弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人堀家嘉郎の上告理由第一について。
 論旨は、本件上告人の取消処分の対象となつた被上告人の運転免許は、その免許
証の有効期間の更新がなく、その期間の満了によつて失効したことは明らかである
から、右取消処分の取消しを求める本件訴の利益は、すでに消滅したというにある。
 しかし、被上告人が道路交通法(以下道交法と称する。)一〇一条の規定に従い、
免許証の有効期間の更新を受けるために、その期間の満了する日の一月前から当該
期間の満了の日までの間に上告人に対して適性検査を求めなかつたのは、取消判決
が確定しない以上、本件免許取消処分はなお効力を有し、右更新の手続をとりがた
かつたためと認められる。したがつて、その免許取消処分が違法で取り消されるべ
きものであるかぎり、右更新のできなかつたのは、これを上告人の違法処分に基づ
くものということができる。そして右道交法一〇一条が、免許証有効期間満了にあ
たり適性検査を行ない、その結果自動車等の運転に支障がないと認められる者につ
いては免許証の有効期間を更新して免許を存続させることにし、同法一〇五条が、
免許証の有効期間の更新を受けなかつたときは免許は効力を失なうものとしたのは、
現に免許証を行使しつつある者に対し、その運転適性を維持しているかどうかにつ
いての定期検査を強行し、不適格者には適宜の処置をとる目的に出でたものである
ことにかんがみれば、これら規定は、本件のように免許が現在取り消されており、
その取消しの適否が訴訟によつて争われている場合についてまで適用を予定したも
のとは解しがたい。むしろかような取消処分の係争中の免許については、その取消
処分の取消しが確定して免許証を行使しうる状態に復帰した際に、その適性検査の
時期に至つたものとして取り扱うのが相当であり、道交法上もそのような取扱いを
許されないとする根拠は認められない。してみれば、本件被上告人の免許証の有効
期間の経過は、なんら本件訴の利益の存続に影響するところはないと解するのを相
当とする。論旨は、本件免許取消処分の執行停止をえて免許証の有効期間の更新を
求めなかつた以上免許の失効はやむをえないものとするが、前示説明のごとく理由
なく、また被上告人が現在新たに別種の運転免許を有することをあげて訴の利益を
欠くものと主張するが、後段説示のごとく到底首肯しがたい。所論はいずれも採用
できない。
 同第二について。
 論旨は、上告人は、被上告人には本件処分後第一種普通免許および第二種普通免
許の運転免許が与えられ、再びタクシー運転手としても稼働しうるのであるから、
本件免許取消処分の取消を訴求する利益を欠く旨を原審において主張したのにかか
わらず、原判決はこの主張についての判断を遺脱した違法があるというにある。
 しかし、本件取消処分の対象となつたのは、被上告人の大型第二種、三輪第二種
の各免許であり、所論の運転免許とは別種のものに属する。道交法は現に受けてい
る免許と同一種類の免許を重ねて受けることを許さないだけであつて(同法八八条
二項参照)、同一人が別種の免許を併有するのを妨げないものとしているのである
から、被上告人が現に所論の運転免許を受けているにしても、そのために本件訴訟
の利益が失われるものでないことは多言を要しない。しかも本件記録に徴すれば、
原審において所論の主張の陳述があつたものとは認めがたく、したがつてこれにつ
いて原判決が判断を示さなかつたとしても、違法ということはできない。論旨は採
用に値しない。
 同第三、第四について。
 論旨は、原判決は被上告人の所為がいわゆる酩酊運転に該当するかどうかの判定
につき、理由に不備または齟齬があるのみならず、道交法一一八条二号、同法施行
令二七条の解釈を誤まつたものであり、また被上告人の酩酊度の認定に関し、審理
不尽、経験則に違背した採証があるというのである。
 しかし、原判決は、その挙示する各証拠に基づき、本件衝突事故の当日における
被上告人の飲酒の状況とその酩酊の程度、ことに原審証人Dの証言にみられる同人
が被上告人とEで逢つた際に被上告人が酔つているようにみえなかつた事実、第一
審証人Fの証言による道交法施行令二七条所定の状態を通常現出すべき飲酒状況(
それは、同証言によれば、警察科学研究所の実験の結果と認めることができる。)
等から推して、事故当時被上告人の身体に残つていたアルコール分の量は、右二七
条所定の程度に達していたとは認めがたいものと判断したのであつて、その採証に
違法と目すべきものはなく、その判断は肯認することができる。論旨は、右酩酊度
の判示を不明不合理といい、また酩酊度に関する公知の事実を看過するものと論じ、
あるいはその証拠調べを不十分とし、違法の証拠の採否があると主張するが、所論
はひつきよう原審の専権たる証拠の採否、事実の認定を非難するに帰する。論旨は
採用しがたい。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    奥   野   健   一
            裁判官    山   田   作 之 助
            裁判官    草   鹿   浅 之 介
            裁判官    城   戸   芳   彦
            裁判官    石   田   和   外

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