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       主   文
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3 本件附帯控訴を棄却する。
4 訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)は,第1,2審を通じて被控訴
人らの負担とする。
       事実及び理由
第1 控訴及び附帯控訴の各趣旨
1 控訴の趣旨
 主文第1,2,4項と同旨
2 附帯控訴の趣旨
(1) 原判決中控訴人に関する部分を次のとおり変更する。
(2) 控訴人は,京都市に対し,1174万5152円及びこれに対する平成9
年9月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)は,第1,2審を通じて控
訴人及び控訴人参加人の負担とする。
(4) 上記第2項につき,仮執行宣言
第2 事案の概要
1 本件は,京都市(以下「市」という。)が平成8年度に土地家屋調査士の団
体,司法書士の団体及び測量業者(測量士)の団体に対して公共土木事業用地の取
得に伴う登記,測量及び調査等の業務を一定期間,包括的に委託する旨の契約を随
意契約の方法により締結したことについて,市の住民である被控訴人らが,上記契
約は,随意契約の制限を定めた地方自治法(平成14年法律第4号による改正前の
もの。以下「法」という。)234条に違反しており,また,実際には実施されな
い作業工程があったにもかかわらず,一律に一定の作業工程が実施されるものとし
て高額な委託料の支払を約した点において,法2条14項,地方財政法4条1項に
違反していると主張して,当時,市長の職にあった控訴人に対し,法242条の2
第1項4号に基づき,平成8年度に支出された委託料のうち上記3団体が取得した
「業務受託分担金」相当額と不実施作業工程分代金相当額との合計額である117
4万5152円及びこれに対する平成9年3月31日から支払済みまで民法所定の
年5分の割合による遅延損害金を市に支払うことを求めた住民訴訟である。
2 原判決は,控訴人に対して104万0152円及びこれに対する訴状送達の日
の翌日である平成9年10月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合によ
る遅延損害金の支払を命ずる限度で被控訴人らの請求を認容した。
 そこで,原判決に対し,控訴人及び控訴人参加人が原判決中控訴人敗訴部分を不
服として控訴し,被控訴人らが附帯控訴した。
3 争いのない事実及び争点に関する当事者の主張は,後記4のとおり当審におけ
る当事者の追加主張を加え,次のとおり訂正,削除するほかは,原判決「事実及び
理由」の「第二 事案の概要」の「二」ないし「四」に記載のとおりであるから,
これを引用する。
(1) 原判決8頁12行目から13行目にかけての「司法書士法」を「司法書士
法(平成14年法律第33号による改正前のもの。以下同じ。)」と改める。
(2) 原判決8頁25行目の「土地家屋調査士法」を「土地家屋調査士法(平成
14年法律第33号による改正前のもの。以下同じ。)」と改める。
(3) 原判決12頁15行目から13頁1行目の「2 以上の理解を前提とする
と,」までを削除する。
(4) 原判決13頁18行目から19行目にかけての「法施行令167条の2第
1項2号」を「地方自治法施行令(平成12年政令第55号による改正前のもの。
以下「法施行令」という。)167条の2第1項2号」と改める。
(5) 原判決14頁18行目の「折込み」を「織り込み」と改める。
4 当審における当事者の追加主張
(1) 控訴人
ア 本件各委託契約及びその前提となる本件協定の締結は,専決により行われたも
のであり,控訴人はその概要すら知らなかった。原判決は,市に先だって本件と同
様の制度を採用した京都府においては,京都府知事が制度の概要を了知していたこ
とと,本件各委託契約が市政改革大綱の方針に従ったものであったことの2点か
ら,控訴人も本件各委託契約等の内容を知っていたと認定している。しかしなが
ら,京都府知事が了知していたからといって,控訴人も了知していたことにならな
いことはいうまでもない。また,市政改革大綱においては,民間委託の推進を検討
すべき事項の一つとして,用地取得に係る測量事務等が挙げられているだけで,本
件協定の内容等に関する具体的な提言はなかったのであるから,市政改革大綱から
本件各委託契約等の内容を認識することは不可能であった。したがって,控訴人が
財務会計上の違法行為を阻止すべき指揮監督上の義務に違反したものということは
できない。
イ 委託単価の算定に当たり,業務受託分担金相当額が加算された事実はないか
ら,競争入札が行われていれば,本件各委託契約に基づき支払われた委託料よりも
低廉な価格で落札され,「業務受託分担金」相当額の支払を免れたものということ
はできない。
ウ 市は,本件各委託契約を締結したことにより,競争入札に要する費用を節約す
ることができたのであるから,上記費用相当額は損益相殺の対象になるというべき
である。
(2) 被控訴人ら
ア 原判決は,被控訴人ら主張の「不実施作業工程」の相当部分について具体的な
作業工程としては実施されなかったものと認定しながら,委託単価の算定に当た
り,算定積算額に0.9を乗じて減額していることをもって,一部については実施
されないことが織り込み済みであるとか,委託料額が100万円以下の場合であれ
ば,随意契約の可能性があるので競争関係は完全に徹底できるものではないなどの
理由を挙げて,これを市の損害と認めない。
イ しかしながら,競争入札における落札価格は,入札予定価格を相当程度下回る
のが通常である。10パーセント減額はこうした実態に基づいて導入されたもので
あり,「不実施作業工程」を意識して導入されたものではない。しかも,仮に10
パーセント減額を算入したとしても,原判決別表(4)にあるように,実施されな
かった工程に基づく支出はこれを大きく上回るものであり,その全てについて損害
から排除することはできない。
ウ また,随意契約による場合においても,委託金額の算定は現実に行われる作業
工程ごとの単価を積算する方式によって算出されるものであり,実際には行われな
い作業工程を加算して,委託金額を算定することはあり得ない。
第3 当裁判所の判断
1 追加請求に係る本件訴えの適否に関する判断は,原判決17頁18行目から1
8頁8行目の「失当である。」までに記載のとおりであるから,これを引用する。
ただし,原判決18頁2行目末尾から3行目冒頭にかけての「判示」を「摘示」と
改める。
2 本件協定の財務会計行為該当性に関する判断は,原判決18頁12行目から同
頁18行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
3 争点①(本件各委託契約の違法性)について
(1) 前記争いのない事実等に,証拠(甲1,2の1ないし2の15,16,丙
143ないし145,原審における証人A及び証人Bの各証言)及び弁論の全趣旨
を総合すると,次の事実が認められる。
ア 市は,平成7年度までは,他の地方公共団体と同様,公共土木事業の用地取得
に伴う登記測量業務のうち用地測量及び権利関係調査に関する業務については,個
々の事業ごとに競争入札を実施した上で,測量業者との間で個別に委託契約を締結
し,登記,境界確定その他の業務については,市の職員が測量業者と協力し合いな
がらこれに当たってきた。
イ 京都府は,平成6年度から,公共土木事業の用地取得に伴う登記測量業務につ
いて,それまで行われていた指名競争入札により個別に委託契約を締結する方法を
改め,調査士協会,司法書士協会及び京測協に対し,あらかじめ各土木事務所等で
行われる一年分の登記測量業務を包括的に委託する方法を採用した。これを受け
て,市の都市建設局は,局内にプロジェクトチームを設置し,用地買収促進の方策
の一つとして,京都府が採用した上記方法の採否について検討を進めた。その結
果,従前の委託方法では,権利関係の調査や境界確定等の作業に手間取ることがあ
り,また,測量士が作成した測量図面が不動産登記の実務基準等に適合せず,登記
嘱託の際に支障を来すこともあったことから,土地家屋調査士,測量士及び司法書
士の連携の下に,用地測量の準備作業から登記嘱託までを一括して委託することが
相当であるとの結論に達した。上記検討結果を受けて,市の都市建設局長である第
1審被告Cは,本件協定の締結を専決し,原判決別表(2)の「専決権者」欄記載
の各専決権者は,それぞれ本件各委託契約の締結を専決した。
ウ 市は,平成8年6月26日,調査士協会,司法書士協会及び京測協との間で,
本件協定を締結した上,同年7月から平成9年1月までの間に,本件3団体との間
で,本件各委託契約を締結した。本件各委託契約は,市の道路建設課,河川課,土
木事務所等の部署ごとに締結されたものであり,それぞれ契約締結日から平成9年
3月31日までの間,本件3団体に対し,各部署が所管する公共土木事業に必要な
登記,測量及び調査等の業務の処理を委託する旨が定められた。
エ 本件各委託契約締結の結果,個々の公共土木事業ごとに実施されていた競争入
札は実施されなくなり,各部署が契約締結日から平成9年3月31日までの間に行
う公共土木事業に伴う登記測量業務は,すべて包括的に本件3団体に委託されるこ
とになった。本件各委託契約においては,契約締結の段階では,いかなる公共土木
事業に関する登記測量業務を委託するかは未確定であって,契約締結後に行われる
市の業務実施箇所の指示によって初めて具体的な委託業務が確定し,これによって
市から支払われる委託料の金額も確定するものとされていた。また,本件各委託契
約に基づく委託業務を実際に担当するのは,本件3団体に所属する土地家屋調査
士,司法書士及び測量業者であったが,その選定は,本件3団体に任せられてい
た。
 なお,平成8年当時,司法書士協会には,司法書士法所定の有資格者の約4割の
司法書士が加入しており,調査士協会には,土地家屋調査士法所定の有資格者の約
6割の土地家屋調査士が加入していた。また,用測協には,京都府内の測量業者の
うち約60の業者が加入していた。
オ 市は,原判決別表(1)のとおり,平成8年10月8日から平成9年3月31
日までの間に,本件各委託契約に基づく委託料として合計4061万3930円を
支払った。市においては,業務委託契約について随意契約によることができるのは
予定価格が100万円を超えない場合であるとされているところ(法施行令167
条の2第1項1号,京都市契約事務規則26条),本件各委託契約に基づく委託業
務の多くは,1件(一つの公共土木事業)当たり100万円以下のものであった
が,1件(一つの公共土木事業)当たり100万円を超える委託料が支払われたも
のも複数含まれていた。
(2) 法234条は,「売買,賃借,請負その他の契約は,一般競争入札,指名
競争入札,随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。」(1項)と
した上で,「前項の指名競争入札,随意契約又はせり売りは,政令で定める場合に
該当するときに限り,これによることができる。」(2項)と規定し,普通地方公
共団体が行う契約の締結については,原則として,一般競争入札によるべきことを
明らかにしている。これを受けて,法施行令167条の2第1項は,随意契約の方
法による契約の締結を許容する場合を定めているところ,同項2号にいう「その性
質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」とは,必ずしも競争入札による
ことが不可能又は著しく困難である場合に限られるものではなく,不特定多数の者
の参加を求めて競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが必ずしも適当で
はなく,当該契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとして
も,当該契約の目的,内容に相応する資力,信用,技術,経験等を有する相手方を
選定してその者との間で契約を締結するという方法をとるのが当該契約の性質に照
らし又はその目的を達成する上でより妥当であり,ひいては当該普通地方公共団体
の利益の増進につながる場合を含むものというべきである。そして,このような場
合に該当するかどうかは,個々の具体的な契約ごとに,当該契約の種類,内容,性
質,目的等諸般の事情を考慮して,当該普通地方公共団体の契約担当者の合理的な
裁量判断により決定されるべきものと解するのが相当である(最高裁昭和57年
(行ツ)第74号同62年3月20日第二小法廷判決・民集41巻2号189頁参
照)。
(3) そこで,このような観点から,本件各委託契約の締結についてみるに,前
記(1)で認定した事実によると,本件各委託契約は,公共土木事業の用地取得に
伴う用地測量,登記,権利関係の調査等の業務を目的とするものであり,これらの
業務については,平成7年度までは,市でも他の地方公共団体と同様,個々の事業
ごとに競争入札を実施して測量業者との間で個別に委託契約が締結されてきたもの
であるというのであるから,これらの業務の委託契約を締結するに当たり,不特定
多数の者の参加を求めて競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが必ずし
も適当ではないというような事情は見当たらないものというべきである。
(4) この点について,控訴人は,従来の委託方法の問題点を見直し,土地家屋
調査士,測量士及び司法書士が連携し合って用地測量の準備作業から登記嘱託まで
を一体的に処理することが可能となるように本件各委託契約を締結した旨主張する
ところ,確かに,市の都市建設局では,従前の委託方法について,権利関係の調査
や境界確定等の作業に手間取ったり,測量図面が不動産登記の実務基準等に適合し
ないことがあるなどの問題点が指摘されていたことは,前記(1)で認定したとお
りである。
 しかしながら,控訴人が主張する従来の委託方法の問題点は,一般的,抽象的な
ものにとどまる上,前記(1)で認定した事実によると,① 本件各委託契約にお
いては,実際に委託業務を担当する土地家屋調査士,司法書士及び測量業者の選定
は,本件3団体に任せられており,市が測量業者等を直接選定することはできない
ものとされていたばかりか,② 本件各委託契約締結の結果,権利関係の調査や境
界確定等の作業を要しない場合についてまで,競争入札が行われないことになった
というのであるから,本件各委託契約の締結が上記問題点の解消のための手段とし
て合理性を有するものであるかどうかには,疑問があるものといわざるを得ない。
これに加えて,前記(1)で認定した本件各委託契約の内容や契約締結の経緯,殊
に,① 本件各委託契約は,いかなる公共土木事業について登記測量業務の委託が
必要となるかが未確定の段階で,市の各部署が平成8年度中に行う公共土木事業に
伴う登記測量業務を包括的に本件3団体に委託することを約するものであって,個
々の具体的な委託ごとに随意契約により委託契約を締結することに合理的な理由が
あるかどうかが吟味される余地はないばかりか,② 本件各委託契約締結の結果,
従来,競争入札が実施されていた予定価格が100万円を超える場合まで,競争入
札が排除されることになったものであり,③ 本件3団体に加入している土地家屋
調査士,司法書士及び測量業者は,京都地方法務局の管轄区域内に事務所を有する
土地家屋調査士や司法書士,京都府内の測量業者のごく一部にすぎなかったこと等
をも併せ考えると,本件各委託契約をもって法施行令167条の2第1項2号にい
う「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」に該当するものということはで
きず,市が登記測量業務について包括的な委託方式を採用し,随意契約により本件
各委託契約を締結したことには,裁量権の逸脱,濫用があるものというべきであ
る。
(5) なお,本件3団体のうち司法書士協会及び調査士協会は,それぞれ司法書
士法17条の6及び土地家屋調査士法17条の6に基づき,公共嘱託登記司法書士
協会及び公共嘱託土地家屋調査士協会として設立された社団法人であるところ,公
共事業に伴う用地買収等の際には,大量の登記測量業務が一時期に集中することが
あることから,司法書士法及び土地家屋調査士法は,多数の司法書士や土地家屋調
査士が官公署等から上記業務を組織的に受託して処理することができるようにする
ために上記各協会の設立を認めることにしたものである。このような公共嘱託登記
司法書士協会等の制度趣旨に照らすと,大量の登記測量業務が集中する場合に,こ
れを迅速に処理するために,普通地方公共団体が上記各協会との間で随意契約によ
り登記測量業務の委託契約を締結することは,上記制度趣旨に沿うものであり,法
施行令167条の2第1項2号にいう「その性質又は目的が競争入札に適しないも
のをするとき」に該当することが多いということができるけれども,公共嘱託登記
司法書士協会等の制度が,かかる場合にとどまらず,将来の一定期間に行われるす
べての公共土木事業の用地取得に伴う登記測量業務をあらかじめ包括的に委託する
本件各委託契約のような受託方法まで予定しているものということはできない。
(6) 以上によると,本件各委託契約の締結は,法234条及び法施行令167
条の2第1項2号に違反するものというべきであるから,その余の点について判断
するまでもなく,違法というほかはない。
4 争点②(控訴人の責任)について
(1) 前記争いのない事実等に,証拠(甲20の1ないし4,丙143ないし1
47,334,335,原審における証人A及び証人Bの各証言)及び弁論の全趣
旨を総合すると,次の事実が認められる。
ア 市の都市建設局は,京都府が平成6年度から公共土木事業の用地取得に伴う登
記測量業務を包括的に委託する方法を採用したのを受けて,局内にプロジェクトチ
ームを設置し,用地買収促進の方策の一つとして,上記方法の採否について検討を
進めた。その結果,上記プロジェクトチームは,土地家屋調査士,測量士及び司法
書士の連携の下に,用地測量の準備作業から登記嘱託までを一括して委託すること
が相当であるとの結論に達した。また,平成7年6月に策定された「『平成の京づ
くり』推進のための市政改革大綱」では,用地取得に係る事前事務について土地開
発公社の活用や民間(土地家屋調査士)等への委託化を検討する旨が提言された。
これらを受けて,当時の都市建設局長である第1審被告Cは,京都府と同様の委託
方法を採用するのが相当であると判断し,平成8年6月26日,専決により本件協
定を締結した。その後,同年7月から平成9年1月までの間に,本件各委託契約が
締結されたが,これらの契約締結は,いずれも都市建設局長その他の局長の専決に
より処理され,控訴人が決裁に関与することはなかった。
イ 「『平成の京づくり』推進のための市政改革大綱」は,平成6年1月に設置さ
れた市政改革本部が中心となって進めていた行政運営の見直し等についての検討結
果をとりまとめたものであり,「施策の重点化」,「行財政の効率化」,「市民と
行政の信頼と協力関係の構築」,「地方分権の推進」という四つの基本方針を掲げ
て,行政改革の方針に関する提言をしている。このうち「行財政の効率化」の基本
方針の下には,「組織機構の再構築」,「人事・給与制度の見直し」,「弾力性を
持った財政構造への改善」,「事業手法の見直し」,「事務処理方法の改善」,
「保有財産等の積極的な活用」という6項目が掲げられており,このなかの「事業
手法の見直し」の項目の下には,「類似事業の統廃合」,「外郭団体の再構築,活
用」等と並んで「民間委託の推進」という中項目が掲げられている。「民間委託の
推進」の中項目の下には,「市立病院における医事業務」,「文化施設等の維持管
理業務」等と並んで「用地取得に係る事前事務」という小項目が掲げられており,
その内容として「用地測量,境界確定,補償積算等の事務について,民間の持つ専
門的なノウハウの活用等,業務の効率化を図るため,土地開発公社の活用や民間
(土地家屋調査士)等への委託化を検討する。」旨が記載されている。もっとも,
上記大綱は,行政改革の大まかな方針を示したものにすぎず,必ずしも個々の施策
について具体的な検討を加えたものではないため,「用地取得に係る事前事務」に
ついても,委託化の具体的な内容についての説明はなく,本件協定や本件各委託契
約の内容を推知させるような記述は全くなかった。
ウ 都市建設局長である第1審被告Cは,平成8年7月18日の市議会(臨時会)
において,道路整備に係る用地買収の促進に関する質問に対し,登記測量業務の見
直しを行った旨を答弁した。もっとも,上記答弁の内容は,「本年7月からは用地
測量,権利者調査及び登記等の業務を一括して委託する見直しを行い,業務の迅速
化を図ったところであります。」というものにすぎず,それ以上の質疑応答はな
く,見直しによって競争入札が廃止され,将来の一定期間に行われる公共土木事業
の用地取得に伴う登記測量業務があらかじめ包括的に委託されることになったこと
等が説明されることはなかった。
エ 市においては,専決権者が重要であると判断した場合には,専決事項であって
も,市長に対して事前に報告,説明し,その判断を仰ぐものの,通常の場合には,
専決事項について市長が報告を受けることはなかった。本件協定及び本件各委託契
約は,市が新たに考案したものではなく,京都府の制度を模したものであったこと
から,都市建設局長である第1審被告Cは,本件各委託契約等を締結することに格
別問題はないものと考え,専決に先立ち,控訴人に対してその内容等を報告した
り,説明するようなことはなかった。同様に,本件各委託契約の締結を専決した他
の局長も,控訴人に対して報告,説明することはなかった。
(2) 専決を任された補助職員が普通地方公共団体の長の権限に属する財務会計
上の行為を専決により処理した場合は,長は,当該補助職員が財務会計上の違法行
為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失により当該補
助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り,普通地方
公共団体に対し,当該補助職員がした財務会計上の違法行為により当該普通地方公
共団体が被った損害につき賠償責任を負うものと解するのが相当である(最高裁平
成2年(行ツ)第137号同3年12月20日第二小法廷判決・民集45巻9号1
455頁)。
 前記(1)で認定した事実によると,控訴人は,自己の権限に属する本件各委託
契約の締結を補助職員に専決させたものであるから,指揮監督上の義務に違反し,
故意又は過失によりこれを阻止しなかったときに限り,市に対し,本件各委託契約
の締結によって市が被った損害を賠償する義務を負うことになる。
(3) そこで,本件についてこれを検討するに,前記(1)で認定した事実によ
ると,① 本件協定及び本件各委託契約の締結は,いずれも専決権者の専決によっ
て処理されたものであり,控訴人がこれに関与することはなかったところ,② 本
件各委託契約等の内容は,都市建設局が中心となって検討を進めたものであり,③
 専決に当たった都市建設局長その他の専決権者は,本件各委託契約等が京都府の
制度をそのまま模したものであったことから,何らの問題意識も持たず,控訴人に
対して事前に報告,説明するようなことはなかった上,④ 制度導入に当たって都
市建設局が参考にした市政改革大綱には,用地測量業務等における民間(土地家屋
調査士)委託の検討が提言されていたものの,本件各委託契約等の内容を推知させ
るような記述はなく,⑤ 市議会においても,本件各委託契約等の具体的内容につ
いての説明は一切なかったというのである。これらの諸点にかんがみると,控訴人
は,本件各委託契約等の具体的な内容を認識し得なかったものといわざるを得ない
から,控訴人が違法な本件各委託契約の締結を阻止すべき指揮監督上の義務に違反
し,故意又は過失によりこれを阻止しなかったものということはできず,他に,控
訴人の指揮監督上の義務違反を認めるに足りる証拠はない。そうすると,被控訴人
らの控訴人に対する損害賠償請求は理由がない。
5 結論
 以上によると,被控訴人らの本訴請求は理由がないから,これを棄却すべきであ
る。
 よって,原判決中控訴人敗訴部分は取消しを免れず,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第3民事部
裁判長裁判官 岡部崇明
裁判官 片岡勝行
裁判官 福井章代

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