弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
       事実及び理由
第一 請求
一 原告が日本国籍を有することを確認する。
二 被告は、原告に対し、五〇万円及びこれに対する平成一一年三月一九日から支
払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
 本件は、韓国人である母の嫡出でない子として出生した原告が、日本人である父
から認知を受けたことにより日本国籍を取得したと主張して、日本国籍を有するこ
との確認を求めるとともに、日本における戸籍が失われたまま放置されていること
により精神的苦痛を被ったなどとして、被告に対し、国家賠償法一条一項の規定に
基づき、慰謝料として五〇万円の支払を求めた事案(付帯請求の起算日は訴状送達
の日の翌日)である。
一 前提となる事実(証拠の摘示がない事実は、当事者間に争いのない事実であ
る。)
1 Aは、韓国国籍を有する女性であるが、昭和五一年一一月○日、日本人男性で
あるBと婚姻し、昭和六一年三月○日、Bと協議離婚した。
2 原告は、昭和六〇年○月○日、韓国においてAの子として出生し、昭和六一年
○月○日韓国において、同年○月○日には日本において、それぞれAにより出生届
出がされた。原告を懐胎、出産した当時、母であるAがBと婚姻関係にあったた
め、原告は、Bの嫡出子と推定され、日本における右出生届出に伴いBの戸籍に入
籍された。
3 Aは、昭和五五年ころ、日本人男性であるC(原告法定代理人親権者父。)と
知り合い、その後Cとの情交関係を継続していたものであり、原告の父も、当時婚
姻関係にあったBではなく、Cであった。(甲四、原告法定代理人)
4 Cは、昭和六一年九月二六日、韓国において、同国の方式で原告の認知を申告
してこれを受理され、同年一〇月九日、日本において右認知証書を提出した。
5 原告は、平成七年三月二七日、Bとの間の親子関係が存在しないことの確認を
求める調停を申し立て、平成八年一月一三日、右親子関係が存在しないことを確認
する旨の審判が確定した。原告は、右審判確定により、出生時から日本国籍を取得
しなかったものとして扱われることになり、Bの戸籍からも消除された。
6 Aは、平成八年六月○日死亡した。そこでCは、自己を原告の親権者に指定す
る旨の審判を大阪家庭裁判所に申し立て、平成一〇年六月一六日、右と同旨の
審判が確定した。
7 原告法定代理人親権者であるCは、平成一一年一月一二日、大阪法務局長に対
し、原告が新たに本籍地にしようとする大阪市港区の区長に宛てて、原告が日本国
籍を取得したものとして処理するよう指示されたい旨を上申した。しかし、同法務
局長は、同年二月一二日、原告が日本国籍を取得したとは認められないことを理由
に、右上申には応じられない旨回答した。
二 当事者の主張
1 原告
(一) 日本人である父が、外国人である母が懐胎した子の胎児認知を届け出た場
合、国籍法二条一号の規定により、子は出生の時に日本国籍を取得する。しかし、
外国人である母に父とは別に戸籍上の夫があり、懐胎した子が戸籍の記載上母の夫
の嫡出子と推定されるときは、日本人である父がその子を適法に胎児認知すること
はできないため、同じく外国人の母の非嫡出子でありながら、戸籍の記載いかんに
より、子が生来的に日本国籍を取得するみちに著しい差があることになる。そこ
で、最高裁判所平成九年一〇月一七日第二小法廷判決・民集五一巻九号三九二五頁
(以下「本件最判」という。)は、「このような著しい差異を生ずるような解釈を
することに合理性があるとはいい難い。したがって、できる限り右両者に同等のみ
ちが開かれるように、同法二条一号の規定を合理的に解釈適用するのが相当であ
る。」とした上、「客観的にみて、戸籍の記載上嫡出の推定がされなければ日本人
である父により胎児認知がされたであろうと認めるべき特段の事情がある場合」に
は、胎児認知がされた場合に準じて右規定の適用を認め、子は生来的に日本国籍を
取得すると解するのが相当であると判示した。これは実質上、例外的に認知の遡及
効を認め、その結果、出生後の認知の場合にも、一定の要件の下に子が日本国籍を
取得することを認めたものであると解される。
(二) 本件最判は、続けて、右「特段の事情」があるというためには、「母の夫
と子との間の親子関係の不存在を確定するための法的手続が子の出生後遅滞なく執
られた上、右不存在が確定されて認知の届出を適法にすることができるようになっ
た後速やかに認知の届出がされることを要すると解すべきである。」と判示してい
る。しかし、そもそも、国籍法二条一号は、本件最判の指摘する点、すなわち、
「戸籍の記載いかんにより、子が生来的に日本国籍を取得するみちに著しい差があ
る」という点だけではなく、同じく日本
人である父と外国人である母との間に生まれた子であるのに、嫡出子であるか非嫡
出子であるかによって、また、同じく非嫡出子の間でも、胎児認知を受けたか出生
後の認知を受けたかによって、日本国籍取得の有無に差異を設けている点において
も、憲法一四条一項に定める法の下の平等に反する疑いのある規定である。そし
て、本件最判が右規定を文理どおりには解釈せず、実質上認知の遡及効を認めるに
至ったのは、右規定に違憲の疑いがあるため、これを合憲的に解釈する必要があっ
たからであると考えられる。そうすると、先の判示部分も、「特段の事情」が認め
られるための要件を限定する趣旨に出たものではなく、それが認められる場合を例
示した趣旨にすぎないと解すべきである。
 一般に、国籍法が認知による遡及的な国籍取得を認めない理由として国籍の安定
性の要請ということが指摘されているが、少なくとも未成年者についてみれば、出
生時に遡及して日本国籍を取得することを認めたからといって何らかの不都合が生
ずるとは考えられず、この点からも、認知による国籍取得の要件は緩やかに解する
のが相当である。
(三) 原告の出生当時、母であるAはBと婚姻中であったため、Cは適法に原告
を認知することができない状態にあった。ところが、Aが昭和六一年九月一六日に
原告の出生届出をした後、Cが同月二六日に韓国において原告の認知を申告したと
ころ、本来受理されないはずの右認知申告が受理された。そのため、Cとしては、
適法な認知をしたものと信じ、原告が成長して自己の身分につき疑問を抱くまで戸
籍をそのままにしておいたものである。
 本件最判が「特段の事情」が認められる場合として、「母の夫と子との間の親子
関係の不存在を確定するための法的手続が子の出生後遅滞なく執られた上、右不存
在が確定されて認知の届出を適法にすることができるようになった後速やかに認知
の届出がされることを要する」と判示しているのは、「生来的な日本国籍の取得は
できる限り子の出生時に確定的に決定されることが望ましい」との理由によるもの
である。しかし、現実には子の出生届出がされなければ国籍確定の問題も生じない
のであるから、子の出生届出後遅滞なく親子関係の不存在を確定するための法的手
続が執られさえすれば、本件最判が指摘する要請は満たされるものということがで
きる。本件では、Cによる認知申告は原告の出生届出からわずか一〇
日後にされているのであるから、本件最判のいう「母の夫と子との間の親子関係の
不存在を確定するための法的手続が子の出生後遅滞なく執られた」との要件を満た
すものというべきである(なお、原告の出生届出が現実の出生から約一年二か月を
経過した後にされているのは、Aが原告をBの子とされることなく届け出ることが
できないか思い悩み、逡巡していたためであって、そのこと自体は責められるべき
ではない。また、子の出生届出後ではなく、本件最判の文言どおり「子の出生後遅
滞なく」と解さざるを得ないとしても、Cによる認知申告は原告の出生から約一年
二か月後にされており、国籍法二条一号の規定の適用を肯定した本件最判の事案と
はわずか約九か月の差があるにすぎない。)。もっとも、現実には、Bと原告との
間の親子関係の不存在を確定するための法的手続は平成七年三月二七日になるまで
執られていない。しかし、この点については、仮にCによる認知申告が受理され
ず、原告が戸籍の記載上Bの嫡出子とされているため原告を認知することができな
いという状況が原告の出生直後に生じていたとすれば、Cとしては、自己が原告の
父であることを確定するため、右の法的手続を早期に執っていたものと考えられ
る。すなわち、右の法的手続を執るのが遅れたのは、不適法な認知申告が誤って受
理されたことにより、Cと原告との間の親子関係が戸籍上記載されることになった
からにほかならないのであって、このような場合にまで、Cに対して更にBと原告
との間の親子関係の不存在を確定するための法的手続を早期に執ることを要求する
のは酷といわざるを得ないし、C及び原告の責めに帰すべき事情によらない誤った
認知申告の受理を原因として原告の日本国籍取得のみちを閉ざすのも、理不尽とい
うべきである。
 また、Cによる原告の認知申告は、仮に不適法で誤って受理されたものであると
しても、後にBと原告との間の親子関係の不存在を確認する旨の審判が確定したこ
とにより遡及的に適法有効なものになったと解すべきである。したがって、本件の
場合、本件最判のいう「認知の届出を適法にすることができるようになった後速や
かに認知の届出がされること」との要件をも満たすものということができる。
 更に、Cが原告の出生届出の直後に右認知申告をしていることからみても、Cに
は、戸籍の記載上原告について嫡出の推定がされなければ、原告を胎児認知す
る意思があったものと認められる。この点、Cが実際に胎児認知の届出をしようと
しなかったことは、本件最判のいう「胎児認知がされたであろうと認めるべき特段
の事情」の存在を認める際の妨げとはならないと解すべきである。
(四) 右のとおり、原告については、客観的にみて、戸籍の記載上嫡出の推定が
されなければ日本人の父であるCにより胎児認知がされたであろうと認めるべき特
段の事情があるというべきである。よって、原告は、日本人であるCの子として、
国籍法二条一号により、生来的に日本国籍を取得したものと認めることができる。
(五) 前記一7のとおり、大阪法務局長は、原告法定代理人親権者であるCが、
大阪市港区長に宛てて原告が日本国籍を取得したものとして処理するよう指示され
たいとの要請をしたにもかかわらず、同区長に対してその旨の指示をしなかった。
被告の公務員である同法務局長の右の不作為は違法であり、原告に対する職務上の
不法行為に当たる。原告は、自己のあずかり知らない事情により長年有していた日
本国籍を失った上、右要請も受け入れられなかったため、日本における戸籍が失わ
れたままの状態で放置されており、これにより被った精神的打撃は計り知れないも
のがある。
 よって、原告は、被告に対し、国家賠償法一条一項の規定に基づき、原告の精神
的損害に対する慰謝料として五〇万円の支払を求める。
2 被告
(一) 国籍法二条一号は、「出生の時に父又は母が日本国民であるとき」に子が
出生により日本国籍を取得する旨規定する。同号にいう「父」とは法律上の父をい
うところ、民法は法律上の父子関係について認知主義を採用しており、かつ国籍法
の関係では認知の効果は遡及しないと解されているので、外国人である母の非嫡出
子が生来的に日本国籍を取得するのは、原則として日本人である父から胎児認知さ
れた場合に限られることになる。
 本件最判は、右の原則に立脚した上で、外国人である母の非嫡出子が日本人であ
る父により胎児認知されなくても、右の子が戸籍の記載上母の夫の嫡出子と推定さ
れるため日本人である父による胎児認知の届出が受理されない場合において、「客
観的にみて、戸籍の記載上嫡出の推定がされなければ日本人である父により胎児認
知がされたであろうと認めるべき特段の事情」があるときは、「右胎児認知がされ
た場合に準じて、国籍法二条一号の適用を認め、子は生来的に日本国籍を
取得すると解するのが相当である。」と判示し、極めて限定的な例外を認めてい
る。また、右の例外が認められるための要件につき、本件最判は、「右の特段の事
情があるというためには、母の夫と子との間の親子関係の不存在を確定するための
法的手続が子の出生後遅滞なく執られた上、右不存在が確定されて認知の届出を適
法にすることができるようになった後速やかに認知の届出がされることを要する」
と判示している。ちなみに、本件最判は、子の出生から三か月と三日後に母の夫と
子との間の父子関係の不存在を確定するための法的手続が執られ、父子関係不存在
の確定から一二日後に認知の届出がされたという事案において、子の日本国籍取得
を肯定したものである。
(二) Cは、原告の出生から約一年二か月後に韓国において不適法な認知申告を
したのみで、胎児認知はもちろん、原告の出生後も現在に至るまで適法な認知の届
出をしていないのであるから、「認知の届出を適法にすることができるようになっ
た後速やかに認知の届出がされ」たとはいえず、Cに原告を胎児認知する意思があ
ったとも認められない(なお、AとBとの婚姻は、韓国においても届出がされてお
り、原告は、韓国戸籍の記載上もBの嫡出子であるとの推定を受ける子であった。
したがって、Cによる右認知申告は、嫡出推定がされる子を対象としたものである
点において韓国法上も不適法なものであり、現在でもなおその効力には疑問があ
る。)。
 また、Bと原告との間の親子関係の不存在を確定するための法的手続が執られた
のは、原告の出生から約九年九か月経過した後のことであるから、「親子関係の不
存在を確定するための法的手続が子の出生後遅滞なく執られた」ともいえない。
(三) 右のとおり、本件の場合、「客観的にみて、戸籍の記載上嫡出の推定がさ
れなければ日本人である父により胎児認知がされたであろうと認めるべき特段の事
情がある」とは認められないから、本件最判の判旨を前提にしても、原告につき国
籍法二条一号の規定が適用される余地はない。よって、原告が日本国籍を取得した
と解することはできず、右国籍取得を前提とする原告の慰謝料請求も失当である。
第三 当裁判所の判断
一 国籍法二条一号は、子は「出生の時に父又は母が日本国民であるとき」は日本
国籍を取得する旨定めているところ、右規定は、子の出生の時に日本国民である父
との間に法律上の親子関係が存在し
ている場合をいうものと解される。そして、法例一八条二項、民法七八四条本文に
よれば、認知は出生の時に遡ってその効力を生ずるものとされているが、これは親
族法上の効果について定めたものにすぎず、生来的な国籍取得に関しては、その性
質上出生時に確定されることが相当であることからして、認知の効力が遡及するこ
とはないと解すべきである。このことは、昭和二五年法律第一四七号による改正前
の国籍法(明治三二年法律第六六号)五条三号が外国人である非嫡出子の出生後に
おける認知につき、日本国籍の伝来取得を認めていたが、認知の遡及効により日本
国籍の生来取得を認める建前を採らず、現行の国籍法は、右改正前の国籍法と異な
り認知による国籍の伝来取得をも認めていないこと、現行の国籍法三条が、認知の
あることが前提となる準正子についても、当然に日本国籍を取得するものとはせ
ず、法務大臣に対する届出があって初めて日本国籍を取得するものとしていること
からも明らかである。
 右のとおり、国籍法においては認知の遡及効が認められていないのであるから、
出生後に認知がされたというだけでは、子の出生の時に父との間に法律上の親子関
係が存在していたということはできず、外国人である母の子が日本人である父から
認知されたからといって、右の子が同法二条一号に当然に該当するということには
ならない。すなわち、外国人である母の非嫡出子が生来的に日本国籍を取得するの
は、原則として日本人である父から胎児認知された場合に限られるということにな
る。しかし、そうであるとすると、外国人である母が子を懐胎した場合において、
その子が戸籍の記載上母の夫の嫡出子であるとの推定がされない場合には、夫以外
の日本人である父の胎児認知という手続を執ることにより、子が生来的に日本国籍
を取得するみちが開かれているのに、右推定がされる場合には、胎児認知という手
続を適法に執ることができないため、子が生来的に日本国籍を取得するみちがない
ことになり(外国人である母が子を懐胎した場合において、その子が戸籍の記載上
母の夫の嫡出子と推定されるときは、夫以外の日本人である父がその子を胎児認知
しようとしても、その届出は認知の要件を欠く不適法なものとして受理されないか
ら、胎児認知という方法によっては、子が生来的に日本国籍を取得することはでき
ない。)、同じく外国人の母の非嫡出子でありながら、戸籍の記
載いかんにより、子が生来的に日本国籍を取得するみちに著しい差が生ずることに
なるが、このような著しい差異を生ずるような解釈をすることに合理性があるとは
いい難いから、できる限り右両者に同等のみちが開かれるように、同法二条一号の
規定を合理的に解釈適用するのが相当である。右の見地からすると、客観的にみ
て、戸籍の記載上嫡出の推定がされなければ日本人である父により胎児認知がされ
たであろうと認めるべき特段の事情がある場合には、右胎児認知がされた場合に準
じて、国籍法二条一号の適用を認め、子は生来的に日本国籍を取得すると解するの
が相当であるところ、生来的な日本国籍の取得はできる限り子の出生時に確定的に
決定されることが望ましいことに照らせば、右の特段の事情があるというために
は、母の夫と子との間の親子関係の不存在を確定するための法的手続が子の出生後
遅滞なく執られた上、右不存在が確定されて認知の届出を適法にすることができる
ようになった後速やかに認知の届出がされることを要すると解すべきである(最高
裁判所平成九年一〇月一七日第二小法廷判決・民集五一巻九号三九二五頁(本件最
判)参照)。
二 そこで、これを本件についてみると、前記第二の一のとおり、原告は昭和六〇
年七月一五日Aの子として出生したが、当時AはBと婚姻関係にあったため、原告
の出生前にCが適法な胎児認知をすることはできなかったところ、Cは、昭和六一
年九月二六日、韓国の方式で原告の認知を申告してこれを受理され、同年一〇月九
日には、右認知証書を日本において提出したこと、原告は、平成七年三月二七日、
Bとの間の親子関係が存在しないことの確認を求める調停を申し立て、平成八年一
月一三日、右親子関係が存在しないことを確認する旨の審判が確定したことが認め
られる。そして、右認知申告は、他人の嫡出子であると推定されている子について
されたものであるから、日本においても韓国においても不適法なものであり(民法
七七九条、韓国民法八五五条一項)、本来受理されるべきではなかったものが韓国
において誤って受理されたものであることが明らかであるが、右受理の可否に関す
る戸籍事務の取扱いは、戸籍官吏が親子関係の存否につき実質的な審査権限を有し
ないことにかんがみ、民法上嫡出推定を受ける子であるか否かを基準とする形式的
な運用がされているにすぎないことからすると、後にBと原告との間の親子
関係の不存在を確認する旨の審判が確定したことにより、申告時に遡って有効なも
のになったと解する余地がないではない(右認知申告の誤った受理に関しては、甲
第一号証の1、2及び第三号証によれば、Aは原告出生後の昭和六一年八月二三
日、韓国において分家の申告をし、これにより、Aを戸主とする新戸籍が編製され
たこと、次いで、Aが同年九月一六日原告の出生届出をしたことにより、原告は、
Aを戸主とする右戸籍に、Aの非嫡出子として入籍されたこと、更に、Cは、日本
に居住していたにもかかわらず、右入籍の直後である同月二六日、韓国に出向いて
右認知申告を行い、右申告が受理された結果、原告の身分事項欄に右認知の記載が
されたことがそれぞれ認められ、これら事実からすると、本来であればBの摘出子
としての出生届出しかできなかったはずの原告を、Aと戸主とする新戸籍に非摘出
子として登載させることで、Cによる認知申告を適法なものと装うための策を弄し
たとの疑念を払拭し得ず、そうであるとすれば、かかる認知申告が申告時に遡って
有効になると解してよいかは問題であろう。)。
 しかしながら、仮に右認知申告がその申告時に遡って有効なものになったと解す
るとしても、Cが右認知申告をしたのは昭和六一年九月二六日であって、原告の出
生から約一年二か月のことであり、しかも、母の夫との間の親子関係の不存在を確
認すべく、Bと原告との間の親子関係が存在しないことの確認を求める調停の申し
立てがされたのは、平成七年三月二七日であって、原告の出生から約九年八か月を
経過した後であることが認められるから、かかる事実に照らすと、原告の出生後遅
滞なくBと原告との間の親子関係不存在を確定するための法的手続きが執られ、こ
れが確定した後速やかに認知の届出をしたものということはできず、むしろ、原告
につき戸籍上摘出推定がされなくてもCによる胎児認知はされなかったものと推認
するのが相当であり、結局、客観的にみて、戸籍の記載上摘出の推定がされなけれ
ばCにより胎児認知がされたであろうと認めるべき特段の事情があるとは認め難い
というべきである。
三 右の点に関し、原告は、① 本件最判が親子関係の不存在を確定するための法
的手続及び認知の届出を早期にすべきことを求めているのは、「生来的な日本国籍
の取得はできる限り子の出生時に確定的に決定されることが望ましい」との理由に
よるものであると
ころ、現実には子の出生届出がされなければ国籍確定の問題も生じないのであるか
ら、子の出生届出後遅滞なく親子関係の不存在を確定するための法的手続が執られ
さえすれば、本件最判が指摘する右の要請は満たされる、② Bと原告との間の親
子関係の不存在確認を求める調停の申立てが遅れたのは、Cの韓国における認知申
告が誤って受理されたというC及び原告の責めに帰すべきでない事情を原因とする
ものであり、仮に、右認知申告が受理されなかったとすれば、Cとしては、親子関
係の不存在を確定するための法的手続を早期に執っていたものと考えられるから、
右手続の遅れを理由として原告の日本国籍取得を否定するのは相当でない、と主張
するので、これらについて検討する。
1 前記一で説示したとおり、外国人である母の非嫡出子が日本人である父により
胎児認知されていなくても国籍法二条一号により日本国籍を取得することができる
のは、胎児認知がされた場合と同視し得る実質を有することがその根拠となってい
るのであるから、認知を妨げている障害が取り除かれるための親子関係不存在確定
手続は、遅滞なくされる必要があるところ、生来的な日本国籍の取得は、その事柄
の性質上、できる限り子の出生時に確定的に決定されることが望ましいことにかん
がみると、この「遅滞なく」とは非嫡出子の出生後「遅滞なく」と解するのが相当
である。これに加えて、子の出生があったにもかかわらずその届出がされない場合
には、戸籍の記載により出生した子の身分関係の登録、公証がされる余地がないた
め、社会生活上種々の支障を生じ、子の福祉に反する結果を招くことは明らかであ
ること、戸籍法も所定の者に対し、子の出生後一定期間内に出生の届出をすべき義
務を課していること(四九条、五二条、一二〇条)をも考慮すると、単に、子の出
生届出がされていない間は子の国籍をめぐる法的紛争が表面化しないからといっ
て、子の出生そのものと出生届出とを同視し、前記説示にかかる母の夫と子との間
の親子関係の不存在を確定するための法的手続が「子の出生後遅滞なく執られた」
ことを「子の出生届出後遅滞なく執られた」ことと解するのは相当でないといわな
ければならず、この点に関する原告の前記主張は採用することができない。また、
原告の主張するように、Aによる出生届出が遅れたのが、Aが原告をBの子とされ
ることなく届け出ることができないか思い悩み、逡巡していたためであったとして
も、子の福祉という点を考慮した場合、右届出の遅れをやむを得ないものとして容
認することは相当でないし、原告法定代理人(C)の供述によれば、Cは、原告の
出生後まもなく右出生の事実を知ったにもかかわらず、出生届出に関してはAにす
べて任せていたにすぎないものと認められ、C自身が、原告の出生後遅滞なく原告
を認知するため何らかの手続を執ろうとした事実は窺われないのであるから、Cに
よる認知申告が原告の出生から約一年二か月後になったことにも相当な理由があっ
たとはいい難い。
2 次に、Bと原告との間の親子関係の不存在確認を求める調停の申立てが遅れた
事情についてみると、前記第二の一で認定した経過によれば、Cが韓国においてし
た原告の認知申告が誤って受理されたことがその後における手続の遅れを招いた面
のあることは否定できないところである。
 しかしながら、原告は、Aが昭和六一年一二月一一日に日本において原告の出生
を届け出たことによりBの戸籍に入籍され、戸籍上Bの嫡出子とされたことは、前
記第二の一2のとおりであるところ、甲第二号証及び原告法定代理人の供述によれ
ば、原告は、Cが昭和六一年九月二六日に韓国において認知の申告をした後も、B
との間の親子関係不存在確認の審判が確定するまで、Bの戸籍にその嫡出子として
登載されていて、実生活においてもB姓を名乗っており、Cも右戸籍上の記載につ
いては認識していたものと認められるのであるから、たとえ右認知申告が受理され
たとはいえ、Bと原告との間の親子関係の法的処理がされていない以上、右親子関
係の不存在を確定するための法的手続が平成七年三月二七日の調停申立てまで放置
されたことに相当な理由があったとはいい難い。そうすると、Cによる認知申告が
受理されていなかったとすれば、Cとしては、右の法的手続を早期に執っていたも
のと考えられるとして、右認知申告時又はこれに近接した時期にBと原告との間の
親子関係の不存在を確定するための法的手続が執られていたはずであると認めるの
は相当でないというべきである(なお仮に右認知申告時又はこれに近接した時期に
右の法的手続が執られたものとみなすことができるとしても、右認知申告は原告の
出生から約一年二か月後にされており、かつ、右認知申告が遅れたことに相当な理
由があるといい難いことも前記1で説示したとおりであるから、約一年二
か月という期間をもって、出生後遅滞なくBと原告との間の親子関係不存在を確定
するための法的手続が執られたということはできない。)。
四 更に、原告は、国籍法二条一号の規定には違憲の疑いがあること、少なくとも
未成年者については、出生時に遡及して日本国籍を取得することを認めたからとい
って国籍の安定性を害するおそれがないことなどを理由として、本件最判が「特段
の事情があるというためには、母の夫と子との間の親子関係の不存在を確定するた
めの法的手続が子の出生後遅滞なく執られた上、右不存在が確定されて認知の届出
を適法にすることができるようになった後速やかに認知の届出がされることを要す
る」と判示する部分は例示にすぎないとも主張する。
 しかしながら、本件最判の趣旨については、実の父が子に日本国籍を取得させる
ため胎児認知の届出をしたくても、母が婚姻中であることから右届出が適法に受理
されない状態にあるため、まず認知の届出が適法に受理されるための法的手続を進
め、その後に右届出が受理される状態になった時点で出生後の認知をしたという要
件を備えた場合に初めて、適法に胎児認知がされた場合と同視し得る実質を有する
として、極めて例外的に、胎児認知がされた場合に準じて日本国籍取得の要件があ
ると判断したものと考えられるのであり、原告が右に主張するような論拠に立っ
て、生来的に日本国籍を取得するための要件を緩やかに解したものとみることはで
きない。本件の場合、原告の出生後、Cにおいて認知の届出が適法に受理されるた
めの法的手続を何ら執らないまま相当な理由なく約九年八か月にわたり放置したこ
とは、既に認定したとおりであって、適法に胎児認知がされた場合と同視し得る実
質を有するということはできないから、右の趣旨からしても、国籍法二条一号が適
用される余地はないというべきである。
五 以上のとおり、原告が生来的に日本国籍を取得したとは認められないから、原
告が日本国籍を有することの確認請求は理由がなく、そうすると、大阪法務局長が
大阪市港区長に宛てて原告が日本国籍を有することを前提とした処理をするよう指
示をしなかった点に違法があるともいえないから、慰謝料の支払請求も理由がない
ことになる。
よって、原告の請求をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第二民事部
裁判長裁判官 三浦潤
裁判官 石井寛明
裁判官 徳地淳

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