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平成14年(ワ)第27910号 著作権に基づく差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成15年6月10日
判決
原告         株式会社ダイヤモンド社
同訴訟代理人弁護士  浅 倉 隆 顕
被告         株式会社合人社計画研究所
同訴訟代理人弁護士  石 田 天 洋
同          西 島 良 尚
主文
1 被告は,別紙目録記載の記事を複製し又はその複製物を頒布してはなら
ない。
2 被告は,上記1記載の複製物を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,金1万0500円及びこれに対する平成14年9
月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は,原告に生じた費用の3分の2を原告の負担とし,その余は
被告の負担とする。
6 この判決は,第1ないし第3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 主文第1,2項と同旨
2 被告は,原告に対し,金201万0500円及びこれに対する平成14年9
月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 争いのない事実等
(1) 原告は,雑誌,図書の発行及び販売等の事業を営む株式会社であり,ビジ
ネス情報週刊誌「週刊ダイヤモンド」を発行している。
  被告は,ビル・マンション等不動産の総合管理等を目的とする株式会社で
ある。
(2) 原告は,別紙書面目録記載の記事(以下「本件記事」という。甲4)の著
作権を有している。原告は,被告に対し,本件記事の複製について,明示的な許諾
を与えたことはない。
(3) 原告が発行する「週刊ダイヤモンド」2000年2月19日号に,被告
が,管理を委託されている管理組合の理事長を名誉毀損で訴え,係争中であるとの
記事が掲載された(乙11)。同2001年3月31日特大号には,「マンション
が危ない!」と題する記事が掲載され,その中で,被告は,「大手マンション管理
会社ベスト・ランキング」の37位に位置づけられていた(乙12)。同2001
年9月8日号では,被告が管理組合の理事長を名誉毀損で訴えた前記訴訟において
被告の請求が棄却され,マンション管理組合の資金が被告の社長名義の口座を通っ
ていたことが明らかになったとする記事が掲載された(以下「別件記事」という。
乙13)。
  被告は,被告の系列会社であるウェンディ企画株式会社(以下「ウェンデ
ィ企画」という。)が発行する月刊マンション通信誌「ウェンディ」第148号
(平成13年9月15日発行)において,「週刊ダイヤモンド マンション関連記
事の丸投げ・デッチ上げ判明」という見出しで,別件記事は,致命的な事実誤認に
基づいた資料や原資料の図表を改ざんするなどして構成されているという反論記事
を掲載した(甲13,乙14)。さらに,同記事は,インターネット上のウェブサ
イトWendy-netにおいても,掲載された(甲14)。
  その後,「週刊ダイヤモンド」2002年2月16日特大号には,「沈む
マンション市場」と題する特集に本件記事が掲載され,その中で,被告は,「20
02年版大手マンション管理会社ベスト・ランキング」の4位に位置づけられた
(甲4)。
  原告は,平成14年3月13日,ウェンディ企画に対し,「ウェンディ」
の上記記事が原告の名誉を毀損すると主張して損害賠償等請求訴訟を提起した(東
京地方裁判所平成14年(ワ)第5176号事件)。
  これを受けて,被告は,同年9月20日,原告に対し,別件記事が被告の
名誉を毀損するとして損害賠償等請求訴訟を提起した(東京地方裁判所平成14年
(ワ)第20513号事件)。
(4) 被告は,平成14年5月23日ころ,東京都杉並区(以下略)(以下「本
件マンション」という。)の管理組合の平成14年度理事長であるA(以下「A」
という。)から,被告のマンション管理に関する参考資料の請求を受けた。なお,
Aは,原告の社員であった。
  被告担当者B(以下「B」という。)は,Aに対し,被告の経歴書や毎月
の管理に関する書類の見本一式等に加え,本件記事の複製物1部を郵送した。
  Bは,同年8月24日,A宅を訪れ,本件マンションの管理組合理事会に
対して,被告のマンション管理の方針,方法などについて説明及び質疑応答を行
い,この際,本件記事の複製物を理事の人数分である4部頒布した。
  Bは,同年9月1日,高井戸社会教育会館において,本件マンションの区
分所有権者に対して,被告のマンション管理の方針,方法などについて説明及び質
疑応答を行い,この際,本件記事の複製物を30部頒布した。
2 本件は,原告が,被告が著作権者である原告に無断で本件記事を複製し複製
物を頒布したことが複製権の侵害に当たると主張して,被告に対し,著作権法11
2条1項,2項に基づき,本件記事の複製及び複製物の頒布の差止め並びに複製物
の廃棄を求めるとともに,民法709条に基づき,著作権侵害による損害賠償を求
める事案である。
3 争点
(1) 本件記事の複製に関して,原告の黙示の承諾があったか。
(2) 被告による本件記事の頒布行為は,正当防衛に該当するか。
(3) 原告の本訴提起は権利濫用に当たるか。
(4) 損害の発生の有無及びその額
(5) 過失相殺の有無
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(黙示の承諾)について
 〔被告の主張〕
 原告の発行する「週刊ダイヤモンド」のような雑誌における取材記事につ
いては,取材源である当事者の協力がないと作成できないものである。このような
場合,少なくとも取材協力した記事に関しては,その取材源である当事者は,著作
権の一部を担っているといえる。本件のように,取材に協力した被告が,その協力
した記事の部分について,35部だけ複製・頒布した行為は,軽微な態様で,しか
も,逆に「週刊ダイヤモンド」の宣伝になりこそすれ到底損害を与えるとは考えら
れない態様であるから,社会通念上及び信義則上,記事作成者の黙示の承諾がある
か,承諾が推定される。
〔原告の主張〕
 取材源である当事者が,著作権の一部を担っているとの被告の主張は,法
律的な根拠がなく,主張自体失当である。
(2) 争点(2)(正当防衛)について
 〔被告の主張〕
 原告は,別件記事等の事実に反する記事により,被告の名誉を毀損し,現
在も同記事をCD-ROMや「D-VISION」というインターネットサービス
上で掲載することにより,被告の名誉を毀損し続けている。被告は,このような原
告の行為により,管理委託契約の解約を迫られたり,契約が締結されそうになる間
際にマンションの管理組合理事等から別件記事を示されて契約が頓挫するなどの損
害を被っていた。
 被告担当者Bは,原告による名誉毀損行為が継続しておりこれによって被
告の社会的評価が害されるおそれを避けるため,必要かつ相当な名誉回復手段とし
て,本件記事の複製・頒布をしたものである。すなわち,Bが,同じ「週刊ダイヤ
モンド」が被告をランキングの比較的上位に掲載した本件記事を35部だけ複製・
頒布したのは,原告の名誉毀損による不法行為に対し,被告の名誉を防衛するため
にやむを得ずなした行為であって,正当防衛(民法720条)として,違法性が阻
却される。
〔原告の主張〕
 正当防衛が認められるには,①侵害の急迫性,②他人の不法行為の存在,
③自己又は第三者の権利を防衛するためであること,④やむことを得ずしてなした
行為であることが必要であるところ,被告の行為は,いずれの要件も欠くから,正
当防衛に当たらない。
 仮に,別件記事について名誉毀損が成立するとしても,同記事が掲載され
た雑誌の発売日である平成13年9月1日から相当期間経過することによって,侵
害の急迫性は失われ,被告に正当防衛が成立する余地はない。
 また,他人の不法行為が成立するためには,客観的に明白な不法行為がな
ければならないが,別件記事が不法行為に該当するかどうかは裁判所の判断を待た
なければ分からないのであるから,客観的に明白な不法行為があったとはいえな
い。
 防衛するためとは,権利侵害との因果関係及び防衛の認識のことをいう
が,本件記事の複製物の頒布は,被告の営業の一環であって,被告が主張する名誉
毀損とは因果関係もなければ,防衛の認識もない。
 本来,被告は,名誉を毀損されたと考えるのであれば,司法手続による救
済を求めるべきであり,しかも,被告は,平成13年9月下旬ころから現在に至る
まで,「ウェンデイ」の前記記事を掲載し,逆に原告の名誉を毀損することによっ
て防衛行為を行っているのであるから,さらに複製権侵害という客観的に明白な違
法行為をする必要はなく,やむことを得ずしてなした行為とはいえない。
(3) 争点(3)(権利濫用)について
 〔被告の主張〕
 原告が侵害されたと主張する利益は,被告が複製した本件記事35部の使
用料1万0500円相当にすぎない。他方,被告が,原告の別件記事により被った
損害は,その比ではない。
 また,平成14年5月23日の時点で,既に原告は被告に対し,訴訟を提
起していたのであるから,原告と信義則上同一視できる原告社員のAは,Bから本
件記事の複製物を1部送付された時に,Bに注意するなどの対応ができたはずであ
る。しかし,Aは,その後も約4か月間,Bに対し,多くの資料を作成させるよう
に仕向け,2度もBに本件記事の複製物を持参させるに任せており,係争中の相手
に対し,おとり捜査的で著しく不公正な対応を行ったものである。
 さらに,本件記事は,被告の原告に対する情報提供等の協力がないと成立
しえなかった記事であり,取材協力者によるある程度の使用は,許容されていると
信じても社会通念上やむを得ず,その侵害の程度・態様は軽微である。
 したがって,仮に,原告に軽微な損害賠償請求権があるとしても,当事者
の客観的利益状況及び原告社員Aの意図から,原告の損害賠償請求は,権利の濫用
である。
〔原告の主張〕
 本件で比較されるべきは,原告の複製権に基づく請求を認めることによっ
て原告が得る利益と被告が被る直接的な損害であって,被告が主張する名誉毀損に
よる損害は,間接的なものにすぎず,比較の対象足り得ない。
 Aは,被告に対し,管理の内容を説明する資料を請求したのであって,本
件記事を違法に複製せよなどとは一言も言っていない。被告は,頼まれもしないの
に,自ら本件記事の複製物を送付してきたのである。Aは,名誉毀損に関する原被
告間の係争に関して,全く無関係であり,原告と信義則上同一視できるはずがな
い。したがって,原告の請求は,権利濫用とはいえない。
(4) 争点(4)(損害)について
 〔原告の主張〕
  ア 著作権法114条2項に基づく損害
 原告は,「D-VISION」というデータベースサービスをインター
ネット上で提供しており,その中で「週刊ダイヤモンド」の記事をPDFファイル
で配信している。「D-VISION」の料金体系は,法人会員については,最低
利用料金が月額2000円であり,月額の情報料金が2000円を超える場合は,
最低利用料金は発生しないが,2000円未満の場合は,最低利用料金が発生す
る。そして,利用料金は,1頁100円,2頁150円,3頁200円,4頁25
0円,5頁300円,6頁350円,7頁以降一律400円である。
 被告が複製したのは5頁であるから,1部当たり300円である。そし
て,被告は,合計35部頒布したから,損害額は,1万0500円である(300
円×35部=1万0500円)。
イ 懲罰的賠償(慰謝料)
 著作権法114条2項は,権利者に最低限の損害賠償額を保障するもの
と解されているが,侵害者は,当初から許諾を得て利用していた者と同等の負担を
すれば済むので,いわゆる侵害得となってしまうおそれがある。
 被告は,原告との間の東京地方裁判所平成14年(ワ)第5176号事件に
おいて,「週刊ダイヤモンド」2001年3月31日特大号における「大手マンシ
ョン管理会社ベスト・ランキング」で37位にランキングされたことに対して,
「マンション業界の常識からすると,採点項目や配点が極めて不合理」,「ずさん
な評価」,「マンション管理業界に対する知識のない者が短期間にデッチ上げた記
事」と罵倒しておきながら,本件記事の「2002年版大手マンション管理会社ベ
スト・ランキング」において4位にランキングされるや,原告に無断で本件記事の
複製を行い,自らの営業の手段として用いており,このような被告について,決し
て侵害得が許されてはならない。
 したがって,原告は,被告に対し,上記アに加え,慰謝料として200
万円の支払を求める。
〔被告の主張〕
 原告の主張は,いずれも争う。
 懲罰的損害賠償なる我が国には存在しない制度を持ち出すのは失当であ
る。また,財産的損害については特段の事情がない限り慰謝料が認められることは
あり得ないことであり,本件においては,原告に悪質な誘因行為があり,被告担当
者が原告の名誉毀損記事の影響を払拭するためやむを得ない状況の下でやむを得な
い態様で複製したものであるから,慰謝料が認められるべき事情はない。 
(5) 争点(5)(過失相殺)について
 〔被告の主張〕
 仮に,上記被告の(3)の主張が認められないとしても,本件マンションの管
理組合の責任者としての権限を持ち,常に被告担当者との連絡窓口となっていた原
告社員のAが,被告担当者から最初の複製物1部の交付を受けたときに警告を発す
るなどしてそれ以降の損害を防止できるにもかかわらず,あえて以後も2度にわた
り,部数を増やすような状況を作出し,本件記事の複製物を交付させ続けたこと
は,損害の拡大に被害者側が寄与した過失がある。このようなおとり捜査的で不公
正な態様での被害者側の寄与があったことからすれば,損害の公平な分担の観点か
ら,相当程度の過失相殺が認められるべきである。
〔原告の主張〕
 被告の主張は,争う。
第3 当裁判所の判断
1 前記争いのない事実に証拠(甲3,5,6,10,15,16,乙1ないし
8,10)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
(1) 本件マンションの管理組合の平成14年度理事長であるAは,原告の出版
事業局第一編集部に所属する社員であった(甲15)。出版事業局は,書籍(単行
本)の企画を行っている部署であり,「週刊ダイヤモンド」の企画・編集・制作等
は,ビジネス情報事業局の週刊ダイヤモンド編集部及び同制作部において行われて
いる(甲16)。
  Aは,平成14年(以下,特に断らない限り,月日は平成14年のもので
ある。)5月23日ころ,被告に架電し,本件マンションの管理委託業務の見積り
を依頼すると同時に,被告の管理に関する参考資料を請求した。
  被告の東京本店一課課長代理Bは,そのころ,Aに対し,被告の経歴書や
毎月の管理に関する書類の見本一式等に加え,本件記事の複製物1部(表紙につい
てA4のもの1枚,50頁ないし53頁については,50頁と51頁が見開きでA
3のもの1枚,52頁と53頁が見開きでA3のもの1枚の合計3枚で,上から表
紙,50頁・51頁,52頁・53頁の順番で左詰で並べられ,左上の部分がホチ
キスで留められたもの。甲3)を郵送した。
  Aは,5月29日,Bに対し,上記見積りに必要な書類を送付し,6月1
5日の理事会までに見積りや被告の管理業務仕様書を用意するよう依頼した(乙
1)。
  Aは,6月14日,Bに対し,見積りをファックスするよう依頼し(乙2
の1),Bは,概算見積書を提出した(乙2の2)。
  Bは,7月2日ころ,Aに対し,「管理に関するご提案書」と題する書面
を提出した(乙3)。
  Aは,7月22日,Bに対し,今後の予定を連絡するとともに,居住者に
アンケート調査をするための資料の追加送付を依頼した。この依頼書には,「アン
ケートの際の居住者用参考資料として,御社の資料(パンフレット)を2セット
(含提案書A3版)下記まで御送付いただきたく存じます。」と記載されている
(乙4)。
(2) Aは,8月14日,Bに対し,理事会との面談及びプレゼンテーション会
への出席及び管理業務仕様書の作成を依頼した(乙5の1ないし7)。
  Aは,8月19日,Bに対し,同月24日の理事会との面談の案内をし
た。この連絡書面には,「御用意いただきたいもの:先日のファックスでお願いし
た改訂版管理委託内容,仕様書,お見積り。」との記載がある(乙6)。
  Bは,理事会との面談のために概算見積書の修正版を作成し(乙7),同
月24日,A宅における理事会において,理事らとの間で,被告のマンション管理
の方針,方法などについて説明及び質疑応答を行った。Bは,この際,理事4名各
自に対し,概算見積書等の説明資料を渡したが,その中に本件記事の複製物も入っ
ていた。
(3) Aは,8月26日,Bに対し,プレゼンテーション会の連絡をするととも
に,プレゼンテーション会用資料についてどの程度のものを用意できるか尋ね,
「仕様,点検回数等については他社とあまり変わらないので,御社の特徴や他社と
特に違う点の資料をご用意いただくのがいいかと思いますが,いかがでしょう
か。」と提案した(乙8の1ないし5)。
  Bは,これを受けて,8月31日,最終の「管理に関するご提案書」を作
成し(甲10,乙10),9月1日,高井戸社会教育会館において,本件マンショ
ンの居住者に対して,被告のマンション管理の方針,方法などについて説明及び質
疑応答を行い,この際,最終提案書とともに本件記事の複製物を30部頒布した。
本件マンションの戸数は30戸であるが,このときの参加者は13世帯17名だっ
たため,その場で配られなかった残りは理事会が預かった。
2 争点(1)(黙示の承諾)について
  本件記事の複製について明示的な許諾がなかったことは当事者間に争いがな
く,また,本件全証拠によっても,原告が被告に対し,本件記事の複製を黙示に承
諾したと認めるに足りる証拠はない。
  甲第4号証によれば,本件記事のうち,「2002年版大手マンション管理
会社ベスト・ランキング」は,大手マンション管理会社のアンケート回答結果をも
とに得点化して作成されたものであり,本件記事は,取材源である当事者から情報
提供を受けているものの,原告が独自の観点から情報を整理し記述したものであっ
て,被告が著作した部分は存在しないことが認められる。被告も,原告が本件記事
の著作権者であることは認めているのであるから,被告が取材に協力したというそ
の一事をもって,著作権の一部を担っているといえないことは明らかである。
  また,被告は,取材に協力したこと及び本件記事の複製部数が比較的少ない
ことから,原告の承諾が推定される旨主張するが,これより原告の承諾を推定する
ことはできないし,違法性を欠くということもできない。
  したがって,黙示の承諾があったとする被告の主張は,理由がない。
3 争点(2)(正当防衛)について
  被告は,本件記事の複製及び頒布行為が原告の別件記事に対する正当防衛行
為である旨主張する。
  しかしながら,そもそも本件記事は,別件記事とは全く無関係な記事であ
り,本件記事を複製・頒布することにより,別件記事の内容が覆ったり,被告の名
誉が回復されるわけではないから,本件記事の複製行為をもって,被告が主張する
原告の名誉毀損行為に対する防衛行為ということはできない。また,前記1で認定
した事実からすると,Bは,本件記事を被告の営業活動のために使用したものであ
り,別件記事に対する防衛の意思があったということもできない。
  さらに,別件記事が平成13年9月8日発売号に掲載されたものであるのに
対し,本件における被告の複製行為は,それから8か月余り経った平成14年5月
23日ころに行われているのであるから,侵害の急迫性は既に失われているという
べきである。
  被告は,別件記事に対しては,実際に被告が行ったように,名誉毀損に基づ
く謝罪広告等を請求する訴えを提起して公の救済を求めることも,別件記事に対す
る反論記事を書いて名誉の回復を図ることもできたのであり,別件記事と無関係な
本件記事を複製し頒布する必要性は認められず,やむを得ない行為であったという
ことはできない。たとえ,早急に被告の名誉を回復する措置が必要であったとして
も,別件記事とは無関係な本件記事を複製するという間接的な行為をもって,民法
720条所定の正当防衛行為とはいい得ない。
  したがって,被告の行為は,正当防衛行為とは認められず,被告の主張は理
由がない。
4 争点(3)(権利濫用)について
  本件全証拠によっても,原告の本件損害賠償請求が権利濫用であると認める
に足りない。
  被告が本件記事を複製した部数は,合計35部であり,本件マンションの理
事ないし居住者に頒布されていることから,その著作権侵害の程度は必ずしも重大
なものとはいえないものの,侵害の程度・態様が軽微であるからといって,直ちに
違法性が阻却されるわけではない。被告は,原告の主張する利益に比して原告の名
誉毀損により被った被告の損害が過大である旨主張するが,前記3のとおり,被告
の行為は正当防衛行為とは認められず,本件記事の複製物は当該名誉毀損記事とは
無関係であるから,そもそも名誉毀損の点は利益衡量の対象足り得ない。
  また,被告は,AがBに対し,損害を拡大するよう仕向けた旨主張するが,
前記1で認定したとおり,AがBに請求した資料は,見積書,提案書,管理業務仕
様書,被告会社の資料(パンフレット)及び管理委託内容等であり,いずれも管理
会社の選択に当たって必要な資料であって,管理組合の理事長として当然請求すべ
きものであった。また,AがBに対し,ことさら本件記事の複製物を再度請求した
との事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると,Bは,自らの判断で本件記事
を複製し,頒布したものであり,AがBに対し,損害を拡大するよう仕向けたとい
うことはできない。
  前記1認定の事実によれば,Aは,原告の社員ではあるが,役員ではなく,
「週刊ダイヤモンド」の編集・制作とも無関係な出版事業局第一編集部に所属して
おり,原告社員としての立場を離れて,本件マンションの管理組合の理事長という
個人的な立場においてBと交渉していたということができる。そうすると,Aに,
本件記事の複製頒布につき原告の承諾があったか否かを確認し,Bに対し注意を与
えるべき法律上の義務があったということもできない。
5 争点(4)(損害)について
 (1) 著作権法114条2項に基づく損害について
 甲第12号証及び弁論の全趣旨によれば,原告が,インターネット上で提
供している「D-VISION NET」というデータベースサービスでは,「週
刊ダイヤモンド」の記事をPDFファイルで配信するにあたって,法人会員のサー
ビス料金が定められており,その法人会員・料金表によると,最低利用料金が月額
2000円(ただし,月額の情報料金が2000円を超える場合は発生しない。)
であり,利用料金は,1頁100円,2頁150円,3頁200円,4頁250
円,5頁300円,6頁350円,7頁以降一律400円であることが認められ
る。
 したがって,原告は,「週刊ダイヤモンド」の記事の複製を許諾するにあ
たって,上記の金額を受けているのであるから,著作権法114条2項に規定され
る「その著作権の行使につき受けるべき金銭の額」として,上記料金表に基づき算
定するのが相当である。
 本件において,被告が複製したのは,5頁であるから,1部当たり300
円である。そして,被告は,これを合計35部複製し頒布したのであるから,30
0円に35を乗じて得られた1万0500円が,原告が受けた損害額と認められ
る。
 (2) 懲罰的賠償(慰謝料)について
 我が国の不法行為に基づく損害賠償制度は,被害者に生じた現実の損害を
金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者が被った不利益を
補てんして,不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするもので
あり,加害者に対する制裁や,将来における同様の行為の抑止,すなわち一般予防
を目的とするものではない。したがって,不法行為の当事者間において,被害者が
加害者から,実際に生じた損害の賠償に加えて,制裁及び一般予防を目的とする賠
償金の支払を受け得るとすることは,我が国における不法行為に基づく損害賠償制
度の基本原則ないし基本理念と相いれないものである(最高裁平成5年(オ)第176
2号同9年7月11日第二小法廷判決・民集51巻6号2573頁参照)。したが
って,原告の懲罰的賠償を求める主張は,我が国の公の秩序に反するから,理由が
ない。
 原告は,上記賠償金を慰謝料として請求するが,本件において,原告は,
複製権という財産権の侵害のみを主張しているところ,本件複製権侵害行為によっ
て原告が著しい精神的苦痛を被り,その結果,財産的損害の賠償に加えて,さらに
慰謝料を認めなければならないような事情が存するとは認められない。したがっ
て,この点に関する原告の主張は理由がない。
(3) したがって,原告の受けた損害は,前記(1)の額をもって填補するのが相
当であり,それ以上の賠償額を請求する原告の主張は,理由がない。
6 争点(5)(過失相殺)について
  Aは,原告の役員ではなく,「週刊ダイヤモンド」の編集・制作とは無関係
の部署に所属していた上,原告社員としての立場を離れて,本件マンションの管理
組合の理事長という個人的な立場において交渉したことは,前記4で認定したとお
りである。たとえ,原告が主張するとおり,Aが原告社員という立場から,原告と
ウェンディ企画との係争を知っていたとしても,本件マンションの管理組合の理事
長という個人的な立場において交渉したAに,本件記事の複製頒布につき原告の承
諾を得たか否かを確認し,Bに対し注意を与えるべき法律上の義務があるというこ
とはできず,AがBに対し,無断複製物と知りながら,ことさら本件記事の複製物
を再度請求した事実も認められないから,Aの対応が不公正な態様であるとまでは
いえない。Bが本件記事の複製物を交付したのは,B自身の判断であり,Aがそれ
に対し,異議を唱えなかったからといって,損害の拡大に寄与したということはで
きない。したがって,被告の過失相殺の主張は,理由がない。
7 結論
  よって,原告の請求は,著作権法112条1項,2項に基づき,本件記事の
複製及び複製物の頒布の差止め及び廃棄を求め,民法709条に基づき,著作権侵
害による損害賠償として1万0500円及びその遅延損害金の損害賠償を求める限
度において,理由があるからこれを認容し,その余は棄却することとして,主文の
とおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官髙   部   眞 規 子
裁判官東 海 林       保
           裁判官   瀬   戸   さ や か
(別紙)
          目 録
雑誌の名称  「週刊ダイヤモンド」2002年2月16日特大号
発 行 所  株式会社ダイヤモンド社
発 行 日  平成14年2月16日
対象範囲  表紙及び50頁ないし53頁

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採用情報


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「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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