弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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            主       文
 1 被告の原告に対する2002年8月1日付け3年間の休会処分が無効である
ことを確認する。
 2 被告は、原告に対し、金50万円及びこれに対する平成14年8月2日から
支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
 4 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担と
する。
 5 この判決は、第2項に限り仮に執行することができる。
            事実及び理由
第1 請求
 1 主文第1項同旨
 2 被告は、原告に対し、金200万円及びこれに対する平成14年8月2日か
ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 3 被告は、原告に対し、別紙目録記載の謝罪文を交付せよ。
 4 訴訟費用は被告の負担とする。
 5 仮執行の宣言
第2 事案の概要
   被告の会員(電話相談員)である原告が被告から主文第1項記載の休会処分
(本件処分)を受けたことに対して、これが無効であると主張して争うとともに、
本件処分が不法行為であるとしてこれによって原告が被った損害の回復のため謝罪
文の交付及び賠償金(遅延損害金の起算日は不法行為の翌日)の支払を求める事案
である。
 1 当事者間に争いがない事実又は証拠等によって容易に認定できる事実
  (1)原告は、平成4年4月1日、A相談等を業務とするボランティア団体であ
る被告の会員(電話相談員)となった。被告の会員は電話相談員及び維持会員によ
って構成される。(乙2)
    本件処分までの間、原告は、被告の電話相談員のうちで、ボランティアリ
ーダーとして当番コーディネーター、電話相談員部会副部長、ケアー委員長(活動
によって精神的に傷ついた電話相談員のケアー)、パソコン委員長(事務合理化の
ためのパソコン導入の手伝い及び訓練)及び運営委員等の職にあって、約10年間
にわたって活動してきていた。
  (2)被告は、原告に対し、本件処分をした。
  (3)被告は会員・電話相談員の入会・退会・除名・休会について次のとおり定
め、他にこれらの資格の制限ないし剥奪に関する規定はない。(乙2、3、被告代
表者)
   ア 電話相談員の入会
    「電話相談員は、被告所定の養成講座を終了(ママ)し、認定委員会の認定
を得て、電話相談業務を担当する」(被告会員規程3条)(乙2)
   イ 維持会員の入会
    「維持会員は、被告の目的に賛同し、入会申込書を提出して会員となり、
資金および事業の推進に協力して、被告の運営を維持するための活動を行う」(被
告会員規程4条)(乙2)
   ウ 会員の退会
    「会員は、次の各号に該当する場合は退会したものとする。(1) 退会の申
し出があったとき。(2) 死亡したとき。(3) 3年間全く音信不通となったとき」
(社会福祉法人B会員規程7条)(乙2)
   エ 会員の除名
    「会員が、本法人の名誉を棄損し、又はその趣旨に反する行為をしたとき
は、理事会において3分の2以上の議決により、これを除名することができる」
(社会福祉法人B会員規程8条)(乙2)
   オ 電話相談員の休会
    「①休会届のあった者、②前項(4)(「当番に月2回程度就いた者。年1回
以上深夜当番に就いた者。」という更新の条件を充たさない場合には次年度では1
年間休会扱いとされる)によって、休会を運営委員長から命じられた者。③1年間
全く相談員としての活動を停止、音信不通となった者。④休会1年後に復会の申出
のなかったときは休会の延長とみなされる。⑤休会は最長3年で、その後は自然退
会となる」(被告運営要項施行細則である「電話相談員の資格」3(1))(乙3)
   カ 電話相談員の退会
    「①退会届のあった者及びオの自然退会者。②退会者は退会名簿に記載さ
れる。③退会者の必要提出物は、退会届、ハンドブック及び当番用テープである」
(被告運営要項施行細則である「電話相談員の資格」3(2))(乙3)
 2 争点及び双方の主張
  (1)争点
   ① 本件処分の根拠
   ② 本件処分の理由
   ③ 本件処分によって原告が被った損害及びその回復の方法
  (2)双方の主張
   ア 争点①について
   (被告)
     電話相談員は被告代表者から1年毎に委嘱を受けて担当業務を行う。原
告と被告との関係は準委任契約であって、受任者に何ら法律上の利益を与えるもの
ではないから、民法651条に基づいて、被告はいつでも事由のいかんを問わず原
告を解任することができるのであって、同様に事由のいかんを問わず被告の電話相
談業務に関する委任を一時停止することができると解すべきである。
    「電話相談員の資格」の休会の条項は一定の要件を充たす場合に、運営委
員長において相談員を委嘱しないことを決定できるとしたにとどまり、理事長から
各相談員に対して行う相談員の委嘱の解約を行う権限を制約するものではない。
     また、本件処分の場合の「休会処分」は自己都合によるものではないか
ら、「電話相談員の資格」の適用はなく、これが3年間継続しても自然退会になる
わけではない。(他方で、被告は「理事長が相談員の委嘱を解約し、その後3年以
内にあらためてその者に相談員の委嘱を行わなかった場合、その者は自然退会とな
り、除名処分と同様の結果に至る」とも主張する。)
   (原告)
     原告と被告との関係は準委任契約ではない。会員に対する処分は被告の
規程等の定めに従って行われるべきところ、同規程等上準委任契約を窺わせるもの
はない。また、仮に準委任契約であるとしても原被告双方の利益のためになされた
ものであるから、被告から自由に解除することはできない。
     そして、同規程等によれば、休会を3年間継続すると退会となることと
されており、本件処分は実質上退会処分に他ならない。
   イ 争点②について
   (原告)
     本件処分には理由の記載がなく、その実質上の理由は、第13期養成講
座において被告理事が講義を無断欠席したことの表面化を隠すためと、平成13年
1月26日に行われたC相談員研修会においてみられた被告理事のスキャンダルを
同年6月の運営委員会において原告が採り上げたことに対する報復措置であって、
本件処分は違法である。
     被告の主張に対する認否は次のとおりである。
     ⅰの事実は否認する。企画委員会の決定の変更については、そもそもそ
のようなことが原告独りでできるはずがない。資料は速やかに返却した。また、他
人の発言を強引に抑えこむなどできるはずがない。
     ⅱの事実は否認する。第13期養成講座受講生に対して当番コーディネ
イターのボランティアリーダーとして当番表の作成や説明会等に関わったことはあ
るが、当時の被告D事務局長の要請に従ったまでである。原告が権限なく説明を行
ったことはない。受講生で止める者が出たのは当時の研修部長が無断で講座を休ん
だためなどであり、原告とは関係がない。
     ⅲの主張については争う。Eの勧告は場所柄を弁えないものであった
し、平成14年6月24日の運営委員会の席上における原告の発言内容は前記スキ
ャンダルを追及する趣旨であって、全く別内容である。また、理事長の勧告に従わ
なかったからといって、理事長には任免権はない。社会福祉法人としては不適切な
対応である。
   (被告)
     被告が本件処分をした理由は次のとおりである。
    ⅰ 原告の言動は独断的でチームワークに欠け、被告の業務の円滑な遂行
を妨げた。
      具体的には、平成13年11月に広島市内で行われた「C中国四国合
同研修大会」(研修大会)の準備について、本来企画委員会による決定に従うべき
ところ勝手にこれを変更して中心的な役割を担うようにしたため、結果として同大
会の準備や運営に多くの支障を来した。同年12月に実施した「自殺予防フリーダ
イヤル」においても原告の独断専行が見られた。また、これらの企画終了後その資
料を独占したため、各企画の反省検討をすることができなかった。さらに、同年秋
ころから、被告の運営委員会や相談員リーダー会において他の発言を強引に抑えこ
むなどしたため、それぞれの運営に支障を来した。
    ⅱ 平成13年4月から行われた被告の第13期養成講座受講生に不適切
な介入をした。
      具体的には、同年12月に本来被告事務局員が行うべき説明を原告が
権限なく行い、受講生には自分の電話番号を教えて相談するようになどと指示し
て、受講生の間に混乱を生じさせた結果、約半数の者が講習期間内に辞めてしまう
結果となった。
    ⅲ 理事長から役職を返上するよう勧告がされたのに、これに耳をかさな
かった。
      具体的には、ⅰ及びⅱのような経緯から、被告理事長であるEは、原
告に対し、平成14年6月1日、すべての役職を退いて電話相談員としての活動に
専念するよう勧告したが、原告は同月24日に開催された被告運営委員会の席上
「不当にも理事長から役職を退くよう求められた」などと激しい口調で言い募って
議事進行を妨害するありさまであった。そこで、Eは、被告理事及び評議員の意見
を聞いたうえで、同年7月20日、原告に対して相談員としての活動を一時休止す
るよう勧告したが、これにも従わなかった。
   ウ 争点③について
   (原告)
     上記のとおり、本件処分は違法であり、さらに、被告は会報などでも本
件処分について言及するなどいわばみせしめのようにして原告に精神的苦痛を与え
た。
     本件処分によって原告は人間関係に大きな打撃を受けた。ボランティア
活動の領域では致命的なことであって、その結果原告は精神・肉体の両面において
苦痛を被った。
     原告が被った精神的苦痛を慰藉するためには、被告から原告に対し別紙
記載の謝罪文を交付させること及び金200万円の支払をさせることが相当であ
る。
   (被告)
     争う。
第3 判断
 1 争点①について
  (1)被告は、被告の会員(電話相談員)である原告との関係について準委任契
約である旨主張する。
    この契約の性質が何であるかはともかくとして、被告の会員ないし電話相
談員の資格の制限ないし剥奪に関する規定の内容は上記認定のとおりであって、こ
のような会則による定めは被告において会員ないし電話相談員との契約終了に係る
被告の権限をその要件の該当する場合に自ら限定する趣旨であると解するのが相当
である。
  (2)そして、本件処分が被告の「電話相談員の資格」に定める休会の要件を充
たす旨の主張立証はない。
    そうすると、本件処分はその要件を充たさないものであって効力を有しな
いものと解するほかない。
  (3)被告の主張は、電話相談員の業務は被告代表者から1年毎に委嘱を受けて
担当するというものである。
    仮にそうであるとしても、本件処分は上記委嘱の「解約告知」であり上記
規程等にいう「休会」には該当しないはずである。しかしながら、被告代表者によ
れば、本件処分は「休会」であり、この状態が3年間継続すると自然退会となる旨
供述し、本件処分が上記規程等にいう「休会」であることはこれをした被告代表者
において自認するところであるから、被告のこの点に関する主張は採用できない。
    そして、自然退会について上記のとおり定められていることもまた上記認
定のとおりであって、被告の会員としての資格を失うこととされている以上本件処
分は直接的な法律効果を生じるものといわねばならない(会員はボランティアであ
るから無報酬であるが、そうであるからといってボランティア活動を担うことが法
律上の利益に該当しないとはいえない)。なお、この規定の適用の可能性に関する
被告の主張は一貫せず、また、被告代表者はその適用がある旨供述するから、上記
の資格喪失のおそれは否定できない。したがって、この可能性がある限り、本件処
分は除名に準ずる処分であるということができ、これに対して司法審査が及ぶと解
される。
    この点については、本件処分が実質除名である場合には、除名よりは原告
の名誉を重んじた処分であるという議論もあり得る。しかしながら、被告の会員な
いし電話相談員の資格の制限ないし剥奪に関する規定の性質は上述のとおりであ
り、除名は上記要件を充たす場合に限定されるべきものであって、本件処分が同要
件を充たすことの主張立証はなく、上記規程等を蝉脱する結果となることにも照ら
して、左袒できない。
  (4)ちなみに、一般に過去の法律関係の存否の確認を求めることは原則として
許されないとされているところ、本件にあっても原告としては休会処分を受けてい
ない会員であることの確認を求める方法がないわけではない。しかしながら、原告
と被告とのような包括的・継続的法律関係については、端的に本件処分の無効を確
認する方法を選択することも有効適切であるということができ、紛争解決の直接性
ないし訴訟経済上の要請にも反するものではなく訴えの利益を否定すべきではな
い。
 2 争点②について
  (1)本件処分の理由ⅰについて
    被告の主張に沿う証拠として事実関係について直接触れるのは乙6及び証
人Fのみである。その内容によれば、研修大会の準備や当日の運営において主宰者
でない原告が主導的な立場に立ち、そのため指揮命令系統が混乱したことが認めら
れる一方、甲4、12、14の①、②及び③、19、証人D並びに原告本人による
と、研修大会に対する被告会員の参加意識が稀薄であったことがその根底にあり、
実行委員長はじめ準備や運営に積極的に取り組む姿勢を見せた者が少なかったこ
と、原告の行動は当時の事務局長である同証人の要請に応じたものでもあることが
認められるのであって、そうすると、研修大会において外見上原告の行動がめだっ
たということがあったとしても、そのことは必ずしも原告独りの責任に帰すべきも
のではないと推認され
るところである。原告が平成13年秋ころから会議の場において他の会員の発言を
制限したとする点についても同様である。なお、原告が企画委員会の決定を変更し
たことを認めるに足りる証拠はない。
    次に「自殺フリーダイヤル」に係る事実、各企画の資料に関する事実につ
いては被告の主張を認定すべき的確な証拠がない。
  (2)同ⅱについて
    甲21、証人D及び同Fによれば、第13期養成講座受講生に対する講義
において、原告が被告事務局員のすべき説明を代わってしたこと、さらにこれが当
時の事務局長である同証人の要請に応じたものであることを認めることができる。
結局この点によって原告を非難すべきことにはならないと思われる。
    その余の点については、原告の不適切な行動によって被告が主張するよう
な状況となったと認定すべき的確な証拠はない。
  (3)同ⅲについて
    ボランティア団体組織である被告においてその代表者から何らかの勧告を
受けてこれに応じなかったとしてもそのことから直ちに会員が不利益を受けること
を容認することはできないというべきところ、(1)及び(2)で認定したとおり、原告
の各行動については必ずしも原告独りがその責めを負うべきものであるとはいいが
たく、したがってEによる勧告の根拠も十分であるとはいえないのであって、結局
この点に関する被告の主張はそれ自体失当である。
  (4)原告の主張する本件処分の理由について
    とはいえ、原告がいうように、本件処分が、第13期養成講座において被
告理事が講義を無断欠席したことの表面化を隠すためとか、スキャンダル問題回避
のためのものであるとか、これを採り上げたことに対する報復措置であるなどと判
断するまでの証拠もまた存しない。
    すなわち、講義の無断欠席という事実はその性質上周知されることである
から改めて隠すまでもないと思われる。また、原告はこのスキャンダルについて甲
5において詳細に触れるところであるが、その中で直接の目撃者とされる2名は乙
10及び11においてそれぞれ目撃内容について全く別の内容を記載しており、結
局甲5の内容には全体として信用性を認めることができず、他にこれを認めるべき
的確な証拠はない。
 3 争点③について
   1及び2で判断したとおり、本件処分は手続的にも実体的にも違法であると
いうほかない。そして、本件処分によって原告がその関与するボランティア活動に
おいて大きな打撃を受けたことはたやすく推認されるところである。
   そして、上記認定事実のほか、被告が非営利組織であること、現在のところ
休会処分にとどまっていること、本件処分は被告の「事務局便り」によって公表さ
れたこと(甲4)など本件の全事情に照らして、原告が受けた精神的苦痛を慰藉す
るには、被告から原告に対して50万円を支払わせることが相当であり、これをも
って足りると解される。
 4 以上のところから、原告の本訴請求は主文1項及び2項の限度で理由がある
から認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用について民事訴訟法
64条・61条を、仮執行の宣言について同法259条を、それぞれ適用して、主
文のとおり判決をする。
  広島地方裁判所民事第2部
           裁 判 官   橋  本  良  成

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