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平成18年(行ケ)第10251号審決取消請求事件
平成19年7月12日判決言渡,平成19年7月3日口頭弁論終結
判決
原告太平電子工業有限会社
訴訟代理人弁理士畠山文夫,小林かおる
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人柴沼雅樹,鈴木久雄,平瀬知明,高木彰,森山啓
主文
特許庁が不服2005−549号事件について平成18年4月27日にした審決
を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1原告の求めた裁判
主文と同旨の判決。
第2事案の概要
本件は,特許出願の拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消し
を求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)原告は,平成16年8月17日,名称を「加工板及び製品板の製造方法」
とする発明につき,特許出願(以下「本願」という。)をした。
(2)原告は,平成16年12月10日,本願につき拒絶査定(甲12)を受け
たので,平成17年1月7日,拒絶査定に対する審判を請求し(不服2005−5
49号事件として係属),さらに,平成18年3月2日付け手続補正書(甲16)
により,特許請求の範囲及び明細書の補正(以下「本件補正」という。)をした。
本件補正は,発明の名称を「実装用基板及びプリント回路板の製造方法」に変更
し,平成17年2月3日付け手続補正書(甲13)による補正後の特許請求の範囲
の請求項1ないし8について,それらの内容を変更するなどしたものである。
(3)特許庁は,平成18年4月27日,「本件審判の請求は,成り立たな
い。」との審決をし,同年5月12日,その謄本を原告に送達した。
2発明の要旨
審決が対象としたのは,本件補正後の請求項2に記載された発明(以下「本願発
明」という。)であり,その要旨は次のとおりである。
「【請求項2】金属材料からなる枠部と,
前記枠部を含む前記金属材料からなる母板から打ち抜かれ,かつ,元の穴にはめ
込まれたプッシュバック板からなるプリント回路板と,
前記プリント回路板の接線上又はその近傍に形成され,かつ,前記枠部の外周に
連通している1又は2以上の第1Vカットと,
少なくとも1つの前記第1Vカットの少なくとも一部分に充填された第1充填材
とを備えた実装用基板。」
3審決の理由の要旨
審決は,本願発明は,下記引用例1及び2に記載された発明(以下,引用例1に
記載された発明を「引用発明」という。)並びに下記引用例3及び周知例1ないし
3の記載によって認められる周知技術に基づき,当業者が容易に発明をすることが
できたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることはできず,
本願は拒絶されるべきであるとした。
引用例1特開2004−228291号公報(甲1。ただし,平成15年6月
25日手続補正前の特許請求の範囲,明細書及び図面の部分)
引用例2特開平9−252065号公報(甲2)
引用例3特開昭56−56353号公報(甲3)
周知例1特開平5−283821号公報(甲4)
周知例2特開平4−164383号公報(甲5)
周知例3特開平9−172232号公報(甲6)
審決の理由中,引用例1ないし3の記載事項の認定,本願発明と引用発明との対
比及び相違点についての判断の部分は,以下のとおりである(符号を改めた部分及
び略称を本判決が指定したものに改めた部分がある。)。
(1)引用例1ないし3の記載事項
ア引用例1
引用例1には,「実装用基板」に関して,図面とともに,以下の(ア)∼(ウ)が記載されている。
(ア)「【請求項1】
プリント配線母板から打ち抜かれ,かつ元の穴にはめ込まれた,同一又は異なる形状を有す
る1個又は2個以上のプリント回路板と,
前記プリント回路板の全部又は一部の外周が少なくとも1つの共通接線に接するように前記
プリント配線母板から前記プリント回路板を打ち抜くことにより得られる枠部と,
前記共通接線上又はその近傍であって前記共通接線と平行な線上に沿って,前記枠部に形成
された1又は2以上の第1のVカットとを備えた実装用基板。
【請求項2】
プリント配線母板から打ち抜かれ,かつ元の穴にはめ込まれた,同一又は異なる形状を有す
る2個以上のプリント回路板が共有直線部を共有する形で連結したプリント回路板結合体と,
前記共有直線部が一直線上に並ぶように前記プリント配線母板から前記プリント回路板結合
体を打ち抜くことにより得られる枠部と,
前記共有直線部上又はその近傍であって前記共有直線部と平行な線上に沿って,前記プリン
ト回路板結合体及び前記枠部に形成された1又は2以上の第2のVカットとを備えた実装用基
板。
【請求項3】
前記プリント回路板結合体の共通接線上又はその近傍であって前記共通接線と平行な線上に
沿って,前記枠部に形成された1又は2以上の第3のVカットをさらに備えた請求項2に記載
の実装用基板。」(第2頁特許請求の範囲請求項1∼3)
(イ)「プッシュバックされたプリント回路板の外周が接する共通接線上又はその近傍に第1
のVカットを形成すると,第1のVカットに沿って枠部を容易に破断することができる。また,
この時に枠部がプリント回路板を締め付ける力が開放されるので,プリント回路板を容易に取
り外すことができる。」(段落[0018])
(ウ)「また,枠部16には,搬送方向に沿って一列に並んだ第1プリント回路板12,12
…及び第2プリント回路板14,14…の共通接線上,又はその近傍であって共通接線と平行
な線上に沿って,Vカット18a∼18dが形成されている。
ここで,「共通接線の近傍」とは,第1プリント回路板12,12…及び第2プリント回路
板14,14…の品質及び取り外しに支障を来さない位置をいう。すなわち,Vカット18a
∼18dは,共通接線の真上に形成するのが最も好ましいが,共通接線から多少ずれていても
良いことを意味する。」(段落[0039]∼[0040])
上記記載事項及び図1の記載から,第1Vカットは枠部の外周に連通していることがわかる
から,引用例1には,以下の発明(引用発明)が記載されているものと認められる。
「枠部と,
枠部を含むプリント配線母板から打ち抜かれ,かつ,元の穴にはめ込まれたプリント回路板
と,
前記プリント回路板の共通接線上又はその近傍に形成され,かつ,前記枠部の外周に連通し
ている1又は2以上の第1Vカットとを備えた実装用基板。」
イ引用例2
引用例2には,「半導体装置及びその製造方法及び基板フレーム」に関し,図面とともに以
下の(エ),(オ)が記載されている。
(エ)「配線基板1と基板フレーム10との境界にはプッシュバックライン8が形成されてい
る。…基板フレーム10に配線基板1がプッシュバックされてから基板フレーム10と配線基
板1との境界領域に仮止め部12が補強のために形成される。…仮止めは,仮止め部を圧した
り叩いたりすることにより形成される。仮止め部は,配線パターンが形成されない領域(マー
ジン部),例えば,配線基板のコーナー部近傍に形成するのが良い。この存在により,境界領
域が互いに接近するので,基板フレームが配線基板を保持する力を向上させる。仮止め部は,
1か所に限らず,複数箇所に形成できる。その数は必要とする保持力により決められる。」
(段落[0012])
(オ)「図10は,プッシュバック方式により基板フレーム10に保持された配線基板1の角
切りされた4つのコーナーにはろう付けや接着剤などを用いた補強部23が形成されている。
配線基板1には,インナーリード11及び半導体素子を搭載させるアイランド部9が形成され
ている。補強部は,配線パターンの領域を避けることができれば,とくにコーナー部に限るこ
とはない。」(段落[0019])
ウ引用例3
引用例3には,「ドアパネルの製造法」に関して,図面とともに以下の事項(カ)∼(ク)が記載
されている。
(カ)「先ずドアの枠となる枠部(2)を残してドアの鏡板となる鏡板部(3)を打ち抜く。…この
ように鏡板部(3)を打抜いた後,この鏡板部(3)を元の位置に戻し,ホットメルト型等の接着剤
(4)で第1図(a),第3図のように部分的に接着して仮止めする。」(第2頁左上欄第5∼14
行)
(キ)「この芯組(8)上に台板(1)を圧締して貼付け,次にゴムハンマー(10)等で仮止めした鏡
板部(3)を第1図(d)のようにたたき,第5図のように鏡板部(3)の仮止めを外して台板(1)より
取り去る。」(第2頁右上欄第9∼12行)
(ク)第3図には,打ち抜かれた鏡板を元の位置に戻した際に形成された溝に,接着剤が充
填されている様子が記載されている。
(2)本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明を対比すると,引用発明の「プリント配線母板」は本願発明の「母板」
に相当し,引用発明における「共通接線」が本願発明の「接線」に含まれることは明らかであ
り,引用発明の「プリント回路板」も「プリント配線母板から打ち抜かれ,かつ元の穴にはめ
込まれた」プッシュバック板であるから,両者の一致点,相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「枠部と,
前記枠部を含む母板から打ち抜かれ,かつ,元の穴にはめ込まれたプッシュバック板からな
るプリント回路板と,
前記プリント回路板の接線上又はその近傍に形成され,かつ,前記枠部の外周に連通してい
る1又は2以上の第1Vカットとを備えた実装用基板。」
<相違点>
A.本願発明における枠部及びプリント回路板,すなわち母板が「金属材料からなる」のに
対して,引用発明は,母板の材料について特段の限定がない点。
B.本願発明は,「少なくとも1つの前記第1Vカットの少なくとも一部分に充填された第
1充填材」を備えているのに対して,引用発明はそのような構成を備えていない点。
(3)相違点についての判断
上記各相違点について,以下に検討する。
ア相違点Aについて
プリント配線母板の材料として金属は周知のものであり,金属プリント配線母板にVカット
(溝)を設けたり,プッシュバック法により打ち抜いた後元の穴にはめ込むことは周知の技術
であるから(例えば,周知例1ないし3参照),引用発明においてプリント配線母板を周知の
金属材料からなるものとして,本願発明における相違点Aに係る構成のようにしたことは,当
業者の必要に応じて適宜選択し得たことである。
イ相違点Bについて
上記記載事項(エ),(オ)に示されるように,引用例2には,プッシュバックライン,すなわち
プッシュバック法によって仮止めされたプリント回路板の周囲に,接着剤などを用いて仮止め
を補強することが記載されている。そして,プッシュバック法により打ち抜いた部材の仮止め
のために,該部材の周囲に形成される溝やスリットに接着剤を充填することも周知の技術であ
ることに鑑みれば(例えば,上記引用例3及び上記周知例3参照),引用発明において,プリ
ント回路板の共通接線上に形成された,打ち抜かれたプリント回路板の周囲の一部を含む第1
Vカットに上記引用例2記載の構成を適用して,本願発明の相違点Bに係る構成のようになし
たことは,当業者の容易に想到し得たことである。
なお請求人は,平成18年3月2日付け意見書において,「本願の充填材は,引用例2,3
とは作用,機能が全く相違しており,Vカット部分を補強するものであるから,充填材は,V
カットに充填される。すなわち,引用例2,3とは,充填材を充填する場所が異なってい
る。」と主張し,本願発明は「プッシュバックラインに沿って単にVカットを形成した場合に
おいて,Vカットが浅すぎると,枠部の破断が困難であり,深すぎると,平面を維持するのが
困難となる。」ことを回避することで,『折りやすくかつ曲がりにくい』という格別顕著な効
果を奏する」と主張して,あたかも本願発明が,打ち抜かれていない枠部におけるVカットに
充填材を充填しているものであるかのように主張しているが,そのように解すべき根拠はない。
本願発明における充填材を充填する部位は,「少なくとも1つの前記第1Vカットの少なく
とも一部分」なのであり,上記意見書において請求人が主張するように,「本願においては,
Vカット法を単独で用いた結果,凹溝の下の部分が完全につながった状態にあるか,あるいは,
プッシュバック法と併用した結果,凹溝の下の部分が部分的に打ち抜かれた状態にあるかを区
別していない。」のであるから,本願発明の充填材を充填されたVカットは,打ち抜かれたプ
リント回路板の周囲の一部であることを含むものである。
さらに言えば,仮に請求人が主張するように,充填材を充填する「少なくとも1つの前記第
1Vカットの少なくとも一部分」が,打ち抜かれていない枠部におけるVカットを指すもので
あるとしても,Vカット法もプッシュバック法もプリント回路板を枠部に仮止めするものであ
り,プッシュバック法によって打ち抜かれたプリント回路板の周囲の仮止めされた部位を,接
着剤などを用いて仮止めを補強することが引用例2に記載されていることは上記のとおりであ
るから,プッシュバック法の仮止め部を形成する溝(スリット)に接着剤を充填して補強する
上記周知技術を勘案すれば,引用発明において,枠部における打ち抜かれていない第1Vカッ
トに上記引用例2記載の仮止め部を補強する構成を適用して,相違点Bに係る本願発明の構成
のようになしたことは当業者の容易に想到し得たことである。
また,本願発明が奏する作用効果も,上記引用例1及び2記載の発明及び上記各周知の技術
から予測される程度以上のものではない。
(4)審決の「むすび」
以上のとおり,本願発明は,引用例1及び引用例2記載の発明,及び上記各周知技術に基づ
いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定
により,特許を受けることができない。
第3当事者の主張の要点
1原告主張の審決取消事由の要点
(1)取消事由1(相違点Aについての判断の誤り)
審決は,本願発明と引用例1ないし3及び周知例1ないし3に記載された発明と
が課題の共通性を欠いているにもかかわらず,これを看過して相違点Aについての
判断をしたものであり,誤りである。
ア本願発明は,金属基板に特有の課題,すなわち,プリント回路板の取り外し
を容易化するという第1の課題と,自動実装に耐え得る剛性を保つという第2の課
題(2つの相反する課題)を同時に解決するものである。
金属基板にVカット法を適用する場合には,Vカットの深さを樹脂基板並みに浅
くするとプリント回路板の取り外しが困難となり,当該深さを深くすると自動実装
時に容易に折れ曲がって支障を来す。また,金属基板にプッシュバック法を適用す
る場合には,自動実装に耐え得る剛性を保つという課題は存在しないが,取り外し
が不可能又は著しく困難になるという課題が生じる。さらに,金属基板にVカット
法及びプッシュバック法の双方を適用する場合には,上記のとおりの金属基板にV
カット法を適用する場合と同様の課題が生じる。
イこれに対し,引用例1ないし3及び周知例1ないし3には,金属基板に特有
の上記課題は全く記載されていないばかりか,その示唆すらない。
(2)取消事由2(相違点Bについての判断の誤り)
審決は,プッシュバック法の仮止め部を形成する溝(スリット)に接着剤を充填
して「補強」することが周知技術であると認定した上,相違点Bに係る本願発明の
構成は当業者が容易に想到し得たことである旨判断するが,これは,引用例2及び
3並びに周知例3に記載された接着剤等と本願発明における充填材の作用・機能が
異なることを看過したものであり,したがって,相違点Bについての審決の判断は,
誤りである。
ア引用例2に記載された接着剤等は,配線基板の脱落を防止する作用・機能を
有するものであり,引用例3に記載された接着剤は,鏡板部の脱落を防止する作用
・機能を有するものであり,周知例3に記載された接着剤は,小基板の脱落を防止
する作用・機能を有するものであって,いずれも,基板フレーム,枠部又は原基板
の残部を「折りやすく,かつ,曲がりにくくする」との作用・機能を有するもので
はない。なお,引用例1ないし3には,Vカット周辺の曲げ剛性を高めるために
(枠部を補強するために)Vカットに充填材を充填する点について,記載も示唆も
ない。
イこれに対し,本願発明における充填材は,専ら枠部の曲げ剛性を高めること
により,枠部を「折りやすく,かつ,曲がりにくくする」との作用・機能を有する
ものであり,プリント回路板の脱落を防止する作用・機能を有するものではない。
(3)取消事由3(効果の格別顕著性に関する判断の誤り)
審決は,本願発明が奏する作用効果が引用例1及び2に記載の発明並びに各周知
技術から予測される程度以上のものではない旨判断するが,これは,本願発明の効
果の特別顕著性についての判断を誤ったものである。
ア引用例1には,枠部の破断を容易化するという第1の効果は記載されている
が,ハンドリングの際に支障のない強度を維持することができるという第2の効果
及び金属製の実装用基板に対して双方の効果を同時に付与することができるという
効果については記載されていない。同様に,引用例2及び3には,接着剤等によっ
て配線基板や鏡板部の脱落を防止する効果が記載されているのみであり,上記第1
及び第2の効果並びに双方の効果を同時に付与することができるという効果につい
ては記載されていない。さらに,周知例1ないし3にも,これらの効果については
記載されていない。
イこれに対し,本願発明は,プリント回路板を分離する際に枠部の破断を容易
化することができるという上記第1の効果及びハンドリングの際に支障のない強度
を維持することができるという上記第2の効果並びに相反するこれら2つの効果を
同時に金属製の実装用基板に付与することができるという,格別顕著な効果を奏す
るものである。
2被告の反論の要点
(1)取消事由1(相違点Aについての判断の誤り)に対し
アプリント回路板の取り外しを容易化し,かつ,実装用基板が自動実装等のハ
ンドリングに耐え得る剛性を保つという課題は,金属基板に特有の課題ではなく,
もともとVカット法やプッシュバック法それ自身が抱えている課題である。原告が
主張する「金属基板に特有の課題」とは,Vカット法やプッシュバック法等の仮止
め構造が本来抱える課題を,金属基板についてのVカットのみによる仮止め構造に
おいて,具体的に表現したものにすぎない。
イそして,引用例1ないし3に記載のVカット法やプッシュバック法等の仮止
め構造も,その本来有する課題である上記2つの課題を有しているから,本願発明
と引用例1ないし3に記載の発明とは,共通の課題を有しているものである。
ウしたがって,相違点Aについての審決の判断に誤りはない。
(2)取消事由2(相違点Bについての判断の誤り)に対し
ア引用例2及び3並びに周知例3に記載された接着剤等と本願発明における充
填材とは,共通の作用・機能を有するものであるから,相違点Bについての審決の
判断に誤りはない。
(ア)Vカット法やプッシュバック法等による仮止め構造においては,小基板の
取り外しを容易化するという作用・機能を有するとともに,小基板を実装用基板の
フレームに結合して保持すること(脱落防止)により,同時に実装用基板全体の剛
性を保つという作用・機能をも有するものである。
(イ)具体的には,引用例2に記載の接着剤等は,回路基板を形成したフレーム
が,実装工程等において,曲がり難くなるなどのハンドリングに耐え得る剛性を保
つという作用・機能をも有し,また,引用例3に記載の接着剤は,複数の鏡板部を
台板(枠部)に保持する作用・機能を有するとともに,加工時にハンドリングに耐
え得る剛性を付与する機能をも有し,さらに,周知例3に記載の接着剤は,小基板
の脱落を防止する作用・機能を有するとともに,原基板の剛性を保つという作用・
機能をも有するものである。
(ウ)また,本願発明における充填材が接着剤であることを排除すべき根拠はな
いから,当該充填材が,専ら枠部の曲げ剛性を高めるためにのみ機能するというこ
とはできない。
イなお,引用発明において,枠部の剛性を補強する接着剤等をプッシュバック
ライン上に施すという引用例2に記載の構成を適用することは,プッシュバックラ
インがVカット溝と重なるか否かにかかわらず,当業者であれば容易に想到し得た
ことである。また,プッシュバックライン上の溝やスリットに接着剤を充填するこ
とは,引用例3及び周知例3にみるように周知技術であり,Vカット溝に接着性の
ある充填材を充填することも周知技術であるから(乙1,2),本願発明が,引用
発明におけるVカット溝と重なるプッシュバックラインの溝に限定して引用例2に
記載の接着剤等を充填したからといって,相違点Bに係る本願発明の構成が格別の
創意性を有するものとはいえない。したがって,この点においても,相違点Bにつ
いての審決の判断に誤りはない。
(3)取消事由3(効果の格別顕著性に関する判断の誤り)に対し
ア上記(2)ア(ア)のとおり,小基板の取り外しを容易化すること及び実装用基板
全体の剛性を保つことは,Vカット法やプッシュバック法等による仮止め構造がそ
もそも有する作用・機能であるから,引用例1ないし3に記載の発明がそれらの作
用・機能に対応する効果を奏することは明らかである。
イそうすると,引用発明を金属基板に適用することによる効果は,当業者であ
れば当然予期し得た程度のものであるし,その場合,実装用基板の剛性が不足する
とすれば,当該剛性を保つことをも課題とする引用例2及び3並びに周知例3に記
載の接着剤等を適用することによる効果も,当業者であれば予期し得た程度のこと
である。
ウしたがって,本願発明の効果の格別顕著性についての審決の判断に誤りはな
い。
第4当裁判所の判断
1取消事由2(相違点Bについての判断の誤り)について
事案にかんがみ,取消事由2から判断する。
(1)引用発明について
ア引用例1には,次の記載がある(甲1)。
「プリント配線母板から打ち抜かれ,かつ元の穴にはめ込まれた,同一又は異なる形状(ア)
を有する1個又は2個以上のプリント回路板と,前記プリント回路板の全部又は一部の外周が
少なくとも1つの共通接線に接するように前記プリント配線母板から前記プリント回路板を打
ち抜くことにより得られる枠部と,前記共通接線上又はその近傍であって前記共通接線と平行
な線上に沿って,前記枠部に形成された1又は2以上の第1のVカットとを備えた実装用基
板。」(特許請求の範囲の請求項1)
「プリント配線母板からプリント回路板を打ち抜く際には,プリント配線母板に不均一(イ)
な力が作用するので,プッシュバック加工を終えた後のプリント配線母板には,上に凸の球面
状の反りが発生する場合がある。この反りが著しくなると,・・・実装用基板から電子部品を
装着した後のプリント回路板の取り外しが困難となる。」(段落【0006】)
「そこでこの問題を解決するために,従来から種々の方法が提案されている。」(段落(ウ)
【0007】)
「【発明が解決しようとする課題】・・・(1)実装用基板の外周に連通し,かつプッシ(エ)
ュバックされたプリント回路板に連通していないスリット(細長い切り込み),及びプリント
回路板に連通し,かつ実装用基板の外周に連通していない捨穴の双方を形成する方法。(2)プ
リント回路板の外周に沿って設けられ,実装用基板の外周及びプリント回路板のいずれにも連
通していない長穴を形成する方法。又は(3)実装用基板の外周に連通し,かつプッシュバック
されたプリント回路板に連通していないスリット(細長い切り込み)のみを形成する方法,の
いずれかの方法を用いると,実装用基板の反りを低減することができる。しかしながら,・
・・実装用基板にスリットと捨穴の双方を設けた場合には,・・・枠部がプリント回路板を保
持する力が小さくなり,自動実装の際やハンダ付けの際に,プリント回路板が脱落するという
問題がある。・・・プリント回路板の外周に沿って長穴を設けた場合も同様であり,・・・枠
部がプリント回路板を保持する力が小さくなるという問題がある。・・・実装用基板の外周に
スリットのみを形成し,プリント回路板の周囲の捨穴を無くすと,実装用基板の反りを低減す
ることができる。しかも,プリント回路板の間隔を極限まで近づけることができるので,製品
歩留まりが向上する。さらに,・・・枠部がプリント回路板を支持する力が大きくなり,自動
実装の際やハンダ付けの際におけるプリント回路板の脱落をほぼ皆無にできる。しかしなが
ら,・・・自動実装終了後のプリント回路板の取り外しが困難となり,作業効率を大幅に低下
させるという問題がある。本発明が解決しようとする課題は,プリント回路板のプッシュバ
ック加工が行われた実装用基板において,自動実装終了後のプリント回路板の取り外しが容易
な実装用基板を提供することにある。また,本発明が解決しようとする課題は,自動実装終
了後のプリント回路板の取り外しが容易であり,しかも,反りがなく,製品歩留まりが高く,
自動実装の際の脱落事故が起きにくい実装用基板を提供することにある。」(段落【001
0】∼【0016】)
「【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために本発明に係る実装用基板は,(オ)
プリント配線母板から打ち抜かれ,かつ元の穴にはめ込まれた,同一又は異なる形状を有する
1個又は2個以上のプリント回路板と,前記プリント回路板の全部又は一部の外周が少なくと
も1つの共通接線に接するように前記プリント配線母板から前記プリント回路板を打ち抜くこ
とにより得られる枠部と,前記共通接線上又はその近傍であって前記共通接線と平行な線上に
沿って,前記枠部に形成された1又は2以上の第1のVカットとを備えていることを要旨とす
る。プッシュバックされたプリント回路板の外周が接する共通接線上又はその近傍に第1の
Vカットを形成すると,第1のVカットに沿って枠部を容易に破断することができる。また,
この時に枠部がプリント回路板を締め付ける力が開放されるので,プリント回路板を容易に取
り外すことができる。」(段落【0017】∼【0018】)
イ上記アの各記載によれば,引用例1は,プッシュバック法がそもそも有して
いた,プリント回路板の取り外しが困難となるという課題の解決を図ろうとするも
のであるが,「実装用基板の外周に連通し,かつプッシュバックされたプリント回
路板に連通していないスリット,及びプリント回路板に連通し,かつ実装用基板の
外周に連通していない捨穴の双方を形成する方法」や「プリント回路板の外周に沿
って設けられ,実装用基板の外周及びプリント回路板のいずれにも連通していない
長穴を形成する方法」などの従来技術においては,枠部がプリント回路板を保持す
る力が小さくなり,自動実装の際やハンダ付けの際に,プリント回路板が脱落する
という問題があることを指摘し,自動実装終了後のプリント回路板の取り外しが容
易であるとともに,自動実装の際の脱落事故が起きにくい実装用基板を提供するこ
とを目的として,プリント回路板の外周が接する共通接線上又はその近傍にVカッ
トを形成するという構成を採用することにより,Vカットに沿って枠部を容易に破
断し,枠部がプリント回路板を締め付ける力を開放してプリント回路板を容易に取
り外すことができるようにしたものということができる。
そうであれば,引用発明は,枠部の破断前は,上記従来技術とは逆に,プリント
回路板が,枠部によって強力に保持された実装用基板であるものと認めることがで
きる。
(2)引用例2に記載された仮止め部等の機能について
ア引用例2には,次の記載がある(甲2)。
(ア)「複数の配線基板領域を打ち抜いて複数の開口部を形成した絶縁基板と,前記開口部にプッシ
ュバックされ,配線パターンとこの配線パターンに電気的に接続された複数の接続電極が形成された
複数の配線基板とを備え,前記基板と前記開口部内の前記配線基板との境界領域上の前記配線パター
ンが形成されていない領域内の所定の領域には前記配線基板の保持を強化する仮止め部が形成されて
いることを特徴とする基板フレーム。」(平成11年11月11日手続補正後の特許請求の範囲の請
求項8)
(イ)「前記所定の領域には前記配線基板の保持を強化する補強部をさらに形成することを特徴とす
る請求項8に記載の基板フレーム。」(上記手続補正後の特許請求の範囲の請求項9)
(ウ)「配線基板1と基板フレーム10との境界にはプッシュバックライン8が形成されている。・
・・基板フレーム10に配線基板1がプッシュバックされてから基板フレーム10と配線基板1との
境界領域に仮止め部12が補強のために形成される。・・・仮止めは,仮止め部を圧したり叩いたり
することにより形成される。・・・この存在により,境界領域が互いに接近するので,基板フレーム
が配線基板を保持する力を向上させる。仮止め部は,1か所に限らず,複数箇所に形成できる。その
数は,必要とする保持力により決められる。」(段落【0012】)
(エ)「図8は,プッシュバック方式により基板フレーム10に保持された配線基板1の4つのコー
ナーに押圧により形成される仮止め部12が形成されている。・・・仮止め部12の基板フレーム側
には円形の切り欠き21を有し,配線基板1には,この切り欠き21に向うように突出部22が形成
されている。切り欠き21と突出部22とは離れているので,保持力を強化する仮止め部12の仮止
めされている部分は少ないが,切り欠き21が基板フレーム10に加えられる歪みを吸収するので,
不必要な応力で配線基板1が基板フレーム10から外れることは著しく少なくなる。」(段落【00
18】)
(オ)「図10は,プッシュバック方式により基板フレーム10に保持された配線基板1の角切りさ
れた4つのコーナーにはろう付けや接着剤などを用いた補強部23が形成されている。」(段落【0
019】)
イ上記アの各記載によれば,引用例2には,基板フレームが,プッシュバック
法により打ち抜かれた配線基板を保持する力を強化するため,補強のための仮止め
部を押圧して形成したり,配線基板の4つのコーナーにろう付けや接着剤などを用
いた補強部を形成したりする技術が記載されているものと認めることができる。
そうすると,引用例2に記載された仮止め部等は,専ら,基板フレームによる配
線基板の保持力を強化する機能を有するものと認めることができる。
(3)引用例3に記載された接着剤の機能について
ア引用例3には,次の記載がある(甲3)。
(ア)「本発明はフラツシユタイプのドアパネルの製造法に関し,台板(1)より枠部(2)を残して鏡板
部(3)を打ち抜いた後,鏡板部(3)を元の位置に接着剤(4)で仮止めし,次で打ち抜き線に合せて枠部
(2)及び鏡板部(3)の表面に単板(5)を貼付け,この後台板(1)の全面に亘つて単板(5)にサンデイング
・シーラーを施し,次で鏡板部(3)を台板(1)から除去することを特徴とするドアパネルの製造法に係
るものである。」(1欄13行ないし2欄2行)
(イ)「台板(1)は例えば厚さ2.7∼3.0mm程度の合板で形成されるもので,先ずドアの枠とな
る枠部(2)を残してドアの鏡板となる鏡板部(3)を打ち抜く。・・・このように鏡板部(3)を打抜いた
後,この鏡板部(3)を元の位置に戻し,ホツトメルト型等の接着剤(4)で第1図(a),第3図のように
部分的に接着して仮止めする。次に・・・単板(5)を,台板(1)の枠部(2)表面や鏡板部(3)表面に,鏡
板部(3)と枠部(2)の打抜き線(9)に沿つて位置合せして,第1図(b),第4図のように貼付ける。・・
・次に台板(1)の表面全面にサンデイング・シーラーを施し,枠部(2)及び鏡板部(3)の単板(5)の表面
を研磨目止め処理する。このとき,鏡板部(3)は台板(1)に仮止めされていて,枠部(2)の単板(5),鏡
板部(3)の単板(5)は面一面になつているため,サンデイング・シーラーは台板(1)の全面に亘つて一
発でできるものである。・・・次にゴムハンマー(10)等で仮止めした鏡板部(3)を第1図(d)のように
たたき,第5図のように鏡板部(3)の仮止めを外して台板(1)より取り去る。」(3欄3行ないし4欄
12行)
(ウ)また,甲3の第1図(a),第3図及び第4図には,元の位置に戻された鏡板部(3)と枠部(2)の境
界の一部に接着剤が充填され,接着された様子が示されている。
イ上記アの各記載及び図示によれば,引用例3には,ドアの台板から鏡板部を
打ち抜いた後,これを元の位置に戻すという,プッシュバック法と同様の技術にお
いて,元の位置に戻された鏡板部と枠部の境界に,部分的に接着剤を充填して仮止
めする技術が記載されているものと認められる。
そうすると,引用例3に記載された接着剤は,専ら,打ち抜かれた鏡板部を枠部
に保持する機能を有するものと認めるのが相当である。
(4)周知例3に記載された接着剤の機能について
ア周知例3には,次の記載がある(甲6)。
(ア)「プッシュバック法:この方法は基板をプレスで普通に打ち抜くと,基板の弾性による押し戻
し作用(プッシュバック)により,図9に示すように切断面13が傾斜して皿状になるため,打ち抜
いた部分14を破線の如く元に戻しても,上方向15には外れるが,下方向16には穴17から抜け
落ちないということを利用している。」(段落【0007】)
(イ)「プッシュバック法の欠点:図9,図10から判るように,大きな基板10を逆さにすると小
基板18は直ちに落ちてしまうので,片面にしか部品を実装することができない。また,印刷配線板
には一般に板厚が1.6mm∼0.4mmのものが使用されるが,0.8mm以下になるとプッシュ
バック作用が殆どなくなり,切断面が略垂直になるためプッシュバック法を適用することができない
という板厚制限がある。」(段落【0012】)
(ウ)「【発明の実施の形態】本発明では・・・小基板に相当する領域毎に予め印刷配線パターンあ
るいは部品取付用の穴などが加工された原基板からスリットを明けて各小基板を打ち抜き,各小基板
を原基板の空部に戻して,スリットに接着剤を点状に注入することにより,小基板を原基板の残部と
間欠的に結合して,集合基板を得ることとしている。
従って,プッシュバック法のように板厚を制限されることがなく,また,部品を片面だけにしか実
装できないという制約もない。
更に,小基板が原基板の残部と間欠的に結合している点でミシン目法と似てはいるが,・・・第2
には,接着剤の特性,1点当りの接着剤の量,点数(間隔),スリットの幅これらを選定することに
より,結合強度を,部品実装作業に対しては十分な強度を保証し,部品実装後には結合を容易に解除
できるように自由に調整することが可能である点で全く異なる。
第3に,・・・衝撃に弱い接着剤を使用することにより,部品実装後に衝撃を加えれば,簡単に基
板を分割でき,また・・・耐熱性に乏しい接着剤を使用することにより,部品実装後に接着剤を加熱
すれば簡単に基板を分割できるので,ミシン目法のようにミシン目に合った刃形の金型を使用する必
要がない点で全く異なる。」(段落【0017】∼【0020】)
イ上記アの各記載によれば,周知例3には,原基板からスリットを空けて各小
基板を打ち抜き,各小基板を原基板の空部に戻すという,プッシュバック法による
場合とは異なる状態,すなわち,各小基板と原基板の残部とが接触しておらず,当
該接触に伴う原基板の残部による各小基板の保持力が働かない状態において,元の
位置に戻された小基板と原基板の残部との間のスリットに,接着剤を点状に注入し
て,小基板を原基板の残部と間欠的に結合させることにより,専ら,小基板の脱落
を防止するとともに,部品実装作業に対する十分な結合強度を維持するとの技術が
記載されているものと認められる。
(5)審決の判断についての検討
ア審決は,相違点Bについて,「引用例2には,プッシュバックライン,すな
わちプッシュバック法によって仮止めされたプリント回路板の周囲に,接着剤など
を用いて仮止めを補強することが記載されている。そして,プッシュバック法によ
り打ち抜いた部材の仮止めのために,該部材の周囲に形成される溝やスリットに接
着剤を充填することも周知の技術であることに鑑みれば(例えば,引用例3及び周
知例3参照),引用発明において,プリント回路板の共通接線上に形成された,打
ち抜かれたプリント回路板の周囲の一部を含む第1Vカットに上記引用例2記載の
構成を適用して,本願発明の相違点Bに係る構成のようになしたことは,当業者の
容易に想到し得たことである。」旨判断した。
しかしながら,上記(2)のとおり,引用例2に記載された発明において,仮止め
部又は補強部は,基板フレームが,プッシュバック法により打ち抜かれた配線基板
を保持する力を強化することを目的として,形成されるものであるところ,上記
(1)のとおり,引用発明は,従来技術において,枠部(基板フレーム)がプリント
回路板(配線基板)を保持する力が小さく,自動実装時にプリント回路板の脱落事
故が発生することを解決すべき問題の一つとし,引用例1に記載された構成を採用
することにより,プリント回路板が,枠部によって強力に保持されるものとした実
装用基板であるから,引用発明には,この上更に,枠部が回路板を保持する力を強
化することを目的として,引用例2の記載に係る,接着剤などを用いた仮止め部又
は補強部を適用する必要があるとは認められない。また,上記(3),(4)のとおり,
確かに,引用例3及び周知例3には,プッシュバック法等により打ち抜いた部材
(引用例3における「鏡板部」,周知例3における「小基板」)の周囲に形成され
る溝やスリットに接着剤を充填することが記載されているが,それらの接着剤の充
填は,当該部材の仮止めのため,すなわち,鏡板部や小基板を枠部に保持する力を
確保するためになされるものであって,その目的は,引用例2記載の発明と変わり
がないから,仮に,プッシュバック法等により打ち抜いた部材の周囲に形成される
溝やスリットに接着剤を充填することが周知技術であるとしても,その周知技術に
より,引用例2記載の仮止め部又は補強部を引用発明に適用することが導かれるも
のでもない。
そうすると,引用発明において,プリント回路板の共通接線上に形成された,打
ち抜かれたプリント回路板の周囲の一部を含む第1Vカットに,引用例2記載の,
プリント回路板の周囲に接着剤などを用いて仮止めを補強する構成を適用すること
は,当業者が容易に想到し得たものと認めることはできず,審決の上記判断は誤り
であるといわざるを得ない。
イ被告は,引用例2及び3並びに周知例3に記載された接着剤等が,ハンドリ
ング等に耐え得る剛性を保つという作用・機能をも有することを理由に,相違点B
についての審決の判断に誤りがない旨主張するが,引用例2及び3並びに周知例3
は,接着剤等の充填が,専ら,基板フレームによる配線基板の保持力を強化する機
能,打ち抜かれた鏡板部を枠部に保持する機能又は小基板の脱落を防止するととも
に,部品実装作業に対する十分な結合強度を維持する機能を有することを目的とす
るものとして記載されていることは,上記(2)ないし(4)のとおりであるから,被告
の上記主張を採用することはできない。
確かに,被告が主張するとおり,小基板(配線基板)が実装用基板のフレームに
結合して保持されることにより,同時に実装用基板全体の剛性が保たれるという作
用・機能を奏することは,十分考えられるところであるが,引用発明は,上記のと
おり,それ自体において,プリント回路板(小基板)が枠部(実装用基板のフレー
ム)に,強力に結合保持されているものであるから,「小基板が実装用基板のフレ
ームに結合保持されることにより得られる実装用基板全体の剛性」は,引用例2記
載の仮止め部又は補強部の適用を待つまでもなく,確保されているのであり,小基
板が実装用基板のフレームに結合して保持されることにより,同時に実装用基板全
体の剛性が保たれるからといって,引用発明に引用例2記載の仮止め部又は補強部
を適用することが導かれるものではない。
また,被告は,プッシュバックライン上の溝やスリットに接着剤を充填すること
は,引用例3及び周知例3にみるように周知技術であり,Vカット溝に接着性のあ
る充填材を充填することも周知技術であるから(乙1,2),本願発明が,引用発
明におけるVカット溝と重なるプッシュバックラインの溝に限定して引用例2に記
載の接着剤等を充填したからといって,相違点Bに係る本願発明の構成が格別の創
意性を有するものとはいえず,したがって,この点においても,相違点Bについて
の審決の判断に誤りはない旨主張する。
しかしながら,引用例3及び周知例3に基づく周知技術である接着剤の充填の目
的が,引用例2記載の仮止め部又は補強部の目的と同じであることは,上記アのと
おりであるから,上記引用例3及び周知例3に基づく周知技術を,直接引用発明に
適用することが容易想到といえないことも,引用例2記載の仮止め部又は補強部の
場合と同様であるし,また,乙1(特開平2−66182号公報)には,ホーロー
基板の金属コアに予め溝を形成した後,ホーロー全面施釉・焼成をし,溝部にホー
ローが充填形成されることにより,以後の工程において,基板が溝部で曲がったり
することなく回路形成が可能となるとの技術(2頁右上欄10行ないし左下欄10
行)が,乙2(実願昭61−113315号(実開昭63−20468号)のマイ
クロフィルム)には,ホーロー基板ユニットの構造に関し,所定厚の鋼板を略C字
状に打ち抜いて,コアを複数個形成するとともに,コアと枠部とをコアから枠部方
向へと延びるタブ片で一体的に連結させ,タブ片の表裏面にV字状の切断溝を形成
した上,鋼板の全面をホーロー絶縁層で被覆し,焼成して硬化させることにより,
コアと枠部とが容易に分離される技術(5頁18行ないし7頁6行)が,それぞれ
記載されているところ,これらは,いずれも,基板の全面がホーローで被覆される
結果として,その一部が上記各溝部に充填されるというものであり,これらの刊行
物に開示された技術により,Vカット溝に充填材を充填することが周知の技術であ
るとすることはできないから,被告の上記主張を採用することはできない。
(6)以上によれば,原告主張の取消事由2は,理由がある。
2結論
よって,その余の取消事由について判断するまでもなく,審決は取消しを免れな
い。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
石原直樹
裁判官
古閑裕二
裁判官
浅井憲

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