弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人は無罪。
理由
第1公訴事実
本件公訴事実は,下記のとおり,薬局で出納帳作成等の業務に従事していた
被告人が,その売上金の一部を前後4回にわたって横領したというものである。
1平成20年3月17日付起訴状の公訴事実
被告人は,北海道甲郡a町b町c番地のd所在のA株式会社B薬局に従業員とし
て勤務し,同薬局の売上金の保管,出納帳の作成等の業務に従事していたもの
であるが,平成18年5月8日,同薬局において同日の売上金を同会社のため
業務上預かり保管中,そのころ同所において,同売上金の一部である現金2万
0880円を,ほしいままに,自己の用途にあてるため,着服して横領したも
のである。
2平成20年4月9日付起訴状の公訴事実
被告人は,北海道甲郡a町b町c番地のd所在のA株式会社B薬局に従業員とし
て勤務し,同薬局の売上金の保管,出納帳の作成等の業務に従事していたもの
であるが,
(1)平成17年6月27日,同薬局において同日の売上金を同会社のため業
務上預かり保管中,そのころ同所において,同売上金の一部である現金1万
9350円を,
(2)同月28日,同薬局において同日の売上金を同会社のため業務上預かり
保管中,そのころ同所において,同売上金の一部である現金1万9400円
を,
いずれも,ほしいままに,自己の用途にあてるため着服して横領したもので
ある。
3平成20年5月16日付起訴状の公訴事実
被告人は,北海道甲郡a町b町c番地のd所在のA株式会社B薬局に従業員とし
て勤務し,同薬局の売上金の保管,出納帳の作成等の業務に従事していたもの
であるが,平成17年4月20日,同薬局において同日の売上金を同会社のた
め業務上預かり保管中,そのころ同所において,同売上金の一部である現金1
万8220円を,ほしいままに,自己の用途にあてるため,着服して横領した
ものである。
第2争点の概要
本件では,被告人が上記のB薬局(以下,「本件薬局」という。)で勤務し
ていたこと,各公訴事実記載の日に,本件薬局の業務データ上,患者へ返金処
理を行ったという架空のデータを作出する処理がなされ,その前後に,返金処
理額に相当する現金が本件薬局の売上金から着服されていたことは当事者に争
いがなく,証拠上も明らかである(以下では,これらの横領事件を,上記の公
訴事実の順に従って,「第1事件」ないし「第4事件」と各々記載するほか,
この4件を「本件各横領事件」と総称することがある。)。
検察官は,上記の各不正処理及び売上金の着服を行ったのは被告人であると
指摘し,被告人が本件各横領事件の犯人であると主張する。
一方で,被告人及び弁護人は,被告人は当該不正処理を行っておらず,本件
薬局の売上金を着服したことも一切ないと主張する。
したがって,本件の争点は,被告人が本件各横領事件の犯人と認められるか
否かということになるが,その判断に際しては,上記各不正処理を行ったのが
被告人であると認められるかが,主要な問題となる。
第3当裁判所の判断
1前提となる事実
本件各証拠によれば,以下の事実が明らかに認められる。
(1)被告人は平成11年4月から平成18年5月中旬頃まで本件薬局で勤務
し,この間,処方箋の入力,市販薬の販売,各営業日における売上金の確認
及び出納帳の作成等の業務を担当してきた。
なお,本件薬局においては,上記の期間,被告人以外にも,薬剤師である
店長以下数名の従業員が稼働していた。
(2)本件薬局では,平成18年5月8日,平成17年6月27日,同月28
日及び同年4月20日の各日,いずれも,本件薬局を利用した患者の保険負
担割合を3割から0割へ変更し,それにより生じた差額を事後的に当該患者
へ返金したという業務データが作出され(以下,この手順による業務データ
の操作を,「本件不正処理」という。),かつ,それらの返金処理がなされ
たことを前提にした出納帳も作成されたが,実際は,その対象とされた患者
は全く返金を受けていなかった。
本件不正処理は,機械の故障等ではなく人為的な操作によるものであって,
これらの事情に照らせば,第1事件ないし第4事件の事件性は明らかである。
(3)なお,本件薬局では,上記の4件以外にも同様の手口による業務データ
の不正操作が行われており,その回数は,平成15年7月31日から平成1
8年5月8日まで,合計1218回,529箇日に上っている(以下,これ
ら多数回のデータ操作を,「一連の不正処理」と総称することがある。)。
2検察官による立証の構造
上記のとおり,本件各横領事件が現実に発生したことは明らかであるものの,
被告人は,捜査段階から一貫してその犯人であることを否認しており,これら
4件の横領事件について,犯人が被告人であることを直接的に示す証拠はない。
そこで検察官は,本件各横領事件がいずれも被告人の犯行であることを立証
するため,まず,Ⅰ:各事件が発生した4期日において,不正処理がなされた
時刻に,被告人以外の従業員全員が通常の業務に従事しており当該不正処理を
行い得なかったことを立証する,すなわち,被告人以外の従業員全員に広義の
アリバイが成立することを証明することで,いわば消去法的に,被告人が本件
不正処理を行ったことを立証しようとした。
次いで,Ⅱ:一連の不正処理につき,その全部が被告人の行為によるもので
あると間接証拠から証明することにより,全体の一部である本件各横領事件も
被告人の犯行であることを立証しようとした。
以下では,これらの立証方法について,順に検討を加えることとする。
3立証方法Ⅰ:他の従業員らのアリバイによる消去法的立証について
(1)前提問題等
ア本件不正処理は,それにより生じた差額を着服する以外の目的を有して
いるとは考えられないから,単独犯か複数犯かの点はともかく,本件不正
処理を行った者が本件各横領事件の犯人であると推認するのが相当である。
そして,証拠(証人C,甲4,71)によれば,本件不正処理は,本件
薬局内のコンピューターを操作して行われたものと認められる。なお,弁
護人は,他の支店等からアクセスされた可能性を指摘するが,本件不正処
理に対応する出納帳が本件薬局で作成され,現実に本件薬局から現金が着
服されていることに照らせば,そのような可能性は現実的とは言えない。
よって,本件各横領事件の犯行日に,被告人を含む本件薬局で勤務した
従業員を特定することができ,かつ,被告人以外の者全員について,本件
不正処理を行うことが不可能といえる事情があったのであれば,被告人を
本件各横領事件の犯人と推認することもできることになるから,こうした
立証方法を一概に否定することは相当でない。
但し,この方法で被告人の犯人性を立証するには,単に,被告人以外の
各従業員が行っていた業務内容を推知するだけでは足りず,それらの者に
本件不正処理を行う機会がなかったことを証明する必要がある。本件不正
処理は短時間でも遂行し得る操作であって(甲80,81等),従業員が
何らかの業務に従事していても,その最中に不正処理を行い得る場合には,
アリバイとしては不十分ということになるからである。
要するに,本件で検察官が立証すべきアリバイは,犯行の現場における
不在証明という本来の意味のものとは異なり,犯行現場である本件薬局に
いた者に,特定の時刻において,特定の操作を行う機会がなかったという
命題なのであり,その立証にはかなりの精密さが必要とされる。
イところで,本件不正処理については,これを行った日時が自動的に記録
されており,その正確性に疑問を生じる要素も見当たらない。
他方,本件各横領事件の犯行日における出勤の有無と,本件不正処理の
行われた時刻における各従業員の業務状況については,本件薬局における
業務の過程でコンピューターに入力されてきたデータ(以下,「本件業務
データ」と総称する。)が中心的な証拠とされている。
この本件業務データは,従業員が調剤・鑑査・指導等の業務を行った際,
その従業員が,各人に割り振られたIDを用いて,当該業務を行った旨を
入力すべきものであるが,後述のとおり,実際には他人のIDを利用して
入力されることがあり,また,各種の業務についても,その始期と終期が
自動的に記録されるわけではないから,本件業務データのみで各従業員の
出勤の有無や勤務状況を正確に知ることはできず,その点については他の
証拠によって補完される必要がある。
ウ本件業務データには,「調剤」「鑑査」「指導」等の業務が入力される。
このうち「調剤」は,患者に処方する薬剤の調合作業を意味するもので
あるが,その入力は,実際の調剤業務がなされた際ではなく,「鑑査」の
入力をする際に併せて行われることが常態化していた(甲24)。
「鑑査」は,調剤作業が正しく行われたことをチェックする業務である。
その入力は,基本的には鑑査業務の終了直後になされるが,場合によって,
「鑑査」を入力した後に実際の鑑査業務を行うこともあった(Dの公判供
述)。
「指導」は,薬剤を患者に渡す際に,その服薬方法を指導し,会計等を
行う業務である。その入力は,業務の後に行われることも,前に行われる
ことも,最中に行われることもあった。
以上の入力は,基本的には実際の業務を行った者が自分のIDで行って
いたが,「調剤」については,「鑑査」を担当した者が調剤業務担当者の
IDを使用して入力するという関係にあった。
また,本件薬局では他の薬局から薬剤師が派遣されて業務を行うことが
あったが,その場合,自身のIDではなく,本件薬局に常勤する薬剤師の
IDを用いて各種の入力がなされていた(甲22,23等)。
更に,本件薬局では,被告人を含め,薬剤師以外の従業員が調剤を行う
ことがあったが,その場合,実際には業務を行っていない薬剤師のIDで
「調剤」の入力がなされ,薬剤師が調剤業務を行ったとする虚偽の記録が
作成されていた(Dの公判供述等)。本件薬局における調剤のうち,いず
れが薬剤師以外の従業員によるものかを正確に特定できる証拠はない。
加えて,本件薬局では,処方箋の受付日よりも前に薬剤を作り置きして
いたこともあり,この場合も,処方箋受付の当日に調剤をした旨,実態に
反する入力がなされていた。本件薬局における調剤のうち,いずれが作り
置きであったかを正確に特定できる証拠はない。
(2)第1事件(平成18年5月8日)について
ア出勤状況
(ア)被告人
被告人は,当日に出勤した記憶がある旨公判廷で供述しており,特に
その信用性を疑うべき事情はない。
被告人は,当日,本件薬局に出勤していたと認められる。
(イ)他の従業員
本件業務データ等によれば,当日出勤していた被告人以外の従業員は,
D,E,F,Gの4名であると一応推測できる。
イ各従業員のアリバイ
証拠(甲11)によれば,当日の不正処理が行われたのは,午前10時
47分48秒,10時48分10秒の2回であるから,この時刻における
アリバイの有無が問題となる。
(ア)D
本件業務データ(甲15)上,DのIDで,午前10時46分48秒
に「指導」の入力がなされていることは認められる。
しかし,同人は,実際の指導業務を終えてから「指導」の入力をする
こともあったというのであるから(Dの公判供述参照),当日も「指
導」入力後に現実の業務が行われたとは断定できず,上記の記録を以て
アリバイと見ることはできない。なお,この「指導」入力の直前に「調
剤」の入力もなされているが,作り置きがあり当日には調剤業務がなさ
れていない可能性を排除できないから,この点も「指導」入力後にその
業務がなされていたことの確実な証拠とはならない。
また,仮に「指導」入力の後に業務が行われたとしても,その業務が
本件不正処理の前に終了した可能性は否定できない。この点については
Dによる再現実験があり,業務に1分16秒を要したというのであるが
(甲105),それを前提にしても1回目の不正処理とは20秒程度の
重なりがあるに過ぎず,誤差の範囲と見ることもできる。
そして,Dは,本件薬局の店長として本件業務データと実際の業務と
の関係を最も詳しく説明できる立場にあり,現に捜査機関に対し,繰り
返しその関係を詳細に説明してきたのである(甲10,24,62,9
1)が,その際,「調剤は薬剤師が行う作業で,その入力も薬剤師が行
っていたので,薬剤師以外の従業員が薬剤師のIDで入力することはな
い」などと明らかな虚偽を述べていた上(甲24),法廷においても,
検察官の尋問に対して「調剤の担当者と調剤の入力IDとは間違いなく
一致する」と事実に反する証言をし,更に,薬剤の作り置きをしていた
時期があったことについても,当公判廷で弁護人から追及されるまでは
全く説明していなかったのである。つまり,Dは本件業務データから業
務状況を再現することが被告人の刑事責任を判断する上で重要であるこ
とを承知しながら,再現の信頼性に直結する問題について虚偽の説明を
し,或いは虚偽の証言をし,或いは殊更に秘匿していたのであり,かか
る不誠実な姿勢に照らせば,再現実験の中立性,正確性にも相当の疑問
を感じざるを得ない。
よって,Dにアリバイが成立すると見ることはできない。
(イ)E
本件業務データ(甲15)上,EのIDで,午前10時53分03秒,
午前10時53分13秒に「調剤」の入力がなされていること,その患
者については,午前10時37分15秒,午前10時38分02秒に処
方箋が入力されており,この日に調剤がなされたとすれば,その作業は
上記処方箋入力の後であったこと,Eによる再現実験等によれば,当該
調剤作業には最短でも約11分26秒を要するとの結果が出たこと(甲
101ないし103)が認められる。
しかし,その調剤についても,作り置きがあり当日には実際の作業を
行っていなかった可能性は排除できない。Dは,平成18年には作り置
きをしていなかった旨証言するが,先に指摘した説明の経緯等に照らし,
容易に信用することができない。
その調剤が当日に行われていたとしても,上記再現実験は複数回実施
されているところ,その中には最長で34分37秒を要したものもあり,
秒単位のアリバイを検討する材料とできる正確性を有しているのか甚だ
疑問であるし,Eも,調剤は薬剤師の仕事であって薬剤師以外の従業員
が薬剤師のIDで入力することはない旨虚偽の供述をしていた上(甲9
2),薬剤を作り置きしていた事実も公判の段階に至って初めて説明し
たもので,当時の勤務状況を公平中立な姿勢で再現しているのか懸念せ
ざるを得ず,本件不正処理の時刻に調剤が行われていたと断じることは
できない。
更に,本件不正処理の時刻に調剤業務が行われていたとしても,本件
不正処理自体は短時間で可能な作業であり(甲80,81),調剤業務
の最中にこれを行うことも可能であるから,十分なアリバイと見ること
はできない(甲100によれば,調剤作業中に,他の作業が行われてい
た例もあることが認められる。)。
よって,Eにも,アリバイが成立すると見ることはできない。
(ウ)F
本件業務データ(甲15)上,DのIDで,午前10時53分06秒,
午前10時53分16秒に「鑑査」の入力がなされていること,この入
力とそれに対応する鑑査業務は,実際にはFが行っていたこと,同人に
よる再現実験では,その業務と入力に併せて6分23秒を要したことは,
証拠(甲18,23,26)から認めることができる。
もっとも,Fは,このときは鑑査業務が終わってから入力の作業を行
っていると判断できる旨を供述するが(甲26),その根拠は不明であ
って,第1事件から2年以上を経過した時点での,細かい業務態様に関
する説明であることも考慮すると,業務が入力に先行していたと断定す
ることはできない。
仮に,Fの供述するとおり「鑑査」の入力前に鑑査業務が行われてい
たとしても,再現実験によれば本件不正処理と重複する時間帯は1分未
満である上,その再現実験は,対象日から2年以上を経過した時点でな
されたもので,正確性に疑問が残る(なお,Fは,再現実験当日に作成
された調書で,被告人を今回の事件の犯人と断定した上で,化粧が濃い
とか水商売をしている感じであるとか,調書の趣旨たる業務内容の再現
とはおよそ関係のない評価を述べており,バイアスが混入している虞も
大きい。)。
加えて,そもそも,Fが上記の鑑査の対象とした調剤が,この日に行
われていなかった可能性があることも上述のとおりである。
よって,Fにも,アリバイが成立すると見ることはできない。
(エ)G
本件薬局の処方箋受付機によって,午前10時55分に受付の打刻が
なされた処方箋が存在すること,その受付機に内蔵されている時計は,
平成20年6月の時点で実時刻より8分08秒進んでいることは認める
ことができる(甲19)。
しかし,処方箋受付を行ったのが被告人ではなくGであると確実に認
定できる証拠はない(この点に関する甲27は,Gが,平成20年6月
に,平成18年5月8日における本件薬局内の状況や業務内容等を詳細
に供述した調書であるが,2年以上前のありふれた場面を具体的に説明
していること自体が不自然で信用性に乏しいというべきである。)。
仮にGが上記の処方箋受付を行っていたとしても,受付機の時計が第
1事件の当日にどれだけ進んでいたのかを示す証拠はなく,本件不正処
理の瞬間に処方箋受付が行われていたか否かは不明である。
よって,Gにも,アリバイが成立すると見ることはできない。
ウ結論
以上のとおり,第1事件については,被告人以外のいずれの従業員にも
アリバイが成立するとは認められないから,この立証方法により被告人の
犯人性を認定することはできない。
(3)第2事件(平成17年6月27日)について
ア出勤状況
(ア)被告人
証拠(甲37)によれば,この日,被告人が本件薬局に出勤していた
ものと認めることができる。
(イ)他の従業員
証拠(甲35,37)によれば,この日に出勤していた被告人以外の
従業員は,E,H,Iの3名であったと推測される。
イ各従業員のアリバイ
本件業務データによれば,当日の不正処理が行われたのは,午前11時
16分59秒,11時17分27秒の2回であるから,この時刻における
アリバイの有無が問題となる。
(ア)E
本件業務データ(甲37)上,EのIDで午前11時25分21秒に
「調剤」,午前11時25分24秒に「鑑査」の入力がなされているこ
と(患者名:J),本人の再現実験によれば,当該作業には合計で約1
0分を要するとの結果が出たこと(甲95)は認められる。
しかし,その調剤についても,前日までの作り置きがあり,当日には
実際の作業が行われていない可能性が否定できない。Eは,この調剤に
ついては作り置きをしていないなどと公判で供述したが,証言の経緯等
に照らしてにわかに信用できない。
仮に,当日に上記の調剤作業等が行われていたとしても,再現実験の
正確性については前記の理由から疑問を差し挟まざるを得ず,本件不正
処理の時刻と調剤業務が重複していたと断定することはできない。
なお,検察官は,午前11時25分00秒にはIがEのIDで「調
剤」(患者名:K)の入力をしており本件不正処理の時刻にはこの調剤
業務も併行して行われていたと主張するが,こちらの調剤についても作
り置きでない保証はない上,そもそも,本件薬局では「鑑査」入力の際
に「調剤」入力を行う慣行があったから,「調剤」の入力時刻から実際
の調剤業務がなされた時間帯を推認することはできず,上記の主張は採
用できない。
よって,Eにアリバイが成立すると見ることはできない。
(イ)H
本件業務データ(甲37)上,DのIDで,午前11時18分13秒,
同16秒に,「調剤」,「鑑査」の入力があること(患者名:L),1
1時19分24秒に「鑑査」の入力があること(患者名:M),これら
の入力はHが行っていたこと,同人による再現実験では,Lの調剤と鑑
査には24秒を,Mの調剤と鑑査には3分23秒をそれぞれ要したこと
は,証拠(甲42,45)によって認めることができる。
しかし,Lの調剤業務は単純な内容であるから(甲42),実際はH
でなく被告人がその作業を行っていた可能性がある。
また,Hの説明(甲48,49,公判供述)によれば,上記業務は,
Lの鑑査業務→Mの鑑査業務→Lの鑑査入力→Mの鑑査入力という順で
なされたというのであるが,本件薬局では「鑑査」入力は鑑査業務の終
了直後に行われることが通例のはずであり,この日については何故通常
と違う取り扱いがなされたと断定できるのか疑問である(なお,仮にH
の上記説明が正しいとすれば,それは,鑑査業務の終了直後に「鑑査」
の入力がなされるとは限らないということを意味するのであり,検察官
の本件におけるアリバイ立証全般の前提が崩れることになる。)。
結局のところ,問題の時間帯におけるHの業務状況は不明確というほ
かなく,同人にアリバイが成立すると見ることはできない。
(ウ)I
本件業務データ(甲37)上,DのIDで,午前11時16分51秒
に「指導」の入力があること,この入力と指導業務は,実際にはLが行
っていたこと,同人による再現実験では,その指導業務に1分47秒を
要したことは,証拠(甲41,46,50)から認められる。
Lは,「指導」の入力後に実際の指導業務を行うということであり
(甲50),再現実験が必ずしも正確でないとしても,僅か8秒で指導
業務が終わるとは思われないこと,業務対象となる患者が本件薬局内に
いなかったことを疑わせる事情はないこと(甲30参照),指導業務の
際には患者が面前にいることから,その最中に本件不正処理を行うのは
困難であること等を考慮すると,Lには本件不正処理を行う現実的な機
会が乏しかったというべきである。
よって,Lについては,アリバイが成立すると見てよい。
ウ結論
以上のとおり,第2事件については,Lにはアリバイを認められるも
のの,E及びHの両名には検察官の主張するアリバイがあるとはいえず,
この立証方法により被告人の犯人性を認定することはできない。
(4)第3事件(平成17年6月28日)について
ア出勤状況
(ア)被告人
証拠(甲37)によれば,この日,被告人が本件薬局に出勤していた
ものと認めることができる。
(イ)他の従業員
証拠(甲35,37)によれば,この日に出勤していた被告人以外の
従業員は,E,I,Gの3名であったと推測される。
イ各従業員のアリバイ
本件業務データによれば,当日の不正処理が行われたのは,午前10時
58分06秒,10時58分33秒の2回であるから,この時刻における
アリバイの有無が問題となる。
(ア)E
本件業務データ(甲37)には,EのIDで午前11時20分46秒
に「調剤」の入力があること(患者名:N),再現実験上,その業務に
は16分51秒を要したこと(甲99)は認められる。
しかし,この調剤についても作り置きの可能性が否定できないことは
E本人が公判廷で認めるところであるし,仮に,この日に実際の調剤業
務が行われていたとしても,その作業時間帯を正確に把握できる証拠は
ない。この点,検察官は,Oの調剤業務が先行して行われており,それ
が終わった午前10時55分40秒ころから引き続きNの調剤業務を始
めたと主張するのであるが,Oの調剤業務自体この日に行われたのか不
明であり,仮にその調剤業務があったとしても,終了後直ちにNの調剤
業務を始めたことを認定できるだけの証拠はない。
更に,本件不正処理の時刻にNの調剤業務が実際に行われていたと仮
定しても,その最中に本件不正処理を行うことが不可能とはいえない
(現に検察官は,この日,EがOの調剤業務をしている最中にPへの指
導業務,その「指導」入力,同人の会計業務を併行して行っていた旨主
張している他,後述の第4事件についても,Dが調剤の業務中に他の患
者に関する鑑査業務,調剤入力,鑑査入力,指導入力,指導業務,会計
業務を次々と行ったとの主張立証をしているのであるから,調剤業務中
であっても他の行動をなしえないというわけではないと思われる。)。
よって,Eにアリバイが成立すると見ることはできない。
(イ)I
本件業務データ(甲37)上,DのIDで,午前10時58分58秒
に「鑑査」の入力があること,この入力と鑑査業務は,実際にはLが行
っていたこと,同人による再現実験では,その鑑査業務に2分27秒を
要したことは,証拠(甲44,47,50)から認められる。
しかし,Lの供述(甲50)は,鑑査対象となる調剤業務が同日に行
われたことを前提にしているのであるが,この鑑査は上記Oの調剤業務
に関するもので,前記のとおり,同人の調剤業務が当日になされた確証
はない。これが作り置きだったとすれば,Lの供述や再現実験は実態に
反するものとなっている可能性がある。
よって,Lにアリバイが成立すると見ることはできない。
(ウ)G
Gは,検察官の主張立証を前提にしても,問題の時間帯にいかなる作
業をしていたか特定できず,待機中と推測されるということであって
(甲39,52),これがアリバイに当たらないことは明白である。
ウ結論
以上のとおり,第3事件については,被告人以外のいずれの従業員にも
アリバイが成立するとは認められないから,この立証方法により被告人の
犯人性を認定することはできない。
(5)第4事件(平成17年4月20日)について
ア出勤状況
(ア)被告人
証拠(甲57,58)によれば,当日,被告人が本件薬局に出勤して
いたことを一応のところ推認することができる。
(イ)他の従業員
証拠(甲57,58)によれば,この日に出勤していた被告人以外の
従業員は,D,E,Qの3名であったと推測される。
イ各従業員のアリバイ
本件業務データによれば,当日の不正処理が行われたのは,午前10時
01分50秒,10時02分19秒,10時02分58秒,10時03分
26秒の4回であるから,この時刻におけるアリバイの有無が問題となる。
(ア)D
本件業務データ(甲58)上,DのIDで,午前10時02分09秒
に「鑑査」,同17秒に「指導」の入力が順次なされていること,この
入力はD本人が行ったことが認められる。
この鑑査の対象となる調剤については作り置きの可能性を否定できず,
鑑査業務の存否についても曖昧さが残るが,指導業務については実際に
Dが行ったものと推認できる(甲54参照)。そして,その指導業務が
「指導」入力の前後いずれで行われたかは判然としないが,当該「指
導」入力の前後30秒以内に本件不正処理(1回目及び2回目)が行わ
れていることからすると,Dは,少なくとも本件不正処理のうち1回目
か2回目が行われた時間帯には,指導業務に従事していたと推認できる。
指導業務の最中に本件不正処理を行うのは困難と思われることは,先に
述べたとおりである。
よって,Dについては,本件不正処理の一部につきアリバイが成立す
ると見てよい。
(イ)E
本件業務データ(甲58)には,EのIDで午前10時04分43秒
に「鑑査」の入力があること,再現実験上,その業務と入力には5分2
4秒を要したこと(甲60)は認められる。
しかし,その鑑査対象となった調剤については,作り置きの可能性を
否定できず,本来の手順による鑑査業務が行われていたかは疑問が残る。
Eは,作り置きをしていた場合でも鑑査の手を抜くことは絶対にないな
どと証言するが,作り置きに関する供述を始めた経緯に照らせば容易に
信用することができない。
仮に当該鑑査業務が問題の時刻に行われていたとしても,その最中に
本件不正処理を行うことが不可能とはいえない。
よって,Eには,アリバイが成立すると見ることはできない。
(ウ)Q
本件業務データ(甲58)には,QのIDで午前10時03分33秒
に処方箋の入力がなされた記録があること,再現実験では,その作業に
43秒を要したこと(甲61)は認められる。
これによれば,Qは,本件不正処理の3回目及び4回目がなされた時
間帯には処方箋の入力作業をしていたものと一応推認できるが,その作
業をしている最中でも,画面を切り替える機能を使うことで短時間のう
ちに本件不正処理を行うことは可能であったし,Qも,その機能につい
て一定の知識と経験を有していた(甲80,81,94)。
よって,Qにも,アリバイが成立すると見ることはできない。
ウ結論
以上のとおり,第4事件についても,被告人以外の従業員全員に関して
アリバイが成立するわけではなく,この立証方法により被告人の犯人性を
認定することはできない。
()帰結6
以上の次第であって,他の従業員らのアリバイによる消去法的な立証では,
本件各横領事件のいずれについても被告人を犯人と認定することはできない。
4立証方法Ⅱ:一連の不正処理全体に関する立証について
()検察官の指摘する間接事実1
検察官は,一連の不正処理が同一犯によるものであることを前提に,その
全部が被告人によって行われた旨を主張し,その主要な根拠として,下記の
事情を指摘する。
①一連の不正処理は遅くとも平成15年7月31日に始まり,平成18年
5月8日まで継続的に行われていたところ,この期間中,本件薬局に継続
勤務していたのは被告人のみであること。
②本件不正処理が行われた日の全てに被告人が出勤しており,その一方で,
被告人が欠勤した日には,本件不正処理が一切行われなかったこと。
③一連の不正処理が行われた期間,その不正処理がなされた時間帯につき,
被告人に明確なアリバイがないこと。
④仮に一連の不正処理を行ったのが被告人でないとすれば,被告人以外の
従業員全員が共謀していたと考えるほかないが,経験則から見て,かかる
事態はあり得ないこと。
⑤被告人が本件薬局に就職する以前から同様の犯行が行われていた事実は
ないこと。
⑥本件薬局の店長が平成18年5月9日に不正な返金処理の件を被告人に
確認したところ,それ以降,同様の不正処理が一切発生しなくなったこと。
⑦被告人は,当初,本件業務データがおかしいなどと主張するだけで本件
各横領事件の発生日のアリバイを合理的に説明できなかった上に,捜査・
公判を通じて虚偽の供述をしていること。
⑧被告人は,本件薬局の出納帳作成者として,返金処理が頻繁になされて
いることを目にしていながら,これを店長に報告していなかったこと。
⑨被告人は,本件不正処理を行えるだけの知識と経験を有しており,かつ,
犯行の対象とするに好都合な高額医療費の負担者を的確に選び出すことが
できる立場にあったこと。
⑩被告人は,一連の不正処理が行われていた期間には,化粧品等に高額の
支出をしていた上,その発覚後は,化粧品等の出費が極端に減少したこと。
()各間接事実に関する検討2
一連の不正処理が同一の手口によっていること,その手口がかなり複雑で
あること,不正処理が行われた時間帯が概ね共通していることといった点に
照らすと,一連の不正処理は同一の人物又は犯行グループによるものと推測
するのが合理的であるから,これを前提に以下検討を加える。
ア上記①について
証拠(甲8等)によれば,一連の不正処理が行われた期間を通じて本件
薬局に勤務していたのは,被告人のみであったことが認められる。
この一事を以て被告人が一連の不正処理の全部を行ったと断定できるか
否かはともかく,かかる事情が,一連の不正処理につき被告人の犯人性を
推認させる方向に作用することは確かである。
イ上記②について
検察官は,一連の不正処理が行われた期間における被告人の出勤状況と
各業務日における不正処理の有無を対照した一覧表を証拠として提出する
(甲7。以下「本件一覧表」という。)。これによれば,本件不正処理が
行われた日には全て被告人が出勤しており,被告人が欠勤した日には不正
処理が一切行われていないことになっている。
しかし,本件一覧表の記載を前提にしたとしても,被告人は本件薬局の
営業日には殆ど毎日出勤していたのであるから,その出勤日と不正処理の
あった日が合致することが決定的な意味を持つとはいえないし,被告人の
欠勤日にのみ不正処理が行われなかったという関係にもない。
そして,本件一覧表は,本件業務データに記録されているIDの有無を
基本的な資料とし,他の資料とも照合して作成されたということであるが
(検察官の平成20年9月10日付け証拠調べ請求書等),本件薬局では,
他者のIDを用いて業務データを入力することや,実際の業務日と異なる
日を業務日として入力することが常態化していたのであるから,本件業務
データに記録されている被告人のIDがその出勤・欠勤状況を正確に反映
していると見てよいか大いに疑問である。Dは,本件業務データに被告人
のIDによる入力があれば被告人が出勤していることになる旨供述するが
(甲10),同人による業務状況の説明が甚だ誠実さを欠くものであるこ
とは先に示したとおりであるから,軽々に信を措くことができない。
更に,本件薬局の「残業・休日出勤報告書」には,被告人とDが出勤し
ていた第4事件の当日に,両名が休暇を取ったとの記録が残されているの
であり(甲57),これが検察官の参照した「他の資料」であれば勿論問
題が大きいし,そうでないとしても,本件薬局における勤務記録が全般的
に不正確なのではないかとの疑問を容易に払拭することができない(甲5
7は,第4事件当日に出勤していた従業員を特定するための証拠であって,
その日に被告人とDが休暇を取ったことにされている上記出勤報告書を引
用した上で,本件薬局での業務慣行等から見ると実際には両名が出勤して
いた可能性が高い旨を推測する内容となっているが,本件薬局に正確な勤
務記録が存在するのなら,こうした迂遠な方法で出勤者を説明する必要は
少しもないのである。しかも,第4事件は数百件にも亘る一連の不正処理
の中でも証拠が確実であるとして起訴された4件のうちの一つであり,そ
れについてすらこのように危うい方法でしか出勤者を特定できないことに
注目しないわけにはいかない。)。
結局のところ,本件一覧表は被告人の出勤状況を正確に反映していない
可能性が相当程度あると言わざるを得ない。
よって,検察官による上記②の主張は前提に疑問が残り,採用できない。
ウ上記③について
本件において,一連の不正処理全体につき,被告人が確実なアリバイを
立証できていないことは検察官が指摘するとおりである。
しかし,被告人におけるアリバイ立証の不成功が不利益に作用するのは
例外的な場合に限られると解すべきところ,本件では,約2年から5年も
前の,ごく日常的な勤務における特定の時刻に関するアリバイを逐一立証
できないことはむしろ当然であり,これを不利益な要素と見る余地はない。
よって,上記③の点は,被告人の犯人性を推認させる事情とはいえない。
エ上記④について
本件では,被告人が犯人でないことが「被告人以外の従業員全員による
共犯」に直結する関係はないし,複数の職員間で不正行為が引き継がれる
ことも,経験則上ないわけではない。
検察官は,本件各横領事件以外にも,平成18年4月28日など被告人
以外の従業員全員につき不正処理が不可能であった日があると主張するが
(甲108),Dについては「指導」の入力前に指導業務を行っている可
能性,Eについては調剤が作り置きだった可能性が指摘でき,この点に関
する検察官の主張を採用することはできない。
オ上記⑤について
被告人は本件薬局にその開局時から勤務していたのであるから(甲8),
被告人の就職前には同様の犯行がなかったというのは,あまりにも当然の
ことである。検察官の指摘に特段の意味を見出すことはできない。
カ上記⑥について
検察官の指摘する事実は認められるが,平成18年5月9日には,Dや
Gら被告人以外の従業員においても,不正処理の件が本社に発覚してその
調査が始まったことを知るところとなっていたのであるから,この点も,
必ずしも被告人の犯人性を推認させる事情とはいえない。
キ上記⑦について
前記のとおり,日常業務における特定時刻のアリバイが説明できないと
しても何ら不自然なことではないし,本件業務データには業務実態と合致
しない記録が多々含まれているのだから,これをおかしいと指摘するのは
むしろ至極正当な反論である。
また,検察官が被告人の虚偽供述として挙げるところは,本社の監査が
入ると知ったのは平成17年6月中か同年7月5日かとか,Dから本件不
正処理について聴かれたのは平成18年5月9日の午前9時ころか同日の
夕方かなど,平成20年の現時点では記憶の混乱や変容があっても仕方の
ない細かいエピソードであり,被告人が敢えて虚偽の供述をしたと見るに
は疑問もあるし,仮に,被告人が一部で記憶に反する供述をしたとしても,
それは,被告人の供述の信用性を減殺させる事情となるに過ぎず,犯人性
に関する検察官の立証を強化するわけではない。
結局,上記⑦の点も被告人の犯人性を推認させる要素とは認められない。
ク上記⑧について
証拠(Dの公判供述)によれば検察官指摘の事実は認められるが,他方,
被告人は,返金処理がなされていたことを隠していたわけではなく,主に
被告人が作成していた出納帳には,返金処理の有無と額が明記されていた
のである。そして,日々の出納帳については,Dが本件薬局の店長として
「承認」していたが(甲12等),同人は,平成18年5月に至るまで返
金処理を全く問題にしていなかったし,平成17年7月に実施された社内
監査(甲4)の際にも特段の指摘などはなかったのであるから,被告人が
返金処理の点を特に疑問視して店長等に報告しなかったとしても,別段不
自然とはいえない。
よって,上記⑧の事情も被告人の犯人性を格別推認させるものではない。
ケ上記⑨について
被告人の勤務歴や職務内容からすれば検察官指摘の事情は認められるが,
それは,被告人を本件不正処理の実行者と見ても矛盾しないという程度の
間接事実に過ぎない。本件薬局には,被告人以外にも同様の知識や能力を
持つ従業員がいるのであるから,この事情は,被告人の犯人性を積極的に
推認させるものとはいえない。
コ上記⑩について
証拠(甲68)によれば,一連の不正処理が生じていた期間,被告人が
化粧品や衣料品等に比較的高額の支出をした月があったことは認められる。
しかし,その額は最大でも15万円程度であり(最高で35万円以上と
する甲69の捜査報告書は,根拠とした資料等が不明で信用できない。),
家計の状況(乙1によれば被告人夫婦の月収は50万円以上である。)に
照らしても,異常な高額とまでは言えない。
そもそも,一連の不正処理全体で領得された金額は1000万円以上に
なるというのであり(甲7),この巨額の着服を化粧品代程度の支出から
推認しようとすることには無理があると言わざるを得ない。
よって,上記⑩の点も,被告人の犯人性を推認させる事情とはいえない。
()間接事実の総合評価3
以上によれば,被告人と一連の不正処理全体の結びつきを肯定する事情と
見てよいのは上記①の点のみということになるが,これは,それなりに注目
すべき間接事実と評価することもできる。
しかし,検察官の立証方法Ⅱは一連の不正処理が全て被告人によるものと
立証することで本件各横領事件の犯人が被告人であることを証明するもので
あるから,一連の不正処理のうちに,被告人の行為と考えるには疑問が残る
事件が1つでもあれば,その立証は成り立たないことになる。
然るに,上記②で示したところからすれば,被告人が欠勤した日に1回も
不正処理が行われていないという断定はできない。また,個別に観察しても,
平成15年10月3日,同月10日等,被告人が本件業務データに入力した
数秒後に不正処理がなされている日が複数ある(弁4。本件不正処理は最短
4秒で可能という証拠もあるので厳密なアリバイとは言えないが,検察官も,
被告人以外の従業員に関しては,本件業務データへの入力から数秒後に不正
処理を行うのは不可能ないし困難と指摘しているのであって,データ入力と
不正処理との間隔が数秒であることは,その者がその不正処理をしたことに
疑問を生じさせる事情であるとは言えよう。)。これらの点を念頭に置くと,
一連の不正処理が行われた期間を通じて本件薬局に勤務していたのは被告人
のみであったという一事を以て,被告人がその不正処理の全てを実行したと
認定するには,なお合理的な疑いが残るというべきである。
故に,この立証方法によっても,被告人を本件各横領事件の犯人であると
認めることはできない。
5結論
よって,本件の各公訴事実については,いずれについても犯罪の証明がない
ことになるから,刑事訴訟法336条により,被告人に無罪の言い渡しをする。
(求刑−懲役2年)
平成20年9月19日
函館地方裁判所刑事部
裁判官岡田龍太郎

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