弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成26年10月30日判決言渡
平成26年(行コ)第99号更正をすべき理由がない旨の通知処分取消請求控訴
事件
主文
1本件控訴を棄却する。
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2渋谷税務署長が控訴人に対し平成23年5月31日付けでした控訴人の平成
16年▲月▲日相続開始の相続税に係る更正の請求に対して更正をすべき
理由がない旨の通知処分のうち,課税価格50億6930万8000円,納付
すべき税額24億3103万3200円を超える部分を取り消す。
3訴訟費用は,第1審,第2審を通じて被控訴人の負担とする。
第2事案の概要
1本件は,控訴人が父である被相続人A(平成16年▲月▲日死亡。以下
「亡A」という。)の相続に際し,その相続財産にB株式会社(以下「B」と
いう。)の株式(以下「本件株式」という。)が含まれており,その価額が1
株当たり1083円であることを前提とした内容の相続税の申告をしたが,そ
の後,控訴人と株式会社C(以下「C」という。)等との間で本件株式の譲渡
をめぐって争われた訴訟において言い渡された判決(以下「別訴判決」という。)
により,亡Aの相続財産に含まれていたのは本件株式ではなく本件株式を1株
当たり642円でCに譲渡したことによる売買代金請求権であったことが確定
したなどとして,別訴判決が国税通則法(平成23年法律第114号による改
正前のもの。以下「通則法」という。)23条2項1号の「判決」に当たると
して同号に基づき,平成23年1月18日付けで更正すべき請求(以下「本件
更正請求」という。)をしたところ,同年5月31日付けで渋谷税務署長から
更正をすべき理由がない旨の通知(以下「本件通知処分」という。)を受けた
ため,その取消しを求めた事案である。原審は,本件更正請求は,通則法2
3条1項所定の更正の請求の期間経過後にされたものであり,別訴判決は同条
2項1号の「判決」に当たらず,同号所定の要件を満たして適法なものという
こともできないから,本件更正請求について更正をすべき理由がないとしてさ
れた本件通知処分は適法なものというべきであるとして,控訴人の請求を棄却
した。控訴人は,これを不服として控訴した。
2関連法令等の定め及び前提事実
関連法令等の定め及び前提事実は,原判決「事実及び理由」欄の「第2事
案の概要」の1及び2(原判決2頁17行目から8頁26行目まで)に記載の
とおりであるから,これを引用する。なお,同各項で定める略称等は,以下に
おいても用いることがある。
3争点及びこれに関する当事者の主張
争点及びこれに関する当事者の主張は,後記第3の4に当審における控訴人
の主張を摘示するほかは,原判決「事実及び理由」欄の「第2事案の概要」
の3及び4(原判決9頁1行目から16頁8行目まで)に記載のとおりである
から,これを引用する。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,控訴人の請求は理由がないと判断する。その理由は,次のとお
りである。
2通則法23条2項1号は,「その申告(中略)に係る課税標準等又は税額等
の計算の基礎となった事実」について,申告者その他の関係者がこれと異なる
事実である旨を確認したり,合意をしてその内容がその申告に係る課税標準等
又は税額等の計算の基礎となった事実と異なる事実をもたらすことになったり
した場合に,それだけでは更正の請求をすることはできないが,判決等により
その申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実と異なる事実
が確定され,判決等に基づく法律関係が構築され,経済,社会生活上も当該法
律関係を前提とすることになる場合には,同項に基づく更正の請求をすること
ができる旨を定めている。同号の文言及び趣旨に鑑みれば,「判決により,そ
の事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」とは,そ
の申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実と異なる事実を
前提とする法律関係が判決の主文で確定されたとき又はこれと同視できるよう
な場合をいうものと解するのが相当である。
前記引用に係る原判決の前提事実によれば,本件相続人らが本件遺産分割協
議書を作成して行った遺産分割協議は,被相続人である亡Aの遺産に本件株式
154万6668株が含まれることを前提としており,このことが本件申告に
係る課税標準等の計算の基礎となった事実(通則法23条2項1号にいう「そ
の申告(中略)に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実」)で
あることが認められる。これによれば,同号所定の「その申告(中略)に係る
課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決
(中略)により,その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定
したとき」に該当するというためには,亡Aの相続開始当時第三者が本件株式
を有していたことその他の相続開始当時本件株式が亡Aに帰属していなかった
ことを意味する権利状態を判決の主文で確定したと同視できるような場合(例
えば,亡Aの相続開始以前から第三者が引き続き本件株式を有していることを
認定しこれを理由とする第三者が本件株式を有することの確認判決,亡Aが相
続開始前に有していた本件株式を譲渡したことを理由とする譲渡の相手方に対
する譲渡代金の支払を命ずる判決等)に該当することを要するものと解するの
が相当である。
しかるに,前記前提事実によれば,別訴の請求は本件相続開始後にされた本
件株式の本件各譲渡契約に関する虚偽の説明を理由とする不法行為による損害
賠償請求(主位的請求)及び同契約の錯誤無効を理由とする財産評価基本通達
に従って算出された評価額と同契約の売買代金との差額相当額の不当利得返還
請求(予備的請求)であり,別訴判決の主文はこれらの請求をいずれも棄却す
るというものであって,亡Aの相続開始当時第三者が本件株式を有していたこ
とその他の相続開始当時本件株式が亡Aに帰属していなかったことを意味する
権利状態を判決の主文で確定したと同視できるような場合に該当しない。
したがって,控訴人の請求は理由がない。
3補充的に原判決の「事実及び理由」欄の「第3当裁判所の判断」の1から
4まで(原判決16頁10行目から25頁7行目まで)の記載を,次のとおり
補正の上引用する。
(1)原判決16頁17行目から末行までを削除する。
(2)同19頁25行目の「いうことはできない。」を次のとおり改める。
「いうことはできないのみならず,別訴判決の主文はこれらの請求をいずれ
も棄却するというものであって,亡Aの相続開始当時第三者が本件株式を有
していたことその他の相続開始当時本件株式が亡Aに帰属していなかったこ
とを意味する権利状態を判決の主文で確定したと同視できるような場合に該
当しない。」
(3)同頁末行から同20頁18行目までを削除する。
(4)同21頁17行目の「いうことはできない。」を次のとおり改める。
「いうことはできないのみならず,別訴判決の主文はこれらの請求をいずれ
も棄却するというものであって,亡Aの相続開始当時第三者が本件株式を有
していたことその他の相続開始当時本件株式が亡Aに帰属していなかったこ
とを意味する権利状態を判決の主文で確定したと同視できるような場合に該
当しない。」
(5)同頁18行目から同22頁12行目までを削除する。
(6)同頁13行目の「本件株式」から17行目の「すなわち,」までを削除す
る。
(7)同頁21行目から同23頁19行目までを削除する。
4控訴人の当審における主張に対する判断
(1)控訴人は,通則法23条2項1号が規定する「判決」に当たるか否かは,
本件の課税関係に及ぼす「実体や実質」が重視されなければならず,別訴判
決は亡Aの生前に本件株式が既に売買あるいは売買予約されていたかといっ
た「その申告,更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎とな
った事実」を直接訴訟物としていなくても,亡AとCとの間で本件株式を1
株当たり642円で譲渡する旨の合意があったと認定するものであり,そう
である以上,その合意の法的構成にかかわらず控訴人は当該合意に拘束され,
本件株式を1株当たり642円によって譲渡すべき債務を負ったことに争い
の余地はなくなったのであり,控訴人が本件株式を相続したことによって得
た経済的利得は1株当たり642円であることが確定されたものにほかなら
ず,これに基づいて課税価格を計算すると相続税額を過大納付したことが確
定したことになるから,別訴判決が通則法23条2項1号が規定する「判決」
に当たると解することが,「その申告,更正又は決定に係る課税標準等又は
税額等の計算の基礎となった事実」を直接審理の対象としていない青色申告
承認の取消処分の取消判決についても同号の「判決」に該当すると判断した
昭和57年最高裁判決(最高裁昭和51年(行ツ)第98号同57年2月2
3日第三小法廷判決・民集36巻2号215頁)の趣旨にも沿う,などと主
張する。
(2)また,控訴人は次のとおり主張する。すなわち,相続税申告の際には財産
評価基本通達(昭和39年4月25日付け直資56,直審(資)17による
国税庁長官通達。ただし,平成17年5月17日付け課評2-5による改正
前のもの。以下「評価通達」という。)の定めに従って本件株式1株当たり
1083円と算出したが,評価通達1項(2)には,「財産の価額は時価による
ものとし,時価とは課税時期(略)において,それぞれの財産の状況に応じ
不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認めら
れる価額をい」うと定め,(3)において,「財産の評価」と題し,「財産の評
価に当たっては,その財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮す
る。」と定め,6項で「この通達の定めによって評価することが著しく不適
当と認められる財産の評価の価額は,国税庁長官の指示を受けて評価する」
と定めている。これに照らすと,控訴人は,別訴判決により,本件株式1株
当たり642円で譲渡する債務を負っていたことを法的に覆せなくなったの
であるから,「財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮」した場
合には,「その財産の状況に応じ,・・通常成立すると認められる価額」は
1株642円以外あり得ないことになり,評価通達上原則として1株108
3円で評価されるとしても,同通達6項に従い国税庁長官が本件株式の価額
を642円として評価することを指示せざるをえなくなるのであって,評価
通達の一部のみを適用して1083円とすることは不当となる。そうすると,
別訴判決が亡Aの生前における本件株式の売買契約の成立や売買予約があっ
たことを否定したとしても,本件判決によって本件株式の価額が1株当たり
642円であったことが確定したことは変わりなく,通則法23条2項1号
の「その申告,更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎とな
った事実」に直接関係することになるから,別訴判決は同号の「判決」に該
当する。以上のように主張する。
(3)しかしながら,控訴人の上記各主張に対する判断は,前記2において説示
したとおりである。控訴人の上記各主張はいずれも採用することができない。
(4)なお,控訴人は,当審口頭弁論終結後の平成26年8月29日に同月28
日付け控訴人準備書面を提出し,別訴判決が通則法23条2項1号の「判決」
に当たる旨更に主張を補充するので,当裁判所は,改めて検討したが,その
結果,上記認定判断の変更を来すものではないと判断し,終結した口頭弁論
の再開を命じないこととした。
第4結論
よって,上記判断と同旨の原判決は相当であるから,本件控訴を棄却するこ
ととして,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第8民事部
裁判長裁判官髙世三郎
裁判官廣田泰士
裁判官福島かなえ

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛