弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成25年1月28日判決言渡
平成24年(行ケ)第10049号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成24年11月27日
判決
原告栗田工業株式会社
訴訟代理人弁理士早川裕司
同村雨圭介
同大窪克之
被告オルガノ株式会社
訴訟代理人弁護士永島孝明
同安國忠彦
同明石幸二郎
同朝吹英太
同弁理士磯田志郎
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2011-800063号事件について平成23年12月26日に
した審決を取り消す。
第2前提となる事実
1特許庁における手続の経緯
原告は,発明の名称を「超純水製造装置」とする特許第4552327号(以下
「本件特許」という。)の特許権者である。
本件特許は,平成13年1月18日に出願(特願2001-10433号。以下
「本件特許出願」という。)され,平成22年7月23日に設定登録された。
被告は,平成23年4月18日に,本件特許の請求項1に係る発明の特許につき
無効審判を請求した。特許庁は,同請求を無効2011-800063号事件とし
て審理した上,同年12月26日,「特許第4552327号の請求項1に係る発明
についての特許を無効とする。」との審決(以下「審決」という。)をし,平成24
年1月10日,原告に審決謄本が送達された。
2特許請求の範囲【請求項1】の記載
「185nm付近の波長を有する紫外線を照射する紫外線酸化装置と,
触媒式酸化性物質分解装置と,
脱気装置と,
混床式イオン交換装置と,
微粒子分離膜装置と
を有し,この順に通水可能とした超純水製造装置であって,
該触媒式酸化性物質分解装置の酸化性物質分解触媒が,二酸化チタン,アルミナ,
活性炭,ゼオライト,イオン交換樹脂に担持された,パラジウム触媒又は白金触媒
であることを特徴とする超純水製造装置。」(以下,「本件特許発明」といい,本件
特許の明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。)
3審決の理由
別添審決書写しのとおりであり,その要旨は,次のとおりである。
(1)本件特許発明は,特開平11-77091号公報(甲1)記載の発明(以下
「甲1発明」という。)及び特開平9-192658号公報(甲2)記載の発明(以
下「甲2発明」という。)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであ
るから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(2)審決が,上記判断を導く過程において認定した甲1発明及び甲2発明並びに
本件特許発明と甲1発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア甲1発明
「185nm付近の波長を有する紫外線を照射する紫外線酸化装置26と,
酸化性物質分解装置27と,
膜式脱気装置50と,
カートリッジポリッシャ(混床式イオン交換装置)28と,
限外濾過膜分離装置30と
を有し,この順に通水可能とした超純水製造装置であって,
該酸化性物質分解装置27の吸着剤が,合成炭素系粒状吸着剤であり,
過酸化水素濃度とTOC濃度と溶存酸素(DO)濃度が極めて低い超純水を得る,
超純水製造装置。」
イ甲2発明
「185nm付近の波長を有する紫外線を照射する紫外線酸化装置と,
酸素を発生させずに過酸化水素を完全に除去する,パラジウムを担持した触媒樹
脂が充填された触媒樹脂装置(「触媒式」酸化性物質分解装置)と,
ポリッシャー装置(混床式イオン交換装置)と,
微粒子分離装置と
を有する超純水製造装置であって,
該触媒樹脂装置の触媒(酸化性物質分解触媒)が,イオン交換樹脂に担持された
パラジウム触媒であり,
過酸化水素濃度とTOC濃度と溶存酸素(DO)濃度が極めて低い超純水を得る,
超純水製造装置。」
ウ本件特許発明と甲1発明との一致点
「185nm付近の波長を有する紫外線を照射する紫外線酸化装置と,
酸化性物質分解装置と,
脱気装置と,
混床式イオン交換装置と,
微粒子分離膜装置と
を有し,この順に通水可能とした超純水製造装置。」という点。
エ本件特許発明と甲1発明との相違点
本件特許発明では,「酸化性物質分解触媒が,二酸化チタン,アルミナ,活性炭,
ゼオライト,イオン交換樹脂に担持された,パラジウム触媒又は白金触媒である」
「触媒式」酸化性物質分解装置であるのに対して,
甲1発明では,「吸着剤が,合成炭素系粒状吸着剤である」酸化性物質分解装置で
ある点。
第3当事者の主張
1取消事由に関する原告の主張
審決は,本件特許発明の要旨認定を誤り(取消事由1),甲1発明及び甲2発明の
認定を誤り(取消事由2),本件特許発明と甲1発明との一致点及び相違点の認定を
誤り(取消事由3),本件特許発明と甲1発明との相違点についての判断を誤った(取
消事由4)ものであり,審決の結論に影響を及ぼすから,違法として取り消される
べきである。
(1)取消事由1(本件特許発明の要旨認定の誤り)
ア本件特許発明の要旨は,185nm付近の波長を有する紫外線を照射する紫
外線酸化装置と,触媒式酸化性物質分解装置と,脱気装置と,混床式イオン交換装
置と,微粒子分離膜装置とを,この順に通水可能となるように超純水製造装置を構
成し,二酸化チタン,アルミナ,活性炭,ゼオライト,イオン交換樹脂に担持され
た,パラジウム触媒又は白金触媒を触媒式酸化性物質分解装置の酸化性物質分解触
媒として用いることにより,溶存酸素(DO),全有機態炭素(TOC)及び過酸化
水素(H2O2)の濃度が著しく低い高純度の超純水を製造するという技術的思想で
ある。
従来技術においては,触媒式酸化性物質分解装置ではなくアニオン交換樹脂や活
性炭による酸化性物質分解装置によってH2O2を分解していたため,「2H2O2→
2H2O+O2」という反応により酸素が発生してしまっていた。そのため,アニオ
ン交換樹脂や活性炭による酸化性物質分解装置で処理された水を膜式脱気装置に通
水してDO濃度を再度低減させていた。
一方,本件特許発明の一構成要素となっている触媒式酸化性物質分解装置におい
ては,二酸化チタン,アルミナ,活性炭,ゼオライト,イオン交換樹脂に担持され
た,パラジウム触媒又は白金触媒といった酸化還元触媒を酸化性物質分解触媒とし
て用いているが,触媒式酸化性物質分解装置では「H2O2+H2+Pd→2H2O+
Pd」という酸化還元反応によってH2O2が分解されるため,H2O2の分解により
新たに酸素が発生することはなく,被処理水中のDO濃度は上昇しない。このため,
従来は触媒式酸化性物質分解装置の後段に脱気装置を設けるという技術的思想は存
在していなかった。
つまり,本件特許発明は,触媒式酸化性物質分解装置を紫外線酸化装置の後段に
配し,酸化還元反応によってH2O2を分解するとともにTOC溶出の問題をも解決
し,加えて,触媒式酸化性物質分解装置におけるH2O2の分解により新たに酸素が
発生することはないにもかかわらず,触媒式酸化性物質分解装置の後段に脱気装置
を設けることにより従来よりも更にDO濃度を低減させようという,これまでの技
術常識からすれば極めて斬新な技術的思想に基づくものである。
イ審決における本件特許発明の要旨認定の誤りの一つは,本件特許発明が,単
にTOC濃度及びDO濃度を上昇させる要因となるH2O2を除去してTOC濃度
及びDO濃度の上昇を抑えることにとどまらず,H2O2を除去しつつTOC濃度及
びDO濃度をも著しく低く抑えた超純水を製造しようとするものであるにもかかわ
らず,これをH2O2を除去することにより結果的にTOC濃度及びDO濃度の上昇
を抑えることと同等に扱っていることにある。
また,審決のもう一つの誤りは,本件特許発明が,触媒式酸化性物質分解装置を
紫外線酸化装置の後段に配し,酸化還元反応によってH2O2を分解するとともにT
OC溶出の問題をも解決し,加えて,触媒式酸化性物質分解装置におけるH2O2の
分解により新たに酸素が発生することはないにもかかわらず,触媒式酸化性物質分
解装置の後段に脱気装置を設けることにより従来よりも更にDO濃度を低減させよ
うという,これまでの技術常識からすれば極めて斬新な技術的思想に基づく点を正
当に評価していないことである。
(2)取消事由2(甲1発明及び甲2発明の認定の誤り)
ア甲1発明の認定の誤り
審決は,「甲第1号証(判決注:本件訴訟の甲1)には,「超純水におけるTOC
濃度を極めて少なくする(TOC濃度が極めて少ない超純水を得る)」ことが記載さ
れているということができる」と認定したが,甲1には超純水におけるTOC濃度
を極めて少なくするというような記載は一切ない。
また,審決は,「上記(1)~(8)の記載事項および上記(9)(10)の検討
事項より,甲第1号証には,「185nm付近の波長を有する紫外線を照射する紫外
線酸化装置26と,酸化性物質分解装置27と,膜式脱気装置50と,カートリッ
ジポリッシャ(混床式イオン交換装置)28と,限外濾過膜分離装置30とを有し,
この順に通水可能とした超純水製造装置であって,該酸化性物質分解装置27の吸
着剤が,合成炭素系粒状吸着剤であり,過酸化水素濃度とTOC濃度と溶存酸素(D
O)濃度が極めて低い超純水を得る,超純水製造装置。」の発明が開示されている」
と認定したが,甲1にはTOC濃度やDO濃度が極めて低い超純水を得ることまで
は開示されていない。
甲1発明においては,TOC濃度が2ppb以下の一次純水に対して紫外線酸化
装置が紫外線を照射しているものの,その紫外線酸化装置よりも後段の構成におい
て再びTOC濃度の上昇要因となる装置があるのである。それにもかかわらず,甲
1には,その紫外線酸化装置よりも後段のTOC濃度については,何ら言及してい
ない。審決は,このTOCに関する誤った判断に基づき,甲1発明及び甲2発明が,
「過酸化水素濃度とTOC濃度と溶存酸素(DO)濃度が極めて低い超純水を得る,
超純水製造装置」である点で共通していると誤った認定をし,この誤った認定に基
づいて本件特許発明の進歩性を判断したことに誤りがある。
イ甲2発明の認定の誤り
審決は,「甲第2号証(判決注:本件訴訟の甲2)には,「超純水におけるTOC
濃度と溶存酸素(DO)濃度を極めて少なくする(TOC濃度と溶存酸素(DO)
濃度が極めて少ない超純水を得る)」ことが記載されているということができる」(9
頁下から3行~末行)と認定したが,甲2には,超純水におけるTOC濃度及びD
O濃度を極めて少なくするというような記載は一切ない。
また,審決は,「甲第2号証には「微粒子分離装置を有する」ことが記載されてい
るということができる」(11頁4行~5行)と認定したが,甲2には,このような
微粒子分離装置を超純水製造装置が有することは記載されていない。
さらに,審決は,「上記(11)~(27)の記載事項および上記(28)~(3
0)の検討事項からして,甲第2号証(実施例3)には,「185nm付近の波長を
有する紫外線を照射する紫外線酸化装置と,酸素を発生させずに過酸化水素を完全
に除去する,パラジウムを担持した触媒樹脂が充填された触媒樹脂装置(「触媒式」
酸化性物質分解装置)と,ポリッシャー装置(混床式イオン交換装置)と,微粒子
分離装置とを有する超純水製造装置であって,該触媒樹脂装置の触媒(酸化性物質
分解触媒)が,イオン交換樹脂に担持されたパラジウム触媒であり,過酸化水素濃
度とTOC濃度と溶存酸素(DO)濃度が極めて低い超純水を得る,超純水製造装
置。」の発明(判決注:甲2発明)……が開示されている」(11頁6行~18行)
と認定したが,甲2には,微粒子分離装置を有する超純水製造装置や,TOC濃度
やDO濃度が極めて低い超純水を得ることまでは開示されていない。
(3)取消事由3(本件特許発明と甲1発明との一致点及び相違点の認定の誤り)
ア一致点の認定の誤り
(ア)審決は,「甲第1号証記載の発明(判決注:甲1発明)の「紫外線酸化装置2
6」,「酸化性物質分解装置27」,「膜式脱気装置50」,「カートリッジポリッシャ
(混床式イオン交換装置)28」,「微粒子分離膜装置」は,本件特許発明の「紫外
線酸化装置」,「酸化性物質分解装置」,「脱気装置」,「混床式イオン交換装置」,「微
粒子分離膜装置」にそれぞれ相当する」(11頁21行~26行)と認定した。
しかしながら,甲1発明の「酸化性物質分解装置27」は「合成炭素系粒状吸着
材を充填した酸化性物質分解装置」であり,本件特許発明の「酸化性物質分解装置」
は二酸化チタン,アルミナ,活性炭,ゼオライト,イオン交換樹脂に担持された,
パラジウム触媒又は白金触媒を用いた「触媒式酸化性物質分解装置」であるため,
両者は酸化性物質(過酸化水素)を分解するメカニズムが異なるものである。特に,
前者は過酸化水素を分解した結果酸素が発生し,後者は発生しないことからすると,
両者はその作用,機構が異なるということができ,同じ装置と捉えることは適切で
はない。その作用,機構を踏まえれば,甲1発明における「酸化性物質分解装置2
7」と「膜式脱気装置50」との組合せが本件特許発明の「触媒式酸化性物質分解
装置」に相当すると認定することが妥当なのであって,甲1発明の「酸化性物質分
解装置27」が本件特許発明の「酸化性物質分解装置」に相当するとの認定は誤り
である。
(イ)そして,審決は,「上記より,本件特許発明と甲第1号証記載の発明とは,「1
85nm付近の波長を有する紫外線を照射する紫外線酸化装置と,酸化性物質分解
装置と,脱気装置と,混床式イオン交換装置と,微粒子分離膜装置とを有し,この
順に通水可能とした超純水製造装置。」という点で一致」(11頁27行~33行)
すると認定したが,上記のとおり,甲1発明の「酸化性物質分解装置27」が本件
特許発明の「酸化性物質分解装置」に相当するとの認定は誤りであるから,上記一
致点の認定も誤りである。
イ相違点の認定の誤り
審決は,「本件特許発明では,「酸化性物質分解触媒が,二酸化チタン,アルミナ,
活性炭,ゼオライト,イオン交換樹脂に担持された,パラジウム触媒又は白金触媒
である」「触媒式」酸化性物質分解装置であるのに対して,甲第1号証記載の発明で
は,「吸着材が,合成炭素系粒状吸着材である」酸化性物質分解装置である点」を相
違点として認定した。
しかしながら,上記のとおり,本件特許発明の「触媒式酸化性物質分解装置」は
甲1発明においては「酸化性物質分解装置27」と「膜式脱気装置50」との組合
せに相当するのであり,本件特許発明では「触媒式酸化性物質分解装置」の後段に
更に「脱気装置」を設けているのであるから,上記相違点の認定は誤りである。
(4)取消事由4(本件特許発明と甲1発明との相違点についての判断の誤り)
ア甲1には,「DO」及び「H2O2」の低減についてしか開示されておらず,
また,甲2には,「TOC」の低減については言及されているものの「DO」の低減
についてまでは開示されていないことは前述したとおりである。すなわち,甲1及
び甲2において,これら3つの成分全てを高度に低減されることについては検討さ
れておらず,このような3つの成分全てを高度に低減するという,甲1及び甲2に
おいては認識されていない新規な課題を解決し得る構成を採用した点に本件特許発
明の特許性がある。
イしかし,審決は,甲1は,「DO」,「TOC」,「H2O2」の濃度が極めて低
い超純水を製造する超純水製造装置である点で本件特許発明と共通しているという
誤った認定をし,この誤った認定に基づいて甲2との組合せを容易であると判断し
たものであり,この前提が成り立たない以上,甲1と甲2とを組み合わせる合理的
理由は存在しない。
発明の進歩性判断において,当該発明の特徴点を的確に把握するために,発明が
目的とする課題を的確に把握することは重要であり,本件特許発明の解決しようと
する課題は甲1及び甲2においては認識されていない。本件特許発明の技術的課題
を内包していない従前の公知技術を組み合わせるのであれば,少なくとも引用例に
おいて,H2O2を分解するために「触媒(パラジウム)式の酸化性物質分解装置」
を採用した場合においても後段に「脱気装置」を設けることが示唆等されている必
要がある。引用例においてそのような示唆や組合せの動機づけとなる記載がない以
上,本件特許発明が甲1発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易に想到できたと
結論づけるのは,事後分析的な思考によるものであるといわざるをえない。
2被告の反論
(1)取消事由1(本件特許発明の要旨認定の誤り)に対し
ア審決は,本件特許発明について「本件特許の請求項1に係る発明は,本件特
許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとお
りのものである」(3頁10行~11行)として,請求項1に記載された発明を正し
く認定したものであり,その認定に誤りはない。
イ原告は,本件特許発明について,従来よりも更にDO濃度を低減させようと
いう,これまでの技術常識からすれば極めて斬新な技術的思想に基づくものである
と主張するが,誤りである。例えば,甲1の従来技術において,シリコンウエハー
表面を超純水で洗浄すると表面に自然酸化膜が形成される問題について,「その原因
が超純水中の溶存酸素であるとし,これを低減するために,少なくとも紫外線酸化
装置26とイオン交換純水装置(ポリッシャ)28とを有するサブシステムにおい
て,該イオン交換純水装置の後段に膜式脱気装置50を配置した図3に示すような
超純水製造装置が提案されている(特開平9-29251号公報)」(【0005】)
と記載され,甲2にも,従来技術として,「電子工業においては,LSIの集積度の
増加に伴って超純水の純度に対する要求は益々厳しくなってきており,特に,超純
水中のΤOCおよび溶存酸素の低減が大きな課題である」(【0002】)と記載され
ている。これらの記載から明らかなように,「超純水中の溶存酸素を低減させる」と
いう技術的思想は,従来から存在した周知のものである。
(2)取消事由2(甲1発明及び甲2発明の認定の誤り)に対し
ア甲1発明の認定について
(ア)甲1には,「例えば,TOC濃度2ppb以下の一次純水は,二次系システム1
0の純水貯槽24に供給される。純水貯槽24に蓄えられる一次純水の抵抗率は,
通常,10MΩ・cm以上である。純水貯槽24を出た純水は,紫外線酸化装置2
6で処理される。紫外線酸化装置26は,高い有機物分解能力がある185nm付近
の紫外線も強く照射可能な低圧水銀ランプを備えた紫外線酸化装置であり,水中の
有機物を炭酸や有機酸に分解するために設置されている」(【0018】)という記載
があり,2ppb以下というTOC濃度が低い一次純水に対し,紫外線酸化装置によ
って,高い有機物分解能力がある185nm付近の紫外線を照射して水中の有機物を
炭酸や有機酸に分解することが開示されている。
また,甲2の従来技術の欄には,「特に,超純水中のΤOCおよび溶存酸素の低減
が大きな課題である」(【0002】)という記載があり,甲3の従来技術の欄にも,
「紫外線照射工程を内包する純水製造プロセスによれば,1次処理水中に残存する
微量有機物質がイオン化され,この生じたイオン化物質が混合イオン交換樹脂床に
て除去されるので,それだけ有機物濃度の低い純水が製造される」(【0006】)と
いう記載がある。これらの記載によれば,本件特許出願当時,超純水におけるTO
C濃度を極めて少なくすること自体,通常一般に行われていた事項なのである。
よって,甲1には,超純水におけるTOC濃度を極めて少なくすることが開示さ
れている。
(イ)さらに,甲1の「【発明の効果】本発明によれば,紫外線酸化装置で生成した
過酸化水素は,後段の合成炭素系粒状吸着剤を充填した酸化性物質分解装置及び膜
式脱気装置で除去して,過酸化水素濃度が極めて低い超純水を得ることができる。
また,溶存酸素は膜式脱気装置で除去されるため,過酸化水素濃度及び溶存酸素濃
度が共に極めて低い超純水を得ることができ,シリコンウエハ上の自然酸化膜の形
成を抑制できる」(【0030】)という記載からすれば,甲1にはTOC濃度やDO
(溶存酸素)濃度が極めて低い超純水を得ることが記載されていることが明らかで
ある。
イ甲2発明の認定について
(ア)甲2には,従来の技術において,「特に,超純水中のΤOCおよび溶存酸素の
低減が大きな課題である」(【0002】)と記載され,発明の解決すべき課題として,
「本発明は,上記従来の問題を解決すべくなされたもので,超純水中のTOC濃度
および溶存酸素濃度の増加と機器の劣化とをほぼ防止する超純水製造装置を提供す
ることを目的とする」(【0007】)と記載されている。さらに,甲2には,「本発
明においては,被処理水である一次純水は,アニオン交換樹脂,特に好ましくは強
塩基性アニオン交換樹脂を充填した単床式イオン交換装置に導入され,被処理水中
のアニオン成分が除去されるとともに,被処理水中のpHはアルカリサイドにシフ
トされる。次に,被処理水は,180~190nmの波長を有する紫外線を発生す
る紫外線照射装置に導入され,被処理水中に溶存する有機物がほぼ完全に有機酸あ
るいは二酸化炭素にまで分解される。また同時に,OΗラジカル同士の反応により
生成した過酸化水素は,被処理水のpΗがアルカリサイドにシフトしているために
自己分解し,酸素と水に変化する。次いで,被処理水は,気体透過膜を装備した膜
脱気装置に導入され,紫外線照射装置により発生した酸素と二酸化炭素が除去され
る。最後に,膜脱気装置において脱ガスされた被処理水は,ポリッシャー装置に導
入され,被処理水中のイオン成分が除去される」(【0015】)と記載されているよ
うに,一次純水中の有機物を紫外線照射装置によってほぼ完全に分解した後,膜脱
気装置によって酸素と二酸化炭素を除去することが明確に記載されている。
よって,甲2には,超純水におけるTOC濃度やDO濃度を極めて少なくするこ
とが開示されている。
(イ)さらに,甲2には,以下の記載がある。
「従来から,液晶や半導体素子(LSI),あるいは医薬品の製造工程においては,
イオン状物質,微粒子,有機物,溶存ガスおよび生菌等の含有量の極めて少ない超
純水が用いられている。特に,電子工業においては,LSIの集積度の増加に伴っ
て超純水の純度に対する要求は益々厳しくなってきており,特に,超純水中のΤO
Cおよび溶存酸素の低減が大きな課題である。」(【0002】)
「一般に,超純水の製造は,原水中の濁質成分を除去する前処理システム,イオン
状物質,微粒子,有機物,溶存ガスおよび生菌等を除去する一次系システムおよび
一次系システムより得られた一次純水の精密仕上げを目的とした二次系システムの
組み合わせにより行われている。」(【0003】)
「本発明において処理の対象となる一次純水は,通常,電気伝導度16MΩ・cm
以上,0.2μm以上の微粒子数100個/ml以下,TOC濃度5ppb程度以
下のものが主流である。」(【0018】)
これらの記載によれば,従来から微粒子の含有量の極めて少ない超純水が用いら
れていたが,更に純度を高めることが要求されていたものであり,微粒子数100
個/ml以下の一次純水に対し,一次純水の精密仕上げを目的とした二次系システ
ムにおいて,更に微粒子を除去する微粒子分離装置を設けることが,甲2に実質的
に記載されている。
なお,以下に述べるとおり,二次系システムにおいて,微粒子分離装置(例えば
限外濾過装置や精密濾過装置)を設けることは普通に行われていたことである。
例えば,甲1には,従来の技術として,「紫外線酸化装置26,カートリッジポリ
ッシャ(非再生式イオン交換樹脂装置)28及び限外濾過膜分離装置30を備える
二次純水システム10では,水の純度を更に高め超純水にする」(【0003】)と記
載され,甲3にも,従来の技術として,「純水中の残存有機物濃度を減少させる処理
方法として,イオン交換処理や逆浸透処理された1次処理水に紫外線を照射した後,
陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂からなる混合床にて仕上げ処理する方法が公
知である(例えば特公昭54-19227)。この仕上げ処理後,更にUF(精密濾
過)又はRO(逆浸透)膜による仕上げ処理を施すことも周知である(Semiconductor
World1982.7)」(【0005】)と記載されている。
よって,微粒子を分離するための微粒子分離装置を設けることは,甲2に記載さ
れているに等しい事項である。
(3)取消事由3(本件特許発明と甲1発明との一致点及び相違点の認定の誤り)
に対し
ア分解のメカニズムは異なるものの,甲1発明の「酸化性物質分解装置27」
と本件特許発明の「酸化性物質分解装置」とが,いずれも酸化性物質(過酸化水素)
を分解することについては原告も認めるところである。よって,甲1発明の「酸化
性物質分解装置27」も,本件特許発明の「触媒式酸化性物質分解装置」も,酸化
性物質(過酸化水素)を分解する装置である点において共通しており,甲1発明の
「酸化性物質分解装置27」が本件特許発明の「酸化性物質分解装置」に相当する
との審決の認定は正当である。
そして,審決は,相違点として,具体的な本件特許発明の「酸化性物質分解装置」
が「酸化性物質分解触媒が,二酸化チタン,アルミナ,活性炭,ゼオライト,イオ
ン交換樹脂に担持された,パラジウム触媒又は白金触媒である」「触媒式」酸化性物
質分解装置であることを明確に特定した上で,「吸着剤が,合成炭素系粒状吸着剤で
ある」酸化性物質分解装置である甲1発明の「酸化性物質分解装置」と相違すると
正確に認定している。
イ原告は,甲1発明の「酸化性物質分解装置27」と「膜式脱気装置50」と
の組合せが,本件特許発明の「触媒式酸化性物質分解装置」に相当すると認定する
ことが妥当であると主張するが,甲1発明の「膜式脱気装置50」は,被処理水中
に含まれるガスを除去する装置(甲1の【0016】)である。一方,本件明細書の
「この触媒式酸化性物質分解装置14により,TOCの溶出の問題を生じることな
く,UV酸化装置13で発生したH2O2,その他の酸化性物質が触媒により効率的
に分解除去される。そして,H2O2の分解により,水は生成するが,アニオン交換
樹脂や活性炭のように酸素を生成させることは殆どなく,DO増加の原因とならな
い」(【0022】)との記載によれば,本件特許発明の「触媒式酸化性物質分解装置」
は,主としてH2O2,その他の酸化性物質を分解除去するものであり,被処理水中
に含まれるガスを除去するものではない。そして,本件明細書においても,「この脱
気装置15により,水中のDOやCO2が効率的に除去される」(【0027】)と記
載されているように,水中のDOやCO2を除去するものは「脱気装置」である。
よって,甲1発明の「酸化性物質分解装置27」と「膜式脱気装置50」との組
合せが,本件特許発明の「触媒式酸化性物質分解装置」に相当するとの原告の主張
は誤りであり,甲1発明の「膜式脱気装置50」は本件特許発明の「脱気装置」に
相当する。
さらに,本件特許発明においては「触媒式酸化性物質分解装置」の後段に更に「脱
気装置」を設けている点において相違するとの原告の主張についても,前提を誤る
ものであり,理由がない。
(4)取消事由4(本件特許発明と甲1発明との相違点についての判断の誤り)に
対し
ア甲1発明の「酸化性物質分解装置」と甲2発明の「酸化性物質分解装置」と
は,酸化性物質(過酸化水素)を分解する装置である点において共通しており,審
決の認定は正当である。また,上記(2)イ(イ)のとおり,微粒子を分離するための微
粒子分離装置を設けることは,甲2に記載されているに等しい事項であるから,こ
の点においても共通するとした審決の認定に誤りはない。
イ甲2には,「パラジウム触媒樹脂を充填した触媒樹脂装置」を用いてH2O2
を分解した場合(実施例3)に,触媒樹脂装置から出てポリッシャー装置に送られ
る被処理水(【表3】における実施例3の「出口」)の溶存酸素濃度が0.8ppbであっ
たこと,「パラジウム触媒樹脂を充填した触媒樹脂装置」を用いずにH2O2を分解
し,膜脱気装置を設けた実施例2の場合に,膜脱気装置から出てポリッシャー装置
に送られる被処理水(【表2】における実施例2の「入口」)の溶存酸素濃度が0.5ppb
であったことが記載されている。
上記(1)イで述べたとおり,「超純水中の溶存酸素を低減させる」という技術的思
想は,従来から存在した周知のものであり,甲1の【0005】に記載されている
ように,溶存酸素を低減させるために膜脱気装置は従来から採用されていたのであ
るから,当業者であれば,甲2の実施例3に記載された溶存酸素濃度0.8ppbの被処
理水について,実施例2の方法で得られた0.5ppbの溶存酸素濃度まで低減しようと
することは容易に想到し得る事項にすぎない。
ウそもそも甲2及び甲3によれば,純水製造装置において,酸化性物質分解触
媒としてパラジウムを坦持したイオン交換樹脂を用いた触媒式の酸化性物質分解装
置は,本件特許出願当時,周知技術であり,かかる触媒式の酸化性物質分解装置を
用いて過酸化水素を分解することも周知技術であった。例えば,甲3には,「前記紫
外線照射装置1における紫外線照射を過酸化水素存在下で行なった場合には,アニ
オン交換装置2には過酸化水素を分解し得る触媒樹脂を充填し,紫外線照射装置1
からの液を触媒樹脂と接触させ過酸化水素を除去するのが好ましい。この場合,触
媒樹脂としてはアニオン交換樹脂にパラジウムを坦持させたものが用いられ,その
坦持量はアニオン交換樹脂に対し0.1~10%程度とするのが好ましい」(【00
24】)との記載がある。
したがって,甲1発明における「合成炭素系粒状吸着剤を充填した酸化性物質分
解装置」に換えて,過酸化水素を分解するための酸化性物質分解装置として周知の
「酸化性物質分解触媒としてパラジウムを坦持したイオン交換樹脂を用いた触媒式
の酸化性物質分解装置」を採用することは,単なる周知技術を適用しただけであり,
当業者にとって単なる設計事項にすぎない。
さらに,甲2には,超純水製造装置において,184.9nmに波長のピークを
有する紫外線を照射した場合に,過酸化水素(H2O2)が生成し,後段のポリッシ
ャー装置(イオン交換装置)内部のイオン交換樹脂や膜脱気装置の脱気膜を酸化劣
化させ,TOC濃度,溶存酸素濃度を上昇させる問題が生じ,かかる問題を解決す
るために,紫外線照射装置の後段に,過酸化水素を分解除去するために,アニオン
交換樹脂等の樹脂に触媒成分としてパラジウムを担持したパラジウム触媒樹脂装置
を設けることが開示されている。
甲1発明も甲2発明も,超純水を製造する装置である点において技術分野が同一
であり,甲1発明の「合成炭素系粒状吸着剤を充填した酸化性物質分解装置」も甲
2発明の「パラジウム触媒樹脂装置」も,紫外線の照射により生じた過酸化水素を
除去するものである点において共通する。
したがって,甲1発明の超純水製造装置において,甲2発明を参酌して,「合成炭
素系粒状吸着剤を充填した酸化性物質分解装置」に換えて,紫外線の照射により生
じた過酸化水素による後段のポリッシャー装置(イオン交換装置)内部のイオン交
換樹脂や膜脱気装置の脱気膜を酸化劣化させ,TOC濃度,溶存酸素濃度を上昇さ
せる問題を解決するために,甲2発明における「パラジウム触媒樹脂装置」を採用
することは,当業者が容易に想到し得る事項にすぎない。
よって,本件特許発明と甲1発明との間の相違点に係る構成は,甲1発明及び周
知技術に基づいて,又は甲1発明及び甲2発明に基づいて,当業者が容易に想到で
きた事項である。
第4当裁判所の判断
1取消事由1(本件特許発明の要旨認定の誤り)について
(1)特許に係る発明の要旨認定は,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的
に明確に理解することができないとか,一見してその記載が誤記であることが明細
書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情のない限
り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである(最高裁昭和62年(行ツ)
第3号平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁参照)ところ,
本件特許の特許請求の範囲の記載は,前記第2の2記載のとおりであり,上記特段
の事情があるとは認められない。
そして,審決は,本件特許発明について,特許請求の範囲【請求項1】に記載さ
れたとおりのものとして認定しているのであるから,その認定に誤りがあるという
ことはできない。
(2)原告は,本件特許発明は,単にTOC濃度及びDO濃度を上昇させる要因と
なるH2O2を除去してTOC濃度及びDO濃度の上昇を抑えることにとどまらず,
H2O2を除去しつつTOC濃度及びDO濃度をも著しく低く抑えた超純水を製造
しようとするものであるとか,触媒式酸化性物質分解装置の後段に脱気装置を設け
ることにより従来よりも更にDO濃度を低減させようというこれまでの技術常識か
らすれば極めて斬新な技術的思想に基づくものであるなどと主張する。
しかしながら,原告の主張する点は,発明の解決すべき課題やその解決手段に関
するものであり,発明の要旨認定に関するものではない。したがって,原告の主張
は採用することができない。
(3)以上のとおり,取消事由1は理由がない。
2取消事由2(甲1発明及び甲2発明の認定の誤り)について
(1)甲1発明の認定につき
ア審決は,甲1発明を前記第2の3(2)ア記載のとおり認定したものであるとこ
ろ,原告は,甲1には超純水におけるTOC濃度を極めて少なくするというような
記載は一切なく,甲1にはTOC濃度やDO濃度が極めて低い超純水を得ることま
では開示されていないから,甲1発明を「……TOC濃度と溶存酸素(DO)濃度
が極めて低い超純水を得る,超純水製造装置」とした審決の認定は誤りであると主
張するので,以下,検討する。
イ甲1には,図面(別紙参照)とともに,以下の記載がある(下線は判決にお
いて付加。以下同様)。
「【請求項1】一次純水を,少なくとも185nm付近の波長を照射可能な紫外線酸
化装置,合成炭素系粒状吸着剤を充填した酸化性物質分解装置,膜式脱気装置,非
再生型イオン交換装置の順に通水して超純水を得るように設置したことを特徴とす
る超純水製造装置。」
「【0018】次に,本発明の超純水製造装置を用いて超純水を製造する手順を図1
を参照して説明する。図1は本発明に実施の形態における超純水製造装置を示す系
統図である。各種前処理工程により得られた,例えば,TOC濃度2ppb以下の一
次純水は,二次系システム10の純水貯槽24に供給される。純水貯槽24に蓄え
られる一次純水の抵抗率は,通常,10MΩ・cm以上である。純水貯槽24を出
た純水は,紫外線酸化装置26で処理される。紫外線酸化装置26は,高い有機物
分解能力がある185nm付近の紫外線も強く照射可能な低圧水銀ランプを備えた
紫外線酸化装置であり,水中の有機物を炭酸や有機酸に分解するために設置されて
いる。紫外線酸化装置26の前後の溶存酸素濃度を測定したところ,該溶存酸素濃
度が22ppbから6ppbへと激変する現象が認められる。この現象は,紫外線酸化装
置26の被処理水中の溶存酸素が有機物の酸化のための酸素源として消費されたり,
紫外線と水との相互作用によるラジカル,オゾン及び過酸化水素等の生成によって
消費されたりするためと考えられる。従って,紫外線酸化装置26の前後の過酸化
水素濃度は数ppbから50ppbへと増加する。」
「【0019】次に,紫外線酸化装置26で処理された水を,酸化性物質分解装置2
7に通水し,該装置に充填された合成炭素系粒状吸着剤に接触させることにより,
処理水中の過酸化水素を分解する。この場合,合成炭素系粒状吸着剤への被処理水
の接触は充填方式で行うことが過酸化水素の除去効率の点で好ましい。このような
充填方式で被処理水を合成炭素系粒状吸着剤に接触させる場合,通水条件は線流速
100m/h以下,特に20~50m/hとすることが好ましい。線流速が100m/hを
超えると過酸化水素が十分に除去されないことがある。」
「【0020】次に,酸化性物質分解装置27で処理された水を膜式脱気装置50に
通水して,処理水中の溶存酸素を1ppb以下,全溶存ガス濃度を3000ppb以下
に低減する。」
「【0021】次に,この処理水を非再生型イオン交換装置であるカートリッジポリ
ッシャ28に通水して,前記膜式脱気装置50から発生する溶出イオンを含む一次
純水中のイオンを更に除去する。このように,処理水を酸化性物質分解装置27→
膜式脱気装置50→カートリッジポリッシャ28の順に通水することにより,膜式
脱気装置50からの溶出イオンを有効に除去できるが,処理水を酸化性物質分解装
置27→カートリッジポリッシャ28→膜式脱気装置50の順に通水したのでは,
膜式脱気装置50からの溶出イオンを除去できないばかりか溶存酸素や過酸化水素
によるカートリッジポリッシャ28の酸化劣化を有効に防止できない。」
「【0022】また,限外濾過膜分離装置30は,水中の残存微粒子等を除去して超
純水を製造し,この超純水は使用場所32に供給される。該超純水は使用している
時及び使用していない時のいずれの場合でも二次純水循環配管34を通って純水貯
槽24に戻り,純水貯槽24→紫外線酸化装置26→酸化性物質分解装置27→膜
式脱気装置50→カートリッジポリッシャ28→限外濾過膜分離装置30→純水貯
槽24からなる閉ループを常時循環している。」
「【0027】(各装置の仕様等)
紫外線酸化装置;低圧型TDFL-4(千代田工販社製)紫外線照射量0.3kW・
h/m3
酸化性物質分解装置;合成炭化系粒状吸着剤(アンバーソーブ572,ローム&ハ
ース社製)を充填した円筒状の充填塔(高さ90cm,内径30cm)
膜式脱気装置;MJ-520p(大日本インキ化学工業社製)真空度18Torr
カートリッジポリッシャ;カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とを混合充填した
混床式イオン交換装置,SV70~80h-1
限外濾過膜分離装置;FIT-3016型(旭化成工業社製)」
「【0030】
【発明の効果】本発明によれば,紫外線酸化装置で生成した過酸化水素は,後段の
合成炭素系粒状吸着剤を充填した酸化性物質分解装置及び膜式脱気装置で除去して,
過酸化水素濃度が極めて低い超純水を得ることができる。また,溶存酸素は膜式脱
気装置で除去されるため,過酸化水素濃度及び溶存酸素濃度が共に極めて低い超純
水を得ることができ,シリコンウエハ上の自然酸化膜の形成を抑制できる。」
ウ上記記載(特に【0030】)の記載によれば,甲1には,DO(溶存酸素)
濃度が極めて低い超純水を得ることが記載されていると認めることができる。
エまた,甲2には,【従来の技術】として,「特に,超純水中のΤOCおよび溶
存酸素の低減が大きな課題である」(【0002】)との記載が,甲3にも,【従来の
技術】として,「紫外線照射工程を内包する純水製造プロセスによれば,1次処理水
中に残存する微量有機物質がイオン化され,この生じたイオン化物質が混合イオン
交換樹脂床にて除去されるので,それだけ有機物濃度の低い純水が製造される」(【0
006】)との記載があり,これらの記載によれば,本件特許出願当時,当純水製造
装置において,TOC(全有機態酸素)を極めて少なくすること自体は,当業者に
一般的に知られている技術事項であったと認められる。
そうすると,上記一般的な技術事項を技術常識として認識している当業者であれ
ば,甲1の上記記載(特に【0018】)から,超純水のTOC濃度を極めて少なく
することが開示されていると理解するから,超純水におけるTOC濃度を極めて少
なくすることは,甲1に記載されているに等しい事項であると認められる。
オしたがって,甲1発明を「……TOC濃度と溶存酸素(DO)濃度が極めて
低い超純水を得る,超純水製造装置」とした審決の認定に,誤りはない。
(2)甲2発明の認定につき
ア審決は,甲2発明を前記第2の3(2)イ記載のとおり認定したものであるとこ
ろ,原告は,甲2には超純水におけるTOC濃度及びDO濃度を極めて少なくする
というような記載は一切なく,また,「微粒子分離装置を有する超純水装置」や,T
OC濃度やDO濃度が極めて低い超純水を得ることまでは開示されていないから,
甲2発明を「……微粒子分離装置とを有する超純水製造装置であって,……TOC
濃度と溶存酸素(DO)濃度が極めて低い超純水を得る,超純水製造装置」とした
審決の認定は誤りであると主張する。
イ甲2には,図面(別紙参照)とともに,以下の記載がある。
「【0002】
【従来の技術】従来から,液晶や半導体素子(LSI),あるいは医薬品の製造工程
においては,イオン状物質,微粒子,有機物,溶存ガスおよび生菌等の含有量の極
めて少ない超純水が用いられている。特に,電子工業においては,LSIの集積度
の増加に伴って超純水の純度に対する要求は益々厳しくなってきており,特に,超
純水中のΤOCおよび溶存酸素の低減が大きな課題である。」
「【0003】一般に,超純水の製造は,原水中の濁質成分を除去する前処理システ
ム,イオン状物質,微粒子,有機物,溶存ガスおよび生菌等を除去する一次系シス
テムおよび一次系システムより得られた一次純水の精密仕上げを目的とした二次系
システムの組み合わせにより行われている。」
「【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は,上記従来の問題を解決すべくなされた
もので,超純水中のTOC濃度および溶存酸素濃度の増加と機器の劣化とをほぼ防
止する超純水製造装置を提供することを目的とする。」
「【0009】これらの問題について,本発明者らが鋭意研究した結果,有機物濃度
を極めて低濃度にまで減少させた一次純水に対し,180~190nmの波長を有
する紫外線,特に,184.9nmに波長のピークを有する紫外線を紫外線照射装
置により照射した場合,当該紫外線照射装置出口において微量の過酸化水素(H2
O2)がリークすることを見いだした。微量の過酸化水素が生成する機構としては
次式に示すように,水の紫外線分解により生成したOΗラジカル(ヒドロキシラジ
カル)が一次純水中の微量な有機物と反応できず,OHラジカル同士が反応して生
成する機構が提示される。」
「【0010】H2O+hν→・OH
・OH+・OH→H2O2
そして,リークした過酸化水素が後段に設置されたポリッシャー装置(イオン交換
装置)内部のイオン交換樹脂を酸化劣化させることによりイオン交換樹脂から微細
な樹脂の破片や有機物等が発生し,ポリッシャー装置(イオン交換装置)を通過し
た被処理水中のTOC濃度が,二次系システムにおいて処理する以前の一次純水に
比べて上昇したと推測することができるのである。また,リークした過酸化水素が
ポリッシャー装置(イオン交換装置)内部のイオン交換樹脂を酸化劣化させる際,
一部の過酸化水素が酸素と水とに分解されることにより,ポリッシャー装置(イオ
ン交換装置)を通過した被処理水中の溶存酸素濃度が,二次系システムにおいて処
理する以前の一次純水に比べて上昇したと推測される。さらに,180~190n
mの波長を有する紫外線を発生する紫外線照射装置の後段に膜脱気装置を配置した
場合には,リークした過酸化水素により膜脱気装置の脱気膜が急速に酸化劣化した
と推測することができるのである。」
「【0015】また,本発明においては,被処理水である一次純水は,アニオン交換
樹脂,特に好ましくは強塩基性アニオン交換樹脂を充填した単床式イオン交換装置
に導入され,被処理水中のアニオン成分が除去されるとともに,被処理水中のpH
はアルカリサイドにシフトされる。次に,被処理水は,180~190nmの波長
を有する紫外線を発生する紫外線照射装置に導入され,被処理水中に溶存する有機
物がほぼ完全に有機酸あるいは二酸化炭素にまで分解される。また同時に,OΗラ
ジカル同士の反応により生成した過酸化水素は,被処理水のpΗがアルカリサイド
にシフトしているために自己分解し,酸素と水に変化する。次いで,被処理水は,
気体透過膜を装備した膜脱気装置に導入され,紫外線照射装置により発生した酸素
と二酸化炭素が除去される。最後に,膜脱気装置において脱ガスされた被処理水は,
ポリッシャー装置に導入され,被処理水中のイオン成分が除去される。」
「【0016】さらに,本発明においては,被処理水である一次純水は,180~1
90nmの波長を有する紫外線を発生する紫外線照射装置に導入され,被処理水中
に溶存する有機物がほぼ完全に有機酸あるいは二酸化炭素にまで分解される。次に,
被処理水はパラジウムを担持した触媒樹脂が充填された触媒樹脂装置に導入され,
被処理水中の過酸化水素がパラジウムを担持した触媒樹脂媒表面上で紫外線照射装
置において生成した水素と反応して水に変化する。」
「【0017】H2O2+H2+Pd→2H2O+Pd
最後に,被処理水はポリッシャー装置に導入され,被処理水中のイオン成分が除去
される。」
「【0018】本発明において処理の対象となる一次純水は,通常,電気伝導度16
MΩ・cm以上,0.2μm以上の微粒子数100個/ml以下,TOC濃度5p
pb程度以下のものが主流である。」
「【0022】(5)H2O2+hν→O2+H2O
また,紫外線照射装置により紫外線を照射した後に,被処理水中からイオン成分を
除去する場合,通常,ポリッシャー装置に被処理水を導入する。このとき使用され
るポリッシャー装置としては,被処理水中の二酸化炭素,有機酸あるいは他のイオ
ン成分を除去するために強塩基性アニオン交換樹脂及びカチオン交換樹脂を充填し
た非再生型の混床式イオン交換装置を好ましく用いることができる。イオン交換装
置に用いるイオン交換樹脂としては,新品もしくはそれに類する破砕が無く,イオ
ン交換性能が高く,また溶出のないものが望ましい。イオン交換樹脂に要求される
性能は,本発明で用いられる再生型あるいは非再生型の単床式イオン交換装置に充
填して用いられる強塩基性アニオン交換樹脂についても同様である。」
「【0025】触媒樹脂装置に充填される触媒樹脂としては,アニオン交換樹脂等の
樹脂に触媒成分としてパラジウムを担持したものが用いられるが,触媒活性を高め
る目的から,より微細な細孔を有し表面積の大きな触媒樹脂を用いることが好まし
い。また,本発明により得られた超純水は,ユースポイントに供給されて利用され
ることになるが,超純水の水質は,電気伝導度18MΩ・cm以上,TOC濃度お
よび溶存酸素濃度は1ppb以下にまで高められる。」
「【0038】図2において,符号13は,単床式イオン交換装置であり,アニオン
交換樹脂として強塩基性アニオン交換樹脂デュオライトA-113plus(ロー
ム&ハース社)56lを予め再生し,OH型に変換した後に充填したものである。
符号9,11および12は,それぞれ低圧紫外線ランプ酸化装置,膜脱気装置およ
びポリッシャー装置であり,図1と全く同一のものである。」
「【0042】表2に,本実施例および本比較例における,ポリッシャー装置12の
入口および出口での被処理水の水質測定結果を示す。」
「【0043】
【表2】

「【0044】表2から明らかなように,実施例2においては,ポリッシャー装置1
2の入口および出口での被処理水中の過酸化水素濃度は0.00ppmであり,一
方,比較例1においては,ポリッシャー装置12の入口での被処理水中の過酸化水
素濃度は,低圧紫外線ランプ酸化装置9の出口における被処理水中の過酸化水素濃
度0.02ppmと同値であった。これは,実施例2では,単床式イオン交換装置
13に被処理水を通過させたために被処理水のpHがアルカリ側にシフト(本実施
例におけるpHは8.7,pHの測定は純水用pH計,東亜電波工業(株),FAR
-101による)することから,低圧紫外線ランプ酸化装置9で発生した過酸化水
素が自己分解したのに対し,比較例2では単床式イオン交換装置13をバイパスし
たために,低圧紫外線ランプ酸化装置9に供給される被処理水のpHが中性付近で
あり,このため低圧紫外練ランプ酸化装置9内で発生した過酸化水素が自己分解し
ないために低圧紫外線ランプ酸化装置9より過酸化水素がリークしてポリッシャー
装置12の入口まで到達したものと推測される。」
「【0047】(実施例3および比較例3)図3は,本発明の他の実施例である超純
水製造装置(二次系システム)の構成を示した図である。」
「【0053】
【表3】

「【0054】表3から明らかなように,実施例3においては,ポリッシャー装置1
2の入口および出口での被処理水中の過酸化水素濃度は0.00ppmであり,一
方,比較例3においては,ポリッシャー装置12の入口での被処理水中の過酸化水
素濃度は,低圧紫外線ランプ酸化装置9の出口における被処理水中の過酸化水素濃
度0.02ppmと同値であった。これは,実施例3では,パラジウム触媒樹脂装
置14に被処理水を通過させたために低圧紫外線ランプ酸化装置9内で発生した過
酸化水素が分解されたのに対し,比較例3では,パラジウム触媒樹脂装置14をバ
イパスしたために低圧紫外線ランプ酸化装置9内で発生した過酸化水素が分解され
ず,低圧紫外線ランプ酸化装置9よりリークした過酸化水素がポリッシャー装置1
2の入口まで到達したものと推測される。」
ウ以上のとおり,甲2には,「超純水中のΤOCおよび溶存酸素の低減が大きな
課題である」(【0002】),「本発明は……超純水中のTOC濃度および溶存酸素濃
度の増加と機器の劣化とをほぼ防止する超純水製造装置を提供することを目的とす
る」(【0007】),「本発明により得られた超純水は,ユースポイントに供給されて
利用されることになるが,超純水の水質は……TOC濃度および溶存酸素濃度は1
ppb以下にまで高められる」(【0025】)と記載され,また,パラジウム触媒樹
脂装置を用いた実施例3【表3】においては,ポリッシャー装置の出口での被処理
水中のTOC濃度が0.7ppbであり,同溶存酸素が0.8ppbであることが示され
ている。
これらの記載によれば,甲2には,超純水におけるTOC濃度やDO濃度が極め
て低い超純水を得ることが開示されていると認めることができる。
エまた,甲1には,【従来の技術】として,「紫外線酸化装置26,カートリッ
ジポリッシャ(非再生式イオン交換樹脂装置)28及び限外濾過膜分離装置30を
備える二次純水システム10では,水の純度を更に高め超純水にする」(【0003】)
との記載が,甲3にも,【従来の技術】として,「純水中の残存有機物濃度を減少さ
せる処理方法として,イオン交換処理や逆浸透処理された1次処理水に紫外線を照
射した後,陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂からなる混合床にて仕上げ処理す
る方法が公知である(例えば特公昭54-19227)。この仕上げ処理後,更にU
F(精密濾過)又はRO(逆浸透)膜による仕上げ処理を施すことも周知である
(SemiconductorWorld1982.7)」(【0005】)との記載があり,これらの記載によ
れば,本件特許出願当時,当純水製造装置において,微粒子を除去(分離)する装
置を設けること自体は,当業者に一般的に知られている技術事項であったと認めら
れる。
そうすると,上記一般的な技術事項を技術常識として認識している当業者であれ
ば,上記甲2【0002】の「……従来から……微粒子……の含有量の極めて少な
い超純水が用いられている。特に,電子工業においては,LSIの集積度の増加に
伴って超純水の純度に対する要求は益々厳しくなってきており……」の記載,【00
03】の「一般に,超純水の製造は……微粒子……を除去する一次系システムおよ
び一次系システムより得られた一次純水の精密仕上げを目的とした二次系システム
の組み合わせにより行われている」,【0018】の「本発明において処理の対象と
なる一次純水は,通常……0.2μm以上の微粒子数100個/ml以下……のも
のが主流である」との記載から,甲2の超純水製造装置においても,「微粒子分離装
置」を設けることより微粒子を除去(分離)しているものと理解するから,「微粒子
分離装置を有する超純水装置」は,甲2に記載されているに等しい事項であると認
められる。
オ以上検討したところによれば,甲2発明を「……微粒子分離装置とを有する
超純水製造装置であって,……TOC濃度と溶存酸素(DO)濃度が極めて低い超
純水を得る,超純水製造装置」とした審決の認定に,誤りはない。
(3)以上のとおり,取消事由2は理由がない。
3取消事由3(本件特許発明と甲1発明との一致点及び相違点の認定の誤り)
について
(1)一致点の認定につき
ア審決は,甲1発明の「酸化性物質分解装置27」は,本件特許発明の「酸化
性物質分解装置」に相当するとした上,「上記より,本件特許発明と甲第1号証記載
の発明とは,「185nm付近の波長を有する紫外線を照射する紫外線酸化装置と,
酸化性物質分解装置と,脱気装置と,混床式イオン交換装置と,微粒子分離膜装置
とを有し,この順に通水可能とした超純水製造装置。」という点で一致」(11頁2
7行~33行)すると認定したものであるところ,原告は,その作用,機構を踏ま
えれば,甲1発明における「酸化性物質分解装置27」と「膜式脱気装置50」と
の組合せが本件特許発明の「触媒式酸化性物質分解装置」に相当し,甲1発明の「酸
化性物質分解装置27」が本件特許発明の「酸化性物質分解装置」に相当するとの
認定は誤りであるから,誤った相当関係を前提とした上記一致点の認定も誤りであ
ると主張する。
イ確かに,原告が主張するとおり,甲1には,「紫外線酸化装置で生成した過酸
化水素は,後段の合成炭素系粒状吸着剤を充填した酸化性物質分解装置及び膜式脱
気装置で除去して」(【0030】)と記載されているから,「過酸化水素分解除去手
段」という点からみれば,甲1発明における「酸化性物質分解装置27」と「膜式
脱気装置50」とを組み合わせたものが,本件発明の「触媒式酸化性物質分解装置」
に相当するものと認められる。したがって,甲1発明の「酸化性物質分解装置27」
が本件特許発明の「酸化性物質分解装置」に相当することを前提とした,審決の一
致点の認定には誤りがあるといわざるを得ない。
(2)相違点の認定につき
審決は,上記誤った相当関係を前提として,「本件特許発明では,「酸化性物質分
解触媒が,二酸化チタン,アルミナ,活性炭,ゼオライト,イオン交換樹脂に担持
された,パラジウム触媒又は白金触媒である」「触媒式」酸化性物質分解装置である
のに対して,甲第1号証記載の発明では,「吸着材が,合成炭素系粒状吸着材である」
酸化性物質分解装置である点」を相違点として認定したが,上記(1)イのとおり,甲
1発明における「酸化性物質分解装置27」と「膜式脱気装置50」とを組み合わ
せたものが本件発明の「触媒式酸化性物質分解装置」に相当するから,上記相違点
の認定にも誤りがあるといわざるを得ない。
(3)以上のことから,上記(1)イのとおり,甲1発明における「酸化性物質分解装
置27」と「膜式脱気装置50」とを組み合わせたものが,本件発明の「触媒式酸
化性物質分解装置」に相当するから,本件特許発明と甲1発明との一致点及び相違
点は,正しくは以下のように認定すべきものである。
ア一致点
「185nm付近の波長を有する紫外線を照射する紫外線酸化装置と,過酸化水素
分解除去手段と,混床式イオン交換装置と,微粒子分離膜装置とを有し,この順に
通水可能とした超純水製造装置。」
イ相違点
(ア)上記過酸化水素分解除去手段が,本件特許発明では,「酸化性物質分解触媒が,
二酸化チタン,アルミナ,活性炭,ゼオライト,イオン交換樹脂に担持された,パ
ラジウム触媒又は白金触媒である」「触媒式酸化性物質分解装置」であるのに対して,
甲1発明では,「合成炭素系粒状吸着剤を充填した酸化性物質分解装置27と,膜式
脱気装置50」である点(以下「相違点1」という。)。
(イ)本件特許発明は,上記過酸化水素分解除去手段の後段に「脱気装置」を有す
るのに対して,甲1発明は,上記過酸化水素分解除去手段の後段に「脱気装置」を
有しない点(以下「相違点2」という。)。
(4)以上のとおり,審決の一致点及び相違点の認定には誤りがあるといわざるを
得ないが,後記4において検討するように,審決は,本判決が認定した相違点1及
び相違点2について実質的な判断を示しており,また,相違点1及び相違点2はい
ずれも容易想到といえるものであるから,上記認定誤りは,審決の結論に影響を及
ぼすものとは認められない。
よって,取消事由3は理由がない。
4取消事由4(本件特許発明と甲1発明との相違点についての判断の誤り)に
ついて
(1)以下においては,本判決が認定した相違点1及び相違点2についての容易想
到性を検討する。
ア相違点1につき
審決の甲1発明及び甲2発明の認定に誤りがないことは,上記2に説示したとお
りであるところ,甲1発明は,紫外線酸化装置と,その後段に,合成炭素系粒状吸
着剤を充填した酸化性物質分解装置及び膜式脱気装置を設けた超純水製造装置に関
するものであり,一方,甲2発明は,紫外線酸化装置と,その後段に,パラジウム
触媒樹脂が充填された触媒樹脂装置を設けた超純水製造装置に関するものである。
そして,甲1発明と甲2発明は,いずれも超純水製造装置に関するもので,紫外
線酸化装置で生成された過酸化水素を,その後段に設けた過酸化水素分解除去手段
により分解除去する点で共通するものである。技術分野が共通する発明において,
機能が共通する手段の置換を試みることは当業者が通常行うことであるから,甲1
発明において,過酸化水素分解除去手段として,合成炭素系粒状吸着剤を充填した
酸化性物質分解装置及び膜式脱気装置に換えて,甲2発明におけるパラジウム触媒
樹脂が充填された触媒樹脂装置を用い,相違点1に係る構成とすることは,当業者
が容易に想到することである。
イ相違点2につき
超純水製造装置で処理される水に一定程度のDOが存在すること,また,超純水
製造装置においてDO濃度を低減すべきことは,当業者にとって自明の事項であり,
甲1発明においても同様と認められる(甲1の【0005】,【0018】,【002
0】,実施例1,甲2の【0002】,【0025】,【0031】,実施例3)。そうで
ある以上,甲1発明において,DO濃度をより低減するために,周知の脱気装置を
更に設けることは,当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。また,その設
置位置は設計的事項であり,過酸化水素分解除去手段の後段とすることも,当業者
が目的に応じて適宜決定し得ることである。
したがって,相違点2も,当業者に容易想到と認められる。
(2)審決は,甲1発明の「酸化性物質分解装置27と,膜式脱気装置(脱気装置)
50」及び「酸化性物質分解装置27の吸着材が,合成炭素系粒状吸着材であ」る
ことについて,甲2発明の「酸素を発生させずに過酸化水素を完全に除去する,パ
ラジウムを担持した触媒樹脂が充填された触媒樹脂装置(「触媒式」酸化性物質分解
装置)14」及び「触媒樹脂装置14の触媒(酸化性物質分解触媒)が,イオン交
換樹脂に担持されたパラジウム触媒であ」ることを適用してこれに換えることは容
易想到であると判断した上(12頁24行~31行),甲1発明も甲2発明も,「過
酸化水素濃度とTOC濃度と溶存酸素(DO)濃度が極めて低い超純水を得る,超
純水製造装置」である以上,過酸化水素濃度とTOC濃度とDO濃度を更に低くし
たいとの技術的思想を内包するものであるとして,「触媒式」酸化性物質分解装置の
すぐ下流に「脱気装置」を配置し,「脱気装置」から出た被処理水をカートリッジポ
リッシャ28(ポリッシャー装置12)に送ることは,当業者であれば適宜決定す
る設計的事項であると判断している(13頁4行~23行)から,相違点1及び相
違点2について実質的に判断しているものと認められる。
(3)原告の主張について
ア原告は,甲1には「DO」及び「H2O2」の低減についてしか開示されてお
らず,甲2には「DO」の低減についてまでは開示されていないから,甲1及び甲
2において「DO」,「TOC」及び「H2O2」の3つの成分全てを高度に低減され
ることについては検討されておらず,このような3つの成分全てを高度に低減する
という新規な課題を解決し得る構成を採用した点に本件特許発明の特許性があると
主張する。
しかしながら,甲1,甲2には,超純水のDO(溶存酸素)濃度及びTOC濃度
を極めて少なくすることが開示されていると認められることは,上記2(1),(2)の
とおりであるから,原告の主張は前提において誤りである。
イまた,原告は,引用例にはH2O2を分解するために「触媒(パラジウム)式
の酸化性物質分解装置」を採用した場合においても後段に「脱気装置」を設けるこ
とについて,示唆や組合せの動機づけとなる記載がないから,甲1と甲2を組み合
わせる合理的な理由がないと主張する。
しかしながら,超純水製造装置で処理される水に一定程度のDOが存在し,これ
を低減すべきことは当業者にとって自明の事項であることは上記(1)イのとおりで
あり,そうである以上,甲1発明において,DO濃度をより低減するために周知の
脱気装置を更に設けることは,当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。パ
ラジウム触媒樹脂が充填された触媒樹脂装置を用いる場合には,H2O2の分解に伴
い新たに酸素が発生することがないから,その酸素を除去するための脱気装置を設
ける必要がないというにとどまり,超純水製造装置において処理される水に一定程
度存在するDOを除去するために脱気装置を設けることを妨げるものではなく,原
告の主張は採用することができない。
(4)よって,取消事由4は理由がない。
5結論
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決にはこれを
取り消すべき違法はない。よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
芝田俊文
裁判官
岡本岳
裁判官
武宮英子
(別紙)
本件明細書の図面
【図1】本件特許発明の実施例の系統図
甲1の図面
【図1】甲1発明の実施例のフロー図
【図3】従来の超純水製造装置の一例を示すフロー図
甲2の図面
【図1】甲2発明の一実施例の構成を示した図
【図2】甲2発明の他の実施例の構成を示した図
【図3】甲2発明の他の実施例の構成を示した図

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛