弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
被告人を懲役1年8か月に処する。
未決勾留日数中70日をその刑に算入する。
押収してある折りたたみ式ナイフ1本(平成15年押第58号符号1)を没収
する。
       理    由
(犯罪事実)
 被告人は,
第1 奈良県a郡b町内で商業施設建設の計画があることを知るや,建設業者を欺
いて下請け業者選定のための活動費名下に金員を詐取しようと企て,平成14年1
2月23日午前11時ころ,同町大字cd番地のd所在の喫茶店「A」において,
建設業者である株式会社B’組の経営者Bに対し,前記商業施設の計画地が市街化
調整区域内にあるため,開発許可がなされず,同商業施設の具体的な建設工事計画
がないにもかかわらず,その情を秘し,同工事が近日中に着工されるかのように装
い,「大きい工事やけどできるか。」「20億の工事の内,基礎工事だけ受けへん
か。」「基礎だけでも2億あるね。」「この計画には,ゼネコンのピーエス三菱が
ついてんね。」「今買収にかかっている。」「開発の申請もしてる。」「俺が工事
のとりまとめの権利
持ってるから,信用してくれんねやったら,お金出して欲しいね。」「30万でえ
え。」などと虚構の事実を申し向け,同人をしてその旨誤信させ,よって,同月2
4日午前11時20分ころ,同所において,同人から現金30万円の交付を受け,
もって人を欺いて財物を交付させた。
第2 元従業員Cに対する債権の取立名下に同人の交際相手であるDから金員を喝
取しようと企て,平成15年1月30日午後零時45分ころ,同県e市f町g番地
のh所在のE病院1階ロビーにおいて,同女(当時26歳)に対し,「Cと連絡が
とれん。お前が紹介したんやから責任あるやろ。ガソリン代として2万円ほど預け
てあったんや。」「Cに預けた2万円お前が払え。」「払わんかったらどないなる
か分かってるか。いてまうぞ。」等と語気荒く申し向けて金員を要求し,この要求
に応じなければ,同女の生命,身体等にいかなる危害をも加えかねない気勢を示し
て同女を脅迫したが,同女が警察に届け出たため,その目的を遂げなかった。
第3 同年2月15日午前3時ないし4時ころ,神戸市i区j通k丁目l番m号先
歩道上において,ホストクラブ「F」の従業員G(当時20歳)と同クラブでの飲
食代金の支払を巡って口論となった挙げ句,同人に対し,その腕部,腹部等を手拳
で多数回殴打するなどの暴行を加えた上,「誰に物言ってんや。」「五代目呼ぶ
ぞ。」「参謀呼んでお前の店潰すぞ。」「なめとったら殺すぞ。」などと脅迫し,
さらに,同人が抵抗するや,所携の折りたたみ式ナイフ(刃体の長さ約8センチメ
ートルで開刃した刃体をさやに固定する装置を有するもの,平成15年押第58号
符号1)を突き付け,「何やくそがき,なめとったら,刺すぞ,こら。」などと怒
号し,凶器を示して脅迫した。
第4 業務その他正当な理由による場合でないのに,同日午前4時3分ころ,第3
記載の場所において,同記載の折りたたみ式ナイフ1本を携帯した。
(証拠の標目)
省略
(第3の事実についての補足説明)
 被告人及び弁護人は,判示第3の事実(本項では以下単に「本件」という。)に
つき,被告人が,同判示日時場所で判示折りたたみ式ナイフ(以下「本件ナイフ」
という)を判示Gに示して脅迫したことは争わない。しかし,被告人は,本件のう
ち暴行の事実と脅迫文言中「五代目呼ぶぞ。」とか「殺すぞ。」と申し向けた事実
はない等とし,弁護人は,暴行と脅迫文言全部を否定する。
 そこで検討すると,Gは,当公判廷で,本件に至る経緯や本件時の状況,被告人
が否定する判示暴行を受けたこと,被告人に馬乗りになって暴行をやめさせたもの
の,被告人が暴言を吐き続け,馬乗りをやめたところ本件ナイフで脅迫されるに至
ったこと等を具体的に供述しているところ,その供述内容は自然で合理的であって
迫真性に富み,犯行(被害)状況にかんがみ記憶があいまいであって当然と思われ
る脅迫文言の順序以外はほぼ一貫している上,目撃者(H及びI)の供述とも相互
に一致していて信用性を補完し合っている。また,これらの者には関係者全員で口
裏を合わせてまでことさら被告人に不利な虚偽の事実を述べる理由もないから,こ
れらの者の供述には十分な信用性がある。
 これに対し,被告人は,Gを殴ってはいないが二,三回殴るふりはし,これがG
にあたったかもしれないとか,Gの方から「五代目呼んで下さい。」と言ったと
か,Gが被告人に馬乗りになった後周囲に加勢を求めたので,Gを押しのけて本件
カッターナイフを取り出した等と弁解する。しかし,これは前記目撃者らの供述に
反するだけでなく,Gが何の前提もなく「五代目呼んで下さい。」と言ったとか,
馬乗りになったGが自らは被告人に手を出さないまま周囲に加勢を求めたというな
ど極めて不合理であり,殴るふりを二,三回したという点もその際の状況に照らし
不自然であって,その他関係証拠から認められる被告人とGの関係,本件の経過に
加え,被告人の供述に本件以外の部分でも明らかな虚偽を含め信用できない部分が
多いことにも照らすと
,被告人の前記弁解は到底信用できない。そうすると,被告人が本件犯行後本件ナ
イフをGらに取り上げられるに至った際にもみあいになったことはあるとしても,
被告人の供述によってはGらの供述の信用性は全く揺るがず,結局,前掲関係証拠
により判示事実は優に認定できる。
(法令の適用)
1(1) 罰条          第1の行為は刑法246条1項,第2の行為は同
法250条,249条1項,第3の行為のうち暴行の点は同法208条,脅迫及び
凶器を示した脅迫の点は包括して暴力行為等処罰に関する法律1条,刑法222条
1項(第3の行為を全体として包括して,暴力行為等処罰に関する法律1条の刑で
処断),第4の行為は銃砲刀剣類所持等取締法32条4号,22条,同法施行令9
条2号
 (2) 刑種の選択       第3,第4につき,いずれも懲役刑選択
2 併合罪の処理       刑法45条前段,47条本文,10条(刑及び犯
情の最も重い第1の罪の刑に加重)
3 未決勾留日数の算入    刑法21条
4 没収           刑法19条1項2号,2項本文
5 訴訟費用の不負担     刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
1 不利な事情
(1) 第1(詐欺)の点は,商業施設の建設計画を悪用した,確定的犯意に基づく
計画性もあるもので,遊興費目的という犯行動機を含め,犯行の経緯,態様にしん
酌すべき点がない。なお,弁護人は,同計画が架空のものではなかったことを有利
な事情とするが,被告人は自己の権限を偽っていたのであり,現実の計画を悪用し
た点はむしろ巧妙ともいえ,その他証拠に照らすと弁護人主張の点は被告人に有利
な事情とはいえない。
(2) 第2(恐喝未遂)の点は,あらかじめ被害者が不倫している弱みにつけ込ん
でおいた上,わざわざ被害者の勤務先に赴いてこれにいいがかりをつけ,金銭を喝
取しようとしたもので,犯行に至る経緯を含めこれまた卑劣である。
(3) 第3,4(暴力行為等処罰に関する法律違反,銃砲刀剣類所持等取締法違
反,)の点を見ると,ナイフを被害者に突き付ける行為はまことに危険であったと
いうほかなく,その携帯そのもの(第4)も危険な犯行である。また,犯行に至る
経緯や犯行動機にも全く酌むべき点がなく,被告人の行為は法秩序を無視した犯行
というほかない。被害者がこうむった恐怖感など精神的被害は軽くないが,被告人
は第3の犯行態様につき飲酒のため記憶が乏しいというのではなく積極的に不合理
な弁解をしており,反省が不十分である。
(4) いずれの犯行についても,被告人からの慰謝の措置は全くとられておらず,
被告人の供述内容に照らし,当分その見込みも乏しい。
 いずれの被害感情も厳しい。
(5) 一連の犯行内容や生活状況に照らすと,他人への配慮や遵法精神に不足があ
る。
2 有利にしん酌すべき事情
(1) 第2の犯行については,被害者の届け出によるものではあるが幸い未遂に終
わった。第1についても被告人を被害者に紹介した者が責任を感じて20万円を被
害者に渡しており,被害者自身に生じている金銭的被害は10万円となっているも
ようである(ただし,この点は,被告人側の者による弁償とは異なり,さほど有利
な事情とはいえない。)。
(2) 第3の犯行については偶発的犯行である。
(3) 平成10年の暴行によるもの等の罰金前科があるが,懲役前科まではない。
(4) 相当期間身柄を拘束されており,第1,第2,第4の犯行については現在素
直に認めて反省の弁を述べており,第3の被害者に対するものも含め被害弁償をす
るとしている。
3 2でみた事情をはじめとする被告人に有利な事情をいかにしん酌しても,各犯
行の内容や結果にかんがみれば被告人に対し刑の執行を猶予すべきではないが,こ
れらの情状を刑期の点で最大限被告人に有利にしん酌して,主文のとおり量刑し
た。
(求刑,懲役2年6月)
(出席した検察官渡邊真知子,国選弁護人武内竜雄)
   平成15年7月31日
神戸地方裁判所第11刑事係乙
 
裁 判 官    橋 本   一

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