弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
一 本件訴えをいずれも却下する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
       事実及び理由
第一 請求
 被告らは、榛原総合病院組合に対し、連帯して金一三五〇万円及びこれに対する
平成八年七月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 当事者の主張等
一 請求原因
1 当事者等
(一) 原告らは、静岡県榛原郡榛原町または同郡相良町の住民である。
(二) 被告株式会社エー・アンド・エー総合設計(以下「被告会社」という。)
は、建築物の設計及び監理・監督等を目的とする会社であり、被告Aは、同社の代
表取締役であった者である。
(三) 榛原総合病院組合(以下「本件組合」という。)は、地方公共団体の組合
(特別地方公共団体)である。
2 榛原総合病院北館増改築工事の請負契約の締結等
(一) 本件組合は、榛原総合病院北館増改築工事(以下「本件工事」という。)
の請負契約を指名競争入札の方法により締結することとし、平成八年七月二二日、
右入札を行ったところ(以下「本件入札」という。)、その結果は次のとおりとな
った。
(1) 建築工事 落札業者 浅沼・木内・釘ヶ浦建設工事共同企業体
         落札価格 一七億五一〇〇万円
(2) 電気工事 落札業者 日本電設工・東海電気工業所建設工事共同企業体
         落札価格 六億四三七五万円
(3) 空調工事 落札業者 株式会社テクノ菱和
         落札価格 五億八六〇七万円
(4) 衛生工事 落札業者 菱和設備・日将特定建設工事共同企業体
         落札価格 六億五四〇五万円
(二) 本件組合は、同月二四日、右各落札業者との間において、落札価格を契約
価格として、それぞれ本件工事の請負契約を締結した(以下、右各請負契約を併せ
て「本件工事契約」という。)。
3 被告Aによる情報漏洩行為と談合
(一) 本件組合は、昭和六三年ころから、榛原総合病院建物の設計及び監理・監
督等の業務を被告会社に委託してきたところ、本件入札に先立つ平成七年二月二〇
日、本件工事の設計業務を被告会社に委託した。
(二) 右当時、被告会社の代表取締役であった被告Aは、本件工事に関連して自
己の裏金を作ることを計画し、前記各落札業者の関係者に対し、自己の裏金作りに
協力するよう働きかける一方、本件工事の設計業務を委託して本件工事の設計価格
等を知らせ、本件入札の
予定価格を推測できるようにした。
(三) これを受けて各落札業者の関係者は、本件入札の予定価格を推測し、本件
入札に参加した業者で談合した。
(四) したがって、本件工事契約は談合に基づくものであるところ(これは、本
件工事契約のうち、電気工事、空調工事及び衛生工事の落札価格が予定価格と全く
同じであることからも明らかである。)、被告Aの前記情報漏洩行為は本件組合に
対する不法行為(民法七〇九条)であり、また、被告会社もこれに基づく責任を負
う(同四四条一項もしくは七一五条一項)。
4 本件組合の損害
 本件において、被告Aの情報漏洩行為がなく、本件入札に参加した業者が談合し
なければ、本件工事契約の契約価格が二〇パーセント以上低下していたことは公知
の事実である。したがって、本件組合は、被告らの不法行為により、少なくとも本
件工事契約の契約価格合計三六億七六〇七万円の二〇パーセントに相当する七億三
五二一万四〇〇〇円の損害を被った。
5 よって、本件組合は、被告らに対し、七億三五二一万四〇〇〇円の損害賠償請
求権(以下「本件損害賠償請求権」という。)を有しているが、この損害賠償請求
権の行使を違法に怠っているから、原告らは、地方自治法(以下「法」という。)
二四二条の二第一項四号に基づき、怠る事実の相手方である被告らに対し、本件組
合に代位して、本件損害賠償請求権の一部である一三五〇万円(これは、被告Aが
前記情報漏洩行為によって私腹を肥やしたことが明らかな金額である。)及びこれ
に対する平成八年七月二四日(本件工事契約が締結された日)から右支払済みまで
民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
6 監査請求等
 原告らは、平成一〇年一二月八日、本件組合監査委員に対し、本件組合が、被告
らに対して本件損害賠償請求権を行使するよう勧告することを求めて監査請求を行
ったが(以下「本件監査請求」という。)、右監査委員は、平成一一年二月四日、
本件監査請求を棄却したため、原告らは、同月二四日、本訴を提起した。
二 被告らの本案前の抗弁
 原告らの本件訴えは、いずれも適法な監査請求を経ていない不適法なものである
から、却下されるべきである。
三 争点
1 本件訴えは、適法な監査請求を経てなされたものといえるか。
(一) 本件監査請求に法二四二条二項が適用されるか。
(二) 法二四二条二項が適用される場合、監査請求期間の起算点
はいつか。
(三) 本件監査請求が監査請求期間を徒過している場合、原告らには徒過したこ
とについて法二四二条二項ただし書の正当な理由があるか。
2 本件組合は、被告らに対し、本件損害賠償請求権を有するか。
四 争点に対する当事者の主張の要旨
1 争点1(一)(本件監査請求に法二四二条二項が適用されるか)について
(被告らの主張)
 判例(最高裁昭和五七年(行ツ)第一六四号・昭和六二年二月二〇日第二小法廷
判決・民集四一巻一号一二二頁。以下「昭和六二年判例」という。)によれば、
「普通地方公共団体において違法に財産の管理を怠る事実があるとして法二四二条
一項の規定による住民監査請求があった場合に、右監査請求が、当該普通地方公共
団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計行為を違法であるとし、当該行為
が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財
産の管理を怠る事実としているものであるときは、当該監査請求については、右怠
る事実に係る請求権の発生原因たる当該行為のあった日又は終わった日を基準とし
て同条二項の規定を適用すべきものと解するのが相当である。けだし、法二四二条
二項の規定により、当該行為のあった日又は終わった日から一年を経過した後にさ
れた監査請求は不適法とされ、当該行為の違法是正等の措置を請求することができ
ないものとしているにもかかわらず、監査請求の対象を当該行為が違法、無効であ
ることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使という怠る事実として構成す
ることにより同項の定める監査請求期間の制限を受けずに当該行為の違法是正等の
措置を請求し得るものとすれば、法が同項の規定により監査請求に期間制限を設け
た趣旨が没却されるものといわざるを得ないからである。」とされている。
 これを本件についてみると、原告らの主張する本件損害賠償請求権は、被告Aの
情報漏洩行為に基づく談合によって締結された本件工事契約が違法、無効であるこ
とに基づいて発生する実体法上の請求権であって、原告らは、その不行使をもって
財産の管理を怠る事実としていると解されるから、右怠る事実に係る請求権の発生
原因たる当該行為のあった日または終わった日を基準として法二四二条二項が適用
される。
(原告らの主張)
 昭和六二年判例は、普通地方公共団体が私人との間で締結した売買契約自体に違
法があるという事案であるが、本件は、本
件工事契約自体に違法があるというのではなく、これに先立ってなされた被告Aの
情報漏洩行為及びこれに基づいてなされた談合自体に違法があるという事案であ
る。すなわち、昭和六二年判例において問題とされた損害賠償請求権は、前提とな
った売買契約が違法、無効であることによって初めて発生するものであるが、本件
損害賠償請求権は、本件工事契約が違法、無効であることに基づいて初めて発生す
るものではなく、被告Aによる情報漏洩行為及びこれに基づく談合によって発生す
るものである。
 また、昭和六二年判例は、当該訴訟の原告が、売買契約は違法であるとして監査
請求を行い、かつ、訴訟においても右契約の違法性を主張していた事案であり、そ
れゆえに法二四二条二項の趣旨である法的安定性が考慮されたが、本件の原告ら
は、本件工事契約が違法であるとする監査請求を行っていない上、本件訴訟におい
ても、右契約の違法性を主張していないのであるから、本件損害賠償請求権の代位
行使を認めても、何ら法的安定性は害されない。
 したがって、本件と昭和六二年判例は、事案を全く異にするものであるから、昭
和六二年判例は本件に適用されないというべきである。
 また、仮に談合によって締結された本件工事契約自体が違法、無効であるとして
も、これから直ちに昭和六二年判例が本件に適用されることにはならない。なぜな
ら、昭和六二年判例は、「当該普通地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定
の財務会計行為を違法であるとし、当該行為が違法、無効であることに基づいて発
生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としているもので
あるとき」と説示するものであって、当該普通地法公共団体の長や職員(以下「職
員等」という。)に職務規律違反等の違法があった事案に関する判例であるとこ
ろ、本件は、本件工事契約を締結した職員等に職務規律違反等の違法があるという
事案ではないからである。
 そして、判例(最高裁昭和五二年(行ツ)第八四号・昭和五三年六月二三日第三
小法廷判決・集民一二四号一四五頁)によれば、法二四二条一項所定の怠る事実に
係る監査請求については同条二項の適用はないとされている。
 したがって、本件監査請求に法二四二条二項は適用されない。
2 争点1(二)(本件監査請求に法二四二条二項が適用される場合、監査請求期
間の起算点はいつか。)について
(被告らの主張)
 本件監査請
求の監査請求期間の起算点は、本件損害賠償請求権の発生原因である本件工事契約
が締結された日、すなわち平成八年七月二四日と解すべきである。したがって、平
成一〇年一二月八日になされた本件監査請求は、監査請求期間を徒過している。
(原告らの主張)
 本件損害賠償請求権は、本件組合が代金を完済して初めて発生するものであるか
ら、本件監査請求の監査請求期間の起算点は、本件組合が本件工事契約に基づき代
金を完済した日である平成一〇年一月二三日と解すべきである。したがって、本件
監査請求は、監査請求期間を徒過していない。
3 争点1(三)(本件監査請求が監査請求期間を徒過している場合、原告らには
徒過したことについて法二四二条二項ただし書の正当な理由があるか)について
(原告らの主張)
 判例(最高裁(行ツ)第七六号・昭和六三年四月二二日第二小法廷判決・集民一
五四号五七頁。以下「昭和六三年判例」という。)によれば、法二四二条二項ただ
し書の「正当な理由」の有無は、「特段の事情のない限り、普通地方公共団体の住
民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができ
たかどうか、また、当該行為を知ることができたと解される時から相当な期間内に
監査請求をしたかどうかによって判断すべきもの」とされている。
 本件における「当該行為」とは、被告Aの情報漏洩行為及びこれに基づく談合で
あるところ、原告らは、平成一〇年七月二九日、同月三〇日及び同年八月四日、被
告Aと当時本件組合の助役を務めていた訴外Cの贈収賄刑事事件の確定記録を閲覧
し、右の膨大な記録を原告ら及び原告ら訴訟代理人が精査検討して初めてこれらの
事実を知ることができた。そして、原告らが本件監査請求を行ったのは、右記録閲
覧時から約四か月を経過した同年一二月八日であるが、右期間は、住民よりも豊富
な資料を有する地方公共団体自身が談合した業者を相手に損害賠償請求訴訟を提訴
する期間に約八か月から一一か月かかる例があることに照らすと、極めて相当な期
間である。
 したがって、原告らが監査請求期間を徒過したことには正当な理由がある。
(被告らの主張)
 原告らが主張する刑事事件は、平成九年三月二八日に提起されたものであるが、
同年五月七日付け静岡新聞朝刊には、同月六日に開かれた右刑事事件の第一回公判
期日において、被告Aが原告らの主張する情報漏洩行為を行っていたとの冒頭陳
述がなされた旨の記事が掲載された(ただし、被告らは、被告Aの情報漏洩行為の
事実を否認する。)。また、原告らは、右刑事事件に強い関心を持ち、同事件の公
判期日を毎回傍聴するなどしていたから、同年六月二六日及び同年七月三〇日に証
人が本件工事契約の電気工事について談合がなされたことを示唆する証言をしたこ
と等の事実も知っていた。
 さらに、原告らは、右刑事事件が提起された後、同年四月一六日に榛原町の財務
会計行為に違法があるとして監査請求を行って訴訟を提起したほか(なお、同事件
は、平成一〇年一〇月一六日、原告らの訴えを却下する旨の判決が言い渡され、そ
の後、確定した。)、同年七月三日には本件組合の財務会計行為(ただし、本件の
財務会計行為とは全く別のもの)に違法があるとして監査請求を行って訴訟を提起
した。そして、同訴訟において、原告らは、右刑事事件の確定記録の内容を詳細に
記載した平成一〇年一〇月二二日付け準備書面二通を提出したが、その内容は、本
訴訟における原告らの主張と同様である(なお、原告らは、平成一一年三月一九
日、右事件の訴えを取り下げた。)。
 そして、原告らは、平成一〇年一二月八日、本件監査請求を行った。
 以上のような事情に照らせば、原告らが監査請求期間を徒過したことに正当な理
由があるとはいえない。
4 争点2(本件組合は、被告らに対し、本件損害賠償請求権を有するか)につい

(原告らの主張)
 前記請求原因1ないし5で述べたとおりである。
(被告らの主張)
 争う。被告Aが本件入札の各落札業者の関係者に、本件入札の予定価格を知らせ
たことはない(なお、被告Aは、本件入札に係る入札妨害事件について一切刑事責
任を追求されていない。)。また、本件入札に参加した業者が談合していたとして
も、これと被告Aとは全く関係がない。
第三 当裁判所の判断
一 争点1(本件監査請求に法二四二条二項が適用されるか)について
1 本件においては、昭和六二年判例が本件に適用されるか否かが問題となってい
るところ、当裁判所はこれを肯定すべきであると判断する。その理由は次のとおり
である。
 本件において原告らが主張する本件損害賠償請求権は、被告Aの情報漏洩行為を
理由とするものであるところ、原告らは、右情報漏洩行為は入札妨害行為あるいは
談合の共犯行為であって本件組合に対する不法行為であると主張しているものと解
される。
 ところで、入
札妨害及び談合は、それ自体、犯罪として処罰の対象とされる違法な行為である
(刑法九六条の三)が、一般あるいは指名競争入札の方式によって請負契約を締結
した普通地方公共団体が入札妨害または談合した者に対して損害賠償請求権を取得
したというためには、右のような違法な行為が行われたことだけでは足りず、その
ような違法な行為によって不正な入札価格が形成され、契約価格が不当に高額とな
ったにもかかわらず、普通地方公共団体の職員等が右契約を締結するという財務会
計行為を行ったことが必要である。なぜなら、入札妨害または談合が行われても、
入札結果が自由な競争により得られたものと同一に帰着し、入札妨害または談合と
契約価格の決定との間に因果関係がないような場合には、普通地方公共団体に財産
上の損害が生じる余地はないし、また、右のような因果関係がある場合であって
も、職員等による契約締結行為という財務会計行為がなければ普通地方公共団体に
財産上の損害は生じないからである。そして、入札妨害及び談合が行われた結果、
契約価格が不当に高額となったにもかかわらず、普通地方公共団体の職員等が契約
を締結した場合には、職員等による契約締結行為自体が地方自治法二条一四項及び
地方財政法四条の趣旨等に照らし違法であるというべきであるから(もっとも、右
職員等に故意、過失がない場合には、職員等は普通地方公共団体に対し損害賠償義
務を負わないと解される。)、普通地方公共団体が入札妨害または談合を行った者
に対して取得する損害賠償請求権は、右契約締結行為という財務会計行為が違法で
あることに基づいて発生する実体法上の請求権であるというほかはないというべき
である(なお、昭和六二年判例は、「財務会計行為が違法、無効であること」と説
示しているが、これは「財務会計行為が違法または無効であること」を意味するも
のであって、財務会計行為が無効であることは必要要件とされていないと解するの
が相当である。)。
 したがって、原告らが主張する本件損害賠償請求権は、本件工事契約締結行為と
いう財務会計行為が違法であることに基づいて発生する実体法上の請求権であると
みるべきものであるから、その不行使をもって財産の管理を怠る事実としている本
件監査請求には法二四二条二項が適用されるというべきである。
2 これに対し、原告らは、① 昭和六二年判例は、普通地方公共団体が私人との
間で
締結した売買契約自体に違法があるという事案であるが、本件は、本件工事契約自
体に違法があるのではなく、これに先立ってなされた被告Aの情報漏洩行為及びこ
れに基づく談合自体に違法があるという事案であって、事案が異なること、② 昭
和六二年判例は、当該訴訟の原告が、売買契約は違法であるとして監査請求を行
い、かつ、訴訟においても右契約の違法性を主張していた事案であるが、本件の原
告らは、本件工事契約が違法であるとする監査請求を行っていない上、本件訴訟に
おいても、右契約の違法性を主張していないのであるから、法的安定性は害されな
いこと、③ 昭和六二年判例は職員等に職務規律違反等の違法があった事案である
が、本件にはそのような違法はないこと等を理由として、本件には昭和六二年判例
は適用されないと主張する。
 確かに、昭和六二年判例は、当該訴訟の原告らが普通地方公共団体の長のなした
契約締結行為に職務規律違反等の違法(すなわち、故意、過失)があると主張して
いた事案であり、その意味では本件と事案を異にする。
 しかしながら、法二四二条二項が監査請求の請求期間を制限した趣旨は、普通地
方公共団体の職員等の当該行為の適法性あるいは相当性をいつまでも争うことがで
きる状態にしておくことは法的安定性の見地から望ましくないため、なるべく早期
にこれを確定させようとした点にあると解されるところ、この理は職員等に職務規
律違反等の違法があった場合に限られないというべきである。そして、昭和六二年
判例の判示は、前記第二、四、1の被告らの主張のとおりであるところ、その言わ
んとするところは、住民が普通地方公共団体の職員等のある行為の適法性を争うと
き、当該行為が違法または無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の
不行使をもって財産の管理を怠る事実として構成すれば監査請求期間の制限を受け
ないというのでは、右に述べた法二四二条二項の趣旨が没却される法解釈であって
相当でないという点にあると解される。このような法二四二条二項及び昭和六二年
判例の趣旨に照らせば、本件損害賠償請求権が本件工事契約締結行為という財務会
計行為が違法といえて初めて発生する性質のものである以上、昭和六二年判例の事
案と本件の事案とは本質的に異なるところはないというべきである。したがって、
原告らの主張はいずれも採用できない。
二 争点1(二)(法二四二条二項が適用さ
れる場合、監査請求期間の起算点はいつか)について
1 本件監査請求の監査請求期間の起算点は、本件損害賠償請求権の発生原因たる
当該行為のあった日、すなわち職員等による本件工事契約締結行為がなされた日で
ある平成八年七月二四日と解するのが相当である。なぜなら、そのように解するこ
とが先に述べた法二四二条二項の趣旨に合致する上、本件損害賠償請求権は、本件
組合が代金支払義務を負うことによって発生すると解されるからである。
 したがって、平成一〇年一二月八日になされた本件監査請求は、監査請求期間を
徒過しているものである。
2 これに対し、原告らは、本件損害賠償請求権は、本件組合が代金を完済して初
めて発生するものであると主張するが、必ずしもそのように解されるものではない
ことは右に述べたとおりであるから、原告らの主張は採用できない(なお、右の原
告らの主張は、判例(最高裁平成六年(行ツ)第二〇六号・平成九年一月二八日第
三小法廷判決・民集五一巻一号二八七頁)を念頭に置いたものと解されるが、右判
例は、財務会計上の行為(すなわち当該行為)のなされた時点においては、右行為
が違法または無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権がいまだ発生し
ておらず、またはこれを行使することができないという事案に関するものであるか
ら、本件工事契約締結行為によって本件損害賠償請求権が発生し、かつ、これを行
使することができると解される本件とは事案を異にするものである。)。
三 争点1(三)(本件監査請求が監査請求期間を徒過している場合、徒過したこ
とについて正当な理由があるか)について
 原告らは、平成一〇年七月二九日、同月三〇日及び同年八月四日、被告Aと当時
本件組合の助役を務めていた訴外Cの贈収賄刑事事件の確定記録を閲覧し、右の膨
大な記録を原告ら及び原告ら訴訟代理人が精査検討して初めて本件監査請求を行う
ことができた旨主張する。
 しかしながら、平成九年五月七日付け静岡新聞朝刊には、被告Aが原告らの主張
する情報漏洩行為を行っていたとみられる旨の記事が掲載されていること(戊
一)、原告Bは、原告らの主張する刑事事件の公判期日を傍聴しており(当事者間
に争いがない。)、原告らは、右刑事事件に強い関心を持っていたと推認されるこ
と(弁論の全趣旨)、原告らは、右刑事事件が提起されたことを契機として、平成
九年四月一六日、榛原町の財務会計行為
に違法があるとして監査請求を行い、その後、住民訴訟を提起しているほか、同年
七月三日、本件組合の財務会計行為(ただし、本件工事契約に係る財務会計行為で
はない。)に違法があるとして監査請求を行い、その後、住民訴訟を提起している
こと(弁論の全趣旨)等の事情を総合すると、原告らは、本件損害賠償請求権に係
る監査請求についても、遅くとも、二回目の監査請求を行った平成九年七月ころに
はこれを行うことができたというべきである(したがって、被告Aらの刑事事件の
確定記録を精査検討して初めて本件監査請求を行うことができた旨の原告らの主張
は採用できない。)。そうすると、本件監査請求は、平成九年七月ころから約一年
五か月経過して行われたことになるが、右期間が相当な期間といえないことは明ら
かである。
 したがって、原告らが監査請求期間を徒過したことに正当な理由があるとはいえ
ない(なお、本件において原告らは、監査請求期間を徒過したことについて正当な
理由があることを何ら積極的に立証しなかった。)。
四 結論
 以上によれば、原告らの本件訴えは、いずれも適法な監査請求を経ていない不適
法なものであるから、これを却下する。
静岡地方裁判所民事第二部
裁判長裁判官 田中由子
裁判官 今村和彦
裁判官 村主隆行

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