弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     当審における未決勾留日数中一二〇〇日を
     右本刑に算入する。
         理    由
 弁護人正木昊、同五木田隆の上告趣意について、
 所論は、憲法七六条三項にいう裁判官の良心に関する当裁判所の判例(昭和二八
年(あ)一七一三号、同三二年三月一三日大法廷判決、昭和二二年(れ)三三七号、
同二三年一一月十七日大法廷判決)の変更を求める旨主張する点もあるが、ひつき
よう証拠判断の非難、事実誤認および単なる訴訟法違反の主張に帰し、刑訴四〇五
条の上告理由に当らない。また記録を調べてみても、所論の点につき同四一一条を
適用すべきものとは認められない。(所論は、本件強盗殺人の犯行の行なわれたと
いう昭和二九年二月一七日には、被告人は午後九時五分成田発の終バスで、友人A
とともに一路帰宅したのであるから、本件犯行の時刻にその現場に現在するはずが
ないとして、いわゆるアリバイを主張するが、原判決によれば、被告人が所論バス
でAとともに帰宅したのは二月一六日夜のことであつて、本件犯行のあつた同月一
七日のことではないというのであり、原審はこの点につき逐一証拠を挙げ、それぞ
れ客観的事実との関連において、右の如き判断をしているのであつて、原審の右判
断は、挙示の証拠関係に徴し首肯するに足り、所論のいう如く単なる主観に基づく
不合理な独断であるとみることはできない。所論は、その夜被告人が乗つたバスは
セミロマンス型であり、運転手は同月三日節分の日の運転手と同じであつたことは、
被告人もこれを記憶しておるのであるし、Aの供述もこれを補強している旨主張す
るが、原判決によれば、被告人が特に右の如く「車輌輛型及び運転手」について供
述をするに至つたのは、第一審第四回(昭和二九年一二月一日)の公判廷が始めて
であつて、その時は已に第一審第三回(同年九月三〇日)の公判廷において、Aが
証人としてその旨の供述をした後であるばかりでなく、Aの右の供述自体が、判示
のような理由で措信し得ないものであるというのであり、これを挙示の証拠関係に
徴すれば、原判決の右事実上の判断は、所論の如く客観性のない不合理のものと断
ずることはできない。
 また、所論は、兇器に関する原審の認定を非難し、原判決のいう竹割を以てして
は、原判決認定の如き傷痕は到底生じ得ない旨縷々力説するところがあるが、原判
決が、本件押收の竹割を以て本件犯行の兇器と断定するに至つたのは、鑑定人とし
て学識経験が豊かであり、かついずれも良心に従い誠実にしたと認められる判示各
鑑定人の鑑定の結果と挙示の他の証拠に基づいてこれをしたのであつて、右各鑑定
は、所論の如く非科学的であり、非良心的であるとは認められないから、原判決が、
これら鑑定の結果に基づき、挙示の他の証拠を参酌して所論の如き認定をしても、
これを目して所論の違法があり、また事実誤認の甚しいものということはできない。
また、被告人の右兇器に関する自供が、しばしば変つた事実があるからといつて、
原判決の如き認定が許されないわけのものでもない。
 なお、所論は、押收の兇器に血痕を遺していないこと、被告人の当時着ていたと
みられるオーバーに血痕らしいものの跡が認められないこと、衣類やゴム長靴に附
着していた血痕についての事実認定に非常識、不合理かつ非科学的な点があること、
足跡や物品物色の跡を認め得ないこと、痴情関係についての審理判断が十分に尽さ
れていないこと、被告人の自白には信憑性のないこと等かずかずの理由を挙げて、
原判決を論難するが、原判決は、それら諸点についても、証拠を挙げ、かつ客観的
事実との関連において結局所論指摘の如き認定、判示をしているのであつて、挙示
の証拠関係に照らし首肯するに足り、所論のようにこれを独断、非科学的、不合理、
非常識等と論じ去ることはできない)。よつて、刑訴四一四条、三九六条、刑法二
一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。検察官 平出禾公判出

  昭和三八年二月二一日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    高   木   常   七
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    下 飯 坂   潤   夫
            裁判官    斎   藤   朔   郎

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