弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人国原賢徳の上告理由第一点について。
 論旨は、上告人が本件土地をその上に建物を所有することによつて占有して居る
のであるから、その権原として、上告人に使用貸借上の権利あることを推定すべき
ものなるにも拘らず、原判決がその占有を不法であるとしたのは、民法一八八条の
解釈を誤り、大審院判例に背き、違法であると主張する。
 しかし、土地をその上に建物を所有して占有する者は、使用権を取得した法律上
の原因の存在したことについても、推定を受け得られるものではない。したがつて
使用貸借を原因とする使用権を主張して土地を占有する者から、その占有権原を争
う者に対しては、使用貸借を原因とする使用権取得の推定を、主張し得ないものと
解すべきである。この場合には一般原則にしたがつて、その権原存在の挙証責任を
定むべきものであるから、本件土地につき使用貸借の成立したとの事実を主張する
上告人において、これを立証すべき義務があるとせねばならない。論旨引用の判例
は、本件につきこれを先例となし得ない。(大審院昭和四年(オ)第六五五号、同
年一一月一八日民一部判決、大審院昭和五年(オ)第三二三八号、同六年五月三〇
日民四部判決参照)而して原審は、本件土地につき上告人を借主とする使用貸借が
成立したとの事実に対しては、立証がないと判断したのであるから、上告人の所論
抗弁を排斥した原判決に所論の違法はない。
 更に論旨は、上告人は本件土地の単なる使用貸借を主張したのに止まつて、その
当事者、始期、期間、内容を特定しなかつたにも拘らず、原審は、上告人がこれを
特定したものゝ如く錯誤して判断したのは、違法であると主張する。
 しかし、所論の如く主張することは、使用貸借の主体その他所論事項のないこと
を自認すると異る所がないのであり、かゝる具体性のない無内容な法律関係を主張
すること自体、無意味であつて、採るに足らない。
 自余の論旨は、原判示に即しない独自の見解によつて原審の判断を非難するか或
は原審の適法なる証拠判断、事実認定を非難するに外ならない。
 論旨はすべて、理由がない。
 同第二点について。
 論旨は、縷々述べて居るけれども、その中、原判決に民法一八八条の解釈を誤り、
同条に関する判例を看過した違法があるとする主張の理由ないことは、既に説明し
たる所により諒解すべきである。次に、原判決が第一審判決の判断を引用すると説
明しながら、両者の判断が矛盾するから、原判決に理由齟齬の違法があるとの主張
は、原判決を正解せぬ所から出て居る。両者は、所論の点につき何れも、上告人に
本件土地の賃借権がないと、一致して判断して居るのであるから、その主張の理由
ないこと明かである。更に、原審の証拠判断、事実認定に、実験則違背、理由齟齬
のあることを前提として、原判決に違憲があるとする主張は、原審挙示の証拠によ
る原判決の事実認定は相当であつて、所論の違法を認められないから、違憲の主張
は、その前提をかくのであつて、採用の限りでない。自余の主張は、法令違背にも
触れる所があるが、その実質において、原審の適法なる証拠の取捨判断を非難する
ことの外に出ない。
 論旨は、すべて理由がない。
 同第三点について。
 論旨は、被上告人等に権利の濫用があることを前提として、原判決の違憲を主張
する。
 しかし、かゝる権利濫用の事由は、原審において上告人の主張もなく判断もない。
しかも、論旨によれば、被上告人等に権利の濫用があるとするのは、本件土地につ
き上告人に、適法にその土地を使用する権利の存することを前提として居るにも拘
らず、原判決はその権利の存在を否定して居るのであつて、結局上告人の主張は凡
てその前提をかくに帰する。
 論旨は、理由がない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    石   坂   修   一
            裁判官    垂   水   克   己
            裁判官    高   橋       潔

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