することは憲法の定める国際協調主義の原則、基本的人権の保障条項(一
六条、一九条、二一条など)に違反し、違法となる。したがつて、政治活動を理由
として在留期間更新を不許可にすることは原則としてできないと言わねばならず、
原審判決が不許可にできる場合を出入国管理令の定める上陸拒否事由に準ずる事由
のある場合に限局したことは当然であり、むしろ原判決の定める基準は、前記憲法
の趣旨に照らし広すぎるくらいである。
二 同第二項(憲法の理念と出入国管理)について
控訴人引用の最高裁昭和三二年六月一九日判決(刑集一一巻六号一六六三頁)は、
密入国した外国人に対する外国人登録令違反事件であり、憲法二二条は外国人に対
し入国の権利を認めたものでないから同令は違憲でないとしたものにすぎず(但
し、少数意見は憲法二二条は外国人にも入国の自由を保障するものとした)、在日
外国人の在留の権利を否定したものではない。

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