弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄し、本件を広島高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 弁護人松野一衛の上告趣意は、違憲(一一条違反)をいう点もあるが、実質は、
事実誤認、量刑不当の主張であつて、上告適法の理由に当らない。
 弁護人松野一衛、同藤井五一郎の上告趣意は、違憲(三七条一項違反)をいう点
もあるが、実質は、事実誤認、量刑不当の主張であつて、上告適法の理由に当らな
い。
 職権によつて調査すると、原判決が維持した第一審判決認定の事実の要旨は、被
告人は、A商品仲買人株式会社B代表取締役社長として、委託者から委託を受けた
売買取引の実行ならびに委託証拠金の保管等の業務に従事していたものであるが、
昭和三六年四月七日ごろから翌三七年八月二五日ごろまでの間に、Cほか一九名か
ら農産物等の売買取引に関する委託証拠金充用証券として、預託を受けて業務上保
管中の株券等を委託者の書面による同意をえないで、委託の趣旨に反し、ほしいま
まに自己会社の借入金の担保として差入れ、もつて横領するとともに委託者から預
託を受けた財物を処分したものである、というのである。そして、原判決は、右事
実につき、商品取引所法九二条違反の罪のほか業務上横領罪の成立を認め、両者を
一所為数法の関係にあるものとして処断しているのである。
 しかし、商品仲買人が、商品市場における売買取引を受託するに当り、委託者か
ら担保として徴する委託証拠金の代用たる有価証券(いわゆる証拠金充用証券)は、
商品取引所法九二条にいう、商品仲買人が委託者から預託を受けて、またはその者
の計算において占有する物に含まれないことは、当裁判所の判例(昭和三八年(あ)
第一四一七号、同四一年七月一三日大法廷判決)とするところである。したがつて、
被告人が委託者らから預かり保管していた本件証拠金充用証券を、委託者の書面に
よる同意をえないで担保に供したとしても、業務上横領罪の成否を論ずることは別
として、少なくとも商品取引所法九二条違反の罪は成立しないものといわなければ
ならない。しかるに、被告人に対し、同罪が成立するものとした第一審判決および
原判決には、法令の解釈適用を誤つた違法があり、判決に影響を及ぼすことが明ら
かであつて、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。
 よつて、刑訴法四一一条一号により、原判決を破棄し、同四一三条本文により、
本件を原裁判所である広島高等裁判所に差戻すこととする。
 この判決は、裁判官長部謹吾の反対意見のあるほか裁判官全員一致の意見による
ものである。
 裁判官長部謹吾の反対意見は次のとおりである。
 私は本件について、被告人の所為は商品取引所法九二条に違反し、業務上横領罪
に該当すると解するから、上告を棄却すべきものと考える。従つて、多数意見には
賛成し難い。その理由は、昭和三八年(あ)第一四一七号同四一年七月一三日大法
廷判決に記載された私の反対意見と同趣旨であるから、これを引用する。
 検察官 岡・格公判出席
  昭和四二年二月二三日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    岩   田       誠
            裁判官    大   隅   健 一 郎

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