弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
原決定を破棄する。
本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
理由
抗告代理人山田俊介,同関根良平の抗告理由について
1本件は,Aの共同相続人である抗告人らと相手方らとの間におけるAの遺産
の分割申立て事件である。
2原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)相手方Y1はAの妻であり,相手方Y2及び同Y3はAと同Y1との間の子
であり,抗告人ら3名はAと先妻との間の子である。
(2)Aは,平成17年12月23日に死亡した。Aの法定相続人は,相手方ら
及び抗告人らである。
(3)本件において遺産分割の対象となるAの遺産(以下「本件遺産」とい
う。)は,現金3020万円並びに原々審判別紙遺産目録記載の株式及び宝飾品で
ある。
(4)Aは,平成16年10月から平成17年12月にかけて,相手方Y2に対
し,生計の資本として,株式,現金,預貯金等の贈与(以下「本件贈与」とい
う。)をするとともに,Aの相続開始時において本件贈与に係る財産の価額をその
相続財産に算入することを要しない旨の意思表示(以下「本件持戻し免除の意思表
示」という。)をした。
(5)Aは,平成17年5月26日,相手方Y1の相続分を2分の1,その余の
相手方らの相続分を各4分の1,抗告人らの相続分を零と指定する旨の公正証書遺
言(以下「本件遺言」という。)をした。
(6)抗告人らは,平成18年7月から9月までの間に,相手方らに対し,遺留
分減殺請求権を行使する旨の意思表示(以下「本件遺留分減殺請求」という。)を
した。
3原審は,上記事実関係の下において,本件遺留分減殺請求により,①本件
遺言による相続分の指定が減殺され,法定相続分を超える相続分を指定された相続
人の指定相続分が,その法定相続分の割合に応じて修正される結果,相手方Y1の
相続分が2分の1,その余の相手方らの相続分が各40分の7,抗告人らの相続分
が各20分の1となり,②本件持戻し免除の意思表示は,抗告人らの遺留分を侵
害する合計20分の3の限度で失効するとした上,民法903条1項の規定によ
り,本件贈与に係る財産の価額を上記の限度で本件遺産の価額に加算したものを相
続財産とみなし,これに上記①のとおり修正された相続分の割合を乗じ,相手方
Y2の相続分から上記のとおり本件遺産の価額に加算した本件贈与に係る財産の価
額を控除して,抗告人ら及び相手方らの各具体的相続分を算定し,本件遺産を分割
した。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1)前記事実関係によれば,本件遺言による相続分の指定が抗告人らの遺留分
を侵害することは明らかであるから,本件遺留分減殺請求により,上記相続分の指
定が減殺されることになる。相続分の指定が,特定の財産を処分する行為ではな
く,相続人の法定相続分を変更する性質の行為であること,及び,遺留分制度が被
相続人の財産処分の自由を制限し,相続人に被相続人の財産の一定割合の取得を保
障することをその趣旨とするものであることに鑑みれば,遺留分減殺請求により相
続分の指定が減殺された場合には,遺留分割合を超える相続分を指定された相続人
の指定相続分が,その遺留分割合を超える部分の割合に応じて修正されるものと解
するのが相当である(最高裁平成9年(オ)第802号同10年2月26日第一小
法廷判決・民集52巻1号274頁参照)。
(2)ところで,遺留分権利者の遺留分の額は,被相続人が相続開始の時に有し
ていた財産の価額にその贈与した財産の価額を加え,その中から債務の全額を控除
して遺留分算定の基礎となる財産額を確定し,それに遺留分割合を乗ずるなどして
算定すべきところ(民法1028条ないし1030条,1044条),上記の遺留
分制度の趣旨等に鑑みれば,被相続人が,特別受益に当たる贈与につき,当該贈与
に係る財産の価額を相続財産に算入することを要しない旨の意思表示(以下「持戻
し免除の意思表示」という。)をしていた場合であっても,上記価額は遺留分算定
の基礎となる財産額に算入されるものと解される。したがって,前記事実関係の下
においては,上記(1)のとおり本件遺言による相続分の指定が減殺されても,抗告
人らの遺留分を確保するには足りないことになる。
本件遺留分減殺請求は,本件遺言により相続分を零とする指定を受けた共同相続
人である抗告人らから,相続分全部の指定を受けた他の共同相続人である相手方ら
に対して行われたものであることからすれば,Aの遺産分割において抗告人らの遺
留分を確保するのに必要な限度で相手方らに対するAの生前の財産処分行為を減殺
することを,その趣旨とするものと解される。そうすると,本件遺留分減殺請求に
より,抗告人らの遺留分を侵害する本件持戻し免除の意思表示が減殺されることに
なるが,遺留分減殺請求により特別受益に当たる贈与についてされた持戻し免除の
意思表示が減殺された場合,持戻し免除の意思表示は,遺留分を侵害する限度で失
効し,当該贈与に係る財産の価額は,上記の限度で,遺留分権利者である相続人の
相続分に加算され,当該贈与を受けた相続人の相続分から控除されるものと解する
のが相当である。持戻し免除の意思表示が上記の限度で失効した場合に,その限度
で当該贈与に係る財産の価額を相続財産とみなして各共同相続人の具体的相続分を
算定すると,上記価額が共同相続人全員に配分され,遺留分権利者において遺留分
相当額の財産を確保し得ないこととなり,上記の遺留分制度の趣旨に反する結果と
なることは明らかである。
(3)これを本件についてみるに,本件遺留分減殺請求により本件遺言による相
続分の指定が減殺され,相手方らの指定相続分がそれぞれの遺留分割合を超える部
分の割合に応じて修正される結果,相手方Y1の指定相続分が52分の23,その
余の相手方らの指定相続分が各260分の53,抗告人らの指定相続分が各20分
の1となり,本件遺産の価額に上記の修正された指定相続分の割合を乗じたものが
それぞれの相続分となる。
次いで,本件遺留分減殺請求により本件持戻し免除の意思表示が抗告人らの遺留
分を侵害する限度で失効し,本件贈与に係る財産の価額を,上記の限度で,遺留分
権利者である抗告人らの上記相続分に加算する一方,本件贈与を受けた相手方Y2
の上記相続分から控除して,それぞれの具体的相続分を算定することになる。
(4)以上と異なる原審の前記判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法
令の違反があるというべきである。論旨は上記の趣旨をいうものとして理由があ
り,原決定は破棄を免れない。そして,以上説示したところに従い,更に審理を尽
くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官白木勇裁判官宮川光治裁判官櫻井龍子裁判官
金築誠志裁判官横田尤孝)

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