弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人朝山崇、同柳川一治の上告理由について。
 所論は、要するに、破産宣告後は新らたな国税滞納処分としての差押はできない
から、本件差押処分は取消を免れないとした原判決には、破産法四九条、七一条、
国税徴収法四七条等の規定の解釈、適用を誤つた違法がある、という。
 原判決(その引用する一審判決を含む。以下同じ。)の適法に確定したところに
よれば、本件破産者は昭和二八年一月一六日午前一〇時福島地方裁判所において破
産宣告を受けた者であるところ、右破産者はすでに右宣告前国税金を滞納しており、
上告人は破産宣告後右国税金につき交付要求をしたが、被上告人らは財産を有しな
がら僅少の額を納付したのみでその余の額の納付をしないため、上告人は、昭和三
六年一月一三日、国税債権五九万八九四〇円の徴収を目的として、被上告人Bが破
産管財事務に基づき訴外労働金庫に寄託していた満期日を昭和三七年六月二一日と
する定期預金六〇万円の返還請求権の差押処分をした、というのである。
 おもうに、破産法四七条二号の規定によれば、国税徴収法または国税徴収の例に
より徴収することを得べき請求権(ただし、破産宣告後の原因に基づく請求権は破
産財団に関して生じたものに限る。)は財団債権とされており、したがつて破産宣
告前の原因に基づく右のごとき請求権も、破産宣告後はすべて財団債権となるとこ
ろ、破産法七一条一項は、破産財団に属する財産に対し、国税徴収法または国税徴
収の例による滞納処分をした場合においては、破産の宣告はその処分の続行を妨げ
ない旨定めており、右規定は、破産宣告前の滞納処分は破産宣告後も続行すること
ができる旨をとくに定める趣旨に出たものであり、したがつて、破産宣告後に新ら
たに滞納処分をすることは許されないことをも意味するものと解するのが相当であ
る。また、破産法、国税徴収法等の関係法令において、財団債権たる国税債権をも
つて、破産財団に属する財産に対し、滞納処分をすることができる旨を定めた明文
の規定も存しない。それゆえ、前記四七条二号に定める請求権にあたる国税債権を
もつて、破産宣告後新らたに滞納処分をすることは許されないというべきである。
 所論は、破産法四九条、国税徴収法四七条は右のような滞納処分を許す根拠規定
ということができると主張する。元来、破産法による破産手続は、債務者の総財産
を資料とし、積極財産の不足を前提に、消極財産の充足を主眼とし、かつ、総債権
者の公平な満足を実現する清算のための包括的強制執行手続であり、そのため、破
産者が破産宣告時において有する一切の財産は破産財団となり、破産宣告前の原因
にもとづく財産上の請求権たる破産債権は破産手続によらなければ行なうことがで
きず、破産宣告後はこれらの債権による個別的強制執行を許さないことを建前とし
ている。そして、破産法の関係規定によれば、このような破産手続のために、裁判
所は破産管財人を選任し、破産管財人は、破産財団の管理、処分の権利を専有し、
裁判所の監督を受け、債権者集会等の意見を尊重しつつも、独自の判断と責任のも
とに、破産財団の構成、財産の換価、破産債権の調査、配当計画の立案、実施、そ
の他、財団に関する訴訟、否認権行使による財団の増加等の諸事務を遂行するので
あつて、このことに徴すれば、破産法は破産管財人をもつて破産手続遂行のための
中心的な機関とし、その広い裁量と責任の下に手続の円滑な進行を期し、もつて、
その目的の達成をはかつているということができる。ところで、所論の指摘する破
産法四九条は、財団債権は破産手続によらずして随時弁済する旨を定め、また、同
法五〇条は、財団債権は破産財団によりまずこれを弁済する旨を定めている。これ
によれば、財団債権は、一般的には、破産手続の遂行上破産財団の負担に帰すべき
共同の利益のために生じた債務であるところから、破産債権の行使につき要求され
る諸手続を経ることを要せず、直接、破産管財人に対しその弁済を請求することが
でき、破産管財人は、破産手続とは別に、これを破産財団に属する財産から支払う
こととして、財団債権を保護しているものと解せられるが、前述した破産手続の性
質および破産管財人の地位、権限にかんがみれば、破産法は、破産管財人に対し、
財団債権について、破産手続の進行に応じ、その合理的判断に基づき適正迅速な弁
済をすることを期待しているということができる。したがつて、同法四七条二号に
定める請求権は、その公益的性質からしてとくに財団債権とされたものではあるが、
これらの請求権に対する弁済は、破産管財人の判断に基づいて行なわるべきもので
あり、同法四九条、五〇条の規定がこれら請求権について滞納処分を許したものと
解するのは相当ではない。さらに、所論の指摘する国税徴収法四七条は、所定の場
合には徴収職員は滞納者の国税につきその財産を差し押えなければならない旨規定
しているが、これと関連する同法および国税通則法の諸規定をも併せ考えれば、右
四七条は、徴収職員が差押をしなければならない場合を一般的に定めたものにすぎ
ず、とくに、破産手続において財団債権たる国税債権をもつて破産宣告後に新らた
に滞納処分を許したものと解することはできない。このような債権については、国
税徴収法の定めるところにより、交付要求をすることができるにとどまり、仮りに、
破産管財人の措置を不服とするときは裁判所の監督権の発効を促すべく、また、場
合により、破産管財人に対し損害賠償責任を問う方途を講ずべきものである。
 以上の次第で、原判決が本件差押処分を取消すべきものとした判断は正当として
首肯することができ、所論は、ひつきよう前記説示と異なる見解に立脚するものと
いうべく、原判決には所論の違法は存しない。
 論旨はすべて理由がなく、採用することはできない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠

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