弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を名古屋地方裁判所に差し戻す。
         理    由
 一 本件控訴の趣意は弁護人浅井岩根作成の控訴趣意書のとおりであり、検察官
の答弁は答弁書のとおりであるのでいずれも引用する。論点は、原判決が証拠に掲
げた被告人の尿の鑑定書と注射痕の写真撮影報告書が違法収集証拠であって証拠能
力を欠くか否かにある。
 二 それはさておき職権により調査すると、記録に現れた原審の訴訟手続には次
のように重大な違法があり、原判決は破棄を免れない。
 1 まず本件覚せい剤使用事案発覚の経緯であるが、被告人は平成五年一月一四
日午前一時を過ぎた深更、知人のアパートで覚せい剤共同所持の疑により現行犯人
逮捕され、同日午前四時四〇分ころ連行先の愛知県西警察署取調室で腕の注射痕の
写真撮影を受け、次いで午前一〇時五五分ころ採尿用令状を示されるに及んで任意
排尿の上提出し、同一一時三分その差押を受け、これに覚せい剤が検出されたこと
から、現行犯人逮捕と入れ代わりに午後四時四一分覚せい剤自己使用の被疑事実で
通常逮捕されたというものである。
 被告人はこの自己使用の事実で起訴され、第一回公判期日において事実を認め有
罪の陳述をしたので、原審は簡易公判手続で審理の上、即日結審しいったん判決言
渡期日を指定したのであるが、その後、期日外に弁護人から、最初の現行犯人逮捕
の違法をいうために被告人質問等の証拠調を請求したいと弁論再開の申請がなされ
た。原審はこれを受けて第二回公判期日に再開を決定、次ぎの第三回公判期日にお
いてあらためて被告人質問の実施となり、被告人は自分が関知しない別件の嫌疑に
より現行犯人逮捕された上怪我まで負わされたとして縷々不服を訴え、外に負傷の
証拠として弁護人から請求された診断書も証拠調がなされて結審をみた。実は被告
人は、一月一五日に行われた勾留質問の調書中で既に現行犯人逮捕の非を訴え、同
月二五日付司法警察員調書においても、自分の関知しない事実で現行犯人逮捕され
た旨の不満と採尿令状を示されてしぶしぶながら尿を提出することにしたいきさつ
を供述しているのであって、二通の調書はいずれも第一回公判で既に取調済だった
ものである。そして結審時の最終陳述においても、弁護人及び被告人は現行犯人逮
捕が強引であったとこもごもこれを非難する付加陳述を行った。
 <要旨第一>2 以上の審理経過から明らかなように、被告人は捜査の当初から公
判を通じ一貫して現行犯人逮捕手続の非を難じているものであるとこ
ろ、その逮捕拘束中に写真撮影と尿の収集が行われたのであるから、もし逮捕が違
法なら、関連諸事情の如何では、写真撮影報告書と鑑定書の証拠能力に問題を生ず
ることもなしとしない場合であり、更にもし証拠能力がないとされるときは、この
二通の書面の外に自白の補強証拠がない以上、直ちに実体面にその影響が及んで無
罪の言渡をするしかないという場合なのである。
 このような場合には、被告人が捜査手続を非難するのみで実体に関する有罪陳述
と簡易公判手続によることの同意はこれを維持したままであり、また、二通の書面
の証拠能力自体については直接弾劾していないときだといえども、簡易公判手続に
よる審理の続行は相当ではなく、とりあえず通常の審理手続に移行して審判が行わ
れるべきものであった。原審の訴訟手続にはまず刑訴法二九一条の三に違背したと
いう違法がある。
 <要旨第二>3 ところで原審は逮捕の非をいう被告人側の証拠申請をすべて容れ
て、取調を終えたのであるが、もとよりそれは事情如何で有罪判決の成
否に影響しかねない上記の問題点を意識してのことと察せられる。
 しかるに片や、同じく記録上みるかぎり、原裁判所は検察官に対してはこの点何
ら釈明を求めるでなし、反対立証を促すでなし、さりとて現行犯人逮捕手続書等手
近な資料を職権で調査する程度の実務上常識的な段取りさえも履んだ形跡がない。
言い代えれば、現行犯人逮捕手続の適法性問題は被告人側の弾劾に一方的にさらさ
れたきり反対当事者の防禦抜きで、というよりはそもそも弾劾の対象である逮捕が
捜査手続の上でどう報告されているかという事実さえも明かされないまま、審理を
打ち切られた形になっているのである。原判決は尿の鑑定書と写真撮影報告書を証
拠に掲記しているのだから、結論では証拠能力を認めたことになるが、このような
審理状況からどういう根拠でいかなる理由でこの結論が導かれ得たのか、判決中に
一言半句の説明もないため控訴審としては具体的に忖度のしょうがない。それでも
ここで明白に指摘できるのは、現行犯人逮捕手続書の取調さえなく打ち切られた中
途半端な審理結果に基づく限り、この問題を自由な証明に委ねられた事項と捉えて
どう経験則・論理則を働かそうとも、右のような結論に直ちには到達しがたい筈だ
ということである。
 ならば原審は右二通の書面について、刑訴法二九八条二項、同規則二〇八条一項
に違反し、必要な審理を尽くさぬまま率然その証拠能力を認め、これを補強証拠と
して有罪判決をしたものであって、この点においても訴訟手続の法令違反がある。
 4 以上のとおり原判決には大きくは二点にわたって訴訟手続の法令違反があ
り、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから原判決は破棄を免れない。
よって、論旨に対する判断に立ち入るまでもなく刑訴法三九七条一項、三七九条に
より原判決を破棄し、通常公判手続のもとで必要な審理を尽くさせるため同法四〇
〇条本文を適用して本件を名古屋地方裁判所に差し戻すこととし、主文のとおり判
決する。
 (裁判長裁判官 柴田孝夫 裁判官 松村恒 裁判官 川原誠)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛