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平成22年12月14日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成22年(ワ)第31347号損害賠償請求事件
口頭弁論終結日平成22年12月2日
判決
相模原市中央区<以下略>
原告株式会社イー・ピー・ルーム
東京都中央区<以下略>
被告A
訴訟代理人弁護士池田竜一
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,50万円及びこれに対する平成22年7月27日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,原告が,原告を特許権者とする特許に対する特許異議の申立てに
ついて原告の特許を取り消す旨の決定をした合議体の当時の審判長で,特許
庁審判官であった被告に対し,被告が上記決定をしたことは原告との関係で
不法行為を構成する旨主張して,不法行為に基づく損害賠償としての慰謝料
の支払を求める事案である。
1争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の
全趣旨により認められる事実である。)
(1)原告は,平成2年9月18日,発明の名称を「放電焼結装置」とする発
明につき特許出願(国内優先権主張・優先日平成2年2月2日)をし,平
成9年5月2日,特許第2640694号として特許権(請求項の数3。
以下,この特許を「本件特許」という。)の設定登録を受けた(甲1)。
(2)ア本件特許に対して住友石炭鉱業株式会社(現在の商号「住石マテリア
ルズ株式会社」)から特許異議の申立てがされ,特許庁は,これを平成
10年異議第70682号事件(以下「本件特許異議申立事件」とい
う。)として審理した上,平成13年7月4日,「特許第264069
4号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本
件決定」という。)をした(甲2)。
イ原告は,本件決定の取消しを求める訴訟(東京高等裁判所平成13
年(行ケ)第369号事件)を提起したが,東京高等裁判所は,原告の
請求を棄却する旨の判決の言渡しをした。
原告は,上記判決を不服として,上告及び上告受理の申立て(最高裁
判所平成15年(行ツ)第197号,同年(行ヒ)第203号事件)を
したが,最高裁判所は,平成15年10月9日,上告棄却及び上告不受
理とする旨の決定をした。これにより本件決定が確定した(甲8,弁論
の全趣旨)。
(3)本件決定は,3名の審判官の合議体により判断されたものであり,被告
は,その合議体の審判長であった。
被告は,平成15年4月1日,特許庁を退職し,その後,弁理士登録を
受けた。
2当事者の主張
(1)請求原因
ア被告の不法行為
特許庁の保管する各種公報等を網羅的に調査する義務がある特許庁審
査官は,特許第96574号明細書(甲3。以下「甲3明細書」とい
う。)及び実公昭46−5289号公報(甲4。以下「甲4公報」とい
う。)を調べて,本件特許に係る特許出願について特許査定をした。
ところが,被告が,審判官として,本件特許異議申立事件について職
権審理を行うに当たり,特許庁の保管する各種公報等のうち,何を調べ
るかは審判官の合理的判断に委ねられているものであるとして,甲3明
細書及び甲4公報を排斥し,上記特許査定に反する本件決定をしたこと
は,故意又は過失による不法行為に当たる。
また,被告の上記不法行為は,国家公務員倫理規程違反及び公務員の
職権濫用に当たり,憲法15条2項の「すべて公務員は,全体の奉仕者
であって,一部の奉仕者ではない。」との規定に違反するものであるか
ら,被告は,上記不法行為について個人責任を負うべきである。
イ原告の慰謝料
被告の前記不法行為による原告の慰謝料は,50万円を下らない。
ウまとめ
よって,原告は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償としての慰
謝料として50万円及びこれに対する平成22年7月27日(訴状送達
の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を
求める。
(2)被告の主張
ア本件決定には原告主張の違法はなく,原告主張の被告の不法行為が成
立していないことは明らかであるから,原告の請求は理由がない。
また,公権力の行使に当たる公務員がその職務を行うについて故意又
は過失により違法に他人に損害を与えた場合,公務員個人が,当該職務
行為について,その責任を負うことはないのであるから,この点から
も,原告の請求は理由がない。
イ原告は,本件訴訟に先立ち,被告に対し,本件決定をしたことが不法
行為に該当するとして,東京地方裁判所平成22年(ワ)第5728号
損害賠償請求訴訟(以下「前訴1」という。)及び東京地方裁判所平成
22年(ワ)第15487号損害賠償請求訴訟(以下「前訴2」とい
う。)を提起したが,いずれも原告敗訴の判決の言渡しがされ,各判決
は確定している。本件訴訟は,前訴1及び前訴2と同一請求であって,
前訴1及び2の各判決の既判力が及ぶから,その既判力ある判断を前提
として請求棄却の判決がされるべきと思料する。
第3当裁判所の判断
1(1)原告は,特許庁審判官であった被告が,その合議体の審判長として本件
特許異議申立事件の審理を担当した際に,甲3明細書及び甲4公報を排斥
して特許査定に反する本件決定をしたことは,故意又は過失による不法行
為に当たる旨主張する。
ところで,公権力の行使に当たる国の公務員が,その職務を行うについ
て,故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた場合には,国が,国
家賠償法1条1項により,その被害者に対して賠償の責に任ずるものであ
り,公務員個人はその責を負わないものと解するのが相当である(最高裁
昭和30年4月19日第三小法廷判決・民集9巻5号534頁,最高裁昭
和53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁,最高
裁平成19年1月25日第一小法廷判決・民集61巻1号1頁等参照)。
これを本件についてみるに,被告は,国家公務員である特許庁審判官と
しての職務として本件特許異議申立事件の審理をし,本件決定をしたもの
であるから,仮に被告が本件決定をしたことが違法な行為に当たり,これ
によって原告が損害を被ったとしても,国がその賠償の責に任ずるもので
あって,被告個人がその賠償責任を負うものではないというべきである。
(2)これに対し原告は,本件決定をした被告の不法行為は,国家公務員倫理
規程違反及び公務員の職権濫用に当たり,憲法15条2項の「すべて公務
員は,全体の奉仕者であって,一部の奉仕者ではない。」との規定に違反
するものであるから,被告は,上記不法行為について個人責任を負うべき
である旨主張する。
しかしながら,原告が主張する被告の不法行為は,その主張自体憲法違
反を構成するものといえないことは明らかであるから,原告の上記主張
は,その前提を欠くものとして,理由がない。
2以上の次第であるから,原告の請求は,その余の点について判断するまで
もなく理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官大鷹一郎
裁判官大西勝滋
裁判官上田真史

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