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平成28年4月28日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成27年(行ウ)第623号行政処分取消等請求事件
口頭弁論終結日平成28年3月17日
判決
原告平和堂貿易株式会社
原告株式会社北村工房
上記両名訴訟代理人弁護士知念芳文
同訴訟復代理人弁護士飯島秀明
東京都千代田区霞が関1丁目1番1号
被告国
同代表者法務大臣岩城光英
処分行政庁特許庁長官
伊藤仁
指定代理人寺内康介
同印部健一
同門奈伸幸
同平川千鶴子
同小林大祐
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1意匠登録番号第1424835号の意匠権に係る第2年分意匠登録料納付書
について,特許庁長官がした平成26年4月17日付け手続却下処分を取り消
す。
2意匠登録番号第1424836号の意匠権に係る第2年分意匠登録料納付書
について,特許庁長官がした平成26年4月17日付け手続却下処分を取り消
す。
第2事案の概要
本件は,原告らが意匠登録番号第1424835号及び第1424836号
の各意匠権(以下「本件各意匠権」という。)に係る第2年分の登録料(以下
「本件各登録料」という。)の追納期間経過後に意匠登録料納付書を提出して
本件各登録料及び割増登録料の納付手続をしたところ,特許庁長官が上記各納
付書を却下する旨の手続却下処分(以下「本件各却下処分」という。)をした
ため,原告らが,被告に対し,原告らには意匠法44条の2第1項所定の「正
当な理由」があるとして本件各却下処分の取消しを求めた事案である。
1争いのない事実
本件各意匠権
原告らは,本件各意匠権について,それぞれ第1年分の登録料を納付し,
平成23年9月9日,設定登録を受けた。
第2年分の登録料である本件各登録料の納付期限は平成24年9月10日
(意匠法43条2項。なお,同月9日は日曜である。)であったが,原告ら
は同期限までにこれを納付せず,その追納期間の末日である平成25年3月
11日(同法44条1項。なお,同月9日は土曜である。)までに本件各登
録料及び割増登録料を納付しなかった。そのため,本件各意匠権は,いずれ
も平成24年9月9日の経過時に遡って消滅したものとみなされた(同条4
項)。
本件各却下処分等の経緯
ア原告らは,平成25年5月9日,特許庁長官に対し,意匠法44条の2
第1項所定の追納として意匠登録料納付書を提出した。特許庁長官は,平
成26年4月17日,本件各登録料を所定の期間内に納付することができ
なかったことに同項所定の正当な理由があるとは認められないとの理由で,
上記納付書を却下する旨の本件各却下処分をし,同処分は同月22日に原
告らに通知された。
イ原告らは,同年6月20日,本件各却下処分について平成26年法律第
68号による改正前の行政不服審査法に基づく異議申立てをしたが,特許
庁長官は,平成27年4月23日付けでこれを棄却する旨の決定をし,同
決定は同月24日に原告らに送達された。原告らは,同年10月21日に
本件訴訟を提起した。
本件各意匠権に係る登録料納付期限管理の状況
原告らは,本件各登録料等の納付事務を弁理士A(以下「A弁理士」とい
う。)の経営する特許事務所(以下「本件特許事務所」という。)に依頼
していた。
本件特許事務所では,本件各意匠権の設定登録がされた当時,コンピュー
ターを用いた特許管理システム「KEMPOS(ACCESS版)」(以
下「本件システム」という。)を使用して特許権,意匠権等の各種期限の
管理を行っていた。本件システムの初期設定においては,意匠権の設定登
録日を入力すると,設定登録時に第1年~第3年分の登録料を納付したも
のとして第4年分の登録料の納付期限が次回の登録料納付期限として自動
的に表示される設定(以下「本件設定」という。)となっており,これと
異なる納付期限を設定するためには手動で入力する必要があった。
2争点及び争点に関する当事者の主張
本件の争点は,原告らが意匠法44条1項所定の追納期間内に本件各登録料
を納付できなかったことについて同法44条の2第1項所定の「正当な理由」
があるか否かであり,争点に関する当事者の主張は以下のとおりである。
(原告らの主張)
「正当な理由」は,平成23年法律第63号による改正前の意匠法44条
の2第1項所定の意匠権者の「責めに帰することができない理由」が厳格
にすぎ,国際的なすう勢に鑑みて救済の要件を緩和する必要があるとの理
由で,特許法条約の規定に従った救済要件とするべく改正された結果であ
る。したがって,「正当な理由」は特許法条約の規定に従い,「状況によ
り必要とされる相当な注意を払ったにもかかわらず当該期間を遵守するこ
とができなかったものであること」又は「遅滞が故意でなかったこと」と
解釈されなければならない。
本件特許事務所は,平成16年2月の設立以来,2700件を超える特許
出願等を取り扱い,大量かつ多種類の期限管理を行っているが,本件以外
期限管理のトラブルを起こしたことはない。原告らはそのような信頼性の
高い特許事務所に本件各意匠権の管理を依頼していた。また,本件特許事
務所は,次のとおり,必要とされる相当な注意を払ったにもかかわらず納
付期限を遵守できなかったもので,原告らには「正当な理由」がある。
ア本件特許事務所は,毎日,本件システム上で対応期限が近い案件を検索
するほか,毎年1回,本件システム上で直近2年以内に登録料の納付期限
が到来する案件を検索し,これを期限管理用のカレンダーに手書きで記入
し随時確認することに加え,登録料の納付期限を紙の台帳(以下「本件台
帳」という。)に記入する方法も補助的に併用していた。また,本件各意
匠権に係る期限管理の担当事務員(以下「本件担当者」という。)は,平
成18年11月以降本件特許事務所における国内案件の期限管理を全て担
当して十分な経験を積んでおり,本件以外に同種の事故は起こしていない。
さらに,本件特許事務所は,一つの権利について同じ担当者に出願時から
設定登録後の管理まで一貫して担当させ見直しの機会を増やしていた。
イ本件特許事務所が設立以来採用していた本件システムは,特許業界内で
信頼性に定評があり,本件特許事務所においても過去何ら問題は生じてい
なかった。本件担当者は本件システムに正確に本件各意匠権の設定登録日
を入力しており,これ以上に納付期限の設定まで確認することは,本件特
許事務所程度の規模の事務所にとってむしろ過誤を誘発する過剰かつ冗長
な作業である。
ところが,本件システムの初期設定には,自動的に入力される登録料の
納付済み年数は当然法律上の最低納付年数にしなければならないにもかか
わらず,最低納付年数が1年である意匠権についても,これが3年である
特許権と同様に,納付年数の初期値を3年にするという致命的な欠陥があ
った。手動での納付期限入力が可能であったことは本件設定が不具合であ
るとの評価に影響しない。そして,本件システムの管理会社は本件設定に
ついて本件特許事務所に何ら説明しておらず,本件システムの操作説明書
にも本件設定についての注意書は全くなく,かえって,設定登録日のみ正
確に入力すれば足り,納付期限の入力及び確認は不要である旨説明されて
いたもので,本件特許事務所において本件システムに本件設定のような不
具合があることを予見することは不可能ないし著しく困難であった。
ウ本件担当者は,追納期限の末日のわずか1月半後である平成25年4月
25日,本件各登録料の不納付を発見した。さらに,本件特許事務所は直
ちに原因を調査し,本件システムの上記不具合を発見して,同年5月9日,
意匠登録料納付書等を提出するという最速の対応をした。
(被告の主張)
現行の意匠法における「正当な理由」は,第三者の監視負担に配慮しつつ
実効的な救済を確保できる要件として,特許法条約が加盟国に選択を認め
た「相当な注意」又は「故意でない」のうち前者を採用したものであり,
特許庁が策定した「期間徒過後の手続に関する救済規定に係るガイドライ
ン」に示されたように,出願人等が相応の措置を講じたといえる場合に認
められる。
本件担当者は,本件各意匠権に係る登録料の納付年数が1年分という例外
的な納付期間であることについて本件システムへの入力及び本件台帳への
記入をせず,他の事務員もこれら入力及び記入がされていないことに気付
かなかったというのである。これは人為的ミスであり,他に特別の事情も
ないから,相応の措置を講じていたとはいえない。
また,本件システム上,本件設定により実際と異なる納付済み年数及び次
回納付期限が表示されるとしても,手動で入力することにより納付期限を
変更することは可能であったのだから,本件システムに不具合があったと
はいえない。原告らは,本件特許事務所が本件設定の不具合に気付くこと
は不可能であった旨主張するが,意匠権の登録料の納付期間等は権利の得
喪に関わる重要な事項であるから,本件特許事務所は,本件システムの利
用に当たり,いかなる初期設定がされているか,初期設定と異なる登録料
の納付があった場合にいかなる操作を行うべきか等を十分に把握する必要
があった。加えて,本件特許事務所は,特許法上の特許料と意匠法上の登
録料で納付期間に法律上の差異があること,依頼人の意向により登録料の
納付年数が異なり得ることを当然認識していたのであるから,本件システ
ムの管理会社からの説明等がなくても,本件システムで意匠権の登録料の
年金期限管理を行う際には,意匠権ごとに納付済み登録料の年数,次の年
金期限の修正の必要があることを予見できたものである。
したがって,原告らに「正当な理由」があるということはできない。
第3当裁判所の判断
1前記争いのない事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の
事実が認められる。
本件システムについて(甲14,15,22,乙1)
本件システムでは,国内外の特許権,実用新案権,意匠権及び商標権に係
る各種期限等の管理が可能である。
本件システム上,出願経過に応じた事項の入力は「出願台帳」画面から行
い,意匠権の設定登録日を入力すると,自動的に第1年~第3年分の登録
料が納付されたものとして扱われ,上記「出願台帳」画面の「年金期限」
欄にはそれに基づく次回の登録料納付期限が表示される。また,本件シス
テムには年金期限を確認できる専用の画面もある。一方,上記「出願台帳」
画面上の「AllEntyr」ボタンをクリックし,任意の期限を入力
することにより,上記のように自動的に表示される納付期限と異なる納付
期限を設定することも可能である。
本件各意匠権設定登録の際の本件特許事務所の対応等(甲9,12,13,
21,乙1,6)
ア本件各意匠権設定登録当時,本件特許事務所が扱う案件で期限管理の必
要なものの多くは特許権であり,意匠権に係るものは少数であった。また,
意匠権は特許権(設定登録時に第3年までの特許料を納付すべきものとさ
れる。特許法66条2項,108条1項)と異なり,設定登録時に第1年
分の登録料のみ納付することが可能であったが(意匠法20条2項,43
条1項),本件特許事務所を含む多くの特許事務所では,意匠権について
も設定登録時に第1年~第3年分の登録料を納付することが広く行われて
いた。
イ本件特許事務所は,本件各意匠権の設定登録に先立ち,原告らに対し,
意匠登録料の納付が必要か否か,必要な場合,第1年分のみ納付するか複
数年分納付するかを書面で問い合わせ,原告らから,第1年分の登録料納
付が必要であり,次年度以降の登録料の期限管理を本件特許事務所に委ね
る旨の回答を得た。本件特許事務所はこれに従って第1年分の登録料を納
付し,これにより同年9月9日に本件各意匠権の設定登録がされた。
ウ本件担当者は,上記設定登録後,本件システムに本件各意匠権の設定登
録日を入力し,その結果,本件設定により本件システムの画面上に次回の
納付期限が平成26年9月9日と表示されたが,この表示内容を確認しな
かった。また,本件担当者は本件台帳に本件各意匠権に係る次回の登録料
納付期限を記載したが,本件台帳は意匠権についても第1年~第3年分の
登録料を設定登録時に納付していることを前提とした第4年分から始まる
書式であった。本件特許事務所では,上記のような登録料納付に係る入力
及び記載を行う際,別の事務員が内容を確認することとしており,本件各
意匠権についても本件担当者とは別の事務員がこれらを確認したが,問題
があることに気付かなかった。また,A弁理士が本件担当者等に対し,本
件各意匠権については通常と異なり登録料が第1年分しか納付されていな
い旨告げて注意を促すこともなかった。
期間徒過の判明(甲9,21,乙1)
本件担当者は,平成25年4月25日,本件台帳の記載から本件各登録料
の納付期限及び追納期間の末日が既に経過していたことに気付いた。
2上記事実関係に基づき原告らに「正当な理由」があるか否かにつき判断する
に,原告らが期限管理を依頼していた本件特許事務所においては,本件各登
録料の次回納付期限が同事務所において通常扱っている案件より2年早く到
来するにもかかわらず,A弁理士から本件担当者等への注意喚起がされなかっ
た上,本件システム上正しい期限が表示されているかどうか容易に確認でき
たのにこれを怠り,本件台帳を用いてのダブルチェックもせず,漫然と次回
納付期限が3年後に到来する事案と同様の処理を行った結果,納付期限を徒
過するに至ったものである。また,原告らにおいては,自ら第1年分のみの
登録料を納付する旨選択をしたのであるから,設定登録から1年を経過した
時点で本件特許事務所に問い合わせるなどの手段を採り得たと考えられる。
以上によれば,原告らに「正当な理由」があるとはいえないと判断するのが
相当である。
3これに対し,原告らは,①遅滞が故意でなければ「正当な理由」があると
認められる,②本件事務所は適切な管理体制を設けていた,③本件システ
ムの管理会社から,設定登録日のみ正確に入力すれば足り納付期限の入力及
び確認は不要であるとの説明を受けており,本件設定は予測できなかった不
具合である旨主張する。
そこで判断するに,上記①に係る原告らの主張が失当であることは意匠法4
4条の2の文言上明らかである。また,上記②については,前記判示に照ら
し,管理体制が適切であったとみることは困難である。さらに,上記③につ
いては,意匠権の登録料に関する法律の規定が特許権の場合と異なるにもか
かわらず,意匠権についても特許権と同様に次回納付期限を第4年分からと
する本件設定には不具合があったとみる余地があるものの,知的財産に関す
る専門家である弁理士(弁理士法1条参照)及びその特許事務所としては,
少なくとも本件のように通常と異なる処理を要する事案については,本件シ
ステム上正しい納付期限が表示されているかどうか自ら確認し,又は本件台
帳その他本件システム以外の方法を用いてこれを把握することが当然に求め
られるというべきである。
したがって,原告らの上記主張はいずれも採用することができない。
4結論
よって,原告らの請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決す
る。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官長谷川浩二
裁判官藤原典子
裁判官中嶋邦人

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