弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 本件控訴の趣意は末尾に添えた書面記載のとおりであつて、これ等各趣意に対
し、次のとおり判断する。
 弁護人沖田誠の控訴の趣意第一点について
 憲法第三十五条第二項は「捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別
の令状により、これを行ふ」と規定している。そして、この規定は、捜索または押
収について、それぞれの場合ごとに各別の令状を必要とし、たとえば、数個の場所
について行う捜索を一通の令状で行つたり、各別の機会に行う押収を一通の令状で
行うことを禁示することは勿論、たとえ、同一の場所又は物に関するものであつて
も、ある事件について廃せられた令状を他の事件に流用する等のことをも禁ずる趣
旨をいいあらわしているものと解すべきである。しかし、<要旨>一つの事件で同一
の機会に捜索と押収とを併せ行う場合には、捜索状と差押状とを、たとえば「捜索
差押状」というような一通の令状の形式で作成することは一向差支がないも
のというべきであろう。けだし、憲法第三十五条第二項の文理解釈上同規定がかか
る令状の作成を禁じたものであるということはできないのみならず一つの事件で同
一の機会に行われる捜索及び差押について各別の捜索状と差押状とを必要とする実
質的な理由を発見することができないからである。ところで、記録に徴すると、所
論の捜索差押許可状はAに対する昭和二十五年政令第三百二十五号違反被疑事件に
ついて、甲府市a町b番地の被告人方及びその同一建物並びにその附属建物内にお
いて右事件に関連があると認められる文書帳簿等一切を差し押える目的をもつて甲
府地方検察庁検察官検事Bが請求し、甲府地方裁判所裁判官Cの発したものである
ことが明らかであり、かかる令状の形式が憲法第三十五条第二項の規定に違反する
ものでないことは前説明のとおりである。そして、原判決挙示の各証拠によれば、
被告人は原判示日時、甲府市警察署巡査D、同E、同Fの三名が右令状により被告
人方において捜索並びに差押を為さんとした際、被告人は該事実を知りながら故な
くこれを拒み、あまつさえ、不穏の言辞を弄して同人等を脅迫したり、同人等が諸
般の情況により原判示手提鞄中に右事件に関連がある文書帳簿類が存在するやも計
られないと判定した結果、これを差し押えようとしたところ、被告人はその差押を
妨げるために同人等と格闘し、その際右Dに原判示の傷害を与えたことが明らかで
ある。してみれば、右鞄の内に前記事件に関連がある文書帳簿類がなかつたとして
も、右名の為した前記職務の執行はいずれも適法なものと認むべく、又右Dの受け
た原判示の傷害は被告人が同人等と格闘したために生じたものであることは、前説
明のとおりであるから、右傷害を目して被告人の過失に起因するものというのは当
らない。されば、原審が原判示被告人の各所為につき刑法第九十五条第一項及び同
法第二百四条を適用したのはもとより当然であるから、原判決には何等各所論の違
法はなく論旨は理由がない。
 (その他の判決理由は省略する)
 (裁判長判事 下村三郎 判事 高野重秋 判事 真野英一)

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