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令和2年11月25日判決言渡
令和元年(ネ)第10057号特許権に基づく損害賠償請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成29年(ワ)第41474号)
口頭弁論終結日令和2年9月2日
判決
控訴人X
被控訴人株式会社ディーエイチシー
訴訟代理人弁護士今村憲
酒迎明洋
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴人の当審における拡張請求を棄却する。
3当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
(1)原判決を取り消す。
(2)被控訴人は,控訴人に対し,3000万円及びこれに対する平成29年1
2月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(上記のうち,
2000万円及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合による金
員の支払を求める部分は,当審において請求の拡張をしたものである。)。
第2事案の概要(略称は,特に断りのない限り原判決に従う。)
1事案の要旨
本件は,発明の名称を「タンパク質を抽出する混合液」とする特許(特許第
5388259号。以下,この特許を「本件特許」といい,本件特許に係る特
許権を「本件特許権」という。)の特許権者である控訴人が,被控訴人による
別紙被告製品目録記載のクレンジングオイル(以下「被告製品」という。)の
製造及び販売は本件特許権の侵害に当たる旨主張して,本件特許権侵害の不法
行為に基づく損害賠償の一部請求として,1000万円及びこれに対する平成
29年12月20日(不法行為の後である訴状送達の日の翌日)から支払済み
まで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下,単に「民法」という。)
所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原判決は,被告製品は本件特許の特許請求の範囲の請求項3に係る発明の技
術的範囲に属さないから,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の
請求は理由がないとして,これを棄却した。
控訴人は,原判決を不服として,本件控訴を提起した。
その後,控訴人は,当審において,請求額を3000万円及びこれに対する
同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金に拡張する旨
の請求の拡張をした。
2前提事実(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全趣旨によ
り認められる事実である。)
(1)本件特許
ア控訴人は,平成25年3月27日に出願した特許出願(特願2013-
67504号。甲19)の一部を分割して,同年8月17日,新たな特許
出願(特願2013-169295号。以下「本件出願」という。)をし,
同年10月18日,本件特許権の設定登録(請求項の数4)を受けた(甲
1,2)。
イ本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし3の記載は,次のとおりで
ある(以下,請求項3に係る発明を「本件発明」という。甲1)。
【請求項1】
炭素数15~18の高級アルコールである第1の高級アルコールと,
炭素骨格中に1つの不飽和結合を有する脂肪酸又は飽和脂肪酸を含む,
炭素数18の脂肪酸と,を少なくとも含み,
タンパク質と水性溶媒とを含む抽出対象液からタンパク質を抽出する混
合液。
【請求項2】
前記第1の高級アルコールは,イソステアリルアルコール及びオレイル
アルコールからなる群から選択される1種以上を含み,
前記脂肪酸は,オレイン酸及びイソステアリン酸からなる群から選択さ
れる1種以上を含む請求項1に記載の混合液。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の前記第1の高級アルコールとは異なる,炭素数
20の高級アルコールである第2の高級アルコールと,炭化水素と,を少
なくとも含み,
タンパク質,水性溶媒,炭素数15~18の高級アルコール,及び炭素
骨格中に1つの不飽和結合を有する脂肪酸又は飽和脂肪酸を含む,炭素数
18の脂肪酸を含む抽出対象液からタンパク質を抽出する混合液。
(2)本件発明の構成要件の分説
本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した構
成要件を符号に対応させて「構成要件A」などという。)。
A請求項1又は2に記載の前記第1の高級アルコールとは異なる,炭素数
20の高級アルコールである第2の高級アルコールと,炭化水素と,を少
なくとも含み,
Bタンパク質,水性溶媒,炭素数15~18の高級アルコール,及び炭素
骨格中に1つの不飽和結合を有する脂肪酸又は飽和脂肪酸を含む,炭素数
18の脂肪酸を含む抽出対象液からタンパク質を抽出する
C混合液。
(3)被控訴人の行為等
ア被控訴人は,平成26年2月6日から平成29年12月まで,被告製品
を製造し,販売又は販売の申出をした(甲3,4)。
イ被告製品の成分は,別紙被告製品目録の「全成分」欄記載のとおりであ
る。
被告製品の成分のうち,「オクチルドデカノール」は構成要件Aの「第
2の高級アルコール」に,「スクワラン」は構成要件Aの「炭化水素」に
それぞれ該当する。
また,被告製品の成分のうち,「トリイソステアリン酸PEG-20グ
リセリル」及び「PEG-7(カプリル/カプリン酸)グリセリズ」は,
いずれも界面活性剤であり,その濃度は,それぞれ●●重量%及び●質量%
(合計●●質量%)である。
3争点
(1)被告製品の本件発明の構成要件充足性(争点1)
ア構成要件Aの充足性(争点1-1)
イ構成要件Bの充足性(争点1-2)
ウ構成要件Cの充足性(争点1-3)
(2)無効の抗弁の成否(争点2)
(3)控訴人の損害額(争点3)
第3争点に関する当事者の主張
以下のとおり原判決を訂正し,当審における当事者の補充主張を付加するほ
か,原判決の「事実及び理由」の第2の3に記載のとおりであるから,これを
引用する。
1原判決の訂正
(1)原判決4頁2行目の「(本件特許は特許無効審判により無効にされるべき
ものか否か)」を「(無効の抗弁の成否)」と,同頁4行目の「(損害の発
生及びその額)」を「(控訴人の損害額)」と,同頁22行目の「1000
万円」を「3000万円」と改める。
(2)原判決34頁11行目の「本件明細書」を「本件出願の願書に添付した明
細書(以下,図面を含めて「本件明細書」という。甲1)」と,35頁3行
目及び8行目の各「本件特許の特許出願」をいずれも「本件出願」と,同頁
16行目の「ア」を「ア被告製品の構成は,原判決別紙被告製品の構成1
記載のとおりである。」と改める。
(3)原判決37頁3行目及び4行目の各「本件特許の特許出願」をいずれも「本
件出願」と改め,同頁8行目の「の特許出願」を削り,同頁18行目末尾に
行を改めて次のとおり加える。
「被告製品の構成は,原判決別紙被告製品の構成2記載のとおりである。」
(4)原判決39頁3行目の「実験」を「実験(甲8,22。以下「甲8の実験」
という。)と,同行目の「追加実験」を「追加実験(甲34ないし36。以
下「甲34の追加実験」という。)」と,41頁7行目の「原告による実験」
を「甲8の実験」と,同行目の「第三者機関による追加実験」を「甲34の
追加実験」と改める。
(5)原判決44頁5行目の「本件特許の特許出願」を「本件出願」と改め,同
頁9行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
「したがって,控訴人は,同法104条の3第1項の規定により,被控訴
人に対し,本件発明に係る本件特許権を行使することができない。」
2当審における当事者の補充主張
(控訴人の主張)
(1)争点1-2(構成要件Bの充足性)について
原判決は,本件発明の構成要件Bに関し,①本件明細書の発明の詳細な説
明の記載によれば,本件発明の「タンパク質を抽出する」混合液において,
その含有される界面活性剤の程度は,分離等された対象物質から界面活性剤
を除去する工程が不要である程度を限度とするものであり,そのような態様
によってタンパク質を抽出するものと解するのが相当であり,分離(抽出)
されたタンパク質から界面活性剤を除去する工程が必要となるものは,上記
「タンパク質を抽出する」混合液には当たらない,②そして,被告製品に含
まれる界面活性剤の量(●●質量%)からすれば,本件明細書の「従来使用
されてきた対象物質の分離等のためのエマルション等に含まれる界面活性剤
よりも少ない量(例えば,タンパク質抽出剤全体に対して0~4質量%)の
界面活性剤が含まれていてもよい。」(【0041】)との記載との関係で
見ても,また,従来使用されてきた界面活性剤の量(抽出剤と対象液とを合
わせた全体量に対して0ないし2質量%)との関係で見ても,被告製品にお
ける界面活性剤の含有量が,従来のエマルション等に含まれる界面活性剤よ
りも少ない量であるものとは認められず,その含有される界面活性剤の程度
が,分離(抽出)された対象物質から界面活性剤を除去する工程が不要であ
る程度であるとは認めるに足りないから,被告製品は,そのタンパク質抽出
の態様の観点からして,構成要件Bの「タンパク質を抽出する」混合液とい
う文言を充足しない旨判断したが,以下のとおり原判決の判断は誤りである。
ア構成要件Bの「タンパク質を抽出する」の意義
(ア)本件発明の技術思想は,第2の高級アルコール(例えば,オクチル
ドデカノール)と,炭化水素(例えば,スクアラン)とを組み合わせた
混合液によって,タンパク質,水性溶媒,炭素数15~18の高級アル
コール,及び炭素骨格中に1つの不飽和結合を有する脂肪酸又は飽和脂
肪酸を含む,炭素数18の脂肪酸を含む抽出対象液からタンパク質を抽
出することができることを見出したというものである。
本件明細書には,構成要件Bの「タンパク質を抽出する」の用語に関
し,「なお,本発明において「抽出」とは,タンパク質と水性溶媒とを
分離させること(つまり,タンパク質含有層が形成されること)を指す。
…タンパク質含有層中の水性溶媒に対するタンパク質の割合が,抽出対
象液中の水性溶媒に対するタンパク質の割合よりも高ければ,抽出対象
液からタンパク質が抽出されたと言える。」(【0026】)との記載
がある。上記記載から,構成要件Bの「タンパク質の抽出」とは,タン
パク質含有層が形成されることを意味するものであり,層ができて,ど
ちらかにタンパク質が検出されることが「抽出」に当たると解される。
なお,上記記載中の「タンパク質含有層中の水性溶媒に対するタンパク
質の割合が,抽出対象液中の水性溶媒に対するタンパク質の割合よりも
高ければ,抽出対象液からタンパク質が抽出されたと言える。」との部
分は,「抽出」に該当する場合を例示したものである。
一方,本件発明の特許請求の範囲(請求項3)には,界面活性剤の含
有を除外する記載は一切なく,また,界面活性剤の濃度を特定する記載
もない。また,本件明細書の【0041】の「…界面活性剤が含まれて
いてもよい。」との記載は,従来の量よりも少ない界面活性剤が含まれ
ていてもよいし,そうでなくてもよいという意味であり,本件発明を従
来の量よりも少ない界面活性剤が含まれものに限るという意味ではない。
したがって,本件発明においては,界面活性剤の添加量は適宜設定で
きると解すべきである。
(イ)これに対し,分離(抽出)されたタンパク質から界面活性剤を除去
する工程が必要となるものは,構成要件Bの「タンパク質を抽出する」
混合液には当たらないとの原判決の解釈は,特許請求の範囲に記載のな
い事項を明細書の記載から取り込んで,構成要件Bを限定解釈するもの
であるから,特許法70条1項及び2項に違反するものであって,誤り
である。
イ構成要件充足性
以下に述べるとおり,甲8の実験及び甲34の追加実験によれば,被
告製品は,構成要件Bを充足する。
(ア)甲8の実験
a「抽材」の調製
豆乳(キッコーマン株式会社製「調整豆乳」)1mlにリン酸バッ
ファ5mlを添加し,タンパク質を「クマシーブリリアントブルーG
250」(以下「CBB」という。)によって青色に染色し,希釈豆
乳とする。
希釈豆乳にオレイルアルコール(和光純薬株式会社製)1ml,オ
レイン酸(東京化成工業株式会社製)2mlを添加し,撹拌後20分
静置し,上層にタンパク質を抽出する。
下層の透明な液体を廃棄し,上層の液体を「抽材」とする。
bタンパク質の抽出
「抽材」に被告製品を2ml添加し,24時間及び48時間静置し
た。
c結果
別紙1の1は,希釈豆乳にオレイルアルコール及びオレイン酸を添
加し,撹拌後20分静置した後の写真,別紙1の2は,被告製品を添
加した「抽材」の24時間経過後の写真,別紙1の3は48時間経過
後の写真である。
「抽材」は,別紙1の2及び3に示すとおり,2層に分離し,界面
の下層に青色に染色されたタンパク質が抽出された。
dまとめ
甲8の実験の結果は,被告製品の添加によって,タンパク質(青色
に染色された豆乳由来のタンパク質),水性溶媒(リン酸バッファ),
炭素数15~18の高級アルコール(第1の高級アルコールであるオ
レイルアルコール)及び炭素骨格中に1つの不飽和結合を有する脂肪
酸又は飽和脂肪酸を含む,炭素数18の脂肪酸(オレイン酸)を含む
「抽出対象液」である「抽材」が2層に分離され,その界面の下層か
らタンパク質を検出したことを示すものである。
したがって,被告製品は,構成要件Bの「タンパク質を抽出する」
混合液に該当するといえるから,同構成要件を充足する。
(イ)甲34の追加実験
aプロトコル
(a)豆乳(キッコーマン飲料株式会社製「調整豆乳」)6mlにオレ
イルアルコール(和光純薬工業株式会社製)1ml,オレイン酸(東
京化成工業株式会社製)2mlを添加し,撹拌する。15分静置し
「抽材」とする。
⒝被告製品2mlを「抽材」に添加し,15分静置。
⒞1000回転/分にて15分間遠心分離する。
⒟下層液体の沈殿を取り出し,通常のBCA法及びSDS-Pag
eのプロトコルを実施する。
b対照実験
(a)豆乳原液をコントロール1とする。
⒝被告製品に代えて,スクワラン(和光純薬工業株式会社製)1m
l及びオクチルドデカノール(高級アルコール工業株式会社製)1
mlを「抽材」に添加したものをコントロール2とする。
c結果
「抽出結果の外観」及び「取り出した沈殿の外観」は,別紙2のと
おりである。
dタンパク質定量(BCA法)
試料についてタンパク質濃度をBCA法によりウシ血清アルブミン
相当量で定量した結果,豆乳原液(コントロール1)は1564mg
/l,本件特許による抽出タンパク質(コントロール2)は2465
mg/l,被告製品による抽出タンパク質は2254mg/lであっ
た(甲35)。
したがって,本件特許による抽出タンパク質(コントロール2)の
タンパク質濃度及び被告製品による抽出タンパク質のタンパク質濃度
は,いずれも豆乳原液(コントロール1)のタンパク質濃度よりも濃
くなっているから,被告製品は,タンパク質を抽出するといえる。
eSDS-Page
試料についてSDS-Page(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)
試験を行った結果は,別紙3のとおりである。
上記結果によれば,豆乳原液のバンドパターンと比較して,本件特
許による抽出タンパク質(コントロール2)のバンドパターンと被告
製品による抽出タンパク質のバンドパターンはほぼ同じパターンを示
していること,被告製品による抽出タンパク質には,豆乳を遠心分離
しただけでは検出できないタンパク質であるリゾチームが検出できて
いることからすると,被告製品は,タンパク質を抽出するといえる。
fまとめ
甲34の追加実験の結果によれば,被告製品は,構成要件Bの「タ
ンパク質を抽出する」混合液に該当するといえるから,同構成要件を
充足する。
ウ被控訴人の主張について
被控訴人は,①甲8の実験に関し,被告製品を添加した「抽材」を24
時間及び48時間静置した点は本件明細書記載の実施例(実施例10)の
条件と異なる,別紙1の2及び3の写真において,界面が発生しているか
不明であり,そもそも上層も下層も青色であり,下層の方が薄く見える,
仮に下層のタンパク質の割合が高いとしても,CBBとタンパク質の複合
体は,1時間以上放置すると凝集し沈殿するという性質を有するため,C
BBとタンパク質の複合体が時間(24時間及び48時間)の経過によっ
て沈殿したものであるから,甲8の実験は,被告製品がタンパク質を抽出
したことを示すものといえない,②甲8の実験でCBBを用いた点に関し,
豆乳原液には,脂質や炭水化物など様々な不純物が含まれているため,C
BBは当該脂質や炭水化物とも結合する可能性が高い,被告製品に含まれ
る界面活性剤がCBBによるタンパク質の測定において阻害物質となる,
CBBがタンパク質と結合するのは酸性条件下であり,弱アルカリ性下の
甲8の実験ではタンパク質と結合しないという問題がある,③被控訴人が
甲8の実験の追試として行った乙24記載の実験(以下「乙24の実験」
という。)によれば,被告製品を添加した抽出対象液(上層の液体)を静
置し,1時間経過後のものに界面が発生していることを確認できなかった,
④甲34の追加実験に関し,遠心分離機を利用して沈殿させており,物理
的な作用によって沈殿させているにすぎない,別紙2の写真において,界
面が発生しているか不明であり,界面が発生しているとしても,層の一部
分の沈殿物を取り出しているから,甲34の追加実験は,被告製品がタン
パク質を抽出したことを示すものといえないなどと主張する。
しかし,①については,甲8の実験においても,1時間経過時点で抽出
は終了していたが,デジタルカメラによる写真では界面が見にくかったの
で,見やすくなるまで待っただけである。
また,別紙1の2及び3の写真には,「抽材」が2層に分離し,下層に
青色に染色されたタンパク質が示されており,タンパク質が凝集・沈殿し
ているようには見えない。
②については,CBBがタンパク質以外の成分にも結合し得るとしても,
甲34の追加実験の結果は,被告製品がタンパク質を抽出する機能を有す
ることを示すものである。
また,仮にCBBはタンパク質と結合しなくとも青色を呈するとしても,
甲8の実験では,「抽材」の調整工程で下層が無色透明になっているため,
添加されたCBBはすべてタンパク質に結合したといえるから,甲8の実
験の結果に影響はない。
さらに,界面活性剤(例えば,レシチン,大豆サポニン)がCBBによ
るタンパク質の測定において阻害物質となることや,CBBがタンパク質
と結合するのは酸性条件下であり,弱アルカリ性下ではタンパク質と結合
しないことについては,被控訴人が挙げる乙号各証(乙7,8,19の1,
20,39ないし41)によって裏付けられているとはいえない。
仮にそのような一般論があったとしても,甲8の実験では,添加された
CBBはすべてタンパク質に結合したといえるから,甲8の実験の結果に
影響はない。そして,被告製品においては,抽出対象液を調剤する第1段
階の時点で豆乳由来の界面活性剤や脂質が含まれているにもかかわらず,
CBBによる染色に成功していることからすると,被告製品に界面活性剤
が含まれていても,CBBによる染色機能に影響しない。
③については,乙24の実験は,抽出対象液に豆乳使用の実験系①は,
別紙4の図1に示すように,20分静置後に2層に分離し,下層は無色透
明であり,これは,添加されたCBBは全て豆乳に含まれるタンパク質に
結合しているため,下層の水層に溶解せず,下層は無色透明となっている
ことを示すのに対し,抽出対象液に精製水使用の実験系②は,別紙4の図
2に示すように,下層は青色を呈しており,これは,抽出対象液にタンパ
ク質が含まれないため,CBBが結合するものはなく,上層と下層に分配
されていることを示すものである。一方,別紙4の図3の1時間後実験系
①の「結果」欄には,界面が見えなかった旨の記載があるが,これは,界
面は生じていたが,見づらくてよく分からなかったことを意味するものと
考えられる。
また,乙24の実験によっても,別紙4の図5に示すように,CBBと
タンパク質の複合体は,3時間を経過しても沈殿していないことを確認で
きる。もっとも,乙21には,混合後「長時間放置するとタンパク質―色
素結合体の沈殿が生じて吸光度が低下する。混合後1時間以内に吸光度を
測定すべきである。」(69頁)との記載があるものの,同頁の図6.5
を見ると,1時間経過時点においてすべての結合体が沈殿して測定不能と
なるように記載されていない。
④については,甲34の追加実験は,甲8の実験におけるタンパク質の
検出が時間経過による凝集・沈殿によるものではなく,被告製品の作用に
よることを示すため,時間を短縮する目的で遠心分離を行ったものである。
本件明細書の【0060】には,遠心分離の方法を使用してもよいことが
記載されており,本件明細書には,遠心分離を行うことを排除する旨の記
載はない。SDS-Page(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)試験の
結果,別紙3に示すように,豆乳原液を使用した場合にはリゾチームが検
出できないのに対し,コントロール2及び被告製品を用いた場合には,リ
ゾチームが検出できているから,物理的な作用のみによってタンパク質が
抽出されたのではない。また,別紙2の写真は,界面が発生したことを示
すものである。
したがって,被控訴人の上記主張は失当である。
(2)小括
被告製品の成分のうち,「オクチルドデカノール」は構成要件Aの「第2
の高級アルコール」に,「スクワラン」は構成要件Aの「炭化水素」にそれ
ぞれ該当するから(前記第2の2(3)イ),被告製品は,構成要件Aを充足す
る「混合液」(構成要件C)である。
そして,被告製品が構成要件Bを充足することは,前記(1)イのとおりであ
るから,被告製品は,構成要件AないしCをすべて充足する。
したがって,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属する。
(被控訴人の主張)
(1)争点1-2(構成要件Bの充足性)について
ア構成要件Bの「タンパク質を抽出する」の意義の主張に対し
(ア)本件明細書の【0026】の記載によれば,本件発明の構成要件B
の「タンパク質を抽出する」にいう「抽出」されたか否かを判断するに
は,「タンパク質含有層中の水性溶媒」と「抽出対象液中の水性溶媒」
のタンパク質の割合を定量的に分析する必要があり,「タンパク質含有
層中の水性溶媒」に対するタンパク質の割合が,「抽出対象液中の水性
溶媒」のタンパク質の割合よりも高ければ,タンパク質が「抽出」され
たといえる。
(イ)次に,本件明細書の記載によれば,本件発明は,「タンパク質を抽
出する混合液」の発明であって(【0001】),抽出対象液からタン
パク質を分離するために界面活性剤を使用していた従来技術における,
タンパク質から界面活性剤を除去する工程が煩雑であるという課題に対
して,分離等されたタンパク質から界面活性剤を除去する工程を排除す
る点に技術的意義がある(【0005】,【0006】)。
加えて,本件明細書記載の実施例は,いずれも界面活性剤を含むもの
ではなく(【0070】,【0081】,【0092】,【0097】,
【0102】,【0113】,【0125】,表2),本件明細書の【0
041】に「従来使用されてきた対象物質の分離等のためのエマルショ
ン等に含まれる界面活性剤よりも少ない量(例えば,タンパク質抽出剤
全体に対して0~4質量%)の界面活性剤が含まれていてもよい」,【0
056】に「本発明の目的を害さない限り,公知の添加剤(界面活性剤,
炭素数18未満の高級アルコール等)を添加してもよい」との記載があ
ることからすれば,本件発明の構成要件Bの「タンパク質を抽出する」
混合液は,従来技術で用いられていた界面活性剤の分量を超える分量の
界面活性剤を含む混合液,あるいは,分離等された対象物質から界面活
性剤を除去する工程が必要となる分量の界面活性剤を含む混合液は該当
しないと解釈すべきである。
これと同旨の原判決の構成要件Bの「タンパク質を抽出する」混合液
の解釈に誤りはない。
イ構成要件充足性の主張に対し
以下に述べるとおり,甲8の実験及び甲34の追加実験の結果から,被
告製品は,構成要件Bの「タンパク質を抽出する」機能を有するものとは
いえないし,また,被告製品は,そもそも本件発明の作用効果を奏しない
から,被告製品は,構成要件Bを充足しない。
(ア)甲8の実験について
甲8の実験は,「タンパク質含有層中の水性溶媒」と「抽出対象液中
の水性溶媒」のタンパク質の割合を定量的に分析することなく,分析結
果の写真から,被告製品によってタンパク質が抽出されたと結論付けて
いる点で失当である。
また,この点は措くとしても,別紙1の2及び3の写真は,試験管内
の溶液は,上層も下層も全体として青色であり,下層の方が薄く見える
ものであり,界面が発生しているか不明であるから,上記写真から,タ
ンパク質が下層に抽出されたと評価することはできない。
次に,甲8の実験は,タンパク質抽出剤として用いた被告製品を抽出
対象液に添加し,攪拌した後,24時間ないし48時間にわたって静置
したものであり,観察までに静置する時間(24時間と48時間)が本
件明細書記載の実施例10(【0112】~【0116】,図10)に
対応する時間(1時間)とは異なるものである。また,CBBとタンパ
ク質の複合体は,1時間以上放置すると凝集し沈殿するという性質を有
する(乙19の1,20,21)ため,仮に下層のタンパク質の割合が
高いとしても,CBBとタンパク質の複合体が時間の経過によって沈殿
したと評価されるべきものである。
したがって,甲8の実験は,被告製品がタンパク質を抽出したことを
示すものといえない。
(イ)CBBの使用の問題点について
CBBは,①酸性条件下でタンパク質と結合する(乙7,39),②
タンパク質と結合したCBBは青色を呈する(乙7),③タンパク質と
界面活性剤が共存する条件下では,タンパク質の測定が事実上不可能に
なる(乙7,8,19の1,20,21),④タンパク質以外の成分(例
えば,脂質,炭水化物)とも結合し得る,⑤タンパク質以外の成分やp
Hの影響によりタンパク質と結合せずとも青色を呈色し得るという性質
を有する。
CBBの上記性質からすると,CBBをマーキングに用いた甲8の実
験の結果から,タンパク質の存在や分量を適切に確認できるものではな
い。
すなわち,CBBは,DNAやRNAなどの核酸がCBBと反応し,
青色に呈色する性質があること(乙19の1,21),タンニンや植物
多糖などにも呈色すること(乙21)に照らすと,豆乳には,脂質や炭
水化物など様々な不純物が含まれているため,CBBは,豆乳中の脂質
や炭水化物とも結合している可能性があり,また,CBBが豆乳のタン
パク質と結合せずに青色に呈色している可能性もある(上記④及び⑤の
性質)。
次に,界面活性剤がCBBによるタンパク質の測定において阻害物質
となること(上記③の性質)は,技術常識である(乙7,8,19の1,
20,21,42)。
しかるところ,豆乳には,界面活性剤であるレシチン,大豆サポニン
が含まれているため(乙40,41),豆乳に含まれるタンパク質をC
BBによって特異的に検出することはできないから,甲8の実験におい
て青色に呈色した部分が豆乳に含まれるタンパク質と結合したCBBで
あると評価することはできない。また,被告製品にも界面活性剤が含ま
れているため,豆乳に被告製品を加えた青色部分がタンパク質と結合し
たCBBであると評価することはできない。
(ウ)甲8の実験を追試した乙24の実験について
a乙24の実験のうち,抽出対象液に豆乳使用の実験系①は,被控訴
人による甲8の実験の追試である。
実験の概要は,①キッコーマン株式会社製の豆乳1mlに,リン酸
バッファ(SIGMA製,Dulbecco’sPhosphat
eBufferedSaline)5mlを添加し,撹拌し,C
BB溶液は甲22に準拠して調整して,希釈豆乳とし,この希釈豆乳
に,オレイルアルコール(和光純薬工業株式会社製)1ml及びオレ
イン酸(東京化成工業株式会社製)2mlを添加し,上下の転倒混合
攪拌を約20秒間実施後,20分間静置し,上層の液体を第2の抽出
過程における抽出対象液とした,②第2の抽出過程において被告製品
を添加し,1時間経過後,界面は確認されなかった(別紙4の図3)
というものである。
bCBB溶液の添加後の「抽剤」のpHは,7.18の弱アルカリ性
であり,甲8の実験においても同様である。CBBがタンパク質と結
合するのは酸性条件下であるため,甲8の実験において抽剤に添加さ
れたCBBは,タンパク質と結合することができないことからすると,
甲8の実験において,別紙1の写真の現象が発生したという事実から,
アルカリ性条件下で行われた甲8の実験の結果から被告製品によって
タンパク質が抽出されたと推認することはできない。
また,仮に甲8の実験においてCBBがタンパク質と結合していた
としても,CBBとタンパク質の複合体は,1時間以上放置すると凝
集するという性質を有するため,界面が3時間経過後に発生していた
としても,それは被告製品の機能によるものではなく,単なるCBB
とタンパク質の複合体の凝集,沈殿によるものにすぎない。
さらに,抽出対象液に豆乳使用の実験系①において,抽出対象液に
何も添加せずにそのまま放置していても,3時間経過時に界面が発生
していることからすると,界面の発生は,被告製品の機能によるもの
ではない。
c次に,抽出対象液に精製水使用の実験系②においても,CBBが青
色に呈しており,タンパク質がなくともCBBが青色を呈するとすれ
ば,CBBにより被告製品がタンパク質を抽出する機能を有するかを
確認することができない。
また,実験系②において,添加した製品を問わず,1時間経過時に
おいて界面が発生していることからすると,界面の発生は,タンパク
質の抽出とは関係のない現象であるといえるから,界面の発生という
事実から,タンパク質が抽出されたと推認することはできない。
d以上によれば,甲8の実験を追試した乙24の実験の結果に照らす
と,甲8の実験から,被告製品が構成要件Bの「タンパク質を抽出す
る」機能を有することを確認することはできない。
(エ)甲34の追加実験について
甲34の追加実験は,豆乳の原液に含まれるタンパク質濃度と,プロ
トコルの結果として生じた沈殿物に含まれるタンパク質濃度とを比較す
るものであるが,豆乳の原液は,「第1の抽出工程」後に得られた「タ
ンパク質含有層」(本件明細書の【0046】,【0057】,【00
59】等)とはいえず,構成要件Bの「抽出対象液」に該当しないから,
比較対象として相当ではない。
次に,別紙2の被告製品を使用した「サンプル」の写真は,界面が発
生しているか不明であるから,上記写真から,タンパク質が下層に抽出
されたと評価することはできない。
また,仮に界面が発生しているとしても,下層の一部である沈殿物の
みを取り出しているため,比較対象として相当ではない。
さらに,仮に下層のタンパク質の割合が高いとしても,遠心分離を利
用しており,物理的な作用によって沈殿させているにすぎない。
したがって,甲34の追加実験は,被告製品がタンパク質を抽出した
ことを示すものといえない。
(オ)被告製品が本件発明の作用効果を奏しないこと
被告製品は,顔にマッサージするようになじませることにより,メー
クや汚れを浮き上がらせて,水やぬるま湯で洗い流すという機能を提供
するクレンジングオイルである。メークに「炭素数15~18の高級ア
ルコール」と「脂肪酸」を含むものがあり,肌の汚れが「タンパク質」
を含んでいるとしても,顔の表面に,メーク,肌の汚れ及び水性溶媒を
有する「抽出対象液」(構成要件B)が存在するわけではないし,被告
製品が,顔に塗布した後1時間静置して,あるいは遠心分離を行い,メ
ーク,肌の汚れ及び水性溶媒が混じり合ったものから肌の汚れを2層以
上に分離した一つの層に多く含まれるようにするものでもない。
したがって,被告製品は,本件発明の構成要件Bの「タンパク質抽出
する」機能を有するものではく,本件発明の作用効果を奏しない。
(2)小括
以上のとおり,被告製品は,本件発明の構成要件Bを充足しない。
また,被告製品が構成要件A及びCを充足しないことは,原判決別紙当事
者の主張の[被告の主張]のとおりである。
したがって,被告製品は,本件発明の構成要件をすべて充足しないから,
本件発明の技術的範囲に属さない。
第4当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人の請求は理由がないものと判断する。その理由は,以下
のとおりである。
1本件明細書の記載事項
(1)本件明細書(甲1)の「発明の詳細な説明」には,次のような記載がある
(下記記載中に引用する図1Aないし2B,9,10については,別紙明細
書図面を参照)。
ア【技術分野】
【0001】
本発明は,タンパク質を抽出する混合液に関する。
【背景技術】
【0002】
溶液中の対象物質(例えば,タンパク質等)を分離又は抽出等するため
の方法としてはエマルションを利用した方法が挙げられる(例えば,特許
文献1及び2を参照)。
【0003】
対象物質の分離等のためのエマルションを利用した方法としては,例え
ば,油層中の逆ミセル内部の水層に対象物質を分離等する方法,乳化型液
膜抽出による方法,多層乳化したエマルションを転層させて対象物質を分
離等する方法等が挙げられる。
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし,溶液中の対象物質を分離等するために使用されて来た従来の方
法は,いずれも,界面活性剤の使用を前提としていた。界面活性剤を使用
すると,分離等された対象物質から界面活性剤を除去する工程が必要とな
り,煩雑さが生じていた。従って,溶液中から対象物質を簡便に分離する
ための混合液が求められていた。
【0006】
本発明は,上記の課題を解決するためになされたものであり,タンパク
質と水性溶媒とを含む抽出対象液からタンパク質を簡便に分離できる混合
液を提供することを目的とする。
イ【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は,所定の高級アルコールと,脂肪酸とを少なくとも含むタン
パク質抽出剤によれば上記課題を解決できる点を見出し,本発明を完成す
るに至った。具体的に,本発明は下記のものを提供する。
【0008】
(1)炭素数15以上の高級アルコールである第1の高級アルコール
と,脂肪酸と,を少なくとも含み,
タンパク質と水性溶媒とを含む抽出対象液からタンパク質を抽出する混
合液。
【0009】
(2)前記第1の高級アルコールは,イソステアリルアルコール及び
オレイルアルコールからなる群から選択される1種以上を含み,
前記脂肪酸は,炭素骨格中に1つの不飽和結合を有する脂肪酸又は飽和
脂肪酸を含む(1)に記載の混合液。
【0010】
(3)(1)又は(2)に記載の前記第1の高級アルコールとは異な
る,炭素数18以上の高級アルコールである第2の高級アルコールと,炭
化水素と,を少なくとも含み,
タンパク質,水性溶媒,炭素数15以上の高級アルコール,及び脂肪酸
を含む抽出対象液からタンパク質を抽出する混合液。
ウ【発明の効果】
【0016】
本発明によれば,タンパク質と水性溶媒とを含む抽出対象液からタンパ
ク質を簡便に分離できる混合液,及び,タンパク質の抽出方法が提供され
る。
エ【発明を実施するための形態】
【0018】
以下,本発明の実施形態について説明する。なお,本発明は以下の実施
形態に限定されない。以下,タンパク質を抽出する混合液をタンパク質抽
出剤という。
【0019】
<第1のタンパク質抽出剤>
本発明の第1のタンパク質抽出剤は,少なくとも第1の高級アルコール
と,脂肪酸と,を含む。
【0020】
本発明の第1のタンパク質抽出剤は,界面活性剤を含まなくともよい。
また,本発明の第1のタンパク質抽出剤には,従来使用されてきた対象物
質の分離等のためのエマルション等に含まれる界面活性剤よりも少ない量
(例えば,タンパク質抽出剤全体に対して0~4質量%)の界面活性剤が
含まれていてもよい。なお,本発明において「界面活性剤」とは,溶媒中
でミセル構造をとり得る両親媒性分子を指す。
【0021】
第1のタンパク質抽出剤を,抽出対象物(つまり,タンパク質)と水性
溶媒とを含む溶液(以下,「抽出対象液」とも言う)に添加して,適宜撹
拌した後に静置すると,抽出対象液は少なくとも2層に分離する。本発明
において,第1のタンパク質抽出剤によって少なくとも2層に分離したう
ちの,タンパク質を含む層を「第1のタンパク質含有層」と言う。通常,
少なくとも2層に分離したうちの上層が第1のタンパク質含有層である。
【0022】
本発明において,抽出対象液が少なくとも2層に分離している状態とは,
層間に明確な界面が形成されている状態,及び,層間に明確な界面は形成
されていないが見かけ上は少なくとも2層に分離しているように見える状
態,のうちいずれも含む。本発明において,分離した各層(見かけ上の層
も含む)は,公知の界面検出センサー(超音波等)によって特定できる。
【0023】
また,抽出対象液が少なくとも2層に分離している状態とは,水層の上
表面全体に油層が形成されている状態だけではなく,液滴が水層の上部中
及び上表面上の一部に分布している状態も含む。
【0024】
少なくとも2層に分離した抽出対象液のいずれかの層にタンパク質が含
まれる。少なくとも2層に分離した抽出対象液のいずれの層にタンパク質
が含まれるかは,タンパク質の性質(水との親和性(親水性,親油性又は
両親媒性),比重等)に応じて異なる。本発明において,タンパク質は,
水との親和性等に関わらず,少なくとも2層に分離した抽出対象液のうち
の上層に含まれることが多い。
【0025】
抽出対象液の構成としては,水性溶媒中にタンパク質が混合されたもの
が挙げられる。水性溶媒としては,タンパク質を変性させないものであれ
ば特に限定されず,公知の水溶性の溶媒(水,リン酸バッファ,Tris
-HClバッファ等)等が挙げられる。第1のタンパク質抽出剤によって
抽出対象液を少なくとも2層に明瞭に分離できる点で,水性溶媒は,水が
好ましい。
【0026】
(第1の高級アルコール)
第1の高級アルコールは,後述する脂肪酸と組み合わせることにより,
下記の作用によって抽出対象液からタンパク質を抽出できると考えられる。
すなわち,第1の高級アルコール中の疎水基(オレイル基等)が抽出対象
液中のタンパク質と結合する。次いで,水性溶媒中で形成された脂肪酸の
液滴が,第1の高級アルコールと結合したタンパク質を引き寄せ,タンパ
ク質含有層が形成され,タンパク質を水性溶媒から分離させる。その結果,
タンパク質を抽出対象液から抽出できる。なお,本発明において「抽出」
とは,タンパク質と水性溶媒とを分離させること(つまり,タンパク質含
有層が形成されること)を指す。ただし,タンパク質含有層には水性溶媒
や抽出対象液由来の物質が含まれ得る。タンパク質含有層中の水性溶媒に
対するタンパク質の割合が,抽出対象液中の水性溶媒に対するタンパク質
の割合よりも高ければ,抽出対象液からタンパク質が抽出されたと言える。
【0027】
第1の高級アルコールとしては,炭素数15以上の1価アルコールであ
れば特に限定されないが,炭素数が多い高級アルコールの方が,タンパク
質と結合しやすく,かつ,水性溶媒中で形成される脂肪酸の液滴に引き寄
せられやすいという点で好ましい。そのため,第1の高級アルコールの炭
素数は,好ましくは炭素数16以上,さらに好ましくは炭素数19以上で
ある。
【0028】
他方,第1の高級アルコールの炭素数が多すぎると,後述する脂肪酸が
水性溶媒中で液滴を形成し難いため好ましくない。第1の高級アルコール
の炭素数は,好ましくは炭素数30以下,さらに好ましくは炭素数20以
下である。
【0029】
炭素数15以上の高級アルコールとしては,イソステアリルアルコール
(炭素数18),オレイルアルコール(炭素数18)等が挙げられる。炭
素数15以上の高級アルコールのうち,抽出対象液中のタンパク質と結合
しやすいという点で直鎖構造部分の炭素数が15以上の高級アルコールが
好ましい。
【0030】
例えば,直鎖構造部分の炭素数が「16」である高級アルコールとして,
下式で表されるイソステアリルアルコールを例示できる。
【化1】
【0031】
第1の高級アルコールとしては,イソステアリルアルコール又はオレイ
ルアルコールが特に好ましい。第1の高級アルコールは1種であってもよ
く,2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
(脂肪酸)
脂肪酸としては,炭化水素の1価のカルボン酸であれば特に限定されず,
直鎖脂肪酸及び分岐脂肪酸のいずれでもよい。水性溶媒中で液滴を形成し
てタンパク質を引き寄せやすいという点で,脂肪酸としては,脂肪酸の炭
素骨格中の不飽和結合が少ないものが好ましい。具体的には,炭素骨格中
に1以下の不飽和結合を有する脂肪酸が好ましい。つまり,脂肪酸として
は,炭素骨格中に1以下の不飽和結合を有さない脂肪酸(つまり,飽和脂
肪酸)であってもよい。リノール酸のように炭素骨格中に2以上の不飽和
結合を有する脂肪酸を使用すると抽出対象液を少なくとも2層に分離しに
くい可能性がある。なお,脂肪酸のみを抽出対象液と混合すると,脂肪酸
を含む層と抽出対象液を含む層に分かれ,タンパク質を抽出できない。
【0033】
炭素骨格中に1以下の不飽和結合を有する脂肪酸としては,オレイン酸,
イソステアリン酸等が挙げられる。上記の脂肪酸のうち,オレイン酸,イ
ソステアリン酸が特に好ましい。脂肪酸は1種であってもよく,2種以上
を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
第1のタンパク質抽出剤中の第1の高級アルコール及び脂肪酸の組み合
わせとしては,抽出対象液を少なくとも2層に分離しやすいという点でイ
ソステアリルアルコール及びオレイン酸,オレイルアルコール及びオレイ
ン酸が特に好ましい。
【0035】
第1のタンパク質抽出剤中の第1の高級アルコールと脂肪酸との比率は,
抽出対象物であるタンパク質の量や性質に応じて適宜調整でき,例えば,
質量比で第1の高級アルコール/脂肪酸=1/1~1/2であってもよい。
【0036】
第1のタンパク質抽出剤には,本発明の目的を害さない限り,公知の添
加剤(界面活性剤,炭素数15未満の高級アルコール等)を添加してもよ
い。添加剤の添加量は得ようとする効果等に応じて適宜設定できる。
【0037】
(第1の抽出工程)
本発明において「第1の抽出工程」とは,第1のタンパク質抽出剤と抽
出対象液とを接触させる工程から,抽出対象液を少なくとも2層に分離さ
せる工程までを指す。第1の抽出工程における温度条件は,タンパク質や
タンパク質抽出剤中の成分が変性等しない限り特に限定されないが,例え
ば,室温(例えば,20~28℃)であってもよい。
【0038】
第1のタンパク質抽出剤と抽出対象液とを接触させる方法は,特に限定
されないが,第1のタンパク質抽出剤及び抽出対象液を混合,撹拌等する
ことで行える。第1の抽出工程における第1のタンパク質抽出剤と抽出対
象液との混合比は特に限定されないが,質量比で,第1のタンパク質抽出
剤/抽出対象液=1/1~2/3であってもよい。第1のタンパク質抽出
剤と抽出対象液との混合方法は特に限定されず,公知の撹拌機や試験管の
上下倒立等で混合できる。
【0039】
第1のタンパク質抽出剤の使用方法としては,抽出対象液に添加する前
に第1のタンパク質抽出剤を構成する成分を予め混合してから添加しても
よいが,第1の高級アルコール又は脂肪酸のいずれか一方を先に抽出対象
液に添加した後に,さらに残りを順次混合してもよい。第1の高級アルコ
ール中の疎水基が抽出対象液中のタンパク質と結合し,次いで,水性溶媒
中で形成される脂肪酸の液滴が,第1の高級アルコールと結合したタンパ
ク質を引き寄せ,水性溶媒とタンパク質とを分離させるという本発明の効
果が奏されやすい点で,第1の高級アルコールを脂肪酸よりも先に添加す
ることが好ましい。
【0040】
少なくとも2層に分離した抽出対象液において,タンパク質がいずれの
層に存在するかは,界面検出センサー等によって特定される。通常,タン
パク質は,少なくとも2層に分離したうちの上層に抽出される。タンパク
質含有層は遠心分離等の方法を使用して回収できる。また,タンパク質は,
クロマトグラフィー等の方法を使用して,タンパク質含有層から抽出する
ことができる。
オ【0041】
<第2のタンパク質抽出剤>
本発明の第2のタンパク質抽出剤は,上記第1の高級アルコールとは異
なる第2の高級アルコールと,炭化水素と,を含む。本発明の第2のタン
パク質抽出剤は,界面活性剤を含まなくともよい。また,本発明の第2の
タンパク質抽出剤には,従来使用されてきた対象物質の分離等のためのエ
マルション等に含まれる界面活性剤よりも少ない量(例えば,タンパク質
抽出剤全体に対して0~4質量%)の界面活性剤が含まれていてもよい。
【0042】
第2のタンパク質抽出剤は,第1の抽出工程後に得られたタンパク質含
有層(以下,「第1のタンパク質含有層」とも言い,この層には,タンパ
ク質,水性溶媒,炭素数15以上の高級アルコール,及び脂肪酸が含まれ
得る)に含まれ得る夾雑物(細胞膜等)を分離できるので,タンパク質を
より効率的に抽出できる。
【0043】
第2のタンパク質抽出剤を,第1のタンパク質含有層に添加して,適宜
撹拌した後に静置すると,第1のタンパク質含有層は少なくとも2層に分
離する。少なくとも2層に分離した第1のタンパク質含有層のうちのいず
れかの層にタンパク質が含まれる。以下,少なくとも2層に分離した第1
のタンパク質含有層のうち,タンパク質を含む層を「第2のタンパク質含
有層」と言う。通常,少なくとも2層に分離したうちの下層が第2のタン
パク質含有層である。
【0044】
本発明において,第1のタンパク質含有層が少なくとも2層に分離して
いる状態とは,層間に明確な界面が形成されている状態,及び,層間に明
確な界面は形成されていないが見かけ上は少なくとも2層に分離している
ように見える状態,のうちいずれも含む。本発明において,分離した各層
(見かけ上の層も含む)は,公知の界面検出センサー(超音波等)によっ
て特定できる。
【0045】
少なくとも2層に分離した第1のタンパク質含有層のいずれの層にタン
パク質が含まれるかは,タンパク質の性質(水との親和性(親水性,親油
性又は両親媒性),比重等)に応じて異なる。本発明において,タンパク
質は,水との親和性等に関わらず,少なくとも2層に分離した第1のタン
パク質含有層のうちの下層に含まれることが多い。
【0046】
第1のタンパク質含有層は,第2のタンパク質抽出剤によって抽出を行
う前に,水性溶媒で適宜希釈してもよい。第1のタンパク質含有層を水性
溶媒で希釈することによって,第2のタンパク質抽出剤による第1のタン
パク質含有層の分離が容易になり得る。水性溶媒としては,抽出対象液に
おけるものと同様の水性溶媒であってもよく,水,リン酸バッファ,Tr
is-HClバッファ等が挙げられる。
【0047】
(第2の高級アルコール)
第2の高級アルコールは,後述する炭化水素と組み合わせることで,下
記の作用によって,第1のタンパク質含有層からタンパク質を抽出できる
と考えられる。すなわち,第1のタンパク質含有層には,タンパク質,水
性媒体,第1の高級アルコール及び脂肪酸が分散していると考えられると
ころ,炭化水素が加えられると,第1のタンパク質含有層中の分散状態が
崩れ,水性媒体を含む層,ならびに,第1の高級アルコール及び脂肪酸を
含む層に分離する。他方,第2の高級アルコール中の疎水基(オレイル基
等)が第1のタンパク質含有層中のタンパク質と結合する。次いで,水性
溶媒中で形成された炭化水素の液滴が,第2の高級アルコールと結合した
タンパク質を引き寄せる。その結果,タンパク質以外の夾雑物の含有量が
より少ない第2のタンパク質含有層が形成される。
【0048】
第2の高級アルコールとしては,第1の高級アルコールよりも第1のタ
ンパク質含有層中のタンパク質と結合しやすいものを使用する必要があり,
第1の高級アルコールとは異なるものを使用する。具体的には,第2の高
級アルコールは,炭素数18以上の高級アルコールである。
【0049】
他方,第2の高級アルコールの炭素数が多すぎると,後述する炭化水素
が水性溶媒中で液滴を形成し難いため好ましくない。第2の高級アルコー
ルの炭素数は,好ましくは炭素数50以下,さらに好ましくは炭素数40
以下である。
【0050】
第2の高級アルコールとしては,高級アルコールの炭素鎖にタンパク質
が結合しやすいという点で分岐構造中に水酸基を有する炭素数18以上の
分岐状高級アルコールが好ましい。分岐構造中に水酸基を有する分岐状高
級アルコールとしては,高級アルコールの炭素鎖とタンパク質との結合を
阻害しないという点で分岐構造中の炭素数が少ないものが好ましい。具体
的には,水酸基から分岐部分までの炭素原子数が1以下である分岐状高級
アルコールが好ましい。水酸基から分岐部分までの炭素原子数が1以下で
ある分岐状高級アルコールとしては,オクチルドデカノール(炭素数20)
等が挙げられる。
【0051】
例えば,水酸基から分岐部分までの炭素原子数が「1」である高級アル
コールとして,下式で表されるオクチルドデカノールを例示できる。
【化2】
【0052】
第2の高級アルコールとしては,オクチルドデカノールが好ましい。第
2の高級アルコールは1種であってもよく,2種以上を組み合わせて使用
してもよい。
【0053】
(炭化水素)
炭化水素としては,炭素原子及び水素原子のみからなる化合物であれば
特に限定されないが,第1のタンパク質含有層の分散状態を崩し,水性媒
体を含む層,ならびに,第1の高級アルコール及び脂肪酸を含む層に分離
しやすいという点で,炭素数が10以上の炭化水素が好ましい。特に,高
融点の炭化水素を液化させるための熱によってタンパク質が変性すること
を避けるという点で,25℃で液体である炭化水素が好ましい。25℃で
液体である炭化水素としては,具体的には,リモネン(炭素数10),ス
クアレン(炭素数30),スクアラン(炭素数30),流動パラフィン(炭
素数20以上)等が挙げられる。炭化水素は1種であってもよく,2種以
上を組み合わせて使用してもよい。
【0054】
第2のタンパク質抽出剤中の第2の高級アルコール及び炭化水素の組み
合わせとしては,第1のタンパク質含有層を少なくとも2層に分離しやす
いという点でオクチルドデカノール及びリモネンが特に好ましい。
【0055】
第2のタンパク質抽出剤中の第2の高級アルコールと炭化水素との比率
は,タンパク質の量や性質に応じて適宜調整でき,例えば,質量比で第2
の高級アルコール/炭化水素=1/1~2/3であってもよい。
【0056】
第2のタンパク質抽出剤には,本発明の目的を害さない限り,公知の添
加剤(界面活性剤,炭素数18未満の高級アルコール等)を添加してもよ
い。添加剤の添加量は得ようとする効果等に応じて適宜設定できる。
【0057】
(第2の抽出工程)
以下,第2のタンパク質抽出剤と第1のタンパク質含有層とを接触させ
る工程から,第1のタンパク質含有層を少なくとも2層に分離させる工程
を「第2の抽出工程」と言う。第2の抽出工程における温度条件は,タン
パク質やタンパク質抽出剤中の成分が変性等しない限り特に限定されない
が,例えば,室温(例えば,20~28℃)であってもよい。第2のタン
パク質抽出剤に含まれる炭化水素として25℃で液体である炭化水素が含
まれる場合,炭化水素の液体状態を保持すると,第1のタンパク質含有層
を好ましく分離できるため,第2の抽出工程における温度条件は,24~
26℃であることが好ましい。
【0058】
第2のタンパク質抽出剤と第1のタンパク質含有層とを接触させる方法
は,特に限定されないが,第2のタンパク質抽出剤及び第1のタンパク質
含有層を混合及び撹拌等することで行える。第2のタンパク質抽出剤と第
1のタンパク質含有層との混合比は特に限定されないが,質量比で,第2
のタンパク質抽出剤/第1のタンパク質含有層=1/1~2/3であって
もよい。第2のタンパク質抽出剤と第1のタンパク質含有層との混合方法
は特に限定されず,公知の撹拌機や試験管の上下倒立等で混合できる。
【0059】
第2のタンパク質抽出剤の使用方法としては,第1のタンパク質含有層
に添加する前に第2のタンパク質抽出剤を構成する成分を予め混合してか
ら添加してもよいが,第2の高級アルコール又は炭化水素のいずれか一方
を先に第1のタンパク質含有層に添加した後に,さらに残りを順次混合し
てもよい。炭化水素によって,第1のタンパク質含有層の分散状態を崩し,
第2の高級アルコールと結合したタンパク質を引き寄せるという本発明の
効果が奏されやすい点で,炭化水素を第2の高級アルコールよりも先に添
加することが好ましい。
【0060】
少なくとも2層に分離した第1のタンパク質含有層において,タンパク
質がいずれの層に存在するかは,界面検出センサー等によって特定される。
通常,タンパク質は,少なくとも2層に分離したうちの下層に抽出される。
また,タンパク質は,クロマトグラフィー,遠心分離等の方法を使用して,
第2のタンパク質含有層から取り出し,抽出することができる。
【0061】
上記の通り,本発明のタンパク質抽出剤によれば,抽出対象液からタン
パク質以外の成分(水性溶媒,細胞膜等の夾雑物)の割合を減らして,タ
ンパク質を簡便に抽出できる。本発明によって得られたタンパク質から,
クロマトグラフィー等によって目的のタンパク質を精製することもできる。
従って,本発明は,特定のタンパク質の単離や精製の前段階の処理として
有用である。例えば,本発明は,細胞液(抽出対象液に相当する)等から
の膜タンパク質の抽出等において有用である。
カ【実施例】
【0062】
以下,実施例により本発明をさらに詳しく説明するが,本発明はこれら
に限定されるものではない。なお,下記の試験はいずれも室温(19℃以
上25℃以下)で行った。
【0063】
(実施例1:第1のタンパク質抽出剤による抽出-1)
本発明の第1のタンパク質抽出剤を使用して,以下の通り,抽出対象液
から抽出対象物(タンパク質)を抽出した。
【0064】
1.抽出対象液の構成
豆乳(株式会社紀文食品製,豆乳中にはタンパク質(不溶性)が含まれ
る)1ml
リン酸バッファ(SIGMA社製,商品名「Dulbecco’sP
hosphateBufferedSaline」)9ml
上記を試験管内で混合及び撹拌した後,得られた溶液にクマシーブリリ
アントブルーG250を加え,タンパク質を青色に着色し,抽出対象液を
得た。
【0065】
2.第1のタンパク質抽出剤の調製
イソステアリルアルコール(高級アルコール工業株式会社,商品名「イ
ソステアリルアルコールEX」,第1の高級アルコールに相当する)2
ml
オレイン酸(東京化成工業株式会社,商品名「OleicAcid」,
脂肪酸に相当する)2ml
上記を試験管内で混合及び撹拌して第1のタンパク質抽出剤を調製した。
【0066】
3.第1の抽出工程
抽出対象液(6ml)に第1のタンパク質抽出剤(4ml)を添加した
後,溶液を撹拌し,20分間静置した。なお,以下,溶液の撹拌は試験管
を約20秒間,上下倒立させることで行った。
【0067】
4.結果
第1の抽出工程の前後の結果を図1(A)に示す。図1(A)の左側は,
第1のタンパク質抽出剤を添加していない(つまり第1の抽出工程前の)
抽出対象液を含む試験管内の様子である。図1(A)の右側は,第1の抽
出工程後の試験管内の様子である。図1(A)の右側に示される通り,溶
液が2層にはっきりと分離しており,タンパク質が上層に抽出されている
ことがわかる。なお,下層の液体はほぼ透明だった。
【0068】
図1(B)は,図1(A)の右側の試験管中の上層における液体(以下,
「実施例1の上層の液体」とも言う)を光学顕微鏡(400倍)で観察し
た結果である。図1(B)に示される通り,タンパク質は脂肪酸から構成
される液滴の内部に取り込まれず,連続層である水層に存在する。
【0069】
(実施例2:第2のタンパク質抽出剤抽出-1)
本発明の第2のタンパク質抽出剤を使用して,以下の通り,実施例1の
上層の液体からタンパク質をさらに抽出した。
【0070】
1.第2のタンパク質抽出剤の調製
オクチルドデカノール(高級アルコール工業株式会社,商品名「リソノ
ール20SP」,第2の高級アルコールに相当する)2ml
リモネン(東京化成工業,商品名「(+)-リモネン」,炭化水素に相
当する)2ml
上記を試験管内で混合及び撹拌して第2のタンパク質抽出剤を調製した。
【0071】
2.第2の抽出工程
実施例1の上層の液体に第2のタンパク質抽出剤を添加した後,溶液を
撹拌し,1時間静置した。
【0072】
3.結果
第2の抽出工程の前後の結果を図2(A)に示す。図2(A)の左側は,
第1のタンパク質抽出剤を添加していない(つまり第1の抽出工程前の)
抽出対象液を含む試験管内の様子である。図2(A)の右側は,第2の抽
出工程後の試験管内の様子である。図2(A)の右側に示される通り,溶
液が2層にはっきりと分離しており,タンパク質が下層に抽出されている
ことがわかる。
【0073】
図2(B)は,図2(A)の右側の試験管中の下層における液体を光学
顕微鏡(400倍)で観察した結果である。図2(B)に示される通り,
タンパク質は炭化水素から構成される液滴の内部に取り込まれず,連続層
である水層に存在する。
キ【0106】
(実施例9:第1のタンパク質抽出剤による抽出-4)
本発明の第1のタンパク質抽出剤を使用して,以下の通り,抽出対象液
から抽出対象物(タンパク質)を抽出した。
【0107】
1.抽出対象液の構成
実施例1の抽出対象液と同様である。
【0108】
2.第1のタンパク質抽出剤の調製
オレイルアルコール(東京化成工業株式会社,商品名「OleylA
lcohol」,第1の高級アルコールに相当する)2ml
オレイン酸(東京化成工業株式会社,商品名「OleicAcid」,
脂肪酸に相当する)2ml
上記を試験管内で混合及び撹拌して第1のタンパク質抽出剤を調製した。
【0109】
3.第1の抽出工程
実施例1と同様である。
【0110】
4.結果
第1の抽出工程の前後の結果を図9に示す。図9の左側は,第1のタン
パク質抽出剤を添加していない(つまり第1の抽出工程前の)抽出対象液
を含む試験管内の様子である。図9の右側は,第1の抽出工程後の試験管
内の様子である。図9の右側に示される通り,溶液が2層に分離しており,
タンパク質が上層に抽出されていることがわかる。なお,下層の液体はほ
ぼ透明だった。
【0111】
図9の右側の試験管中の上層における液体(以下,「実施例9の上層の
液体」とも言う)を光学顕微鏡(400倍)で観察したところ,タンパク
質は脂肪酸から構成される液滴の内部に取り込まれず,連続層の水層に存
在していた。
【0112】
(実施例10:第2のタンパク質抽出剤による抽出-6)
本発明の第2のタンパク質抽出剤を使用して,以下の通り,実施例9の
上層の液体からタンパク質をさらに抽出した。
【0113】
1.第2のタンパク質抽出剤の調製
オクチルドデカノール(高級アルコール工業株式会社,商品名「リソノ
ール20SP」,第2の高級アルコールに相当する)2ml
スクアラン(和光純薬工業,商品名「スクアラン」,炭化水素に相当す
る)2ml
上記を試験管内で混合及び撹拌して第2のタンパク質抽出剤を調製した。
【0114】
2.第2の抽出工程
実施例9の上層の液体に第2のタンパク質抽出剤を添加した後,溶液を
撹拌し,1時間静置した。
【0115】
3.結果
第2の抽出工程の前後の結果を図10に示す。図10の左側は,第1の
タンパク質抽出剤を添加していない(つまり第1の抽出工程前の)抽出対
象液を含む試験管内の様子である。図10の右側は,第2の抽出工程後の
試験管内の様子である。図10の右側に示される通り,溶液が2層に分離
しており,タンパク質が下層に抽出されていることがわかる。
【0116】
図10の右側の試験管中の下層における液体を光学顕微鏡(400倍)
で観察したところ,タンパク質は炭化水素から構成される液滴の内部に取
り込まれず,連続層の水層に存在していた。
ク【0123】
(実施例のまとめ)
上記の実施例の結果をまとめ,表1及び2に示した。なお,表中の「結
果」における記号の意味は下記の通りである。
◎:タンパク質が非常に良好に分離された
○:タンパク質が良好に分離された
△:タンパク質が分離された
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【0126】
上記の通り,本発明のタンパク質抽出剤によれば,タンパク質が良好に
分離されることがわかる。特に,第1のタンパク質抽出剤中の第1の高級
アルコール及び脂肪酸として,イソステアリルアルコール又はオレイルア
ルコールと,オレイン酸とを組み合わせるとタンパク質が良好に分離され
た。さらに,第2のタンパク質抽出剤中の第2の高級アルコール及び炭化
水素として,オクチルドデカノールとリモネンとを組み合わせるとタンパ
ク質がさらに良好に分離された。
⑵前記(1)の記載事項によれば,本件明細書には,本件発明に関し,次のとお
りの開示があることが認められる。
ア溶液中の対象物質(例えば,タンパク質等)を分離又は抽出等するため
に使用されて来た従来のエマルションを利用した方法は,いずれも,界面
活性剤の使用を前提としているため,分離等された対象物質から界面活性
剤を除去する工程が必要となり,煩雑さが生じていたことから,溶液中か
ら対象物質を簡便に分離するための混合液が求められていた(【0002】,
【0004】,【0005】)。
「本発明」は,上記課題を解決し,タンパク質と水性溶媒とを含む抽出
対象液からタンパク質を簡便に分離できる混合液を提供することを目的と
する(【0006】)。
イ「本発明者」は,所定の高級アルコールと,脂肪酸とを少なくとも含む
タンパク質抽出剤によれば,上記課題を解決できる点を見出し,「本発明」
を完成するに至った(【0007】)。
「本発明」によれば,タンパク質と水性溶媒とを含む抽出対象液からタ
ンパク質を簡便に分離できる混合液及びタンパク質の抽出方法が提供され
るという効果を奏する(【0016】)。
2争点1-2(構成要件Bの充足性)について
控訴人は,被告製品を用いた甲8の実験及び甲34の追加実験の結果によれ
ば,被告製品は,本件発明の構成要件Bを充足する旨主張するので,以下にお
いて判断する。
(1)構成要件Bの「タンパク質を抽出する」の意義について
ア本件発明の特許請求の範囲(請求項3)の記載(「請求項1又は2に記
載の前記第1の高級アルコールとは異なる,炭素数20の高級アルコール
である第2の高級アルコールと,炭化水素と,を少なくとも含み,タンパ
ク質,水性溶媒,炭素数15~18の高級アルコール,及び炭素骨格中に
1つの不飽和結合を有する脂肪酸又は飽和脂肪酸を含む,炭素数18の脂
肪酸を含む抽出対象液からタンパク質を抽出する混合液。」)から,本件
発明は,「炭素数20の高級アルコールである第2の高級アルコール」と,
「炭化水素」とを少なくとも含む「混合液」であり,「タンパク質,水性
溶媒,炭素数15~18の高級アルコール,及び炭素骨格中に1つの不飽
和結合を有する脂肪酸又は飽和脂肪酸を含む,炭素数18の脂肪酸」を含
む「抽出対象液」から「タンパク質を抽出する」ことができる機能を有す
ることを理解できる
一方で,本件発明の特許請求の範囲には,「タンパク質を抽出する」に
いう「抽出」の意義や方法について規定した記載はない。
次に,本件明細書には,「タンパク質を抽出する」にいう「抽出」に関
し,①「本発明の第1のタンパク質抽出剤は,少なくとも第1の高級アル
コールと,脂肪酸と,を含む。」(【0019】),「第1のタンパク質
抽出剤を,抽出対象物(つまり,タンパク質)と水性溶媒とを含む溶液(以
下,「抽出対象液」とも言う)に添加して,適宜撹拌した後に静置すると,
抽出対象液は少なくとも2層に分離する。」(【0021】),「本発明
において,抽出対象液が少なくとも2層に分離している状態とは,層間に
明確な界面が形成されている状態,及び,層間に明確な界面は形成されて
いないが見かけ上は少なくとも2層に分離しているように見える状態,の
うちいずれも含む。本発明において,分離した各層(見かけ上の層も含む)
は,公知の界面検出センサー(超音波等)によって特定できる。」(【0
022】),「また,抽出対象液が少なくとも2層に分離している状態と
は,水層の上表面全体に油層が形成されている状態だけではなく,液滴が
水層の上部中及び上表面上の一部に分布している状態も含む。」(【00
23】),「少なくとも2層に分離した抽出対象液のいずれかの層にタン
パク質が含まれる。少なくとも2層に分離した抽出対象液のいずれの層に
タンパク質が含まれるかは,タンパク質の性質(水との親和性(親水性,
親油性又は両親媒性),比重等)に応じて異なる。」(【0024】),
②「第1の高級アルコールは,後述する脂肪酸と組み合わせることにより,
下記の作用によって抽出対象液からタンパク質を抽出できると考えられる。
すなわち,第1の高級アルコール中の疎水基(オレイル基等)が抽出対象
液中のタンパク質と結合する。次いで,水性溶媒中で形成された脂肪酸の
液滴が,第1の高級アルコールと結合したタンパク質を引き寄せ,タンパ
ク質含有層が形成され,タンパク質を水性溶媒から分離させる。その結果,
タンパク質を抽出対象液から抽出できる。なお,本発明において「抽出」
とは,タンパク質と水性溶媒とを分離させること(つまり,タンパク質含
有層が形成されること)を指す。ただし,タンパク質含有層には水性溶媒
や抽出対象液由来の物質が含まれ得る。タンパク質含有層中の水性溶媒に
対するタンパク質の割合が,抽出対象液中の水性溶媒に対するタンパク質
の割合よりも高ければ,抽出対象液からタンパク質が抽出されたと言え
る。」(【0026】),③「第2のタンパク質抽出剤は,第1の抽出工
程後に得られたタンパク質含有層(以下,「第1のタンパク質含有層」と
も言い,この層には,タンパク質,水性溶媒,炭素数15以上の高級アル
コール,及び脂肪酸が含まれ得る)に含まれ得る夾雑物(細胞膜等)を分
離できるので,タンパク質をより効率的に抽出できる。」(【0042】),
「本発明において,第1のタンパク質含有層が少なくとも2層に分離して
いる状態とは,層間に明確な界面が形成されている状態,及び,層間に明
確な界面は形成されていないが見かけ上は少なくとも2層に分離している
ように見える状態,のうちいずれも含む。本発明において,分離した各層
(見かけ上の層も含む)は,公知の界面検出センサー(超音波等)によっ
て特定できる。」(【0044】),「(第2の抽出工程)以下,第2の
タンパク質抽出剤と第1のタンパク質含有層とを接触させる工程から,第
1のタンパク質含有層を少なくとも2層に分離させる工程を「第2の抽出
工程」と言う。」(【0057】),④(実施例2に関し)「3.結果第
2の抽出工程の前後の結果を図2(A)に示す。図2(A)の左側は,第
1のタンパク質抽出剤を添加していない(つまり第1の抽出工程前の)抽
出対象液を含む試験管内の様子である。図2(A)の右側は,第2の抽出
工程後の試験管内の様子である。図2(A)の右側に示される通り,溶液
が2層にはっきりと分離しており,タンパク質が下層に抽出されているこ
とがわかる。」(【0072】),⑤(実施例10に関し)「3.結果第
2の抽出工程の前後の結果を図10に示す。図10の左側は,第1のタン
パク質抽出剤を添加していない(つまり第1の抽出工程前の)抽出対象液
を含む試験管内の様子である。図10の右側は,第2の抽出工程後の試験
管内の様子である。図10の右側に示される通り,溶液が2層に分離して
おり,タンパク質が下層に抽出されていることがわかる。」(【0115】)
との記載がある。また,別紙明細書図面に示すように,図2A及び図10
には,溶液が2層に分離され,下層が上層よりも濃い色で示されている。
以上の本件発明の特許請求の範囲(請求項3)の記載及び本件明細書の
記載を総合すると,構成要件Bの「タンパク質を抽出する」にいう「抽出」
とは,タンパク質,水性溶媒等を含有する抽出対象液を少なくとも2層に
分離させ,タンパク質含有層が形成されることを意味するものと解される。
イこれに対し被控訴人は,本件明細書の【0026】の記載によれば,本
件発明の構成要件Bの「タンパク質を抽出する」にいう「抽出」されたか
否かを判断するには,「タンパク質含有層中の水性溶媒」と「抽出対象液
中の水性溶媒」のタンパク質の割合を定量的に分析する必要があり,「タ
ンパク質含有層中の水性溶媒」に対するタンパク質の割合が,「抽出対象
液中の水性溶媒」のタンパク質の割合よりも高ければ,タンパク質が「抽
出」されたといえる旨主張する。
そこで検討するに,本件明細書の【0026】中に,「タンパク質含有
層中の水性溶媒に対するタンパク質の割合が,抽出対象液中の水性溶媒に
対するタンパク質の割合よりも高ければ,抽出対象液からタンパク質が抽
出されたと言える。」との記載があるが,上記記載は,タンパク質含有層
中の水性溶媒に対するタンパク質の割合が,抽出対象液中の水性溶媒に対
するタンパク質の割合よりも高い場合には,抽出対象液からタンパク質が
抽出されたと評価できることを述べたものにすぎず,構成要件Bの「タン
パク質を抽出する」にいう「抽出」が,かかる場合に限定されることを述
べたものと理解することはできない。
したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。
(2)CBBの性質に関する知見について
アCBBに関する各文献等には,次のような記載がある。
(ア)「ブラッドフォード法によるタンパク質定量キット」(タカラバイ
オ株式会社のウェブサイト)(甲28)
a「本キットの定量の原理は,CoomassieDyeがタンパ
ク質と結合することにより,溶液の最大吸収波長が465nmから5
95nm(茶色から青色)にシフトすることによる。この色の変化は,
タンパク質量に比例して起こるので,595nmの吸光度を測定する
ことにより,溶液のタンパク質濃度が定量できる。タンパク質と色素
の複合体は,反応開始後5分から60分の間安定である。」
「本キットは,還元剤の存在下でも測定可能だが,界面活性剤の存在
下では測定値が不正確になるので注意が必要である。(共存物質の影
響については,「表1.標準プロトコールにおける各種試薬の許容濃
度」を参照。)」(以上,1頁「製品説明」欄)
b「本キットは,還元剤の影響は比較的受けにくいが,界面活性剤の
濃度が高い場合は,測定に影響を受ける。本キットでの測定に影響が
ない濃度を表1に示す。
表1.標準プロトコールにおける各種試薬の許容濃度」(2頁「共存
物質の影響」欄)
(イ)「BCA法,Bradford法,Lowry法など“総”タンパ
ク質定量法の原理まとめ」(サーモフィッシャーサイエンティフィック
株式会社のウェブページ)(乙7)
「Bradford(Coomassie)法の化学反応
CoomassieG-250は酸性条件下でタンパク質と結合しま
す。Coomassie色素がタンパク質と結合すると色素は赤茶色(極
大吸収波長:465nm)から青色(極大吸収波長:610nm)に変
化します。タンパク質と結合していない時としている時の吸光度の差が
最も大きくなるのが595nm付近であることから,Coomassi
e色素とタンパク質との複合体の吸光度は一般的に595nmで測定し
ます(図3)。」(3頁~4頁)
「Bradford(Coomassie)法のデメリット
…界面活性剤により反応が阻害」(4頁)
(ウ)「総タンパク質の定量法」(「入門講座タンパク質と核酸・遺伝
子をはかる」ぶんせき20181)(乙8)
「3-2Bradford法
トリフェニルメタン系色素であるCoomassieBrillia
ntBlueG-250(CBBG-250)を用いたタンパク
質の定量方法である(図2)。…しかし,Bradford法は,界面
活性剤の影響を大きく受けやすいため,タンパク質と界面活性剤が共存
しているとタンパク質濃度の測定が困難となる(最近では,従来のBr
adford法では困難とされた界面活性剤共存下での総タンパク質定
量測定が可能な分析キットが販売されている)。」(2頁左欄下から1
1行目~8行目,右欄下から16行目~11行目)
(エ)「タンパク質濃度の測定」(大阪教育大学のウェブサイト)(乙1
9の1ないし3)
「A.原理…
今回は,CBB(クマシーブリリアントブルー)G-250という
色素がタンパク質と結合すると,赤紫色から青に変色することを利用
してタンパク質の濃度を測定します。この時に,溶液中に含まれるタ
ンパク質が多いほど濃い青になるため,その色の濃さを分光光度計で
測定することで,タンパク質の定量を行います。」(乙19の1・1
頁)
「(2)一方,以下の短所もあります。
1)界面活性剤が強く発色する為,タンパク質と界面活性剤が共存し
ているとタンパク質濃度の測定が事実上不可能になります。
2)DNAやRNAなどの核酸も発色するので,あらかじめ除いてお
く必要があります。…
4)酸性条件で反応させる為,脂質などの不純物が沈殿することがあ
ります。
5)あまり長時間おくと,色素・タンパク質複合体が沈殿してしまい
ます。
(3)この測定法の妨害物質としては,ほとんどの界面活性剤,DN
A(0.1%以上)があります。」(同3頁~4頁)
(オ)「タンパク質定量に用いるBradford試薬におよぼす界面活
性剤の影響」(日本大学農獣医学部学術研究報告昭和61年)(乙2
0)
「この方法はCBBが赤と青の発色形をもち,赤色型の色素がタンパク
と結合すると青色型になることにもとずいており,生じたこの色素-タ
ンパク質複合体の示す吸光係数が極めて高く,結合反応も迅速であり,
また生じた色素-タンパク質複合体は比較的長時間(約1時間)溶液中
に分散し安定している。しかしこの方法でも,SDS,TritonX
100,市販の洗剤等の界面活性剤が大量に共存すると阻害が認められ,
これらの物質の混在が少量の場合にのみ適当なコントロールの実験を行
うことにより実用化ができると報告されている。」(47頁右欄下から
7行目~48頁左欄3行目)
「考察
タンパク質にBradford試薬を添加すると赤色の色素がタンパ
ク質と結合し青色の複合体を形成するため,吸収極大が465nmから
595nmに移動した。一方,TritonX100,SDS,臭化セ
チルトリメチルアンモニウム等の界面活性剤も,Bradford試薬
と反応し赤色の色素が青色に変化し,吸収極大がそれぞれ635nm,
660nm,610nmに変化することが明らかとなった。この新たに
生じた吸収極大の変化に順じ505nmで吸光度も増加した。これが界
面活性剤がBradford法におよぼす阻害効果の原因と考えられ
る。」(51頁左欄1行目~11行目)
「NP40,TritonX100,Brij35,Tween80の
場合は一定濃度以上では濃度の増加とともに吸光度も直線的に増加した
が,低濃度では吸光度の変化のない領域範囲濃度をそれぞれもっており,
この直線と横軸との交点をBradford法を阻害しない界面活性剤
の試料中の限界濃度とすると,その値はそれぞれ約1g/l,1g/l,
0.2g/l,0.1g/lであった。つまりこの濃度以下であれば,
Bradford法において,これらの界面活性剤の影響を無視でき
る。」(51頁左欄12行目~20行目)
「要約
1.界面活性剤はある濃度以上ではBradfordのタンパク定量
に影響を与えるが,定量に使用できる限界濃度は,NP40,Trit
onX100,Brij35,Tween80ではそれぞれ,測定液中
で約100mg/l,100mg/l,20mg/l,10mg/lで
これらはそれぞれのCMCに近い値であった。
2.SDS,臭化セチルトリメチルアンモニウムでは,その濃度に関
係なくBradford試薬を発色させてしまうことが判明した。…
4.適当なコントロール実験を行うことによりBradford法へ
の影響を無視できる界面活性剤はすべて非イオン性であり,一方阻害効
果を示すものはイオン性であった。」(51頁右欄)
(カ)「タンパク質定量法」(「廣川化学と生物実験ライン12」廣
川書店)(乙21)
「6CoomassiebrilliantBlueG-25
0を用いる色素結合法
6.1.標準法(Bradford法)…
[特徴](Bradford,1976,Bio-RadLabora
tories1984)…
短所…
(3)タンパク質-色素複合体の不安定性:
長時間(約1時間以上)放置すると凝集する。…
(5)界面活性剤による妨害」(63頁~64頁)
「[4]注意すべき事項…
(5)反応時間
タンパク質試料をCBBG-250溶液と混合したのち,長時
間放置するとタンパク質-色素複合体の沈殿が生じて吸光度が低下
する。混合後1時間以内に吸光度を測定すべきである(図6.5)。
」(69頁)
「(7)妨害物質
…しかし,SDS(Sodiumdodecylsulfa
te),TritonX-100などの界面活性剤,アルカリ性
試薬,グアニジン,DNAなどは測定に影響をあたえることが知ら
れている。いずれも低濃度のときは問題とならないが,濃度が高く
なると妨害物質の除去などの前処理が必要となる。
1.SDSによる妨害
界面活性剤であるSDSはそれ自体で呈色を示す(Bradfo
rd,1976;萩原,1981)のみならず,タンパク質の呈
色を抑制する(Bio-RadLaboratoriies,
1984;萩原,1981)。・・・SDSが色素と競合してタンパ
ク質と結合されるためであるとされている。この呈色の抑制は,
SDSの濃度が0.5%以上になるとタンパク質の呈色がほとん
ど無くなるほど強いものであるので,高濃度のSDSを含む試料
を測定する際にはあらかじめSDSを除去するなどの対策が必要
である。(後述)」(70頁)
「3.そのほかの界面活性剤による妨害
膜タンパク質の可溶化に用いられる各種界面活性剤の10%水溶
液(最終濃度0.2%)にCBBG-250溶液を加えると,
NonidetP-40,Brij35,Tween20は
TritonX-100と同程度(吸光度約2.4)に,また
CHAPSは弱いながら呈色する(吸光度約0.16)。」(7
1頁)
「5.そのほかの化合物による妨害
6M塩酸グアニジンはそれ自体は呈色しないが,SDSと同様に
タンパク質の呈色を抑制すると報告されており…0.1%DNA
についても同様のことが報告がされている。・・・植物抽出液の定量
を行うときは,タンニンや植物多糖が呈色するので注意が必要で
ある」(71頁)
(キ)「バイオ関連分野での基礎-細胞数測定法」(「電気化学:測定と
解析のてびき」Electrochemistry)(乙42)
「Bradford法は,色素であるCoomassiebrill
iantblueG-250が,塩基性・芳香族アミノ酸の測鎖と
結合することにより吸収ピークが移動する事を利用した方法である(F
ig.6)。簡便な方法ではあるが,界面活性剤や塩基性緩衝液の影響
を受け易いので注意が必要である。」(926頁)
(ク)「フローインジェクション分析法による生体試料中のタンパク質の
迅速高感度定量」と題する論文(Aほか)(乙43)
「Bradfordは,クマシーブリリアントブルーG-250(C
BBG-250)を用いて,試薬混合後約2分で反応が完了し,その
まま吸光度が測定できる方法を開発した。更に多くの種類のタンパク質
についてほぼ等しい吸光度が得られるとの報告がある。この方法は,分
光セルや反応試験管に対する色素の吸着や,反応生成物の安定な時間内
(約1時間)での吸光度測定などの問題があるが…」(1頁)
イ前記アの記載事項を総合すると,CBBの性質として,①CBBは,タ
ンパク質と結合することにより茶色(赤茶色)から青色に変化し,この色
の変化は溶液のタンパク質の濃度に比例して発生すること,②CBBは,
界面活性剤の影響を受けやすく,界面活性剤と反応して青色に変化し,高
濃度の界面活性剤が共存していると,タンパク質濃度の測定が困難となる
こと,③CBBは,DNAやRNAなどの核酸によっても発色するので,
タンパク質濃度の測定前にこれらを取り除いておく必要があること,④タ
ンパク質をCBBと混合した後,長時間(約1時間以上)経過すると,凝
集し,CBB色素とタンパク質の複合体が沈殿することは,広く知られて
いることが認められる。
ウこれに対し控訴人は,①界面活性剤(例えば,レシチン,大豆サポニン)
がCBBによるタンパク質の測定において阻害物質となることについては,
被控訴人が挙げる乙号各証によって裏付けることはできない,②乙21に
は,混合後「長時間放置するとタンパク質―色素結合体の沈殿が生じて吸
光度が低下する。混合後1時間以内に吸光度を測定すべきである。」(6
9頁)との記載があるものの,同頁の図6.5を見ると,1時間経過時点
においてすべての結合体が沈殿して測定不能となるように記載されていな
いなどと主張する。
しかしながら,乙7に「Bradford(Coomassie)法の
デメリット…界面活性剤により反応が阻害」(前記ア(イ)),乙8に「B
radford法は,界面活性剤の影響を大きく受けやすいため,タンパ
ク質と界面活性剤が共存しているとタンパク質濃度の測定が困難となる」
(前記ア(ウ)),乙19の1に「1)界面活性剤が強く発色する為,タン
パク質と界面活性剤が共存しているとタンパク質濃度の測定が事実上不可
能になります。」(前記ア(エ)),乙21に「SDS(Sodiumd
odecylsulfate),TritonX-100などの界面
活性剤,アルカリ性試薬,グアニジン,DNAなどは測定に影響をあたえ
ることが知られている。いずれも低濃度のときは問題とならないが,濃度
が高くなると妨害物質の除去などの前処理が必要となる。」(前記ア(カ))
との記載があるとおり,「CBBは,界面活性剤の影響を受けやすく,界
面活性剤と反応して青色に変化し,高濃度の界面活性剤が共存していると,
タンパク質濃度の測定が困難となることは広く知られている」こと(前記
イ②)が認められるから,控訴人の①の主張は,理由がない。
次に,控訴人の②の主張については,乙21には,「タンパク質試料を
CBBG-250溶液と混合したのち,長時間放置するとタンパク質-
色素複合体の沈殿が生じて吸光度が低下する。混合後1時間以内に吸光度
を測定すべきである(図6.5)」(前記ア(カ))との記載があるとおり,
図6.5は,混合後1時間以内に吸光度を測定すべきであることを示すた
めの図面として引用されたものであり,図6.5は,前記イ③の「タンパ
ク質をCBBと混合した後,長時間(約1時間以上)経過すると,凝集し,
CBB色素とタンパク質の複合体が沈殿することは,広く知られている」
との認定を左右するものではない。
(3)甲8の実験に係る構成要件充足性について
ア甲8及び甲22によれば,甲8の実験は,①豆乳(キッコーマン株式会
社製「調整豆乳」)1mlにリン酸バッファ5mlを添加し,タンパク質を
「クマシーブリリアントブルーG250」(CBB)によって青色に染色し,
希釈豆乳とし,この希釈豆乳にオレイルアルコール(和光純薬株式会社製)
1ml,オレイン酸(東京化成工業株式会社製)2mlを添加し,撹拌後
20分静置し,下層の透明な液体を廃棄し,上層の液体を「抽材」とした
こと,②「抽材」に被告製品を2ml添加し,24時間及び48時間静置
したこと,③別紙1の1は「撹拌後20分静置」の写真,別紙1の2は「2
4時間経過後」の写真,別紙1の3は「48時間経過後」の写真であるこ
とが認められる。
なお,甲8の実験の工程には,被告製品を2ml添加した「抽材」から
界面活性剤を除去する工程が含まれていないことが認められる。
イ控訴人は,別紙1の写真によれば,被告製品が添加された「抽材」は,
静置してから24時間及び48時間経過後に,2層に分離し,下層にCB
Bで青色に染色されたタンパク質が抽出されたことを確認できたから,被
告製品は,構成要件Bの「タンパク質を抽出する」ことができるとの構成
を備える旨主張する。
(ア)そこで検討するに,甲8の実験結果を示す別紙1の2及び3の写真
は,上下で多少の濃淡はあるにしても,全体的にCBBが青色を呈して
おり,特定の箇所に有意な濃度差を認めることはできない。
また,本件明細書の【0022】には,「抽出対象液が少なくとも2層
に分離している状態」とは,「層間に明確な界面が形成されている状態,
及び,層間に明確な界面は形成されていないが見かけ上は少なくとも2
層に分離しているように見える状態,のうちいずれも含む。本発明にお
いて,分離した各層(見かけ上の層も含む)は,公知の界面検出センサ
ー(超音波等)によって特定できる。」との記載があり,【0042】に
もこれと同旨の記載があるところ,甲8の実験においては,界面検出セ
ンサー(超音波等)を用いた各層の特定もされていない。
そうすると,甲8の実験結果から,「抽材」が2層に分離し,タンパク
質含有層が形成されているものと認めることはできない。
(イ)次に,前記(2)イ②認定のとおり,CBBは,界面活性剤の影響を受
けやすく,界面活性剤と反応して青色に変化し,高濃度の界面活性剤が
共存していると,タンパク質濃度の測定が困難となることが広く知られ
ているところ,被告製品には,界面活性剤として,トリイソステアリン
酸PEG-20グリセリルが●●質量%,PEG-7(カプリル/カプ
リン酸)グリセリズが●質量%と全体で●●質量%含まれていること(前
記第2の2(3)イ)からすると,甲8の実験の結果は,被告製品に含まれ
る高濃度の界面活性剤によって発色した影響があることを否定すること
ができない。
また,豆乳は,DNAの核酸を含むこと(乙23),前記(2)イ③認定
のとおり,CBBは,核酸によっても発色することが広く知られている
ことに照らすと,甲8の実験の結果には,豆乳に含まれる核酸によって
発色した影響があることも否定することができない。
さらに,甲8の実験においては,静置してから24時間及び48時間
経過後の被告製品が添加された「抽材」の全体について,タンパク質の
量を定量的に分析した上で,下層にタンパク質含有層が形成されている
ことを確認したというものではない。仮に静置してから24時間及び4
8時間経過後の被告製品が添加された「抽材」において,下層のタンパ
ク質の割合が多いとしても,前記(2)イ④認定のとおり,タンパク質をC
BBと混合した後,1時間以上の長時間経過すると,凝集し,CBBと
タンパク質の複合体が沈殿することは広く知られていること,本件明細
書の実施例2及び10記載の「第2の抽出工程」においては,第2のタ
ンパク質抽出剤を添加した後,溶液を撹拌し,1時間の静置としている
こと(【0071】,【0114】)に照らすと,CBBとタンパク質が,
時間経過によって凝集し,CBBとタンパク質の複合体が沈殿した影響
を受けたことによるものであることを否定することができない。
(ウ)以上を総合すれば,甲8の実験の結果から,被告製品が添加された
「抽材」が,被告製品によって,2層に分離し,下層にタンパク質含有
層が形成されたものと認めることはできず,被告製品は,構成要件Bの
「タンパク質を抽出する」ことができるとの構成を有するものと認める
ことはできない。
したがって,甲8の実験の結果によれば,被告製品は本件発明の構成
要件Bを充足するとの控訴人の主張は採用することができない。
(4)甲34の追加実験に係る構成要件充足性について
ア甲34ないし36によれば,甲34の追加実験は,①「プロトコル」と
して,豆乳6mlにオレイルアルコール1ml及びオレイン酸2mlを添
加し,攪拌し,15分静置して抽材とし,被告製品2mlを抽材に添加し,
15分静置したこと,1000回転/分にて15分間遠心分離し,下層液
体の沈殿を取り出し,通常のBCA法及びSDS-Pageのプロトコル
を実施したこと,②豆乳原液をコントロール1,被告製品に代えて,スク
ワラン1ml及びオクチルドデカノール1mlを抽材に添加したものをコ
ントロール2とし,被告製品との「対照実験」を行ったこと,③「抽出結
果の外観」及び「取り出した沈殿の外観」は,別紙2のとおりであること,
④地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所理事長作成の「試験計
測成績書」(甲35)には,「試験方法:提供された試料についてタンパク
質濃度をBCA法によりウシ血清アルブミン相当量で定量した。」,「結果」
として,タンパク質濃度(mg/l)ウシ血清アルブミン相当量が,「キッ
コーマン飲料株式会社製「調整豆乳」原液」は1564mg/l,「前記豆
乳の特許第5388259号(本件特許)による抽出タンパク質」は24
65mg/l,「前記豆乳の株式会社ディーエイチシー製「クレンジングオ
イル[F1]による抽出タンパク質」は2254mg/lであった旨の記
載があること,⑤上記理事長作成の「試験計測成績書」(甲36)には,「試
験方法:提供された試料に等量のサンプル処理液(AE-1430Ez
Apply,ATTO製)を加え混合し,5分間100℃で加熱処理した
後,12.5%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動を行なった。染色は,
CBB染色により行なった。分子量マーカーは,AE-1440EzS
tandard(ATTO製)を用いた。」,「結果」は,別紙3のとおりで
あった(ただし,「リゾチーム」の矢印等の記載を除く。)旨の記載がある
ことが認められる。
なお,甲34の追加実験の工程には,被告製品を2ml添加した「豆乳
原液」から界面活性剤を除去する工程が含まれていないことが認められる。
イ控訴人は,①タンパク質定量(BCA法)の結果は,豆乳原液(コント
ロール1)は1564mg/l,本件特許による抽出タンパク質(コント
ロール2)は2465mg/l,被告製品による抽出タンパク質は225
4mg/lであったことからすると,本件特許による抽出タンパク質(コ
ントロール2)のタンパク質濃度及び被告製品による抽出タンパク質のタ
ンパク質濃度は,いずれも豆乳原液(コントロール1)のタンパク質濃度
よりも濃くなっているから,被告製品は,タンパク質を抽出するといえる,
②SDS-Pageの結果によれば,豆乳原液のバンドパターンと比較し
て,本件特許による抽出タンパク質(コントロール2)のバンドパターン
と被告製品による抽出タンパク質のバンドパターンはほぼ同じパターンを
示しており,被告製品による抽出タンパク質には,豆乳を遠心分離しただ
けでは検出できないタンパク質であるリゾチームが検出できていることか
らすると,被告製品は,タンパク質を抽出するといえるとして,甲34の
追加実験の結果から,被告製品は,構成要件Bの「タンパク質を抽出する」
ことができるとの構成を備える旨主張する。
(ア)そこで検討するに,構成要件Bの「抽出対象液」は,「タンパク質,
水性溶媒,炭素数15~18の高級アルコール,及び炭素骨格中に1つ
の不飽和結合を有する脂肪酸又は飽和脂肪酸を含む,炭素数18の脂肪
酸を含む」との構成であるところ,甲34の追加実験の「抽材」は,豆
乳6mlにオレイルアルコール1ml,オレイン酸2mlを添加し,攪
拌し,15分静置したものであり,「水性溶媒」に相当するものが含ま
れていない。
(イ)また,甲34の追加実験のプロトコルによれば,被告製品を添加し,
15分静置した「抽材」を「1000回転/分にて15分間遠心分離」
し,下層液体の沈殿物を取り出したというものであり,別紙2の取り出
された沈殿物は,遠心分離という物理的作用により生じた可能性が高く,
被告製品によって2層に分離され,タンパク質含有層が形成された結果
生じたものと確認することができない。
これに対し控訴人は,本件明細書の【0060】には,遠心分離の方
法を使用してもよいことが記載されており,本件明細書には,遠心分離
を行うことを排除する旨の記載はない旨主張する。
しかしながら,本件明細書の【0060】の「少なくとも2層に分離
した第1のタンパク質含有層において,タンパク質がいずれの層に存在
するかは,界面検出センサー等によって特定される。通常,タンパク質
は,少なくとも2層に分離したうちの下層に抽出される。また,タンパ
ク質は,クロマトグラフィー,遠心分離機等の方法を使用して,第2の
タンパク質含有層から取り出し,抽出することができる。」との記載は,
2層に分離した第1のタンパク質含有層のうち,分離した第2のタンパ
ク質含有層からタンパク質を「取り出す」際に遠心分離機を用いること
ができることを述べたものであり,第2のタンパク質抽出剤を使用して
第1のタンパク質含有層から分離させて「抽出」させる際に遠心分離機
を用いることができることを記載したものではない。
したがって,控訴人の上記主張は,その前提を欠くものである。
(ウ)さらに,甲35には,「試験方法:提供された試料についてタンパ
ク質濃度をBCA法によりウシ血清アルブミン相当量で定量した。」と
の記載があり,また,甲36には,「試験方法:提供された試料に等量
のサンプル処理液(AE-1430EzApply,ATTO製)を
加え混合し,5分間100℃で加熱処理した後,12.5%ポリアクリ
ルアミドゲルで電気泳動を行なった。」との記載があるが,それぞれの
「提供された試料」についての採取場所,採取量が不明であるため,甲
35及び36の実験結果を基にして,豆乳原液,本件特許による抽出タ
ンパク質及び被告製品による抽出タンパク質についての比較,検討をす
ることはできない。
(エ)以上を総合すれば,甲34の追加実験の結果から,被告製品が添加
された「抽材」が,被告製品によって,2層に分離し,下層にタンパク
質含有層が形成されたものと認めることはできず,被告製品は,構成要
件Bの「タンパク質を抽出する」ことができるとの構成を有するものと
認めることはできない。
したがって,甲34の追加実験の結果によれば,被告製品は本件発明
の構成要件Bを充足するとの控訴人の主張は採用することができない。
(5)小括
以上のとおり,被告製品は,構成要件Bの「タンパク質,水性溶媒,炭素
数15~18の高級アルコール,及び炭素骨格中に1つの不飽和結合を有す
る脂肪酸又は飽和脂肪酸を含む,炭素数18の脂肪酸を含む抽出対象液」か
ら「タンパク質を抽出する」混合液であると認めることはできないから,被
告製品は,構成要件Bを充足しない。
そうすると,その余の点について判断するまでもなく,被告製品は,本件
発明の技術的範囲に属するものと認めることはできない。
3結論
以上によれば,控訴人の請求は,その余の点について判断するまでもなく,
理由がないから,控訴人の請求を棄却した原判決は結論において正当であり,
また,控訴人の当審における拡張請求も理由がない。
したがって,本件控訴及び控訴人の当審における拡張請求は,いずれも理由
がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官大鷹一郎
裁判官中村恭
裁判官岡山忠広
(別紙)
被告製品目録
クレンジングオイル
製品名「DHCウォーターフレンドリークレンジングオイル[F1]」
(全成分)
トリエチルヘキサノイン
DPG
トリイソステアリン酸PEG-20グリセリル
オクチルドデカノール
炭酸ジカプリリル
PEG-7(カプリル/カプリン酸)グリセリズ
ソウハクヒエキス
アロエベラ葉エキス
グリチルレチン酸ステアリル
オリーブ油
スクワラン
トコフェロール
エチルヘキサン酸アルキル(C14-18)
トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリル
フェノキシエタノール
(別紙)
明細書図面
(別紙1)
甲8の実験
1撹拌後20分静置
224時間経過後
348時間経過後
界面
タンパク質
界面
タンパク質
(別紙2)甲34の追加実験
【抽出結果の外観】
左から,コントロール1(豆乳原液),コントロール2(本件特許によるもの),
サンプル(被告製品によるもの)。
【取り出した沈殿の外観】
左から,コントロール1(豆乳原液),コントロール2(本件特許によるもの),
サンプル(被告製品によるもの)。
界面
(別紙3)
SDS-Pageの試験結果
ただし,「リゾチーム」の矢印は,控訴人が付加したもの。
リゾチーム
(別紙4)
乙24の実験

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