弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 被告が原告に対し、別紙物件目録記載の土地につき平成九年一二月二二日付け
でした平成九年度固定資産課税台帳登録価格に対する審査の申出を棄却する旨の決
定を取り消す。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
       事実及び理由
第一 請求
 本件は、原告が、その所有にかかる別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」
という。)につき、岡山市長のした平成九年度固定資産課税台帳価格登録に固定資
産の評価を誤った違法があるとして、平成九年四月二八日付けで審査の申出をした
ところ、被告において同年一二月二二日付けでこれを棄却する旨の決定(以下「本
件決定」という。)をしたため、その取消しを求める請求である。
第二 事件の概要
一 証拠並びに弁論の全趣旨によって容易に認定できる事実(争いのない事実を含
む。)
1 本件土地の取得経緯及び状況等
(一) 原告は、平成三年一一月二五日訴外Aから一一七〇番の土地の一部であっ
た本件土地を代金九八万七九四三円(一平方メートル単価六〇六一円)で買い受け
た。本件土地は、都市計画法七条一項に定める市街化区域内の農地であり、右の売
買につき同年一二月二〇日岡山市農業委員会に農業用倉庫建設を目的とする農地転
用のため、農地法五条一項三号に定める届出がなされ、これが受理されている。原
告は、本件土地につき、分筆の上、同年一二月二五日所有権移転登記を経由してい
る。したがって、原告は、平成九年一月一日現在における本件土地に対する固定資
産税の納税義務者である。
(甲第一号証、乙第一ないし第四号証)
(二) 本件土地は、地目が田であるが、現況は野菜畑として利用されている。本
件土地は、山陽自動車道城山トンネルのある山地の南側斜面に所在する土地であっ
て、市街化地域の最北端に位置する。本件土地は、概ね東西方向に延びる、細長い
土地であって(西寄りの一部が屈曲している。)、南北の最大幅概ね九メートル程
度、東西の最大長概ね二一メートル程度であり、細長い不整形な土地である。そし
て、北側は道路(山道)で最大高低差二メートルの法面を有する一五六四番二の土
地に、東側は畑である一一〇七番一の土地に、南側は細い用水路及び道路である一
五五〇番の土地を介して宅地である九五四番一の土地の一部及び九五五番二の土地
に、細い道路(山道)である一五六四番二の土地を介して一一〇八番一の土地にそ
れぞれ沿接している
(以下、周辺の土地は、地番のみをもって表示する。)。本件土地は、その南寄り
の部分が、高低差最大二・五メートル程度の崖地状を形成している。もっとも、本
件土地の西寄りの一部が東から西に向かい緩やかに下り傾斜しているため、南側隣
地との高低差は、次第に小さくなっており、その西端が一五六四番二の土地に接し
ている。しかし、右の道路(山道)は、道幅が狭く、前記用水路を介して南側隣地
九五四番一の土地に接するため、本件土地は、近くの公道には接していない。
(甲第三号証、第一一号証、第一二号証、乙第一号証、第八号証、第一四号証、原
告本人の尋問結果)
2 価格登録と審査の申出
(一) 岡山市長は、平成九年三月下旬、本件土地につき、地方税法四一一条に基
づき同法三四一条六号に定める基準年度に当たる平成九年度の固定資産課税台帳登
録価格を五八一万三九二〇円と決定し、その旨同台帳に登録した。
(乙第四号証)
(二) 原告は、被告に対し、平成九年四月二八日付けで、右登録価格が本件土地
の適正な取引価格と比較し、著しく高額であることを理由に(本件土地は、無道路
地であり、建物の建築が法的に許されないだけでなく、日当たりが悪いため畑とし
ての利用価値もほとんどない。)、審査の申出をしたが、被告は、同年一二月二二
日、本件土地の評価は適法にされているとして審査の申出を棄却する本件決定を行
い、同月二五日に原告に送付して通知した。
(乙第五、第六号証)
二 争点
 本件土地に係る平成九年度の固定資産課税台帳登録価格が適正な時価であるか否
か。
1 被告の主張
(一) 固定資産の評価基準並びに評価の実施の方法及び手続については、課税の
全国的均衡を保つ観点及びその専門技術的性格から、自治大臣がその統一的基準と
して「固定資産評価基準」を定めてこれを告示しているところ(地方税法三八八条
一項)、岡山市長も、本件土地の固定資産課税台帳登録価格を決定するに当たり右
の「固定資産評価基準」によって評価を行っている。具体的には、本件土地が、地
目は田であっても、市街化区域内にあって、農地法五条一項三号の届出がなされて
いる農地であり、宅地転用が可能ないわゆる介在田であることから、宅地として潜
在的価値を有するため、「固定資産評価基準」に定めるところに従い、その他の宅
地としての評価をしたものである(同法四〇三条一項)。
 まず、状況類似地区の区分では、周辺土地が四地区
に分類されるところ、このうち、状況類似地区(一)は、状況類似地区(二)及び
その南の国道一八〇号線沿いの地区である状況類似地区(三)に比べてすぐ北側に
山地が迫っていることから、状況類似地区(二)及び同(三)と比較してやや標高
が高く、若干起伏もあり、道路も細いものや曲がったものが多い地区であるのに対
し、本件土地の北側になる状況類似地区(四)は、山地を含み、市街化区域外に存
し、価格形成要因が異なると判断される地区である。本件土地は、確かに状況類似
地区(一)内では最も標高が高く、山地に接近しているものの、市街化区域内に存
するため、市街化区域外で山地を形成する状況類似地区(四)に含めることは適当
でないし、本件土地と類似する地理的条件にある一一〇七番一、一一〇七番二及び
一一〇五番一といった土地が所在する狭い地区だけを状況類似地区として区分する
ことは、岡山市全体における状況類似地区の区分との均衡を欠く結果となるため採
用できない。したがって、本件土地を状況類似地区(一)に含めることに違法性は
ない。
(二) 本件土地は、状況類似地区(一)内の標準宅地と比較すると、無道路地で
ある、形状が整形でない、及び間口に対して奥行が長いという三点で劣っているも
のと認められるが、岡山市長の定める「固定資産評価基準別表第3及び第4関係」
によれば、岡山市では、家屋が建築できないなど、土地として利用形態が最も制限
される場合に適用される最大補正率を〇・七としており、右の〇・七を超える補正
率による個別補正はできないと定めているため、無道路地補正率〇・七のみ乗じて
いるところ、仮に本件土地につき奥行長大補正率を適用するとしてもその補正率は
〇・九となり、同じく不整形地補正率を適用するとしても、その補正率はやはり
〇・九となり、いずれの場合にも無道路地補正率〇・七にそれぞれ乗じるならば、
個別補正率は〇・六三となるため、その補正率が前記「固定資産評価基準別表第
3、第4関係」からいずれも〇・九をその補正率とされたとしても、右各補正率を
乗じると本件土地に乗ずる補正率は合計として〇・七を下回る結果となるので、奥
行長大補正率及び不整形地補正率のいずれも適用しなかったことは適法である。
 また、岡山市長は、田等の農地を転用する場合の造成費の算定に当たっては、別
に定める「造成費控除表」に従い、高さ一メートルの盛土による造成が必要な場合

一平方メートル当たり五六〇〇円を、反対に対象土地が周囲宅地よりも高い場所に
ある場合は切土一メートルとして一平方メートル当たり五四〇〇円を控除すると定
めているところ、本件土地の場合切土一メートルの基準が該当すると認められるの
で、本件土地の場合高さ一メートルの盛土の場合の五六〇〇円を適用したものであ
り、原告に有利な評価がされているものである。
(三) 岡山市長が認定した本件土地の単価は一平方メートル当たり三万二四八〇
円であり、右の価格は隣接宅地の単価に対しては六二・八パーセントの水準(隣接
宅地の単価五万一六八〇円)であり、状況類似地区(一)内で特に補正が必要のな
い標準的宅地の単価に対しては五九・七パーセントの水準(特に補正不要の住宅地
の単価五万四四〇〇円)であり、右の事実は、本件土地の評価額が地方自治法に定
める「適正な時価」であることを示すものである。
 なお、原告は、平成三年一一月二五日に訴外Aから本件土地を代金九八万七九四
三円で購入したことや農業協同組合融資担当職員が平成一〇年六月二二日に本件土
地の価額は一坪当たり約五〇〇〇円で担保価値は全くないと言っていることをもっ
て岡山市長の決定した本件土地にかかる評価額を適正な時価を反映していない不適
法なもののように主張するが、右の売買価額は通常の不動産売買においては見られ
ない諸要因、具体的には、原告が本件土地を買い受ける以前から訴外Aに代わって
草刈り等の管理をしていた、訴外Aは原告に対して利用価値がないため購入してほ
しい旨申し入れている、これに対し、原告は、一〇〇万円以下ならば買い受けてよ
い旨申し入れ、売買が成立している、原告の購入目的は、本件土地からの雨水浸入
から隣接する原告の夫が所有する南側の土地を保全することにある、という要因が
あり、原告主張の本件土地の売買価格は、右の要因によって決定されたものである
ため、正常な取引価格でないというべきである。
2 原告の反論
(一) 岡山市長は、本件土地が状況類似地区(一)に含まれるものとして、本件
土地の価額を決定しているが、本件土地は、山林に隣接して日当たりも悪く、地形
も細長く曲がっており、使い勝手もきわめて悪い、無道路路である。したがって、
宅地としての潜在的価値は全くなく、使用目的が限定された土地であるばかりか、
原告においては本件土地をあくまで原告居住の宅地を保全する目的で購入したもの

あり、今後とも本件土地を宅地として使用する意思がないから、本件土地の価格形
成要因が状況類似地区(一)と同じであるとはいえず、本件土地を状況類似地区
(一)に含めるのは違法である。
(二) 仮に本件土地を状況類似地区(一)内に含めるとしても、無道路地の場合
は土地としての価値が著しく下落するため、無道路地補正率は〇・二ないし〇・三
とすべきであるのに、岡山市長は最大〇・七による補正をしたに過ぎず、土地取引
の実際における価格形成要因を考慮していないものである。また、間口補正につい
ても、実際の取引価格形成に当たって無道路地と同様の価格下落要因となるのに、
これも無視しているものである。造成費の控除に関しても、本件土地と条件の近似
する隣接土地を所有する訴外神坂某は造成費に約一八〇万円を要したとしているの
であるから、造成費用は少なくとも一平方メートル当たり一万〇〇〇〇円とすべき
であるのに岡山市長においては一平方メートル当たりの造成費を五六〇〇円として
いるものであって、低額に過ぎ、評価額は適正な時価とはいえない。岡山市長及び
被告は、平成六年度以前の固定資産評価額が低額であった時代に決定された個別的
補正要因に基づき定められた補正率を評価水準の引上げがなされた同年度以降にお
ける固定資産評価に当たり適用したことにより本件土地の固定資産評価のように時
価額を大きく上回る高額の評価をしたものであり、「時価を超えない評価基準」の
原則を逸脱したものというべきである。
(三) 本件土地の評価に当たって、以上の点を考慮すると、本件土地の適正な時
価は、評点数五万四四〇〇点に無道路地補正〇・二五を乗じて得た単位価格から、
造成費一平方メートル当たり一万〇〇〇〇円を減じたものに地積一七九平方メート
ルを乗じて得た六二万二八〇〇円であるというべきである。また、原告が本件土地
を買い受けて以来、土地価格は下落を続けていることに加え、固定資産登録価格の
決定に当たっては、一般に時価の七割評価の原則が適用されていることからする
と、原告が訴外Aから本件土地を購入した価額である九八万七九四三円が適正な時
価額を超えるとは到底考えられず、この点のみをもってしても本件土地の価格が適
法に決定されているとはいえない。仮に本件土地の価格を実際の取引価格をもって
決定するのであれば、売買価額に対して平成三年からの値下がり率〇・八と七割評
価〇・七を各乗
じた価格である五五万三二四八円であるとするのが相当である。
第三 争点に対する判断
一 本件土地の固定資産評価につき、甲第一一、第一二号証、乙第七号証の一及び
二、第八、第九号証、第一一ないし第一三号証、第一五、第一六号証、第一八、第
一九号証、証人Bの証言によると、以下の事実が認められ、他に右認定を左右する
に足りる証拠はない。
1 地方税法(昭和二五年法律第二二六号)三八八条一項(ただし、昭和三七年法
律第五一号による改正後のもの。)の規定に基づき、固定資産の評価の基準並びに
評価の実施の方法及び手続について定める「固定資産評価基準」(昭和三八年一二
月二五日自治省告示第一五八号)(ただし、平成八年一二月二四日自治省告示第二
八九号による改正後のもの。)によれば、土地の評価は、土地の地目別に定められ
ている評価の方法によって行うものとされ(土地の現況によって田、畑、宅地とい
った九種類の地目に分ける。)、地目が宅地の場合、宅地の評価は、各筆の宅地に
ついて評点数を付設し、評点一点当たりの価格に当該評点数を乗じて各筆の宅地の
価額を定める方法によるものとされ、各筆の宅地の評点数は、市町村の宅地の状況
に応じ、主として市街地的形態を形成する地域における宅地については、「市街地
宅地評価法」によって付設するものとし、これに対し、主として市街地的形態を形
成するに至らない地域における宅地については、「その他の宅地評価法」によって
付設するものとするが、市町村の宅地の状況に応じ、必要があるときは、主として
市街地的形態を形成するに至らない地域における宅地についても、「市街地宅地評
価法」によって各筆の宅地の評点数を付設することができるとされている(第1節
及び第3節)。右の「その他の宅地評価法」による宅地の評点数の付設について
は、その順序が定められ、①状況類似地区を区分する、②状況類似地区ごとに標準
宅地を選定する、③標準宅地について売買実例価額から評定する適正な時価に基づ
き評点数を付設する、④標準宅地の評点数に比準して状況類似地区内の各筆の宅地
の評点数を付設するものとするとされる。右①の状況類似地区の区分は、宅地の沿
接する道路の状況、公共施設等の接近の状況、家屋の疎密度その他宅地の利用上の
便等を総合的に考慮し、概ねその状況が類似していると認められる宅地の所在する
地区ごとに区分するものとされ、「市街地宅地評価法」の
ような明文の用途地区の定めはないけれども、これに準じて区分をすることができ
るものとされている。そして、②の標準宅地の選定は、状況類似地区ごとに、道路
に沿接する宅地のうち、奥行、間口、形状等からみて、標準的なものと認められる
ものを選定するものとするとされる。また、③の標準宅地の評点数は、宅地の売買
実例価額から評定する当該標準宅地の適正な時価に基づいて付設するものとすると
される。これを受け、④の各筆の宅地の評点数の付設については、標準宅地の単位
地積当たり評点数に「宅地の比準表」(別表第4)により求めた各筆の宅地の比準
割合を乗じ、これに各筆の地積を乗じて付設するものとするが、この場合におい
て、市町村長は、宅地の状況に応じ、必要があるときは「宅地の比準表」につい
て、所要の補正をして、これを適用するものとするとされている。その比準割合
は、奥行による比準割合の数値、形状等による比準割合の数値、その他の比準割合
の数値を順次乗じることによって求めるものとされている(第3節)。
 ところで、「固定資産評価基準」では、田及び畑であっても農地法四条一項及び
五条一項の規定により田及び畑以外のものへの転用に係る許可を受けた田及び畑並
びにその他の田及び畑で宅地等に転用することが確実と認められるものの評価につ
いては、沿接する道路の状況、公共施設の接近の状況その他宅地等としての利用上
の便等からみて、転用後における当該田及び畑とその状況が類似する土地の価額か
ら当該田及び畑を田及び畑以外のものに転用する場合において通常必要と認められ
る造成費に相当する額を控除した価額によってその価額を求める方法によるものと
規定されている(第2節)。なお、「固定資産評価基準の取扱いについて」と題す
る各都道府県知事宛自治事務次官通達(昭和三八年一二月二五日自治乙固発第三〇
号)では、右の「その他の田及び畑で宅地等へ転用する場合が確実と認められる場
合」の意義について、「当該田又は畑自体について、宅地等に転用するために耕作
がなされず、放置されているとか、あるいは一部宅地化のための土盛りが行われて
いるとかの現況にあるもの又は地方税法施行令(昭和二五年政令第二四五号)附則
一三条二号に定める田及び畑(都市計画法七条一項の市街化区域内にある田又は畑
で農地法四条一項五号又は五条一項三号の届出がされたもの。)に該当するものを
いうもの」とし、ま
た、右の「通常必要と認められる造成費」の範囲について「一般的には土砂購入
費、土盛整地費、擁壁費及び法止、土止費をいうものである」としている。
2 岡山市では、本件土地のある岡山市西辛川付近の固定資産評価額の決定に当た
り、同地域が「固定資産評価基準」に定める主として市街地的形態を形成するに至
らない地域であると認定した上、「その他の宅地評価法」を適用して、本件土地周
辺の状況類似地区の区分を行った。そして、同地域のうち、北側の山地と南側の平
地に挟まれた地域のうち山地に近い部分を形成し、比較的細く曲がった道路が多
く、地形も場所によっては起伏のある地域を状況類似地区(一)とし、山地と平地
の間にあるが山地から少し離れて状況類似地区(一)より若干標高が低く平坦で宅
地が点在する地域を状況類似地区(二)とし、都市計画法七条一項に定める市街化
区域に含まれず、山地を形成する地域を状況類似地区(四)とそれぞれ定めた上、
本件土地が農地法に定める農地転用の届出のあった介在田に該当するため、宅地に
準じて評価する必要上、状況類似地区(一)に含まれる土地と判断した。
 これに伴い、右の状況類似地区(一)における標準宅地として九四九番三の土地
を選定し、その価格については、隣接の状況類似地区(二)における標準宅地であ
る一〇二九番三の土地に対する不動産鑑定士による鑑定評価額を基礎として算出し
たものであるところ、右の標準宅地の鑑定評価額によれば、平成八年一月一日現在
の一平方メートル当たりの価格が九万三九〇〇円であるが、状況類似地区(一)に
おける標準宅地の場合、価格形成要因のうち、街路条件である沿接道路の配置や幹
線道路への連続性において三パーセント、環境条件である土地の利用度(平地の割
合及び画地の配置の整然さ)において七パーセント劣るとの判断の下に、右の鑑定
評価額に総合格差率〇・九〇二を乗じてその価格を求めることにより、八万四七〇
〇円を算出した。さらに、「固定資産評価基準」が経過措置として定めるところに
従い、不動産鑑定士による鑑定評価額の七割を目途とする評定をするため、これに
〇・七を乗じて五万九二〇〇円を得るとともに、これに対応する評点数五万九二〇
〇点に対し、平成八年一月一日から同年七月一日までの間における普通住宅地区に
おける土地価格の最大下落率〇・九二を乗じることにより、状況類似地区(一)に
おける標準宅地の一平
方メートル当たりの評点数五万四四〇〇円を付設した(なお、「固定資産評価基
準」が経過措置として定める標準宅地等の価額が下落した場合における評価額修正
の具体的取扱いについて定めるため発せられた「地価下落地域における土地評価額
の修正等について」と題する自治省税務局資産評価室長通達によると、評価額を修
正する地域の単位は「市街地宅地評価法」でいう用途地区及び「その他の宅地評価
法」での用途地区に相当する地区とされていることから、本件土地のある地域も専
用住宅が相当連たんしている地域であるとして「市街地宅地評価基準」の普通住宅
地区として扱われたものである。)
 ところで、本件土地は、前記標準宅地と異なり、公道に沿接していないことか
ら、「固定資産評価基準」に従い、「宅地の比準表」(別表第3)に定める無道路
地の評点算出方法によって最大補正率〇・七を乗じるとともに、評点一点当たりの
価格一・〇円を乗じることによりその評価額を算出したが、本件土地の場合、現況
が畑であり、宅地に転用するためには、造成が必要であることから、前記1のとお
り通常必要と認められる造成費に相当する額をさらに控除することとし、別に定め
る「造成費控除表」に従い、平成九年度における埋立費用が盛土の高さ一メートル
の場合一平方メートル当たり五六〇〇円であるとして、右の造成費五六〇〇円を減
じ、一平方メートル当たりの単価三万二四八〇円を得た。本件土地の評価額五八一
万三九二〇円は、右の単価に登記簿上の地積一七九平方メートルを乗じて算出した
ものである。
二 本件土地の固定資産課税台帳の登録価格を決定するに至った評価の方法は、右
一に認定したとおりであるところ、右の評価は、「固定資産評価基準」に定める評
価方法に従って適正になされたということはできず、その登録価格は、本件土地の
適正な時価すなわち正当な条件下における土地の取引価額具体的には正常な売買実
例価額を基準として評価したものであるということができないため、右の登録価格
が適正なものであるとして是認し、原告の審査の申出を棄却した本件決定は、違法
であることを免れない。その理由は以下に説示するとおりである。
 すなわち、先に第二の一で明らかにしたとおり、本件土地は、市街化地域内の土
地であって、農業用倉庫建設を目的とする農地転用の届出が受理されているため、
法的にはいつでも宅地化が可能な農地(現況畑)である
とはいっても、山陽自動車道城山トンネルのある山地の南側斜面に所在する、南北
の最大幅概ね九メートル程度、東西の最大長概ね二一メートル程度で、全体が概ね
東西方向に延びる、細長い不整形な土地であって(西寄りの一部において屈曲す
る。)、北側は最大高低差二メートルの法面を有する道路(山道)に、南側は細い
用水路及び道路を介して宅地にそれぞれ沿接しているところ、その南側寄りの部分
では隣接宅地との間に高低差最大二・五メートル程度の崖地状を形成しているだけ
でなく、建物確認を得て建物を建築するために必要な四メートル以上の幅員を有す
る道路に沿接していないため、農地転用の届出後現在まで実際に農業用倉庫が建築
されているわけではなく、野菜畑として利用されているものである(後述のよう
に、原告は、本件土地が利用されないまま荒れ地として放置され、大雨の際にはそ
の崖地状部分が崩れ、原告の夫の所有する隣接宅地に雨水が浸入する被害を受ける
ことから、買い受けることとしたが、農地取得資格を有しないため、農業用倉庫建
設を目的する農地転用の届出をしてその西側半分を分筆の上買い受けたものであ
り、このため、農業用倉庫は建設されることなく、野菜畑として利用されているも
のである。)。そうであるところ、右に述べる地形的特色及びこれを前提とする土
地利用の現況からするならば、本件土地と四メートルの幅員を有する公道に沿接
し、専用住宅地区の一画にある前記標準宅地との間には、土地の通常の利用形態に
おいて顕著な相違があることが明らかであるということができ、このため、本件土
地を住宅等の用地に供するとしても、道路用地を確保するとともに、切土等の造成
工事を施工する必要があるところ、本件土地は、北側及び南側とも平坦な土地に沿
接しておらず、特に南寄りの部分が最大高低差二・五平方メートルの崖地状を形成
していることからすると、隣接地と同じ地盤まで掘削する切土を行うためには、
二・五メートル程度に達する切土をした上、北側隣地及び東側隣地との高低差の関
係で擁壁を設ける必要があり、仮に右の切土を一メートル程度に止めるとしても、
南側部分に残る最大一・五メートル程度の高低差のため擁壁を設ける必要があるこ
とから、建築基準法に定める建築物の敷地として開発造成するには多額の費用を要
することが明白であって、切土による場合であれ、切土及び盛土の併用による場合
であれ、前記
評価に当たり算定されている盛土の高さ一メートルの場合における一平方メートル
当たり五六〇〇円(合計一〇〇万二四〇〇円)の費用で右の開発造成費をまかなう
ことができないことは極めて容易に知りうるところであるというべきである。ま
た、同一状況類似地区内における標準宅地と対象土地とを比準するに当たっても、
固定資産税が固定資産の所有者に対し資産の所有という事実に着目して課税される
ものであることにかんがみるならば、その資産としての適正な時価を把握するた
め、地形的特色を踏まえた土地の利用の現況を基本としながら、通常の利用上の便
を含む諸般の事情を総合考慮することにより正常な条件の下における売買取引価格
を基準として評価すべきものであるところ、「固定資産評価基準」において、標準
宅地の選定が、状況類似地区ごとに、道路に沿接する宅地のうち、奥行、間口、形
状等からみて、標準的なものと認められるものを選定するものとするとされている
ことから明らかであるように、標準宅地と対象土地の比較においても、単に道路の
沿接の有無だけでなく、右の各比準項目につき両者の比較検討をすることにより適
正な個別補正を行う必要のあることは当然であり、このため、「固定資産評価基
準」においても、各筆の宅地の評点数は、標準宅地の単位地積当たり評点数に「宅
地の比準表」(別表第4)により求めた各筆の宅地の比準割合を乗じ、これに各筆
の地積を乗じて付設するが、その比準割合は、奥行による比準割合の数値、形状等
による比準割合の数値、その他の比準割合の数値を順次乗じることによって求める
ものとされているものであるから(なお、市町村長は、宅地の状況に応じ、必要が
あるときは「宅地の比準表」について所要の補正をした上、評価をすることも予定
されている。)、本件土地と標準宅地を比準することにより個別補正をするに当た
っても、無道路地補正だけでなく、他の比準項目による補正をすべきであるのに
(不動産鑑定士による鑑定評価に当たっても間口が狭く、奥行きが長大である、形
状が不整形である、その一部が崖地である、といった特殊事情が認められるとき
は、右の各比準項目ごとに標準画地の単位価格に対する補正がなされるのが通例で
ある。)、本件土地の評価に当たっては、単に〇・七の無道路地補正をしたにすぎ
ず、その余の比準項目につき標準宅地との適正な比準をしないまま、評価額一平方
メートル当た
りの単価三万二四八〇円を算出したものであり、本件土地の評価額は、その評価方
法において「固定資産評価基準」に従った評価方法であるということはできず、こ
の点でも著しく合理性に欠けるものというべきである。したがって、本件土地の登
録価格は、類似状況地区の区分の当否について検討するまでもなく(本件土地は、
市街化区域の最北端の土地であって、状況類似地区(一)の中でも、最も標高が高
い場所に位置しており、前述した土地の通常の利用形態からみて、専用住宅が存在
する普通住宅地区の一画に含まれる区域であるとすることには疑問がないではない
から、状況類似地区(一)の区分によって評価をするのであれば、標準宅地との比
準はより厳密に行われる必要があり、単に無道路地補正をすれば足りるというもの
ではない。)、地方税法三四一条五号に定める「適正な時価」であるとは認め難
く、本件決定は、違法であるというべきである。
 この点に関し、岡山市は、「その他の宅地評価法」における「固定資産評価基
準」の運用に当たり標準宅地から個別の宅地に比準する際の個別補正率について最
大〇・七を超える補正率を乗じる取扱いをしておらず、本件土地の場合も、無道路
地としての補正率〇・七を乗じているため、他の比準項目による補正について検討
する余地はないとしていることが明らかであるけれども、右の取扱いにつき合理的
根拠のあることは被告において主張立証しないところであり(他の市町村にあって
は右の補正率を超える個別補正を行っていることは顕著な事実である。)、先に説
示した趣旨に徴しても、右の取扱いを是認することはできない。
 なお、本件土地の評価額が著しく適正を欠くものであることは、それが原告にお
いて平成三年一一月二五日に訴外Aから一一七〇番の土地の一部であった本件土地
を買い受けた際における一平方メートル当たり単価六〇六一円の約五・三倍に相当
する価格であることからも、これをうかがうことができるというべきである。すな
わち、原告本人の尋問結果によると、本件土地は、利用価値に乏しいことから、前
所有者の訴外Aにおいて荒れるまま放置されていたため、売却される運びとなつた
ものであり、当初第三者が旧一一〇七番の土地全部を買い受ける予定であったとこ
ろ、親族から訴外Aの売却の意向を伝え聞いた原告が、原告の夫所有の隣地である
上、荒れ地のまま放置されているため、大雨の際にはその
崖地状部分が崩れ、雨水が浸入する被害を受けることから、買い受けることとした
ものであるが、農地取得資格を有しないため、農業用倉庫建設を目的とする農地転
用の届出をする方法によってその西側半分を分筆の上買い受けたものであり、かっ
て原告の祖父において本件土地を所有していたことがある事実及び原告において買
受け希望価格として一〇〇万〇〇〇〇円以下としたい旨申し出た事実のあることが
認められるけれども、その売買価格は、売買の仲介をした不動産業者の申し出た価
格で定められたものであることが認められ、正常な取引価格と比較して特に低額に
抑えられたとまでみるべき根拠は存在しないというべきところ、平成三年度から平
成八年度までの宅地価格の変動状況は、各該当年度における地価公示法に基づく標
準地(公示地価)及び国土利用計画法に基づく基準地(基準地価)のいずれにおい
ても平成四年度以降少なくとも概ね横這い状況にあることは顕著な事実であって、
本件土地はもちろんのこと、周辺土地についても土地価格が数倍に急騰する要因は
存在しないことからすると、実際の取引価格の五倍を超える価格を評価額とした本
件土地の評価額は、正当な条件下における土地の取引価額具体的には正常な売買実
例価額を基準として評価すべき「適正な時価」とは相当に乖離するものであるとい
わざるを得ない。
第四 結論
 よって、原告の請求は正当であるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき行
政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
岡山地方裁判所第一民事部
裁判長裁判官 渡邉温
裁判官 酒井良介
裁判官 竹尾信道

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