弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人齋藤素雄の上告理由書は末屋に添えた別紙の通りであるが、原審判決
にあらわれたところによれば、本件につき原審において問題になつたのは、左の四
点である。(第一問題)同日同所で行われた知事選挙および村長選挙において不在
投票をするD、E、Fの三人の選挙人が、知事選挙のための特別投票者証明書を提
出したのみで、村長選挙のための特別投票者証明書を提出せずに、村長選挙の投票
用紙および投票用封筒の交附を受けて投票をした。これは選挙法規の違反ではある
まいか。(第二問題)投票者は三名とも茨城県筑波地方事務所の職員なのであるか
ら、その所属官署の長たる同事務所長の証明書を提出すべきであるのに、茨城県会
議員選挙管理委員会長Gの証明書を提出して投票した。適法か否か。(第三問題)
証明書は茨城県会議員選挙管理委員会委員長Gの名義で作られているのに、D、E
両名に交附された証明書の署名の下には、同委員会委員長印でなく、同委員会印が
押してある。適法か否か。(第四問題)原に交附された特別投票者証明書は、昭和
二二年四月五日執行の茨城県知事選挙のための証明書の日附に「十」の字を書き加
えて「十五」としたものだが、訂正印を押してない。適法か否か。
 右のうち第三第四の両問題については、原審判決が問題の捺印および日附訂正が
証明書を無効ならしめるほどの瑕疵でないことこを説明しており、上告論旨もその
点に觸れていないゆえ、以下第一第二両問題について考察する。
 (一)第一問題について上告論旨第一点第二点は、不在投票が有効であるがため
には
 (1)投票者が選挙権を有すること
 (2)選挙法規に従つて不在投票の適格者であること
 (3)特別投票者証明書を提出することの三要件を具備せねばならぬとし、知事
選挙と村長選挙とはたとい同日同所で行われるも各別の選挙であるから、別々の特
別投票者証明書を提出することを要するのであつて、一つの選挙のための証明書に
他の選挙のための証明を兼ねさせるようなことは、選挙管理者の任意の裁量で為し
得るところでないと主張する。なるほど特別投票者証明書の提出が上告論旨のいわ
ゆる不存在投票有効三要件の第三であるには相違ないが、それは第一第二両要件の
ような絶対要件でなく、この二つの絶対要件の存在を証明する手段にほかならぬの
であるから、一つの選挙のための証明書を同日同所で同時に行われる同じく地方自
治体選挙の他の一つについての不在投票者資格の証明に役立てても充分に証明の目
的を達し得るのであつて、その選挙が違法でありその投票が無効であるというまで
の瑕疵とはならないのである。
 (二)上告論旨第三点は、第二問題を取り上げて、本件の特別投票者証明書が茨
城県会議員選挙委員会委員長によつて発行されたことを非難し、本件の投票者は三
名とも当時茨城県筑波地方事務所の職員だつたのだからその所属官公署の長なる筑
波地方事務所長によつて証明書が発行されねばならなかつたと主張する。しかし原
判決の言う通り、選挙に関する事務は選挙管理委員会がつかさどることになつてお
り、本件の三名は茨城県選挙管理委員会から選挙監視員を嘱託されて選挙に関する
事務に從事したのであるから、選挙事務に関する限りは同人等の所属官公署の長は
茨城県同選挙管理委員会委員長なのである。上告論旨は、昭和二一年法律第二七号
第二八号第二九号を以て府県制市町村制の一部を改正して、選挙事務を管掌する官
公署を選挙管理委員会と改めたが、施行令第二四条第四号は改正しなかつたゆえ、
同号の証明書には変更なきものと解しなくてはならないと主張する。しかし元来が
所属の官公署という抽象的の文句で、それをどう解釋するかの問題ゆえ、それを新
法の趣旨に従つて選挙管理委員会と解するのは、むしろ当然である。
 (三)上告論旨第四点は、乙号第二い号証として被告人が提出し上告代理人が援
用した筑波地方事務所経済課の出張命令簿を原審が判断の資料に供しなかつたと非
難する。すなわちこれによつて本件の投票者三名が筑波地方事務所長により選挙事
務のため管下町村に出張させられたものであることが証明され得るのだつたという
のである。しかし原審は被上告人か乙第六号証を提出したことを判決に摘示してい
るから、原審が同証を事実認定の資料として参酌したことは明かである。そして証
拠は当事者双方に対して共通のものであるから上告人が同証を援用したということ
は特に判決に書かなくても違法ではない。のみならず地方事務所の職員が任地外に
出張するについての出張命令は事務所長が出すであらうが、出張先において選挙事
務につき選挙管理委員会委員長の監督指揮を受けることは別問題であり得るから、
右乙第六号証を採用したにしても無視したにしても前記(二)の結論は変らないの
であつて論旨は理由がない。
 よつて上告を理由なしとして民事訴訟法第四〇一条第九五条第八九条に従つて主
文の如く判決する。
 以上は当小法廷裁判官全員一致の意見である。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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