弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 本件控訴を棄却する。
二 訴訟の総費用は控訴人の負担とする。
       事   実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が控訴人に対し昭和五五年一〇月三日付けでした控訴人をけん責する
旨の処分が無効であることを確認する。
3 被控訴人は、控訴人に対し、金七四万七六三八円及びこれに対する昭和五六年
五月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
5 仮執行宣言(3、4につき)
二 被控訴人
 主文第一項同旨
第二 当事者の主張
 当事者双方の主張は、次のとおり付加、補充するほかは、原判決事実摘示記載の
とおりであるから、これを引用する(ただし、原判決七枚目表八行目、同一五枚目
表三行目及び同一八枚目表四行目の各「科学技術庁記者クラブ」をいずれも「科学
技術記者クラブ」に改め、同八枚目表六行目の「被告会社」の前に「昭和五五年当
時の」を加える。)。
(控訴人)
一 本件時季変更権行使の違法性(抗弁に対する反論の補充)
1 年次有給休暇請求権の権利性
 年次有給休暇請求権は、憲法二七条及び一三条に基づく基本的人権であり、ま
た、ILOの条約、勧告においても二週間以上の長期継続の有給休暇を義務づける
方向にあり、これが既に国際労働常識となっている。このような年次有給休暇を実
効ある権利として保障するために、その期間や目的は、すべて労働者の自主的選択
にゆだねられており、労働者の時季指定権に対し、使用者の承認という観念をいれ
る余地はない。特に、我が国においては、労働時間短縮が国際的緊急課題とされて
おり、年次有給休暇も、夏期連続集中取得による消化促進が政府によっても指摘さ
れている。
 このような観点から時季変更権行使の要件を考えれば、休暇によって生じる通常
の企業運営上の支障は使用者側で受忍すべきであり、それを理由に時季変更権を行
使することは許されず、それが許されるのは、当該休暇が事業場全体の運営に通常
とは異なる特別に重大な支障を生じると客観的に明白に認められる場合に限ると解
すべきである。
2 本件における時季変更権行使の違法
(一)時季変更権行使の適否の判断基準
 前述した年次有給休暇請求権の実効的保障の観点からは、本件において、控訴人
休暇中の代替記者を被控訴人の第一編集局社会部内で調達しうるかどうか、それに
より科学技術記者クラブの記者としての職務遂行に欠けるところがないかどうかと
いうような点を時季変更権行使の適否の判断基準とすることは、年次有給休暇制度
の趣旨に反するものというべきである。
(二)個別的争点の補足
(1)被控訴人の企業規模
 労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの。以下同じ。)三九条
三項但書の事由の存否判断の対象となる事業場は、被控訴人の場合、その第一編集
局全体とみるべきところ、第一編集局には当時三八七人が在籍し、うち社会部には
四一人が在籍しており、これは、日本経済新聞社東京社会部の三九人を上回り、さ
らに、東京駐在者が少人数である地方紙の場合と比較すれば、被控訴人の企業規模
は小さいとは到底いえない。なお、被控訴人は、日本経済新聞社や地方紙は通信社
の配信記事を利用しているから、それとの規模の比較は失当であると指摘するが、
逆に新聞社には通信社の扱わない分野(地方版、特集・企画記事等)があるから、
いずれにしろ被控訴人の社会部が少人数であるとはいえない。
(2)代替要員の確保
 被控訴人の各部において、記者が病気や海外出張で長期欠勤する場合に、他部の
記者が代替した実例は存在するし、仮に同じ部内で代替要員を確保する慣行があっ
たとしても、それは絶対的、拘束的なものではない。そして、記者の取材分野は一
応のめどに過ぎず、各部の記者が一応の担当部門(記者クラブ)を割り当てられて
いても、この割当てそのものが非常に流動的なもので、必然的な理由なしに行わ
れ、ほとんどが一、二年で交代していくのが実情であって、同一部内であれば、他
の記者が代わりに担当することは常に可能で、各部間でも人員の交流は常に行われ
ており、科学技術記者クラブについても例外ではない。また、一つの部だけでは対
応しきれないニュースがあるし、各部間で担当分野が重なり合うこともあり、各部
間の協力は日常的にも必要とされている。
 本件においても、控訴人の年次有給休暇期間の代替要員の確保のために部を超え
た第一編集局全体で人員のやり繰りするという態勢をとることは十分可能であった
のに、被控訴人はあえてこれをしなかった。本件は休暇取得による代替の問題であ
り、長期欠勤等の場合とは違うから、他部記者によるカバーがあることを前提に第
一編集局全体の人員のやり繰りを考えるべきなのであり、仮に長期休暇が欠員と同
視されるとしても、被控訴人の複数の部の記者が配置されている他の記者クラブの
記者たちが部を超えて日常的にカバーしあっている事実に照らし、本件においても
同様な配慮がなされるべきであった。
(3)控訴人の専門記者性
 控訴人は科学技術の専門記者として、特別の採用、養成、処遇を受けてきたもの
ではないから、被控訴人は、その専門性の故に、控訴人に対し他の一般記者以上の
専門能力や担当業務に対する専念を要求しうる立場にはない。被控訴人は控訴人を
a記者に一年間指導させて養成したかのような主張をするが、一緒に配置されてい
たのは半年間にすぎず、指導らしきものは受けていない。また、専門記者だから代
替要員の確保が困難であるとして時季変更権行使を正当化しようとするのは、専門
記者であるが故に一般記者以上の業務専念を要求することにほかならない。
 控訴人は理工系には素人同然であったが、科学技術記者クラブ配属の始めから自
らの工夫により記事を作成してきたのであり、記者であれば、だれでもこのような
工夫が要請されるのであって、現に原発事故等の科学技術記事が社会部の他の記者
により立派に作成されたこともあるから、控訴人の担当分野の専門性を理由に、そ
の非代替性を強調するのは誤りである。また、科学技術分野について他の記者が一
応の記事が書けるとしても、専門解説記事においては深みに欠けるとの指摘もある
が、「専門解説記事」も、要するに一般国民向けの解説記事であり、科学者向けの
論文ではないから、どの記者でも書ける範囲内のものである。そして、仮にその記
事が深みにおいて控訴人が書くものに劣るとしても、それは被控訴人が受忍すべき
もので、控訴人に負担を強いるのは不当である。しかも、控訴人が昭和五三年に科
学技術記者クラブに配属以来今日に至るまで、その専門解説記事を送稿したのは、
原発事故関係では二件にすぎず、それを書く機会はめったにないのであり、仮にそ
の必要が生じても、その性格上、速報性は要求されず、休暇を取得させても対応は
可能なのである。
(4)夏期の休暇取得
 休暇、特に長期休暇を夏期に集中して取得することは、政府も奨励しているとこ
ろであり、また、諸官庁、諸企業とも夏休みをとるのが通例であることから、記事
とすべきもの自体が夏期は減少する。したがって、夏期における人員のやり繰りの
困難を理由に休暇取得を制限するのは不当である。
(5)事業への支障の蓋然性による判断
 長期休暇については、事業への支障の予測が困難であるから、蓋然性をもとに判
断するというのは、年次有給休暇請求権の実効的保障の目的からすると不当であ
る。しかも、一箇月程度先のことについては、重大行事の予定、人員の配置、業務
の繁閑などが十分に予測可能であるのが官公庁の通例であり、蓋然性で判断するし
かないとする根拠自体が乏しい。
(6)人員配置の不適正
 人員配置は会社側の裁量にゆだねられているが、それだからこそ、その結果とし
ての人員のやり繰りや代替要員確保の困難を労働者の年次有給休暇取得否定の根拠
とすることはできない。
二 不当労働行為(再抗弁の補充)
1 被控訴人の労働者委員会敵視
 当初、少数者組合として結成された時事通信労働組合は、昭和四七、八年ころか
ら次第に被控訴人の経営陣との密着度を強め、組合執行部は、この方針に反発して
賃金闘争委員会を組織して闘争を続けた同組合経済班を被控訴人と結託して攻撃し
た。これに対して、昭和五一年控訴人らにより新たに結成されたのが労働者委員会
であり、経済班賃金闘争委員会のメンバーの大半は、この労働者委員会に所属し
た。被控訴人は、組合文書発送等の便宜供与、組合掲示板の貸与、組合事務所の提
供等に関して、時事通信労働組合と労働者委員会とを差別して対処し、労働者委員
会のメンバーに対する不当配転、団交に対する不誠実な対応、出版・報道などの業
務妨害、裁判所への出廷・傍聴の妨害など、労働者委員会を徹底して敵視してき
た。
2 控訴人に対する差別的処遇
 控訴人は、結成当初から労働者委員会の代表幹事の一人として指導的役割を果た
してきたものであるが、納得しがたい理由で特派員であったモスクワから帰国させ
られた上、慣例によればもとの経済部に所属すべきところを所属部のない第一編集
局勤務、次いで同局整理部にまわされ、不当労働行為等を理由とする裁判闘争のす
え、社会部へまわされ、ついに、平成四年九月九日付けで懲戒解雇されるに至っ
た。これらは、控訴人に対する一貫した差別的処遇であり、被控訴人の労働者委員
会に対する差別的人事の象徴である。
 被控訴人は、ほぼ同時期の昭和五五年八、九月に長期の年次有給休暇をとった労
働者委員会所属のb記者(休暇日数二一日)、c記者(同二二日)に対しては時季
変更権を行使していないが、右に述べたように、控訴人は、特に被控訴人から嫌悪
されていたため時季変更権を行使されたのであり、労働者委員会の他のメンバーの
長期休暇に時季変更権が行使されていないからといって、控訴人に対する時季変更
権行使が労働者委員会としての活動とは無関係であると判断することはできない。
3 結論
 こうした事情を考慮すると、控訴人に対する本件懲戒処分が不当労働行為である
ことは明らかである。本件において控訴人に対する不利益処分の正当化理由は、不
当労働行為意思と比較してさほどの重きがあったものではなく、むしろ不当労働行
為意思の存在が決定的な要因となって本件不利益処分がされたものと認められるも
のであるから、不当労働行為の成立を認めるべきである。
(被控訴人)
一 本件時季変更権行使の適法性(控訴人の付加主張に対する反論)
1 年次有給休暇請求権の権利性について
 年次有給休暇制度は憲法二七条に基づく権利であるが、その具体的内容は労働基
準法により定まり、使用者は法定の労働時間の範囲内で就労を求めることができる
のは当然であり、年次有給休暇も法の趣旨にのっとり付与すれば足りるのであっ
て、ILOの条約、勧告は解釈上の指針となるものではない。また、控訴人は、時
季変更権の行使は「当該休暇が事業場全体の運営に通常とは異なる特別に重大な支
障を生じると客観的に明白に認められる場合」に限って許されると主張するが、こ
れは著しく厳格で不合理な基準であり、不当である。仮に控訴人の主張するような
厳格な基準によった場合、長期連続的な休暇請求に対しては、それが長期であれば
あるほど、使用者側の業務上の支障は大きくなるはずなのに、業務支障度の的確な
予測が困難となるために、かえって時季変更権行使が制約されるという不合理な結
果を招来することになる。
2 本件における時季変更権行使について
(一)判断基準について
 代替要員の確保の可否の問題は、時季変更権行使の適否判断の主要な基準であ
り、本件でもそれが具体的に検討されるべきである。
(二)個別的争点について
(1)被控訴人の企業規模
 業務の実態からして、代替要員の確保の場は控訴人の所属する社会部であるか
ら、第一編集局の人数や規模は本件において直接の問題とはならない。また、日本
経済新聞社東京社会部や地方紙の場合は、その社会面記事の多くを通信社の配信記
事に頼って成り立っているのであるから、被控訴人との比較は的外れである。
(2)代替要員の確保
 被控訴人において、長期欠勤等の場合における他部記者による代替の実例は存在
しない。また、記者の取材分野の流動性とか部間人事交流、部間協力等の問題は、
長期欠勤等について他部の記者が代替するかどうかの問題と、何のかかわりもない
ことである。同一部内であれば、他の記者が担当することが常に可能であるという
ことは、科学技術庁担当記者、とりわけ原子力担当記者については当てはまらな
い。
(3)控訴人の専門記者性
 控訴人は科学技術の専門記者として採用されたものではないが、控訴人が専門記
者としての能力を得たのは、前任者であるa記者の一年間の指導や被控訴人が長期
にわたり原子力関係等を担当させてきたことによるのであり、被控訴人が控訴人を
専門記者として養成したと言っても過言ではない。なお、被控訴人は控訴人が専門
記者であるが故に控訴人に他の一般記者以上の担当業務専念を要求したことはな
い。
 また、控訴人も科学技術記者クラブ加入当初からその担当分野の職責を全うしう
る能力が備わっていたわけではなく、その専門性と科学技術庁単独配置にかんが
み、一年間の育成期間を設けているのであり、記者であればだれでも直ちに控訴人
に代替しうるとはいえない。社会部の他の記者が原発事故の記事を出稿したことが
あるといっても、その場合も事故原因の分析に関する記事や解説記事は控訴人以外
からは出稿されていない。そして、専門解説記事は、専門的事柄を一般国民にも理
解してもらえるように平易に解説するものであるから、これを書く記者には相当な
力量が要求されるのであり、一般国民向けであるから容易であるというのは全くの
認識不足である。なお、控訴人の専門解説記事出稿が二、三件だけであるというの
は、事実に反しており、昭和五四年一月から昭和五五年七月までの間だけでも、数
本はあるし、専門解説記事に速報性が要求されないというのも誤りである。
(4)夏期の休暇取得
 事件、事故は官公庁、企業の繁閑とは関係なしに生起するものであり、また、社
会部記者の使命は官公庁の日常的動向を後追いするにとどまるものではないから、
夏期における人員のやり繰りを考慮する必要があるのは当然である。
(5)その他
 事業の運営に支障があるかどうかは支障が生じる蓋然性に基づき判断すべきであ
る。また、被控訴人はどんなに人員のやり繰りが困難であり、代替要員の確保が困
難であっても年次有給休暇を全く否定したことはなく、本件でも二週間を限度に控
訴人の時季指定を認めているのである。
二 不当労働行為について(再抗弁への反論の補充)
 被控訴人は適法に時季変更権を行使し、それにもかかわらず控訴人が無断欠勤し
たとの非違行為に関して、懲戒規程等の趣旨にのっとり、これを形式的に適用して
本件懲戒処分をしたものであって、控訴人主張の不当労働行為とは全く無関係であ
る。そもそも、控訴人主張のような不当労働行為は存在しない。
第三 証拠(省略)
       理   由
第一 本案前の主張に対する判断
 当裁判所も、本件けん責処分無効確認の訴えは確認の利益がなく却下すべきであ
るとの被控訴人の本案前の主張は失当であると判断するものであるが、その理由は
原判決理由説示一項と同一であるから、これを引用する。
第二 本件けん責処分の違法性について
一 次の1ないし3の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。
1 被控訴人はニュースの提供を主たる業務目的として東京本社を中心に全国約八
〇箇所の支社、総局、支局を有し、海外にも多数の特派員を派遣している株式会社
である。
 控訴人は、昭和四二年三月に大阪外国語大学ロシア語科を卒業して、同年四月に
被控訴人に入社し、大阪支社、本社第一編集局スポーツ部、同経済部に順次配属さ
れた後、モスクワ支局特派員勤務を経て、本社第一編集局社会部勤務の記者とな
り、昭和五三年四月から科学技術庁の科学技術記者クラブに所属していた。
2 控訴人は、昭和五五年当時、前年度の年次有給休暇の繰越日数二〇日を加えた
四〇日の年次有給休暇日数を有していたので、同年六月二三日、d社会部長(以下
「d部長」という。)に対し、口頭で、同年八月二〇日ころから約一箇月くらいの
有給休暇をとって欧州の原子力発電問題を取材したいとの申入れをし、同年六月三
〇日同部長に、休暇及び欠勤届(同年八月二〇日から九月二〇日まで。ただし、所
定の休日、時短休日をのぞいた年次有給休暇日数二四日)を提出した。
3 d部長は、控訴人の右年次有給休暇の時季指定に対し、科学技術記者クラブの
常駐記者は控訴人一人だけであって一箇月も専門記者が不在では取材報道に支障を
来すおそれがあり、代替記者を配置する人員の余裕もないとの理由を挙げて、控訴
人に二週間ずつ二回に分けて休暇をとってほしいと回答した上、同年七月一六日付
けで八月二〇日から九月三日までの休暇は認めるが、九月四日から二〇日までの期
間(ただし、控訴人が休暇の始期を遅らせたときは、九月四日からその遅らせた日
数だけ後の日から二〇日までの期間)に属する勤務日については業務の正常な運営
を妨げるものとして、時季変更権を行使した。
しかし、控訴人は同年八月二二日から同年九月二〇日までの間、欧州の原子力発電
問題を取材する旅行に出発して、その間の勤務に就かなかったので、被控訴人は同
年一〇月三日に、時季変更権の行使された同年九月六日から二〇日までの勤務日一
〇日間について、業務命令に反して就業しなかったとの理由で控訴人を懲戒処分と
してのけん責処分に処し、同年一二月に支給した賞与について、この一〇日間の欠
勤があることを理由として控訴人には四万七六三八円少なく支給した。
二 成立に争いのない甲第一一、第一六号証及び原審証人dの証言並びに弁論の全
趣旨によれば、前記けん責処分は被控訴人の職員就業規則に基づく職員懲戒規程四
条六号により、また前記賞与減額支給は被控訴人と労働者委員会等との団体交渉に
基づく欠勤者に関する支給規定によってなされたことが認められる。
 そして、右一の争いのない事実によると、本件けん責処分及び賞与減額支給の違
法性の有無は、専ら控訴人の年次有給休暇時季指定に対して被控訴人がした時季変
更権行使にその要件があったかどうかにかかることが明らかである。そこで、その
判断の前提となる諸事情について、順次認定、判断する。
1 いずれも成立に争いのない乙第一五、第一六号証、第二二ないし第二四号証、
甲第三十号証、原審証人eの証言により真正に成立したと認められる乙第一号証の
一、第二号証、原審証人dの証言により真正に成立したと認められる乙第八号証、
原審証人fの証言により真正に成立したと認められる乙第十二号証の一、二、弁論
の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第三十五、第三十六号証、第四十五
号証、原審証人e、同d、同f、同gの各証言並びに原審及び当審(第一回)にお
ける控訴人本人尋問の結果(後期措信しない部分を除く。)によれば、次の各事実
が認められ、原審及び当審(第一回)における控訴人本人の供述中、この認定に反
する部分は、前掲各証拠に照らし、直ちに措置しがたく、他にこの認定を履すに足
りる証拠はない。
(一)被控訴人は、昭和二〇年一一月に創立されたニュースの提供を主たる業務目
的とする通信社であり、昭和五五年六月当時の従業員総数は一二一七人であった。
被控訴人は発足当初は、官公庁、企業に対する専門ニュースサービスだけを行って
おり、昭和三九年から新聞、放送等のマスメディアに対する一般ニュースサービス
も行うようになったが、昭和五五年当時においても一般ニュースサービスの比重
は、収益にして一二ないし一四パーセント程度であり、これに従事する人員も同業
の他社や他の大手新聞社に比較して少数であった。被控訴人本社においてニュース
取材を担当する編集局は、昭和五五年八月当時、第一編集局(職員数三八七人)、
第二編集局(職員数二五人)に分かれ、それがさらに一七箇部に分かれていた。
(二)控訴人の所属する社会部は第一編集局に属し、昭和五五年八月当時の人員は
四一人で、内勤が一〇人(部長一人、次長(デスク)四人、遊軍三人、デスク補助
二人)で、その他の三一人が各記者クラブに所属する外勤であったが、被控訴人か
らの配置人員一人の記者クラブや一人がかけもちで配置される記者クラブもいくつ
かあった(なお、いくつかの記者クラブについては社会部と経済部その他の部とが
競合して記者を配置していた。)。
 このような単独配置、かけもち配置は、その繁忙度や重要性を考慮した結果であ
るが、被控訴人の社会部の人員上の制約のためやむなく行われていた面も否定しが
たい。また、被控訴人の社会部にどの記者クラブにも所属しない遊軍記者三人を配
置しえたのは、同年七月であり、その配置の目的は、どの記者クラブとも関連の薄
い事件の取材、大事件の応援、デスク補佐等にあったが、他社においては、遊軍記
者がクラブ記者の長期差し支えの場合の代替要員として使われることも、まれでは
なかった。
(三)被控訴人の各部の外勤記者は各自記者クラブに所属し、その担当分野の取材
活動を行い、その原稿は各部ごとに集約されるが、各記者や各部間の協力活動が奨
励されており、また、被控訴人が複数の部の記者を配置している記者クラブにおい
ては、一つの部の記者に差し支えがあるときは、他の部の記者がそのカバーをする
ことが日常的に行われていた。しかし、長期欠勤や長期出張等で一箇月近くもクラ
ブ記者が取材活動を行えないような場合に他の部の記者が代替した事例はなく、そ
のような長期代替はその記者の所属部において賄うのが慣例であった。
(四)昭和五五年度の被控訴人の編集部門社員の年次有給休暇取得日数は平均九・
二日であり、また、控訴人を除く被控訴人の社会部員の昭和五五年夏期(七月二〇
日から九月三〇日まで)の休暇日数は平均一一・七日、うち年次有給休暇取得日数
は平均三・九日であった。なお、昭和五五年新聞協会調査の加盟各社社員の年次有
給休暇取得日数(年間)は、従業員一〇〇〇人以上規模の編集部門で平均一〇・一
日であった。
2 成立に争いのない乙第一〇号証、第一七号証、原審証人dの証言により真正に
成立したと認められる乙第二五号証、原審証人d、同gの証言、原審及び当審(第
一回)における控訴人本人尋問の結果下とによれば、次の事実が認められ、この認
定を覆すに足りる証拠はない。
(一)控訴人は前記のとおり昭和五五年八月当時、科学技術記者クラブに配置され
ていたが、同クラブ記者の担当分野は、科学技術庁、原子力委員会、原子力安全委
員会の所管事項に対応して、原子力関係、エネルギー研究開発関係、宇宙開発関
係、海洋資源開発関係、ライフサイエンス関係、防災科学関係等の多岐にわたり、
なかでも、原子力関係が大きな比重を占めていた。昭和五四年三月にアメリカ合衆
国スリーマイル島の原子力発電所の事故が発生し、それ以降、我が国の国民の間で
も、原子力発電所及びその事故に対する関心が高まっていたが、控訴人は、原子力
の安全規制関係全般をその担当分野とされ、原子炉関係の重大事故は、すべて取材
対象とされていたため、実用発電用原子炉に事故が起こった場合の事故原因の技術
的解説記事や安全規制問題についての解説記事は、控訴人の担当とされていた。
(二)控訴人は、前記のとおり昭和五三年四月から科学技術記者クラブに常勤者と
して配属となったところ、昭和五四年三月までの約一年間は、同記者クラブに多年
にわたり配属されていたa記者との複数配置であったが、そのころ同記者が退職し
て以降は、非常勤者の配属もなく、単独配置となった。
(三)前記のとおり控訴人の担当職務は、科学技術の多方面にわたるところ、その
取材活動にある程度の知識の蓄積が必要であり、控訴人も、その配置に至るまで、
科学技術分野についての格別の知識、経験を有したわけではないが、昭和五五年八
月当時にはそれまで担当した期間における取材や学習により、その担当分野につき
相当の専門的知識、経験を有していた。
3 原審証人fの証言により真正に成立したと認められる乙第三一号証、原審証人
c、同b、同fの各証言によれば、被控訴人の外勤記者で、年次有給休暇を含めて
一箇月程度の海外旅行をした者は、過去にも数人いること、殊に、社会部のc記者
は控訴人とほぼ時期を同じくする昭和五五年八月二六日から同年九月二五日までの
海外旅行を行い、そのために年次有給休暇を二二日取得しており、また、経済部の
b記者も同じ期間海外旅行を行い、そのために年次有給休暇二一日を取得している
こと、右両記者とも、その年次有給休暇時季指定につき、所属部の上司から、短縮
ないし二分して取得するようにとの勧告を受けたが、これに従わなかったのにもか
かわらず、被控訴人は右両記者に対して時季変更権を行使しなかったことが、それ
ぞれ認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
4 控訴人の本件年次有給休暇時季指定は、欧州における原子力発電をめぐる状況
の調査、視察をする取材旅行を目的としたものであり、出発予定の約二箇月前に口
頭で予告され、さらにその一週間後に書面で時季指定されたのに対し、d部長は、
二週間ずつ二回にわけて取得するように勧告したが、控訴人がこれに従わなかった
ため、後半部分につき時季変更権を行使したものであることは、既に判示したとお
りである。そして、成立に争いのない甲第一〇号証、第四二号証及び原審証人g、
同fの各証言によれば、その後、控訴人の所属する労働組合である労働者委員会と
被控訴人との間で右時季指定及びその変更権行使をめぐり団体交渉が二回行われた
が、その中で、被控訴人側は、控訴人の担当分野の専門性による代替要員確保の困
難を強調したのに対し、労働者委員会側は、同委員会のメンバーで経済部のエネル
ギー記者会及び采女会(通産省担当の記者クラブ)所属記者に控訴人の代替をさせ
る案を提案したが、被控訴人は受け入れず、妥協点を見いだせないまま、控訴人は
欧州取材旅行に出発したこと、控訴人は、その前日にd部長に対して、被控訴人が
憂慮する原子力発電所事故等の突発的大事件が発生した場合には旅行を切り上げて
帰国する用意があるとして、その際の緊急連絡先として在外公館の電話番号を告げ
たことが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
5 原審証人dの証言により真正に成立したと認められる乙第一一号証の一、二、
同証人の証言、原審における控訴人本人の供述によれば、控訴人が本件休暇による
旅行中で勤務に就かなかった間は、同じ社会部に配置され、デスク補助で気象庁記
者クラブにも所属していたh記者が、控訴人の代わりに科学技術記者クラブをカバ
ーしたこと、同記者はかつて同クラブの非常勤記者であったこと、h記者は、右代
替期間中、科学技術関連記事一五本を出稿していることが、それぞれ認められる。
三 右認定事実に基づいて、被控訴人の本件時季変更権の行使が労働基準法三九条
三項ただし書所定の要件を具備しているか否かについて判断する。
 年次有給休暇の権利は、労働基準法三九条一、二項の要件の充足により法律上当
然に生じ、労働者がその有する年次有給休暇の日数の範囲内で始期と終期を特定し
て休暇の時季指定をしたときは、使用者が適法な時季変更権を行使しない限り、右
の指定によって、年次有給休暇が成立して当該労働日における就労義務が消滅する
ものである。そして、同条の趣旨は、使用者に対し、できる限り労働者が指定した
時季に休暇を取得することができるように、状況に応じた配慮をすることを要請し
ているものと解すべきであって、そのような配慮をせずに時季変更権を行使するこ
とは、右の趣旨に反するものといわなければならない。しかしながら、使用者が右
のような配慮をしたとしても、代替勤務者を確保することが困難であるなどの客観
的な事情があり、指定された時季に休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる
ものと認められる場合には、使用者の時季変更権の行使が適法なものとして許容さ
れるべきことは、同条三項ただし書の規定により明らかである。
 労働者が長期かつ連続の年次有給休暇を取得しようとする場合においては、それ
が長期のものであればあるほど、事業の正常な運営に支障を来す蓋然性が高くな
り、使用者の業務計画、他の労働者の休暇予定等との事前の調整を図る必要が生ず
るのが通常である。しかも、使用者にとっては、労働者が時季指定をした時点にお
いて、事業活動の正常な運営の確保にかかわる諸般の事情について、これを正確に
予測することは困難であり、当該労働者の休暇の取得がもたらす事業運営への支障
の有無、程度につき、蓋然性に基づく判断をせざるを得ないことを考えると、労働
者が、右の調整を経ることなく、その有する年次有給休暇の日数の範囲内で始期と
終期を特定して長期かつ連続の年次有給休暇の時季指定をした場合には、これに対
する使用者の時季変更権の行使については、使用者にある程度の裁量的判断の余地
を認めざるを得ない。もとより、使用者の時季変更権の行使に関する右裁量的判断
は、労働者の年次有給休暇の権利を保障している労働基準法三九条の趣旨に沿う、
合理的なものでなければならないことはいうまでもない。
 右の見地に立って、本件をみるのに、前記の事実関係によれば、次のことが明ら
かである。(1)控訴人は被控訴人の本社第一編集局社会部の記者として科学技術
記者クラブに単独配置されており、担当すべき分野は、多方面にわたる科学技術に
関するものであり、原子力発電所の事故が発生した場合の事故原因や安全規制問題
等についての技術的解説記事がその担当職務であって、その取材活動、記事の執筆
には、ある程度の専門的知識が必要であり、控訴人も、昭和五五年八月当時には、
右担当分野につき、相当の専門的知識、経験を有していたことから、社会部の中か
ら控訴人の担当職務を支障なく代替し得る勤務者を見いだし、長期にわたってこれ
を確保することは相当に困難である。(2)当時、被控訴人の社会部においては、
外勤記者の記者クラブ単独配置、かけもち配置がかなり行われており、控訴人が右
記者クラブに単独配置されていることは、異例の人員配置ではなく、これは、被控
訴人が官公庁、企業に対する専門ニュースサービスを主体としているため、新聞、
放送等のマスメディアに対する一般ニュースサービスのための取材を中心とする社
会部に対する人員配置が若干手薄とならざるを得なかったとの企業経営上のやむを
得ない理由によるものであり、年次有給休暇取得の観点のみから、控訴人の右単独
配置を不適正なものと一概に断定することは適当ではない。(3)控訴人が当初年
次有給休暇の時季指定をした期間は昭和五五年八月二〇日から同年九月二〇日まで
という約一箇月の長期かつ連続したものであり、控訴人は、右休暇の時期及び期間
について、被控訴人との十分な調整を経ないで本件休暇の時季指定を行った。
(4)被控訴人のd社会部長は、控訴人の本件年次有給休暇の時季指定に対し、一
箇月も専門記者が不在では取材報道に支障を来すおそれがあり、代替記者を配置す
る人員の余裕もないとの理由を挙げて、控訴人に対し、二週間ずつ二回に分けて休
暇を取ってほしいと回答した上で、本件時季指定に係る同年八月二〇日(ただし、
同月二二日に変更)から九月二〇日までの休暇のうち、後半部分の九月六日以降に
ついてのみ時季変更権を行使しており、当時の状況の下で、控訴人の本件時季指定
に対する相当の配慮をしている。
 これらの諸点にかんがみると、昭和五五年七、八月当時の状況の下において、被
控訴人が、控訴人に対し、本件時季指定どおりの長期にわたる年次有給休暇を与え
ることが「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するとして、その休暇の一部に
ついて本件時季変更権を行使したことは、その裁量的判断が、労働基準法三九条の
趣旨に反する不合理なものであるとはいえず、同条三項ただし書所定の要件を充足
するものというべきであるから、これを適法なものと解するのが相当である。
 控訴人は、本件時季変更権の行使は違法であると縷々主張するが、いずれも独自
の見解を前提とするものであって、採用することができない。
四 したがって、控訴人が指定した年次有給休暇のうち昭和五五年九月六日から同
月二〇日のうち時短休日等を除く一〇日間について控訴人はなお就労義務を負って
おり、被控訴人から就労するよう業務命令を発せられていたにもかかわらずその間
の勤務を欠いたものとなるから、控訴人は、被控訴人の職員懲戒規程四条六号所定
の「職務上、上長の指示命令に違反したとき」に該当するものということができ、
被控訴人がした本件けん責処分は正当であるということができる。また、原本の存
在及び成立に争いのない乙第四号証によれば、被控訴人と労働者委員会との間にお
いて昭和五五年末賞与等について欠勤日数に応じて一日当たり支給額の一八〇分の
一を減額するとの労働協約が締結されたことが認められるから、被控訴人がこれに
従い、同年年末賞与支給に際して控訴人の賞与を四万七六三八円減額したことも正
当なものということができる。
第三 不当労働行為の主張について
 控訴人は、被控訴人がした本件有給休暇の請求に対する時季変更権の行使ひいて
は本件懲戒処分は、控訴人の労働者委員会代表幹事としての活動を理由とする不利
益処分であって、不当労働行為として無効であると主張し、右時季変更権の行使等
が不当労働行為であることを推認させる具体的事実として、被控訴人の本社廊下に
縦一メートル、横二・五メートルの模造紙に「全社員へのアピール」と題する時事
労組経済班(労働者委員会の前身母体)に対する攻撃文が張り出されたいわゆるア
ピール事件、時事労組経済班のメンバーの一員であったc記者に対するアフリカ・
ラゴス支局特派員時代の現地雇用員の着服横領を理由とする減俸一箇月の懲戒処
分、労働者委員会のメンバーに対する数多くの不当配転、労働者委員会に対する一
貫した団交拒否の姿勢、労働者委員会のメンバーに対する例えば昭和天皇・マッカ
ーサー会談宮内庁文書という世紀の特ダネ報道の妨害、裁判証人出廷及び傍聴の妨
害、労働者委員会のメンバーに対する賃金差別、さらには控訴人本人に対するモス
クワ特派員からの帰国後の差別的待遇等を挙げる。
 確かに、原本の存在及び成立に争いのない甲第五二号証の一ないし三、原審証人
g、原審及び当審証人fの各証言、原審及び当審(第一、二回)における控訴人本
人尋問の結果によれば、被控訴人の労働組合としては被控訴人の社員の大多数が所
属する時事通信労働組合と極めて少数の社員が所属する労働者委員会があり、被控
訴人と労働者委員会との間で各種紛争が生じていたこと、控訴人は労働者委員会の
代表幹事の一人として指導的役割を果してきたものであることが認められる。
 しかしながら、前示のとおり、本件有給休暇に対する時季変更権の行使は昭和五
五年七月一六日付けまた本件懲戒処分は同年一〇月三日付けでされたものであると
ころ、控訴人の主張する右事由のうち、いわゆるアピール事件は本件処分より約五
年前の昭和五〇年五月二八日に起こったもの、また、c記者に対する減俸処分も同
じく同年一二月二七日付けでされたものであり、さらに、昭和天皇・マッカーサー
会談宮内庁文書の特ダネ報道の問題は本件処分より約九年後の平成元年一月ころに
起こったものであるから、これらの事由はいずれも、本件時季変更権の行使あるい
は本件懲戒処分が不当労働行為であることを推認させる事実としては時期的にかな
り遠いものといわなければならない。のみならず、いずれも成立に争いのない甲第
一六五号証の一、二(原本の存在も含む。)、乙第三〇号証の一ないし四、乙第四
三号証の二及び四、乙第五二、五三号証(原本の存在も含む。)、当審証人fの証
言により成立を認める乙第六一号証の一、二及び乙第九〇号証、弁論の全趣旨によ
り成立を認める同第六二号証の一ないし九並びに同証人の証言及び控訴人の当審
(第一、二回)における本人尋問の結果を総合すれば、控訴人が主張するいわゆる
アピール事件は、被控訴人の社員の有志が、被控訴人の経済部の一部の社員で組織
された経済班賃金闘争委員会のメンバーの暴力的言動及び職制への執拗なつるし上
げ等により職場が著しい混乱に陥ったことを憂い、これらの行為を糾弾する目的で
「全社員へのアピール」と題する書面を本社廊下に張り出したものであって、被控
訴人が直接関与して起こったものではなく、右アピールが直接的に労働者委員会の
前身母体である時事通信労組経済班を対象としたものでもないことが認められるの
であり、また、c記者に対する懲戒処分は、同人の過失により現地雇用員に社費を
横領されたことを理由とする正当な処分であって、同人の組合活動を嫌悪してされ
たものではなく、同人はもともと右懲戒処分前には組合活動は行っていないもので
あること、いわゆる特ダネ報道妨害の件は、控訴人が特ダネであると主張する昭和
天皇・マッカーサー会談宮内庁文書が既に昭和五〇年に産経新聞が大々的に報道し
ていたため特ダネ記事として配信されなかったものであること、控訴人がいうとこ
ろの不当配転の問題も、職制への昇格人事、海外特派員への異動等であってこれを
命ぜられた当該本人から特段の異議も出されず、特に問題のある配転ではなかった
ことが認められる。その他団交については、昭和五三年四月一五日被控訴人と労働
者委員会との間で団交に関する和解協定が成立し、爾来右両者間において昭和五三
年二〇回、五四年一六回、五五年一五回、五六年一〇回とかなり頻繁に団交が行わ
れ、昭和五五年当時被控訴人が労働者委員会に対して団交を拒否した事実はなかっ
たこと、また、裁判出廷・傍聴の問題も特に労働者委員会のメンバーの組合活動を
嫌悪してされたものではなく、賃金差別については控訴人の主張自体明確でなく実
際に賃金差別が存在するかどうかは明らかでないことが認められる。
 ところで、本件処分が行われた昭和五五年当時の被控訴人と労働者委員会との労
使関係についてみると、前掲乙第九〇号証によれば、昭和五三年までは年間二〇回
以上も発行されていた労働者委員会の機関紙「IMAGE」は、昭和五四年に一回
発行されただけで、昭和五五年には一回も発行されておらず、また、被控訴人と労
働者委員会との間の団交も前示のとおり昭和五五年及びその前後は年間一〇回以上
とかなり頻繁に行われているのであり、したがって、本件処分が行われた昭和五五
年当時、被控訴人と労働者委員会との間の労使関係はいわば安定期にはいっていて
極めて平穏であり、その間に対立や特別な問題が存在したという事実はなく、被控
訴人が特に労働者委員会を敵視したり、これに対して不当労働行為を働かなければ
ならない状況にはなかったと認めることができる。
 以上認定の諸事実に加えて、被控訴人が控訴人に対してした本件時季変更権の行
使が労働基準法三九条の趣旨に反する不合理なものということができず、同条三項
ただし書所定の要件を充足する適法なものであることは、前示のとおりであり、ま
た、控訴人と同じ昭和五五年八、九月に休暇日数二一日及び二二日の年次有給休暇
を請求したb記者及びc記者は、いずれも控訴人と同じ労働者委員会の活動家であ
ったが、被控訴人はこれら両名の有給休暇の請求に対しては事業運営上格別の支障
がないとして時季変更権を行使しなかったことをも含め本件に現れた諸事情を総合
して勘案すれば、被控訴人が控訴人の本件有給休暇の請求に対して時季変更権を行
使したことが不当労働行為に当たるということはできないものというべきである。
 控訴人は、本件時季変更権の行使ひいては本件懲戒処分が不当労働行為に当たる
と縷々主張するが、いずれも事実に基づかないものであるか、あるいは独自の見解
を前提とするものであって、採用することができない。
第四 結論
 よって、控訴人の請求を棄却した原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこ
れを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、
主文のとおり判決する。
(裁判官 宍戸達徳  伊藤瑩子  佃浩一)

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