弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決および第一審判決を破棄する。
     被告人は無罪。
         理    由
 弁護人杉崎重郎の上告趣意は、本件の真犯人はAであつて被告人ではないと主張
するものであり、刑訴四〇五条所定の事由をいうものではないから、適法な上告理
由にあたらない。
 しかしながら、所論にかんがみ職権をもつて調査するに、本件記録ならびに当審
において取調をした横浜地方裁判所昭和四四年(わ)第一一四六号業務上過失致死
等事件記録および東京高等裁判所昭和四五年(う)第七九三号業務上過失致死等事
件記録を総合して検討すると、本件に関しては以下のような訴訟上ならびに実体上
の諸事実が認められる。
 (一) 本件の公訴事実は、「被告人は、自動車運転の業務に従事するものであ
るが、昭和四二年九月七日午前八時ごろ、軽四輪自動車(六横浜な六〇五九号)を
運転し、横浜市a区bc番地先道路において、B方面に向かい道路左側に一旦停止
したのち、d方面へ向かい転回するに際し、あらかじめ転回の合図をし、右後方か
らの交通の安全を確認したうえ転回すべき注意義務があるのに、これを怠り、転回
の合図をせず、かつ右後方からの交通の安全を十分確認しないで発進し右に転把進
行した過失により、折から右後方からB方面に向かい進行して来たC(当二四年)
運転の普通貨物自動車に自車の右前バツクミラーを衝突させて、同車を右前方に暴
走させたうえ、道路右側を同一方向に向かい歩行中のD(当七二年)に衝突せしめ
て、同人を路上に転倒させ、よつて同人をして、同日午前一〇時二七分横浜市e区
f町g番地E病院において、頭蓋骨々折に伴う脳挫傷により、死亡するに致らしめ
たものである。」というものであつて、第一審判決は、右公訴事実どおりの事実を
認定したうえ、右は刑法二一一条前段の業務上過失致死罪にあたるものとして、被
告人を禁錮六月に処する旨の言渡をしたものである。そして、原判決は、被告人の
控訴(控訴趣意は量刑不当をいうだけであつた。)を理由がないとし、控訴棄却の
言渡をしたのである。
 (二) 右の原判決に対し、被告人から申立てられたのが本件上告であるところ、
本件上告申立のなされた日である昭和四四年六月一六日に、Aから保土ケ谷警察署
司法警察員に対し、「本件死亡事故の真犯人は自分である」旨の自首がなされ、翌
一七日には被告人も同署に出頭して、「自分はAのために身代り犯人となつていた
ものである」旨申立てるに至つた。これらの事情により本件事故についてあらため
て捜査がなされた結果、同年一〇月二五日、右のAにつき業務上過失致死、犯人隠
避教唆、道路交通法違反の各罪、被告人につき犯人隠避、道路交通法違反幇助の各
罪により、横浜地方裁判所に公訴が提起され(同裁判所昭和四四年(わ)第一一四
六号事件)、同裁判所は、審理の末、昭和四五年三月三日、右公訴犯罪事実のすべ
てを有罪と認め、Aに対しては懲役一年、被告人に対して懲役六月(但し二年間刑
の執行猶予)の各刑を言渡した。右のうち、被告人に対する判決については、被告
人、検察官のいずれからも控訴がなく、既に裁判が確定しているが、Aに対する判
決については、同人から控訴がなされたため、現在東京高等裁判所において審理中
である(同裁判所昭和四五年(う)第七九三号事件)。
 (三) 右横浜地方裁判所昭和四四年(わ)第一一四六号事件の公判において取
調べがなされた各証拠(特に被告人およびAの司法警察員、検察官に対する各供述
調書、Fの司法警察員、検察官に対する各供述調書、証人Gの証言、Hの検察官に
対する供述調書、I、J、Kの各司法警察員に対する供述調書)によれば、(一)
に前記した公訴事実のように昭和四二年九月七日軽四輪自動車(六横浜な六〇五九
号)を運転して過失により死亡事故を発生させるに至つたのは、被告人ではなくA
であつたこと、被告人は当時右軽四輪自動車の助手席に乗つていたものであること、
Aは、右のように事故をひき起した直後、自分が無免許であるため重く処罰される
ことを恐れ、運転免許を有する被告人に身代り犯人となつてくれるよう依頼し、被
告人においてこれを結局承諾し、そのころ事故現場において警察官に対し事故を起
した犯人は自分である旨虚偽の申立をしたこと、その後、被告人は、前記(一)の
ように起訴され、第一審で有罪の判決をうけ、控訴も棄却されたため、受刑する覚
悟を決め、服役中の家族の生活のことなどについて実兄に相談したところ、同人か
ら身代りとなつたことについて叱責をうけるに至り、その結果、右実兄の努力もあ
つて、前記(二)のようにAの自首などがなされたこと、以上の諸事実を明らかに
認めることができる(なお、Aは前記のように控訴中であるが、その控訴趣意は、
自己の過失と被害者の死亡との因果関係を争い、あるいは量刑不当をいうなどする
ものであつて、自己の運転行為を否定するものではない。)。
 以上の諸点によつて考えると、本件被告人については、原判決後において、刑訴
四三五条六号にいわゆる「有罪の言渡を受けた者に対して無罪を言い渡すべき明ら
かな証拠をあらたに発見した」場合に該当するものといわなければならない。とす
れば、本件については、同法四一一条四号にいわゆる再審の請求をすることができ
る場合にあたる事由があることになり、かつ原判決を破棄しなければ著しく正義に
反するものと認められるから、原判決ならびにその認容する第一審判決はともに破
棄を免れない。そして、本件については、訴訟記録ならびに当審において取調べた
証拠によつて直ちに判決をすることができるものと認められるから、同法四一三条
但書により被告事件についてさらに判決をすることにし、同法四一四条、四〇四条、
三三六条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 検察官 横井大三、回内田実公判出席
  昭和四五年六月一九日
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    色   川   幸 太 郎
            裁判官    村   上   朝   一

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