弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人原田香留夫の上告理由第一の一ないし三について。
 論旨は、要するに、公衆浴場営業許可は法規裁量事項であるから、右許可をめぐ
つて競願関係が生じた場合には、先に受理された許可申請に対して優先的に許可を
与えるべきものであるところ、本件においては、訴外D漁業協同組合(以下訴外組
合という。)の昭和三四年六月六日の許可申請は、同日不受理となつたこと、およ
び上告人の同月八日の許可申請は、同日受理されたことが、いずれも争いなく確定
しているのに、右のような場合にも行政庁の自由裁量権が認められるとして、上告
人の先願権を無視してなされた知事の処分を維持した原判決は、法令に違背する、
また、原判決は、何をもつて自由裁量の対象とするのか、必ずしも明らかではなく、
理由不備の違法をおかすものである、というのである。
 おもうに、公衆浴場法は、公衆浴場の経営につき許可制を採用し、その二条二項
本文において、「都道府県知事は、公衆浴場の設置の場所若しくはその構造設備が、
公衆衛生上不適当であると認めるとき又はその設置の場所が配置の適正を欠くと認
めるときは、前項の許可を与えないことができる。」と規定しているが、それは、
主として国民保健および環境衛生という公共の福祉の見地から営業の自由を制限す
るものである。そして右規定の趣旨およびその文言からすれば、右許可の申請が所
定の許可基準に適合するかぎり、行政庁は、これに対して許可を与えなければなら
ないものと解されるから、本件のように、右許可をめぐつて競願関係が生じた場合
に、各競願者の申請が、いずれも許可基準をみたすものであつて、そのかぎりでは
条件が同一であるときは、行政庁は、その申請の前後により、先願者に許可を与え
なければならないものと解するのが相当である。けだし、許可の要件を具備した許
可申請が適法になされたときは、その時点において、申請者と行政庁との間に許可
をなすべき法律関係が成立したものというべく、この法律関係は、許可が法律上の
覊束処分であるかぎり、その後になされた第三者の許可申請によつて格別の影響を
受けるべきいわれはなく、後の申請は、上記のような既存の法律関係がなんらかの
理由により許可処分に至らずして消滅した場合にのみ、これに対して許可をなすべ
き法律関係を成立せしめうるにとどまるというべきだからである。
 なお、所論は、右の場合における先願後願は申請の受理の順序によつて決すべき
であると主張するけれども、さきに述べた公衆浴場営業許可の性質および各申請を
公平に取り扱うべき要請から考えれば、右先願後願の関係は、所定の申請書がこれ
を受け付ける権限を有する行政庁に提出された時を基準として定めるべきものと解
するのが相当であつて、申請の受付なし受理というような行政庁の行為の前後によ
つてこれを定めるべきものと解することはできない。
ところで、原審の確定するところによれば、
 上告人が本件公衆浴場営業許可申請をしたのは昭和三四年六月八日であつた、一
方、訴外組合は、さきに公衆浴場営業許可申請書を提出したところ、添付図面に不
備があるとして、閉合トラバース測量による測量図面を添付するようにとの指示の
もとに提出書類全部の返戻を受けたので、同月六日に、測量士の有資格者が作成し
た平板測量による測量図面を添付して、本件公衆浴場営業許可申請書を広島県立尾
道保健所に提出した、ところが、同所係員は、補正(計算書の附記)を求めて添付
の測量図面を持ち帰らせ、その他の書類はそのまま同保健所に保管した、その後、
右係員において広島県の指示を求めた結果、さきに持ち帰らせた測量図面の添付を
認めることとしてこれを提出させ、同月一一日にその受付の手続をした、
というのである。原審は、右側量図面を添付したことによつて訴外組合の申請が不
適法となるものではないとし、結局、訴外組合の右申請書は、同月六日に提出され
た時点においては、すでに受け付けるべき要件を具備していたとしているのである。
そして、右原審の認定・判断は、挙示の証拠に照らし、いずれも正当として首肯し
うるところである。
 してみると、訴外組合の適式の申請書が権限ある行政庁に提出されたのは同月六
日であり(同日、被上告人において右申請を受理しないという処分をしたものでは
ない。)、結局、本件上告人と訴外組合との間の競願関係における先願者は訴外組
合であるというべきであるから、同様の判断のもとになされた本件各処分を是認す
べきものとした原判決は、その結論において正当である。
 以上の次第で、上告人に先願権ありとする所論は、理由がない。また、原判決に
所論理由不備の違法も認められないことは、その判文を通読すれば明らかである。
結局、論旨は、採用することができない。
 同第一の四について。
 所論の点に関する原審の認定判断は、正当としてこれを首肯することができる。
原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 同第二について。
 原判決理由の趣旨からすれば、所論の点に関する審理判断は、必ずしも必要では
ない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    小   川   信   雄
            裁判官    色   川   幸 太 郎
            裁判官    村   上   朝   一
            裁判官    岡   原   昌   男

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