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平成16年(行ケ)第51号 審決取消請求事件
平成16年11月9日口頭弁論終結
            判       決
      原      告    フルタ電機株式会社
      訴訟代理人弁護士    小南明也
    訴訟代理人弁理士    竹中一宣
      被      告    株式会社親和製作所
      訴訟代理人弁護士    松本直樹
          主       文
   1 原告の請求を棄却する。
   2 訴訟費用は原告の負担とする。
        事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1)特許庁が無効2003-35204号事件について平成16年1月7日に
した審決を取り消す。
(2)訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
  被告は,発明の名称を「生海苔の異物分離除去装置」とする特許第2662
538号の特許(平成6年11月24日出願(以下「本件出願」という。),平成
9年6月20日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は4である。)の
特許権者である。
  原告は,平成15年5月21日,本件特許を請求項1及び2に関し無効にす
ることについて審判を請求した。
 特許庁は,この請求を無効2003-35204号事件として審理し,その
結果,平成16年1月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決を
し,審決の謄本を同年1月17日に原告に送達した。
2 特許請求の範囲(以下,請求項1,2の発明をそれぞれ「本件発明1」,
「本件発明2」という。別紙図面A参照)
「【請求項1】
 筒状混合液タンクの底部周端縁に環状枠板部の外周縁を連設し,この環状枠
板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌め
し,この第一回転板を軸心を中心として適宜駆動手段によって回転可能とするとと
もに前記タンクの底隅部に異物排出口を設けたことを特徴とする生海苔の異物分離
除去装置。
【請求項2】 前記第一回転板の表面を回転中心から周縁に向かうに従って下
がり傾斜にしたことを特徴とする請求項1の生海苔の異物分離除去装置。」
3 審決の理由
  別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件発明1は,特開昭48-
25968号公報(以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下,審決と
同様に「引用発明」という。別紙図面B参照)に基づいて当業者が容易に発明をす
ることができたものとは認められず,本件発明2も同様の理由で当業者が容易に発
明をすることができたものとは認められないから,いずれも特許法29条2項の規
定に該当せず,本件特許を請求項1及び2のいずれについても無効とすることはで
きない,とするものである。
 審決が上記結論を導くに当たり,本件発明1と引用発明との一致点・相違点
として認定したところは,次のとおりである。
一致点
「筒状本体の底部に第一回転板を,対面する部材との間に僅かなクリアランス
を介して設け,この第一回転板を軸心を中心として適宜駆動手段によって回転可能
とするとともに前記本体の底隅部に異物排出口を設けたことを特徴とする異物分離
除去装置」
相違点
「(a)筒状本体が,後者(判決注・本件発明1)では,混合液タンクである
のに対し,前者(判決注・引用発明)では,第2ろ過室である点
(b)異物分離除去の対象が,後者では生海苔であるのに対し,前者では油な
どの液体である点
(c)回転板が,後者では,底部周端縁に環状枠板部の外周縁を連設し,この
環状枠板部の内周縁内に回転板を略面一の状態で内嵌めされているのに対し,前者
では,底部に設けられたろ過板上を摺動する点」(以下,「相違点(a)」,「相
違点(b)」などという。)
第3 原告主張の取消事由の要点
 審決は,本件発明1の要旨認定を誤り,また,引用発明の認定を誤ったた
め,本件発明1の「混合液タンク」と引用発明の「第2ろ過室」が一致しているに
もかかわらず,これを相違点とみて相違点(a)を認定したものであり,かつ,相
違点(b)についての判断も誤っており,これらの誤りが本件発明1のみならず,
その認定判断を援用している本件発明2についても,その進歩性の結論に影響を及
ぼすことは明らかであるから,取消しを免れない。
1 相違点(a)認定の誤り
(1)本件発明1における「混合液タンク」について
  審決は,本件発明1における「混合液タンク」につき,「回転板の回転に
より液に渦が生じ,液中の異物が,液の渦の回転による遠心力により,液中を外方
へ移動して底隅部に集積しうる程度の液位の液を保持するものであると認められ
る。」(審決書5頁8~10行)と認定した。
  しかしながら,本件発明1は,生海苔の異物分離除去装置の客観的な構成
により特定されるものであり,その請求項1には,「混合液タンク」に一定量以上
の液位の生海苔混合液を入れなければならないとの限定はない。本件発明1の「混
合液タンク」にどの程度の液位の生海苔混合液を入れるかということは,あくまで
も本件発明1に係る異物分離除去装置を実際にどのようにして使用するかの問題で
あり,本件発明1の要旨の認定とは無関係のことである。本件発明1に係る異物分
離除去装置においては,回転板の回転により液に渦が生ずることはあるとしても,
液中の異物が,液の渦の回転による遠心力により,液中を外方へ移動して底隅部に
集積し得る場合もあれば,底隅部に集積しないで,「僅かなクリアランス」の働き
のみによって,生海苔から異物を分離する場合もあってよいのである。本件発明1
の「混合液タンク」は,上記いずれの場合も包含するものであり,あくまでも,生
海苔混合液を蓄えることができる構造のものを意味するにすぎない。
(2)引用発明における「第2シ戸過室21」(以下,刊行物1における「シ戸
過」(「濾過」の略字)との語を,本判決では「ろ過」と記載して引用する。)に
ついて
  審決は,「引用発明においては,第2ろ過室内において,油中の微粒子
は,ろ過刷子9の回転による遠心力によって回転筒8の内周面へ飛散するものであ
る。そして,引用発明においても,第2ろ過室内において,本件発明1のように渦
が生じる程度の液位の油が保持されているとすれば,このような異物が飛散すると
いう作用を奏するものとは考え難い。なぜなら,このような異物が外方へ跳ね飛ば
されるという作用が奏されるためには,ろ過刷子9の回転により,異物に直接遠心力
が作用する程度の薄い層の状態となるように,油がろ過刷子9に供給される必要があ
るものと認められるからである。このことから,引用発明の第2ろ過室21は油を
貯蔵するものとはいえないから,液を貯蔵する容器すなわち「タンク」に該当する
ものであるとはいえない。」(審決書5頁11~21行)と認定判断した。しか
し,この認定判断は誤りである。
(ア)引用発明における第2ろ過室21は,刊行物1の第1図から明らかなよう
に,筒状を呈しており,タンクの構造を備えている。また,本件出願の願書に添付
した明細書及び図面(以下「本件明細書」という。)にも,このタンクについて
「また,この実施例では筒状混合液タンクの例として円筒状のものを採用したが,
混合液タンクはこの形状に限定されるものではなくいかなる形状の筒状をしたもの
であってもよい。」(甲3号証の1【0027】)と記載されているのであり,タ
ンクの形状としては「筒状」であるとの限定しかない。
  審決が認定したとおり,「タンク」とは,「液体や気体をたくわえてお
く容器。水槽,油槽(オイルタンク),ガスタンクなど。」「液体や気体を貯蔵す
るための容器」(審決書4頁34~37行)である。本件発明1の「混合液タン
ク」に該当するかどうかは,その客観的構造から判断すべきであり,その中に液体
が蓄えられている場合は「混合液タンク」であるが,液体が蓄えられていない場合
は「混合液タンク」には該当しない,との判断は明らかに誤りである。
(イ)本件発明1における「混合液タンク」も,その内部に海苔混合液を供給
するものではあるものの,「海苔混合液を貯蔵する」ものではない。すなわち,同
タンクに海苔混合液を供給しても,それは,一時的に蓄えられるにすぎず,クリア
ランスを介して下方へ流れ,最終的には,バッチ水槽10に流れ落ち,そこで貯蔵
されるのである。したがって,審決の「引用発明の第2ろ過室21は油を貯蔵する
ものとはいえないから,液を貯蔵する容器すなわち「タンク」に該当するものであ
るとはいえない。」との前記認定によれば,本件発明1の実施例の「主タンク9
0」「連設タンク61」も「筒状混合液タンク」ではない,ということになるので
ある。
(ウ)審決の「油中の微粒子は,ろ過刷子9の回転による遠心力によって回転筒
8の内周面へ飛散するものである。」との上記認定は誤りである。
  刊行物1には,「油は第1ろ過室20より第1図の矢印A20の方向へ流れ,
ろ過刷子9上へ落下し,ろ過刷子9の1500r.p.mの回転により遠心力を受け,油中の微
粒子を回転筒8の内周面へ飛散せしめる。回転筒8は翼24があるので,油の流れと共
に回転し,微粒子を移送しつつその孔23より外周へ排出し,蓄積した微粒子は排出
管18より機外へ放出される。油は回転筒8の内周を流下しろ過刷子9とろ過板7との摩
擦間隙へ流れる。」(甲3号証の3,2頁左上欄14行~右上欄2行。下線は原告
加入)と記載されている。すなわち,油(異物である微粒子を含む。)が,ろ過刷
子9(回転板)上へ落下し,回転筒8の内周面とろ過刷子9の羽根10の間の空間部(以
下「本件空間部」という。)に流れ込み,間隙(矢印A10の方向)の方向へ流れ,そ
こで精密ろ過を受ける。しかしながら,油内の微粒子は,間隙を通過することがで
きないため,本件空間部を回転しながら,遠心力を受けて回転筒8の内周面に飛散
し,回転筒8の孔23から外周へ排出されるのである(別紙参考図参照)。したがっ
て,引用発明における本件空間部には,油(異物である微粒子を含む。)が充満さ
れた状態になっており,ろ過刷子9(回転板)の回転により渦が生じているとしか理
解できないのであり,審決の上記認定判断は誤りである。
2 相違点(b)についての判断の誤り
(1)審決は,「異物が飛散する引用発明において,仮に対象物として,生海苔
を選択した場合には,回転板2やろ過刷子9の回転による遠心力により,固形物で
ある生海苔自体が,異物と同様に飛散するであろうことが予想される。このよう
に,引用発明を生海苔に適用しても,異物の除去という目的を達成できないことが
予想されるのであるから,引用発明を生海苔からの異物の分離に用いようとするこ
とは,当業者として通常考えないことであると言わざるを得ない。」(審決書6頁
1~7行)と判断した。しかし,この判断は誤りである。
(ア)刊行物1においては,「ろ過刷子9の1500r.p.mの回転により遠心力を受
け」(甲3号証の3・2頁左上欄15~16行)と記載されているものの,これは
単なる例示であり,このような高速回転でなければならないとの特段の限定はな
い。それにもかかわらず,審決は,引用発明について高速で回転しなければならな
いとの誤った先入観から,「ろ過刷子9の回転による遠心力により,固形物である生
海苔自体が,異物と同様に飛散する」などと判断したのであるから,明らかに引用
発明の内容を見誤っている。
(イ)引用発明の本件空間部には,ろ過対象物(油などの液体)が蓄えられ
る。そして,ろ過刷子9の回転により,本件空間部の内部に蓄えられた液体(油)が
ぐるぐると回転し,渦を形成し,一部は摩擦間隙を通過し,孔11を通って収液室
25へ流れ,排出パイプ13より,吸引ポンプで機外へ排出される(甲3号証の3,第
8図の矢印A10参照)。液体の一部は流れに沿って本件空間部を回転し,また,その
一部は微粒子(異物)と共に遠心力を受けて,回転筒8の孔23からその外周へ排出さ
れる(別紙参考図[図1-1・2]参照)。
  この外周に排出された液体(油)と微粒子(異物)は,外周部分に一時
蓄えられ,いずれは排出管18を介して機外へ放出される(甲3号証の3,2頁左上
欄20行~右上欄1行)。また,外周へ排出された液体(油)の一部は,排出管1
8を介してそのまま異物と共に機外へ放出されるものの,液体の大部分は,液体
(油)自体の流動性により,第2ろ過室の中心部分,すなわち,ろ過刷子とろ過板
7の間の摩擦間隙へ流れ込む。排出管18に逆止弁17(甲3号証の3・2頁左上欄5
行)が設けられていることから,排出管18には微粒子(異物)を含んだ液体(油)
が蓄えられるものの,この量は一部であり,その大部分は,排出管18より流出して
外周に蓄積されていることが明らかである。
  ろ過作業を実行している間(注入パイプ14から液体を注入し,ろ過刷子
9を回転させている間)は,逆止弁17を閉鎖しているため,微粒子(異物)は液体
(油)と共に排出管18に蓄積されているが,同時に外周にも微粒子(異物)と液体
(油)は蓄えられていく(別紙参考図の[図2]参照)。そして,ろ過作業を終了
させた段階で,逆止弁17を開放し,必要に応じて洗浄用液体(油)を供給して,機
外へ液体(油)と共に,微粒子を放出するものである。
  液体(油)と異物の完全な分離は不可能であり,いわば,排出管18から
放出する液体(油)における微粒子(異物)の濃度が相当高いという程度のもので
ある。排出管18より回収される微粒子(異物)は,それ自体を完全に分離できるの
ではなく,液体(油)の中に混じった状態(但し,ろ過前に比較すれば,かなり濃
度が高い状態)として回収されるのである。
  審決は,異物が「飛散」するという表現のみを取り出して,異物だけが
飛び散って排出管18に蓄えられると誤解しているようであるが,そのようなことは
遠心分離の常識からして不可能である。
(ウ)本件明細書においては,異物は環状枠板73,23側に「集積」すると記載
されている(甲3号証の1・6欄30行,40行)。しかしながら,この集積は,
異物のみが,生海苔混合液と完全に分離された状態で集積しているのではなく,生
海苔混合液自体も外周側に蓄積され,最終的には,生海苔混合液も異物とともに廃
棄物として外部に放出される。すなわち,本件発明1においては,生海苔混合液に
渦が生じ,液中の異物が生海苔混合液と共に外方へ移動し底隅部に集積するという
のであるから,異物のみならず,異物を含んだ生海苔混合液が,一部は環状枠板部
上部に集積し,一部は開口した排出路25・連通路27の口の中に入り,排出路25,連
通路27内に蓄えられる,ということである(別紙参考図【図3,4】参照)。したが
って,コック261,761を開いて異物を排出する際には,当然,それと共に排出路,
連通路に混入した生海苔混合液も外部へ排出されることになる。
  以上からすれば,引用発明の対象物として生海苔を選択した場合にも,
本件発明1と全く同じ作用をすることは明らかである。
(2)審決は,「引用発明は,油等の液体をろ過するものであり,微粒子等の固
体を除去することにより,液体のみを得ようとするものであると認められる。それ
に対して,本件発明1は,生海苔と水との混合物から異物を除去するが,生海苔自
体はクリアランスを通過させるものであり,すべての固体を除去することを目的と
するものではない。したがって,この点からも,固体のすべてを異物として除去す
ることを目的とする引用発明を,生海苔のような特定の固体は通過させながら,他
の異物を分離する必要のある生海苔の異物分離に用いることは,当業者として通常
考えない」(審決書6頁8~15行)と判断した。しかし,この判断は誤りであ
る。
 本件発明1の前提となった従来技術(特開平6-121660号公報(甲
3号証の2。以下「甲3の2文献」という。)に記載された技術)は,明らかに従
来から存在するろ過装置などの公知技術を生海苔の異物除去機に転用したものであ
る。また,生海苔の異物除去に関する先行技術(特開平3-183459号公報
(甲3号証の7)においては,異物除去機を「フィルター」(ろ過器)と称してい
る。異物分離とろ過が同一の技術分野に属することは明らかである(甲3号証の7
~13参照)。
 生海苔混合液中に含まれる異物を生海苔(及び水)と分離させるために隙
間を用いるという知見は公知技術であり,出願人は本件出願時においてこれを明確
に認識していた(甲3号証の1【0002】,甲3号証の2参照)。すなわち,生
海苔混合液と異物の分離において隙間を利用することが公知技術であることを前提
とすれば,その異物分離のための装置として,刊行物1で開示された構造を採用す
ることは,当業者にとって容易である。
 このように,「異物分離」と「ろ過」はほぼ同じ技術分野に属するのであ
るから,当業者が,生海苔混合液から異物を分離する装置として「ろ過」分野に属
する装置である引用発明の構成を選択することは極めて容易なのである。
第4 被告の主張の骨子
1 相違点(a)認定の誤りについて
(1)引用発明の認定の誤りについて
  刊行物1では,ろ過の対象物の油が「ろ過刷子9上へ落下し」と記載されて
いる。刊行物1のこの表現からすれば,引用発明の第2ろ過室部分には油は僅かし
か貯まっていない。少なくとも,本件発明1のように,生海苔と水との混合液(生
海苔混合液)が溜まっていて,それが回転し,その液体中で重い異物が周辺に異動
する,というものとは明確に異なる。
(2)本件発明1の認定の誤りについて
 生海苔の異物分離器において,異物が通過できないような隙間を通すなら
ば,異物が除去されることになるのは,ある意味で当たり前のことである。しか
し,その隙間を生海苔が通過することができないことから,うまく異物分離を実施
することができないというのが,現状であった。
 生海苔の異物分離器についての従来技術が記載されている甲3の2文献に
おいても,これを解決しようとする課題の記載はあるものの,うまく解決できる方
策が示されてはいないのである(甲3の2文献においては,「清掃装置」によって
解決されると書いてあるだけであり,いかなる清掃装置によって解決できるかにつ
いて,意味のある開示は示されていない。)。
 生海苔は,極めて薄いものであるから,狭い隙間を通過させることはある
程度は可能であるものの,満足できるだけの量を通過させることは極めて難しく,
実際,本件発明1によって,初めて十分に実用的な生海苔の異物除去装置ができた
のである。
2 相違点(b)についての判断の誤りについて
 引用発明において摩擦間隙を通過させる対象物は「油」であり,本件発明1
においてクリアランスを通過させる対象物は「生海苔」である。刊行物1には,生
海苔を通過させ得るとの知見が記載されていないのである。液体である「油」が通
過していくのは,当たり前のことであり,生海苔を通過させ得るという知見とは結
び付かない。
 しかも,引用発明では,ろ過の対象物が油であることに応じて,その構成も
作用も本件発明1とは異なる。審決が認定した相違点(a)のタンクの点がその一
つである。遠心力の作用と隙間通過の作用を両方とも利用するという点では共通す
るにしても,その構成と作用には相当な相違があるのであり,引用発明によって本
件発明1の進歩性が否定されることはない。
第5 当裁判所の判断
1 相違点(b)についての判断について
(1)刊行物1には,次のように記載されている(甲3号証の3)。
(ア)「中央に孔11を有するろ過板7の上面に,羽根10,翼12よりなるろ過刷子
9を昇降自在に圧接せしめ,かつ高速回転せしめた液体回転ろ過機。」(1頁・2.
特許請求の範囲)
(イ)「この発明は油などの液体の回転ろ過機に関するものである。従来,遠心
力や,ろ過層を利用して油をろ過する装置が知られているが,遠心力による場合は
回転板の回転数に限度があり,またろ過層による場合はろ過層面に粒子が集積し
て,ろ過効率の向上に難点があつた。この発明は上記の欠点を改良するもので,遠
心力による分離作用と回転する摩擦間隙による分離作用とを併用し,ろ過効率を向
上せしめた液体回転ろ過機を得ることを目的とする。」(1頁左下欄9~19行)
(ウ)「下方のろ過板7の上面にテフロン製羽根10,翼12を持つたろ過刷子9(第
3図,第4図)を設け,ろ過刷子9は回転板2の下側に固着したスプリング3を介し
て,主軸1と共に回転し,かつろ過板7上を摺動する。ろ過刷子9の周囲に,除塵用回
転筒8を設け,その回転筒8は第5図,第6図に示すように,多数の孔23があけら
れ,羽根24を持つており,羽根24に油が当り自由に回転する。本体6は第1ろ過室
20,第2ろ過室21,集液室25に区画され,第1ろ過室20には注入パイプ14と廃出管
15を設け,第2ろ過室21には廃出管18を設け,集液室25にはろ過液の排出パイプ
13を設ける。」(1頁右下欄10行~2頁左上欄3行)
(エ)「この発明の作用を説明すると,原液を原液注入パイプ14より,第1ろ過
室20へ注入し,回転板2の上面へ落下させる。原液は高速回転(1500r.p.m)してい
る回転板2の遠心力により油と荒塵に分離され,本体6内壁に飛散した荒塵は
60r.p.mの除塵板22により第2図の矢印A22の方向に移送され,廃出管15より機外に
放出される。油は第1ろ過室20より第1図の矢印A20の方向へ流れ,ろ過刷子9上へ
落下し,ろ過刷子9の1500r.p.mの回転により遠心力を受け,油中の微粒子を回転筒
8の内周面へ飛散せしめる。回転筒8は翼24があるので,油の流れと共に回転し,微
粒子を移送しつつその孔23より外周へ排出し,蓄積した微粒子は廃出管18より機外
へ放出される。油は回転筒8の内周を流下しろ過刷子9とろ過板7との摩擦間隙へ流れ
る。」(2頁左上欄7行~右上欄2行)
(オ)「油は第8図に示すように羽根10とろ過板7との間隙を矢印A10の方向に流
れ,ここで精密ろ過を受け,孔11を通つて集液室25へ流れ,さらに排出パイプ13よ
り,吸引ポンプ(図示していない)で機外へ吐出される。微粒子はその間隙へ入る
ことができず前記の如く回転筒8の外へ流れる。」(2頁右上欄8~14行)
(2)刊行物1の上記記載によれば,引用発明は,油などの液体の回転ろ過機に
関するものであり,油などの液体から異物を除去することを目的とするものであっ
て,その構成及び作用は次のとおりである。
  引用発明における第2ろ過室21は,「回転板2の下側に固着したスプリング
3を介して,主軸1と共に回転し,かつろ過板7上を摺動するろ過刷子9」と,「ろ過
刷子9の周囲に,多数の孔23があけられ,羽根24を備えている除塵用の回転筒8」な
どから成る。
  引用発明においては,油は第1ろ過室20から,刊行物1の第1図の矢印
A20の方向へ流れ,ろ過刷子9上へ落下し,ろ過刷子9の1500r.p.mの回転により遠心
力を受け,油中の微粒子を回転筒8の内周面へ飛散せしめる。回転筒8は翼24がある
ので,油の流れと共に同回転筒が回転し,微粒子を移送しつつ,微粒子をその孔
23から回転筒の外周へ排出し,外周に蓄積した微粒子は廃出管18より機外へ放出さ
れる。一方,油は,回転筒8の内周を流下しろ過刷子9とろ過板7との摩擦間隙へ流
れ,孔11を通って集液室25へ流れ,さらに排出パイプ13より,機外へ吐出される。
微粒子は,上記摩擦間隙へ入ることができず,上記のとおり回転筒8の外周から機外
へ排出される。
以上からすれば,引用発明に係る液体回転ろ過機に生海苔混合液を入れる
と仮定すると,生海苔混合液は,ろ過刷子9上に落下した後,ろ過刷子9の高速回転
による遠心力を受け,同混合液が生海苔や他の異物と共に回転筒8の内周面へ飛散さ
せられ,回転筒8は翼24があるので,生海苔混合液と共に同回転筒が回転し,生海苔
や他の異物を移送しつつ,相当な量の生海苔と他の異物のいずれもその孔23から外
周へ排出され,その後機外へ放出されることが予想され,生海苔異物分離器とし
て,生海苔と異物を分離するとの機能を奏するものとは到底考えにくいものであ
る。すなわち,引用発明における回転筒8の孔23は,刊行物1の第5図に示されると
おり,油などの液体中の異物を取り出すため,相対的にかなり大きな径の孔が多数
あけられているのであり,このような回転筒8を生海苔混合液に使用すれば,その遠
心力の作用も加わって,生海苔も異物もその孔23から回転筒外周へ排出されてしま
うことが容易に想到されるのであり,油などの液体の回転ろ過機である引用発明か
ら本件発明1の生海苔の異物分離除去装置を想到する動機付けがないというべきで
ある。本件発明1は,環状枠板部の内周縁と,回転可能な第1回転板の間の略面一
の僅かなクリアランス(引用発明においては,ろ過刷子9とろ過板7間の摩擦間隙が
これに対応する。)を生海苔が通過して,生海苔と異物とを分離するとの技術思想
から成るものである(本件明細書の請求項1参照)のに対し,引用発明は,上記の
とおり,油などの液体から異物を分離するために,まず異物を回転筒8の孔23からそ
の外周に排出し,その後,油などの液体を上記摩擦間隙から回収するとの技術思想
から成るものであるから,油などの液体から異物を分離する引用発明から,油など
の液体に代わり生海苔を上記摩擦間隙から回収し,生海苔混合液中の生海苔から異
物を分離する本件発明1の構成に想到することは当業者にとっても容易ではないと
いうべきである。
審決の「異物が飛散する引用発明において,仮に対象物として,生海苔を
選択した場合には,回転板2やろ過刷子9の回転による遠心力により,固形物であ
る生海苔自体が,異物と同様に飛散するであろうことが予想される。このように,
引用発明を生海苔に適用しても,異物の除去という目的を達成できないことが予想
されるのであるから,引用発明を生海苔からの異物の分離に用いようとすること
は,当業者として通常考えないことであると言わざるを得ない。」(審決書6頁1
~7行),「また,引用発明は,油等の液体をろ過するものであり,微粒子等の固
体を除去することにより,液体のみを得ようとするものであると認められる。それ
に対して,本件発明1は,生海苔と水との混合物から異物を除去するが,生海苔自
体はクリアランスを通過させるものであり,すべての固体を除去することを目的と
するものではない。したがって,この点からも,固体のすべてを異物として除去す
ることを目的とする引用発明を,生海苔のような特定の固体は通過させながら,他
の異物を分離する必要のある生海苔の異物分離に用いることは,当業者として通常
考えないことであると言わざるを得ない。」(審決書6頁8~16行)
との判断に誤りはない。
(3)原告は,審決が,引用発明について高速で回転しなければならないとの誤
った先入観から,「ろ過刷子9の回転による遠心力により,固形物である生海苔自体
が,異物と同様に飛散する」などと判断したのであるから,明らかに引用発明の内
容を見誤っている,と主張する。
  しかし,刊行物1には,「ろ過刷子9の1500r.p.mの回転により遠心力を受
け」(甲3号証の3・2頁左上欄)と記載されていることからすれば,この回転数
が単なる例示として記載されたものであるとしても,引用発明のろ過刷子9の回転
は,遠心力を生じさせ,異物を回転筒8に飛散させることを目的としたものと認めら
れるのであるから,引用発明に生海苔混合液を用いれば,同混合液中の生海苔も異
物と同様に飛散することになるとした審決の判断に誤りはない。
  原告は,引用発明において,液体(油)と異物の完全な分離は不可能であ
り,いわば,排出管18から放出する液体(油)における微粒子(異物)の濃度が相
当高いという程度のものであるから,審決は,異物が「飛散」するという表現のみ
を取り出して,異物だけが飛び散って排出管18に蓄えられると誤解している,と主
張する。
しかし,引用発明に係る液体回転ろ過機に生海苔混合液を入れるとすれ
ば,相当な量の生海苔が異物と共に回転筒8の外周に排出され,排出管18に蓄えられ
ることが問題なのであり,排出管18に蓄えられた生海苔や異物と液体とが完全に分
離されないまま蓄えられているかどうかは,本件発明1の容易想到性についての判
断とは無関係のことであり,原告の主張は失当である。
原告は,また,本件発明1においては,異物のみが生海苔混合液と完全に
分離された状態で集積しているのではなく,生海苔混合液自体も外周側に蓄積さ
れ,最終的には,生海苔混合液も異物とともに廃棄物として外部に放出されるか
ら,引用発明の対象物として生海苔混合液を選択した場合にも,本件発明1と全く
同じ作用をすることは明らかである,と主張する。
しかし,引用発明に係る液体回転ろ過機に生海苔混合液を入れるとすれ
ば,相当な量の生海苔が異物と共に回転筒8の外周に排出され,排出管18に蓄えられ
ることが問題であることは上記のとおりであり,原告の主張は上述したところと同
様の理由により失当である。また,そもそも,本件発明1においては,「この環状
枠板部の内周縁内に第一回転板を略面一の状態で僅かなクリアランスを介して内嵌
めし,この第一回転板を軸心を中心として適宜駆動手段によって回転可能と」(請
求項1)していることから,生海苔が上記クリアランスを通過することにより,生
海苔と異物を上記クリアランスで分離し,その上で,異物が外周側に蓄積されるの
であるから,上記クリアランスに相当するろ過刷子9とろ過板7との間の摩擦間隙に
到達する前に,遠心力と円転筒8の孔23により,回転筒8の外周に生海苔と異物とが
分離されることになる引用発明とは明らかに異なるものである。引用発明と本件発
明1とが全く同じ作用をするとの原告の上記主張はこの点からも採用することがで
きない。
(4)原告は,生海苔混合液と異物の分離において隙間を利用することが公知技
術であることを前提とすれば,その異物分離のための装置として,刊行物1で開示
された構造を採用することは,当業者にとって容易である,とか,「異物分離」と
「ろ過」はほぼ同じ技術分野に属するのであるから,当業者が,生海苔混合液から
異物を分離する装置として「ろ過」分野に属する装置である引用発明の構成を選択
することは極めて容易である,とか主張する。
  しかし,引用発明と本件発明1との技術分野が同一であるとしても,引用
発明の構成から見て,これを生海苔混合液から異物を分離する装置に転用し,本件
発明1に想到することが当業者にとって容易とはいえないことは上記のとおりであ
り,両者の技術分野の同一性あるいは生海苔異物分離装置において隙間を利用する
ことが公知技術であったとしても,この容易想到性の判断に影響するものではな
い。原告の主張は採用し得ない。
2 結論
 以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由は,本件発明1及
び本件発明2のいずれについても,その余の点について判断するまでもなく理由が
なく,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。
 よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行
政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所知的財産第3部
       裁判長裁判官   佐  藤  久  夫
          裁判官    設  樂  隆  一
  裁判官   若  林  辰  繁
(別紙)
別紙図面A別紙図面B参考図

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